制作方法の変化は何をもたらしたか? メンバーの関係性からたどる、ミツメ『VI』完成までの道のり

東京を拠点に活動する4人組バンド、ミツメ。緻密に構築されたミニマルなバンド・サウンドが生み出す独特の空気感。そして、オルタナティヴなポップ・センスで唯一無二のスタイルを生み出してきた彼等が、2年ぶりの新作『VI』を作り上げた。昨年、新型コロナで思うように活動できない中、彼らは毎月シングルをリリースしてきたが、コロナの影響で変化したレコーディングが新たな世界を切り開いた。STUTSと初めてのコラボレート曲に挑戦するなど、デビュー・アルバム『mitsume』をリリースしてから10年目を迎える中、不動のメンバーで果敢に変化し続ける4人に話を聞いた。

新たな制作方法をとった『VI』

――新譜『VI』はコロナ禍での制作になりましたが、2020年はバンドにとってどんな1年でした?

須田洋次郎(以下、須田):今までだとライヴやレコーディングが控えていなくてもスタジオに集まることが多かったんです。でも、緊急事態宣言中は集まらないようにしていて。2ヵ月間集まらなかったのはバンド結成以来初めてでした。

nakayaan:いよいよ緊急事態宣言が明けて、集まる前に1回、Zoomをしようかってなったんです。それで初めてZoomしたら、(大竹)雅生が長髪のオールバックでひげを生やしてて(笑)。衝撃的な登場でした。

――その2ヵ月間に連絡は取り合ってなかった?

須田:グループメッセージはやってたんです。それでアレンジのやりとりをしながらデモのレコーディングをしていました。

――全く会わずにレコーディングを?

須田:例えば、まず僕が「スタジオに入ってくる」ってみんなに伝えて、マイク1本立ててドラムを録るんです。そしたら、nakayaanが「次はベースを録ってみる」って。そうやって1人ずつ音を重ねていったんです。

――時間と手間をかけたレコーディングですね。

須田:でも、良い面もあって。別々の作業だと、より自分の楽器に集中して、思い浮かんだフレーズをそのまま録音することができるんです。緊急事態宣言が終わってまた集まれるようになってからは、各自がスタジオや自宅で録音する作業と、倉庫で一緒にセッションして録音する作業の、二段構えになりました。これまでのデモ作りのやり方に一段階加わったような感じですね。

――各自がスタジオで録音したパートについては、残りのメンバーがそれを聴いて議論するようなこともあったんでしょうか。

大竹雅生(以下、大竹):いや、これまで以上に何も言わなかった気がしますね。お互いのアイデアを尊重して全部受け止めていました。その上で最終的な形に仕上げていく。

須田:「シンプルなエイトビートも良いかな」と思いながら、なるべく自分なりにおもしろいと思えるビートを考えて、まずそれを録音するんです。その上で「シンプルなエイトビートが良くない?」って言われたら差し替えようと思っていたら、みんなが思いの外受け止めてくれて、そのまま進んでいった。みんなで集まっている時のほうが煮詰まることは多かったかもしれないですね。各自で音を入れるほうが気楽に曲に向き合えるのかもしれない。

大竹:みんなで集まると時間の制限があるじゃないですか。終電までに終わらせないといけないとか。自宅の作業だとそういう制限がなかったので、何日も寝かせて考えたりできるのが良かったですね。

須田:今後、コロナのことなんかでメンバーが集まれない時にも、アルバムの制作を続ける方法が1つ見つかったのかなと思います。ただ、4人で集まっての作業ならではの、事故的に生まれるおもしろいアレンジというのもあるので、今後この2つのやり方をバンドでどう使い分けていくかですね。

「テーマがないのがテーマ」

――メンバーの関係性は変わらないまま、曲作りのアプローチに変化が生まれたわけですね。そんな中、昨年3月から毎月シングルを発表/配信していましたが、こういう時期だからあえて、という気持ちもあったのでしょうか。

川辺素(以下、川辺):それは前から計画していたことなんです。国内外の人の活動を見てアルバムというフォーマットにとらわれず、プレイリスト的な発表の仕方があると知るようになってガッと一気にアルバムを作るんじゃなくて、毎月シングルを出して、その中のいくつかの曲に新たな曲を足してアルバムにしようと思ったんです。そうすることで、アルバムが出来上がっていく経過も見てもらえたりしてドキュメンタリー的なやり方ができそうだなと。これまで、そういう作り方をしたことがないので、やってみたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。

須田:最初は宅録でも良いんじゃないかっていう話もあったんですよね。でも、僕等がセカンド・アルバム(2012年リリースの『eye』)以降ずっと使っていたスタジオがなくなってしまうことになって。それで急いで、そのスタジオで「睡魔」「ダンス」「トニック・ラブ」を去年の2月に録ったんです。その3曲をシングルとして毎月1曲ずつ配信することにしたんですけど、そうしているうちに緊急事態宣言が出てしまい、もうアルバム制作に切り替えようか、ということになったんです。

――今回のアルバムはテーマや方向性を決めずに、成り行きに任せた作品なんですね。

nakayaan:テーマがないのがテーマ、みたいな。1曲1曲に集中して作り上げた曲が並んでいて、短編集みたいな作品かもしれないです。

――確かにバラエティ豊かな曲が並んでいますね。そんな中で共通した要素もあって。例えばリズムはこれまでより複雑になっています。

須田:これまではMIDIでビートを作っていて、スカスカの隙間だらけのビートがミツメっぽさだったように思っていました。でも、今回は1人でスタジオに入って生ドラムをたたいて考えていったので、必然的に肉体的なビートになっていったんです。アフロファンクが好きで、最近DJでも良くかけたりしていて、収録曲の中にはトニー・アレンのイメージを浮かべていた曲もあります。

――リズムが変化するとベースも変わりますよね。

nakayaan:はい。考えがいがありましたね。こういうのを乗っけたらおもしろいとか、これくらいの音数にしないとまとまらないとか、足し引きをいろいろ計算したりして。曲によってはベースでグイグイ引っ張っていくところもあったし。

――「VIDEO」あたりは密室ファンクっぽい感じです。

nakayaan:ちょっとスライ(&ザ・ファミリー・ストーン)っぽいかもですね。

須田「スライやファンクは前から好きだったんですけど、自分達のそういう引き出しをこれまであまり開けてこなかった。それが自然に演奏に出るようになってきているのかもしれないですね。

――ギターもこれまでに比べてアレンジが緻密になった気がします。ゆがませた曲もあってサウンドも多彩ですね。

大竹:セッションで曲を作り込んでいると、即興でフレーズを弾くことが多いんです。でも、家で作業をしていると考える時間がたっぷりあるので、「こんな和音を鳴らしてみよう」とか意識的に考えるようになって、これまでにないアプローチができたと思います。

nakayaan:ギターは複雑なコードが増えましたよね。よく、こんなコードを乗っけるな、みたいな。

川辺:僕が曲を書くというのは変わらないんですけど、これまでは4人で音を出している時に、メロディー以外は全部再構築することがよくあったんです。コードもアレンジも全部変えちゃう。でも、今回は曲の進行はあまり変えずに、そこにそれぞれが良いアプローチを乗せていくという足し算が多かった。それぞれが出したアイデアを、他のメンバーがじっくりそしゃくして「こういうものを乗せよう」と考える。そうすることで曲に複雑さや緻密さが増した気がしますね。

彼等自身は『VI』をどう見る?

――ステイホームが曲を進化させた、と言えるかもしれないですね。川辺さんは自宅で曲作りの勉強をしたとか。

川辺:音楽理論の本を買ってノートを取りながら勉強しました。これまでは勘で曲を書いてたんです。でも勘だと浮かんだアイデアを形にしていくのにも限界があるな、と感じていたんです。それで基礎からやり直そうと思って。共存しづらい2つのアイデアをつなぎ合わせるとか、そういうことをできるようになったのは進歩だと思います。STUTS君と共作した「Basic」は、今までの自分だったらできなかった曲でしたね。

――そういえば、コラボレートというのもバンドにとって初めての試みですね。なぜSTUTSさんと?

nakayaan:僕とSTUTSが小学校の同級生なんです。中高は別だったんですけど、大学の時にお互い音楽をやってることを知って、ここ何年かはSTUTSのライヴや音源でたまにベースを弾かせてもらったり、1回だけ自分のソロにも参加してもらったりもしていました。今回、毎月シングルを出すというアイデアが出た時に、コラボでの曲作りもやってみようという話になり、だったらSTUTSが良いんじゃないかってなったんです。

川辺:音をコントロールしていく構築の美学みたいなものがSTUTS君にはあって。彼にバンドの音を聞いてもらって、それをどんなふうに仕上げてくれるのか見てみたいと思ったんです。

――ミツメも構築の美学をもつバンドですよね。

nakayaan:そうかもしれないですが、STUTSは構築の結果、圧倒的に開けた雰囲気がどの曲にもあって、そこが素晴らしいと思います。「Basic」も例えたら風が吹き抜けていく感じに仕上がっていて。ミツメはSTUTSに比べたら、全然よどんでて風が吹き抜けません。

川辺:そうかなぁ(笑)。

――日常と非日常の間で揺らめいているような、まどろんでいるようで醒めているような、そんなモヤモヤした空気感が絶妙だと思います。

nakayaan:でも、今回のアルバムは、いつもより音像ははっきりしている気がします。どう言ったら良いんだろう……。

大竹:「風」みたいな感じで何か考えてよ(笑)。

nakayaan:うーん、夜っぽいというか。

――そういえば、「フィクション」のサビに「夜空」という言葉が出てきますね。

川辺:じゃあ、今回は夜ということで。

nakayaan:夜空のようなアルバム。いつになくロマンチックな感じになってしまった(笑)。

ミツメ
2009年、東京にて結成。川辺素(Vo,Gt.)、大竹雅生(Gt,Syn)、nakayaan(Ba.)、須田洋次郎(Dr.)による4人組バンド。『VI』以外に、5枚のスタジオ・アルバムをリリースしている。国内だけでなく、中国や韓国、アメリカ、タイなどの海外公演も積極的に行っている。オーソドックスなバンド編成ながらおのおのが担当のパートにとらわれずに自由な楽曲を発表し続けている。
https://mitsume.me

■mitsume live Ⅵ
会期:2021年5月30日
会場:恵比寿リキッドルーム
住所:東京都渋谷区東3-16-6
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
入場料:¥4,800

Photography Takuroh Toyama

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author:

村尾泰郎

音楽/映画評論家。音楽や映画の記事を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CINRA』『Real Sound』などさまざまな媒体に寄稿。CDのライナーノーツや映画のパンフレットも数多く執筆する。

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