寺尾紗穂 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/寺尾紗穂/ Fri, 30 Jul 2021 05:18:11 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 寺尾紗穂 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/寺尾紗穂/ 32 32 寺尾紗穂、伊賀航、あだち麗三郎による冬にわかれて 『タンデム』のDIY的な音作り https://tokion.jp/2021/07/30/fuyuniwakarete/ Fri, 30 Jul 2021 08:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=48885 2年半ぶりに新アルバムをリリース。制作時の3人の関係性をはじめ、録音やミックス、タイトルの意味などを語ってもらった。

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シンガー・ソングライター寺尾紗穂(Vo/P)と、長年彼女のサポートを務めてきた伊賀航(Ba)とあだち麗三郎(Dr /Sax)。寺尾のソロ作での体制を一度取っ払い、3人の音楽家として創作に取り組む場所が“冬にわかれて”である。2018年にファースト・アルバム『なんにもいらない』をリリースして以降も、特別なプロジェクトでもコラボレーションでもないパーマネントな共同体として定期的にライヴを続けてきた。

そして約2年半ぶりとなるセカンド・アルバム『タンデム』を4月にリリース。録音やミックスからスケジュール・予算管理など、すべて3人だけで完成させた自主自立の作品となった。それぞれの活動が多岐にわたる中でも、ほどよい距離感でつながり続けて、創作に協同する。『タンデム』とは冬にわかれてというバンドの在り方そのものを表しているようだ。リリースからしばらくたったこのタイミングで、改めて3人に本作の背景と手応えについて話してもらった。

アイデアを出しあい、じっくりと作り込んだセカンド・アルバム

――『タンデム』は冬にわかれてとしては2年半ぶりのアルバムとなりました。伊賀さんとあだちさんは長く寺尾さんのソロ活動にも参加していますが、ソロとバンドでスタンスはどう違いますか?

寺尾紗穂(以下、寺尾):私のソロのレコーディングは勢い重視のところがあって、ライヴに近い演奏がそのまま作品になることも多い。でもあだちさんと伊賀さんはもっと作り込んだことをしたい気持ちもあるんじゃないかと感じていまして。だからこのバンドでは私が仕切るんじゃなくって2人に主導権を渡しています。

――では冬にわかれての時は少し意識を切り替えているのでしょうか?

寺尾:でも実際やっている時の意識はそんなに変わらないですね。レコーディングに関してはいろいろ3人で相談しながら決める分、ソロより大変な時はありますけど。

あだち麗三郎(以下、あだち):ソロの時は紗穂さんがリーダーだから基本ジャッジに従いますけど、冬にわかれての時は「こっちのテイクのほうがいいんじゃない?」とかちゃんと主張はします。でもそれくらいかな。

伊賀航(以下、伊賀):自分もそこまで変わらなくて。普段、他の方のサポートをしていても、この通り弾いてほしいというオーダーにはもちろん応えますが、そこの部分以外は自分の解釈やテイストを入れたいと思っています。そこが冬にわかれてだともう少し自分が中心になって、やりたい音楽や、実験したいアイデアを出している感覚ですね。

――では今回の『タンデム』はどういう経緯で制作に向かいましたか?

寺尾:前作『なんにもいらない』を出して以降もライヴは定期的にやっていて、そのたびに新しい曲も作っていたので、それがある程度たまったので録音しましょうと。

伊賀:昨年の夏頃に3人でリハーサルをしていて、渋谷のタイ料理店で昼ご飯を一緒に食べている時にそろそろアルバムを作ろうと盛り上がったんですよ。それであだちくんがスケジュールを組んで、スタジオも押さえてくれた。

寺尾:2人はゆっくり作ろうとしていたんですけど、それだといつまでも出来上がらないからと(笑)。

――前作と進め方や作り方が変わった部分はありますか?

伊賀:前作はまだ寺尾さんのソロアルバムの作り方に近くて、3人がスタジオに集まって、音を出しながらその場で生まれたものを大事にしていた。ファースト・アルバムっぽい勢いも感じられる作品だったと思います。でも今回はスタジオで録ったものを、主にあだちくんと僕が持ち帰ってさらにアイデアを混ぜたり、じっくり作り込む作業を大事にしました。

寺尾:なぜそうなったかというと、レコーディングしたスタジオが違うからなんです。高いスタジオを押さえるとどうしてもその場の限られた時間で完成させるしかないという制約がある。でも今回は安めのところを使ったので、時間内に終わらなかったら延長したり日を改めて借りたり、融通を利かせる形で進めました。今回はレーベルもつけずに自分達でリリースすることにしたので、単純に予算の都合もあってこのやり方に。

あだち:追加で録音したい時は、僕が公民館を借りて録音機材を全部持ち込んで作業していました。単純に僕も伊賀さんもコロナの影響でずいぶん予定がなくなったので、時間があったことも大きいです。

「3人それぞれの異質な曲が並んでいるアルバムになった感があるんです」(伊賀)

――寺尾さんが4曲、伊賀さんが3曲、あだちさんが2曲持ち寄っていますが、一体感と流れの良さをすごく感じました。アルバムのテーマやコンセプトなど示し合わせたことはありますか?

寺尾:ないですね。決め打ちで3人が曲を持ち寄ったものをまとめたような感覚。

伊賀:だから自分の中では、3人それぞれの異質な曲が並んでいるアルバムになった感があるんです。でも統一感があるという感想をいただくことが多くてすごく不思議。自分達でもまだこの作品をわかっていないところがある。

寺尾:確かに。こんなバラバラで大丈夫? って言ってたよね。

――特に寺尾さん作の「もうすぐ雨は」と伊賀さん作の「rain song」という雨をテーマにしている曲が冒頭で続くので、そこで一気にこのアルバムの世界に引き込まれます。

あだち:以前別のインタビューでもこの2曲が雨に対するアンサーになっていると言っていただいたんですけど、全然自分達は気づいていなかった。

――「雨」はあだちさんの「山のミルトン」にも登場しますし、寺尾さんが書いた最後の「彷徨い」でも「この水の街をふらりさまよった」という一節があるので、雨が上がって街に出ていく情景をイメージしていました。

あだち:また新たな解釈ですね(笑)。「水の街」は水たまりが残っている、雨上がりの街なんだ。

寺尾:私のイメージでは水路のある街でした。

――他にも「夜」や「闇」という言葉が頻出しているのも印象的で、全編を通して世界を覆っている感覚が通底している。それがコロナ禍でふさぎ込んだ時代ともすごくフィットしているんですよね。

あだち:あぁ、逃げ出したいみたいな。何も示し合わせていないけど、無意識のうちにそれぞれから出てきたテーマは共通したものがあるかもしれない。

――あだちさんの楽曲「星の生誕祭」はソロアルバム『ぱぱぱぱ。』(2015年)の収録曲です。インスト曲でしたが、今回はそこに寺尾さんが歌詞をつけて新たに生まれ変わっています。

あだち:当時も女性に歌ってもらうアイデアはあったんです。今回どういう曲を持っていこうと考えていた時に、そのことを思い出して紗穂さんが歌ったら良さそうだなぁと。

――寺尾さんも詩に曲をつけることはたくさんありましたけど、逆に歌詞だけ書くのは新鮮に感じました。

寺尾:確かに、ほとんどやってきてない。でも「星の生誕祭」というタイトルからイメージがとても湧いたので、そこまで苦労せずに書けました。

あだち:だから生まれ変わったというよりは、1から作った別の曲という感覚です。

DIYで手掛けた録音とミックス

――今回はミックスもあだちさん、伊賀さんがご自身でされていますよね。どういう音の仕上がりにしたいというイメージはありましたか?

あだち:アルバム全体の流れで、倍音の響きを狭くしたり、広げたり調整していて、ラストの「彷徨い」に向かってバッと開けたイメージにしたいとは思っていました。

――狙ったイメージに近づけるために倍音を調整していったということでしょうか?

あだち:そうですね。倍音の調整の仕方で、サウンドの鳴りの気持ちよさがすごく変わるんですよ。例えばここ(取材を行った部屋)で音をコーンと鳴らしたら天井や壁があるから、ちょっと濁った倍音が反射して返ってくる。逆に何も反射するものがないと、真っすぐきれいな倍音が鳴る。だからちょっと空間を狭く調整すると、曇り空に覆われたようなイメージにもなるんですよ。

伊賀:知らなかった。そういう操作をしてたんだ。

あだち:これはすごく大きなテーマで、デイヴィット・バーンがその音を鳴らす建物の構造や空間がいかに音楽に影響をもたらしてきたかをプレゼンしている動画を見たことがあります。だからシティポップとかもメジャーセブンスやナインスのコードをよく使いますけど、その音の印象が都会のビルに反射する倍音と近いんじゃないかな。

――音の仕上げ方で言えば、伊賀さんの「rain song」はくぐもったベースの鳴り方が印象的で異質に感じました。

伊賀:「rain song」は普通に弾いたものとシンセのベースを両方重ねて音を太くしています。太くて強い曲にしたかったのでドラムもキックを強調させて。その代わり寺尾さんのローズ・ピアノや上物は浮遊させた印象にしています。

あだち:そこも自分達でミックスしたのが大きく影響しているかもしれません。プロのエンジニアにお願いすると、もっと遊びの部分が少なくてより多くの人が気持ちよく聴こえるように、歌をメインに整えると思います。でも今回は自分達の思った音にしちゃえばいいじゃん! という感じ。いろんな前提を抜きにして好き放題やりました。

伊賀:自分達には本職の方ほど淀みなく美しく録音する技術はないので、その分やりたいようにやろうと。

寺尾:ボーカルを録音する環境は少し考えたいですが、今回は全部自分達だけでやることにしたので、制作やお金の使い方も含めてすごく学びになりました。次作はまたやり方を考えたいですけどね。

あだち:DIYで1枚アルバムを作ることができたのは確かにいい経験になった。

『タンデム』というタイトルの裏には

――3人だけでほぼ全行程を手掛けた背景を伺うと、『タンデム』というアルバムタイトルもピッタリですね。

伊賀:これは自分の書いたインスト曲から取りました。もともと主のメロディとそこに対するハーモニーのメロディがある。そこにギターリフの計3つが折り重なっているので、「tandem」としたのですが、それを寺尾さんがいいねって。

寺尾:なかなかアルバムタイトルが決まらなかったんですけど、タンデムという言葉には2人乗りだけじゃなくて、それより複数の意味もあるそうで。3人乗りって自分の好きなペースでは進めない不安定さはあるけど、それでもどうにか前に進んでいくというのがバンドっぽいなって。

あだち:この3人の関係性はべたべたしていないし、ずっとこうだから、いつもの自然な雰囲気がジャケットになりました。でもそこに時代性を伴った意味を感じ取れるものになったのはおもしろいですね。

伊賀:今回統一感を意識したり、コンセプトを設けたりしてはないけど、自分達から自然に出たものが結果として時代を映した作品になりました。こういう作品の生み出し方もありなんだなと勉強になりましたよ。

寺尾紗穂
1981年東京生まれ。2007年にピアノ弾き語りアルバム『御身』でデビュー。大林宣彦監督の映画『転校生-さよなら あなた-』(2007年)、安藤桃子監督の『0.5ミリ』(2014年)など主題歌やCMの仕事も多数手掛ける。2010年からビッグイシューを応援する音楽イベント「りんりんふぇす」を主催。2023年に10回目を山谷で開催予定。最新刊は『彗星の孤独』(スタンドブックス、2018年)、最新ソロアルバムは「わたしの好きなわらべうた2」(2020年)。

伊賀航
宮城県生まれ。高校生の時にベースを始める。大学在学中に設計事務所に入社(2級建築士)。1996年に上京後、日本語によるソウル・バンド、benzoに加入。バンド活動に専念することを決意し設計事務所を退社。1998年にシングル「抱きしめたい」とアルバム『benzoの場合』でメジャーデビュー。2011年にバンド活動休止。現在は細野晴臣や星野源、曽我部恵一、おおはた雄一、イノトモなどさまざまなミュージシャンのサポート・ベーシストとして活躍中。また、長久保寛之、北山ゆう子らとともにバンド、lakeとしても活動している。

あだち麗三郎
1983年生まれ。東京を中心に活動する日本のドラマー、サックスプレイヤー、シンガー・ソングライター。1999年頃からドラマーとして音楽活動を開始。バンド、片想いのドラマーとしても活動しているほか、cero、前野健太らのサポートも行なっている。2009年4月、ファースト・アルバム『風のうたが聴こえるかい?』を発表。2011年3月、あだち麗三郎クワルテッット(現:あだち麗三郎と美味しい水)を結成。2013年11月、セカンド・ソロ・アルバム『6月のパルティータ』を発表。また、2003年頃から、定期的にワークショップを開催するなど身体研究家としても活動している。

■冬にわかれて ワンマンライブ in京都
会期:7月31日
会場:京都教育文化センター
住所:京都府京都市左京区聖護院川原町4‒13
時間:OPEN 17:00 /START 17:30
入場料:前売り ¥4,500/当日 ¥5,000

■春すぎて 片想い&冬にわかれてツーマンライブ
会期:9月23日
会場:渋谷WWW
住所:東京都渋谷区宇田川町13-17 地下1階
時間:OPEN 18:00 /START 19:00
入場料:前売り ¥4,500/当日 ¥5,000

Photography Ryu Maeda

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