混沌の時代で不器用に真っすぐなハルカミライの目には何が映るのか 10周年を迎えた彼らが見つめる未来とは

誤解を恐れずに言わせてもらう。ここまで計略を練らずに、来年2月に行われるバンド初となる日本武道館での単独公演をつかむとは、予想していなかった。2012年、東京の八王子市で結成され、今年で10周年を迎えた4人組バンド・ハルカミライ。順風満帆に見える彼等はこれまで何を思い、何を目指して活動してきたのだろう。そして、新型コロナウイルス感染症が流行する前、年間約150本ものライヴを行なっていたという彼等は、ライヴが規制された期間をどう過ごしたのか? 不器用なほどに真っすぐな彼等の目には、混沌とした現代社会はどう映っているのか? 結成から10周年を迎えるまで、そしてこれから見つめる未来について語ってもらった。

ハルカミライ
2012年、東京都八王子市にて結成された4人組バンド。2019年1月にメジャーデビュー。
https://www.harukamirai.com/
Twitter:@HarukamiraiInfo
Instagram:@ harukamirai_info
橋本学:@nippon_no_manabu
須藤俊:@deny_sudo
関大地:@daichi_meki_
小松謙太:@komatsu.dragon

結成当初、バンドは“遊ぶ”ためのものだった

――2012年に、ベースの須藤さんが同じ専門学校に通っていたヴォーカルの橋本さんを誘ってハルカミライを結成したそうですが、当時「バンドで食べていく」といった明確な目標はあったのでしょうか?

橋本学(以下、橋本):正直、自分がバンドをやって第一線で活躍してやろう、みたいな気持ちは全然なかったですね。バンドは俺にとって、遊ぶためのものでした。かといって、俺は就職活動もしてなくて、当時は将来のことを全く考えてなかったです。俊は就職先が決まっていたんですけど、ハルカミライの結成を機に内定を辞退しました。

――そうなんですね。初期メンバーは橋本さんと須藤さんの他に、現メンバーとは異なる2人の計4人で活動されていたそうですが、小松さんと関さんはどのような経緯で加入されたんですか?

小松謙太(以下、小松):まず俺が先に加入したんですけど、俺は当時別のバンドを組んでいて、たまにハルカミライと対バンしていたんです。なので、もともと2人(橋本、須藤)とは友達みたいな感じでした。それで、前のドラムが抜けるタイミングでたまたまハルカミライのライヴを観に行ったら、俊に「最近何してんの?」って声をかけてもらって。後日、夜中にいきなり電話で呼び出されて行ったら「君はもう加入することになりました」って言われて(笑)、その日に契約書みたいなのを書かされて、加入することになりました。

関大地(以下、関):俺はもともと音楽系の専門学校に通っていたんですけど、バンドがやりたくて中退して。その後はバイトをしながら、別のバンドで活動していました。ただ当時、周りの同い年の友達はみんな大学生だったので、俺だけフリーターでフラフラしている人みたいな扱いでしたね(笑)。

橋本:そう。バンドやりたくて中退したはずが、こいつ(関)は家でゲームばっかりやっていたらしくて。まあ、それは半分冗談で、同世代でバンドを頑張っていたのが大地だったので、前のギターが脱退する時に、声をかけました。それぞれメンバーが抜けた理由は違いますけど、けんか別れではなかったですね。人生の選択を止める権利はないな、っていう感じで。

小松:うん。話し合いはしたけど、けんかではなかったよね。

日本武道館の単独公演は、今までのワンマンと同じ思いで

――皆さんは来年2月に、初となる日本武道館での単独公演を行いますよね。10周年というタイミングで決定しましたが、何か理由があるんでしょうか?

橋本:いや、実は武道館で単独公演をやるって話は、過去にも何度かしていたんです。ただ、タイミングが合わなかったり、コロナ禍でライヴが規制されたりで、なかなか実現しなくて。

――特に10周年に合わせたわけではなかったんですね。皆さんは過去に別のイベントで武道館のステージに立っていますが、単独公演が決まった時は、どんな気持ちでしたか?

関:俺は2021年に幕張メッセでワンマンをやってから「いつか武道館でできたらいいな」と軽く思っていたので、純粋に嬉しかったです。でも正直、昔から目標にしていたかと言われたらそうでもないですね。

小松:俺も単純にめちゃくちゃ嬉しかったですけど。ぶっちゃけ、目標だったかと言われるとそうでもないです。ただ、周りの人達からのリアクションで「やっぱり武道館ってすげえんだ」って実感しましたね。

関:確かに、周りからのリアクションで「自分が思っているよりすごいのかな」とは思いましたね。

――橋本さんはいかがですか?

橋本:10周年っていうタイミングで急に話が始まったわけではなかったので、決まった時きはわりと冷静でした。あと、俺は小さい頃から音楽のライヴDVDをほとんど観たことがなくて、武道館に限らず「いつか、あのステージに立ってみたい」っていう願望自体、もともとないんですよね。なので、良い意味で、今まで立ってきたステージと同じ感覚で日本武道館もやりたいなって思っています。

――お2人はどんなステージにしたいですか?

小松:俺も「ワンマンだ、やべー。気合い入る」みたいな気持ちはあんまりなくて。今までやってきたことをやって、思い出に残る1日にしたいなって思っています。

関:俺、火花とかやりたいっすね。それかギターソロで空飛びたいっす(笑)。

小松:俺はドラムソロを作って回転させたい(笑)。

橋本:いいね。俺はビキニのギャルを周りで踊って歌わせたいっすねー。

コロナ禍を経て変化した、ライヴパフォーマンスと曲作り

――2020年から、日本でも新型コロナウイルス感染症が流行し始めました。2019年には年間約150本ものライヴを行なっていたそうですが、ライヴが規制された期間は皆さんにとって、どのようなものでしたか?

橋本:俺と大地はライヴでダイブすることが多かったので、単純に“オーディエンスへの見せ方を変えなきゃいけない”っていうのがありましたね。

関:そうっすね。「落ち着いちゃったな」って思われないようにしなきゃ、という気持ちは正直ありました。

――確かにハルカミライのライヴはモッシュやダイブ等、オーディエンスを巻き込んでいくのも魅力の1つですよね。では、どのようにパフォーマンスを変化させたのでしょうか?

橋本:ライヴの規制が緩和されてから、まず小さい箱(ライヴハウス)でなら演奏しても良くなったんですけど、ダイブはまだできなくて。そんな中で「じゃあ、とにかく格好つけるか?」って思ったりもしたんですけど、小さい箱でそれをやるのは微妙だよなってなって。でも結果、わかりやすく1つの形としてアウトプットしたわけじゃないんです。これは本当にメンバー間の感覚的なものでしかないんですけど、数を重ねるうちに、自分達の身の丈に合ったパフォーマンスをつかむことができました。

関:そうっすね。あと、ライヴができない期間は自宅にいることが多かったんで、新しいことを始めようと思って今までやったことのない、PCで音楽をまとめる作業とかしていました。コロナ禍を機に、バンドの曲の作り方も変化しましたね。

橋本:うん。作曲は8割くらい俺、2割くらい俊のバランスでやっているんですけど、コロナ禍前はめちゃくちゃアナログな作り方だったんです。スタジオに入って、その場で合わせていって、録音はスマホでちょっとしておくくらい。基本的には各々の記憶力でどうにかしていたんですけど、コロナ禍を機にPCをうまく取り入れるようになりましたね。

小松:そうだね。今の曲の作り方になってからは、昔の作り方はもう絶対できないなって思います。

呪いみたいな部分が吹っ切れて、過去を「美化する」ことを肯定できた

――ハルカミライは10周年を記念した音源を近日リリースされますよね。作詞は橋本さんが担当されているそうですが、どんな内容になりそうですか?

橋本:今回の音源には、今までと変わらない土台に、新しい要素を入れることができました。歌詞も変化したと思います。

小松:うん。俺らは先に歌詞が入っていない、自分達のパートを聴くんで、歌詞が入った時に「こういう世界観の曲だったんだ」って思うことが多々ありました。

――3月にリリースされたアルバム『ニューマニア』を聴いた時、橋本さんの書く歌詞の世界がこれまでよりも広がったように感じたのですが、そういった要素も強くなっている?

橋本:はい。昔書いていたような、 “自分にしかわからない歌詞”は減ったと思います。

――それには何かきっかけがあったのでしょうか?

橋本:実は、バンド結成10周年っていう区切りとは別に、“昔の思い出から解放される”みたいな出来事が、プライベートでもあったんです。

地元に帰った時にドライブとかしていると、いろんな思い出が蘇ってくる人って多いと思うんですけど、俺はその思い出を今まで、半分足を引っ張ってくる、ある種の呪いみたいに感じていたんですね。でも、少し前にそれがすべて吹っ切れるタイミングがあって。「思い出を美化する」って言葉は、悪い意味で捉えられがちですけど、その出来事をきっかけに「美化っていいじゃん。どんどん美化してこうぜ」みたいな気持ちになれたんです。そういう心境の変化が、歌詞に反映されたんだと思います。

――それはご自身にとって喜ばしいことだった?

橋本:うーん、正直“狭い歌詞”が書けなくなったことについては、少しだけ寂しさもあるというか。自分にしかわからない部分を歌詞に落とし込むって、ずっと冒険なんですよね。「こんな歌詞、書いていいのかな? でもやってみるか」みたいな。大人になったら“狭い歌詞”が書けなくなるとか、時間が経つにつれて冒険できなくなるんじゃなくて、これからは冒険する方も取り戻していきたいと思っています。

関:でも、新しい音源には狭い歌詞も入っているなと思いました。いい歌詞だなって純粋に思いましたね。あと、今回は楽器隊もちょっと新しいことにチャレンジしているので、進化もしたと思います。

ハルカミライ「つばさ」(『ニューマニア』収録曲)

この先自分達が変化してもリスナーと一緒に歳をとっていきたい

――最後に、次の10周年をどのように迎えたいか教えてください。

関:ここ数年で、いろんなフェスに出させてもらえるようになって、今年の「ボロフェスタ2022」では、「ORANGE SIDE STAGE」でトリを務めさせてもらうんです。そんなふうに、年月を重ねるごとに他のフェスでもトリを務めさせてもらえるようになりたいなっていうのは目標としてありますね。

小松:俺はまず、関西で人気になって、そのまま九州、韓国、中国、そしてインドと、世界でも人気になりたいなと。

橋本:小松、それ本当に思ってる?(笑)でも、いつか海外でもライヴできたらいいな、と思ったりしますね。あとはこれからは楽曲に、もっと“遊び”の要素を入れていこうと思っています。最近民族楽器にも興味があって、そういう今までやってなかった新しい要素を取り入れていきたいなと。リスナーから「変わっちゃったな」とか思われるかもしれないけど、音源は音源で。俺らはライヴでいくらでも説得できると思っているんで、新しい楽曲がライヴでどう化けるか、みたいなのも楽しんでいきたいです。これから先も、これまでと変わらず、リスナーと一緒に歳とっていきたいっすね。

順風満帆なこれまでの活動は、きっと計略を練って実現してきたのだと予想していた。だが実際のところ、彼等は彼等の音楽と同様、真っすぐでひたむきで、バンドであることを純粋に楽しんでいた。

また、新型コロナウイルス感染症の流行でライヴが規制され、彼等自身、苦しんだはずのこの数年間。インタビュー中に「つらかった」「苦しかった」といったネガティブな言葉は一度たりとも出なかった。

混沌とした現代社会を前向きに生きる彼等の在り方は、インタヴュー終了直後に彼等が口にした「自分がもっとこうなりたいとかっていう欲は、ありますけどね」「でも、そういうの出すのってダサいしね」という言葉に集約されているように思った。

■「Symbol 2」
CD1
1.Symbol 2
2.みんなにもよろしく
3.満・地球の出
4.オンゴール
5.BOYSISM
12月21日発売
通常盤(CD)¥1,700、初回限定盤(2CD/ブックレット2冊付き)¥4,400 
※通常盤、初回限定盤共通
※配信あり

CD2
1.ハローグッバイ
2.燦拍子
3.遥
4.シクリッドと秘密
5.風に吹かれて
6.city
7.革命前夜
8.unconditional
※初回限定盤のみ収録 
※配信なし
特典:ハルカミライ結成10周年記念、橋本学によるメンバーイラストステッカー
※通常盤(初回プレス分)と初回限定盤にのみ封入

■東名阪ワンマン「ヨーロー劇場」
日付:11月14、22、29日
会場・住所:14日 大阪・なんばHatch「ヨーロー劇場 – 赤 -」(大阪府大阪市浪速区湊町1-3-1)、22日 東京・Spotify O-EAST「ヨーロー劇場 – 青 -」(東京都渋谷区道玄坂2-14-8 2F)、29日 @愛知・名古屋 DIAMOND HALL「ヨーロー劇場 – 緑 -」(愛知県名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館5F)
時間:18:00(開場)、19:00(スタート)
入場料:前売り ¥4,500(https://www.harukamirai.com/news/55d7086a-e5cd-4ded-b3ec-bdf059922761

■日本武道館単独公演「ヨーロー劇場 – futures -」
日付:2023年2月1日
会場:日本武道館
住所:東京都千代田区北の丸公園2-3
時間:17:30(開場)、19:30(スタート)
入場料:¥¥7,777(全席指定)(https://www.harukamirai.com/news/05a580f4-2c0a-4849-9c25-5e525c5d4655

Photography SHOUTA IKEGAMI

author:

那須凪瑳

フリーランスライター。音楽メディア会社で働いた後、フリーランスに転身。現在はカルチャーメディアを中心に執筆、編集も。音楽をはじめとする「文化」が社会に与える影響に興味を持ち、日々その可能性を探究中。 Instagram:@nagisanasu

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