観察する Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/観察する/ Thu, 20 Aug 2020 05:57:09 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 観察する Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/観察する/ 32 32 グラフィックアーティストYOSHIROTTENに聞く タイポグラフィとグラフィックデザインの関係 https://tokion.jp/2020/08/06/yoshirotten-typo-graphic/ Thu, 06 Aug 2020 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=2656 グラフィックアーティスト兼アートディレクター、YOSHIROTTENが考えるタイポグラフィとグラフィックデザインの関係。そして次なるクリエイションについて。

The post グラフィックアーティストYOSHIROTTENに聞く タイポグラフィとグラフィックデザインの関係 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>

東京を拠点に活躍するグラフィックアーティスト兼アートディレクター、YOSHIROTTEN。グラフィックデザインをはじめ、空間から映像まですべてをディレクションし、今まで見たことがないような独自の世界観を作り上げている。今やファッション、音楽と各方面から引く手数多のクリエイターであり、その表現は実にさまざまな形で構築されている。
光など、目には映らないものを具現化したグラフィックや、強い存在感を放つコラージュやタイポグラフィ、そして空間デザイン。あらゆるデザインの形がある中で、今回はタイポグラフィにフォーカスする。グラフィックとの関連性や制作する際の思考の過程を聞きつつ、そこに共通項があるのかを探った。また、コロナ禍によって変わった世界において、今後、YOSHIROTTENはどのような表現をしていきたいのか。時代性を捉えた上で何を考えるのか。世界をフィールドに活躍するグラフィックアーティスト・アートディレクターの次なるビジョンについて。

今だからこそより見えないものを
表現したい気持ちが強い

ーー表現されているグラフィックについて教えてください。

YOSHIROTTEN(以下、YO):2018年に開催したエキシビション「FUTURE NATURE」は“見えないものの可視化”が制作のテーマだったのですが、今はさらにこの“見えないものの可視化”での制作意欲が強まっています。ずっとあり続けてきた自然と、これから向かう未来を重ねていくと、目に見えているものや、何かを媒介して入ってくるものは、見え方のほんの一部分でしかないと思っているんです。そこに違う光を通したら、もっと景色が変わって見えたり、存在しなかったはずのものが見えたりするんじゃないかと考えていて。そのようなことを想像し、描いていく活動が僕のグラフィックアーティストとしての一面なのだと思います。一方でアートディレクションやデザインでのグラフィックは目的に合わせて変幻自在に作っていきます。

ーーその思考には時代性からもインスパイアされている部分はありますか?

YO:そうですね。このコロナ禍を受けて、日本もリモートで活動するようになった人が多いと思うんですが、インターネットを通じてコミュニケーションをとるということは、実際には両者は触れ合っていないわけじゃないですか。この先の未来、テクノロジーが進化するにつれて、こういう仮想空間がより現実味を帯びてくる可能性があると思うんです。例えば、部屋の窓に海や森といった景色をリアルに投影させることができるようになり、さらにはその擬似空間を自由に移動させたり構築したりすることが可能になった時、目で見えているそれは現実ではないのに、現実として捉えられるようになると思います。それをエスカレートさせて考えると、今現在見えている景色だってもしかしたら、ここだけ空間に穴が空いているかもしれないとか。そんなふうに考えながら、思考を遊ばせつつ想像しながら形にしていくことが楽しいですし、そんなリアルとバーチャルの捉え方をグラフィックやデザインを通して観る人に気付かせたいという思いがありますね。これから世界が変わっていく中で、アートとテクノロジー、そして自然がより密接になったものを時代に合う形で世界に提示することができたら楽しいですよね。

ーー見えないものを表現したグラフィックとは別のアプローチとして、コラージュも作品の特徴の1つだと感じます。コラージュにはどんな考えがありますか?

YO:考えの根底にあるのは近しいものなんですけど、コラージュはモチーフ同士のぶつかり合いで作られる新しいものじゃないですか。既存のものが集まって新たにデザインが形成され、そこに集合されたものがメッセージを発していたり、強い印象を持つものになっていたり。ものを組み合わせて辿り着いた場所がコラージュのおもしろい部分だと思います。伝えたいメッセージをより強化して伝えるための手段の1つだと捉えています。

ーーでは、タイポグラフィについてはどう考えていますか?

YO:僕にとってタイポグラフィは、言葉や文字を容(カタチ)にすることで、その内容を瞬間的に伝えるためのものと考えています。その種類や方法はさまざまで表現の仕方は描くタイポグラフィによって異なります。作る際に既存のフォントをベースに、それをカスタムして目的地に向かって調整をしていく場合もあるんですが、AからZまでアルファベットすべてを一から作ることもあります。実際にフォントを作るのは依頼を受けた際に、それに適しているフォントがなかった場合です。作品をはじめ、これまでに作ったロゴやタイポグラフィは比較的オリジナルフォントのものが多いです。もちろんこういうことは自分以外のデザイナーもよくやっていることだと思いますが。

ーー具体的には、どのような場合にオリジナルフォントを制作しているのですか?

YO:ブランドロゴやショップロゴなど、存在そのものを強く訴える必要がある場合には、そこにしかない空気感や佇まいを持った存在としてのタイポグラフィが求められるので、オリジナルフォントを制作したり、既存のフォントをカスタムする場合が多いです。例えば、原宿の古民家を近未来的なアートディレクションで手掛けたショップ「DOMICILE TOKYO」は、音楽や酒に酔いながら街を歩く、ネオトーキョーのストリート感を出したくてベーシックなロゴをデザインした後に、それをコピー機でグニャンとねじ曲げて作りました。逆に、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『Love Harmony & Eternity』のアートワークの際に使用したのは、世界的にも多く使用されてるベーシックなフォントをそのままの形で。これは、もうこの言葉だけで充分成立していて、それ以外のビジュアルや余計な要素は一切必要ないと思いました。だからフォントをベースにカラーリングのみで表現しています。一方で、GEZANのシングル「証明」の際に作ったタイポグラフィは、その枠を超えてグラフィック的な表現にしています。これは言葉を文字として伝えるということそのものの目的を破って、見えなくすることで存在感を強めるというパターン。なかなか一概に手法のパターンを説明できないのがタイポグラフィの表現であり、だからこそおもしろいと思っています。「UT」のために作った“TOKIO”というタイポは未来の空に浮かぶTOKYOをイメージしました。

ーー自身の中で、グラフィックとタイポグラフィの関係性についてはどう考えていますか?

YO:両者には密接な関係があって、タイポグラフィがグラフィックの世界を広めてくれたり、存在感を強め、説明的な要素を担ってくれたりすることがあります。要はグラフィックだけで成立するものもあれば、そこにタイポグラフィが加わって説明することで、より強く伝えてくれる部分もあると思います。

ーーオリジナルフォントを制作する難しさはありますか?

YO:オリジナルのフォントを作る際は、使用しなかったとしてもAからZまで作るんです。そこには一貫したルールが存在するべきだと考えています。なのでそのルールをどう成立させるかが難しい点かもしれません。

ーータイポグラフィを表現する上で影響を受けたアーティストはいますか?

YO:一番最初に感動したアーティストでいうと、ハーブ・ルバーリンのフォントですね。『Avant Garde』というカルチャー誌を彼がやっていて、その誌面でのタイポグラフィの使い方を見た時に衝撃を受けました。こんなに自由で強くて前衛的な文字のデザインがあるんだって。そこに感銘を受けて自分でも文字を作るようになりました。それにジェイミー・リードやエイプリル・グレイマンのタイポグラフィとアートワークとの組み合わせも好きです。あとは、文字を使ったアーティストとしても好きなのはローレンス・ウィナーやクリストファー・ウールなども。

体験して記憶に残ることが
空間デザインの醍醐味

ーー一方で現在は、お店の内装など空間のデザインをされることも多いですよね。

YO:そうですね。お店やポップアップなど、空間を作って、その中にあるもののデザインや映し出される映像など含めてトータルで制作することが増えています。空間のデザインの醍醐味は「体験できるところ」だと思います。作られた空間に自分が入っていける体験。そこが平面のデザインとは違っていて。3D空間は、音や匂い、訪れる人、その他さまざまな要素が組み合わさってできているので、デザインする上で大事なことはそこにあると思います。最近は3次元で表現し、その後さらに2次元へ落とし込むような制作も増えています。クライアントワークでいうとファッションと音楽が多いかもしれません。1つのプロダクトをどうやったらさらによく見せられるか。スマホで情報が入ってきて一瞬で流れていく中で、どうやったら人の目を留めさせたり、心地よく素敵だと思ってもらえたりするか、逆に衝撃を与えるものを作れるか、といったことを考えながら、目的に応じて手法や表現自体を変えつつ制作を続けています。

ーーなるほど。ちなみに今回『TOKION』とのコラボレーションで制作されたプロダクトについて教えてもらえますか?

YO:今回デザインするにあたって個人的に考えたのは、TOKYOらしいお土産のようなアイテムを作りたいということでした。そこで、僕が蕎麦が大好きだということもあって、グラフィックを施した蕎麦猪口と小皿を作ろうと思いました。日本の伝統色である朱色をベースに、今までの和のイメージを表現しつつ、近未来的なアプローチを絶妙なバランスで取り入れていけばおもしろいんじゃないかと思って。このグラフィックは、市松模様のネオバージョン的なイメージです。通常は平面的なパターンですが、それを奥行きを持って表現することでフューチャリスティックになるんじゃないかと考えて。この“TOKION”のタイポグラフィも、ここに佇んでいて馴染むような世界観で構築したんです。

ーー今後はどのようなものを制作していきたいですか。

YO:空間をデザインするという話の延長になるんですが、公園を作ってみたいんですよ。

ーー公園とはなぜまた?

YO:自分が手掛けたパブリックなスペースで子ども達が遊んで、その体験が少しでも記憶に残っていたら、大人になっていく過程で、その子どもの想像力を広げることにつながるかもしれない。何か自分のクリエイションを未来の世界に託すような行動を起こせたらいいと思うんです。それにその公園がきっかけで、街が活気づいても楽しいでしょうし、何より公共施設の景観に、何か楽しそうな遊具が存在していたらいいじゃないですか。最近、昔遊んでいた場所に行ったら、なんだかすごく寂れてしまっていて誰もいないという状態を見たことがあって。そこには一抹の寂しさを感じています。そんな場所をもっと現代に合う形でアップデートしていけたら良いんじゃないか、自分のできることの1つなんじゃないかと思っています。

Photography Tetsuya Yamakawa
Text Ryo Tajima

The post グラフィックアーティストYOSHIROTTENに聞く タイポグラフィとグラフィックデザインの関係 appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>
黒いペイントをどうみる? https://tokion.jp/2020/07/28/observe-insight/ Mon, 27 Jul 2020 18:20:02 +0000 https://tokion.jp/?p=1019 真っ黒の作品を目の前にして感動できるだろうか? キャリアのほとんどを“黒”を使い表現する芸術家のピエール・スーラージュとパートナーのコレット、キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストによる鼎談。

The post 黒いペイントをどうみる? appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>

ハンス・ウルリッチ・オブリスト(以下、ハンス):初めてお会いした時、アーティスト活動を本格的に始める前はラグビー選手だったと言ってましたね。

ピエール・スーラージュ(以下、ピエール):ええ、実はそうなんです。今も家のどこかにラグビーボールがあるはずです。

ハンス:ゲルハルト・リヒターも「ペインティングはペタンク(フランス発祥球技)に似ている」と言っていました。あなたにとっても、ラグビーとペインティングの間に何か類似するものがあるのではないかと思っていたんです。

ピエール:確かにラグビーと似ているものはあると思いますよ。ラグビーボールというものは、サッカーボールやベースボールのような球形ではなく、楕円形。つまりバウンドすると右へ行くか左へ行くか、前へ行くかそれとも後ろへ行くか、わからないところが面白い。私が何かについて調べている時も、ペインティングしている時も、ラグビーボールがバウンドするようなことが起こります。どっちに行くかは決してわかりません……。とあたかもラグビーが上手だったようなことを言っていますが、実はそんなに上手くはなかったですけどね。

ハンス:スポーツといえば、ジュ・ド・ポーム(テニスの先駆けとなったスポーツで、ラケット状の道具を用いてボールを打ち合う競技)もやっていると聞きました。ラグビーと比べるとどうですか?

ピエール:ジュ・ド・ポームをし始めたのは、ここ数年の話です。ラグビー選手だったわけではないですし、実際プレーしていたのは学生時代です。でも当時はいつも思いもしないことが起こるラグビーをものすごくおもしろいスポーツだと思っていました。

ハンス:ペインティングにおいても、思いもしないことが起こる、と。

ピエール:描く行為だけでなく、何かについて調べている時も思いもしない方向に転んでいくことがあります。それは絵画というアートをどのように捉えるかということになります。私は今まで絵を描くことと芸術史における文脈を紐づけるようなことを事前に考えたことがありません。アートにおける理論というものは、前もって考えることではなく、事後になって理解されていくものだと思います。

ハンス:ということは、アプリオリ(先験的)はなく、アポステリオリ(後天的)ということなんでしょうか。

ピエール:まさしくその通りです。

ハンス:ラグビーをきっかけに芸術の分野に興味を持ったわけではないと思いますが、あなたはどのように芸術と出会い、そしてどのように惹かれていったのかを知りたいです。初めてお会いした時にお話ししてくれたことに、文字を持たない、つまり文字による史料が残されることのなかった先史時代の芸術、それに1797年に南フランスで発見、保護された、視覚や嗅覚、味覚などの人間らしさを失っていた野生児(アヴェロンの野生児)をきっかけに芸術に惹かれていったと。

ピエール:そうですね。16歳の時、私達が受けている教育は数世紀に限られたものでしかないんだ、とふと思ったことがあったんです。学校の教育だけでなく、例えば美術館へ行っても、そこで見ることができるものの大半はわずか4~5世紀の間に描かれたり、作られたりしたものだけなんです。高校生の頃、芸術は25世紀前のギリシャで生まれたと教わりました。つまり、それはどういうことかと言うと、キリストが生まれた西暦元年から生まれた文化であると。だけども、195世紀前に描かれてきたアンタルヤ洞窟の壁画を目にした時に思ったんです。「今まで5世紀というわずかな時間だけを見てきたけど、人は195世紀前から絵を描いていたんだ」と。それにアンタルヤ洞窟の壁画よりもずっと古い洞窟も見つかっています。こうした気付きがあってから「なぜ人は絵を描くのか、自分がなぜ絵を描きたいのか」を考えるようになりました。

ハンス:ペインティングにおける根本的な問いかけですね。あなたが美術史家のゾエ・スティルパスに取材されている記事を読みました。その記事で、子どもだった頃にもうすでに黒のインクが好きだったと話していましたね。

ピエール:子どもの頃の話ですよ(笑)。5歳か6歳の時、パンをインク壺に浸していて、「一体、何をしているの?」と聞かれた時に、私は「雪」と答えたんですね。黒のインクがなぜ雪なのか……。みんな私の「雪」を見て笑ってくれたことを覚えています。この「雪」のことはみんな覚えていて、私が画家になる前、みんなで集まったことがあるのですが、この時の話をしましてね。ちょっと変わったヤツだとみんな思っていたはず。

ハンス:コンピューターにはインク壺が必要ないので、今では全く違った意味を持っているように思います。

ピエール:そうですね、全く違うでしょうね。でも、“黒”はなくなっていませんよ。

ハンス:白と黒。この極めてシンプルな色で表現するのはなぜでしょう? ドイツのペインター、ラルフ・フレックがおもしろい考察をしていました。白と黒を使うのは、物資が少なかった戦後のことを忘れてはいけないからだと。あなたが黒を使う理由に、戦争が関係あるのでしょうか?

ピエール:いや、何の関係もありません。5歳の時、黒が好きだったということにも理由なんてありませんでした。単純に黒という色がきれいに見えたし、きれいだったという理由でした。

ハンス:外から影響されたものではなく、内面から生まれた美的感覚だったわけですね。

ピエール:そうです。状況とか、政治的な意味合いなどは全くありません。その上、色における象徴的意義を示すこと自体、私にとってはすでに古い考え方です。あいまいな象徴的意義です。例えば、私達の文明において、黒は喪を表しています。しかし、歴史を辿るとほとんどの文明がかつては白でした。子どもの頃、色彩が濃いという理由で黒が好きでした。他の色と一緒に黒を配置すると、他の色がより一層明るく見えたり、それにグレーと黒を組み合わせると、グレーの度合が減り、くすみが少なくなったりと、不思議な色だなと思っていたんです。

ハンス:制作について教えていただけますか? 絵を描いているのは朝や午後になりますか?

ピエール:これはまたビックリさせる質問ですね、私は公務員じゃないんですよ(笑)。

ハンス:では、描きたくなったら描くという感じですか? アーティストや作家の中にはかたくなにルーティーンを守っている人もいますよ。

ピエール:私の場合は違っていて、気分がのったり、時間に余裕があれば、昼でも夜でも関係なくやっています。

ハンス:決まったスケジュールで仕事をするのではなく、描きたい時に絵を描いているというのは大変おもしろいですね。

ピエール:絵を描くだけでなく、本を読んだり、調べ物をしたりと、興味のあることを始めたらずっとそれが続き、時には深夜の3時になっていたということも多々あります。最近だったかな……。ここで寝泊まりしていた友達が深夜の3時に私が起きているのを見て「こんな遅くに何をしているの?」と聞いてきたんですね。私は「寝ようとしているんだけれども眠くないんですよね。あなたもこんな時間にどうかしたの?」と彼に聞くと「僕も同じですよ。ちょっと1杯やりましょうか?」と言うので、深夜の3時にシャンパンを飲んでいたことがありましたね。

ハンス:絵を描き始めたら、その日のうちに完成することが多いのですか? それとも数日間に及ぶこともありますか?

ピエール:長い時間かかってしまうこともあれば、短時間で描いて、これ以上描くことがないと思う時もあります。それがいいんですよね。定時勤務の公務員とか製造業の場合はどちらも超過勤務分というのがあります。私の場合はそのどちらでもないというか。

ハンス:あなたの作品は正面だけでなく、角度を変えて観ると印象が変わっていきます。

ピエール:そうですね、美術館やギャラリーで展示する私の絵は基本的に固定されていますが、絵の周りを歩き回って観ると、また違って観えるはずです。

ハンス:まるでステンドグラスを観ているかのように、同じ光景を2度と観ることがないのがあなたの作品の特徴です。

ピエール:そうですね。でもステンドグラスの場合は、さらに朝の光と夕方の光でも全く異なる表情に変化していきます。

ハンス:絵とは違うんですか?

ピエール:はい、違います。ステンドグラスの色は、時間の経過を示しているため1日中変化しています。ステンドグラスというのは、時計のようなもので、時間の流れや経過を教えてくれるものです。考えることをやめさせない、先人のトリックみたいなものですね。

ハンス:時間の概念は、あなたの作品でも表されています。

ピエール:もちろん。光を使って作品にする瞬間から、時間が関係してくるのは当然です。

ハンス:黒で覆われた絵画のウートルノワ(黒を超えた黒、Outrenoir)という名前は、どのように思い付いたのですか?

ピエール:私は芸術的ではなく、視覚的かつ物理的な現象を引き起こすプロセス自体に興味を持ちました。ウートルノワというのは芸術的な現象、つまり物理的な現象が私達の中に引き起こす美的感覚を表現したものです。では、美的感覚とは何か? 簡単にいうと、それは私達に喜びをもたらしてくれるもの。肉体的にも精神的にも“感動”をもたらしてくれるもの。結論として、「私達はなんで絵を見ることが好きなのか?」ということにつながっていく。

ハンス:感情を生み出すために描かれているからではないのですか? 夢を見させるということは許してくれるというか……。

ピエール:そうです。でもどんな感情なのか。 私はこの現象が精神的にもある影響を受ける可能性があるという事実に興味を持ち始めたのです。だから名前をつける時に、黒という単語だけでは不十分でした。Outre-Rhin(ラインの向こう)はドイツを意味し、outre-Manche(海峡の向こう)はイギリスを意味するので、Outrenoirは“黒を超えた黒”。つまり黒以外のものです。

ハンス:ゾエ・スティルパスとのインタビューで、あなたは今日における絵画の可能性について言及していました。絵画は夢を見させる。絵画は人間らしい感情を増幅させることができる、だから絵画があると生活がもっと有意義になると。だからこそ絵画が今の時代に必要なのだと。つまりあなたにとってのペインティングというのは、単に色合いがきれいだと楽しむものではなく、むしろ、絵画と向き合い、観察することを必要とするものだと。

ピエール:絵画を観ることは、ある種鏡を観ることと似ています。つまり自分自身と向き合う媒体です。私自身うまく説明できないことがありましてね、それは私が作品を展示していた会場で起きたことなのですが。涙を流している人達がいるんです。

コレット・スーラージュ(以下、コレット)そうなんです。

ピエール:ええ。実際、私の作品を観てくれた多くの人達から「あなたの作品を観ていると涙が出てきます」というような内容の手紙をいただきます。私がストラスブールで初めて作品を展示した時、1人の女性から手紙を受け取りました。私は彼女の事情を知りませんでしたし、実際に会ってもいません。しかしその手紙にはこのようなことが書いてあったんです。「コンク修道院であなたのステンドグラスを見ました。20世紀に作られたものが2世紀から存在する建築物に調和していることに大変な感動を受けました。それからというもの、私は定期的に修道院に行っていますが、毎回違う感動を得ています。その後、あなたの作品がポンピドゥー・センターにあるということを聞いて行ってみたんです。展示室に入ると、自然と涙が出てきました。作品を観れば観るほど涙がどんどんあふれてくる。展示会場の最後の部屋に辿り着いた時は、立ってはいられないほど泣いていました」と。

ハンス:彼女はものすごく特別な体験をされていますね。

ピエール:手紙はこのように続きます。「あなたの作品がなぜそんなにも私を感動させるのかということについてずっと考えてきました。明確な答えは出ませんが、きっとあなたが全身全霊をもって作品を描いているからだと思います」と。このことについてあまり詳しく話したくありませんが、とにかくその後も同じような手紙を4通も5通も受け取りました。手紙だけではありません。ポンピドゥー・センターのディレクターをしていたアラン・セバンが私に連絡をしてきたことがあって、「展覧会に多額の寄付をしてくれた人にお礼をしたいと思っているのですが、あなたも参加してくれないですか?」という内容の相談を受けました。私はもちろん参加しました。みんなとても優雅で、女性も男性もドレスやスーツで着飾っていました。私は、友人と約束があったため、少しの間会場から出るためにエレベーターに乗って下に降りたんです。1階のフロアに到着すると、ある1人の男性と出会ったんです。45歳くらいで体格がしっかりした男性でした。「こんなところで申し訳ありません。ただあなたにこうしてお会いできて、とても嬉しくて……声をかけてしまいました。あなたの作品がとても好きなんです」と私に伝えてくれたんです。それに対して私も感謝の言葉を述べました。彼は「あなたの展示を2度ほど観にいったことがあるのですが、その度に泣いてしまうんですね」と言うんです。私には、しっかりした体格の男性から涙が出てる姿が全く想像できなく、ビックリしてしまい、彼の名前すら聞くことを忘れてしまったんですね。

ハンス:呆然としてしまったんですね。

ピエール:その後、私達はそれぞれの車に乗ったわけですが、私はいろいろな人達が私の絵を観て涙を流すという“反応”自体に興味を持ち始めたんです。このことを美術史家のピエール・エンクレーヴに話したことがあります。「なにも彼らだけじゃなく、私も展示会場で泣いている人を見たことがありますよ。ある女性なんかは決まって金曜日の同じ時間に何度も来て、涙を流していましたよ」と。

ハンス:非常に珍しいことですね。きっとそれほど人の心を動かしたんでしょうね。

ピエール:問題は「なぜ涙が出てしまうのか?」ということです。きっとそれらは彼らの奥底にある“何か”に触れたんだと思います。 奥底にある「アートとは何か?」ということに。それは単純な構造や明快なものではない。私達を超えて存在する重要な何かなんでしょうね。

ハンス:とても感動的ですね。

コレット:私が本当にビックリしたのは、ピエールの絵を観る子ども達の目です。何かに取り憑かれたようにピエールの絵を観る彼らの姿は未だに忘れることができません。

ハンス:私も見ましたよ。ボーブールで開催されたエキシビションの時でした。観客がとても若く10歳か12歳の子ども達もたくさんいた素晴らしい展示でした。

コレット:ええ、子ども達はなぜかピエールの作品に興味津々なんです。

ハンス:ラルフ・フレックが自身の本の中で、あなたの白黒の絵画について書いていました。デジタル時代における0(ゼロ)と1(ワン)だと。そこで思ったのが、コンピュータの出現があなたのアートにどのような変化をもたらしたのか。デジタル技術があなたにもたらした影響は何かありましたでしょうか?

ピエール:コンピュータでは太陽を変えられませんよ。

※Full interview published in Pierre Soulages by Robert Fleck et Hans Ulrich Obrist, Manuella Editions, Paris, 2017

ピエール・スーラージュ 
1919年フランス・ロデーズ生まれ。現在はフランスのセテとパリを拠点に活動する。ピエール・スーラージュは、そのキャリアのすべてにおいて黒という色と向き合い、絵の具を広げ、刷毛で塗り、時には自作の道具を開発し、独特な光の効果を生み出す。昨年、100歳を迎えたピエール・スーラージュは、百寿を記念してルーヴル美術館にて新作を含む彼の作品の回顧展が開催された。

Interview Hans Ulrich Obrist
Photography Joe Hage
Artworks Perrotin Gallery

The post 黒いペイントをどうみる? appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

]]>