連載:ベルリンに広がるリスニングバー Archives - TOKION https://tokion.jp/series/連載:ベルリンに広がるリスニングバー/ Tue, 27 Feb 2024 07:41:06 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載:ベルリンに広がるリスニングバー Archives - TOKION https://tokion.jp/series/連載:ベルリンに広がるリスニングバー/ 32 32 ベルリンに広がるリスニングバー Vol.3 Unkompress × 『Records Culture Magazine』対談 https://tokion.jp/2024/02/28/listening-bar-berlin-vol3/ Wed, 28 Feb 2024 10:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=225483 ベルリンのリスニングバーを紹介する連載企画。第3回は「Unkompress」オーナーのケヴィン・ロドリゲスと『レコード カルチャー マガジン』編集長のカール・ヘンケルによる対談。

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ケヴィン・ロドリゲス(左)カール・ヘンケル(右)

日本独自の音楽カルチャーとして、海外から注目を集める“リスニングバー”。近年、ベルリンにオープンした話題のバーを訪ねて、各オーナー達の言葉から紐解いていく連載企画。第3回は、クロイツベルク地区に2023年にオープンした、カジュアルさが人気のリスニングカフェ兼バー「Unkompress」。オーナーのケヴィン・ロドリゲス(Kevin Rodriguez)と交流のある『Record Culture Magazine』編集長のカール・ヘンケル(Karl Henkell)を迎えて、日本と海外のリスニングバーの違いや楽しみ方について話を聞いた。

日本と西洋で異なるリスニングバーの在り方

−−2人の出会いは「Unkompress」ですよね?

カール・ヘンケル(以下、カール):そう。初めて訪れたのは、オープンして数ヵ月後だったかな? とても居心地のいい空間で、マドリッドにある「Faraday」という友人のリスニングカフェを思い出した。優れたサウンドシステムがあるし、パーソナルな空間をつくり出してると思う。他のバーや商業スペースとは違って、家庭的な感じがするんだ。それにおいしいワインもあるし。

ケヴィン・ロドリゲス(以下、ケヴィン):ありがとう! 「レコード カルチャー マガジン」のことは知ってたよ。素晴らしい写真とインタビューが載ってる雑誌だからね。

−−以前はお互いNYに住んでいましたが、好きなリスニングバーはありましたか?

ケヴィン:ここ数年でオープンした店はたくさんあると思うけど、思いつくのは、「Public Records」だけ。

カール:僕も同じ。「Unkompress」や他のリスニングバーのような親密さにこだわって、ハイエンドな機材を揃えたスペースはあまりなかったよね。

ケヴィン:あと「mezcaleria milagrosa」という店があって、すごくおいしいタコス屋に併設されていたんだ。その2店が本当に際立ってるね。

−−「The Loft」を主催したDJのデヴィッド・マンキューソをはじめ、アメリカには日本とは違うリスニングバー文化がありますよね。

ケヴィン:ジャズ喫茶とリスニングバーがどういうものかわかってくると、みんな自分の好みだって気付くんだ。レコードを集めている人の多くは、他の人と一緒に楽しみたいからね。僕もデヴィッド・マンキューソの音響について考えてきたし、「素晴らしい音響とレコードと一緒にビールが飲める店を開きたい」と思ってたんだ。それから何年も経って、自分のアイデアがそもそも日本にあることを知って、正しかったんだと実感したよ。今ではNYだけでなく、アメリカの人里離れた場所にもあるしね。

カール:どちらもオリジナリティーがあるし、アメリカやヨーロッパではすべてが融合され始めている。日本では「The Loft」みたいな文化はないけど、だからこそ新しいスタイルが生まれたんだ。

−−西洋でバーは会話を楽しむ場であるのに対し、日本ではほとんどの人が静かに音楽を楽しんでいます。このような違いについてどう思いますか?

ケヴィン:個人的にはおもしろいと思う。日本の文化って、外から見るとすべてに目的があるように感じるよ。だから、ジャズ喫茶やリスニングバーについて語る時、そこには理由があって、人々はその理由のために行く。西洋でのバーは友人や家族、楽しい時間が集まる場所。音楽はいつもその背景にあるものなんだ。音楽が前面に出るようなリスニングバーを始めたことで、西洋の人達の認識は変わってきてると思うけど、みんながいつも静かにする場所にはならないね。だからこそ、多くのリスニングバーや「Unkompress」でさえ、特定の夜におしゃべりも電話も禁止のリスニングセッションを開くんだ。

カール:若い頃は、ただ座って聴くだけのアルバム・リスニング・パーティーというコンセプトがしっくりこなくて。でも僕にとってリスニングバーは新しい場所で、ナイトクラブの文脈とは違う音楽をかけたり聴いたりできる。より繊細で、瞑想的で、家で聴くような音楽、それがなんであれね。ナイトクラブやバーに行ってあれこれ聴くのではなく、もっと幅広い音楽を楽しめる。

世界的に広がる、食とサウンドに特化したコンセプト

−−海外のバーのよさも残しつつ、日本式の楽しみ方が浸透しているんですね。2人の住んでいたスペインはどうでした?

カール:マドリードには「Proper Sound」というリスニングバーがある。20人ほどの超小型店だけど、いつも賑わってるし、DJのプレイを毎晩聴ける。最近だと、オーストラリアのメルボルンには「Skydiver」っていう昼間はレコ屋、夜はバーになる店があるよ。こういうコンセプトは、とても理にかなっていると思うな。


ケヴィン:僕がバルセロナに住んでいた頃はまだなかったな。今は少なくとも3、4軒のリスニングバーがあるって聞いたよ。ロンドンには「Brilliant Corners」があるよね。でもあそこもレストランだし、食とサウンドって最近よく見かけるコンセプトだと思う。

カール:パリはワイン文化があるし、すでにカジュアルバーのコンセプトも根付いていて、その方向に進んでるよね。

ケヴィン:今考えてみると、こういった場所のほとんどは食事とワインを楽しむような場所で、リスニングバーといいつつ音にこだわってるとは限らないよね。多くの人が食事や会話をしてるし、100パーセント音楽にフォーカスしているかはわからない。

カール:フランスのボルドーに「Café Mancuso」ってカジュアルな高級レストランがあるんだけど、音がいいって評判だよ。同じコンセプトのレストランでも、いろんな工夫がされていると思う。

ケヴィン:ビジネスの観点から言えば、お酒を飲めば人はお腹が空くし、料理にはお酒が付きもの。そういう経済的な側面もあるよね。でも「Unkompress」のような場所では、食事ではなく、音楽と文化に重点を置きたいんだ。いいサウンドシステムがあっても、やっぱりレストランはレストラン。音楽を聴くために行くかどうかはわからないね。

その人に合ったリスニングバーの楽しみ方

−−2人はどんなリスニングバー が好きですか?

ケヴィン:その時の気分と、その場所が何を提供してくれるかによるかな。リスニングバーなら、音楽とサウンドに集中する。パートナーや友達だけなら、ちょっと小声で話しながら、ただ音に耳を傾ける。でも5人のグループだったら、あまり聴かないかもね。

カール:僕はのびのびとした性格だから、予約なしで行けて、混んでないお店っていうのが大事。「Unkompress」もきっと混んでいるんだろうけど、今のところいつ来ても席を見つけられるからよかった!一方で、ちょっとハプニングがあったりするような場所も楽しいね。よく友人と遊びに行ったり、社交的なことが多いから。

−−最後に、リスニングバーを楽しむベストな方法は何だと思いますか?

ケヴィン:オープンマインドで行けばいいと思う。友達と一緒でもいいし、グループで行ってもいい。会話ができないわけではないけど、音楽やサウンドに敬意を払うことを念頭に置いて、小声で話すこと。今聴いているものに感謝すること。

カール:おいしいワインと音楽を楽しむこと。友人がDJをやってたら、自分が知らない音楽や風変わりなアルバムを持ってたりして楽しいし、自分を驚かせることができる。文脈が特別なものをつくるんだ。選曲する人達も、観客を踊らせるってプレッシャーがない分、いろんなことができるしね。

■ Unkompress
住所:Fichtestraße 23, 10967 Berlin, Germany
営業時間:水木14:00~23:00、金土14:00~1:00
休日:日月火
unkompress.berlin
Instagram:@unkompress

Photography Shinichiro Shiraishi

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ベルリンに広がるリスニングバー Vol.2  Bar Neiro https://tokion.jp/2024/02/27/listening-bar-berlin-vol2/ Tue, 27 Feb 2024 03:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=225461 ベルリンのリスニングバーを紹介する連載企画。第2回は「Bar Neiro」のオーナー、エリック・ブロイヤーがこだわり抜いたHi-Fiシステムや空間づくりについて語る。

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エリック・ブロイヤー

日本独自の音楽カルチャーとして、海外から注目を集める“リスニングバー”。近年、ベルリンにオープンした話題のバーを訪ねて、各オーナー達の言葉から紐解いていく連載企画。第2回は、「オーディオテクニカ(audio-technica)」発のグローバル・プロジェクト「アナログファウンデーション」から生まれた「Bar Neiro」。2023年、クラブが連立するクロイツベルク地区にオープンした、隠れ家的なリスニングバーだ。エントランスの暖簾をくぐると、オーナーのエリック・ブロイヤー(Erik Breuer)が出迎えてくれた。

レコーディングスタジオの公共スペースとしてオープン

−−エリックさんはレコーディングエンジニアとしても活躍されていますが、「Bar Neiro」をオープンしたきっかけについて教えてください。

エリック・ブロイヤー(以下、エリック):すべては「アナログファウンデーション」がベルリンに移転したことから始まったんだ。僕らの使命は、アナログ文化をサポートすること。その時に思いついたのが、オープンな場所として日本のジャズ喫茶のようなリスニング・バーを併設することだった。ミュージシャンやローカルの人達が一緒に音楽を楽しむためのスペースになるし、スタジオともうまく結びつくと思ってね。

−−日本のジャズ喫茶はどうやって知ったんですか?

エリック:レッドブル・ミュージック・アカデミーの仕事やDJで、日本をよく訪れていて。滞在中に行くのが楽しみだった。僕は人生の大半をHi-Fiに費やしてきたんだけど、日本のジャズ喫茶ではそれを実感できる。

−−印象に残っているお店はありますか?

エリック:最初の頃は東京にある有名店を回ったけど、友達が日本に引っ越したことをきっかけに、もっと特別で隠れ家的な場所へ行くようになった。前回は東京の「映画館」に行ったし、千葉の「JAZZ SPOT CANDY」もすごくよかった。次回はドライブがてら田舎に行って、Hi-Fiバー巡りをしたいな。30年代からある日本のジャズ喫茶がトレンドになっていること、人々がこのようなサウンドに夢中になっていることにとてもわくわくしてるし、「Bar Neiro」のオープンもみんなすごく喜んでくれてるよ。

レコーディングスタジオの経験を生かし、こだわり抜いた空間づくり

−−高級ヴィンテージ・コンポーネントで構成されたカスタムHi-Fiシステムを含め、サウンドシステムにかなりこだわってますよね。

エリック:長年に渡って多くのレコーディングスタジオをつくってきたけど、リスニングバーは正反対だからね。音響的に優れた別の空間をつくるのはとても楽しい挑戦だった。レコーディングスタジオだと、スピーカーは非常に精密な楽器でどんな小さな欠点も聴き取りたい。でも、あまり感情的な魅力がないんだ。スタジオ作業に最適なスピーカーでも、それって音楽を楽しむために聴いているのではないことに気づいて。数年前から、正確さよりも感情を重視するヴィンテージ機器にのめり込んだんだ。アメリカの映画館にあるような50年代初頭のスピーカー「アルテックA5」は、すべて当時のオリジナル・コンポーネント。木製のキャビネット部分をつくり直したんだよ。スピーカー・キャビネットは自分達でつくったけど、すべて50年代のオリジナルの部品を使ってるしね。古い映画館のためにつくられたものだから、音の拡散性がとても広いんだ。

−−音響的な観点から見たベストシートはありますか?

エリック:空間全体にいい音が行き渡るから、座る場所がそれほど重要ではないよ。フルに楽しみたいなら、スピーカーの間、バーの真ん中あたりに座った方がいいね。

−−インテリアも素敵ですが、何かから影響を受けているのでしょうか?

エリック:たくさんあるけど、特にキース・アッシェンブレナーかな。1970年代から1980年代のモダンなシーンで活躍した、アナログ的な真空管アンプとホーンスピーカーの達人の1人なんだ。実際にコンポーネントやシステムの調整など、多くのことを助けてくれたし、スペースのケーブルも彼が用意してくれたよ。

それ以外のインスピレーションは間違いなく日本だね。レッドブル・ミュージック・アカデミーで東京にレコーディングスタジオをつくった時、建築家の隈研吾と一緒に仕事ができたのは光栄だったし、かなりインスパイアされてる。特にバーカウンターの天井に施したシンプルなディテールをぜひ見てほしい。あと壁や天井には、90種類以上のレゾネーターや異なるチューニングを施した音響エレメントがあるから、すっきり見せるために天井グリッドや和紙の壁をつくったんだ。

−−家具もオーダーメイドだとか?

エリック:そう、バーや棚は僕らがデザインした。他の家具は、古いミッドセンチュリーの作品やイームズの椅子やテーブルなど、すべてヴィンテージ家具で揃えてる。

−−いろんなディテールへのこだわりが、居心地のよさを生み出しているんですね。

エリック:あと騒がしいバーにはならないように、1グループ最大4人まで。もちろん大人数になることもあるけど、なるべく少人数を保ってるよ。

ミュージシャンとベルリナーが集まる憩いの場

−−ハンガリーのプロデューサー兼マルチ奏者Àbáseやオーストラリアのドラマー兼プロデューサーZiggy Zeitgeistなど、ミュージシャンも訪れるんだとか。

エリック:Àbáseはスタジオでよく一緒に仕事をしてるし、家族の一員みたいなものだね。でもスタジオがあることで、新進気鋭の若手から大物アーティストまで、いろんなミュージシャンがやってくるんだ。あとHi-Fiオタクにも人気で、スピーカーの周りを歩き回ってはチェックしてるのをよく見かける。他にも落ち着いて飲みたい年配の人から、音楽が好きな若い人まで、いいミックスだよ。

−−誰のセレクトで、どんな音楽をかけているんですか?

エリック:普段は僕やバーのスタッフがレコードを持ち込んで、セレクトしてる。アーティストが来てセレクトする時もあるよ。ジャズが大半だけど、アンビエントなエレクトロやソウル・ミュージックとかメロウな音楽が多いかな。ある種の感覚的な体験を作り出すことで、ここに来て、この別世界に入って、ただリラックスして音楽を楽しんでもらうことを目指しているんだ。

−−ベルリンやヨーロッパの人達にとって、このようなスタイルのリスニングバーは受け入れられているのでしょうか?


エリック:そうだね。最近は何もかもがとても速いし、すべてがオンデマンドで、こうして音楽をじっくり聴く人が本当にいなくなっている。1人でヘッドホンから聴くのではなく、他の人達と一緒にここに座って音楽を聴くっていうのは、とてもいいことだと思うよ。

■ Bar Neiro
住所:Ohmstraße 11, 10179 Berlin, Germany
営業時間:18:00~1:00
休日:月、火曜
www.barneiro.com
Instagram:@bar.neiro

Photography:Rie Yamada

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ベルリンに広がるリスニングバー Vol.1 Rhinoçéros https://tokion.jp/2023/09/05/listening-bar-berlin-vol1/ Tue, 05 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=203772 ベルリンのリスニングバーを紹介する連載企画。第1回は「Rhinoçéros」のオーナー、ベネディクト・ベルナが日本のジャズ喫茶での思い出や欧米との違いについて語る。

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ベネディクト・ベルナ

ベネディクト・ベルナ
フランス・ヴァランス生まれ。2003年にベルリンに移住後、クラブとバーの経営を経て、2017年11月に「Rhinoçéros」をオープン。2019年には、「Tokyo Jazz Joints」のフィリップ・アーニールと一緒に、日本のジャズバーや喫茶店の豊かな伝統を祝う写真展を同店で開催した。「Tokyo Jazz Joints」はこの失われつつある文化を記録した本を今年出版したばかりだ。

日本独自の音楽カルチャーとして、海外から注目を集める“リスニングバー”。ここベルリンでも、今年2月から日本のジャズ喫茶やリスニングバーにインスパイアされたスポットが相次いでオープンしている。静かな空間でじっくり音楽を聴くというスタイルは、クラブカルチャーの街ベルリンでどう受け入れられているのか?そこに、日本のカルチャーを見つめ直すヒントがあるのでは?話題のバーを訪ねて、各オーナー達の言葉から紐解いていく。

第1回は、ベルリンでの先駆け的存在である「Rhinoçéros」。穏やかなプレンツラウアーベルク地区に佇む、日本のジャズ喫茶から着想を得たジャズバーだ。音楽プロデューサーからジャズバーのオーナーへと転身したベネディクト・ベルナに話を聞いた。

たまたまインターネットで見つけた日本のジャズ喫茶

−−「Rhinoçéros」をオープンしたきっかけについて教えてください。

ベネディクト・ベルナ(以下、ベネディクト):ベルリンでクラブ「Chez Jacki」とバー「Brut」を経営した後、音楽とガストロノミーが調和する新しいスペースをオープンしたいと思ったんだ。もともと音楽のルーツはラップで、家にはサンプリングに使ってたジャズ、ファンク、ソウルのレコードコレクションがあって。それに、僕にとって音楽はレコードで聴くもの。オーディオ機材が大好きで、クラブでは自分でサウンドシステムの手入れをしたり、常に最高のサウンドを出せるように心掛けていたんだ。当時は、さまざまなオーディオ・コンポーネントを使った本当に素晴らしいサウンド・システムがあって、たくさんのことを学んだよ。だからオーディオと音楽には情熱を持っているんだ。一方で、サービスやソムリエの訓練を受けてたし、それが僕の仕事。だから、すべてが新しいプロジェクトに表れるのは自然なことだった。

それで2015年に、フライドポテトとシンプルなフランス料理を楽しめるビストロ「Soul 2 Soul」を立ち上げたいと考えたんだけど、当時一緒に仕事をしてた友人のサム・ルアネ(Sam Rouanet)から「半年もすればレコードが油まみれになるぞ」って言われて(笑)。彼は「Trenton Records」を主宰していて、Reynold名義でDJをしてる。よく来日してたこともあって、彼から日本の古いジャズバーについて教えてもらったんだ。僕はすっかりその話に夢中になって、インターネットで調べた時、オンラインでちょうど立ち上がったばかりの「TOKYO JAZZ JOINTS」を見つけたんだ。このサイトは日本のジャズ喫茶のドキュメンテーションをしてるんだけど、日本のジャズ喫茶やバー文化について知るすばらしいきっかけとなったよ。

2016年から本格的に準備を始めて、2017年の秋に「Rhinoçéros」をオープンしたんだ。ちなみにその建物は偶然にも前は古い日本のお茶屋さんでさ。賃貸契約を結んだあとに知って驚いたよ。実はオープンするまで日本に行ったことがないんだよね。

オープン後から生まれた日本のジャズバーとのつながり

−−そうなんですね! てっきりオープン前に日本を訪れていたと思っていました。

ベネディクト:オープンして1年後の2018年10月に、妻のマルティナと一緒に日本へ行ったんだ。日本人の友達が世界中のジャズスポットをまとめたGoogleマップのリストをつくっていて、僕等はそれをもとに日本を旅した。14日間で35軒のジャズバーに行ったと思う。すべてが違うし、それぞれに理由があって魅力的で、素晴らしい人達に出会えて嬉しかったよ。 彼等は音楽とジャズに情熱を持ってるね! 時には言葉の壁があったけど、若いオーナーとは英語でしゃべれたし、いつも名刺を交換して一緒に写真を撮った。もう閉店してしまったお店もあるけど。日本に一度も行ったことがなかったのに、ベルリンで同じ雰囲気を再現できてると気付けて、うれしかったよ。

−−印象に残っているジャズ喫茶、ジャズバーはありますか?

ベネディクト:池袋の「ぺーぱーむーん」。滞在中に3回も行ったよ!音楽もヴァイブも、まさに僕の好きな感じの店。リクエストした音楽をかけてくれるし、音楽の話もできる。年配のマスターっていうのもいいんだよね。壁には昔のフライヤーやポスターが飾ってあって、歴史を感じる。ラフでちょっと汚いし、サウンドシステムもドリンクもシンプルなんだけど、すごくスペシャルなんだ。マスターが引退する前にぜひ行ってほしい、おすすめの店だよ。

「CAFE INCUS」オーナーの創一とはよく連絡を取ってる。彼はオーストラリアに住んでいたから、英語が話せるんだ。同じ音楽が好きだから、毎週のように音楽のこととか交換してて。もちろん、いい店だよ。あと閉店しちゃったけど、渋谷の「Mary Jane」。

−−そのあと日本に行かれたんですか?

ベネディクト:いや、この1回だけなんだ。コロナも落ち着いたし、またすぐに行きたいなと思ってる。逆に日本のジャズ喫茶の人達が訪れることもあって、最近だと「Jazz と 喫茶 はやし」のオーナーが来てくれたよ。

−−日本のリスニングバーを再現するために、一番こだわっているところは?

ベネディクト:ここは日本のジャズバーをオマージュしてるけど、それだけじゃなくて、フランスやベルリンのテイストも取り入れてるんだ。もちろんサウンドシステムは大事だけど、雰囲気が一番大事。いい照明、いいサービス、いい音楽とサウンド、いいドリンクとフード。まぁ、全部だよね。すべてのディティールに注意を払う必要があるし、どれかが欠けてもダメなんだ。

−−誰のセレクトで、どんな音楽をかけていますか?

ベネディクト:基本的に僕とバーテンダーがセレクトしてるから、その夜に働く人によってプログラムのセンスが違ってくる。ジャズがメインだけど、ソウルやファンク、ブルースも。レコード棚に自分のコーナーを持っているスタッフもいるよ。たまに、ゲストセレクターとして友人やアーティストを招くこともある。お客からのリクエストは受け付けてないんだ。

日本と欧米で異なるリスニングバーの楽しみ方

−−少人数制や会話の音量に関するルールをウェブサイトに掲載されていますよね。

ベネディクト:このルールはずっと前からあって、たまに書き方や日付を変えてアップデートしてるんだ。少し静かな空間は守りたくて。ただ、ここはヨーロッパ。バーに来る=話に来ることだからね。

−−そこが日本との大きな違いというか、気になるところなんです。日本的なリスニングバーはクラブカルチャーが盛んなベルリンではどう利用されているのかなと。

ベネディクト:ベルリンに限らず、日本と欧米のカルチャーは違う。日本人はもともと静かだよね。好きなジャズ喫茶やバーに行って、現実から離れて一息つき、自分の時間を楽しむ。一方で、欧米では社交の場。人々は大声で話したり表現したがるから、本当に違う。こういった日本の精神性を欧米で再現するのは不可能なんだ。

あと日本のリスニングバーよりも、NYで「The Loft」を主宰したデヴィッド・マンキューソ的なリスニングバーが多いと思う。ベルリンの「Unkompress」やもうすぐオープンする「ANIMA」や「migas」、パリの「BAMBINO」みたいな。いつも2つのターンテーブルとミキサー、HiFiオーディオシステムをそろえてて、いわゆるパーティ向けといったものかな。だから欧米でリスニングバーっていうのは、何を基準としているのか難しいよ。会話がうるさくて音楽が聴けないというお客もいれば、音楽がうるさいから会話ができないというお客もいる。カルチャーの違いを含め、バランスを取るのが難しいな。

−−そんな中でも日本のジャズ喫茶の雰囲気をうまく取り入れていると思います。定期的にイベントも開催されているとか。

ベネディクト:日本のジャズ喫茶の雰囲気を再現する、本当に深く音楽を聴く時間として、月に3回ほど定休日の月曜日に「Listening Sessions」を開催してる。ゲストセレクターがアルバムを1枚選んで、それを聴くんだ。おしゃべりは禁止。ベルリナーも最大90分は集中できるからね。お客が音楽に深く耳を傾ける特別な時間、この空間をつくり上げると、本当に魔法のようなんだ。時には感動的になるし、泣いている人もいる。音楽好きが集まっているから、聴き終わった後に音楽について話したりするのも最高だね。

■ Rhinoçéros
住所:Rhinower Str. 3, 10437 Berlin, Germany
営業時間:18:30~1:00
休日:日曜、月曜
www.rhinoceros-berlin.com
Instagram:@rhinoceros.berlin

Photography Rie Yamada

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