嘉島唯, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/yui-kashima/ Tue, 14 Mar 2023 08:40:55 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 嘉島唯, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/yui-kashima/ 32 32 『まじめな会社員』の冬野梅子が語る「漫画家への転身」と「人生設計」 https://tokion.jp/2022/11/04/interview-umeko-fuyuno/ Fri, 04 Nov 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=153973 初めての連載『まじめな会社員』が話題となった漫画家・冬野梅子のインタビュー。

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『まじめな会社員』1巻 冬野梅子/講談社

「へーえ! 経理! ぽいわ〜!」。
見知らぬ男に職業を明かすと、自分の容姿を一瞥され「うん、ぽいわー!」と明るく言われる。やりたい仕事に就くことを諦め、現実を受け入れた33歳の主人公のリアルな描写が共感を呼び、配信サイトで過去最高PVを記録した『普通の人でいいのに!』で鮮烈な印象を与えた漫画家・冬野梅子。

初めての連載『まじめな会社員』でも、何をやっても「ワナビー(何かに憧れ、それになりたがっている人)」どまりで、うだつのあがらない地方出身の30歳の契約社員である主人公・あみ子が恋愛や仕事に奮闘するも実を結ばないドラマが描かれた。冬野は「何をやってもうまくいかない主人公を描きたかった」と語り、だからこそ読む者の自意識に突き刺さる展開を見せた。

これらの作品には冬野自身の経験も反映されているそう。会社員から漫画家へ転身を遂げた彼女にこれまでの経緯とともに『まじめな会社員』で描かれた「尊重されにくい人」について話を聞いた。

冬野梅子(ふゆの・うめこ)
2019年、『マッチングアプリで会った人だろ!』で 「清野とおるエッセイ漫画大賞」期待賞を受賞。その後『普通の人でいいのに!』(モーニング月例賞2020年5月期奨励賞受賞作)が公開されるやいなや、あまりにもリアルな自意識描写がTwitterを中心に話題となり、一大論争を巻き起こした。「コミックDAYS」の連載『まじめな会社員』(全4巻)も話題となる。
Twitter:@umek3o

「修行」みたいだったクラブ通い

——冬野さんの作品に出てくる主人公は、どの子も深夜ラジオや映画など文化的なものを心の支えにしているものの、職場や恋人とのリアルな人間関係ではその趣味が昇華されない印象があります。これはご自身の経験からくるものでしょうか?

冬野梅子(以下、冬野):私の場合は大学が経済系の学部だったこともあって、文化系とは言えないというか。周りにサブカル好きの人もいないし、自分がそういう人間とは思っていませんでした。美大に通っている友達と、たまに映画の話をするぐらい。学生時代はそれで充分というか、承認欲求も文化的なものへの渇望もありませんでした。

ただ、就職したら映画を見ている人自体が珍しい環境になってしまったので……映画と言ったらシネコンでやってる興行収入100億円ぐらいのアニメ映画を見るか見ないか、みたいな。

——就活では、映画業界とか広告業界のようなメディアとかクリエイティブな職種は受けましたか?

冬野:映画や広告業界は恐縮してしまって受けなかったんですが、素材提供の会社や印刷会社など少しデザインやメディア系っぽい会社を受けました。私が就活したのは売り手市場の時期だったのに、全部エントリーシートで落ちてしまって。制作会社のバックオフィスの職種も一応はエントリーしてみましたけど、全くダメで。

みんなが卒業旅行の計画を立てる中、自分だけ内定が決まってないと精神衛生が悪くなるんですよね。なので、「内定をもらえればどこでもいい」という気持ちで、唯一内定をもらえた女性が多い業界の事務にしました。

でも、就職してからは、このまま社会に馴染んでいくと、どんどん世界が縮小していく気がしていたので、無理やりにでも入りづらいクラブやライブハウスに足を運んでいました。「修行」みたいでしたね。そこの空気感や環境をなるべく視界に入れて、細胞に取り込みたくて、「とりあえず、行く」。それでも仕事が嫌すぎて、仕事以外のすべてが楽しく感じました。

——クラブに通う「修行時代」はどのくらい続いたのでしょうか?

冬野:3、4年はやってました。やめたのが2010年代初頭ぐらい。その頃からスマホで面白いウェブ記事をいっぱい読める状況になっていったのが大きかったです。「面白いものを作って集客しよう」という気概があふれるウェブメディアが増えていった時期で、心の底から読みたいものがウェブにあったんだと思います。

しかも好きな文章に出会ったら、その著者のTwitterをフォローできて、その人の近況も知れるし、トークライブにも行ける。「私が求めていたものがある」と思ったのを覚えています。

——「世界が広がっていく」感じでしょうか。

冬野:そうですね。

「自分は将来どうなりたいんだろう?」と真剣に考えて漫画家の道へ

——冬野さんは、どういう流れで漫画を描くに至ったんですか? 文フリやコミティアで作品を発表されていたとか。

冬野:最初は、大学の友達を誘って、グループ展みたいなものを下北沢でやったことだと思います。数人しか入れないような狭い場所で、絵や文章を持ち寄った展示でした。

このグループ展をやろうと思ったのは、昔バイト先の先輩の写真展に行ったことを社会人になって思い出したのがきっかけで。もともと「自分が創作してもいい」という発想もなくて。今は普通になりましたけど、プロでもないのに自己表現するのは恥ずかしい行為だと思っていました。

でも、先輩の写真展を思い出して、そういえばこういう経験すらしてこなかった、と思って。それに感化されて、友達に「グループ展をやってみない?」と誘って。グループで作品を作るので、イラストを描いたり、コラージュしたり、友達の絵に私が文章をあてたり。文化祭のようで本当に楽しかったです。

それからイベントは何度か開催したんですけど、続けていくうちにマンネリ化していく感触があり、複数人でモノづくりする息苦しさも覚えるようになり……。例えば、友達の絵には、ひどい文章をあてがえないじゃないですか。相手に悪いから。

気楽に1人で作れるものを考えた結果、漫画に着地しました。最初は、A4の紙に4コマ漫画を描いてましたね。小学生の時は漫画を描いては友達と見せ合っていたのですが、それ以来15年ぶりにペンで線を引きました(笑)。それでコミティアに申し込んで、とにかく「描かなきゃいけない」状況を作りました。

——イベントの出展には、締め切りがありますからね。

冬野:はい。アナログで描いていると手間も時間もかかるので、ペンタブを導入して締め切りまでに完成を目指すことにしたんですが、最初はペンタブに慣れず……。「無理無理無理、やめよう」とネガティブな気持ちになったり、「ここで頑張らないと全部ダメになる、本当に終わる」と自分を鼓舞したり……で、なんとか完成させました。ペンタブで描けたのは5ページぐらい。あとはそれまで描いていたアナログの作品をPDFにして売ることにしました。

——表現するのは恥ずかしいと思っていた時点と比較すると、すさまじい行動力です。どんな心境の変化があったのでしょうか?

冬野:当時は訪問営業もしていたんです。お客さまの家に伺って、残業してはぐったりして家に帰る。営業は最もやりたくない仕事のはずだったのに、毎日毎日嫌いなことしかやってない。さすがに少しでも好きなことをやりたいと絶望していました。自分は好きでもない仕事に追われて何をやってるんだろうと虚無感に陥っていきました。

そんな自分の社会人生活と漫画を天秤にかけたら、どう考えても売れない漫画を描いているほうがマシ。これに気付いてからは、開き直りました。

さらに、毎日「会社を辞めたい」と思い悩んでいたら、そのタイミングで突発性難聴になりまして。すぐに退職届を出しました。難聴は3日で治ったんですが(笑)。

——思い切りがすごいですね。

冬野:働いているうちに「自分は将来どうなりたいんだろう?」と真剣に考えて、踏ん切りがつきました。「私はこのまま働き続けてもバリキャリにはなれない。じゃあ、結婚して家庭を持って子育てしたいの?」と自問した。そうすると、私はどちらも大して望んでいなくて、「年齢不詳の中年女性」みたいになりそうだな、でもそれも悪くないかもと思いました。

――いますね。外見からして音楽とかに詳しそうな方。

冬野:そうです、そうです。それなりに楽しそうな人。その一歩を踏み出すために、定時で帰れる事務職を探し、定時で帰れて有給が取りやすい環境に身を置くことにしました。漫画を描く時間を確保できるようにしたくて。昨年、この会社も退職したので、今は漫画だけに集中しています。

「30歳で人生を全部決めなきゃいけない」という圧力

——結婚と出産というのも、女性の「将来」を考える上で、なかなか避けては通れない道ですよね。そこから脱した……ということでしょうか? 冬野さんの作品でも、結婚や出産の圧力で「身の丈」を考えてしまう主人公の胸の内が描かれています。

冬野:昔に比べると、いろいろな選択肢を選べるようになったと思いますけど、今でも、女性は20代の頃から30歳ぐらいまでに人生を全部決めなきゃいけなくて、逆算した人生設計を考えがちだと思うんです。

——30歳というと、結婚と出産ですかね。

冬野:そうですね。周りでも32歳くらいで出産してる人が多い。だからなのか32歳から逆算した人生設計をせざるを得ない気がするんですよね。20代の時から。

そうすると、何歳までにこういう人に出会って、何歳までにこういうことして……それができてないとヤバいのかもしれないと思い始め、焦燥感や劣等感にかられる。バリキャリには到底なれない『まじめな会社員』の主人公・あみ子みたいな人は「結婚しないと困るでしょう?」みたいな視線を送られることが多い。

一方で、人生の逆算で思いつめたとしても「誰も32歳までに子どもを産めなんて言ってないでしょう? あなたが1人で勝手に思い悩んで、怒ってるだけでしょう?」と言われたりする。

——寄る辺がない……。

冬野:私自身「もし自分が女性じゃなかったら、逆算して物事を考えなくても良かったのに」と思った時期もありました。

でも、さっきの「どういう風に歳を重ねたいか」と考えた時に、子どもという存在は絶対的に必要ではないかもしれないと気が付き……急に30歳までに全部決めなくていいと思ったんです。人生設計が自由になった。そもそも「30歳で人生を全部決めなきゃいけない」というのは無理なので全否定したいです。

まじめなのに損する人

——『まじめな会社員』では、あみ子は「ここではないどこか」に行きたくて、あがくものの、うまくいかない。一方でほんのり想いを寄せる今村さんが、なんだかんだ人生をうまく進めていてやきもきしました。浮気ばかりするのに、恋人に事欠かないというか。

冬野:確かに今村さんは、あみ子と真逆なタイプの人間です。モテる人って必ずしも常識的な人ではなくて……ただ一緒にいて楽しい素質を持ってるんですよね。モテには、誠実さや真面目さよりも、自分なりの哲学があるってことが重要なのかなと。人間的に問題があっても一緒にいると楽しいからそこに惹かれちゃう。逆に、あみ子のように周りの空気を読みがちで、折り目正しくあろうと無理する人は一緒にいて楽しくない(笑)。

——手厳しい(笑)。何者かになれないあみ子タイプの人間はどうやって厳しい現実をサバイブしていけばいいと思いますか? 損ばかりしてしまう気がしていて。

冬野:「尊重されにくい人」というのかな……あみ子のような周りの意見を真面目に聞きすぎてうまくいかない人って「流されてる」という言い方をされると思うんです。

——自分の哲学がある「尊重される人」とは逆で。

冬野:そうそう。でも、ちょっと流される人のおかげで、自分の融通を聞かせてもらってる人ってすごく多い気がします。フットワーク軽く海外旅行に行っちゃう人のシフトを埋めてるのって、あみ子みたいな真面目な人なんですよね。本当に些細なことでも、例えば会議の準備したり、議事録取ったり、電気つけるとかそのレベルで。

そういう人達のひたむきさがあって、みんながやりたいようにできているのに、いざ「人生どうする」という時だけ「やりたいことをやってこなかったのは自己責任」とされるのは、納得いかない。

あみ子タイプの人間は、無益な我慢を続けることが、努力とないまぜになっていて、損する役回りが多いだけ。そういう人が少しでも現状を楽にするには、苦手だと思いますが、心を鬼にして「これはやりません」って言うのが一歩のような気がします。流されやすくて健康な人って基本的に会社を休まないから、気が付いたら仕事を巻き取ったりしてるんですよね。休むのが悪いんじゃなくて……休んじゃえって思いますね。

——損する役割から脱するために。

冬野:有給取ることは、別に誰にも迷惑かけてないので。「いつも私ばかりやってるかも」と思ったら「体調がちょっと悪いので、他の人にお願いしてもらっていいですか」っていう嘘もついちゃってもいいと思ってます(笑)。「私もやっていいんだ」と思うのが大事です。少し不真面目になった方が世界は広がると思います。

『まじめな会社員』(全4巻)

■『まじめな会社員』(全4巻)
主人公・菊池あみ子、30歳。契約社員。彼氏は5年いない。いろんな生き方が提示される時代とはいえ、結婚せずにいる自分へ向けられる世間の厳しい目を、勝手に意識せずにはいられない。それでもコツコツと自分なりに築いてきた人間関係が、コロナで急に失われたら……!?

著者:冬野梅子
出版社:講談社
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000041297

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漫画家・よしながふみが語る「自身の作品」と「社会の変化」——拡がる漫画表現 https://tokion.jp/2022/08/19/interview-fumi-yoshinaga/ Fri, 19 Aug 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140989 インタビュー本『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』を出版したよしながふみへのインタビュー。

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『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』

男女を入れ替え徳川家と大奥の栄枯盛衰を綴った『大奥』、男性のみが働くスイーツ店での物語『西洋骨董洋菓子店』、ゲイカップルの日常を描く『きのう何食べた?』など数多くのヒット作を持つ漫画家・よしながふみ。

女性が男性に替わり執権を握る設定や、青年漫画誌でゲイカップルの物語を連載するなど、ダイバーシティを地で行く作家活動をしてきた彼女だが、本人曰く「自分が読みたいものを描いているだけ」という。

7月26日に発売されたインタビュー本『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』には、彼女の幼少期から現在までの軌跡が詳細に綴られている。自由に描いていると言いながらも、どこか社会性を帯びた作品達はどのように生まれてきたのだろうか?

隠れキリシタンのような学生時代

——男女にまつわるジェンダーの役割を越えていくような作品を多く描いていますが、そこに何かこだわりはあるのでしょうか?

よしながふみ(以下、よしなが):特に意識したことはないですね。私はいつも「自分が読みたい物語」を描いてきているだけなので。そういう話が、たまたまそのような設定なんだと思います。

私の作品を多様性という言葉で受け取っていただけるようになったのも、ここ5年ぐらいかな……と思っています。LGBTQという概念が普及したり、女性が生涯働くことが普通になってきたり、いろいろな社会の動きがありましたから。

真面目に受け取ってくださる方がいるとするならば、それは素敵なことだと思いますし、嬉しいです。

——よしながさんはもともと『SLAM DUNK』の同人誌を作っていたり、BL誌での活躍で名を馳せたりしていましたが、そこに行き着くにはどのような経緯があったのでしょうか?

よしなが:幼い頃から『パタリロ!』は大好きだったので、男性同士の物語は楽しく読んでいました。当時は同性愛モノだとは思っていませんでしたけれど。他にも『風と木の詩』や『日出処の天子』などを愛読していました。

同人誌は、中学1年生の時に友達が『キャプテン翼』の日向小次郎と若島津健の作品を貸してくれたのが出会いになります。すごく重厚なストーリーだったので衝撃を受けました。あの王道スポーツ漫画からこんなストーリーを思いつくなんて!と(笑)。

とはいえ、中高生の時はいじめが社会問題になった時期で、目立つといじめられると思っていました。なので、なるべくオタクであることがバレないように一生懸命隠していました。一応、みんなと話を合わせるためにメジャーな人気漫画を読みはするものの、本当に自分が好きな漫画の話はなるべく表ではしないようにしていました。

——『キャプテン翼』の同人誌を貸してくれる友達もいたのに、「息を潜めていた」んですか?

よしなが:そうですね。オタクの友達もいましたが、高校を卒業すると私だけじゃなく、みんなで空気を読んで「擬態」していました。なるべくオタクに見えないような格好をして、漫画研究会には入らない。同人イベントには行くんですけどね(笑)。

——隠れキリシタンのようですね。

よしなが:まさに。それもあって私が大学で漫画研究会に入った時は、友達から「大丈夫?」「学校でやっていける?」と心配されました。私個人としては、大学はクラスもないので大丈夫だろうと思ってましたし、漫画の話を誰かとしたいという気持ちが強かったので漫研に入ったことに後悔はありません。

大学3年生の時かな……。友達から勧められて読んだ『SLAM DUNK』で、木暮と三井を見て「あ!」と思い(笑)。いてもたってもいられなくなり、「同人誌を出そう」と舵を切りました。

以来、二次創作以外、手につかなくなり、1秒でも長く同人活動を続けたくて大学院にまで行き、その間にBL誌が勃興していろいろな雑誌が生まれました。同人活動で知り合った友達が『花音』というBL誌の編集者になったので、声をかけてもらい、今に至ります。

——ご両親は反対しませんでしたか? 大学院まで行かれていると。

よしなが:反対はありませんでした。母は「食べていけるの?」とだけ心配してましたけど。

BLであってもラブはラブ、自分には厳しかった

——同人活動の延長線上でBLの漫画家としてのキャリアが始まったわけですが、難しさを覚えたり、隠したほうがいいという気持ちが湧いたりすることはありませんでしたか?

よしなが:10代の頃に感じていた窮屈さは感じていませんでした。私がデビューした時期は「BL」という言葉ができて、市場全体も少しずつ盛り上がっていく雰囲気もありました。

当時は成人女性向けのポルノというような立ち位置で、エロ漫画を描いているという意味では、気恥ずかしさはありましたが、男性同士の恋愛モノを描いてることに対して特別な意識はなかったです。

——男女の恋愛を描かなかったのはなぜでしょう?

よしなが:描かないというか……描けないんですよね。高校生の時に1度描いたのが最初で最後。読んでいて自分が面白くないんです。

——なぜでしょう?

よしなが:たぶん、私自身が恋愛に対して興味関心が薄いほうで低体温なところがあるからだと思います。「同志」とか「主従関係」みたいな絆のある関係性、友情が熱くなり過ぎた結果、恋愛になる……みたいなものは妄想がどんどん働くんですけれど。とはいえ、BL作家としてデビューしたものの、たくさんの恋愛バリエーションを描くのは自分にとっては厳しい道でした。

——同人誌を描いていたのに?

よしなが:BLを描いていても、ラブはラブ。当時のBLは基本的に短編ものだったので、毎回毎回彼らは出会って恋に落ちて……を繰り返す。結局は恋物語なので悩みました。雑誌の方針としてセックスシーンも必ず盛り込まなくてはいけない縛りもあり、私にとって難易度が高かった。なので、早々に一般誌に移ろうとしました。

恋愛がなくても生きていけるはず

——女性の生きづらさにフォーカスした『愛すべき娘たち』は、制作にあたってどんな意図があったんですか?

よしなが:当初は軽やかなラブコメのようなものを描こうと思っていたんですけど、描き進めて行くうちに全然違うものになってしまいました。

——母親の再婚を祝えない娘や、誰に対しても恋愛ができない女性、親から幼い時に外見のことを指摘されてコンプレックスを持ち続ける女性……各々の感情が「きれいごと」に収まらず生々しく描かれていました。

よしなが:そうですね。親からの抑圧や「恋愛しなくても幸せになれるのでは?」という気分など、幼い頃から思っていた感情がストレートに出てしまいました。漫画を自分の思想を伝えるための手段にはしたくないと思いながらも、物語を作る上では、そこに触れざるを得ないという葛藤があるので苦労しました。

——ご自身が見聞きしてきたことも随分盛り込まれているとインタビュー本でお話しされていました。

よしなが:はい。例えば「母親が再婚するのがつらい」と感じる人に対して「喜んであげなきゃダメじゃない」と言っている人生相談を見て「そうかなぁ」と思ったことなど、ですかね。親の性の部分を見せつけられるのは、たとえ大人であっても、子供にはつらいことだと思うので。母親の人生は母親のものなので、再婚するのは自由だと思いますが「祝福はできなくてもよくない?」と。

——再婚を祝福しなくても、きちんと関係は築けますしね。

よしなが:普通に付き合いは続けていくけれど、全面的に賛同しなくてもいいし、きれいごとに身を任せなくてもいいんじゃないかなという思いが漫画に出ました。

——主人公の友人で、誰に対しても恋愛感情を持てない莢子の存在には驚きました。

よしなが:そうですね。莢子は今で言う「アセクシャル(無性愛)」ですが、当時はそういう名前も知りませんでした。名前が付いたことで認知されるのはすごく大切なことだと思うので、生きやすくなった人達も多いのではないでしょうか。

——誰に対しても恋愛ができない「莢子」はどういう経緯で生まれたんですか?

よしなが:以前友人が「税金も払ってるし、ごみの日も守ってるし、きちんと暮らしているけど恋愛していないだけで、なぜ世の中から責められるような気持ちにならなくてはいけないんだろう」と話してくれたことがきっかけです。

私も学生の頃から恋愛に対して熱くなれず、居心地が悪かったので、彼女の発言には深くうなずいてしまいました。「人を愛したことのない人はかわいそう」という空気に合わせるというか。私は、人を愛することが最上の善とすることには懐疑的でして……。「彼氏はいらない」と言えば「強がって〜」と言われるので、「彼氏を欲しがるふり」をしなきゃいけないのが面倒くさい(笑)。生きてる中でずっと擬態している感覚がありました。

——恋愛だけが人生を彩ってくれるわけではないですしね。

よしなが:昔は、女の人が 働いて1人で生きていくのは、決心だけの問題にとどまらず、事実としてすごく大変なことだったので、結婚を選んだ側面もあったと思います。比喩ではなく、本当に飢え死にしてしまう世の中だった。でも、今はそういう切迫した状況でもないと思うので結婚や恋愛にこだわらなくてもいいような気がしています。

結婚制度に懐疑的なわけではなく、私は「結婚した相手がとんでもない人だった時に別れられるぐらいの経済力を持てる社会になればいい」と思っています。

私は漠然と「一生働きたい」と幼少期の頃から思っていました。でも私の幼少期は、基本的には「結婚して、仕事はやめて、主婦になる」女性がほとんどを占めている時代だったので、自分の本音はなかなか友達にも語れませんでした。

——なぜですか?

よしなが:「一生働く」ことを良しとすることは「結婚して主婦になりたい友達」だけじゃなく、「そういう選択をした私のお母さんのことも否定するのか」という話にも聞こえかねません。私は考えが自分と違ったとしても、友達は好きだし、仲良くしていたいし、喧嘩もしたくなかったので、自分の本音との向き合い方にはすごく悩んできました。嘘は言いたくないけど、否定のニュアンスは持たないようにしたかった。

でも今は時代がすごく変わりましたからね。こういう発言もしやすくなりました。『愛すべき娘たち』は、出した当初は「エンタメとして売れないもの作っちゃった」と焦りましたが、今は出せて良かったなと思います。

「謝らなくては」と思った瞬間

——ゲイの方々は『きのう何食べた?』だけでなくさまざまな作品に登場します。『西洋骨董洋菓子店』の小野は「魔性のゲイ」として存在感を放っていましたが、インタビュー本では小野の描き方に対して「『大丈夫か、これ』と思っていました」とも語られていたので、ご自身の中で変化があったのかなと思いました。

よしなが:BLをはじめ、自分の作品はゲイの方も読んでるかもしれないと思って描いてました。だからゲイの方々が読んだ時に「これは違う」と思われてもいいけれど、自分達の存在を否定されているとは感じないように注意を払ってきたつもりでした。リアリティーがないのはまだいいとして、異常な印象を与えそうな描写は絶対にしてはいけないと思っていたんです。

でも、小野だけはキャラクターとして走ってしまった。笑いものにする気は全くありませんでしたが、彼を面白く描いてしまったことで、ゲイの方々に対して誤った印象を与えてしまっていたら申し訳ないなと。

——その気持ちが表れたのが『愛がなくても喰ってゆけます。』のA藤くんとの会話なんですね。

よしなが:そうですね。私の作品を読んでくれているゲイの友達がいて。彼に「小野がこんなことになってすみません」と謝ったら「そんなことでいちいち怒っていたらゲイは生きていられない」と言われて、なんとも言えない気持ちになりました。その時はすごく反省しました。ずっと大事にしてきた視点だったので。それ以降もずっとこの姿勢は崩さないように気をつけています。ゲイの描写に関しては、リアルかどうかはあんまり意識していません。

そもそも男女の恋愛モノもリアルなドラマを描いていることのほうが少ない気がします。むしろ「こんなことありえる?」とか「こんな風になったらいいのに」と思いながら読むのが楽しかったりもしますし。

——『きのう何食べた?』は、ゲイカップルの日常が色濃く出ている気がします。これはどういう意図があったんでしょうか。

よしなが:『きのう何食べた?』は、ゲイの恋愛モノというよりも、お料理漫画という意識で描いてます。社会派と言っていただくこともありますが、自分の大好きな中年男性の日常を描きたいという気持ちが強くて(笑)。

仕事があり、誰かと暮らすことの大変さに悩み……(笑)、『きのう何食べた?』は共同生活の大変さにフォーカスしている側面も強いです。自分の生活習慣を誰かに合わせるのは、それがたとえ好きな人であったとしても難しいですからね。

——多くの人が抱える悩みですもんね。ゲイの方に限らず。

よしなが:そうです、そうです。恋愛至上主義ではないゲイの物語を自分が読みたかったんです。

——青年誌「モーニング」での連載もとても話題になりました。

よしなが:最初はBL誌の編集者さんにプレゼンしたんですけれど、あまり反応が良くなかったんですよ。BLの文脈で言えば「2人はもうくっついてしまっている」ので、面白みに欠けると言うか……。セックス描写もなければ、2人が距離を縮めて行く様子もない。BLを普段読んでいる方からすると「読みたい部分」がまるっとない。

私としては大きな意味はなくて「こういう新作を描きたい」といろいろな編集者さんに話していたら、「ではうちで」と「モーニング」の編集者さんが声をかけてくださったんです。当時は何も考えていませんでしたが、連載が始まった後に影響力を知りました。個人的には「モーニング」はパートナーが買ったものを女性も読むというパターンも多いと思っていたので、お料理漫画としてなじむかなと考えていたぐらいです。

ありがたいことに初回では巻頭カラーで表紙までくださった。「ありがとうございます」と思いながら、ケンジとシロさんの2人を描いたんですけど、その反響にゾッとしました。

——ゾッとする?

よしなが:友達からは「いつもと変わらないけど大丈夫?」「これ『モーニング』に載せて大丈夫なの?」とメールがたくさん来て……。ゲイ雑誌の編集長さんからもご丁寧に連絡が来て「モーニングという青年誌でこういう話が載るのはエポックなので、なにかあったらぜひなんでもお尋ねください」と。

私はBL誌に載るのと大差なく、自分が描きたいことを描いているだけだったので、客観的な意見に背筋が伸びたし、寒くもなりました。

——反響を受けて描き方を変えることはありましたか?

よしなが:連載を始めた段階で、話の筋書きも決めていましたし、ある程度描きためていたので変えられなかったですね。そういう器用なことができなかったので、粛々と描くだけでした。

変えたところといえば、読者さんから「作品に出てきたいちごジャムを作ってみました」というはがきが届いたのを見て、きちんとレシピや分量を描くようにしたことです。料理漫画としての調整はできたものの、ゲイカップルの設定自体はたいして変えられないなと思ってそのまま継続していたんです。ただ、2巻を出した頃にモーニングの編集長が変わって、ごあいさつをした時に「モーニングは保守的な親父雑誌なんですよ」と教えていただき、驚きました。

——過去にも、多くの人の目に触れる場所での表現に不安を覚えていたと語られていましたしね。

よしなが:そうですね。同人誌は読みたい人が読むというシンプルなものですが、商業誌はそうではないので、当初は不安でした。

具体的な表現である限り、必ず誰かを傷つける

——誰かを傷つけるかもしれない葛藤もあったとか。でも、誰も傷つけないように考えてしまいすぎると何も描けなくなりそうです。

よしなが:毎回せめぎ合いです。若い頃に編集者さんに「とにかく目立たない漫画を描きたい」と話したら「それでは面白い作品にはならないので」と諭されたこともあります(笑)。具体的な表現である限り、絶対誰かを傷つける。なので、そこは諦めた……ところはあります。

——きっかけはあったんでしょうか?

よしなが:クラシックの音楽家の方が「クラシックはどんなに感情を込めても、歌詞のない抽象的な表現だから誰かを傷つけない」と言っていて、これを聞いた時に諦めがつきました。具体的な表現はもう絶対に誰かを傷つけるんだと。

——どうやって腹を括っているんですか?

よしなが:今でも腹を括れてはいないです。おそらく執筆中はある種のトランス状態になっているんだと思います。読みたかったものをアウトプットして自分で読んでるわけですから、アドレナリンがすごく出る。そういう快感があるから続けられる仕事だと思います。

もちろん配慮は忘れてはいけないんですけれど「これは絶対面白い、形にしたい」という勢いが無ければ、とてもじゃないけど、物語を1本描き上げることはできません。

——ポリティカルコレクトネスについても意識しているとか。

よしなが:ポリティカルコレクトネスは物語の面白さに資するものとして大事だと思います。

——現代は、配慮を過度に求められるとして「表現が難しい」とも言われています。

よしなが:私は、逆に描ける内容の幅もすごく広くなったようにも思っています。BLだって、セックスありきの恋物語ではなく、ゆっくり時間をかけて愛を育む物語を描けるようになってきたと思いますし、理屈っぽい女の子が魅力的に描かれている漫画も人気。恋愛を描かない物語もすごく増えました。でも、読者としては恋愛ものも大好きです。

私自身、楽しく読める漫画の範囲が広がって、以前よりもっと漫画が好きになりました。読み手としてこれからが楽しみです。

よしながふみ
漫画家。『月とサンダル』で商業デビュー。主な作品に『1限めはやる気の民法』『こどもの体温』『西洋骨董洋菓子店』『フラワー・オブ・ライフ』などがある。2004年から2020年まで連載された『大奥』で、第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞や第42回日本SF大賞など多数の賞に輝く。ドラマ化、映画化された『きのう何食べた?』を現在連載中。

『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』

『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』

漫画家よしながふみによる初のインタビュー本。20時間超に及ぶインタビューでは、自作や仕事のことだけではなく、幼少期の思い出、小学時代や中学時代に影響を受けた漫画、高校で所属していた漫研でのエピソード、大学時代に行っていた同人活動のことなど、プロデビュー前の話もたっぷりと収録。また『大奥』が完結したあとの、これからの展望も語っている。インタビューはBLに造詣が深く、これまでに何度もよしながへの取材を行っているライターの山本文子が担当した。

著者:よしながふみ
聞き手:山本文子
発売日:2022年7月26日
仕様:四六判・並製
ページ数:362ページ
価格:¥1,980
発売・発行:フィルムアート社
http://filmart.co.jp/books/manga_anime/yoshinagafumi/

Photography Yohei Kichiraku
Edit Atsushi Takayama(TOKION)

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