辻本知彦 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/辻本知彦/ Wed, 02 Feb 2022 03:33:06 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 辻本知彦 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/辻本知彦/ 32 32 ROTH BART BARON × ダンサー・辻本知彦 対談後編——身体表現に込められたメッセージ https://tokion.jp/2022/01/31/roth-bart-baron-masaya-mifune-x-tomohiko-tsujimoto-part2/ Mon, 31 Jan 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=92785 ROTH BART BARONの三船雅也とダンサーの辻本知彦との対談。後編は表現とは何かについて2人が語る。

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フォーク・ミュージックをベースにしながら、オルタナティヴな音楽性で注目を集めるバンド、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン、以下ロット)の中心人物、三船雅也。ダンサーとして国内外で活動しながら、米津玄師、RADWIMPS、Siaなどさまざまなアーティストの振り付けもこなす辻本知彦。それぞれ独自のスタイルで新しい表現を切り開いてきた2人が、初めて顔を合わせて語り合う対談の後編をお届けする。

前編では辻本のロットとの出会いから創作への向き合い方などが語られたが、後編は表現とは何か、という大きなテーマに広がっていく。「人間じゃないもの」に向けて、歌い、踊る、2人。その開かれた感性がジャンルを超えて交差する。

三船雅也(以下、三船):辻本さんはシルク・ドゥ・ソレイユにいたんでしたっけ?

辻本知彦(以下、辻本):はい。3年半いてワールドツアーにも出ていました。27ヵ国、120ヵ所ぐらい行ったかな。

三船:すごい! 辻本さんのダンスを見ていると、頭からつま先まで動きを全部把握しているように見えますね。

辻本:それはバレエをやっていたおかげなんです。

三船:バレエもやっていたんですか?

辻本:もともと好きだったのがブレイキンとコップだったんですけど、バレエの素晴らしい人に会って、その人に「一流になりたかったらバレエをやれ」って言われたんです。その人はバレエとブレイキンの両方をやってたんですよ。それって当時は珍しくて。もう何十年も前ですけどね。じゃあ、僕もやってみようかなってバレエを始めたんですけど、バレエをやったおかげで「美しい」ということを学びました。それまで自分の中で「美しい」なんて言葉はなかったんです。でも、この風貌で「美しい」ものをやっていたら、すごいことになるんじゃないのかなと思って(笑)。

——「美しい」という新しい価値観が生まれたわけですね。

辻本:だから僕の最初の頃のダンスはアートっぽいんですよね。体の鍛え方はバレエで思想はコンテンポラリー。僕は舞台で踊るのが好きだったんですけど、今の時代はそれでは広がりが見えない。だから、ダンスを「美しい」から「かっこいい」に変えていったんです。土屋太鳳さんにSiaの曲の振り付けをしたあたりから変えていきました。「かっこいい」の中に「美しい」を入れるようにすれば良いんじゃないかと思って。

三船:確かに今の時代って、「美しい」より「かっこいい」ものの方がもてはやされていますよね。時間をかけて味わう美しさより、一瞬で伝わるかっこよさの方がわかりやすいというか。でも、辻本さんみたいなバックグラウンドを持ったダンサーって珍しいんじゃないですか?

辻本:当時はそうでしたね。今はバレエとストリートダンスの両方をやる人は増えてきたけど、僕が20代の頃はバレエをやるって言ったらバカにされましたから。でも、それでよかったんです。そういう時代でバレエをやっていたから先駆者になれた気がする。

三船:僕も似たようなところがあって。J-POPとは違うサウンドの音楽を日本語で歌っている人があまりいなくて。デビューした頃にインタビューを受けると「こういう音楽なのに、なんで英語で歌わないんですか?」って、結構聞かれたんですよ。なぜそんなことを言うんだろう、ととても傷ついたけれど、そこに自分なりの反骨心が芽生えたのは確かですね。今はそういう気持ちでやり続けてきてよかったと思います。そのおかげで、今はロットのサウンドを信頼してくれる人達が助けてくれている。

「見えている」か「見えていない」か

——オリジナリティを評価してもらえるようになるまでが大変なんでしょうね。

三船:そうなんですよね。ちょっと素朴な質問があるんですけど、ダンスを見ていると辻本さんみたいに体の隅々までコントロールできている人と、そうでない人がいるような気がするんです。その違いがなんだろうと思って。

辻本:なんだろうな。まず経験値の問題なのと、それとは別に経験値があってもわからない人がいるんですよね。センスの問題というか、自分の状態が見えてない。例えば僕が振り付けを教える時に、パッとポージングをやって、そこで少しズラしたとしても勘のいい子はついて来るんですよ。けど、わからない人は角度を変えたこととかが見えていない。

三船:なるほど。「見えてない」っていう感じはわかります。やっぱり最後はセンスだと思うんですよ。それは歌でも同じ現象が起こっていて、ライブを見ていてもよくわかる。歌い方や演奏の仕方でそういうことが伝わってくるんです。

辻本:表現方法が違っても通じるものはありますからね。そこでは同じことが起きていると思うんですよ。だから僕はすべてのことをダンスに置き換えて考えるようにしているんです。そうすると物事がわかりやすくなる。そう言えば、僕は絵を描くのも好きで、なぜ好きかっていうと自分が見たいからなんです。どこまで描けるのかを。だから公開するつもりはなかったんですけど、今日は絵を1枚持って来たんです。三船さんにプレゼントしようと思って。

三船:まじですか!

辻本:ロットが好きだっていう証拠を示そうと思って。

三船:(プレゼントされた絵を見ながら)うわあ、すごいですね。宝石のようでもあり、鳥のようでもあり、タツノオトシゴのようでもあり。素敵です。

辻本:ずっと部屋に飾っていたので画鋲の跡があるんですけど。今日、「三船さんにプレゼントしよう」と突然思いついて。

三船:僕はよく写真を撮っているんですけど、今度プリントして差し上げます。

辻本:ありがとうございます。ダンスでよく言ってるんですけど、集中した体はいつでも美しい。だから絵も集中して描く。集中の連続なんです。

三船:これは集中しないと描けない絵ですね。この細かさ。絵に辻本さんのダンスの感覚があるような気がする。自分が集中したものに誰かが喜んでくれる、というのは音楽も同じだと思う。

「人間じゃないもの」へのメッセージ

——辻本さんはロットの音楽にどんな印象を持たれていますか?

辻本:ロットってアルバム1枚で1つの世界があるような気がして、アルバム1枚をずっと流しているんです。ロットの場合は曲単位で聞いてないんですよ。そうすると、聴くたびに踊りたい曲が変わる。「今だったら、この曲で踊れるんじゃないかな」っていう曲が出てくるんです。それが昔だったら選んでいなかった曲だったりするんですよね。そういうことは初めてです。

——おもしろいですね。ロットの曲で辻本さんが踊っている映像を見て、辻本さんが音楽を体にまとっているようにも見えました。

辻本:音楽って空気の振動で目に見えないじゃないですか。でも、素敵な音楽が流れた時に、ここ(体の周辺)に振動があるんだろうなって想像するんです。そして、その振動に体を当てる感覚が好きというか。絶対、音楽が体に当たってるはずなんですよ。それを(ダンスで)表すだけでいいんです。でも、それは素敵な音楽限定なんですけど(笑)。

——リズムやメロディーに合わせるのではなく振動に体を当てる。

辻本:音の中にいれば必ず体が響く。ダンスってアメーバみたいに生まれるものだと思います。細胞を伸ばしたり縮めたりする動きがダンスになっていく。

——歌も身体表現ですよね。

三船:そうですね。のどだけじゃなくて全身を使わないと歌えないし、体のどこかが悪いとのどもダメだし。キャリアを重ねるごとに表現の解像度が高くなってきた気がしていて、自分に課す要求も高くなってきた。ヴォーカルを録るのにも随分時間がかかるようになりました。

辻本:ロットのアルバムを聴くようになった時に、最初に「これなんだろう?」って思ったのが歌声だったんです。天国という場所があるのなら、この声で行けるんじゃないかって(笑)。ゴスペルとか讃美歌に近いものを感じたんです。

三船:自分が歌うとそういう風になっちゃうんですよね。声を重ねてハーモニーにすると浮遊感が生まれる。でも、もっと地に足着いた、歌い方をしたかったんですけど、最初からできなかったんです。だからこの声を受け入れるしかないなって。ゴスペルも讃美歌もクラシックも好きだけど、自分は「人間じゃないもののために歌う」っていうイメージが好きなんです。

——人間じゃないもののために歌う?

三船:人間のことしか意識していないものってあまり好きじゃなくて。人間以外の全部をインクルードして、そこからまた人間に降り注いで、最終的に人間のことは好きだったり嫌いだったり、不安を感じさせたり慈愛に満ちていたりする。そういう音楽やアートが好きなんです。人間だけを描いている作品はあまり心に響かない。

辻本:僕はダンスをするようになってから、素敵な木を見ると踊るようになりました。なんでもない木には反応しないんです。大自然の中に立派な木があったりすると、まず触りたくなる。で、生きているのを感じると、僕が踊ったら喜ぶだろうなって思っちゃうんですよ。

三船:へえ、おもしろいなあ。

辻本:そういうことをやりだしてから、ダンスは人間のためだけにあるものじゃないと思うようになって。景色が良いから踊ったり、動物の前で踊ったりするようになったんです。インドネシアで野良犬の前でこういう(犬が威嚇するような)ジェスチャーをやったら、野良犬がすごい勢いで走ってきたので逃げました(笑)。

三船:あはは、最高!

辻本:動物が殺気立った瞬間の動きって絶対きれいだし、それはダンスに使えると思うんですよ。

三船:辻本さんの動きを動物が見れば反応しますよ。最近、ロケ先に牛とか鹿とか動物がいることが多くて、よく会話していますね。雪山で歌った時は、山の中にいるキツツキの存在を感じながら歌っていました。動物達に話しかけたり歌ったりすると、じっとこっちを見て聞いてるんです。言語は違っても同じ動物だから伝わるものがあるんでしょうね。

——歌も踊りも神様に奉納する芸能という側面があるじゃないですか。お祭りで歌や踊りは欠かせない。だから「人間じゃないもの」へのメッセージでもあるんでしょうね。

辻本:神様の前で踊るのも好きなんです。僕は神様は見えないけど存在すると思っていて。だから、神様に自分の心をのぞかれているように思えて、神社に行く時は清い気持ちでいるようにしているんです。そして、自分の心を表すように神様の前で踊る。

「インターネットでわかることより、その向こう側にある情報の方が圧倒的に膨大」

——神様といえば、辻本さんは舞台版『千と千尋の物語』で「カオナシ」を演じられますね。

辻本:今は体を作ってる状態ですね。あとは演出家がどう言うか。この前、1回だけ演出家のワークショップを受けて、そこでハッとしたのは、「(カオナシは)すごく『悲しみ』を背負っている」って言われたんです。それは僕の頭になかったんですよね。そこは忘れないでおこうと思って、ずっと気に留めてます。踊りとかじゃなく、立ち姿で悲しみを表現できたら良い感じになるんじゃないかなと思って。

三船:何にもなれなくて、夢がなくて、金をバラまいたら好きな子が振り向いてくれるんじゃないかって思っている。そんなカオナシは現代の若者の象徴みたいなやつじゃないですか。自信がなくて、自分が何者か見つけられてない。そんな辻本さんと真逆なやつを辻本さんが体だけでどう表現するのか楽しみですね。本番前までは何も情報を入れずに舞台を見に行こうと思っています。この対談の時も辻本さんのことはネットで調べたりしなかったんです。ネットの情報では何も見えてこないし、5秒で誤解させられるんで。

辻本:僕もロットのことは知りたいけど知りたくないというか。若い頃は「知りたい!」と思ったらガッと調べたけど、今だったらゆっくりと時間をかけて知る過程を楽しみたい。ネットで情報を仕入れるより、直接会って話をしたい。

三船:インターネットでわかることより、その向こう側にある情報の方が圧倒的に膨大なんです。こうして話をしていることの方が、ネットでわかることよりはるかに情報量は多い。この瞬間に自分が体を通じて受け取ったことを大切にしたいんです。クリエイターやアーティストの人達とは、時間を一緒に共有することが重要だと思っていて。辻本さんと何かを生み出していく、ということは、もうこの対談から始まっているような気がします。

辻本:僕の目標はロットのライヴで踊ることなんですけど、それも僕にとっては会話なんです。会話を積み重ねていきながら、そこにたどり着きたいと思っています。

——これから2人の「会話」が始まるわけですね

三船:末長く見守ってください(笑)。

ROTH BART BARON
三船雅也(vo/g)を中心に、東京を拠点とし活動しているフォーク・ロック・バンド。2014年に1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を制作。2019年11月に4thアルバム『けものたちの名前』を発表し、「ミュージックマガジン」ROCK部門第3位をはじめ多くの音楽メディアにて賞賛を得た。活動は日本国内のみならずUS・ASIAにも及ぶ一方、独創的な活動内容と圧倒的なライブパフォーマンス、フォーク・ロックをルーツとした音楽性で世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文主宰 “APPLE VINEGAR MUSIC AWARD 2020″にて大賞を受賞。2020年10月には5thアルバム『極彩色の祝祭』を、2021年11月には6thアルバム『無限のHAKU』をリリースした。
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辻本知彦
18歳よりダンスを始め、2007年にはシルク・ドゥ・ソレイユに日本人男性ダンサーとして初めて起用され、2011年から『Michael Jackson The Immortal World Tour』に参加し、27ヵ国485公演に出演する。2010年には森山未來と「きゅうかくうしお」を創設し活動を展開する。「東京2020オリンピック」開会式出演。NHK2020応援ソング『パプリカ』の振付を菅原小春と共作する。また、Siaの『Alive』日本版ミュージックビデオ(MV)での土屋太鳳への振付、米津玄師の「感電」MVや、第69回NHK紅白歌合戦での米津玄師『Lemon』の菅原小春への振付、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)オープニングダンス振付、CM「ポカリスエット」「UQモバイル」など、多岐にわたって活動する。TBS系『情熱大陸』、NHK総合『NHKスペシャル』、Eテレ『SWITCHインタビュー 達人達』などの各メディアへの出演も多数。
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■ROTH BART BARON Tour 2021-2022『無限のHAKU』
2022年
1月29日(土)石川 金沢 ARTGUMMI【公演延期】
1月30日(日)静岡 磐田 BARN TABLE【公演延期】
2月5日(土)札幌 モエレ沼公園”ガラスのピラミッド”
2月6日(日)札幌 ペニーレーン24
2月11日(金)福岡 BEAT STATION
2月12日(土)熊本 早川倉庫
2月13日(日)鹿児島 SR Hall
2月18日(金)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
2月19日(土)香川 高松 DIME
2月20日(日)広島 CLUB QUATTRO
2月25日(金) 名古屋 THE BOTTOM LINE
2月26日(土)仙台 darwin
<Tour Final>
4月9日(土)東京 国際フォーラム ホールC
TICKETS NOW ON SALE
https://www.rothbartbaron.com

Photography Hironori Sakunaga
Edit Atsushi Takayama(TOKION)

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ROTH BART BARON × ダンサー・辻本知彦 対談前編——「ロットの曲は価値観を変えてくれる」 https://tokion.jp/2022/01/01/roth-bart-baron-masaya-mifune-x-tomohiko-tsujimoto-part1/ Sat, 01 Jan 2022 12:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=87640 ROTH BART BARONの三船雅也とダンサーの辻本知彦による初対談。対談は前編と後編の2回。前編では、辻本がROTH BART BARONを知った経緯から言葉とダンスの違いについて。

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フォークをベースにしながら、エレクトロニクス、ホーン、ストリングスなど多彩な要素を加えた独自のサウンドで注目を集めるバンド、ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)。リリースされたばかりの新作『無限のHAKU』では、これまで以上に緻密に作り込まれた音作りで新境地を切り開いた。そんな彼らの音楽は国内外のアーティストに刺激を与えているが、その1人がダンサーの辻本知彦だ。シルク・ドゥ・ソレイユに日本人として初めて起用された辻本は、東京2020オリンピック開会式出演。米津玄師、RADWIMPS、Siaなど、さまざまなアーティストのミュージックビデオで振り付けを担当してきた。そんな辻本にとって、ROTH BART BARONの音楽は自分の体に一番フィットするという。

そこで今回、ROTH BART BARONの中心人物、三船雅也と辻本知彦が初顔合わせ。音楽、言葉、身体など、さまざまな話題を行き交うトーク・セッションを前編と後編の2回に分けてお届けする。辻本がROTH BART BARONと出会った経緯から、お互いの創作に対する向き合い方、言葉とダンスの違いなど、興味の赴くままに2人が語り合う。

——辻本さんはどのようにしてROTH BART BARON(以下、ロット)のことを知ったのですか?

辻本知彦(以下、辻本):僕のアシスタントがストレッチや練習をする時にかけていたんです。『けものたちの名前』とか『極彩色の祝祭』なんかを。それを聴いて、めちゃめちゃ良いなあ、と思って。それで、いろんなところでかけるようになったんです。さも、自分が見つけたように(笑)。

——そのアシスタントがロットのファンだった?

辻本:どこで見つけたんだ? って聞いたら、ダンスのクラスで使っている先生がいて、それで知ったみたいです。

三船雅也(以下、三船):マジですか。自分では踊れない曲を作っていたつもりだったのに(笑)。

——辻本さんはロットを聴いて、どんなところに惹かれました?

辻本:一番は体に合うところですね。踊っていて気持ちがいい。三船さんの声の響かせ方とか歌い方が自分のダンス感にフィットするんです。三船さんの歌声って楽器に近い気がする。僕は楽器ではストリングスとハンドパンが大好きなんですけど、三船さんの声はストリングスの伸ばし方やハンドパンの心地よい音色に近い。

三船:そうなのかな。倍音の持続感みたいなところは近いかも。

——他に好きな声ってありますか?

辻本:最近、日本の曲をよく聴くようになったんですけど、声が好きだと思えるのは。アイナ・ジ・エンドとかmilet、yamaとかですね。

——インストはあまり聞かない?

辻本:昔はインストをよく聴いてました。やっぱり、ダンサーとして自分が主になりたいので、歌詞がある曲では踊ってなかったです。でも、MVの振り付けをするようになってから、「歌詞が入っているのに踊れるか?」っていう挑戦をするようになりました。

——歌声が曲のメインだとしたら、ダンサーはそこでどんな風に存在すべきなのか。立ち位置が難しいですね。

辻本:そう。だから今は自分が主役というより、一緒に闘うって感じです。時には譲り合うこともある。例えば曲のサビ。普通、ダンサーならガッと前に行きたくなるけど、逆にそんなに踊らないようにするとか。

——ロットの曲で踊っている時はどんな感じですか?

辻本:ロットの曲は僕がどれだけ失敗しても拾ってくれるというか。表現が行き過ぎたりしても、曲全体の中では失敗にならない。普通の曲だと「外れた」って感じてしまうことがあるんですけど、(ロットの曲は)「これもありなんじゃないの?」って思わせてくれる。音楽が直線的じゃなく、どんどん広がっていくような感じ。僕の印象ではアートに近い。

——ーーアートに? 興味深い話ですが、辻本さんにとってアートとはどういうものなのでしょうか。

辻本:価値観が変わるものかな。アートは新しい価値観を示してくれる。

三船:確かに優れたアートは世界を変えてくれますね。美術館を訪れてインスタレーションを観たりするんですけど、そこで価値観が変わる瞬間がすごい好きだし、そういうものに影響を受けてきた。音楽も聴く前と聴いた後で自分が全然違う感覚になってるものが好きだし。そういうものを作りたいと思ってきたので、辻本さんに〈アート〉って言ってもらえたのはすごく嬉しいですね、そんな風に言ってくれたのは辻本さんが初めてかもしれない。僕は辻本さんのダンスを生で見たことがないし、ダンスに詳しいわけでもないから偉そうなことは言えないけど、映像で見る限り辻本さんのダンスもアートだと思います。

辻本:よかったら、すぐここで踊りますよ!(笑)。

「ダンスは言葉にはならないことを表現できるけど、一方で言葉のわかりやすさにも惹かれる」

——三船さんは辻本さんがリハーサルでロットの曲で踊る映像を見られたそうですが、どうでした?

三船:「あ、俺の曲で踊ってる!」みたいな、ちょっと恥ずかしい気持ちもありつつ(笑)、辻本さんの体を通して自分の曲を伝えられるみたいな気がしました。辻本さんのダンスを通じて、自分が意図していなかった、全然違った角度から曲を受け取ることができる。「俺が作っていたのはこういうものだったのか」って、辻本フィルターを通してフィードバックが返って来るっていうか。

辻本:どんな映像を見られたのかわからないんですけど、今日、初めてロットの曲で踊った時の映像を持ってきたんです。ここで見てもらってもいいですか? (PCをとり出して映像を流しながら)この取材のための自分なりのストーリーがあって、今日は踊った時に着ていた服できたんです。ほら、同じでしょ?(笑)。

初めてロットの曲で踊った時の映像

三船:そうなんだ! 嬉しいな(笑)。

辻本:(映像を一緒に見ながら)今、こうして自分のダンスを見てて思うのは、いつもだったらもっと攻めるんですよ。でも、ここでは引いている。曲が“行ってくれる”から自分は落ち着こうと。

三船:このダンスを見たら毛穴が開きますね。この動き!

辻本:(ロットの曲は)歌詞からもすごく刺激されるんです。好みの言葉が耳に入ってくる。例えば「永遠」とか言われると、それだけでグッときちゃうんです。人が生きて死ぬまでに問わなくちゃいけないようなサゼスチョンや「?(はてな)」もくれる。「アイスクリーム」って何だろう? とか.

——ダンスをする時には歌詞も重要なんですね。三船さんは歌詞を書く時に意識していることはありますか?

三船:毎回、言葉が出てくるまで、広い海に釣り糸を垂らしている感じですね。6時間、ずっとテーブルやコンピューター、ノートの前に座って、「1行出た」とか「1個も出なかった」とか。道を歩いてて思い浮かぶこともあるし、誰かの表現を見てすごく泣きたくなった時に、ダムが決壊したように出る時もある。そうやって、言葉を1つ1つ紡いでいくしかない。

人が言葉を紡ぐっていうのは、自分の領域から外に出たい、という気持ちの表れでもあると思うんですよ。マサイ族が重力から逃れようとして、ぴょんぴょんジャンプするみたいに。だから自分が歌詞を書く時は、「自分の殻を破って出られるのか?」ということを言葉に入れたいというか、勝手に出てきてしまう。そういうものに辻本さんが反応してくれているような気もします。自分がいる世界から飛び出したい、という気持ちはロックもダンスも同じだと思うし。

辻本:ほんとに不思議だな、と思うのは、「あ」と「い」がつながって「愛」になるんですよね。そのシンプルなメカニズムが素晴らし過ぎて。前に舞台で(ダンスで)五十音を作ったことがあるんです。でも、それで「あ」と「い」をつないでも「愛」にはならないんですよ。素直に「愛」って言えるダンスが欲しい。ダンスって抽象的だから、そのなかで具体的なものを見つけたいと思っていて。だから言葉には嫉妬するんですよ。ここは言葉で簡単に言えたらなって思うこともあるし。

三船:なるほど。面白いですね。

辻本:僕らは言葉にならないことをダンスでやってるんだっていう自覚はすごくあります。言葉を使わないからこそ、言葉にはならないことを表現できる。その一方で、言葉のわかりやすさにも惹かれる。だから最近では、ピクトグラム的なものも入れるようにしているんです。こんな風に(指でハートの形を作る)わかりやすいものを。そうすると見ている人にすぐ伝わるので。以前はわかりやす過ぎて嫌だったんですけど、最近は(見る人の気持ちを)誘えるように入れるようにしています。

三船:音楽では、言葉だけじゃなく、メロディーや楽器の音色がそういうピクトグラム的な役割を果たすことがあって。曲のピークのところにそういうものを持って来て、そこに隠し味のように自分の言いたいことや、やりたいことを潜ませる。そのピークのところをどういう風に見せるかはすごく吟味しますね。

辻本:普通の楽曲だとAメロ、Bメロ、サビっていうシステムがあるじゃないですか。ダンスもそんな風に作るべきなのか、以前は悩んで歯向かったりしてたんですよ。歌詞が違うんだからダンスも全部変えてやれ、と思って。でも、そうすると覚えないといけない振り付けの量が半端ない。それに振りが一緒で歌詞が違うほうが、歌詞が入ってくるんですよね。昔は決まりごとに反発して自分のアインデンティティを出すタイプだったんですけど、今は先人の恩恵を受けてやるべき、と思うようになってきました(笑)。

既存のものを再定義して中指を立てる

三船:既存のものを再定義して中指を立てるっていう姿勢は僕も同じです。辻本さんがやった「ポカリスエット」のCMのダンスも中指立ててましたよね。それまでのポカリのCMって、みんながハッピーに踊ってる感じで、見てて「ここに俺はいない」って思ってた。でも、辻本さんのダンスはクラスの隅っこにいるような奴の逆襲感があって楽しかったし、見てて励まされたんですよ。

辻本:あれは好きなようにやってよかったんですよ。それで曲を聴いてそのイメージでやったんですけど、おちょくっているのに攻めた感じで振り付けをしました。

三船:あれはおちょくりだったんだ。

——三船さんは「ポカリスエット」のCMにA_oというユニットで「BLUE SOULS」という曲を提供していましたね。辻本さんのヴァージョンは生徒たちの爆発、といった感じでしたが、三船さんが曲を書いたヴァージョンは一人の少女に焦点を当てた映像になっていました。

三船:そう。1人の人間の葛藤ですね。監督が「極彩|IGL(S)」を聴きながら絵コンテを書いていたそうで、アコギをかき鳴らして歌ってほしいって言われたんですよ。監督も俺もレオス・カラックスが好きだから、カラックスみたいな感じで行こう! っていうことになって、1人の少女が荒波に向かっていく疾走感を意識して曲を書きました。

辻本:あのCMもいいですよね。CMでは1分しか曲が聴けなかったけど、新作(『無限のHAKU』)には全部入っててよかった。あ、そういえば、あの曲はアイナと一緒に歌ってたじゃないですか! そんなつもりでさっき名前を出したわけじゃなかったけど。

三船:そうなんですか? そんなつもりで言ったんだと思ってた(笑)。

辻本:新作ずっと流しっぱなしで聴いてますよ。びっくりするくらい連続で、4回も5回も続けて聴いてます。あえて深く聴きこまないようにして、そこで何が自分の中に残るんだろうって思っていたら、それがさっき言った「アイスクリーム」だったんです(笑)。

後編に続く

ROTH BART BARON(左)
三船雅也(vo/g)を中心に、東京を拠点とし活動しているフォーク・ロック・バンド。2014年に1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』を制作。2019年11月に4thアルバム『けものたちの名前』を発表し、「ミュージックマガジン」ROCK部門第3位をはじめ多くの音楽メディアにて賞賛を得た。活動は日本国内のみならずUS・ASIAにも及ぶ一方、独創的な活動内容と圧倒的なライブパフォーマンス、フォーク・ロックをルーツとした音楽性で世代を超え多くの音楽ファンを魅了している。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文主宰 “APPLE VINEGAR MUSIC AWARD 2020″にて大賞を受賞。2020年10月には5thアルバム『極彩色の祝祭』を、2021年11月には6thアルバム『無限のHAKU』をリリースした。
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辻本知彦(つじもと・ともひこ)(右)
18歳よりダンスを始め、2007年にはシルク・ドゥ・ソレイユに日本人男性ダンサーとしてはじめて起用され、2011年から『Michael Jackson The Immortal World Tour』に参加し、27ヵ国485公演に出演する。2010年には森山未來と「きゅうかくうしお」を創設し活動を展開する。「東京2020オリンピック」開会式出演。NHK2020応援ソング『パプリカ』の振付を菅原小春と共作する。また、Siaの『Alive』日本版ミュージックビデオ(MV)での土屋太鳳への振付、米津玄師の『感電』MVや、第69回NHK紅白歌合戦での米津玄師『Lemon』の菅原小春への振付、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)オープニングダンス振付、CM「ポカリスエット」「UQモバイル」など、多岐にわたって活動する。TBS系『情熱大陸』、NHK総合『NHKスペシャル』、Eテレ『SWITCHインタビュー 達人達』などの各メディアへの出演も多数。
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■ROTH BART BARON Tour 2021-2022『無限のHAKU』
2022年
1月29日(土)石川 金沢 ARTGUMMI
1月30日(日)静岡 磐田 BARN TABLE
2月5日(土)札幌 モエレ沼公園”ガラスのピラミッド”
2月6日(日)札幌 ペニーレーン24
2月11日(金)福岡 BEAT STATION
2月12日(土)熊本 早川倉庫
2月13日(日)鹿児島 SR Hall
2月18日(金)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
2月19日(土)香川 高松 DIME
2月20日(日)広島 CLUB QUATTRO
2月25日(金) 名古屋 THE BOTTOM LINE
2月26日(土)仙台 darwin
<Tour Final>
4月9日(土)東京 国際フォーラム ホールC
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Edit Atsushi Takayama(TOKION)

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