俊英・崎山蒼志、その「ユース」のすべてを詰め込んだ新作について

崎山蒼志が満を持してメジャーデビュー作『find fuse in youth』を発表した。2018年にインターネット番組に出演し、その卓越したギター奏法と繊細な歌唱で日本の音楽シーンを騒然とさせた崎山。今作はそんな彼の知られざるポテンシャルがついに発揮された1枚だ。とりわけ驚かされるのは、崎山自身がプログラミングで組み上げたエレクトロニックトラックの数々。ハイパーポップやインダストリアル・ヒップホップとの接近も果たしたこれらの楽曲は、彼がオーセンティックなシンガーソングライターであるのと同時に、先鋭的なサウンドクリエイターであることも端的に示している。現在18歳の崎山が学生時代の最後に残したアルバム『find fuse in youth』。今作について、早速本人に話をきいた。

バンドアレンジに「再定義」された弾き語りの過去曲たち

――今回のアルバムには過去曲のリアレンジバージョンも収録されています。どれも弾き語りで知られてきた楽曲ですが、こうしたバンドアレンジは以前から崎山さんの構想にあったものなんですか?

崎山蒼志(以下、崎山):今回「再定義」として出した3曲はどれも中学の頃に書いた曲なんですけど、当時の僕はすごくバンドがやりたくて、実際に曲を書く時もバンドを意識してたんです。イメージとしては、3ピース編成のオルタナティヴな感じというか。ただ、この3曲はどれもずいぶん前に書いたのもあって、今の自分の気持ちとは遠のいてた部分もあったんです。それを今回はいろんなアレンジャーの方と一緒に再構築していこうということになって、それならおもしろく聴かせられるんじゃないかなと。

――過去曲のリアレンジに関しては、アレンジャーさんにお任せしたということですか?

崎山:ほぼそうです。例えば「Samidare」のDメロに「ダッダッダッ!」みたいなキメを入れたいとか、そういうちょっとしたアイデアをGarageBandで伝えたりはしましたけど、それ以外はこの曲のアレンジを担当してくださった宗本康兵さんにお任せしてます。

――「Heaven」はいかがですか? こちらもまた昨今のメインストリームロックを思わせるソリッドなバンドサウンドが施されています。

崎山:「Heaven」もアレンジャーの江口亮さんにほぼお任せしました。この曲を書いたのは中2の頃で、当時の僕は『エヴァンゲリオン』とか、いろんなアニメにハマってたんです。そういう時期に書いた曲を(LiSAの)「紅蓮華」を編曲されていた方にお願いできたのは、すごく嬉しかったです。

崎山蒼志「Heaven」

――TVアニメのエンディングに起用された「Undulation」も、実はかなり前に書いた曲だったんですね。

崎山:そうなんです。「Undulation」は中3の頃に書いた曲なので、キャラクターと年齢も近いし、当時の僕が感じていた葛藤がうまくハマったのかもしれないです。(映画『夏、至るころ』の主題歌に起用された)「ただいまと言えば」もそう。映画の主人公と僕が同い年だったので書きやすかったです。

崎山蒼志「Undulation」

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JPEGMAFIAらに影響を受け紡がれた、自作のエレクトロニックトラック

――こうしたバンドサウンドと並んで、今作には打ち込みを主体としたエレクトロニックな楽曲も収められていますね。しかも、その大半は崎山さん自身が編曲を手掛けているんだとか。

崎山:今回のアルバムではアレンジャーの方に参加していただいたのが6曲、それ以外の7曲は自分でアレンジしてます。なんていうか、わりとイビツなやつが僕のアレンジしてる曲です(笑)。

崎山蒼志『find fuse in youth』

――なかでも「waterfall in me」は強烈でした。不穏なトラップサウンドがいきなりインダストリアルビートに切り替わったり、トラックの転換がとにかく激しくて。

崎山:「waterfall in me」は、パッション重視で作りました。僕が今やりたいことをひたすら詰め込んだ曲です。

――今やりたいこと、というのは?

崎山:大まかにいうと、ヒップホップにハマってたんです。なかでもJPEGMAFIAさんの影響は大きかったです。彼の「BALD!」という曲が本当にすごくて、自分でもそういうことがやってみたいなと。それでビートを全部GarageBandで作って、歌もiPadのプラグにマイクをつないで録って、できたものをそのままミックスエンジニアの土岐彩香さんにお渡しするっていう。大体そんな流れでした。

――「目を閉じて、失せるから。」もかなり実験的なアプローチですよね。ダーティな音像がちょっとデス・グリップスあたりを連想させるというか。

崎山:わ、それはありがたい感想です。元々あれはチャーリー・XCXさんみたいなことをやろうとした曲なんですけど、なかなかうまくいかなくて。それで途中からシフトチェンジしたら、あんな感じになったんです。「だったらデス・グリップスの『year of the snich』みたいに気持ち悪い音いっぱい入れちゃえ!」って(笑)。

――「waterfall in me」「目を閉じて~」は、ギターの音がほぼ鳴ってないところも新鮮でした。崎山さんといえばギターのイメージなので、ここにも現在の関心が表れているのかなと。

崎山:そうですね。でも、最近はまたギター弾きたいモードなんです。というのも、普段から未開拓の音楽をストリーミングとかYouTubeでたくさん聴いてると、自分は何が好きなのか、だんだんわからなくなってくる時があるんですけど、そこで最近改めて思ったのが、やっぱり自分はギターが鳴ってる音楽が大好きなんだなってことなんです。好きなアーティストが使ってるギターとか機材ってつい気になるし、やっぱりギターは楽器としての魅力がすごいんです。

――最近だと、どんなギターの音に惹かれていますか?

崎山:今作の収録曲のうち、最後に作ったのが「観察」なんですけど、あのインタールードを作った当時はジャズ・ギタリストにハマってました。あと去年、ギブソンSG Specialの1973年製を買ったんですけど、そのギターの音にインスパイアされたっていうのも大きいですね、ジャズに関心が向いたのも、そのギターがきっかけだったのかもしれない。

頻出する「鳥」のモチーフが意味するものと、これからのこと

――今回のアルバムは曲ごとの音楽性もバラバラで、その混沌とした流れがとてもスリリングなのですが、この13曲はどんな基準で選ばれていったのでしょうか?

崎山:僕は今18歳なんですけど、春から地元を離れる予定というのもあって、今回のアルバムでは自分がユースの頃に書いた曲をまとめておきたかったんです。「再定義」の3曲も、高1の頃に書いた「鳥になり海を渡る」も、今の自分がやりたいことも、自分がユースだった頃の曲は全部ここに入れてしまおうと。

――崎山さんの歌詞には「鳥」がよく登場しますよね。崎山さんのなかで鳥は何を象徴しているのでしょうか?

崎山:確かに僕、歌詞に鳥って書きがちですね(笑)。表題曲の「find fuse in youth」にも出てくるし。鳥が象徴しているのは……自由ですかね。「鳥になり海を渡る」を書いた時は、それこそ鳥になりたいじゃないですけど、いろんなものを振り払って1人で飛んでいきたい、みたいな気持ちもあったかもしれない。それに鳥って、いつも人間の身近にいるじゃないですか。空を見上げれば飛んでるし、僕の原風景にも鳥は存在してる。そうやって人間の生活圏内にいながら、社会から独立してる生き物が鳥なのかなって。そういうところも僕にとっては大きいのかもしれないですね。

――今春から地元を離れる予定とのことですが、崎山さんは今後どんなことを実現させていきたいと考えていますか?

崎山:まだ難しいかもしれないけど、バンドがやりたいです。僕はこれから進学するわけでもないし、今はリモートでいろんなことができる時代ですけど、それでも地元から離れることにしたのは、やっぱりこっちにいるとできないことがまだまだあるからという部分が大きくて。ひとり暮らしも体験しておきたかったし、戻りたくなったらまた帰ってくればいいやって。

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崎山蒼志
2002年生まれ、静岡県浜松市在住。2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛けるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。またFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVALなど、大型フェスからのオファーも多い。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャー・デビュー。
https://sakiyamasoushi.com
Twitter: @soushiclub

author:

渡辺裕也

1983年生まれ、福島県二本松市出身。音楽ライター。ミュージック・マガジン、クイックジャパン、CINRA、ザ・サイン・マガジン、音楽と人、MUSICA、ナタリー、ロッキング・オン、soupn.など、さまざまなメディアに寄稿。 Instagram:@watanabe_yuya_

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