蓮沼執太 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/蓮沼執太/ Tue, 07 Nov 2023 01:18:40 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 蓮沼執太 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/蓮沼執太/ 32 32 蓮沼執太が新作アルバム『unpeople』に辿り着くまで 15年ぶりのインストゥルメンタル作品を語る https://tokion.jp/2023/11/06/shuta-hasunum-interview/ Mon, 06 Nov 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=214342 蓮沼自身が純粋に「自分のために作った」という本作。制作のプロセスや心境などを語ってもらった。

The post 蓮沼執太が新作アルバム『unpeople』に辿り着くまで 15年ぶりのインストゥルメンタル作品を語る appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>

音楽家・蓮沼執太がインストゥルメンタル作品としては『POP OOGA』(2008年)以来、実に15年ぶりとなるソロ・アルバム『unpeople』をリリースした。蓮沼自身が純粋に「自分のために作った」という本作には、ジェフ・パーカーや小山田圭吾(Cornelius)、灰野敬二、グレッグ・フォックス、コムアイ、新垣睦美、石塚周太、音無史哉といった国内外のミュージシャンがゲスト参加。決して1つのところに留まらない蓮沼の雑多な音楽性がそれぞれの楽曲に惜しみなく注がれており、アンビエント、テクノ、ジャズ、現代音楽、フィールドレコーディングといったジャンルを軽やかに横断する越境的な楽曲が並ぶ静かな傑作となっている。『unpeople』に辿り着くまでの環境や心境、制作のプロセスをじっくりと聞いた。

――15年ぶりのインストアルバムということですが、個人的にはそんな印象がまったくなくて。サウンド・インスタレーションやサウンドトラックなどを含め、さまざまなインスト音楽に触れる機会があったからかもしれないです。

蓮沼執太(以下、蓮沼):たしかにそうかもしれません。自分以外に作っていた音楽は、そのプロジェクトや人のために作っていたので、純粋に僕のではないんだよな、というのがあって。自分発信で、このアルバムのために作ったとなると、だいぶ久しぶりになります。今回のは作者のエゴですよね。

――純粋な自分発信ってどういうことなんだろうとなりますよね。

蓮沼:制作中もそこは考えましたし、今も答えは出ていません(笑)。でも、その結果が今回のアルバムなんだと思います。

――活動初期こそ誰に聴かせるでもなく作り始めたのだと思うんですけど、ある時期以降は、誰かとコラボしたり、あるいは何かしらのオファーがあったりして作り続けてきたわけですよね。

蓮沼:そうですね。フィルの活動もありますし。

――“蓮沼執太フィル”と自分の名前を冠してはいるものの、それは当然、自分1人の音楽ではないと。

蓮沼:そう、そこにぶち当たったんです。フィルの音楽も、フィルのために曲を書いているんです。それは自分の音楽かと聞かれたら、いやぁ、そうではないのかなと。近年は、音楽の方向性もみんなと話して決めているし、みんなで作っています。あえてどこかで境界線を引くのであれば、やっぱり自分のものではないんです。このフレーズは彼/彼女が弾く/吹くから、それを思い浮かべながらハーモニーを作って、となっていくわけで。作曲者は自分だけど、純粋に自分のものかというと、そうではないなと。

フィールドレコーディングにおいて大事なのは「録ることよりも聴くこと」

――蓮沼さんは普段からフィールドレコーディングしたり、音のスケッチを記録したりしていますよね。その瞬間というのはとてもパーソナルなものじゃないかと思うんです。いつか何かで使えるかなと思って録っているんですか?

蓮沼:いつか使おうとかはまったく思ってないですね。例えば、事前に器楽に合わさるような素材を録ろうとかは考えていないです。だから、フィールドレコーディングこそ自分のための音、というのはあるのかもしれないです。フィールドレコーディングで1番大切なのは録ることよりも聴くことだと思っています。

――たしかにそうですね。

蓮沼:何を発見するかが大切な行為だと思っているから、音が鳴っていて、自分がそこからどういう音を聴くか、というスタディというか活動をしているんだと思うんです。ただ、例えばフィールドレコーディングを5時間録ったら、5時間聴かなければいけない。若い頃は長時間の録音もやってました。だけど、聴く時間も大切なのでむやみには音を録れないんですよね。いわゆるフィールドレコーディニストや文化人類学的なアーカイブ行為ではなく、美術作品作りとして録るというのが近年は多いです。なので、それが楽曲用の音源のためかと言われたらそうじゃないかも。自分の制作作業の動きを音楽かアートかで分けたいわけではないですが、フィールドレコーディングはアートの実践としてやっている方が強いかもしれないです。あと、そもそも世の中のレコーディングは全部、フィールドレコーディングなんじゃないかなと思うところもあって。

――それは楽器の響きとかも含めて

蓮沼:そうです。今回、色んな時間や場所でレコーディングしてきたんですけど、結局、レコード(記録)するという意味ではほぼ一緒で。いま会話をレコーディングしていて、ここで紙をくしゃくしゃにしたりすると、その音が記録されます。この紙の音もフィールドレコーディングだし、こういった会話の記録もそう言えると思うんです。

――その境界線も滲んでいくなか、パーソナルな“音楽作品”ができていったわけですよね。このタイミングでアルバムを作るに至ったのはどうしてなのでしょうか。

蓮沼:今年出したフィルのアルバム『symphil』(2023年)にも言えることなんですけど、そもそも、どういった楽曲の方向性でも自分の音楽としてオリジナリティを自然と出せるという感覚があって。例えば、全曲歌ってもいいわけです。でも、今回こういうアルバムの方向性を選んだというのは……明確な目的や理想があったわけでも無かったんです。様々なコミッションで仕事をしていて、1週間空いたら、何か出てくるといいなという感じでちょっと作業して、断片的なものが生まれるんです。それでまた違うプロジェクトが始まって、その3ヵ月後、前に作ったのを聴いてみたら、「なんだこれ?」となるんですね(笑)。もしくは、3ヵ月後の自分は、ここをこうすればこうなるんだとわかる時もある。それでまた作っていくんですけど、それって純粋な自分の記録になっているんですね。この繰り返しをしていたら、それらに陽の目を見せたいと思い始めました。これは音楽に限った話じゃなくて、いまはあらゆるジャンルで、嘘偽りなく自分が純粋に作ったもの、という作品が作りづらくなっている時代なのかもしれません。

――ああ、特に職業として長く続けるとそうなのかもしれないですよね。

蓮沼:音楽に関しては、かたやBandcampがオープンになっているし、TuneCore経由で発信できるので、一概にこうとは言えないですけど、今を生きる作家として皮膚感覚でそういうふうには感じます。フィルですら、もちろん自分のやりたいプロジェクトではあるけど、まずメンバーのことを第一に考えてクリエイションをしていくので、順番で言うと自分のことは最後に考えているところがありますし。

――メンバーのスケジューリングから作曲が始まっていると言っていましたし(笑)。

蓮沼:そうですね。これは比喩ではなくて、何も音楽に落とし込むだけが作曲ではなくて、スケジュール管理のように状況を作り上げていく行為も作曲だと思って自分でやっています。色々な条件のなかでどうやってクリエイションしていくか、みたいなものの1つの形が今回のアルバムなのかもしれないですね。

――純粋に自分のための物作りに向かった結果、1人で完結していないところが蓮沼執太らしさと言いますか、多くの曲でゲストが参加しています。曲の形が見えてきた時に、ここで誰々に演奏してもらったらおもしろくなるんじゃないか、ということでオファーしたという流れでしょうか。

蓮沼:その通りです。それも結局、自分のためなんですね。ジェフ・パーカーに弾いてもらいたいと思った時に、自分でコンタクトして、音を送って、即興で弾いてもらったのを戻してもらって。そうすると、やっぱり驚くわけですよ。「こう来たか!」って。僕はそういう刺激が一番好きみたいです。完璧なスコアを書いて、指示した通りに演奏してくれっていうのが通常のオーダーだと思うんですよ。でも僕は、聴いて反応してもらったのを返してくれ、というくらいのルールのみで、何が返ってくるかわからない方がおもしろいと思っているんです。共同作業なんだけど、それは自分が一番楽しい。

――シンプルにびっくりしたいと。

蓮沼:そうそう、驚きたいんです。自分の作曲とは違うところへ飛んでいきたいと思った時に、自分の指定したメソッドじゃなくて、自分の思いつかないようなことが入ってくるほうが僕自身盛り上がるんですよ。曲自体が違うところに行っちゃうくらいがいい。それは確実にフィルでの経験があるからで。

――フィルはそれこそ譜面を書いて演奏するものだから。

蓮沼:もちろんそれでもライブでは変容してくので、1つの形として成り立っているんですけど、そうではなくて、『POP OOGA』(2009年)を作っていた頃の無邪気さのようなものを自分に期待していたんだと思います。

――ジェフ・パーカーとの「Irie」やコーネリアスとの「Selves」は、ファイル上のやりとりがあり、ゲストの方が即興演奏をしているのだと思うのですが、作曲されたようにも聴こえるんですよね

蓮沼:それは、僕の曲の作り方がそうだからだと思うんです。いつもゴール設定をして曲を作ってないんですよね。鍵盤に向き合ってああでもないこうでもないって作曲するのではなくて、適当に物を振ったり、叩いたりした音から始めていき、そこに即興的に演奏をしたり、録音素材をマイナスしていったり、という感じで段々と音楽が構築されていくんですね。その工程の間にゲストが来たという感じなんです。なので余白が常にあるんです。

――なるほど、それはわかりやすいですね。

蓮沼:小山田(圭吾)さんのは戻ってきたら完璧だったので、そのまま完成になっちゃったんですけどね(笑)。

――音無史哉さんをフィーチャーした「chroma」や「Sando」(「Sando」はコムアイも参加)は即興のセッションのようには聴こえなくて。

蓮沼:音無さんのは譜面を書いてます。そういうアプローチをしている曲もありますよ。「Sando」もセッションというよりは、ある程度旋律を作っておいて、一緒にスタジオに入って、ああだこうだ言いながら音無さんと一緒に作っていきました。

――オンラインじゃないやりとりのパターンもあるわけですね。

蓮沼:ありますよ。灰野(敬二)さんとはよくリハーサル・スタジオでセッションしているんですけど、珍しくギターを持ってこられたので、これはおもしろそうだなと思って録ってみました。それが実際、おもしろくて。たしか灰野さんが唯一楽器をたくさん持ってきた日だったんですよ。

――フルートの音も入っていたりしますね。

蓮沼:笛のコレクションもすごいんです。それこそフィールドレコーディングとして、マイク位置を定めてレコーダーの録音ボタンを押したという感じです。その素材で僕がおもしろいなと思ったところをピックアップして再構築して、その上でさらに楽器を弾いてます。

――「Vanish, Memoria」はもともとフィル用に書かれた曲ですか?

蓮沼:そうです。フィルで演奏出来たらいいなと思ってたんですけど、色々なタイミングでできなかったので、ドラムをグレッグ(・フォックス)にお願いして、ギターを石塚(周太)くんにお願いしました。すべてリモート録音です。

――新垣睦美さんは、ツアーで回った時に知り合ったんですか?

蓮沼:『メロディーズ』(2016年)を出した時に全国ツアーをして、その土地在住のミュージシャンンとコラボレーションで新曲を作って披露する、ということをやっていて。沖縄では新垣さんや、Awichさんとか沖縄のラッパーのみんなとやったんですよね。その時から新垣さんはジャンルに関わらずいろいろな音楽が好きということを知って、そういう音楽を聴き取る耳も持っているのがおもしろいなと感じていました。音無さんにも通じることなんですけど、古典芸能としての伝統音楽をやっているというよりも、その土地や楽器の持っている歴史と今生きている自分を現代的な形で接続している人だなと思っていたんですね。また一緒にやってみたいと思っていたので、この機会にお願いしました。

枠にとらわれない、自分に嘘をつかない制作

――形としてはビートものやコラージュ、アンビエントに近いもの、あるいはそれらが混ざっているものもあるし、作曲方法は今話してもらったようにさまざまあって、かなりバラバラなんですよね。ただ、想像していたよりもずっとアルバム作品として完成していると感じました。

蓮沼:配信で1曲ずつ出していた時は、ミックスまで僕がやって、マスタリングのエンジニアを毎回変えてたんですよね。なので、曲の独立性みたいなものはアルバムよりも際立っていたと思います。それを経て、こうして1枚にする時に、1曲1曲バラバラでおもしろいというふうにするか、アルバムとしてまとめるかという選択肢が出てきた時に、やはり後者かなと。それでエンジニアの葛西さんのところに行って、全曲の音のトリートメントをしてもらいました。その上でマスタリングをして、アルバムとして1枚の世界観が成り立つようにしました。スケッチ的な作り方をしている部分も多いんですけど、単なるスケッチじゃなくて、これはこういうアルバムなんです、という形にしたかったんだなと自分でも思います。

――長いキャリアを知っている人からするとすべての要素が入っているように感じますが、比較的最近の蓮沼さんを知った人からすると意外に感じる作品かもしれないですね。

蓮沼:ああ、僕はわりとパブリックイメージみたいなものを平気で壊せるというか、まったく気にしないので(笑)。それはいいも悪いもあって、もうちょっとコントロールできていれば……というのもあるんですけどね。でも、こういう生き方もあると思ったほうがいいですし。

――自分に嘘をつかずに興味を持てることをやるというのは、結局は音楽を続ける上でも1番大切なことなのかなと思います。

蓮沼:そこですよね。だから灰野さんやヤン富田さんのような大先輩達と一緒に音楽をやらせてもらっているのかもしれないです。灰野さんは大変優しい方ですけど、音楽に向かう姿勢に対してはとても厳しい人です。ヤン富田さんとも2021年4月のオーチャードホールでのコンサートで共演させていただいた以降、僕の中で空間にある音の捉え方が変わりました。

――『unpeople』はフィニッシュまで自分のためにできた作品になりましたか?

蓮沼:最後までいけたはずです。でも、今日考えていたんですけど、アルバム最初の曲の「unpeople」と最後の「Chroma」が完成したのが制作の最後でした。つまり、いよいよアルバムになるんだと思って作っていたことに気づいたんですね。特に「unpeople」は、今の自分のモードをわかってもらえるといいなと思って作りました。「Chroma」はフィールドレコーディング(ニューヨーク郊外にあるジョン・ケージが住んでいた森の音)で終わるんですけど、いわゆる器楽音じゃない自然の音で終わっている。さっきのスケッチではないという話ともシンクロしますが、制作の最終工程では構成を考えていて、アルバム作品にしているんだなと思います。

――たしかに「unpeople」は切迫したリズムからノンビートに展開していくユニークな曲で、これは最初にカマしにきているなと感じました(笑)。

蓮沼:ははは(笑)。言いたいことって最初に、しかも直接的に言わないと伝わらないです。こういうようなアルバムを象徴するものを9曲目くらいに潜ませる構造は今の時代、もう成立しないと思うんです。そこまで辿り着かないというか。だから1発目からこれが言いたいんですということを言って、そこからスタートしていく構成になったのは現代だからでしょうね。もし配信とかサブスクが無くて今もレコードだけの時代だったら、構成は変わっていたかもしれないですね。

――パーソナルではあるけれど、かといって時代と無縁ということではないんですね。最後にこれは余談になりますが、ブルックリンから東京に拠点を移したのはどんな心境の変化があったのでしょうか?

蓮沼:野音公演(『日比谷、時が奏でる』、2019年)のあとくらいに東京をベースにしました。その後にコロナ禍になりました。引っ越してきた当時(2014年)と比べて、ニューヨークにある芸術のすべてが輝かしく見えるわけでもなくなってきて。もちろん日本と比べても芸術の裾野は広いし、深いんですけどね。東京とブルックリンを行ったり来たりするような2拠点の活動にも飽きてしまってました。結局、製作者は自分自身でなんですよね。居場所の環境によって受ける影響は変わるとは思うんですが、自分自身の核は変わらない気がするんです。

――たしかにその意味ではどこにいても変わらないし、実際、日本にいながらジェフやグレッグといったアメリカ在住の人達とも音楽を作れているわけですからね。

蓮沼:本当にそうですよね。そういうことを考えていた時期に、ちょうどコロナになって、しかも家賃も高くなってきて、同世代のペインターとかパフォーマーの友達も自分の国に帰っちゃったんですね。色んな国の30代中盤以降の人が将来について悩んでいましたね。僕も色々考えた上で、1回日本に戻ってみようかな、という感じでした。日本は島国だけど、東京も十分にインターナショナルで、世界のなかの1つの場所なんですよね。それも大きかったのかなと思います。

Photography Kazushi Toyota

『unpeople』
2023年10月6日(金)リリース
参加アーティスト:ジェフ・パーカーや小山田圭吾(Cornelius)、灰野敬二、グレッグ・フォックス、コムアイ、新垣睦美、石塚周太、音無史哉ら

『unpeople』特設サイト
Virgin Music Label & Artist Services

The post 蓮沼執太が新作アルバム『unpeople』に辿り着くまで 15年ぶりのインストゥルメンタル作品を語る appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
前に進むために、変化する——蓮沼執太が語る、「フルフィル」の誕生と新作の背景について https://tokion.jp/2020/10/28/move-forward-shuta-hasunuma/ Wed, 28 Oct 2020 06:00:33 +0000 https://tokion.jp/?p=9899 蓮沼執太が率いるポップ・オーケストラが、総勢26名の「フルフィル」へとアップデートし新作をリリース。増員の理由やアルバムの制作背景を訊ねた。

The post 前に進むために、変化する——蓮沼執太が語る、「フルフィル」の誕生と新作の背景について appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
ソロとしても音響〜エレクトロニカから歌ものなど多彩な音楽を紡ぎ、狭義のミュージシャンという枠組みを超え「音」を起点としたアート作品の制作・展示も手掛けるなど、自由で軽やかな活動を展開する蓮沼執太。そんな彼が率いるポップ・オーケストラ「蓮沼執太フィル」(以下、「フィル」)に10名の新メンバーが加入し、総勢26名の「蓮沼執太フルフィル」(以下、「フルフィル」)としての新作アルバム『フルフォニー』がリリースの運びとなった(配信は8月26日、CD・アナログLPは10月28日リリース)。

横尾忠則の作品を配したジャケットも印象的な今作には、多種多彩な音たちが共振しながら豊かなハーモニーを織りなしていく「フルフィル」の楽曲が「A面」として、蓮沼自身による全曲のリミックスが「B面」として収録される。本インタビューでは、渾身の一作を作りあげた蓮沼に、「フィル」という活動が持つ意義や増員の理由、そしてアルバムの制作背景や自身の創作哲学について尋ねていく。

「フィル」は他者と向き合っていくプロジェクトのようなもの

——まず最初に、そもそも蓮沼さんが「フィル」を結成された理由や経緯について教えてください。

蓮沼執太(以下、蓮沼):もともと僕の音楽活動は、フィールドレコーディングしたサウンドやコンピュータで生成した電子音、メロディーや和声的な音楽的要素などをミックスして作品を制作するところから始まっていて。そこで生まれてきた音楽のジャンルは、エレクトロニカやJ-POP的な構造を持ったものなどさまざまではありますが、基本的にはずっと1人で音楽を制作していたんです。

とはいえ、いざレコードを出す段になると、「一人で完結させる」というのは不可能で。レーベルの方など多くの人たちの協力なくしては、自分の作品をリスナーに届けることはできません。たとえ「ソロ」といえど、結局はみんなの力で音楽が作られているということを、リリース活動を通じて実感したんです。

——蓮沼さんの音楽活動において、そこで初めて「他者」という存在が浮かび上がってきたんですね。

蓮沼:そうですね。そして、その時に改めて「自分が作曲した音楽をどうやってライブパフォーマンスしよう?」ということを考えました。その結果、ラップトップを用いたパフォーマンスや自分の演奏だけで完結させるのではなく、「他者と合奏していくことで、自分なりの音楽を表現していきたい」という結論にたどり着いたんです。最初は6人編成から始まり、そこからメンバーが増えていって「フィル」になりました。「フィル」は僕にとって、自分の音楽を媒介としながら「他者」と向き合っていくプロジェクトのようなものなんです。

——そうして結成された「フィル」での活動を通して、どのようなことが得られたとお考えでしょうか?

蓮沼:僕よりも経験値の高いメンバーもいるので、音楽的な面での刺激も当然ありましたが、もっと大きいレベルの気付きを得ることができました。「フィル」には多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっていて、それぞれの生き方や考え方を知っていくにつれて、「音楽っていうのは1つじゃなくて、いろいろな形があるんだ」と思うようになったんです。かれこれもう10年ほど「フィル」をやっていますが、改めて振り返ると、本当にさまざまな発見がありましたね。

例えばギターという楽器があるとして、それを演奏する人の身体が触れて初めて、音が鳴りますよね? 単純な話ではあるんですが、演奏者の意思から生まれた動きが、音を発生させているわけです。環境音の1つひとつにも、それが鳴っている理由や発信したいことがある——そう考えると、「音の世界は深いなあ」と改めて感じさせられます。こういったことは、ずっとソロでフィールドレコーディングだけをやっていたら、気付くことができなかったかもしれません。「フィル」で得られた気付きを自身の創作活動にフィードバックして、より考えを深められるようになったんです。

メンバーの関係性を変化させるために「フルフィル」は生まれた

——「フィル」としての前作『アントロポセン』(2018)から、メンバーが10人増えて総勢26名の「フルフィル」となりました。その意図や経緯について教えてください。

蓮沼:実は『アントロポセン』を作り上げていく途中で、すでに増員は考えていて、メンバーには話をしていました。僕は、自身の活動やクリエーションにおいて、同じこと繰り返したくないんです。新しいことを行っていくためには、既存のものや考え方を壊してでも、変化を起こしていかなければなりません。そのために、オーディションで公募した新メンバー10人を加えて、「フルフィル」を作ったんです。

——増員にあたり、具体的に「こういう楽器の音が欲しい」というイメージはあったんですか?  

僕は、音楽的なものというよりは、現象としての変化を作りたかったんです。新たな10名の加入により、メンバーの関係性に変化が起こるということが何よりも大切でした。決して、「この楽器が次の音楽には必要だ」みたいな視点では考えていませんでしたね。

——今作の作曲自体は、前作がリリースされた2018年に行われたとのことで、「フルフィル」としての初公演「フルフォニー」も同年に行われています。その時系列をふまえると、今作における制作のマインド的なところは『アントロポセン』と地続きのものになるのでしょうか?

蓮沼:時系列的にも内容的にも、地続きにはなっています。『アントロポセン』では、16人のメンバーそれぞれの存在を意識して「当て書き」のように曲を作っていきました。それは例えば、「ユーフォニアムはこういう音の動きができるから、その中でフレーズや旋律を考えていこう」という考え方ではなく、「ユーフォニアムを吹いているのはゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)だから、彼が奏でる旋律はきっとこうだよね」というように考えていく作曲方法です。「フィル」として、集合知的なアイデアをもとに作ったファーストアルバム『時が奏でる』が第一フェーズで、「当て書き」で作った『アントロポセン』が第二フェーズになるんです。そして、その「第二フェーズの最終形」として、今作の『フルフォニー』が存在していると考えていますね。

直観的にジャケットには横尾忠則の作品を使いたいと思った

——今作のジャケットには横尾忠則さんの1970年代の作品「大沼と駒ケ丘」が配されています。この作品を選定された理由やきっかけについて教えてください。

蓮沼:今作のレコーディングを終えた時に、「ジャケットには絶対に横尾さんの作品を使用したい!」と直感的に感じたんですよね(笑)。ただ、具体的に今作のジャケットに使用している作品のようなイメージというよりは、横尾さんというアーティストの存在自体が思い浮かんだという感じでした。それで、実際に横尾さんのギャラリーに行き、資料や図録を片っぱしから観ていって、その中で強く目に留まったのが、「大沼と駒ケ丘」を含む「日本原景旅行」シリーズの作品群だったんです。実はずいぶん前に——確か2013年頃だと思うんですが——、神戸で開催されていた横尾さんの個展を訪れる機会があって、その時に「日本原景旅行」シリーズに出会っていたんです。その記憶が鮮明に残っていたので、今回、「これだ!」と直感したんだと思います。

新作『フルフォニー』のジャケットには横尾忠則の「大沼と駒ケ丘」が使用されている

——そんな直感の出会いから今作のジャケットが生まれたんですね。 雄大な自然の中で、多彩な動植物が共存している光景は、人間が描かれていないということも相まって、「ポスト・人新世(アントロポセン)」の世界の在りようの一つのようにも感じられました。

蓮沼:後々知ったことなんですが、「日本原景旅行」シリーズは、横尾さんが日本のあらゆる場所へ旅をして脳内に焼き付けた景色を、スタジオで後から「フィクション」として描いたという作品なんだそうです。70年代当時の横尾さんの興味や思想はわからないんですが、SF的というか、もしかしたら未来を先取りするように風景を描かれていて、そこには人間がいなかったということなのかもしれませんね。前作に『アントロポセン』というタイトルをつけていて、その次の作品をこういったジャケットにしているというのは、自分の中で明確に結び付けているわけではありませんが、何かしら無意識的につながっているところはあるのかなと思います。

なお、ジャケットの裏面には、表面を元にして、今年に新しく横尾さんにデザインしていただいたアートワークを掲載しているんですが、そこでは文字や動物、植物が取り去られているんです。現代という時代の状況をふまえて、横尾さんとしてさらに何らかの意味を附与されたのではないかと思います。

——沼には蓮が浮いていて、「蓮沼」ですよね。

蓮沼:決して「蓮沼」だから選んだわけではないんです(笑)。「風景画で人が写っていないもの」という、「フィル」のジャケット選定のルールに沿って選んだもので4作品ほど最終候補があって、そこで僕が一番インスピレーションを受けたのがこの作品でした。そこに、たまたま蓮があったんです。こういったことを含めて、横尾さんとのやりとりは、「偶然の必然」みたいなものを感じてゾクゾクしましたね。

独立した多彩な音たちが織りなす「同期/非同期」のハーモニー

——冒頭曲の「windandwindows」はソロで発表された楽曲であり、2018年に発表された未発表曲集のタイトルにもなっています。今作に同曲を収録しようと思われた理由を教えてください。

蓮沼:「windandwindows」という言葉は、僕が10年前ぐらいにやっていたポッドキャストのタイトルでもあるんです。当時所属していた音楽レーベル「HEADZ」主宰の佐々木敦さんが考えてくれたもので、「風と窓」という意味や言葉の響きが「とても良いな」と感じました。その後も、六本木ヒルズのために作った楽曲タイトルや、未発表曲集のタイトルにも使用していて。僕の音楽活動とは切り離すことができない、大切な言葉になっています。そして、この言葉が僕にとって持つ意味や感覚を音楽化したのが、今作の「windandwindows」になっています。また、先ほど今作が「フィル」の「第二フェーズの最終形」だとお話ししましたが、この曲には「男女混声ボーカル曲の集大成」という感覚もありますね。

——新作から少し逸れてしまうのですが、蓮沼さんの中で段々とボーカル曲の比重が大きくなっていったきっかけについて教えてもらえないでしょうか。

蓮沼:オリジナリティにフォーカスして音楽を追求していく中で、ある時に「自分の声の要素を楽曲に取り入れてみよう」と思ったんです。自分の身体を通って発せられる音が、やはり一番オリジナリティが高いですから。あたりまえのことでもあるんですけどね(笑)。ただ、僕は歌詞も書いて自分で歌いますが、「シンガーソングライター」ではありません。「シンガーソングライター」の方は、言葉と歌が密接になって自分自身とくっついていると思うんです。だけど、僕の中では、歌と言葉はバラバラなパーツとして分かれていて。やっぱり自分は「作曲家」なんだと思います。自分の作りたい音楽の中に、自分の声が必要であれば歌う、という感覚ですね。

——ある意味で、ご自身の声も「作曲家・蓮沼執太」が扱う「楽器」のように捉えられているんですね。今作では「Difference – Greeting – Gush – Face」という4楽章が中核をなしていますが、その始まりとなる第1楽章は、静かで「バラバラ」な響きが印象的です。

蓮沼:4楽章の始まりを考えた時に、いきなり最初からメンバー全員26人がそろっているのではなく、段々と集まってくるようなものにしたかったんです。同時に、最初は非同期的なものが、次第に同期し調和していくようなイメージも考えていました。そこで、第1楽章ではメンバー全員に自分自身の心拍数に合わせて演奏してもらい、あえて「バラバラ」な状態から始まるようにしてあるんです。

——続く3楽章では多彩な音色やリズムが現れていきますが、そこには過剰さや大仰さは一切感じません。楽曲を制作するにあたり、どのようなことを意識されていたのかを教えてください。

蓮沼:「フィル」の作曲・編曲に関して言うと、「中心を作らない」という意識はあります。「はい、これが中心です!」と決めてそれに合わせて肉付けしていったり、みんなそろって1つの旋律を奏でたりするのではなくて、なるべく「全員が独立している状態」になることを心掛けていますね。

——4楽章の歌詞は、「出会いや別れ」「重なることや離れること」など、先ほど話があった「同期/非同期」ということが主題となっているようにも感じられました。

蓮沼:僕は歌詞をフィールドレコーディングするような感覚で作っているんです。周りの人や物が勝手に作り上げる描写を言語化していくというか……。そういう風にして歌詞を書いているから、自然に「同期/非同期」ということや「出会いと別れ」ということが出てくるのかなと思います。それは目の前の世界で常に起こっていることですから。この4楽章の歌詞は、外を歩きながら作っていたものばかりで、まさに「フィールドレコーディングしたもの」という感じがありますね。

——今作には蓮沼さん自身による「windandwindows」と4楽章のリミックスが収録されていますが、その意図を教えてください。

蓮沼:リミックスはコロナ禍のステイホーム期に作ったものなんです。そのような状況下で、去年の春に行った「フルフィル」の録音のことを振り返り、「合奏というものはそもそも何だったのか?」ということを改めて自分なりに紐解いていこうと思って、リミックスに取り組むことにしたんです。リミックス作業は、何十トラックとある波形データをどんどん間引いて、ミニマムにしていくところから始めていきました。それって、横尾さんがジャケットの裏面のデザインでやられた「オブジェクトを取り去っていく作業」と一緒で。ここでもシンクロがあって驚きましたね。コロナ禍になって、横尾さんも「マイナスのデザイン」をされたんだな、と。

——流線的で音程が不明瞭なアナログシンセやクラシックなドラムマシン、サンプルチョップ、ドリルンベースにスクリューなど、リミックスで現れる音色や手法は多種多彩です。

蓮沼:まずはマイナスする作業から始まったんですけど、もちろん、シンセサイザーやサンプルを用いた「自分の音」を新しく足していくことはしていて。ちょっと「普通じゃない」ようなリミックスにしたいという気持ちがあったので、統一感は持たせながらも、ジャンルにとらわれずに作業をしていきました。フルフィルの演奏の「A面」に対する「B面」として、楽曲の異なる表情を楽しんでもらえたらいいですね。

——今作を完成させて、フィルを今後どのように発展させていこうとお考えなのか、展望をお聞かせください。

蓮沼:「フィルの音楽はこうあるべきだ」とか「自分が作るものはこうなんだ」という枠組みは、常に打ち破っていかなければいけないと考えています。この8月に「#フィルAPIスパイラル」というオンライン公演で、ほとんど新曲でパフォーマンスを行ったんですが、僕もメンバーもとても手応えを感じて、観てくれた人からも「新しい感覚が伝わった」というコメントをもらえました。先ほど、今作『フルフォニー』が「第二フェーズの最終形」とお話ししましたが、この公演を経て、その次のフェーズに進めている実感がありますね。掴んだ手応えを胸にこの冬も準備を進めていき、その先で何か新しいことができたらいいなと思っています。

蓮沼執太
1983年、東京都生まれ。
音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外での コンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュース などでの制作多数。近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、 サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会やプロジェクトを活発に行っている。
http://www.shutahasunuma.com/
Twitter: @Shuta_Hasunuma
Instagram: @shuta_hasunuma

Photography Tasuku Amada

The post 前に進むために、変化する——蓮沼執太が語る、「フルフィル」の誕生と新作の背景について appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>