グラフィックアーティストYOSHIROTTENに聞く タイポグラフィとグラフィックデザインの関係

東京を拠点に活躍するグラフィックアーティスト兼アートディレクター、YOSHIROTTEN。グラフィックデザインをはじめ、空間から映像まですべてをディレクションし、今まで見たことがないような独自の世界観を作り上げている。今やファッション、音楽と各方面から引く手数多のクリエイターであり、その表現は実にさまざまな形で構築されている。
光など、目には映らないものを具現化したグラフィックや、強い存在感を放つコラージュやタイポグラフィ、そして空間デザイン。あらゆるデザインの形がある中で、今回はタイポグラフィにフォーカスする。グラフィックとの関連性や制作する際の思考の過程を聞きつつ、そこに共通項があるのかを探った。また、コロナ禍によって変わった世界において、今後、YOSHIROTTENはどのような表現をしていきたいのか。時代性を捉えた上で何を考えるのか。世界をフィールドに活躍するグラフィックアーティスト・アートディレクターの次なるビジョンについて。

今だからこそより見えないものを
表現したい気持ちが強い

ーー表現されているグラフィックについて教えてください。

YOSHIROTTEN(以下、YO):2018年に開催したエキシビション「FUTURE NATURE」は“見えないものの可視化”が制作のテーマだったのですが、今はさらにこの“見えないものの可視化”での制作意欲が強まっています。ずっとあり続けてきた自然と、これから向かう未来を重ねていくと、目に見えているものや、何かを媒介して入ってくるものは、見え方のほんの一部分でしかないと思っているんです。そこに違う光を通したら、もっと景色が変わって見えたり、存在しなかったはずのものが見えたりするんじゃないかと考えていて。そのようなことを想像し、描いていく活動が僕のグラフィックアーティストとしての一面なのだと思います。一方でアートディレクションやデザインでのグラフィックは目的に合わせて変幻自在に作っていきます。

ーーその思考には時代性からもインスパイアされている部分はありますか?

YO:そうですね。このコロナ禍を受けて、日本もリモートで活動するようになった人が多いと思うんですが、インターネットを通じてコミュニケーションをとるということは、実際には両者は触れ合っていないわけじゃないですか。この先の未来、テクノロジーが進化するにつれて、こういう仮想空間がより現実味を帯びてくる可能性があると思うんです。例えば、部屋の窓に海や森といった景色をリアルに投影させることができるようになり、さらにはその擬似空間を自由に移動させたり構築したりすることが可能になった時、目で見えているそれは現実ではないのに、現実として捉えられるようになると思います。それをエスカレートさせて考えると、今現在見えている景色だってもしかしたら、ここだけ空間に穴が空いているかもしれないとか。そんなふうに考えながら、思考を遊ばせつつ想像しながら形にしていくことが楽しいですし、そんなリアルとバーチャルの捉え方をグラフィックやデザインを通して観る人に気付かせたいという思いがありますね。これから世界が変わっていく中で、アートとテクノロジー、そして自然がより密接になったものを時代に合う形で世界に提示することができたら楽しいですよね。

ーー見えないものを表現したグラフィックとは別のアプローチとして、コラージュも作品の特徴の1つだと感じます。コラージュにはどんな考えがありますか?

YO:考えの根底にあるのは近しいものなんですけど、コラージュはモチーフ同士のぶつかり合いで作られる新しいものじゃないですか。既存のものが集まって新たにデザインが形成され、そこに集合されたものがメッセージを発していたり、強い印象を持つものになっていたり。ものを組み合わせて辿り着いた場所がコラージュのおもしろい部分だと思います。伝えたいメッセージをより強化して伝えるための手段の1つだと捉えています。

ーーでは、タイポグラフィについてはどう考えていますか?

YO:僕にとってタイポグラフィは、言葉や文字を容(カタチ)にすることで、その内容を瞬間的に伝えるためのものと考えています。その種類や方法はさまざまで表現の仕方は描くタイポグラフィによって異なります。作る際に既存のフォントをベースに、それをカスタムして目的地に向かって調整をしていく場合もあるんですが、AからZまでアルファベットすべてを一から作ることもあります。実際にフォントを作るのは依頼を受けた際に、それに適しているフォントがなかった場合です。作品をはじめ、これまでに作ったロゴやタイポグラフィは比較的オリジナルフォントのものが多いです。もちろんこういうことは自分以外のデザイナーもよくやっていることだと思いますが。

ーー具体的には、どのような場合にオリジナルフォントを制作しているのですか?

YO:ブランドロゴやショップロゴなど、存在そのものを強く訴える必要がある場合には、そこにしかない空気感や佇まいを持った存在としてのタイポグラフィが求められるので、オリジナルフォントを制作したり、既存のフォントをカスタムする場合が多いです。例えば、原宿の古民家を近未来的なアートディレクションで手掛けたショップ「DOMICILE TOKYO」は、音楽や酒に酔いながら街を歩く、ネオトーキョーのストリート感を出したくてベーシックなロゴをデザインした後に、それをコピー機でグニャンとねじ曲げて作りました。逆に、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『Love Harmony & Eternity』のアートワークの際に使用したのは、世界的にも多く使用されてるベーシックなフォントをそのままの形で。これは、もうこの言葉だけで充分成立していて、それ以外のビジュアルや余計な要素は一切必要ないと思いました。だからフォントをベースにカラーリングのみで表現しています。一方で、GEZANのシングル「証明」の際に作ったタイポグラフィは、その枠を超えてグラフィック的な表現にしています。これは言葉を文字として伝えるということそのものの目的を破って、見えなくすることで存在感を強めるというパターン。なかなか一概に手法のパターンを説明できないのがタイポグラフィの表現であり、だからこそおもしろいと思っています。「UT」のために作った“TOKIO”というタイポは未来の空に浮かぶTOKYOをイメージしました。

ーー自身の中で、グラフィックとタイポグラフィの関係性についてはどう考えていますか?

YO:両者には密接な関係があって、タイポグラフィがグラフィックの世界を広めてくれたり、存在感を強め、説明的な要素を担ってくれたりすることがあります。要はグラフィックだけで成立するものもあれば、そこにタイポグラフィが加わって説明することで、より強く伝えてくれる部分もあると思います。

ーーオリジナルフォントを制作する難しさはありますか?

YO:オリジナルのフォントを作る際は、使用しなかったとしてもAからZまで作るんです。そこには一貫したルールが存在するべきだと考えています。なのでそのルールをどう成立させるかが難しい点かもしれません。

ーータイポグラフィを表現する上で影響を受けたアーティストはいますか?

YO:一番最初に感動したアーティストでいうと、ハーブ・ルバーリンのフォントですね。『Avant Garde』というカルチャー誌を彼がやっていて、その誌面でのタイポグラフィの使い方を見た時に衝撃を受けました。こんなに自由で強くて前衛的な文字のデザインがあるんだって。そこに感銘を受けて自分でも文字を作るようになりました。それにジェイミー・リードやエイプリル・グレイマンのタイポグラフィとアートワークとの組み合わせも好きです。あとは、文字を使ったアーティストとしても好きなのはローレンス・ウィナーやクリストファー・ウールなども。

体験して記憶に残ることが
空間デザインの醍醐味

ーー一方で現在は、お店の内装など空間のデザインをされることも多いですよね。

YO:そうですね。お店やポップアップなど、空間を作って、その中にあるもののデザインや映し出される映像など含めてトータルで制作することが増えています。空間のデザインの醍醐味は「体験できるところ」だと思います。作られた空間に自分が入っていける体験。そこが平面のデザインとは違っていて。3D空間は、音や匂い、訪れる人、その他さまざまな要素が組み合わさってできているので、デザインする上で大事なことはそこにあると思います。最近は3次元で表現し、その後さらに2次元へ落とし込むような制作も増えています。クライアントワークでいうとファッションと音楽が多いかもしれません。1つのプロダクトをどうやったらさらによく見せられるか。スマホで情報が入ってきて一瞬で流れていく中で、どうやったら人の目を留めさせたり、心地よく素敵だと思ってもらえたりするか、逆に衝撃を与えるものを作れるか、といったことを考えながら、目的に応じて手法や表現自体を変えつつ制作を続けています。

ーーなるほど。ちなみに今回『TOKION』とのコラボレーションで制作されたプロダクトについて教えてもらえますか?

YO:今回デザインするにあたって個人的に考えたのは、TOKYOらしいお土産のようなアイテムを作りたいということでした。そこで、僕が蕎麦が大好きだということもあって、グラフィックを施した蕎麦猪口と小皿を作ろうと思いました。日本の伝統色である朱色をベースに、今までの和のイメージを表現しつつ、近未来的なアプローチを絶妙なバランスで取り入れていけばおもしろいんじゃないかと思って。このグラフィックは、市松模様のネオバージョン的なイメージです。通常は平面的なパターンですが、それを奥行きを持って表現することでフューチャリスティックになるんじゃないかと考えて。この“TOKION”のタイポグラフィも、ここに佇んでいて馴染むような世界観で構築したんです。

ーー今後はどのようなものを制作していきたいですか。

YO:空間をデザインするという話の延長になるんですが、公園を作ってみたいんですよ。

ーー公園とはなぜまた?

YO:自分が手掛けたパブリックなスペースで子ども達が遊んで、その体験が少しでも記憶に残っていたら、大人になっていく過程で、その子どもの想像力を広げることにつながるかもしれない。何か自分のクリエイションを未来の世界に託すような行動を起こせたらいいと思うんです。それにその公園がきっかけで、街が活気づいても楽しいでしょうし、何より公共施設の景観に、何か楽しそうな遊具が存在していたらいいじゃないですか。最近、昔遊んでいた場所に行ったら、なんだかすごく寂れてしまっていて誰もいないという状態を見たことがあって。そこには一抹の寂しさを感じています。そんな場所をもっと現代に合う形でアップデートしていけたら良いんじゃないか、自分のできることの1つなんじゃないかと思っています。

Photography Tetsuya Yamakawa
Text Ryo Tajima

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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