「TOKION」はMIYASHITA PARK内の「TOKiON the STORE」やECで、国内外のアーティストやクリエイターとタッグを組んだアイテムを展開している。本企画は、「TOKION」キュレーターの源馬大輔が“今”会いたい人と対談をしながら、プロダクト開発のきっかけを探る。
今回の相手は、“新しく思いがけない驚きのある休日と世界”がテーマのパジャマブランド「ノウハウ」デザイナーの十河幸太郎。プロデューサーで妻のチューソンとともに制作を行っており、1日中着られるジャケット型の“day”、ノーカラーや比翼などの“静かな”デザインが特徴の“shhh”など、コンセプチュアルなパジャマを展開している。利便性にも優れており、文庫本がちょうど入るポケットやちょっとした外出時に便利なベルトループ、さらには襟裏のシークレットポケットや暗闇の中でも目立つ蓄光ピスネームなど、気が利くものから軽い冗談を本気で実現してしまったようなディテールまでを詰め込んでいる。着心地が良いだけでなく、気兼ねなく洗濯できるようにステッチも強固に施されている。また、現代アーティストの加賀美健や平山昌尚らとのコラボレーションも行っている。
思わず笑顔になってしまうコンセプトとデザインの「ノウハウ」が表すように、十河自身もユーモアにあふれていて、対談は終始和やかな雰囲気で行われた。今回の対談からどのようなパジャマが生まれるのだろうか?
源馬大輔(以下、源馬): 6年くらい前に雑誌で「ノウハウ」の“kung-fu”(チャイナジャケット風のデザイン)を見つけて、超良いと思って。それですぐに連絡して展示会に行った時に初めて出会ったんですよね。
十河幸太郎(以下、十河):源馬さんが来た時は驚きましたよ。思わず「え!? 暇なんですか?」って聞いちゃいました(笑)。
源馬:「ノウハウ」はモノが良いのはもちろんですけど、全員人柄も良いし、それにめちゃくちゃおもしろいんです。
十河:僕達が何言っても笑ってくれるので、チューソンと一緒に嬉しくなっちゃって。こんなアンダーグラウンドなパジャマメーカーもチェックしているなんて、信頼できる人だって思いました。
源馬:ブランドの話を聞いていくと、どのモデルもコンセプチュアルだし、デザインのさじ加減も絶妙で。
十河:めちゃくちゃ嬉しいですね。それこそ源馬さんや藤原ヒロシさんみたいにセンスを生業にしている人達を見て、僕達もブランドを始めたわけですから。源馬さんは僕達のパジャマを着込んでくれていますよね。
源馬:夏はTシャツに短パンですけど、冬はよく“kung-fu”を着ていますよ。それにコンビニなんかにもそのまま着て行けますからね。
十河:華やかにバシって着飾るのもかっこいいけど、全く気を使ってないようで実はシャレているのも魅力の1つだし、僕達はそっちをやりたいんです。「ノウハウ」を始めた頃は代官山に住んでいたんで、近所の蔦屋書店に着て行けるようなパジャマを作りたいというのが根底にあります。出掛けるためにわざわざ着替えなくてもいいもの。
「みんなダラダラするの好きでしょ?」
源馬:そもそもパジャマを作ろうとしたきっかけはなんだったんですか?
十河:僕はパジャマを着て家で過ごすのが好きだったし、「ノウハウ」を始めたのも30歳を過ぎてからだったので、長く気楽に続けられるものを作りたかったというのが理由の1つです。それに、家でダラダラ過ごすことに対する世間的なイメージはあまり良くないけど、声に出さないだけで「みんなダラダラするの好きでしょ?」って思ったんですよね。
源馬:僕なんか大好きですよ。家に“おひとりさまソファ”って呼んでいる足を伸ばせるソファがあるんですけど、休みの日はそれに座りながら観たい映画をひたすら探して、本当に何も考えずにぼーっと過ごしてる。
十河:僕も一緒ですよ。そういう時間のために日々の雑務をこなしているんですから。だから、家でゴロゴロできることに特化しつつも、昔読んでいた雑誌から受けた影響や好きなカルチャーなんかを落とし込んだり、アーティストとコラボしたりするようなブランドを作ろうと思ったんです。
源馬:新型コロナが流行って、それまでみんな無理して出掛けていた部分もあったんだなって思いましたよ。
十河:意外とダラダラするのも良いじゃんってね。
源馬:家の中のものにこだわる潮流もありますし。
十河:当初は誰からもうまくいかないと言われましたよ。一般的には外で着る服にお金をかけるし、やっぱりパジャマはニッチなマーケットです。
源馬:まあ、洋服は自己満足で楽しむ部分もありますけど、パジャマはその最たる例ですよね。
十河:そうそう、僕もそう思っていましたし。今は時代に合っているとか言ってくれることもありますけど、いち早く「ノウハウ」を見つけてくれたのは源馬さんですから。6年も前によく展示会に来てくれましたよ。
「ノウハウ」を巡る機能美とサイズ感
源馬:「ノウハウ」のパジャマはコンセプチュアルですよね。
十河:もちろん“伝えすぎない”魅力もあると思うんですけどね。パジャマは一般的なファッションとはちょっと違って生活雑貨の側面が強いですが、寝心地や機能性さえ担保されていればデザインで遊べると思うんです。それに人に見られることを前提としていないから似合う、似合わないではなくて、着たいと思ったら買えるアイテムなんですよね。
源馬:確かに、パジャマって究極のプライベートな服装じゃないですか。誰かに見せるものじゃないから買う時は純粋に気に入ったものを選ぶし、そういう意味ではパジャマはファッションの本質を突くものだとも思います。「ノウハウ」を始める前って、何か服作りはしていたんですか?
十河:デザイナーズブランドのパタンナーでした……とか言えたらいいんですけど、そうじゃないんですよ。20代の頃はゴミ収集車に乗ったり、六本木の「わけあり熟女倶楽部」ってお店の厨房で働いたり、定職に就かずブラブラしていました。その後も紆余曲折あるんですけど、「A.P.C.」の販売員もやっていました。結構売っていたんですよ。
源馬:意外な一面を出してきましたね。
十河:接客の経験も少なからず今に活きていて。店頭の商品から、お客さんは限られた予算の中でお買い物をするわけじゃないですか。だから買おうかどうか悩んでいる時に、「お似合いですね」とか「今日はいているパンツと合っていますよ」みたいなセールストークをしてもただ虚しいだけなんです。全然刺さらない。そういう時には、機能について話すと盛り上がります。
源馬:へぇ、おもしろいですね。
十河:例えば「このポケットだったらiPad miniが入りますね」とか。勝手な後付けでもいいから、機能美の話をするとお客さんの背中を押せることは肌で感じました。「ノウハウ」のパジャマには家の中の動きに対応できるような機能を随所に盛り込んでいます。あとはくつろぎやすさを考えるとパジャマはゆったり着るほうが良いと思ってるので、サイズで悩んでいる人には大きいサイズを薦めますよ。
源馬:機能的にも良いし、だらっと大きめのサイズを着るのも可愛いですもんね。
十河:いにしえから「大は小を兼ねる」って言葉があるし、うちのおかんもよく言っていました。たまにおかんのパンチラインを思い出します。
源馬:母親が言うことは聞いておくべきですよ(笑)。デザインは生活に根付いたものが多いけど、どういう時に思いつくんですか?
十河:意識してはいないですけど、普段の生活の中で引っかかることがあれば、後々それをデザインに落とし込んだりはしています。ただ僕達は器用なタイプじゃないので、サンプルを作ってはボツにしていますよ。チューソンのジャッジが厳しくて……。
源馬:声が小さくなった(笑)。
十河:企画とデザインは僕なんですけど、それを世に出すかどうかをジャッジするのはチューソンなので。もう、ボロクソ言われますよ。「そんなの誰が着るの?」って。
源馬:チューソンさんはしっかりされていますよね。鍛えられるんじゃないですか?
十河:僕も「はーい……」って言って、何事もなかったようにまた仕事に戻るんです。ただ、なんだかんだ言われてもサンプルまでは作らせてくれるのはありがたいですよ。
源馬:良い関係性じゃないですか。
「自分達が着たいもの」――「TOKION」とのコラボで何を作るか?
十河:僕達は自分からの営業があんまり得意ではないんで……ありがたいことにこうやって好き者が声かけてくれるんですよ。
源馬:好き者って(笑)。
十河:でも僕達も好き者に引かれていますから。好き者から影響を受けていますし、実際そういう人が僕達の相手をしてくれるんですよ。源馬さんだって僕からしたら大先輩ですから、胸を借りるつもりでコラボしたいです。
源馬:一緒に何かを作る時にアーキタイプというか、共通の感覚があるのは大事ですからね。
十河:僕もコラボは楽しいんですよ。でも、やっぱり、自分達が着たいものを作りたいじゃないですか。源馬さんは短パンが好きだし、上は長袖で下は短パンが良いなと。真夏だったら短パンとTシャツで過ごせるし、ちょっと寒くなったら長袖を羽織るみたいな感じで、長く使えるもの。「ノウハウ」のパジャマは必ずセットアップで作っていますが、その縛りの中でどれだけ遊ぶかっていうのもコラボの醍醐味なんです。
源馬:ポケットにマチを付けても良さそうですね。
十河:トートバッグも作りたいんです。僕がよく行くスーパーのLサイズのレジ袋と同じ大きさで。上下でパジャマ着て、同じ柄のバッグ持ったらとても可愛いと思います。
源馬:それと僕、ある時に職質されて、警官に「なんで職質したんですか?」って聞いたら「全身黒だから」って言われたんですよ(笑)。だから今回は黒じゃなくてネイビーの無地を作りたいなと。
十河:“職質されないパジャマ”、良いですね(笑)。