太田光海 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/太田光海/ Tue, 05 Oct 2021 12:36:26 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 太田光海 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/太田光海/ 32 32 気鋭の映像作家・文化人類学者=太田光海が語る、「地球の裏側の人たち」と繋がることの大切さ https://tokion.jp/2021/10/06/akimi-ota-kanarta-alive-in-dreams/ Wed, 06 Oct 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=64491 初監督作品『カナルタ 螺旋状の夢』で世界から注目を集めた太田光海。同作の日本公開に寄せて、その構想から制作までの道程や背景にある想いを尋ねた。

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1989年生まれの太田光海は、映像作家と文化人類学者という2つの肩書きを持つ異色の人物だ。その2つの領域が太田の中で交錯し始めるのは、今から10年ほど前、パリの地でのこと。20代前半で渡仏した太田は、パリ社会科学高等研究院人類学修士課程で文化人類学を学ぶと共に、シネマテークに通い詰め浴びるように古今東西の映画作品を鑑賞したのだという。映画・映像に開眼した太田はその後、文化人類学とドキュメンタリー映像制作の手法をかけ合わせた先端の学問領域である「映像人類学」を学ぶべく渡英。同学問をリードするマンチェスター大学で博士号を取得し、現在は東京を拠点に活動する。

そんな太田の初監督作品『カナルタ 螺旋状の夢』が、この10月から日本全国で順次公開の運びとなった。同作は、アマゾン熱帯雨林に住む先住民「シュアール族」の生活・世界を捉えたドキュメンタリー映画作品。約7年の構想期間を経て、1年間にわたる調査・滞在撮影を行い制作された労作であり、イタリアのフィレンツェ映画祭(Florence Film Awards)やアメリカのニューヨーク映画祭(New York Movie Awards)で最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞するなど既に国際的な高評価を獲得している。「地球の裏側の他者」の文化・生活に深く分け入り捉えられた鮮烈な映像において、太田は何を伝えようとしたのか。その想いを探るインタビューは、構想の起点となる2011年の回想から始まった――。

パリからマンチェスターを経由しアマゾンの熱帯雨林へ

――この映画を制作するきっかけは、フランス留学中に起きた東日本大震災と福島第一原発事故にあるとのことですが、フランスではどのようなことを研究されていたのでしょうか。

太田光海(以下、太田):震災の時は交換留学で1年間パリにいました。そのあと日本に戻って大学を卒業してから、人類学を学ぶためにパリに戻って、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)の修士課程に進んで、パリ郊外のストリート・カルチャーみたいなことをメインで研究していました。パリ郊外は、いわゆる移民系の人たちが多く暮らしていて社会問題とも繋げられる都市空間なんですけど、そういう出自の少年たちがたくさん行き来するサッカークラブなどをフィールドワークしながら、彼らとその裏にあるヒップホップ・カルチャーやストリート・カルチャーみたいなものを研究していました。

――そこからアマゾンの先住民にどのようにつながるのでしょうか。

太田:僕は人間と人間の関係にずっと興味があったんですね。でも、震災があった時に、初めて、それまで当たり前のように感じていた、お金を稼いで食べ物を買って、人と関係を結ぶというような生活が、「当たり前」ではないのではないか? と気付いたんです。そして、人間とそれ以外、自分を囲む世界や自然との関わりの方が、より根源的な問題なんじゃないかと考えるようになりました。そこから、関心が徐々に移っていって、アマゾンの熱帯雨林で自給自足生活をしている先住民に行き着きました。

――パリで学んだ後、今度はイギリスに渡ってマンチェスター大学のグラナダ映像人類学センターの博士課程に進学されますね。

太田:はい。ただ、もともとアカデミックな道に進みたいと思っていたわけではなくて、特にパリにいた時はドキュメンタリー写真をやりたいと思っていました。それと同時に、パリではシネマテーク・フランセーズにも頻繁に通っていて、古今東西の名作からマイナーな実験映画まであらゆる種類の映画を浴びるように観たことで、映画もおもしろいなと思うようになりました。もともと語学が得意で、人とコミュニケーションを取ることがとても好きなので、せっかくなら自分が得意な言語も作品の中に取り込みながら映画で表現できたらもっとおもしろいんじゃないかと思うようになりました。それでいろいろ調べていったら、映像人類学という比較的新しい分野があって、マンチェスター大学に、給付型の奨学金をもらいながら、1年間フィールドワークで現地に住めて、そのあいだ映画も撮っていいというお墨付きのプログラムがあるのを見つけたんです。これは自分がやりたいことが全部実現できて最高じゃん! って(笑)。

地球の裏側の人たちといかに繋がることができるか

――完成した『カナルタ 螺旋状の夢』は、いろんな見方ができる豊かな作品だと思います。震災のことは直接扱ってはいませんが、数多く作られた3.11後のドキュメタリーの中でも、一番遠くからこちらを照射するような作品になっていると思いました。

太田:ありがとうございます。震災と原発事故が起きた時に、僕がすごく感じたのは、環境問題や土地の汚染の問題というのは国境で区切れないということです。実際、いろんな国が日本産の食物を輸入禁止にしましたし、今も処理済みの汚染水が海に放出されるとニュースになっています。ヨーロッパでも、チェルノブイリの原発事故で汚染された空気が流れてきて、周辺国の人が被害を受けたということが過去にありました。だから、これは全然日本だけの問題じゃないなと気付いたんです。それで、日本からものすごく遠い人たちをテーマにして、僕が抱えた震災の傷や問題意識をそこで出会った人たちと共有することができたら、そこで彼らから出てくるものは何だろう? それを知りたいと思いました。そして、地球の裏側同士の関係の日本とアマゾンの人たちと何かが繋がったら、その間にある国々、もしくは人々は、どこでも繋がれる可能性があるということを証明できるんじゃないかと。

――出会いという意味では、映画の主人公ともいうべきセバスティアンとパストーラ夫妻との出会いが大きかったのではないでしょうか。監督との関係の変化は、最初は遠くから来た若い友人だったのが、次第に日本名のアキミ、そして与えられたナンキという名前というふうに、呼ばれ方にも表れていますが、そこに至るには、撮影するという以前に、まず彼らと信頼関係を築くという期間があったと思います。

太田:初めて彼らの前でカメラを回したのは意外と最初の方で、テスト撮影で回した時に良い絵が撮れたので実は本編にも入ってるんですけど、本格的に回しはじめたのは、おっしゃるようにもう少し時間をかけて彼らとの関係性を作ってからです。セバスティアンとは、チチャという口噛み酒を飲みながら、とにかくいろんな話をしました。この世界で起きていること、政治の話、「自然がどんどん壊れていく一方だ。俺たちはどうすればいい?」という話……、毎晩ずっと話していました。彼らと僕は、もちろん自然や土地が失われるかもしれないという不安とそこから受けている傷みたいなものも共有していると思うんですけど、もう一つ、僕が自分の文脈があったからこそ共有できたなと思ったのは、自分が周縁化されている存在だという感覚です。というのも、僕はヨーロッパにずっと住んでいて、フラットに現地の人と関わってはいながらも、やっぱり周囲からエキゾチックな存在として見られがちでした。それによる差別も経験してきましたし、そういうことが日常的に積み重なっていくことで、どんどん自分らしさを失っていくような感覚もありました。もちろんセバスティアンたちも、町に行ったときに、先住民系だということで奇異の目で見られたりする経験があるわけで、そこも共有できる点でした。その感覚は、僕が日本から直接アマゾンに行っていたら、たぶんわからなかったと思います。日本では自分はマジョリティ側なので。そういった自分が嫌な思いをした経験からも、アマゾンの人と向き合うときに、自分がされたようなフィルターを通した見方をしたくないということは強く意識しました。

『カナルタ 螺旋状の夢』予告編映像

感覚を共有することで垣間見ることができるヴィジョン経験

――現地で彼らと生活を共にする中で、自分自身が変わっていく感覚もあったかと思いますが、例えばどういうことがありましたか?

太田:いろいろあるんですけど……、単純に都会育ちの自分がこれだけ自然と向き合ったことって人生でなかったですね。例えば、イギリスにいた時に週イチくらいでヨガをやっていたんですけど、大の字に寝転がって自分の意識に集中すると、感覚が変わっていくんですよ。やってることは単純なんですけど、そんな大の字になって呼吸に集中する1分間が果たして人生にどれくらいあったのかって言われると意外とないんです。そういうときに感じたのと近い感覚を、アマゾンでは日々得ていました。そうしていくうちに、どんどん自然自体が持っている言葉、例えば風が吹いた時のざわめきや、植物自体の持っているオーラ的なもの、僕らが実は無意識に感じ取っているいろんなものが、はっきりとそこにあるんだと存在感を持って感じられるようになるんですね。そうなってくると、セバスティアンとも感覚を共有できるようになってきて、さらに次のレベルに行くわけです。

――その先があると。

太田:結局、彼らだって、外から来た人間に対して、最初は「我々にとってこういうものが大事で、これが伝統です」という表面的な話しかしないんです。でもそれが、彼らの感覚が僕には通じるとわかってくると、そういう体でどんどんしゃべってくるようになって、彼らに見えている世界がだんだんわかるようになってくる。その先に、映画でも語られるような彼が見た具体的な「ヴィジョン」とか、彼の人生に関わるすごく個人的な話が出てくるんです。途中からは、そこまで行けるかどうかというのを、少しずつ突き詰めながら撮っていった感じです。そして編集段階では、この映画自体が、表現そのものとして、そういうヴィジョン経験みたいなものを与えることができないかと考えました。

遠くの出来事に解像度深く想像力を巡らせるために

――セバスティアンは森の薬草について研究をしていて、一度は失われてしまった先祖が持っていた知識を取り戻そうとしています。一方で、もう彼の世代では森の野生動物たちが少なくなって日常的に狩りはできない現状がある。土地や先祖との結びつきや伝統的な生活が薄れつつある中で生きていかざるをえないというのは、都市で生活する我々にも通じるものがあると思いました。

太田:このシュアール族というのは、たぶんあの辺りで何千年生きてきたと思うんですけど、僕が現地に行って思ったのは、セバスティアンみたいな人たちが、たくさん生まれては死に、生まれては死にということを繰り返してきたんじゃないかということです。そのつど、例えばその村の数人には知識が伝わっていて、その数人もまたちょっとずつ試して、知識がアップデートされるかもしれないし、忘れられるのかもしれない。つまり、伝統がずっと積み上がっていってそれが現代のある時期に全部消えたというよりは、無限のサイクルの細かいミクロなホットスポットみたいなのが各地で生まれていて、小さく伝播したり消えたりっていうのを繰り返していたんじゃないかなと思ったんです。だからある意味、大きなスパンで見たら平常運転、といえば平常運転。僕も村に居た時に、セバスティアンがもし死んだらこの知識は失われてしまうんじゃないかと危惧したんですが、セバスティアン自体が、誰からも教わらずその知識を得ているわけで。ということは、たぶん彼がいなくなっても、次の誰かがやるんでしょう。何なら同時並行でどこかでもう始めているかもしれない。だからといって、別に放っておけばいいと思うわけではないですけど、彼らのそういう根源的な知恵とか好奇心というのを、もっと信じてもいいんじゃないかなと思いました。

――でもやはりそれにはバックボーンとしての豊かな森があることが重要ですよね。

太田:間違いなくそうですね。森が消えたらそれができなくなりますからね。

――彼らにとっての森のようなものが監督自身にはありますか? 都市生活者も、個としての存在論的不安みたいなものを皆持ってると思うんですが、それを支える基盤のようなものというか。

太田:いや……、これが消えたら嫌というのはあるといえばありますけど、特定はできないですね。もっとぼんやりと世界全体みたいなことを考えているというか。

――でも具体的に知ると、あの森が失われるのは太田さんにとっても大きな喪失になってしまうわけじゃないですか。映画を観ることを通して、観客もそれを追体験しているとも言えるわけですが、そういった関わりや接続みたいなものを、それぞれが増やしていくことが重要なのかなと思いました。

太田:それは、僕自身の非常に大きなテーマです。遠くのものだったことが、ある種自分ごとになった時、そこでいろんなグラデーションが見えるようになってくる。アマゾンに限らず、例えばアフガニスタンとかミャンマーとか、それは何でもいいですけど、何かが起きたということを情報として触れたときに、より解像度深くその土地について想像を巡らせることができる状態を作っておくこと。そうなれば、自分の日々の感覚も変わってくると思うんです。すべては繋がっていると思うので、都市生活者という文脈で言えば、自分が口にするもの、手にするもの、消費するものに対して、まず日々の感覚を研ぎ澄ませることが一番大事かなと思います。観る人にとって、この作品がそういうきっかけになれば嬉しいですね。

■『カナルタ 螺旋状の夢』
監督・撮影・録音・編集:太田光海/サウンドデザイン:マーティン・サロモンセン/カラーグレーディング:アリーヌ・ビズ
出演:セバスティアン・ツァマライン、パストーラ・タンチーマ
制作協力:マンチェスター大学グラナダ映像人類学センター
配給:トケスタジオ

以下の日程で全国順次公開中。
10月2日(土)〜イメージフォーラム(東京)、10月8日(金)〜円◎結(岡山) 、10月29日(金)〜伏見ミリオン座(愛知)、フォーラム仙台(宮城)、11月6日(土)〜横浜シネマリン(神奈川)、11月19日(金)〜出町座(京都)、 11月20日(土)〜シネ・ヌーヴォ(大阪)、元町映画館(兵庫)、11月26日(金)〜フォーラム山形(山形)、11月28日(日)〜シネマアミーゴ(神奈川)

太田光海
1989年東京都生まれ。映像作家・文化人類学者。神戸大学国際文化学部、パリ社会科学高等研究院(EHESS)人類学修士課程を経て、マンチェスター大学グラナダ映像人類学センターにて博士号を取得した。パリ時代はモロッコやパリ郊外で人類学的調査を行いながら、共同通信パリ支局でカメラマン兼記者として活動した。この時期、映画の聖地シネマテーク・フランセーズに通いつめ、シャワーのように映像を浴びる。マンチェスター大学では文化人類学とドキュメンタリー映画を掛け合わせた先端手法を学び、アマゾン熱帯雨林での1年間の調査と滞在撮影を経て、初監督作品となる『カナルタ 螺旋状の夢』を発表。本作は2021年10月から全国で劇場公開される。
Twitter:@akimiota
Instagram:@akimiota

Photography Kazuo Yoshida

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