橋爪駿輝 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/橋爪駿輝/ Tue, 20 Dec 2022 06:25:45 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 橋爪駿輝 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/橋爪駿輝/ 32 32 「何を選択したとしても、全部自分の責任でやることが大事」 橋爪駿輝インタビュー後編 https://tokion.jp/2022/12/11/interview-shunki-hashizume-part2/ Sun, 11 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=158971 ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』の監督の橋爪駿輝へのインタビュー。後編では、映像作品と小説という異なるフィールドで表現活動をする理由を聞いた。

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「何を選択したとしても、全部自分の責任でやることが大事」 橋爪駿輝インタビュー後編

橋爪駿輝(はしづめ・しゅんき)
1991年熊本県生まれ。大学卒業後、フジテレビ入社。テレビ局員として『平成物語』(2018)や『イチケイのカラス』(2021)などをプロデュース。2021年フジテレビを退社後、Amazon Originalドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で長編初監督。また、小説家として2017年『スクロール』(講談社)でデビュー。他の著書に『夜に駆ける YOASOBI小説集』収録「それでも、ハッピーエンド」や、11月2日には『この痛みに名前をつけてよ』(講談社)を、11月18日には『さよならですべて歌える』(集英社)を刊行。
Twitter:@shunkiHashizume
Instagram:@shunki_hashizume

Amazon Original ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で監督デビューを果たした橋爪駿輝。2022年11月には新作小説が2作(『この痛みに名前をつけてよ』(講談社)と『さよならですべて歌える』(集英社))も発売され、2023年2月3日には小説デビュー作『スクロール』が北村匠海と中川大志の共演で映画化される、気鋭のクリエイターだ。インタビューの後編では、映像作品と小説という異なるフィールドで表現活動をする理由を聞いた。

前編はこちら

——橋爪さんは2017年に『スクロール』で小説家デビューしています。小説を書き始めたきっかけについて聞かせてください。

橋爪駿輝(以下、橋爪):小学4年生から5年生まで、学校に行けない時期があったんです。いじめられたとかではないんですけど、なんとなく。実家が熊本のド田舎だったので、自然しかないからグレようもなくて、家に引きこもるしかなくて。小説、テレビ、映画で時間をつぶしていると、そこで描かれているものの舞台がだいたい東京だったので、「東京に行きたいな」「自分も何か物語を作れる人になれたらいいな」とフワッと思っていました。それがきっかけといえばきっかけだったと思います。

高校くらいから小説を書いてはいたんですけど、自分で読んでもめちゃめちゃつまらなくて。自分が読んで面白いと思ったもの、例えば村上龍さんの小説を読んだらそのパクリの出来損ないみたいなものしか書けなかったんです。だから小説を書いていることは誰にも言いませんでしたし、世に出すこともなかったです。

——『スクロール』のある人物が職場のテレビ局に対するフラストレーションを抱えていて、つい橋爪さんに重ねてしまいました。

橋爪:そうですよね(笑)。『スクロール』では、いろいろな時期の自分や、自分の性格や、精神の側面みたいなものを、登場人物に分散して書きました。

——『この痛みに名前をつけてよ』も然り、鬱屈や悩み、やり場のない感情を一人称で語る形式から、私小説的な要素が大きいのかなと思いました。ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』(以下、『モアザンワーズ』)のように他者が作った物語を客観的に演出する作業とは全然違う気がするのですが、橋爪さんが小説と映像のフィールドで表現をする理由とは。

橋爪:小説と監督業は、僕は本質的には似ている部分がけっこうあると思っています。だから極力、自分が書いたものを自分で監督はしたくないんです。違いは、小説は全部1人で完結するところで、映像はいろんな人と一緒に作っていくところ。小説は、カメラのピントをどこに合わせるかも、カット割りで時間を飛ぶのも、シチュエーションを変えるのも自分次第です。

映像は逆に自分が知らない世界を味わえるところや、自分の想像以上のことが見られるところが醍醐味かなと思います。その分フラストレーションもあるし、小説は逆に言うとそういう醍醐味はない。楽しさの質が全く違いますし、どっちもすごく楽しいから、小説と監督は、どちらもやりたいなと思っています。

——小説は自分の枠をどう超えていくかが勝負になってきそうですね。

橋爪:本当にそうですね。新刊の『さよならですべて歌える』は、ミュージシャンになりたかった青年が恋人とお別れする時に何を歌うかを書きました。「週刊SPA!」(扶桑社)で連載している小説「だから愛(かな)しみに溺れる」は、明示はしていないんですけど、「トー横キッズ」と呼ばれている新宿の子達のことをモチーフに書いています。自分の中にあるものだけじゃなくて、取材を経て書くようになったことで、小説の世界も自分的に変わってきているなとは思います。

——飲み屋で編集者と出会ったことが、デビュー小説『スクロール』を出すきっかけになったというエピソードは事実ですか?

橋爪:事実です(笑)。その出会いの場所となったスナックのママには、新刊が出るたびにお礼の意味を込めて本を渡しに行っています。今の自分があるのはご縁と運のおかげ。自分には人との出会いしかないんです。

——人付き合いをする上で心掛けていることはありますか? 嫌な言葉ですけど、人脈づくりとか。

橋爪:人脈づくりみたいなことよりも、嫌いな人とは関わらないことの方が意外と大事かもしれないです。嫌な場所にも行かないし。でも人とはもちろん関わります。極力、楽しくないのに笑ったり、つまらないのに「めっちゃ面白いですね」と言ったりしないようにしています。逆にいいな、素敵だなと思う人とはどんどん会う。そうやって生活していれば、そういう人と出会える気がします。

——橋爪さんのように、フリーランスの立場で、フィールドをまたいで自分が作りたいものを具現化したいという人がいたら、ご自身の経験から何を大切にしたらいいとアドバイスされますか?

橋爪:「選択」ですかね……。何を選択したとしても、全部自分の責任でやることが大事だと思います。それこそ僕と近しい年齢で監督や小説家になりたい人に対しては、「じゃあ作ればいいじゃん」「まず書けばいいじゃん」と思っちゃいます。そこで「生活のために他のことをやらなきゃいけないから自分の作品を書いたり撮ったりする時間がない」とか、いろんな言い訳は多分できると思うんです。でも僕はそういう選択を極力しないというか、しないで済むためにどうするかを考えます。

「出てもらった役者さん達の人生のきっかけになる作品を作りたい」

——橋爪さんは新卒でフジテレビに入社されましたが、学生時代から映像作品は撮っていたんですか?

橋爪:それが、全然撮っていないんです。

——テレビ局は狭き門だと思うのですが、入社試験ではどんなことをアピールしましたか?

橋爪:面接で「君はなんでうちを受けたんですか?」みたいなことを聞かれたら、「フジテレビでこういうドラマをやりたいから」と、企画の話を具体的に話しました。正直「なぜフジテレビに入りたいか」なんてわからないですし、僕は就活のハウツーもあまり勉強しなかったので、どうせ落ちるなら後悔したくないと思って、自分が本当に作りたいドラマの企画の話をしました。

——そしていきなり編成部に配属されるわけですね。最初に作ったドラマはなんでしたか?

橋爪:入社1年目の終わりに企画を通してもらった、多分あまり誰も知らない『サマー・ストーカーズ・ブルース』というタイトルのドラマです(笑)。葉山奨之さん、岡山天音さん、成田凌さんがメインで出ています。本人も覚えてないと思うんですけど、デビューしてすぐの永野芽郁さんがワンカットだけ出ました。

——『モアザンワーズ』もそうですが、これから躍進しそうな若手俳優をいち早く起用されていますね。橋爪さんの中に、キャスティングに関する意図や狙いはありますか?

橋爪:いやー、勘でしかないんですけど……。ただ、どんなことに対しても、周りの影響を受けずに心から「良い」と思うことってすごく難しいじゃないですか。例えば絵画を見て、作者名や「これは名画である」という情報が何もない段階で、「この絵は良い」と思うのってすごく難しい。けど、僕は役者さんに対して、極力そういうことをやろうとしています。なぜなら役者さんというのは自分自身が商品というすごく特殊な生き物なので。本当はいいものを持っているのに、例えば事務所が小さいからとか、プロモーションがうまくできていないからとかで、日の目を浴びない人達もたくさんいます。だから自分が映像作品を作る時には、できるだけ出てもらう役者さん達の人生のきっかけにもなる作品を作りたいなと思っています。

——テレビの現場の経験で、今のクリエイションに生かされているものはありますか?

橋爪:たくさんあると思いますけどなんだろう……。お金の流れやプロダクションの構造みたいなことは編成部時代に学びましたね。あと、スタッフが人として扱われていないような現場を、自分自身経験したので、それは反面教師になっています。地獄のような現場から素晴らしい作品が生み出されることは考え方の違いなので否定しませんが、「僕には無理」という感じです。『モアザンワーズ』の現場では、クランクイン前に撮影や照明、美術など各部門のトップさんに集まってもらって、それぞれの助手の方達と上下のない現場にしたい、という話をしました。そんなことを説明する必要のないチームなんですけど、誰も嫌な思いをしない現場というのがテーマの1つだったので。逆に僕が助手の方達に怒られてもいいと思っていますとも話しました。

商業から逃げない

——橋爪さんは非常に多作ですが、意識的に?

橋爪:小説に関しては書けるうちに書いておきたいというのはあります。僕は自分自身が本当に普通の人間だと思うので、まずは形で見せないと誰もわかってくれないと思っています。

——今の時代、形にすれば発表の場は自分で作れますよね。

橋爪:そうですね。でも基本的に自分は商業という場所で戦いたい。例えば小説ならnote、映像ならTikTokやYouTubeなど、発表する場所はたくさんありますが、そういうことはやらないと決めています。編集者に認められたから小説を講談社から出せましたし、『モアザンワーズ』も商業だからあのクオリティになりました。そこはまずは突破すべきところかなと思っています。お客さんに届ける前に立ちはだかる発表までのハードルが、僕にとっては大切というか。もちろん、SNS等で発表し続けるというすごさもあると思うのですが。

——つまりは仕事、ということですよね。現在取り組んでいる仕事について教えてください。

橋爪:11月からの半年間で、小説が5作出ます。そのうち2冊はすでに出版済み、1冊はもう書き終わっていて、残りの2冊を今書いています。あとはまだプラットフォームや形式はお伝えできないのですが、脚本を書いています。あと一昨日急にMVを4本撮らなきゃいけないということになり、その準備も始まりました。

——脚本も書いているんですね。いろいろな作品を作る上で、橋爪さんが大事にしていることをお聞きしたいです。

橋爪:基本的には、自分が観たものや読んだものに救われてきたので、自分の作品に触れてくださる方に何か持って帰ってもらえるようなものを作りたいと思っています。救われるというと大げさ過ぎるけど、例えば自殺しようと思っていた人が僕の小説を読んで、読みながら途中で寝ちゃって、気付いたら次の日を迎えてましたぐらいで十分なんです。そういうものにしたいし、そういうことに自分の時間を使っていきたい。そうなると自分がやる意味というのがすごく大事になってきます。

小説に関しては自分が書くしかないのでどうやったってそうなるんですけど、映像や脚本は自分がやる意味があるかどうかを、感覚的なことなんですけどすごく大事にしています。「消費されたくない」とかは全然ないです。ただ、お金のために、自分の生活のためにという仕事は基本的にやりたくないですね。それを目的にするとやっぱり磨耗してしまうので。特に映像の仕事はすごく過酷なので、スタッフさんにもやる意味を見出してほしい。そのためには、「僕はこういうことをやりたいので、力を貸してください」というものがこちらにないと駄目だと思うので、そこは意識しています。

——作品を受け取る人だけでなく、関わる人達にとっても意義のあるものにしたいということですね。「救われた」とおっしゃいましたが、例えばどういう時にどの作品で救われたのでしょうか。

橋爪:基本的に毎日何かに救われています。引きこもりの時に読んだ小説もそうですし。僕は司馬遼太郎運さんを小4で読み始めて、『竜馬がゆく』や短編集も読みました。「こんなヘタレの人(竜馬)がこうなれるんだったら、今は引きこもってるけど自分もまだ人生諦めなくていいかも」みたいなことを思えたんですよね。大学生の頃パチンコで5万円くらい負けた日に、『風立ちぬ』のチケットを予約しておいたから観に行って自分は何やってんだと泣いたこともあります。

自分が小説デビューした後に、1冊目2冊目と立て続けに出した後、何を書いても面白くなくなっちゃって。「もしかしてもう小説は出せないかも……」とすごく悩んだ時期に観た映画『ゴッホ 最後の手紙』には本当に救われました。まず映像がずっと素晴らしいですし、エンドロールで「私の絵を見て深く人に感じてほしい」というゴッホの生前の言葉が黒バックに映し出されて、なんだかすごく泣いちゃったんです。あんな天才でも、根本で思ってることは自分と一緒じゃんみたいな(笑)。

——引きこもりだったというエピソードや小説の世界観から、感受性が鋭敏で繊細な方なのかなと想像していましたが、テレビ局というハードな環境での制作もできていたんですよね。その両輪を兼ね備えている方は多くはいない気がします。

橋爪:自分では自分のことを、本当に普通の人間だと思っているんですよ。普通だからどっちもできるんだと思います。みんなもやろうと思えば多分やれます。頑張れば。

——いろいろなお話を聞いて、そんな橋爪さんだから『モアザンワーズ』が誕生したんだな、という結論に至りました。ありがとうございました。

橋爪:キャスト、スタッフがそれぞれに思いやりを持って、作品に対して真摯に向き合ってくれた結果ですね。ぜひ、一度と言わず何回も観てほしいです(笑)。ありがとうございました。

■『モアザンワーズ/More Than Words』
配信開始日:2022年9月16日
本編10話一挙配信
原作:絵津鼓「モアザンワーズ」(幻冬舎コミックス)、「IN THE APARTMENT」(大洋図書)
出演:藤野涼子、青木柚、中川大輔、兼近大樹 他
監督:橋爪駿輝 
脚本:浅野妙子
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8QLHYPW
© 2022 NJcreation, All Rights Reserved.

Photography Hana Yoshino

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ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で表現したかったこと 橋爪駿輝インタビュー前編 https://tokion.jp/2022/12/09/interview-shunki-hashizume-part1/ Fri, 09 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=158962 ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』の監督の橋爪駿輝へのインタビュー。前編では、本作誕生の経緯や作品に込めた思いを聞いた。

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橋爪駿輝

橋爪駿輝(はしづめ・しゅんき)
1991年熊本県生まれ。大学卒業後、フジテレビ入社。テレビ局員として『平成物語』(2018)や『イチケイのカラス』(2021)などをプロデュース。2021年フジテレビを退社後、Amazon Originalドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で長編初監督。また、小説家として2017年『スクロール』(講談社)でデビュー。他の著書に『夜に駆ける YOASOBI小説集』収録「それでも、ハッピーエンド」や、11月2日には『この痛みに名前をつけてよ』(講談社)を、11月18日には『さよならですべて歌える』(集英社)を刊行。
Twitter:@shunkiHashizume
Instagram:@shunki_hashizume

2022年9月にAmazon Prime Videoで配信されたドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』。本作は絵津鼓による漫画をドラマ化したもので、愛し合う男性のカップルと、2人にずっと愛し合ってほしいと願う女性の約10年間を、京都を舞台に描く青春群像劇だ。監督の橋爪駿輝にとって、本作が初の連続ドラマの演出だという。これが監督デビュー作とは信じがたい演出力をどのように磨いたのか? 橋爪監督のインタビューを2回に分けてお届けする。前編では、本作誕生の経緯や作品に込めた思いを聞いた。

——『モアザンワーズ/More Than Words』(以下、『モアザンワーズ』)を拝見して、長編初監督作とは思えない完成度の高さに驚きました。橋爪さんについてリサーチしたところ、「フジテレビ社員」「小説家」「YOASOBIの楽曲の原作者」など、気になる情報ばかりだったので、インタビューを申し込ませていただきました。

橋爪駿輝(以下、橋爪):ありがとうございます。

——まず確認しておきたいのですが、フジテレビはもう辞められているんですよね?

橋爪:2021年に、プロデュースしたドラマ『イチケイのカラス』の最終回の翌日に辞めました。もともとテレビ局に入れたらドラマを作りたいと思っていたんです。運良く入社できて、編成部とドラマの制作部で7年間、ありがたいことに自分の企画で6〜7本くらいやらせてもらえました。

個人として2017年に小説『スクロール』を出したこともあって、会社以外の仕事もいただくようになったんですけど、やはり会社員だから断らなければいけないことも多々あって。サラリーマンだから当然なんですけど、いろいろなことを有機的につなげたいなと思って、会社と相談して29歳で辞めました。なめた考え方かもしれないですけど、33歳ぐらいまで頑張って、もし駄目だったら、また考えようくらいな(笑)。

——退社して1年後には、初監督作『モアザンワーズ』が配信されます。企画に橋爪さんのお名前が入っているということは、ご自身が発案者ですか?

橋爪:僕とバディの香月(悠)の2人で考えました。もともとは香月から「こういうの一緒にやらない?」という話があって、香月がAmazonに提案して、プロダクション、スタッフ、キャストは僕の主導で進めていきました。

——撮影の月永雄太さんをはじめ、そうそうたるスタッフが参加されています。

橋爪:今まで観てきた作品で、一緒に仕事をしたい方に1人ひとりオファーしていきました。月永さん、スタイリストの服部(昌孝)さん、ヘアメイクの橋本(申二)さんと、みなさん受けてくださったのが奇跡です。僕はミュージックビデオや広告は監督した経験はありますが、長編は初めてだったのでリファレンスがないから、皆さんにとって僕とやることはチャレンジだったと思うんです。でも、ありがたいことに最強のスタッフがそろったので、みなさんから自分ががっかりされないようにしなければ、という緊張がありました。

——いつか監督をしたいと思っていましたか?

橋爪:思っていました。プロデューサーはさんざんやったので、次に映像の作品をやるなら監督だなと思っていました。僕はいわゆるアシスタント(助監督や監督補)をやったことはないですけど、プロデューサーとしていろいろな現場を見てきたからこそできるものがあるのかなという思いもありました。

「余白がある原作だったので、映像のやりがいがある」

——原作(絵津鼓の漫画『モアザンワーズ』と『IN THE APARTMENT』)についてはどう思いましたか?

橋爪:日本にはBLというジャンルもので商業的に売っているコンテンツがすごく多いなと思うんですけど、僕の友達にも同性愛者がいますし、彼等を通してそういう世界に接した経験がある中で、『モアザンワーズ』の原作はBLだけどBLじゃないというか、ゲイという要素を売りにしていないところがいいなと思ったんです。ちょっとプラスチック感があって、ジメジメしていなくて。余白もある原作だったので、映像にする時にやりがいがあるなと思いました。

——現場にはLGBTQ+の監修者の方が入られたそうですね。どのような部分をサポートしてもらったのでしょうか。

橋爪:基本は、脚本のチェックです。3人のキャスト(藤野涼子、青木柚、中川大輔)にも会って話してもらいました。自分では気付かなかった部分で傷つくこともあることがわかったので、すごく助かりました。

——『モアザンワーズ』も、112日に発売された小説『この痛みに名前をつけてよ』も、京都が舞台です。橋爪さんは熊本県出身で大学は横浜ですが、京都への特別な思いがあるのでしょうか。

橋爪:なんかあるんですよね、京都には。まず時間の流れ方が東京とは全然違うんです。会社員時代にすごく仕事に疲れた時期があって、料理人の友達が修業をしていたので、京都に遊びに行ったんです。そこで京都の友達ができて、とても癒されたというか、青春を取り戻せたというか。今33歳ぐらいで哲学を勉強している大阪大学の大学院に行った人、喫茶店を営んでいる人、詩人になりたくて京都大学を何留もしている学生……いろんな人と出会って、かっこいいなと思えたんです。将来の安定とか関係なく自分の力でやりたいことをやっている人達を見て「自分も頑張ろう」と思えた大事な場所です。『モアザンワーズ』の原作は神戸が舞台なんですけど、映像化が進んでいく中で、「京都を舞台にしたい」という話をしました。

——『モアザンワーズ』は京都で撮っていることはわかりますが、いかにもな京都ではなかったですね。京都タワーが1回ちらりと映った程度で。

橋爪:寺社仏閣とかは映したくなかったんです。観光地としての京都ではなくて、彼等が生活している場所というのを大事にしたかったので、実際に彼等が京都のどこに住んでいるかといった設定も細かく決めて、藤野さん、青木さん、中川さんの3人には撮影前に巡ってもらったりしました。ロケ地は自分が友達と遊んだ場所や、地元の人が行く場所を意識しました。途中で3人が琵琶湖に行ったりするのも、京都の友達が結構琵琶湖に行くというのを聞いて、原作にはないシーンとして入れました。京都の人ってずっと喋ってるんですよ。関西人だからかもしれないけど、ずっと喋ってる。夜に「ちょっと琵琶湖行く?」みたいな感じで行って、ただただ琵琶湖のほとりで喋って帰ってくるみたいなことをするらしくて。Amazon Originalということで日本以外の方々に、今の日本の青春ってこんな感じだよ、と伝わるものが作れたらいいなと思ったので、そういう意味で京都にしたというのもあります。

——エンドロールのワンカットで捉えた即興のやりとりをはじめ、俳優の京都弁がとてもナチュラルで素晴らしかったです。

橋爪:これはもうひとえに役者のすごさですよね。自分も地方出身だから、方言でのお芝居に対する違和感も、その難しさもよくわかります。それなのに役者さん達には申し訳ないなと思うんですけど、かなり現場でセリフを変えたので、めちゃめちゃ大変だったと思います。方言指導の方がつきっきりでしたね。

実は今回の方言指導は、プロじゃない方に入ってもらったんです。それには狙いがあって。方言指導をよくやっている人だと地元の人達が使う言葉じゃなくて、「いかにも……」という感じの言い回しになってリアリティが薄れてしまう恐れがあって、それは避けたかったんです。だから今回は、まだ20代で、京都に住んでいて、自分も俳優をやっていて、方言を指導するのは初めてという方に、本当に頑張ってもらいました。

長回しを多用した狙い

——『モアザンワーズ』で長回しを多く採用した狙いについても聞かせてください。

橋爪:この作品は、人が死ぬわけでもサスペンスでもないので、カットを割ると多分集中力が途切れるなと思ったんですよね。見ている人達も役者も。カットを割るということは、現実世界にはない視点の動き、空間のゆがみともいえる作業なので。今回は「彼らが本当にその場所で生きている」ということを表現するというテーマがあったので、長回しすることでより繊細に、リアルに登場人物達を捉えていくことが有効だと思って選択しました。

——コンテンツが溢れていて、消費するために倍速再生が公式によって肯定されている時代へのアンチテーゼのように感じました。この作品はストーリーのあらすじだけを把握しても意味がない。作品の時間の流れを体験することに意義がある作品ですし、見ている人を没頭させる力を感じました。

橋爪:嬉しいです。自分の中にも、日本のドラマへのアンチテーゼはちょっとありましたし、こういう作品を求めている人達がきっといると思って撮ったところがあります。

——主題歌が4曲もあって、しかも話数の配分が均等ではない理由を教えてください。

橋爪:確かにきれいな割合じゃないなって自分でも思っていました(笑)。もともとは5曲にしようかなと思っていたんです。全10話なので1曲につき2話ずつ。でも2話ずつだとアーティストサイドからすると少ないですし、いろんなバランスで4曲になりました。3話、3話、4話の配分で3曲にしようかなと思った時もありましたが、宗藤隆太さんの「ライムライト」を聞いて「ヤバッ」と思って、あの曲を7話の1回だけ使うことにしました。いびつな配分ですけど、それが一番『モアザンワーズ』が良くなる方法だと思ったんです。

——エンドロールでの主題歌と映像の組み合わせに意味を持たせていたんですね。

橋爪:はい。宗藤さんだけ既存曲で、他のアーティストさん達(STUTS、iri、くるり)には脚本を読んでもらった上で、撮影が始まる前にラフをもらいました。くるりさんが一番早かったです。脚本を読んで、1週間くらいでギターだけのラフが上がってきました。それもすごく良かったです。

——作品の高評価、好意的な感想をどう受け止めていますか?

橋爪:シンプルに嬉しいです。Twitterで「間が独特」みたいな感想を読むと、自分的にも大切にしていた部分だったのでありがたいです。海外の方が、マッキー(槙雄=青木柚)と永ちゃん(永慈=中川大輔)のドライヤーのシーンと、マッキーと朝人(=EXIT 兼近大樹)のドライヤーをするシーンの位置関係が一緒だと、画像を切り抜いて上げてくれていて。情報や説明を極力省きたかったので、作品を見た人が自分から掘りに行ってくれるのを見ると、届いたんだなと思って嬉しくなります。

後編へ続く

■『モアザンワーズ/More Than Words』
配信開始日:2022年9月16日
本編10話一挙配信
原作:絵津鼓「モアザンワーズ」(幻冬舎コミックス)、「IN THE APARTMENT」(大洋図書)
出演:藤野涼子、青木柚、中川大輔、兼近大樹 他
監督:橋爪駿輝 
脚本:浅野妙子
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8QLHYPW
© 2022 NJcreation, All Rights Reserved.

Photography Hana Yoshino

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