レイ・ハラカミ Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/レイ・ハラカミ/ Wed, 06 Jul 2022 09:29:03 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png レイ・ハラカミ Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/レイ・ハラカミ/ 32 32 短期連載「今また出会う、レイ・ハラカミの音楽」 第3回:音楽評論家・原雅明 × 音楽家・Tomggg――聴く者に何かを残す独自性はどこに宿っていたのか https://tokion.jp/2022/05/02/rei-harakami-music-vol3/ Mon, 02 May 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=112236 故レイ・ハラカミの幻のカセットテープ音源リリースに寄せて、全3回の短期連載を実施。第3回は、生前のレイ・ハラカミと親交を結んだ音楽評論家・原雅明と、レイ・ハラカミの音楽からの影響を公言する音楽家・Tomgggの対談お届けする。

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昨年末にリリースされた故レイ・ハラカミの初期作品集『広い世界 と せまい世界』のリリースに寄せて、希代の音楽家の歩みを始まりから改めて見つめ直すべく、全3回の短期連載企画を実施。最終回となる今回は、音楽ジャーナリスト/レーベルプロデューサー・原雅明と、音楽家・Tomgggの対談をお届けする。

生前のレイ・ハラカミと親交をもち、自身がプロデューサーを務めるレーベルringsでハラカミ作品の再発を手掛ける原(『広い世界 と せまい世界』も同レーベルからのリリースとなる)。そして、先行世代であるレイ・ハラカミからの影響を公言し、独自のエレクトロニック・ミュージックを紡ぐTomggg。そんな両者が交わし合う言葉から、レイ・ハラカミの音楽が持つ魅力を浮かび上がらせていく。

ゼロ年代のエレクトロニカと、レイ・ハラカミの音楽との出会い

原雅明(以下、原):早速ですが、レイ・ハラカミの初期テープ作品『広い世界 と せまい世界』は聴いていただけました?

Tomggg:聴かせていただきました。

原:率直に、聴いてみていかがでしたか?

Tomggg:僕は、『Unrest』(1998年)以降のエレクトロニック作品しか知らなかったんですよ。いわゆるSC-88 PROの音ですよね。でも、『広い世界 と せまい世界』はモンドミュージックっぽいというか。少し意外だったんですけど、やりたいことはすごくわかるし、とても楽しんで聴かせていただきました。ここからどういう軌跡をたどって、(『Unrest』以降の)レイ・ハラカミさんの音になっていくのか、とても興味が湧きましたね。

原:この連載の1回目でも出てくる話なんですが、もともと彼は、ギターやベースを弾いてバンドもやっていて。逆にコンピューターミュージックや電子音楽を好まない人だったんですけど、宅録などをしていく中でコンピューターなどに興味を持ってという流れだったと思うんですね。このカセットテープが作られたのが90年代前半ですけど、当時って楽器をやっていた人達の中には、「楽器ってダサいよね」と転換していく流れもあった時期だったんですよ。

Tomggg:なるほど。

原:楽器を売っ払って、ターンテーブルを買ってDJを始めたり、そういう時代でもありました。それは、80年代にテクノやハウスというジャンルが出てきたり、ヒップホップが出てきたりしたタイミングで、アンダーグラウンドだったものが少しずつメジャーになってきてDJも少しだけ市民権を得た状況だったんです。

Tomggg:そっちのほうがかっこよく見えるみたいな感じですか?

原:そうですね。特に、ニューウェイブのバンド出身のDJやトラックメイカーがわりと多かったと思います。レイ・ハラカミの「転向」は、そんな時代背景もあってのものだったとも思いますね。ところでTomgggさんは、初めから1人で曲作っていたんですか?

Tomggg:いや、僕も高校時代はコピーバンドをやっていて。いわゆるロックミュージックに興味を持って、父の影響でレッド・ツェッペリンやディープ・パープルとかコテコテの音楽をかいつまんでいくうちに70年代のロック、プログレッシブ・ロック、特にキング・クリムゾンにハマっていったんです。そんな中で、タンジェリン・ドリームとかシンセを使ったバンドが出てくるんですよね。電子音の感じがおもしろいと思い始めた最初のキッカケはそこかもしれないです。

そこから、大学生になると国内のエレクトロニカブームがやってきて。その時にいろんなアーティストを聴いていく中で、レイ・ハラカミさんに出会うことになるんですけど。

レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(2022/7/6より配信が開始に)

原:エレクトロニカって、90年代後半からどんどん前衛化していって、ノイズとも近接してくるようなものまで出てきたんですけど、そこから反動のように急に柔らかい、メロディを主にして歌も乗っかるようなものが出てきた。それ以降、エレクトロニカは歌のプラットフォームにもなったり、他ジャンルと結びついたりと多様化していきますが、Tomgggさんはその過程でエレクトロニカに触れたんですね。

Tomggg:そうですね。その時に海外作品から国内作品までいろいろと聴いていた中で、レイ・ハラカミさんは少し「色」が違ったんですよね。当時はハイファイなサウンドが流行っていたと思うんですけど、ハラカミさんはどちらかというとローファイめな感じで独特の質感があって。それがすごくいいなと思ったんです。いちばん衝撃的だったのが、くるりの「ばらの花」のリミックス。原曲が好きだったのもあるんですけど、「リミックスでここまでやってもいいんだ!」と自分の中で新しい扉が開いた感覚はありましたね。

原:ちなみにご自身の音楽はハイファイ・ローファイのどちらの方向を向いていたんですか?

Tomggg:もともとはハイファイなほうを向いていました。エッジが効いたものがカッコいいなと思っていたんですが、それとは別に、小さいものをかわいがる、懐かしさをかわいがる感じのトーンも好きで。作っていたものはエッジが効いたものではあるけど、かわいらしいものも好きみたいな。そのかわいさっていうのは、アプリなどで手間をかけて作っていくかわいさではなく、おもちゃで遊ぶとかキャンディを美味しく思うみたいな、そういった意味でのかわいさなんですけど。竹村延和さんの音楽やレイ・ハラカミさんの音楽には、そんなかわいさを感じたんです。

原:確かに、竹村延和がChildiscを始めた時、「子ども」という視点・コンセプトを打ち出していて、レイ・ハラカミのtomokochin-proによるアートワークもそうですけど、それまでの硬質的なエレクトロニカにはなかった文脈が出てきましたよね。Tomgggさんはわりとそのあたりに影響を受けている気がしますね。

Tomggg:もろに受けていると思います。

「レイ・ハラカミの音色の独自性、トラックと歌のバランス感に影響を受けた」

原:その時はエッジが効いたものを作っていたとのことですが、今のスタイルになるまでにはどんな過程があったんですか?

Tomggg:(エッジの効いたものは)すごく好きだったんですけど、目指す先が尖りすぎていて、その先が見えなくなったというか……。どんどん「細く」なっていく感じがしたんですよね。僕が目指す音楽的豊かさはこっちじゃないという気がしたんです。そんな中でレイ・ハラカミさんの音楽を聴いた時、音が視覚的に見えるような感覚を覚えたというか、音が空間を動き回っているイメージが浮かんで。

原:その感覚はわかりますね。

Tomggg:自分がやりたいのはそっちの方向性だと思って、だんだん変わっていったんです。あと、ハラカミさんの音楽でなおかつすごいと思ったのは、音の記名性の高さですね。一度聴けばハラカミさんの音楽とわかる。SC-88 PROってたくさんの人が使っていた機材だと思いますけど、それでも「ハラカミさんの音」が出ている。電子音楽をやるからには自分もそこを目指さないといけないなと思ったんです。

原:なるほど。僕は彼が普通にエレクトロニック・ミュージックをやっていた人だとは思っていなくて。彼の音楽にはミュージシャン的な視点を感じさせるところがあるというか、音の取り入れ方や音色へのこだわり方が、いわゆるエレクトロニカ系のアーティスト達とは異なっていたように感じます。そういうシーンとも関わりはあったんだけど、やっぱり違う嗜好性があって、それもあり多くの人に伝わったのかなと。

音色というところでいうと、Tomgggさんの音楽でもすごく特徴的なものがあると感じますが、ご自身の中で何か基準というか、こういう音色がいいとか、そういうものはありますか?

Tomggg:さっきお話ししたように、「空間を動き回るような音」というのが自分の音楽の中で1つキーワードになっていてるんですけど、それを聴いている人に感じてもらうには、「知覚しやすい音」を使うことが大事で。シンセパッドみたいな持続している音よりは、打楽器的なプツッと切れる音の方が基本的に人は聴き取りやすくて、ウワモノではグロッケンとかそういった音色を使い、空間的に動かしていくことが多いですね。

原: 確かにTomgggさんの音楽ではマリンバのような音が多く使われていて、どこかミニマル・ミュージックのように聴こえてくるところもあります。こういうところに忍ばせているのかなって(笑)。音大を出ていらっしゃいますが、実際、ミニマルだったり現代音楽だったりはお好きなんですか?

Tomggg:そうですね、(スティーヴ・)ライヒの影響はあると思います。現代音楽方面で言うと、クセナキスの存在も大きいですね。あの人の曲も映像的だなと思っていて。それこそ「音の雲」という考え方を彼は提示していましたけど、音がたくさん集まって形が変わっていくような感じの音楽の在りようには、すごく影響を受けていると思いますね。あと、僕、抽象的な形態がどんどん変わっていくような、ノーマン・マクラーレンのようなアート文脈のアニメーション作品が好きなんですけど、自分の音楽にはそこからの影響もあります。

原:Tomgggさんの音楽っていろいろなレイヤーがあって、どこを聴くかで印象が違ってきますよね。ある人はすごくポップに感じるけど、ある人はちょっと変な音楽と感じるかもしれなくて、振れ幅の大きい音楽だと感じます。

Tomggg:変って思ってもらえるのは嬉しいんですよね。2015年にEP『Butter Sugar Cream』を作った時、マスタリングエンジニアの方にジャンルがわからないって言われて、とても嬉しかったというか。カテゴライズされない状態の良さって多分あると思うので。

原:レイ・ハラカミも「エレクトロニカって呼ぶな」って言ってました。

Tomggg:そうなんですね。カテゴライズされるとムっとしてしまうというのはわかりますね。そのEPを作っていた時、フューチャーベースというジャンルが盛り上がっていて、僕もその中の1人みたいな感じで思われていて。そのカテゴライズに抗うというか、「そう見えないためにはどうすればいいか」なみたいなことを意識していた時期がありました。

原:ジャンルってますます細分化されていると思うんですけど、カテゴライズって常に作り手の人を悩ますじゃないですか。ジャンルにうまく乗る人もいるけど、ジャンル分けされることをすごく嫌う人もいて、後者のタイプの人はすごく考えちゃいますよね。多分レイ・ハラカミもそうで、彼は『lust』(2005年)を作った後にオリジナルの作品は出さなかったんですけど、それはブレイクしてその後どうするのかっていうのを考えつつ、次のアプローチを模索していたんだと思うんです。Tomgggさんは、今ではそういった意識から抜けられた感じなんですか?

Tomggg:そうですね。見え方とかも気にせず、自分の好きなものをやっていけばいける感覚が持てたというか、これをやっていたらいいんじゃないかと思えるものが固まりつつありますね。

原:それはとても良いことですね。ところで、Tomgggさんがご自身でキャリアを積んでから、改めて気がついたレイ・ハラカミの魅力って何かありますか?

Tomggg: yanokamiを聴き直した時に、歌とトラックのバランス感のすごさを感じました。周波数的にも空間的にも、いわゆる「歌の領域」みたいなものがあって、「ここに重ねると音がかぶって埋もれてしまう」ということがあるんですよ。だから歌とトラックのバランスをプロデューサーやビートメイカーはめちゃくちゃ考えるわけですけど、yanokamiの音楽は、そのバランス感が頭抜けている気がして。ハラカミさんの音がちゃんと主張していながら、矢野さんの声もちゃんと立っていて、とてもリッチな空間が成立している。それは僕自身も歌ものを作るようになってから、改めて気がついたことですね。

原:さっきTomgggさんが挙げていた「ばらの花」のリミックスも、いわゆるエレクトロニカやクラブ系のアーティストがリミックスした感じではなく、ちゃんと歌も生かしつつ、原曲を作り替えている。彼は歌もののフィールドにも無理なく入り込めている感じがするんですよね。

Tomggg:本当にそう思います。

つくりたいのは、聴く人に何かを残す音楽

原:Tomgggさんが今後やりたいことは?

Tomggg:ハウス・ミュージックを自分が作ってみたらどうなるのかなということに興味が出始めていて。

原:それはなぜですか?

Tomggg:ハウスの背景にある「性別も人種も関係なく踊っていこう」「この瞬間が永遠に続いてほしい」みたいな理念、感覚に改めて共感を覚えるところもあって。僕は音楽を時間芸術だと考えているので、「このメロディを覚えてもらうためには、こういう風な順序で組み立てて……」みたいなことをすごく意識して構築的に楽曲を作ってきたんです。「ちゃんと始めて、ちゃんと終わらせる」ことが大事で。だからその逆というか、永遠を感じさせるようなループベースのトラック、フロアでダンストラックとして機能するものを1度きちんと作っておきたいという気持ちがあるんです。

原:でも、今ってダンスフロアを意識するのってすごく難しいところがありますよね。クラブはあるし、シーンは続いていくと思うんだけど、コロナ禍で一度シャットダウンしたことでマインドがリセットされていった。そこからどうもう1度、ライブやクラブという場が持っていた力を回復させることができるのか、みんな探ってる感じがするんです。レイ・ハラカミの音楽は、個人のマインドのリセットから生まれた音楽として、今聴かれることもあるのかと思います。

Tomggg:今、メタバースのダンスフロアやイベントもあるみたいですけどね。VRなどを用いたものが。

原:それはTomgggさんから見て可能性を感じますか?

Tomggg:どうでしょうか。僕のクラブの原体験は、ボディソニックなんですよ。聴いたことのない低音や振動で持ってるビールが揺れちゃうみたいな、あの感覚が憧れであり、すごく衝撃を受けたので。VRを家でヘッドフォンを着けて見たところでちょっと冷めた感じではありますね。ただ、ボディソニックのような音楽の原体験としてはかなり弱いものにはなると思いますが、知らない音楽と出会って、友達と喋るコミュニケーションの場として機能するとは思います。

原:若い人達が強度ある原体験をどこで得られるのかっていうのは、少し心配っていうのはおこがましいですけど、ちょっと考えてしまいます。でも、知らない音楽に出会って、初めはそのよさが分からなくても、聴いてるうちにおもしろみを感じてくるとか、そういうことはどんな形であれ続いていくんでしょうね。

Tomggg:そう思います。

原:Tomgggさんが作る音楽にはそんな要素があるというか、「聴いていくと謎解きができる音楽」じゃないかなって思っているんですよ。さっきも言いましたけど、一聴してポップなんだけど、その中には色々と仕込まれていて。聴いた人に何かを残しそうな音楽だって思うんです。

Tomggg:ありがとうございます。確かにそういうものであってほしいとは思います。

原:レイ・ハラカミの音楽も、何かを残す音楽でした。それを受け取ったTomgggさんが、そうした音楽を作り続けていることを、とてもうれしく思いますね。これからの作品も楽しみにしています!

原雅明  Tomggg

原雅明
音楽の物書き。レーベルringsのプロデューサー、LA発のネットラジオdublab.jpのディレクター、DJやホテルの選曲も務める。早稲田大学非常勤講師。単著『Jazz Thing ジャズという何か』など。
dublab japan: https://dublab.jp
rings:https://www.ringstokyo.com
Twitter:@masaakihara

Tomggg
千葉県生まれ。国立音楽大学大学院修士課程作曲専攻修了。「劇的な展開」「キラキラした音」を駆使し、“ものすごく楽しくなる楽曲”を制作する。台湾の人気デュオ好樂團 GoodBandのWen Hsu、マレーシア出身のラッパーAirliftz、カナダ人プロデューサーのRyan Hemsworthなど、国内外で多彩なコラボレーションプロジェクトを手掛てきた。2020年には4年ぶりとなる配信EP『Unbalance』をリリース。Spotifyの月間リスナーが10万人を超えるなど、国内外のエレクトロニックミュージックシーンに存在感を示している。
オフィシャルwebサイト:https://www.tatsuyafujishiro.com/
Twitter:@Tomggg

Photography Kosuke Matsuki
Construction Shunsuke Sasatani
Edit Takahiro Fujikawa

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短期連載「今また出会う、レイ・ハラカミの音楽」 第2回:マーク・“フロスティ”・マクニールが語る、「流動体のような音楽」との出会い・その特異性 https://tokion.jp/2022/04/15/rei-harakami-music-vol2/ Fri, 15 Apr 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=109784 故レイ・ハラカミの幻のカセットテープ音源リリースに寄せて、全3回の短期連載を実施。第2回は、LAの地でレイ・ハラカミの音楽をリアルタイムに発見していたマーク・“フロスティ”・マクニールを、90年代から親交を持つ音楽ジャーナリスト・原雅明がインタビュー。

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昨年末にリリースされた故レイ・ハラカミの初期作品集『広い世界 と せまい世界』のリリースに寄せて、稀代の音楽家の歩みを始まりから改めて見つめ直すべく、全3回の短期連載企画を実施。第2回となる今回は、LAのネットラジオ「dublab」の創設者であり、レイ・ハラカミの音楽をリアルタイムに発見していたマーク・“フロスティ”・マクニールのメールインタビューをお届けする。質問を投げかけたのは、生前のレイ・ハラカミと親交を持ち、またマーク・“フロスティ”・マクニールとも長年の付き合いがある音楽ジャーナリスト/レーベルプロデューサー・原雅明(原は「dublab」の日本支局である「dublab.jp」のディレクターも務める)。

レイ・ハラカミの音楽との出会い、ライヴで感じたこと

ワールドワイドにリスナーを持つロサンゼルスのネットラジオdublabの創設者であり、長年ラジオDJとして活動を続けてきたフロスティことマーク・マクニールは、レイ・ハラカミの音楽をリアルタイムに発見し、DJとして同じ場所に立ったこともある。フロスティは、日本のシティ・ポップを中心に取り上げたコンピレーション・シリーズ(『Pacific Breeze: Japanese City Pop, AOR And Boogie 1976-1986』、『Pacific Breeze 2: Japanese City Pop, AOR And Boogie 1972-1986』、『Somewhere Between: Mutant Pop, Electronic Minimalism & Shadow Sounds Of Japan 1980-1988』)のキュレーターとしても知られている。海外の音楽の目利きであり、現在も日本の音楽の熱心なリスナーであるフロスティは、レイ・ハラカミの音楽をどう聴いてきたのだろうか。レイ・ハラカミの音楽の海外での受容を知る手掛かりとして、フロスティに話を訊いた。

――初めてレイ・ハラカミの音楽を聴いた時の印象から訊かせてください。また、それはいつで、何がきっかけだったのでしょうか?

フロスティ:レイの音楽を初めて聴いた時ははっきり覚えてないんだけど、ゆっくりその存在を認識したという印象なんだ。まるで空気が鳴り響いて、彼の音楽が物質化して自分の意識に入ってきたかのようだった。このように、自分の意識の変化とともに彼の音楽を発見できたことは、自分にとって満足感があり、レイ・ハラカミのサウンドに合っていると思う。彼の音楽が僕の意識に入り込んでから、自分がすでに彼の作品をたくさん持っており、ラジオでも放送したことがあることに気付き、ある意味レイ・ハラカミの音楽による催眠状態に入っていたのかもしれない。何十年も前にスパイラル・レコーズの試聴機の前に立って、東京の喧騒に囲まれながらも、ヘッドホンで彼の音楽を聴きながら異次元に飛んでいた記憶がある。レイのことをはっきり認識した時、彼が制作した楽曲や作品の詳細にフォーカスするようになったが、未だに彼の音楽には捉えどころのない側面があり、まるで夢の中の可能性の果てで浮遊しているかのようだ。現実とは思えないほど強烈に輝いているよ。

――東京で初めて聴いたわけですね。その後、dublabの自分の番組でも掛けたのですか?

フロスティ:そうだね。長年レイの音楽をラジオ、ライヴ、自分がキュレーションしたプレイリスト、アート・イベントでもプレイしてきたけど、一番よく聴いているのが自宅でなんだ。彼の作品には独特の空気感があり、曲を聴けばすぐにレイ・ハラカミだとわかる。まるで、音響的なシェイプシフターだよ。彼の音楽は流動体のように、さまざまな瞬間と調和することができるんだ。

——カルロス・ニーニョが来日した時(2010年)、東京のUNITでレイ・ハラカミがライヴも行い、あなたはその前にDJをしていました。彼のライヴを実際に見て、何を感じましたか?

フロスティ:ライヴには心底から衝撃を受けた。まず、バックステージでレイ・ハラカミと会話をした時に、彼の温かいスピリットに感銘を受けた。彼が演奏し始めると、会場の強力なサウンドシステムが、まるで空間的なスーパーシステムに変貌したかのようだった。音のプラネタリウムに紛れ込んで、レイ・ハラカミの奏でる音が僕らをさまざまな星座や異次元へと誘っているような感覚さえ覚えた。洗練されていながらも無駄を削ぎ落としたパフォーマンスでは、1つひとつの音色が静寂と空間に構造を与えるために発生し、リスニング体験をガイドしてくれる道しるべのような役割を果たしていた。脳と身体がリセットされ、新鮮な気持ちで世界の不思議を体験できているかのようだった。ライヴの後に絶賛すると、さらに彼は謙虚な態度になり、まるで演奏した音楽がすでにそこに存在していて、彼はジェスチャーをして、そのエッセンスの在処を教えてくれているかのようだった。

日本の音楽に惹かれた理由、レイ・ハラカミの特異性

――あなたは、dublabがスタートする頃(1999年)にも日本を訪れましたね。その時に僕は初めて会いましたが、日本の音楽、特に同時代のインディの音楽をよく知っていて驚きました。なぜ日本の音楽に興味を持ったのでしょう?

フロスティ:幸運なことに、僕らは本当に長い間交流があるね! 1994年に南カリフォルニア大学でラジオに関わるようになってから、音楽という素晴らしい世界への飽くなき好奇心が加速した。1999年にdublabを設立してから、その好奇心はさらに歯止めが効かなくなった。日本の音楽に興味を持ったきっかけは、実はそのさらに何年も前に遡るんだ。母親がNonesuch Explorer Seriesの『A Bell Ringing in the Empty Sky』という日本の尺八音楽のアルバムを持っていて、子どもの頃はそれを何時間も聴き続けて、ジャケの複雑な線画を眺めていた。レコードの中で、まるで幻想の世界が具現化しているかのようだった。何年も後に黒澤明の『夢』を見た時に、同等のエモーションを表現している作品を発見したという実感があった。このようなクリエイティヴな作品を見つけたいという探究心がさらに強まり、日本の音楽を真剣に探すようになった。1999年にsoup-diskからリリースされたCappablackの『The Opposition EP』を伝説的レコード店Aron’s Recordsで見つけてからは、日本のサウンドを探したいという欲求に本格的に火がついたんだ。

――レイ・ハラカミと同時代の日本の音楽もあなたはよく聴いていたと思います。その中でも、彼の音楽がユニークだと思った点はありますか?

フロスティ:それはもちろんある。大学時代からdublabの初期の時代の間に、DJ Krush、竹村延和、Susumu Yokotaなどが大好きになって、今でも大好きだけど、それがきっかけで日本の音楽への自分の関心が高まった。レイの音楽は、まるでグラスに入っている結晶のようにクリアな水のようで、窓際にそのグラスを置くことで、窓から光が差し込み、グラスの反対側に全く新しい光景が投影されているかのような状態。喉の渇きを癒すために、そのグラスの水を飲もうとした時に、自分の身体は以前の光を求めているのではなく、そのグラスの水からのさまざまな栄養を吸収しようとしているんだ。この文章を書きながらレイ・ハラカミの音楽を聴いていると、2010年の東京UNITで見たレイのコンサートのように、過去を恋しく想う、懐かしい感覚も蘇るけど、同時に今の瞬間にしかない喜びを与えてくれる。

――レイ・ハラカミが活動したのは、1998年のデビューから2011年まででした。この時代のエレクトロニック・ミュージックの中に彼の音楽も位置づけられますが、世界の潮流の中で、彼の音楽が成し得たことを、改めてあなたはどう評価していますか?

フロスティ:これはとても難しい質問だし、自分でも把握しようとしているところなんだ。レイ・ハラカミの音楽は未だに過小評価されていると思うけど、それは決して悪いことではない。幸運なことに彼の音楽と出会うことができた人たちは、彼の音楽がいかに貴重か理解できるからなんだ。生前に評価されないアーティストが多くいるのは、受け取る側の心と魂が、彼らの作品を評価できる状態にまだ達していないからだ。レイの音楽はタイムレスであり、今の世の中のように常にカオスが続いている状態において、彼の音楽はサンクチュアリーであり、発見すれば必ず癒しを与えてくれる存在だ。

――レイ・ハラカミの音楽には、エレクトロニック・ミュージック以外の音楽からの影響も感じられると思いますが、何か具体的に影響を感じるような音楽は思い浮かびますか?

フロスティ:他の音楽からの影響というよりかは、彼の作品を聴いていると、彼はわかる人にしかわからないこの世のマジック、はかない奇跡に魅了されている人だったと思う。このような掴みどころのない要素こそが人間らしさというものを形成しているわけで、彼はその感覚を大切にしていた。

――近年、レイ・ハラカミの音楽に海外からの関心が高まっていることを感じますが、どういった点に関心が持たれていると思われますか?

フロスティ:音楽はとても主観的なものであり、一瞬一瞬、我々は常に変化しているので、他の人が何を感じているか、憶測するのは難しい。でも、彼の音楽は世の中のカオスからの癒しを与えてくれる存在だということは容易に想像できるよ。

――今回リリースとなった正式デビュー前の音源集『広い世界 と せまい世界』にはどんな感想を持ちましたか?

フロスティ:このリリースにはとても興奮している。僕にとってはとても新鮮な作品なので、これから何年かかけて聴き込んでいけることを楽しみにしている。レイ・ハラカミの初期作品を聴くと、さらに彼のことが大好きになるよ。この作品を作った時の彼の喜び、興奮、ユーモアが伝わってくるからね。レイの初期の楽曲を聴くことで、後の作品への理解が深まるし、この幅広いレンズを通して、彼のパーソナリティがより鮮明に伝わってくる。

レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(2022/7/6より配信が開始に)

日本シティ・ポップの紹介が米音楽シーンに与えた影響、レイ・ハラカミ以降の注目アーティスト

――あなたは、『Pacific Breeze』で日本のシティ・ポップを海外に紹介しました。シティ・ポップはレイ・ハラカミより前の世代の音楽ですが、紹介するあなたのスタンスには共通するものを感じます。

フロスティ:世界には無限の可能性があるのに、メインストリーム・メディアとマーケティングの狭い視点によって、我々の潜在能力が抑圧されていると感じている。数多くの音楽作品がクリエイトされているのに、それは少数の人間の耳にしか届いておらず、その一方で一般大衆はほんの一部の作品しか聴いていない。僕の人生のミッションは、この傾向を覆すことであり、過小評価されたクリエティヴな音楽を世界に届けることなんだ。人間の頭脳には大きな潜在能力が秘められており、音楽はそれを広げる上で有効な手段だ。日本では素晴らしい音楽がたくさんクリエイトされているので、そういう作品が日本国内だけに留まっているのはもったいない。だから、日本の音楽の素晴らしさを理解する人が増えているのは喜ばしいことだし、自分がその中で小さな役割を果たすことができたことに感謝しているよ。

――シティ・ポップの紹介は、アメリカの音楽シーンにどんな影響を与えましたか?

フロスティ:久しぶりにレコード店に行ってみたら、日本のレコードのセクションにはたくさんのレコードが入っていたけれど、それぞれのアルバムがお店の他のレコードより3倍から4倍の値段だった。それだけ日本の音楽への関心が高まっているが、需要が高まったことで、レコードを入手できる人も減少してしまった。中古レコード市場のバブルがはじけて、求めやすい価格になることを願っている。もちろん、配信サービスはいろいろあるけれど、このようなプラットフォームでは未発表の素晴らしい音楽がまだたくさんあるんだ。フィジカル・メディアの値段が高すぎて、リスナーがレコードを買うことで食費がなくなってしまうという状況は避けるべきだと思う。だから、Light in the Atticと共同で『Pacific Breeze』シリーズや『Somewhere Between』などのコンピレーションをプロデュースできたのはとても嬉しい。莫大な数のレコードの中から選曲をし、珠玉の楽曲のコレクションとしてまとめ上げることで、リーズナブルな価格でリスナーに作品を届けたかったんだ。

――レイ・ハラカミ以降の日本の音楽に関して、あなたは関心がありますか? 今現在、あなたが注目している日本の音楽家がいれば教えてください。

フロスティ:Foodman(食品まつり)の作品は大好きだよ。H. Takahashiには常に驚かされるし、Chee Shimizuはいろいろな意味でキーマンだと思う。Kuniyuki Takahashiの作品はいつも間違いないし、Meitei(冥丁)は掘り下げながらも啓発的なサウンド。YtamoやOorutaichiは僕にとって光り輝く存在であり、Kenji Kihara(木原健児)を聴いていると地に足がついた気持ちになり、高田みどりの音楽は完璧なバランスを保った月食のようだ。

――レイ・ハラカミがもし存命していたとしたら、音楽シーンにどんな影響を与えていたと思いますか?

フロスティ:彼は、自分の心を素直に表現した音楽を作り続けていたと思うし、彼のピュアな姿勢は、他の人にも、自らの情熱に従って生きるインスピレーションを与えたと思う。

――あなたが選ぶレイ・ハラカミの楽曲、ベスト10を教えてください。

Rei Harakami – after joy
Rei Harakami – sequence_01
Rei Harakami with Ikuko Harada – sequence_03
Rei Harakami – unexpected situations
Rei Harakami – remain
Rei Harakami – double flat
Rei Harakami – on
Rei Harakami – a certain theme
Rei Harakami – owari no kisetsu
Rei Harakami – くそがらす(『広い世界 と せまい世界』からはこれからも大好きな曲が登場すると思うよ)

マーク・“フロスティ”・マクニール

マーク・”フロスティ”・マクニール
DJ、ラジオプロデューサー、キュレーター、大学教員、そしてエミー賞受賞のドキュメンタリー映画監督として、ロサンゼルスを拠点に活動。1999年以来、多岐に渡るジャンルの音楽を探求する先駆的なネットラジオ局「dublab.com」の創設者であり、同局で毎週ラジオ番組の司会を務めている。Daedelus とのユニットであるAdventure Timeとして新たな音の世界を創造するとともに、「dublab」のDJらとアンビエント・ユニットのGolden Hitsとしても活動する。また、フロスティとして、超越的な音体験の共有をミッションとする、ハイコンセプトなDJセットを世界中で披露している。
Web: frosty.la
Radio: dublab.com/djs/frosty
Twitter: @dublabfrosty
Instagram: @dubfrosty

Translation Hashim Kotaro Bharoocha

Edit Takahiro Fujikawa

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短期連載「今また出会う、レイ・ハラカミの音楽」 第1回:映像作家・由良泰人が語る、風化しない世界が生まれた「始まりの日々」のこと https://tokion.jp/2022/02/13/rei-harakami-music-vol1/ Sun, 13 Feb 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=95542 故レイ・ハラカミの幻のカセットテープ音源リリースに寄せて、全3回の短期連載を実施。第1回は、学生時代から長きにわたり交流を持った映像作家・由良泰人のインタビューをお届けする。

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2011年に惜しまれつつ世を去った稀代の音楽家、レイ・ハラカミ。生前に紡ぎあげた音楽が今なお広く聴き継がれる彼の幻のカセットテープ音源『広い世界』(1991年)と『せまい世界 rei harakami selected works 1991〜1993』(1993年)が、リマスタリングされ昨年12月に『広い世界 と せまい世界』として、再び世に送り出された。

今作のリリースに寄せて、レイ・ハラカミの歩みを始まりから改めて見つめ直すべく、全3回の短期連載企画を実施。第1回は、レイ・ハラカミの学生時代の先輩でありその後も長きにわたる交流を持ち続けた映像作家・由良泰人のインタビューをお届けする。キャリアの始まりにおいて、レイ・ハラカミがどのような思いで音を紡いでいたのか。映像作家=原神玲は、いかにして音楽家=レイ・ハラカミとなったのか。京都に住む由良に、ZOOMで話を聞いた。

※本インタビューに際しては、『ユリイカ』2021年6月号「特集=レイ・ハラカミ」(青土社)に多くを参考にさせていただいた(藤川)。

アナログ志向だったレイ・ハラカミがコンピューターと出会った時のこと

――由良さんは京都芸術短期大学映像コース在学中にハラカミさんと出会ったとのことですが、最初の印象を教えてください。

由良泰人(以下、由良):ある先輩の作品制作の手伝いで、原神と一緒になったんです。彼が2年生くらいの時で、僕が効果音を作る音響、原神は単純にスタッフとして手伝っていたんだと思います。印象で言えば、非常に生意気なやつ。言いたいことははっきり言うので、不平不満もすぐに口に出していました。でもそれはただ「やりたくない」ということではなく、「これは間違っている」とか「こうすれば効率的になる」ということを物怖じせず発言する感じで。それは晩年まで変わってないのかなと思いますね。でも当時は20歳くらいでしたから、生意気だなって思っていました(笑)。

――最初に会った時、親密な関係になるという予感はありましたか?

由良:いや、全くないですね(笑)。何人かで飲みに行ったり、打ち上げで同席したりすることはありました。ただ彼は気が付けば僕の部屋に突然やってきたり、僕がバイトから戻ってくるのをずっとアパートの前で待っていたりとかしていたんですよ(笑)。

――その後、週3で飲みに行くほどの仲になったそうですが、ハラカミさんと意気投合されたきっかけは?

由良:当時、学生の中で自分の映像に自分で音をつけていたのが、少なくとも知っている範囲では僕と彼だけで。僕はコンピューター、彼はカセットでアナログ寄りな感じで音を作っていました。原神は「コンピューターは嫌い」と言って、どちらかと言うとアドリブみたいなところを大事にしていたので、コンピューターの決まりきった形での演奏や再現には興味がないという感じでした。ただ、よく僕の部屋に一升瓶を持って勝手に乱入してきていましたが、その時、当時僕が使っていたローランドのシーケンサーMC-500や音源の機材を見て半分馬鹿にしながら「どうやるの?」と言うので使い方を教えたら、適当に何かを作って遊んでました。しばらく熱中して「こういう時にはどうやったらいいの」と聞いてきて、今思うとわりと複雑なことをその時もしていた気はするんですけど、ある程度したら「わかった!」となってあとはもう酒を飲んで酔い潰れていく、という感じ(笑)。僕が何かきっかけを作ったとかではないのですが、なんとなく忌み嫌っていたものに触れて、ちょっと親近感が持てたような感じなのかなとは思いますね。使いようによってはおもしろいな、とか。それが確か『広い世界』が出たあとだったので、それぐらいがわりとしゃべるようになった頃かもしれないです。

――なるほど。コンピューターがきっかけだったんですね。

由良:その頃、彼らの学年で映像の展覧会をしていて、そこで『広い世界』のテープを販売していたんです。僕も展覧会に遊びに行ったのですが、彼に「テープを買ってください」と言われて買った記憶がありますね。先日、その展覧会が行われたギャラリーに用があって訪ねた際、ちょうど原神の話になって、ギャラリーの方もテープを持ってました(笑)。そのテープの数は相当少ないはずですよ。20本くらいしか作ってないと思います。すべて手作りでダビングして一生懸命作っていたみたいなので。

彼はイラストとかも書いていたので、当時コンビニのカラープリントが使えるようになったコピー機で展覧会などのチラシを制作していました。ただ、普通の使い方ではなくて、わざわざイラストを小さく描いて、コピー機で拡大してわざと画質を荒くするとか、エフェクトとして使っていましたね。彼はそういうのが好きみたいで「既存のものをいかに使って加工していくのか」みたいなことは、音でも映像でも同じようにやっていました。

――当時、ハラカミさんはどのような映像を制作していたんですか?

由良:初期はアニメーションを主に作っていました。今回の『広い世界 と せまい世界』にも入っていますけど、「イスデタビ」という曲ももともとは友達を椅子に座らせて、座ったまま移動していくような作品なんですけど、それに使われた曲です。後期は物語や映画の構造を再構築するような実験的な作品を作っていました。

――映像制作で言うと、ハラカミさんは1995年に制作した「ヴォワイアン」を最後に残し、音楽家へ転身されました。同業の先輩という視点から、映像作家としてのハラカミさんに感じていたことはありますか?

由良:周りの中ではとりあえず一番おもしろいなと思っていました。僕はずっと意識していましたし、たぶんですけど向こうも僕のことを意識していた感じはします。お互い面と向かって言わないですけど、僕はこれで原神を黙らしてやるみたいな気持ちで作品を作っていたし、向こうも僕に挑戦するような感じはありましたね。なので、僕の作品の出来が悪い時は無茶苦茶言われますけどね(笑)。意識しているとかは言わないんですけど、お互いできあがったものに対しての評価は飲みながらなんだかんだと言ってましたね。僕の学生時代を振り返ると、彼がいてくれたことはすごく大きかったなと思います。

映像作家=原神玲が音楽家=レイ・ハラカミへと向かう過程の貴重なドキュメント

レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(rings、2021/12/29)ダイジェスト
レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(2022/7/6より配信が開始に)

――昨年末に、『広い世界』(1991年)と『せまい世界 rei harakami selected works 1991〜1993』(1993年)がリマスタリングされリリースされました。当時はまだ「音楽家レイ・ハラカミ」となる前ですが、ハラカミさんはどういうスタンスで音楽を制作されていたのでしょうか?

由良:この頃、彼は人の映像作品に音楽をつけるような活動をしていましたね。『せまい世界』の収録曲もほとんどそうで、基本は人の映像作品のサウンドトラックとして作曲されたものだと思います。原神が音楽を器用に作るということもあって、同級生から音楽作ってよと頼まれ始めて。人の作品のイメージがまずあって、映像があって、そこにどういう音をつけていくかということをやっていた。言わば、クライアントワークの始まりという感じですかね。

――なるほど。

由良:その頃、僕は大学で技術スタッフとして働いていたのですが、新しくできる映像制作・音響制作用の施設に導入する機材やソフトウエアの選定に関わることになって、Macとシーケンサーソフト「イージービジョン」、ローランドの音源モジュール「SC-55」(編集部注:レイ・ハラカミは本機材の後継モデル「SC-88 PRO」を晩年まで愛用することになる)をセットで入れたんです。そこから、原神は授業でそれらの使い方を学んでいって。彼のコンピューターを使った音楽制作はその時に始まったんだと思います。『せまい世界』のほうに収録されている「くじらやろうのテーマ」は盛大に「SC-55」を使って作っています。

――今作には、ベースとギターで音楽を作られていた原神玲さんが、後のエレクトロミュージックを作っていくレイ・ハラカミさんに向かっていく過程が収められているのですね。ある意味で、レイ・ハラカミの始まりというか……。

由良:そうですね、『せまい世界』っていうのは「始まり」のテープかもしれない。『広い世界』はその前の世界で、その後の世界が『せまい世界』になりますね。

――ハラカミさんが変わっていく過程をどのように感じていましたか?

由良:このカセットを作る前、原神はコンピューターミュージックやテクノ系の打ち込みの音楽をとにかく嫌っていたんですよ。それが、一気にそこにのめり込んでいったので「変わったなー」とは思っていましたけどね。テープに一発録りができるようになるとダビングの回数が少なくなるので、音質的にもクリアになっていて、音がグッと良くなっていきました。ただ、原神は音が良くなりすぎるのも嫌いなので、あえて音質を「汚す」ようなことをやってみたりしていましたね。

――ハラカミさんが、コンピューター音楽にのめり込んだ理由を由良さんはどうお考えですか?

由良:たぶん、いろんな細かなニュアンスがコンピューターで表現できるということに気付いたのが1つ。あと、その辺りから彼はポリリズムにはまっていくんですが、自分の曲でそれをやる時に、演奏するよりもコンピューターのほうが便利だと気付いたのかなという気はしますけどね。

――両作品に収録される楽曲は、レイ・ハラカミ以降の作品にはない生々しいフィジカリティや、ブルースロックやフォーク、即興のようなピアノ音色の演奏、コラージュなど雑多な音楽性が印象的です。最初に聴いた時に、由良さんはどんなことを感じましたか?

由良:こういう音を作るのは珍しいなと。バンドサウンドでもなく打ち込み系でもなく、わかりやすい曲でもなく独特の浮遊感があって、おもしろいなと思って聴いていましたね。ただ、売れるとは思ってなかったですけど(笑)。音の多彩さに関して言うと、バックグラウンドにあるいろいろな音楽が原神の中でミックスされて、アウトプットされていたんでしょうね。でも、彼は影響を受けている音楽とかは絶対に口にしなかったですけどね(笑)。

風化することのないレイ・ハラカミの「世界」

――多くのリスナーは、今回の2作品を「レイ・ハラカミの音楽」の作品を経たあとに新しく聴くことになるわけですが、由良さんとして、今、改めて「原神玲の音楽」を聴いた時に思うこと、現在のご視点から感じることはありますか?

由良:こういう作品があったから、後のレイ・ハラカミがいたんだなと、いろいろな意味で思います。突然、あんなのは出てこないですし、このテープの前にも原神はいるわけで、そういうところは地続きなんだとは思いますね。この『せまい世界』が出たあとくらいから、いろいろな人から原神へ依頼がくるようになって。そこから、音楽がちゃんとした仕事になっていくんですけど、その頃、彼の中ではまだ映像作家でありたいという思いが強くて、非常に悩んでいましたね。ある時、「音楽でこれだけいろんな人に褒めてもらえて依頼も来るんだから、それを本業にしてもいいんじゃない?」と言ったこともあったんです。それから2週間後くらいに、原神から「デビューすることが決まった!」と連絡があって。良かったな、と。原神としては、最後に映像のほうでけじめをつけたいというのもあって、「ヴォワイアン」(1995年)を制作し、映像作家としての道を締めくくったんだとは思います。

――レイ・ハラカミさんの音楽は、国境も時間も超え、今なお聴き継がれています。その理由、ハラカミさんの音楽の魅力とは何だと思いますか?

由良:それはたまに考えることがあって。映像制作している時からそうなんですけど、「世間にないものを作っていたから」ということなのかなと。シーンに迎合したりカテゴライズされたりするのを嫌って、自分がやりたいことをオリジナルな方法論で作っていたということだと思うんです。だって、どの曲も原神の曲ってすぐにわかるじゃないですか。もう新しい曲は出てこないですけど、聴けば「原神かな」ってパッとわかるぐらいオリジナリティのあるものができあがっていた。それは決して風化しないでしょうね。僕もたまに今でも聴くんですけど、「懐かしい」という感覚はありません。彼の音楽には独自の世界観があった。そしてそれは、『広い世界』と『せまい世界』を始まりとして生まれてきたんだと思います。今の流行に合わせていろいろなテクニックを使って曲を作る人もいますけど、そういうところと関係なく作っていたので、それは10年経とうが100年経とうが変わらない。時代を感じる楽曲でも音でもなく、古びないし、今でも普通に聴けてしまうんだと思います。

由良泰人
1991年ごろより個人映像の制作を始める。京都、東京などの日本を中心にヨーロッパやアジア地域など海外でも作品発表を行う。映像作品以外にもインスタレーション作品の発表、コラボレーションでの制作、コンピューター技術書やデザイン入門書の執筆、3DCGアニメーション制作など多岐にわたる活動をしている。現在、大阪電気通信大学で映像制作の指導を行う。
龍谷大学非常勤講師。映像公募上映展VIDEO PARTY主宰。映像専門ギャラリーLumen galleryプログラムディレクター。京都国際学生映画祭企画検討委員。
www.yurayas.net

レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(rings、2021/12/29)

レイ・ハラカミ『広い世界 と せまい世界』(rings、2021/12/29)
2CD・全56曲。マスタリングは、レイ・ハラカミ作品の再発レコード盤のマスタリングを担当してきた山本アキヲが担当。ジャケットの油絵は、レイハラカミのジャケットやその他グッズなど一連のキャラクターの絵を担当しているtomokochin-pro(Tomoko Iwata)、ジャケットのデザインは、contrast 真家亜紀子が担当。
https://www.ringstokyo.com/rei-harakami-hiroisekaisemaisekai

Construction Syunsuke Sasatani

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