松丸契 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/松丸契/ Fri, 21 Oct 2022 06:04:48 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 松丸契 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/松丸契/ 32 32 AIと即興のテクノロジカルな共創——石若駿 × 松丸契 特別対談・後編 https://tokion.jp/2022/10/21/shun-ishiwaka-x-kei-matsumaru-vol2/ Fri, 21 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=149213 AIは即興・パフォーマンスにどのような可能性をもたらすのか。去る6月、山口情報芸術センター[YCAM]で自身の演奏を学習させたAIとのセッションを繰り広げた打楽器奏者・石若駿とサックス奏者・松丸契が語り合う対談企画・後編。

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打楽器奏者の石若駿と山口情報芸術センター[YCAM]がコラボレーションしたパフォーマンス・イベント「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」。

同イベントは、石若とYCAMおよびAI研究者らによる約1年半におよぶ共同研究開発を経て、今年6月4~5日の2日間にわたってYCAMで開催。当日のパフォーマンスでは、石若が自らの演奏データを学習させたAI(人工知能)を含むエージェントと即興でセッションを行い、2日目にはサックス奏者の松丸契も演奏に参加した。

2日目の公演終了後、石若と松丸に対談インタビューを実施。インタビューの前編では、松丸を共演者として迎えた理由から、試験的なライヴを挟んだクリエイションのプロセス、当日の公演で感じたというAIならではの時間感覚や人間の意志のようなもの、さらにソロの即興演奏における石若と松丸それぞれのスタンスまで伺った。

インタビュー後編では、クリエイションを通じた即興演奏の捉え方の変化や、今回制作したシステムを活用するためのアイデア、そして未来の音楽教育のあり方に至るまで語っていただいた。

前編はこちら

公演を通じて変化した即興演奏の考え方

——石若さんは初日のパフォーマンス後のトークで「(今回のクリエイションを通じて)即興演奏に対する考え方が変わった」と仰っていましたよね。具体的にはどのような変化がありましたか?

石若駿(以下、石若):今回、AIを含むテクノロジーを用いた共演者を作るにあたって、自分の即興演奏のやり方を言語化して学習させるという作業を行ったんですね。その時に「言語化したものは果たして本当に即興演奏と呼べるのだろうか」という問いに突き当たったんです。自分以外のプレイヤーが演奏できるということは、本当は作曲なんじゃないか? いや、そうはいってもやっぱり即興だ。いやいや、即興とは違うかもしれない……といったことを毎日考えるようになって。

自分が即興演奏をやる時は、「こういうサウンドを出したい」と考えて演奏することもあれば、特に何も考えずに音を出すこともある。狙って音を出そうとしたら偶然が良い方向に作用して、思いがけないおもしろい展開が生まれることもあります。そういう、いろいろなレイヤーが折り重なる中で即興演奏をしていることにあらためて気付いたというか、今回のクリエイションがそうしたことを細かく考えるきっかけになりました。

即興演奏をする時は、見たことのないものや聴いたことのないものをとても楽しみにしているんですよ。けど、それって一体なんなのか、即興演奏の時に何が起きているのか、どうしたらおもしろいことになるのか、以前はあくまでも感覚的に捉えていただけでした。いわばファンタジーだった。そうしたことを機械の共演者に教える過程で、自分の即興演奏を細分化して言語化するようになって、新しい問いもいろいろと生まれましたけど、とにかく解像度が高くなりましたね。

松丸契(以下、松丸):今回のこの企画に参加させていただいて、即興演奏とはなんなのか、人間が音楽の中で良いと感じる瞬間はなんなのかといったことについて、すごく重要な問いを投げかけてくれたような気はしています。以前、内橋和久さんが「良い即興」と「悪い即興」の違いについて厳しく仰っていたことがあって、その判断に共感するところがあったんですね。つまり「こういう即興は良くない」という漠然とした共通認識みたいなものは存在していると思うんです。

ただ、何が良くて何が悪いのか言語化するのは難しい。けれどその言語化の難しさが手法としての即興演奏の魅力なのかもしれないです。他のスタイルが明確化されている音楽はどちらかというと言語化しやすいですよね。特徴を抽出してアカデミックな世界で他人に教えたり、似たようなスタイルで演奏したりする、ということが比較的容易に可能です。即興演奏だとそれがなかなか難しい。にもかかわらず、その中でも「良い即興」と「悪い即興」があるので、それが一体なんなのか、僕はつねに考えています。

石若:内橋さんは「世の中にありふれているインプロの大半はデタラメだ」と言ってたよね。それは僕も共感できます。でも「良い即興」を誰かに教えるとなると難しい。例えば今回、「僕がこういう演奏をしている時はどのエージェントのどんな演奏が相応しいだろう?」ということについて、とても苦労しました。僕自身、共演相手が静かな演奏をし始めたからといって、必ずしも自分も静かになるわけではないですけど、相手に合わせて静かになることもあって……そういったことをどうしたら機械に教えることができるだろう、と。禅問答みたいですが(笑)、やっぱり演奏が始まったらどんな展開になるのか全くわからない状態を作りたくて。

ジャズのアドリブと自由な即興演奏の違い

——例えばジャズのアドリブも即興演奏ではありますよね。今回のような自由な即興演奏とジャズのアドリブだと、同じ即興演奏でも、やはり「他人に即興演奏のやり方を教える」という点で違いが生まれてくると感じますか?

石若:そうですね。全く違うと思います。学校で教えることができるようなジャズのアドリブは、先人たちが積み上げてきた膨大な量の音楽が背景にあって、「この曲ではこういうふうにソロを取ることができる」という資料がたくさんあるわけですよ。そうしたデータの部分を教えることでアドリブを取れるようになると思うんです。だけど自由な即興演奏に関しては、データをもとに曲に合わせて演奏するのではなくて、その時そのミュージシャンが何らかの音の響きを求めて演奏する音楽なので、データよりも演奏者個人にフォーカスされる。そこに大きな違いがあるのかなと思います。

松丸:演奏者自身が意識していなくても、ジャズは歴史にフォーカスした音楽ではあると思いますね。歴史的に培われてきた語法を使っていたり、曲にしてもコード進行の種類や傾向はある程度決まっています。ジャズのアドリブはそういった歴史の中にある。けれど自由な即興演奏の場合は、別に何かの歴史に捧げようとしているわけでも、歴史にフォーカスしたいわけでもなくて。もちろん場合によってはフリー・インプロヴィゼーションというジャンルをやりたいミュージシャンもいるかもしれないですけど、それはジャンルとしての即興演奏の話であって、自分がやる場合は違うなと。

石若:コンピュータと一緒に音楽を組み上げていく、作っていくということはすごく好きなポイントなので、自由な即興演奏でセッションができるようなデザインをしているという感覚はありました。例えば僕もリズムAIも露骨な8ビートを叩くことはない。厳密にはビートを生み出すこともあるんですけど、特定のビートを共有しながら音楽を作りたいわけではなくて。

松丸:石若さん以外のドラマーだったら、もしかしたら急にロック調のリズムが出てくるような展開があったかもしれないですよね。

石若:自由な即興演奏といっても、最初にある程度やりたい音楽の形を想定しながら作っていったんです。シンプルに「自分と共演したい」というアイデアを発展させていくことがベースにはありました。

「自分と共演したい」という発想

——松丸さんも「自分と共演したい」と感じることはありますか?

松丸:僕はあんまり感じないですね。サックスという楽器の問題かもしれないです。単純に音楽のテクスチャーとして、2本のサックスが同時に鳴っているのがあまり好きじゃないんですよ。それはジャズでもそうですけど、特に即興演奏のセッションだとサックスが2本あるとしつこく感じてしまう。

石若:ドラムだとツインドラムのフリーなセッションとか普通にありますからね。

松丸:そう、ドラムだと聴けるんです。空間に余白があるというか。高い密度でリズムが刻まれていたとしても空間には余白がある。サックスの場合はピッチの高低差があって、一つ一つの音が強く主張しながらずっと鳴り続けていくから、それが2人同時となると……。そういうこともあって僕はあまり「自分と共演したい」という発想にはならないのかもしれないです。

——自分と共演することのおもしろさについて、石若さんは「一つの理由は自分を客観視できるから」と仰っていました。例えば自分の演奏を録音して聴き返すことも「客観視」につながりますが、それとAIに学習させることにはどのような違いを感じますか?

石若:やっぱりリアルタイム性です。今回はそこにこだわってエージェントを作っていました。クリエイションの最初のほうの段階で、ブラックスワン(blkswn welfare centre)で一度演奏したあと、記憶だけを頼りに同じ時間の演奏を行って、それらの録音と映像を重ねてみるということをしたんです。そしたら2つの演奏に共通点のようなものが生じて、自分とのつながりみたいなものを感じた。それを過去ではなくて同時進行でインタラクティヴにやりたかったんですね。つまり僕の演奏を聴いてくれる耳を作りたかったというか。しかも聴いてくれるだけではなくて、僕の演奏を学習した状態でリアルタイムに反応するものにしたくて。

「他のミュージシャンにもシステムを活用してほしい」

——今回制作したAIのシステムについて石若さんは、いずれ別のミュージシャンに活用して欲しいとも仰っていました。

石若:今回はメタエージェント含めて6種類のエージェントを使いましたが、各エージェントに自分の即興演奏を学習させるという作業を他のミュージシャンが行った場合、どんな音になるのだろうということにとても興味があります。今回はこうなりましたけど、他のミュージシャンであればコンピュータで表現したい音も学習のさせ方も変わってくると思うんです。その時に、リズムAIやメロディAIはどんな音を発するのだろう、と。それに「こういう音を出すためにこういう楽器を作ってみたい」と、新しいエージェントのアイデアも出てくるかもしれない。

——先ほど松丸さんは「自分と共演したいとは感じない」と仰っていましたが、今回のシステムを活用してみたいという思いはありますか?

松丸:もちろん興味はあります。例えば自分の演奏したものが違う楽器から違う音で出てくるのであれば、すごくおもしろくなりそうだと思いますね。サックス同士で自分と共演することにはあまり興味がないんですけど、今回のパフォーマンスの最後にホワイエでやったように、僕の演奏データを使ったシンバルが自動演奏して、それと一緒にパフォーマンスをするということはとても刺激的でした。何かの楽器から取得したデータを別の楽器から出力するとなると、その別の楽器で普通はやらないようなことが出てくると思うんですね。そこには新しい可能性があるんじゃないかと。

サックスであれば、サックスを演奏するからこそ出てくるリズムの要素があるはずで、それをデータだけ抽出してドラムから出力すると、通常のドラムとは異質な演奏になるかもしれない。もちろん実際には入力と出力の間にもっと複雑な変換の過程があると思いますが、どっちにしても楽器の新しい可能性を発見するきっかけにはなる気がします。

「自分にできないことがあらためて見えてきた」

——今回のクリエイションは、パフォーマンスの場で石若さんが「自分と共演する」だけでなく、制作プロセスも含めて「自分自身を見つめ直す」機会になったところも大きな成果だったと言えるのではないでしょうか?

石若:それはすごく大きいです。終演後の打ち上げでも話したんですけど、パフォーマンスを終えて真っ先に思ったのは「もっと練習して奏法の幅を増やしたい!」ということでした(笑)。というのも、いろいろなエージェントと共演してみて、「こういう展開になったらこういう音を出したいのに、出す術がない」と感じるシーンがたくさんあったんですよ。AIやテクノロジーと一緒に演奏することで、自分にできないことがあらためて見えてきたというか。

それとリズムAIが出すパーカッシヴな音をずっと聴いていて、これを人間がもっとカッコよく演奏するにはどうすればいいのだろうとか、シンバルのフィードバック音でピッチは変わらずにシンセのフィルターをいじったようにじんわりと音色が変化していて、こういう音の変化を自分が出すにはどういう奏法ができるのだろうとか、そういったことをいろいろ考えましたね。僕ではない他のミュージシャンがやっても絶対に何か発見があるでしょうし、新しいアイデアや見たことのない景色が出てくるはずなんです。

あと、今回身に染みて感じたんですが、テクノロジーが発展していくスピードは想像以上に早い。制作を始めた2年前と今を比べただけでも、すでにできることが大きく変わっています。なのでこうしたテクノロジカルなコラボレーションを何らかの形で継続していくことで、数年後には数年後の新しい試みができるんじゃないかと。ただ、必ずしもテクノロジーにこだわらなくても、どんな音楽であれ、どこかの到達点を目指して終わりではなくて、何か違うものがゲットできないかずっと探していくことそのものがおもしろいんじゃないかとは思っています。それが今回はAIをはじめとしたテクノロジーや即興演奏が大きなトピックになっていたというだけで。

即興演奏から未来の音楽教育のあり方を考える

松丸:今回のように即興演奏について深く考えることは、特定のジャンルとか文脈の話ではなくて、音楽そのものについて深く考えることと同じだと思うんです。特に今回のパフォーマンスに関しては教育的な意味で重要な何かに発展し得るんじゃないかと感じました。音楽教育の現場でやることというのは決まりきったものが多くて、少なくとも僕が経験してきた範囲でいうと、あんまり音楽の核心に触れていないと感じることばかりだったんです。

もともとはいろいろなことに好奇心があった子どもも、そういう授業を受けてしまうと「音楽はこういうものだ」と固定観念が備わってしまって、苦手な音楽や難しいと感じる音楽、反対に聴きやすいと感じる音楽などが生まれてくると思うんです。けれど今回のパフォーマンスのようなものをもとに教育的なツールへと発展させることができたら、そうした固定観念から脱することができるかもしれない。

石若:たしかに。やっぱり今回の作品にはいろいろなレイヤーがあると思います。音楽をどんなふうに捉えているのかということから、即興演奏のやり方、そして音の選び方など、普段は説明しなくてもできてしまっている部分があるんですが、クリエイションの時にそうした複数のレイヤーをそれぞれ細かく説明しないといけない状態になる。そうした説明の仕方が音楽教育にも導入できると、小さな子どもにとっての音楽との関わり方も変わってくるだろうなと思います。それは例えばリコーダーでドレミを吹けるようになるとか、みんなで合唱ができるとか、そういうことの前の段階の話で。

松丸:そうですね。「これは歴史的に重要な曲です」みたいな話も、そうしたことの後の段階で教えられると良いと思います。やっぱり音楽の良いところの一つは想像力を掻き立てたり広げたりできるところだと思うんです。それは音楽だけの想像力ではなくて、他のあらゆるものに対して想像力を働かせることにつながるというか。そこで想像力を抑え込んでしまうような音楽教育があると、あらゆるものごとに関しても、そういう思考の人に育ってしまう可能性がある。

僕が即興演奏をやり始めたのも、ある意味では、子どもの頃に備わってしまった固定観念から抜け出すための一つの手段でした。僕の場合はパプアニューギニアの閉ざされたコミュニティで、だいぶ偏った環境の中で育ったんですけどね。けれどそこで固まってしまっていた思考を別の方向に働かせようとした時期があって、それと同時に即興演奏にも取り組み始めたんです。

石若:こうしたパフォーマンスを発表することで未来の音楽教育のあり方を考えるきっかけになるのだとしたら、やっぱり自分自身で発表する機会を作っていくことも大事だなと思います。僕は小さい頃に森山威男さんのフリージャズに出会って、その後、オーケストラや現代音楽などの勉強もしてきましたが、今でも根本にあるのは自由な音楽なんです。そうした生き方をしてきた以上、これからも自分の音楽をしっかりと発表していかなければならないし、そのための機会を作っていく使命があるなと、あらためて感じています。

石若駿
1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。 リーダープロジェクトとして、 Answer to Remember、SMTK、Songbook Trioを率いる傍ら、くるり、CRCK/LCKS、Kid Fresino、君島大空、Millennium Paradeなど数多くのライブ、作品に参加。 近年の活動として、山口情報芸術センター[YCAM]にて、音と響きによって記憶を喚起させることをテーマに、細井美裕+石若駿+YCAM新作コンサートピース「Sound Mine」を発表。
オフィシャルサイト:http://www.shun-ishiwaka.com
Twitter:@shunishiwaka

松丸契
サックス奏者・作曲家。1995年生まれ。パプアニューギニアにある標高1500メートルの人口400人程度の村で育ち、そこで高校卒業まで楽器を独学で習得し、2014年に米バークリー音楽大学へ全額奨学金を得て入学、2018年に同大学を首席で卒業。同年日本へ帰国、以来東京近辺を中心に、石橋英子、大友良英、Dos Monos、浦上想起など様々なアーティストと共演を重ねる。バンドSMTK(石若駿・マーティホロベック・細井徳太郎・松丸契)で『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』、『SIREN PROPAGANDA』、m°fe(高橋佑成・落合康介・松丸契)で『不_?黎°pyro明//乱 (l°fe / de°th)』、自身名義による1stアルバム『Nothing Unspoken Under the Sun』等の作品をリリース。レコーディングやバンド活動等と並行して90分の即興演奏を通して空間と時間と楽器と身体の関係性を探る「独奏」も定期的に開催している。2022年10月19日に2ndアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』をリリースする。
オフィシャルサイト:https://www.keimatsumaru.com
Instagram:@kmatsumaru
Twitter:@keimatsumaru

Photography Yasuhiro Tani / Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

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AIと即興のテクノロジカルな共創——石若駿 × 松丸契 特別対談・前編 https://tokion.jp/2022/08/31/shun-ishiwaka-x-kei-matsumaru-vol1/ Wed, 31 Aug 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=142148 AIは即興・パフォーマンスにどのような可能性をもたらすのか。去る6月、山口情報芸術センター[YCAM]にて自身の演奏を学習させたAIとのセッションを繰り広げた打楽器奏者・石若駿とサックス奏者・松丸契が語り合う対談企画・前編。

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ジャズやポップスをはじめ特定の音楽ジャンルに留まらず多方面で活躍している打楽器奏者、石若駿。今年6月上旬、メディア・テクノロジーを駆使した先端的な表現の探求の場として知られる山口情報芸術センター[YCAM]で、彼がYCAMとコラボレーションしたパフォーマンス・イベント「Echoes for unknown egos―発現しあう響きたち」が開催された。

6月4~5日の2日間にわたって行われた同イベントは、「自分自身と共演したい」という石若のアイデアを軸に、彼の演奏データを学習したAI(人工知能)を含むエージェント(石若の演奏データを記録し、演奏の特徴を抽出、そのデータに基づいて自律的/半自律的に演奏する装置)と石若が即興でセッションするというもの。2日目はサックス奏者の松丸契も参加し、初日と同じく会場に設置されたサウンド・インスタレーションのような多種類の自動演奏楽器とインタラクティブな即興を繰り広げた。

YCAMおよびAI研究者らを交えた約1年半におよぶ共同研究開発を経て実現に至った今回のイベント。「AIとの即興」は、果たしてどのような可能性を拓いたのだろうか。公演直後の石若と松丸に所感を伺った。

共演者として松丸契を迎えた理由

——今回のパフォーマンスでは石若さんによる「自分自身との共演」が大きなテーマとなっていました。そうした中、なぜ共演者として松丸さんを引き入れたのでしょうか?

石若駿(以下、石若):最初のアイデアとしては、2日間のパフォーマンスを通じて「石若駿のビフォー/アフター」をそれぞれ見せるというストーリーを考えていました。つまり初日と2日目で僕がどう変わるのかにフォーカスしようと思っていたんですが、その「アフター」のところが「変化した後の僕と他の奏者が共演する」という案にシフトしていったんですね。というのも、僕は1年以上にわたって今回の作品制作をYCAMと続けてきて、ずっとコンピュータと一緒に演奏するという体験をしていたので、そこに僕とは別のアーティストが参加して演奏したらどうなるのか、そこで何かまた新しい発見があるんじゃないかと思ったんです。

それで、最先端のテクノロジーを使った今回のような作品に興味がありそうなアーティストは誰だろうと考えた時に、真っ先に思い浮かんだ名前が松丸契でした。これまで数え切れないほど共演してきましたし、契のカルテットに僕が参加していたり、SMTKを一緒にやっていたりもするので、契がやろうとしている音楽や、その音楽を実現するための方法などに僕自身とても共感していて。僕と音楽観が近い人に関わってもらいたいという思いもありましたし、もしこういう機会が契にあったら、彼はいろいろなことを考えるだろうから、そこからさらに大きな発展につながるかもしれないという期待もあったんです。

これは契に聞きたかったんだけど、今回のクリエイションを通して、俺の演奏のやり方って変わったと思う?

松丸契(以下、松丸):どうなんだろう。まだわからないかなあ。ずっと一緒に演奏してるから変化に気付けていないのかもしれない。

石若:自分としては、めちゃくちゃ変わったなと思っているんですよね。

松丸:もっと時間が経ってから振り返った時に、今回のクリエイションが起点になって変わっていったというのは結果的に見えてくるかもしれないですけど、今はまだ明確には言えないですね。それは変化していないと思っているからではなくて、たとえば一緒に生活している人が太ったり痩せたりしてもあんまり気付かないようなことに近いのかもしれないです。

「時間経過の体感がいつもと違う」

——普段のデュオ・セッションと、今回のAIを含めたエージェントとの共演というのは、感覚的に違いはありましたか?

石若:やっぱり相手が人間ではないので、リハーサルの時に契と「時間経過の体感がいつもと違うね」という話はしていました。僕らはAIと一緒に何かを作っているわけですけど、メタエージェントが指令を出して計5種類ある個々のエージェントが切り替わることによって、作っていたものが途中で急に終わってしまったり、「まだ続けなきゃ」という気分にさせられたりする。その起伏みたいなものが普段の人間との演奏とは全然違うように感じました。

松丸:石若さんとはもちろん、他のいろいろな方ともデュオの即興セッションをこれまでたくさんやってきましたけど、今回のはデュオではなくて、限りなくトリオで演奏している時の感覚に近かったですね。デュオとトリオだと感覚的にまったく別物になるんですよ。2人しかいないと決定権が自分か相手か、どちらかになるじゃないですか。けれどそこに3人目が加わると、単純にオプションがもう1個増えるだけではなくて、関係性の幅が急激に増えるんです。ただ、3人以上になると、4人でも5人でもあんまり大差がない。ソロ、デュオ、トリオ以上で、それぞれ別の種類の音楽になると思っていて、今回はデュオではなくて3人でやる時の即興セッションの感覚に近かったです。

石若:たしかにそうだね。

松丸:トリオで演奏するということは、その内部で3パターンのデュオが生まれる可能性がある。なので二次元的なものが三次元的になるぐらい、デュオとトリオは大きく違う感覚になります。意志を持って相手と関わる瞬間や、並行して何かしらのテクスチャーがある状態が一気に複雑化するんです。今回のパフォーマンスは人間の奏者は僕と石若さんの2人ですけど、メタエージェントももう1人の奏者として存在していたというか、あくまでも3人で一緒に何かを作っていく感覚でした。

試験的ライヴを経て、より「自由」な演奏へ

——本番の1ヵ月前には渋谷公園通りクラシックスで松丸さんを交えた試験的なライヴも実施されました。そこから本番に向けてどのようにブラッシュアップしていったのでしょうか?

石若:クラシックスでのライヴはあくまでもデモンストレーションに近い実験でした。1stセットはそれぞれのエージェントと一緒に演奏するということにフォーカスして、2ndセットではより音楽的な流れができるように、その時々で動作するエージェントを裏で人間が切り替えるということをしたんですが、その結果を踏まえて、本番ではエージェントの切り替えをコンピュータが行うためにメタエージェントという上位の存在を用意する形に仕上げていきました。

松丸:それと、クラシックスの時は僕の演奏データがエージェントに反映されていなかったんです。なので本番のようなトリオでの即興演奏という感覚にはならなくて。僕と石若さんの間、石若さんとエージェントの間はインタラクティブなデュオの状態が生まれるんですけど、僕とエージェントの間は一方通行の状態でした。間接的には影響を与え合っていたかもしれないですが、直接的にトリオの状態でコミュニケーションを取ることはなかったので、それが本番とは決定的に違いましたね。本番では僕がサックスで吹いた内容もメタエージェントの中に反映されていました。

石若:このクリエイションは本番に向けてどんどん自由に演奏できるようになっていったのがすごくよかったですね。クラシックスのときはシーンごとに演奏を変えなきゃいけないことがあって、反対に手法を教えすぎて、エージェントが人間の側に寄り添いすぎているなと感じるところもありました。

松丸:クラシックスでの試験的パフォーマンスがなかったら、もしかしたら本番で少し消化不良になっていたかもしれないです。

メタエージェントに感じる人間の意志のようなもの

——本番中、メタエージェントに人間の意志のようなものを感じることはありましたか?

石若:めっちゃたくさんありました。やっぱり、そのプレイヤーにやりたいサウンドがあるかどうか、ということが意志を感じさせることにつながるんだと思います。僕であれば、ビートのある音を出したい時もあれば、ランダムな状態で偶然を大事にアイデアを作る時もありますし、非常に静かな音を出したい時もある。そうしたいくつかの出したい音の表現を、今回は各エージェントに役割としてあらかじめ持たせておいて、それら全体を俯瞰的に見たメタエージェントが「今こういうふうにサウンドを出したい」と、意志を抱いて演奏するかのように音楽を作っていく。いわばエージェントにも「耳」を持ってもらうようにしたんですね。

松丸:そうした意志のようなものはクラシックスの時は感じられなかった要素ですね。本番でメタエージェントを導入したことで、演奏している感覚がこんなに違うのかと少し驚きました。一緒に音楽を作っている感じがあったので。

——エージェントの中でも打楽器音を出す「リズムAI」は石若さんの演奏に一番近い自動演奏楽器だったと思いますが、AIが出す音に「石若駿らしさ」を感じることはありましたか?

石若:ありましたね。初日は特にスウィング・フィールを感じました。リズムAIに学習させた時に、テンポと小節数を決めて、ローランドのV-Drumsという電子ドラムを使っていろいろなパターンでスウィング・フィールを試したんです。自分の癖みたいなものを思いつくままに何パターンも学習させて。本番でエージェントの演奏を聴きながら「ああ、こういうスウィング・フィールを学習させたな」と思い出すこともあって。

松丸:リズムAIは特にそうですけど、音の密度やその密度の変化みたいなところに、石若さんの即興演奏に近い要素を感じるなと思いました。ずっと同じ密度で即興演奏をするわけではなくて、まるで石若さんのように幅があるというか。リズムの密度がすごくまばらな時もあれば、1箇所に集中している時もあるし、そうしたまばらなものと密集しているものが一定の周期で繰り返される感じも石若さんの特徴として反映されていたのかもしれないです。

人間らしさが希薄なサンプラーの響き

——人間ではない共演者がいると感じたシーンはありましたか?

松丸:「今共演しているエージェントたちは人間ではないぞ」ということはつねに頭の中に意識としてありました。ただ、その中でも意外だと思ったのがサンプラーでした。僕たちの過去の録音をスピーカーから断片的に再生するサンプラーのエージェントがあって、録音音源なので人間らしさが出やすいはずなんですが、僕たちが演奏した音源をそのまま使うからこそ、むしろ人間らしさが希薄だったんですね。というのも、音のチョイスの仕方や出し方にあまり人間味が感じられなくて。

石若:最初にサンプラーを使おうと思ったのは、生の感覚というか、人間ならではの微妙な音の揺らぎや質感の変化を出せないかというアイデアがきっかけでした。もともとはそれを目指していたのに、実際にやってみたら逆に人間らしくないサウンドに聴こえたというのはおもしろかったです。

松丸:もしサンプラーを使うミュージシャンの演奏をデータ化して学習させていたら、エージェントが再生する音のチョイスの仕方も人間らしく聴こえていたのかもしれないですね。今回はあくまでもリアルタイムの演奏と似た音の特徴を持つシーンを過去の音源から抜き出して、サックスやドラムのサンプリング音をスピーカーから再生するというやり方だったので。

——サンプラーの音はややローファイな質感で、同じ楽器でも一聴してサンプラーだとわかる響きになっていましたね。

石若:そうです。他のエージェントはどれも物理的に楽器を叩いたりしてその場で音を出す仕組みになっていましたけど、サンプラーの場合はスピーカーから再生するので音源に加工を施すことができる。なので、リアルタイムで僕らが出している生音と混同しないようにするために、サンプラーの音にはあえてエフェクトをかけてサウンドを変化させていました。

見たことのない景色を求めて

——今回のイベントは石若さんのソロ・パフォーマンスの延長線上にある試みとも言えます。通常のソロの即興演奏で突破したいと感じてきた壁などはあるのでしょうか?

石若:やっぱり自分に飽きてしまう時ですね。演奏しながら前に見た景色と一緒だなと感じてしまうと、ふと気付くと自分に飽きてしまっていることがある。そうならないために、いろいろなアイデアを試し、耳を敏感に働かせて新鮮だと感じる状況を作っていく、ということが僕の一つのやり方なのかもしれないです。つねに見たことのないところに行きたいと思ってます。

松丸:それでいうと僕の場合、飽きた先にも何かがあるんじゃないかと考えることがあります。どこまで同じアイデアを繰り返すことができるのか、興味があるんです。本当に聴き飽きた後って、だんだん感覚がバグり始めるというか、繰り返しすぎてこの先どうなるかわからなくなっていくようなこともあって。なので、例えばソロの時にまったく同じフレーズを何回繰り返せるのか考えたりします。そういう辛抱強さみたいな要素も即興演奏では重要な役割があるのかなと。ソロだけではなくて、相手によってはデュオでそうしたことを探求する場合もありますね。

石若:僕もひたすら繰り返し叩き続けるというやり方に挑戦していた時期がありました。ずっと同じパターンと手順で叩き続けていると、次第に耳が敏感になっていく。そうするとアクセントの微妙な変化も感じ取れるので、ここを伸ばしたら何かが見えるかもしれない、と探っていくようなやり方です。ただ、そこには手順とパターンがあって、決められた動作を続けることで何か見えるものを探しているので、即興演奏でありつつコンポーズされているなと思って、曲名をつけてコンサートピースとしてやっていました。最近はそうではないやり方が多くなってます。ごく一般的な楽器のキャラクターや、役割、特色によっても即興演奏で求めるものが違うのかもしれないですね。ドラマーの場合、普段の演奏ではビートを生むために基本的に決まったパターンをずっと繰り返していることのほうが多い。そういう状態から脱出するために、即興演奏ではドラムの表現の幅をいろいろと広げようとするところがあるんじゃないかと。

松丸:たしかに。そういう意味ではサックスは逆で、普段は特定のポイントでメロディを吹いたり、アドリブでソロを発展させたり、繰り返しではないことのほうが多いです。もちろんサックス奏者にもいろいろな人がいますけど、あくまでも僕の場合は、そういった楽器の特性もあって、即興演奏をやる時に同じアイデアを繰り返すことに魅力を感じるのかもしれないですね。

後編に続く)

石若駿
1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。 リーダープロジェクトとして、 Answer to Remember、SMTK、Songbook Trioを率いる傍ら、くるり、CRCK/LCKS、Kid Fresino、君島大空、Millennium Paradeなど数多くのライブ、作品に参加。 近年の活動として、山口情報芸術センター(YCAM)にて、音と響きによって記憶を喚起させることをテーマに、細井美裕+石若駿+YCAM新作コンサートピース「Sound Mine」を発表。
オフィシャルサイト:http://www.shun-ishiwaka.com
Twitter:@shunishiwaka

松丸契
サックス奏者・作曲家。1995年生まれ。パプアニューギニアにある標高1500メートルの人口400人程度の村で育ち、そこで高校卒業まで楽器を独学で習得し、2014年に米バークリー音楽大学へ全額奨学金を得て入学、2018年に同大学を首席で卒業。同年日本へ帰国、以来東京近辺を中心に、石橋英子、大友良英、Dos Monos、浦上想起など様々なアーティストと共演を重ねる。バンドSMTK(石若駿・マーティホロベック・細井徳太郎・松丸契)で『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』、『SIREN PROPAGANDA』、m°fe(高橋佑成・落合康介・松丸契)で『不_?黎°pyro明//乱 (l°fe / de°th)』、自身名義による1stアルバム『Nothing Unspoken Under the Sun』等の作品をリリース。レコーディングやバンド活動等と並行して90分の即興演奏を通して空間と時間と楽器と身体の関係性を探る「独奏」も定期的に開催している。2022年10月19日に2ndアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』をリリースする。
オフィシャルサイト:https://www.keimatsumaru.com
Instagram:@kmatsumaru
Twitter:@keimatsumaru

Photography Yasuhiro Tani / Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

The post AIと即興のテクノロジカルな共創——石若駿 × 松丸契 特別対談・前編 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

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