ドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で表現したかったこと 橋爪駿輝インタビュー前編

橋爪駿輝(はしづめ・しゅんき)
1991年熊本県生まれ。大学卒業後、フジテレビ入社。テレビ局員として『平成物語』(2018)や『イチケイのカラス』(2021)などをプロデュース。2021年フジテレビを退社後、Amazon Originalドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』で長編初監督。また、小説家として2017年『スクロール』(講談社)でデビュー。他の著書に『夜に駆ける YOASOBI小説集』収録「それでも、ハッピーエンド」や、11月2日には『この痛みに名前をつけてよ』(講談社)を、11月18日には『さよならですべて歌える』(集英社)を刊行。
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2022年9月にAmazon Prime Videoで配信されたドラマ『モアザンワーズ/More Than Words』。本作は絵津鼓による漫画をドラマ化したもので、愛し合う男性のカップルと、2人にずっと愛し合ってほしいと願う女性の約10年間を、京都を舞台に描く青春群像劇だ。監督の橋爪駿輝にとって、本作が初の連続ドラマの演出だという。これが監督デビュー作とは信じがたい演出力をどのように磨いたのか? 橋爪監督のインタビューを2回に分けてお届けする。前編では、本作誕生の経緯や作品に込めた思いを聞いた。

——『モアザンワーズ/More Than Words』(以下、『モアザンワーズ』)を拝見して、長編初監督作とは思えない完成度の高さに驚きました。橋爪さんについてリサーチしたところ、「フジテレビ社員」「小説家」「YOASOBIの楽曲の原作者」など、気になる情報ばかりだったので、インタビューを申し込ませていただきました。

橋爪駿輝(以下、橋爪):ありがとうございます。

——まず確認しておきたいのですが、フジテレビはもう辞められているんですよね?

橋爪:2021年に、プロデュースしたドラマ『イチケイのカラス』の最終回の翌日に辞めました。もともとテレビ局に入れたらドラマを作りたいと思っていたんです。運良く入社できて、編成部とドラマの制作部で7年間、ありがたいことに自分の企画で6〜7本くらいやらせてもらえました。

個人として2017年に小説『スクロール』を出したこともあって、会社以外の仕事もいただくようになったんですけど、やはり会社員だから断らなければいけないことも多々あって。サラリーマンだから当然なんですけど、いろいろなことを有機的につなげたいなと思って、会社と相談して29歳で辞めました。なめた考え方かもしれないですけど、33歳ぐらいまで頑張って、もし駄目だったら、また考えようくらいな(笑)。

——退社して1年後には、初監督作『モアザンワーズ』が配信されます。企画に橋爪さんのお名前が入っているということは、ご自身が発案者ですか?

橋爪:僕とバディの香月(悠)の2人で考えました。もともとは香月から「こういうの一緒にやらない?」という話があって、香月がAmazonに提案して、プロダクション、スタッフ、キャストは僕の主導で進めていきました。

——撮影の月永雄太さんをはじめ、そうそうたるスタッフが参加されています。

橋爪:今まで観てきた作品で、一緒に仕事をしたい方に1人ひとりオファーしていきました。月永さん、スタイリストの服部(昌孝)さん、ヘアメイクの橋本(申二)さんと、みなさん受けてくださったのが奇跡です。僕はミュージックビデオや広告は監督した経験はありますが、長編は初めてだったのでリファレンスがないから、皆さんにとって僕とやることはチャレンジだったと思うんです。でも、ありがたいことに最強のスタッフがそろったので、みなさんから自分ががっかりされないようにしなければ、という緊張がありました。

——いつか監督をしたいと思っていましたか?

橋爪:思っていました。プロデューサーはさんざんやったので、次に映像の作品をやるなら監督だなと思っていました。僕はいわゆるアシスタント(助監督や監督補)をやったことはないですけど、プロデューサーとしていろいろな現場を見てきたからこそできるものがあるのかなという思いもありました。

「余白がある原作だったので、映像のやりがいがある」

——原作(絵津鼓の漫画『モアザンワーズ』と『IN THE APARTMENT』)についてはどう思いましたか?

橋爪:日本にはBLというジャンルもので商業的に売っているコンテンツがすごく多いなと思うんですけど、僕の友達にも同性愛者がいますし、彼等を通してそういう世界に接した経験がある中で、『モアザンワーズ』の原作はBLだけどBLじゃないというか、ゲイという要素を売りにしていないところがいいなと思ったんです。ちょっとプラスチック感があって、ジメジメしていなくて。余白もある原作だったので、映像にする時にやりがいがあるなと思いました。

——現場にはLGBTQ+の監修者の方が入られたそうですね。どのような部分をサポートしてもらったのでしょうか。

橋爪:基本は、脚本のチェックです。3人のキャスト(藤野涼子、青木柚、中川大輔)にも会って話してもらいました。自分では気付かなかった部分で傷つくこともあることがわかったので、すごく助かりました。

——『モアザンワーズ』も、112日に発売された小説『この痛みに名前をつけてよ』も、京都が舞台です。橋爪さんは熊本県出身で大学は横浜ですが、京都への特別な思いがあるのでしょうか。

橋爪:なんかあるんですよね、京都には。まず時間の流れ方が東京とは全然違うんです。会社員時代にすごく仕事に疲れた時期があって、料理人の友達が修業をしていたので、京都に遊びに行ったんです。そこで京都の友達ができて、とても癒されたというか、青春を取り戻せたというか。今33歳ぐらいで哲学を勉強している大阪大学の大学院に行った人、喫茶店を営んでいる人、詩人になりたくて京都大学を何留もしている学生……いろんな人と出会って、かっこいいなと思えたんです。将来の安定とか関係なく自分の力でやりたいことをやっている人達を見て「自分も頑張ろう」と思えた大事な場所です。『モアザンワーズ』の原作は神戸が舞台なんですけど、映像化が進んでいく中で、「京都を舞台にしたい」という話をしました。

——『モアザンワーズ』は京都で撮っていることはわかりますが、いかにもな京都ではなかったですね。京都タワーが1回ちらりと映った程度で。

橋爪:寺社仏閣とかは映したくなかったんです。観光地としての京都ではなくて、彼等が生活している場所というのを大事にしたかったので、実際に彼等が京都のどこに住んでいるかといった設定も細かく決めて、藤野さん、青木さん、中川さんの3人には撮影前に巡ってもらったりしました。ロケ地は自分が友達と遊んだ場所や、地元の人が行く場所を意識しました。途中で3人が琵琶湖に行ったりするのも、京都の友達が結構琵琶湖に行くというのを聞いて、原作にはないシーンとして入れました。京都の人ってずっと喋ってるんですよ。関西人だからかもしれないけど、ずっと喋ってる。夜に「ちょっと琵琶湖行く?」みたいな感じで行って、ただただ琵琶湖のほとりで喋って帰ってくるみたいなことをするらしくて。Amazon Originalということで日本以外の方々に、今の日本の青春ってこんな感じだよ、と伝わるものが作れたらいいなと思ったので、そういう意味で京都にしたというのもあります。

——エンドロールのワンカットで捉えた即興のやりとりをはじめ、俳優の京都弁がとてもナチュラルで素晴らしかったです。

橋爪:これはもうひとえに役者のすごさですよね。自分も地方出身だから、方言でのお芝居に対する違和感も、その難しさもよくわかります。それなのに役者さん達には申し訳ないなと思うんですけど、かなり現場でセリフを変えたので、めちゃめちゃ大変だったと思います。方言指導の方がつきっきりでしたね。

実は今回の方言指導は、プロじゃない方に入ってもらったんです。それには狙いがあって。方言指導をよくやっている人だと地元の人達が使う言葉じゃなくて、「いかにも……」という感じの言い回しになってリアリティが薄れてしまう恐れがあって、それは避けたかったんです。だから今回は、まだ20代で、京都に住んでいて、自分も俳優をやっていて、方言を指導するのは初めてという方に、本当に頑張ってもらいました。

長回しを多用した狙い

——『モアザンワーズ』で長回しを多く採用した狙いについても聞かせてください。

橋爪:この作品は、人が死ぬわけでもサスペンスでもないので、カットを割ると多分集中力が途切れるなと思ったんですよね。見ている人達も役者も。カットを割るということは、現実世界にはない視点の動き、空間のゆがみともいえる作業なので。今回は「彼らが本当にその場所で生きている」ということを表現するというテーマがあったので、長回しすることでより繊細に、リアルに登場人物達を捉えていくことが有効だと思って選択しました。

——コンテンツが溢れていて、消費するために倍速再生が公式によって肯定されている時代へのアンチテーゼのように感じました。この作品はストーリーのあらすじだけを把握しても意味がない。作品の時間の流れを体験することに意義がある作品ですし、見ている人を没頭させる力を感じました。

橋爪:嬉しいです。自分の中にも、日本のドラマへのアンチテーゼはちょっとありましたし、こういう作品を求めている人達がきっといると思って撮ったところがあります。

——主題歌が4曲もあって、しかも話数の配分が均等ではない理由を教えてください。

橋爪:確かにきれいな割合じゃないなって自分でも思っていました(笑)。もともとは5曲にしようかなと思っていたんです。全10話なので1曲につき2話ずつ。でも2話ずつだとアーティストサイドからすると少ないですし、いろんなバランスで4曲になりました。3話、3話、4話の配分で3曲にしようかなと思った時もありましたが、宗藤隆太さんの「ライムライト」を聞いて「ヤバッ」と思って、あの曲を7話の1回だけ使うことにしました。いびつな配分ですけど、それが一番『モアザンワーズ』が良くなる方法だと思ったんです。

——エンドロールでの主題歌と映像の組み合わせに意味を持たせていたんですね。

橋爪:はい。宗藤さんだけ既存曲で、他のアーティストさん達(STUTS、iri、くるり)には脚本を読んでもらった上で、撮影が始まる前にラフをもらいました。くるりさんが一番早かったです。脚本を読んで、1週間くらいでギターだけのラフが上がってきました。それもすごく良かったです。

——作品の高評価、好意的な感想をどう受け止めていますか?

橋爪:シンプルに嬉しいです。Twitterで「間が独特」みたいな感想を読むと、自分的にも大切にしていた部分だったのでありがたいです。海外の方が、マッキー(槙雄=青木柚)と永ちゃん(永慈=中川大輔)のドライヤーのシーンと、マッキーと朝人(=EXIT 兼近大樹)のドライヤーをするシーンの位置関係が一緒だと、画像を切り抜いて上げてくれていて。情報や説明を極力省きたかったので、作品を見た人が自分から掘りに行ってくれるのを見ると、届いたんだなと思って嬉しくなります。

後編へ続く

■『モアザンワーズ/More Than Words』
配信開始日:2022年9月16日
本編10話一挙配信
原作:絵津鼓「モアザンワーズ」(幻冬舎コミックス)、「IN THE APARTMENT」(大洋図書)
出演:藤野涼子、青木柚、中川大輔、兼近大樹 他
監督:橋爪駿輝 
脚本:浅野妙子
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8QLHYPW
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Photography Hana Yoshino

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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