飯嶋 藍子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/aiko-iijima/ Wed, 22 Dec 2021 11:19:31 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 飯嶋 藍子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/aiko-iijima/ 32 32 YEAH BOiii COLEが語る日本で得たインスピレーション 身体・心・魂の繋がりについて https://tokion.jp/2021/09/09/yeah-boiii-cole-talks-inspiration-from-japan/ Thu, 09 Sep 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=58294 DNCEのメンバー、コール・ウィットルがソロデビューアルバム「ANTIBODY SUPERSOUL」を発表。日本で得た不思議な感覚とインスピレーションを語る。

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現在無期限活動休止中のDNCEのメンバーであり、これまでもYasei CollectiveやSEKAI NO OWARIなど日本アーティストともコラボレーションしてきたコール・ウィットルが、YEAH BOiii COLEとしてソロデビューアルバム「ANTIBODY SUPERSOUL」を完成させた。そのタイトルからもわかるように、アルバムの土台には“身体”“心”“魂”という3つの調和についての深い思考や体験がある。何度も日本を訪れ「日本が大好き!」と語るコールが日本で得たインスピレーション、それを音として形にするまでの道のり、そして自分の精神性・身体性への向き合い方についてじっくり語ってもらった。

ソロプロジェクト始動のきっかけとなった日本での体験

−−コールさんはDNCEのメンバーとして知られていますが、そもそもソロ名義のYEAH BOiii COLEとして活動を始めたのはなぜだったのでしょう?

コール・ウィットル(以下、コール):ソロ名義での活動のきっかけは日本を訪れたことが大きいんです。2009年に初めて日本を訪れて、そのあとDNCEでもたくさん日本に行くようになって。そのなかで強烈なスピリチュアル体験というか……人や自然、いろんなものとコネクトする感覚を人生で初めて覚えたんです。自分が今正しい場所にいると思えたし、「自分とはなんなのか?」みたいな大きな問いにもつながるような、そんな体験だったんですよね。そういう不思議な感覚を表現するために始めたのがYEAH BOiii COLEです。

——自身で展開しているアパレルブランド「YEAH BOiii Official」も、“KANPAI”“ヤバイ”など日本語のロゴが印象的ですよね。

コール:日本に行った時に「ヤバイ」って言葉を覚えて(笑)。僕ももともと「YEAH BOiii」っていう言葉が口癖で、「ヤバイ」と響きが似ているじゃないですか。で、「ヤバイ」って、元は悪い意味だったけど、いい意味に変化した言葉だと教えてもらい、それがいいなって思ったんです。「YEAH BOiii Official」は、世界で困窮している若いホームレスをサポートすることを目的に始めたブランドで、日本やニューヨーク、いろんな場所のストリートカルチャーを通して、世界中の若者たちに「グローバルハグ」したいと考えています。

「YEAH BOiii Official」のプロダクト「カルトマスク」

“身体”と“心”と“魂”の3つの要素の調和への意識

——そういった活動も国を越えて行っていらっしゃいますし、そもそもコールさんはこれまでに世界各国で演奏され、いろんな国の多様な人々と関わられてきたと思うんです。そのなかでさっきおっしゃっていた日本で感じた感覚って、どんな特別感があったのでしょうか?

コール:なんだか古い友達に会ったような感じっていうか。僕のすべてがリラックスした感じがしたんですよ。もちろん日本の文化や「カワイイ」みたいなこともすごく素敵なんだけど、それ以上に日本ではどこに行っても素敵な出会いがあったし、運命的な出来事がぱっと起こったり、インスピレーションも湧きやすかった。これはすごく感覚的なことなので、言葉にするのが難しいのですが、何かにうしろから支えてもらっているような、そんな感覚を覚えたんです。

YEAH BOiii COLE – I WILL GO TO SPACE (Official Music Video)

——いわゆる「ピンと来た」っていう感じですよね。

コール:そうですね。僕、代々木公園に行って、満開の桜を見たんですよ。普通にみんなにとっていい景色だと思うんですけど、それがすごく特別だった。そこで何枚も写真を撮ったら光の玉みたいなものが写っていて。そういう不思議な体験を通して、何かに愛されているような、正しい場所にいると思えるような、そんな気持ちになったんですよね。そういうインスピレーションを持ち帰って、YEAH BOiii COLEで表現しています。

——今回、ソロデビューアルバム「ANTIBODY SUPERSOUL」が発表となりました。遊びもあるんだけど、音数は少なくて鋭い、ある種引き算の美学みたいなものを感じました。実際に日本で得た感覚はアルバムにどのように反映されていますか?

コール:「ANTIBODY SUPERSOUL」全体を通していうと、生きとし生けるものとの対話、“身体”と“心”と“魂”の3つの要素の調和がコンセプトです。たとえば、「CLOUD IN THE SKY」という曲は、“心”と“魂”の関係性を歌った曲。普段僕たちがあまり意識しない“魂”を果てしなく広がる空だとすると、そこに“心=感情”という雲が流れていって、“魂”の空模様が変化していくということを表現しています。

「世界からいなくなりたい」とまで感じながら始めたアルバム制作

——コールさんはメンタルヘルスのトピックを中心としたPodcast「AGGRESSIVE KINDNESS」も行なっていますよね。今のお話からも、心身についてかなり意識的に考えていらっしゃるんだなと思ったのですが、いつ頃から身体や精神について考えるようになりましたか?

コール:日本での体験にやっぱり繋がるのですが、まず、日本でのインスピレーションを受けたあと、2019年に僕にとってすごく辛い時期があって。正直、この世界からいなくなってしまいたいとまで思っていたんです。

AGGRESSIVE KINDNESS – EPISODE #16 (FULL)
YouTubeでも配信している「AGGRESSIVE KINDNESS」。コールは音楽制作もこの部屋で行なっている

——つまり、“身体”と“心”と“魂”がちぐはぐになっている感じがした?

コール:まさにそうです。なんていうか、具体的にこんなことがあったというわけではなく、本当は愛情深くて創作意欲にあふれている“魂”があるはずなのに、“心”がそれを邪魔しているような感覚を覚えていました。僕が持っている才能——才能っていうのはめちゃくちゃすごいものってことじゃなくて、一人ひとりがそれぞれに持っている個性みたいなものを最大限に活かせていないという気持ちが強かったんです。それに加えて、当時は失敗することに対する恐怖感もすごかった。でも、そもそも生きていることに疑問があるなら失うものなんてないから、世界からいなくなる前に自分をまた新たな存在に作り変えてみることができるんじゃないかと思い、このアルバムを作り始めました。

——制作の過程でその不安感や不足感はなくなっていきましたか?

コール:そうですね。結果的にこのアルバムを作ることによってすごく救われました。こういう話って、ちょっと「え?」って思われてしまうこともあるんですけど、2019年に辛い時期に突入したあと、日本へ一人旅したんです。その時やっぱりインスピレーションが降りてくるような感じで、人生がどんなに素晴らしいギフトであるかとか、一人ひとりがどれだけ唯一無二で完璧な存在であるかということに気づくきっかけになりました。

——それを具体的に音として落とし込むために、どんな工夫をしましたか?

コール:まず、自分を子ども時代に戻すということを意識しました。僕はひとりっ子だったこともあって、子どもの頃から心地のいいひとりの空間を作って、そこに隠れて、自分の世界に没頭して絵を描いたり、音楽を作ったりしていたんです。子どもながらに、なんだか自分の考えがひとつにまとまっているような、集中した状態だったということを覚えていて。だからその時の感覚で3年間、同じ部屋に閉じこもって今回のアルバムを作ったんです。突然深夜に目が覚めて、「こんなふうにしたらいいかも!」っていうふうに思いついて、次の日の昼まで作るみたいなことを繰り返していました。

——「考えがひとつにまとまっている状態」というのは、“身体”と“心”と“魂”がひとつになっているような感覚とも近いですか?

コール:ひとつになるというよりは、一つひとつが並んで調和された状態っていう感じですね。そのなかで“心”は思考によって感情の起伏が芽生えるけれど、“魂”って教育の影響も受けなければ、そもそも根拠のないものだし、意識的なるものでもない。でも、僕は生きるうえですごく重要な要素だと思っていて。たとえば、20年くらい会ってなかった友達に突然出くわしたり、愛する人に出会ったり……そういうセレンディピティの瞬間や、なんでかわからないけど直感的に身体が動く時、僕は“魂”が身体を動かしていると思っています。そういう直感的な体感を日本で得たからこそ、“魂”が人生のハンドルを握りつつ、“身体”と“心”と調和している状態が大切だと思ったので、今回のアルバムではそれを伝えられたらと思っています。

シリアスな面もパーティーボーイな面も。人生の多面性を表現

——DNCEを含め、コールさんがやってこられていた音楽って“身体”や“心”に寄った楽しい空気をもたらしてくれるイメージがあったので、今回のアルバムのコンセプトや“魂”についてのお話はなんだか意外でした。

コール:予測不可能でしょ(笑)。あんまり予想されたくないから、意外という言葉は嬉しいですね。今は、地球上にある問題っていうよりは自分にフォーカスして音楽を作っているんですよね。そのなかで今回のアルバムはすごくシリアスな部分もあるけれど、僕はもちろんパーティーボーイでもあって、その両面をしっかり出せたと思います。

——その多面的なパーソナリティを絡ませ合いながら音に昇華しているのが伝わってきます。

コール:人生ってフラットなものじゃなくて波があるし、生きとし生けるものすべてがそうだと思うんですよね。みんな優しい面、ワイルドな面、真剣な面、楽しい面、クレイジーな面ってたくさんある。そういういろんな面をすべてひっくるめて僕は大切にして生きていきたいと思っています。だからすべての人に聴いてほしいんだけど、もちろん誰かに認められるために作ったわけではないし、あくまで自分の体験をもとにした表現ですから、みんなが理解してくれるとは思っていなくて。でも、すごくダイナミックでドラマティックな音作りをしたから、もし僕が本当に伝えたい“身体”と“心”と“魂”みたいなことがわからなくても、聴いたら絶対楽しんでもらえると思います。身体性やスピリチュアルなことに意識的じゃない人でも、僕というクレイジーな人間を通して、そういう部分を意識するきっかけになったら嬉しいです。

——コールさんのパーティーボーイな部分はすごくサウンドに表れていますし、そこからディープなほうに潜っていく人はたくさんいそうですよね。

コール:まさにそれをしたいんですよね! 音楽性はちょっとアグレッシブな感じに捉えられるかもしれないんですけど、Podcastではその一面をかなり抑えてメンタルヘルスや身体性をもうちょっと具体的に発信しています。Podcastを含め表現することは僕にとって辛い時期を乗り越える助けになりました。それを経て今、超いい感じです。このアルバムが完成した時点で、もうなんでもできると思えるような気持ちになりました。このアルバムに込めた“身体”“心”“魂”についてのメッセージがどのように人に伝わるのか、どのようにそれが人の助けになるのかがとても楽しみです。今、もうすでに次のアルバムの制作を始めているんですよ。次は、どちらかというと“心”に寄っていて、喜びや楽しさのハーモニーを表現していこうと思っています。あと僕はビジュアルアーティストとしてMV制作にも力を入れているので、いろんなかたちの作品を見ていただけたら嬉しいです。

YEAH BOiii COLE
Semi Precious Weapons、DNCEのメンバーとして、ベース、ギター、キーボードなど様々な楽器を担当。ソロ名義のYEAH BOiii COLEとして「ANTIBODY SUPERSOUL」をリリース。音楽活動だけでなく、困窮する若者やホームレス支援を目的としたアパレルブランド「YEAH BOiii Official」の展開や、ビジュアルアーティストとしての活動も行っている。
Twitter:@YEAHBOiiiCOLE
Instagram:@yeahboiiicole
Podcast:@AGGRESSIVE KINDNESS with YEAH BOiii COLE

Photography Johnny Florin Komar 

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フィッシュマンズはなぜ心を揺さぶるのか? 茂木欣一が語る「日常こそがドラマチック」 https://tokion.jp/2021/08/23/why-is-fishmans-so-evocative/ Mon, 23 Aug 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=52374 プライベートスタジオでしか録れなかった歌、ドラムの1音への責任。生き物のように変化するバンドに一貫する「日常」への目線とエネルギー。

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フィッシュマンズがデビュー30周年を迎えた。その音と言葉の根幹を担っていたヴォーカル佐藤伸治が急逝し20年以上が経った今も、彼らの音楽はエネルギーを保ったまま、時間と逆行するように、世界にまで広がり続けている。

ドキュメンタリー映画『映画:フィッシュマンズ』の公開、書籍『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』や『別冊ele-king 永遠のフィッシュマンズ』の出版などが重なる30周年真っ中の今、結成当時からバンドとともに歩み続けてきたドラマー茂木欣一にインタビューを行い、フィッシュマンズが音楽を通して構築してきた世界やありふれた日常に向けての視点など、じっくり語ってもらった。

ずっと虜になっている「音楽が連れていってくれる」という感覚

——佐藤伸治さんは「バンドは、つづければ、つづけるほど、よくなるんだよ」という言葉を残されていますが、茂木さんにとって「30周年」と聞くと、まずどんな思いを抱かれますか?

茂木:不思議なことに、そんなに経ったのかなあって。ただ、サトちゃんと一緒に過ごしたのは12年くらい。もう彼に会えなくなってからの年月のほうが確実に長いんですよね。デビューした23歳当時は、30年後どうなっているかなんてさっぱりでしたけど、今、フィッシュマンズのことを誰も知らないという感じじゃないし、むしろその逆で。この断続的な活動のなかでより多くの人の耳に届いているのは、やっぱり特別な感じがします。とにかくフィッシュマンズの音楽には時が流れても衰えないエネルギーがあって。言ってみれば、消費されなかった。しっかり時を超えて生き残る音楽だった。それは誇りに思っていいのかもしれませんね。

——フィッシュマンズの音楽を聴くと、日常の地続きにずっとあったんだけど、気付かなかった場所に連れていってくれる不思議な感覚を覚えるんです。それは決して逃避というわけではなく、生活の中に潜んでいる“ワンダー”を教えてくれるような気がします。

茂木:まさに、その「音楽が連れていってくれる」という魅力に30年間ずっとハマりっぱなしなんです。逆に僕は現実的なことをやってきていない、世間のことを知らないなという反省はとてもあるし、自分のことを大丈夫かなあと思うこともあります(笑)。でも、やっぱりミュージシャンとしても、誰かを連れていくという魅力、連れていってあげたいという気持ちは止めることができない。今でもずっと、四六時中、頭の中で音楽が鳴っていますね。

——フィッシュマンズ結成当時からその感覚は変わらないですか?

茂木:変わらないですね。ずーっと音楽を聴いていたし、そのなかでサトちゃんの新曲はいっつも楽しみでしかたなかった。1曲1曲、本当に好きだっていう思いでいっぱいになっちゃうんです。こんなに好きな音楽に出会えて、しかも同じバンドでいられたというのはすごく嬉しい。今ちょうど、デビュー前からデビュー当初くらいの音源を聴き返していて。初ライヴのカセットテープもあるんですけど、もうね、やっぱりすごいんですよ、サトちゃん。最初はベースを弾きながら歌っていて、ザ・ジャムみたいなパンクロックっぽかったんですけど、あの歌い方やスタイルは、最初からしっかり確立していたんだなあと。「ひこうき」とか、少し静かな感じではあるけれど、そこに込められたエネルギー、楽曲に対する集中力みたいなもののすごさはずっと変わらない。そんななかで僕ら自身レゲエバンドをやるという意識はなかったけど、サウンドがレゲエっぽくなっていったことは、サトちゃんの歌いっぷりやバンドの表現にもぴったりで自然なことでした。

10代からロック一辺倒だったドラムのスタイルが変わっていくことへの葛藤

——茂木さん自身のプレイスタイルも変化していったと思うのですが、それも自然でしたか?

茂木:いや、僕自身、10代の頃は本当にロック一辺倒だったのでドラムのスタイルが変わっていくことに葛藤はありました。ジミ・ヘンドリックスとかザ・フーが好きだったし、ドラムを破壊するような映像を見て「うわ!かっこいい!」みたいなタイプだったんで(笑)。それでもレゲエに向かっていったのは、やっぱり佐藤伸治という圧倒的な才能を前にして、「この人についていきたい」という気持ちが何よりも勝ったということだと思います。「彼のためにドラムの腕を磨きたい!」という気持ちがすごく大きかったです。

——「彼のために」という意識だったんですね。

茂木:そうですね。これだけの才能の人と出会えたから、彼に相応しいドラマーでいたいという気持ちで溢れていました。これだけの楽曲を作る人のドラムが散々だったら話にならないじゃないですか(笑)。それこそ僕のドラムが話にならなかったら去っていくべきだな、くらいの思いはありましたね。他のメンバーもそれぞれとても魅力的で。小嶋(謙介)さんと僕とサトちゃんでトリオ編成だった時のコンビネーションもあるし、(柏原)譲が入って人が1人変われば、そこからまた新しいバンドサウンドが構築される。それまでキーボーディストがいなかったところにハカセが参加すれば、また新しいバンドのアレンジが生まれて……。譲とハカセは最初から上手だったから、僕と小嶋さんが頑張らねば! という感じでしたし、そういう変化に対しての1人ひとりの戦い、個々が磨いていくことは増えていきました。

——まさに人が変わると変化がもたらされて、ある種バンドそのものが生き物のように新たな道に進んでいくと思うんです。そんななかで、フィッシュマンズはプライベートスタジオ「ワイキキ・ビーチ〜ハワイ・スタジオ」を作り、そこで世田谷三部作『空中キャンプ』『LONG SEASON』『宇宙 日本 世田谷』が生まれました。環境の変化は楽曲やバンドに何をもたらしましたか?

茂木:プライベートスタジオは相当な革命でした。僕らにとっては——とくにサトちゃんにとっては願ったり叶ったりだったんじゃないかな。本当に日常の延長線上で常にレコーディングできる場所を手に入れちゃった。それまでは当然、大きなレコーディングスタジオにみんなで通っていたわけで、レコーディングってそういうものだと思っていたんです。でも、そこから解放されて着の身着のままでプライベートスタジオの鍵を開けて、好きな時間にスタジオに入って……。

——解放、だったんですね。

茂木:うん、やっぱり大きなスタジオにいるといろんな人が周りにいて、音楽以外に気にすることがたくさんあったんですよね。フィッシュマンズってそういうのがなければないほど良くて。サトちゃんは1人で勝手に下北沢の家からスタジオに通って、1人で歌ってた。誰のことも気にせず、部屋で思いついたことをそのままできるっていうのは相当大きかったと思います。

例えば、「BABY BLUE」は普通にレコーディングスタジオに入っていたら、ああいう歌い方はまず無理だと思う。実際どういうふうに録ったか知らないけど、横になって肘でもつきながらマイクに向かって、物思いにふけって歌ってたんじゃないかなあ。プライベートスタジオだからこそ、ああいう儚い感じ、歌い方が記録できたんじゃないかと思っています。僕も、夜が明けるまでやっていても誰からも文句を言われないし、『空中キャンプ』でいうと、「ナイトクルージング」とかドラムが20テイクを超えても、苦しくともなんともなかった。むしろ夜中に芽生える「あぁ、完全に自分の身体にこの曲が入ってきたな」みたいな感覚が気持ち良かったです。

フィッシュマンズの音楽はただただリアル

——ドキュメンタリー映画のなかで、小嶋さんがデビュー当時を「プレイは下手だったけど、構築した世界は良かった」と振り返っていらっしゃいました。今お話ししてくださったように人が変わっていったり環境が変わっていったりするなかで、フィッシュマンズが構築していた世界ってどんなものだと思いますか?

茂木:日常のなんでもない一部分を音楽に落とし込む、という感じかなあ。フィッシュマンズの音楽は決して結論めいていないし、結論を求めるわけでもない。とある生活の一部分が切り取られていて、それがずっと続いていく。それは優しさでもあって、厳しさでもあるんですよ。サトちゃんの楽曲ありきなんだけど、日々歩いている感じをみんなで音にしていくということが、フィッシュマンズの世界なんじゃないかと思います。

——そんな音楽を生み出し、奏で続けるなかで、茂木さんご自身も日常や生活の見え方がどんどん変わっていったんじゃないかと想像しますがいかがですか?

茂木:そうですね。日常こそが一番ドラマチックなんだなって。日が暮れそうな時の、嬉しいような悲しいような、なんとも言えない心を揺さぶる感じが一番の宝物だと思うんです。日常のなかにある些細なことを見つけるか見つけないかという僕自身の視点は、フィッシュマンズの音楽に出会って変わったと思います。だから、「嬉しい!」だけじゃなくて全然良くて、「寂しいな」っていう気持ちも持ち続けていくことがとても大事になりました。

——明確に表せない感情のグラデーションがすごくキラキラする瞬間ってありますよね。「日常こそ一番ドラマチック」というのは、まさにそうだなと思いました。

茂木:そう、些細なことが一番心を揺さぶるんですよね。だから、嬉しいことも悲しいこともあって、それで人生があって、生活が続いていく。そういうものだよねっていう、とてもリアルな音楽です。「MELODY」の<あと2時間だけ夢を見させて>みたいな気持ち、そういう言葉にならなさそうなことがうまく言葉になって、きっと聴いてくれた人達も「わかる」と感じてくれると思うんです。でも、その「わかる」も1人ひとりまたバラバラで。それがフィッシュマンズの音楽の魅力的なところなんだよって思う。そういう言葉が僕の心を常にくすぐるんです。

——忘れてしまいがちなことでもあるし、30年前と今は、世界の様子も世間の空気も違うけれど、その揺さぶられる感覚ってすごく普遍的で、国籍や年齢、性別関係なく、本質的に人間が感じられるものだと思います。

茂木:そうですね。今、海外の方がフィッシュマンズをたくさん聴いてくれているのってなんでだろうと思っていて。例えば「LONG SEASON」が海外の人に相当受け入れられているのって、歌詞がわからなくても確実にその空気感が届いているからだと思うんですよね。サトちゃんの作った楽曲は時も場所も超えていろんな世代の人の心に語りかけて、揺さぶる。僕自身も揺さぶられ続けている。その揺さぶられた心こそが、フィッシュマンズのアートだと思うんです。

ドラムソロに託した風景。1音を鳴らす責任

——音単体には言語のような共通認識や意味合いを持たせづらいと思いますが、フィッシュマンズのサウンドは1音1音意思を持って、さらに楽曲全体をもって言葉にならないものをかたちにしていますよね。

茂木:そうなんですよね。だから、譲のベースだったら、どんなことがあっても倒れない強い意志、HONZIのバイオリンだったら、思い切り日差しを浴びている感覚みたいなものがサウンド化しているというか。書かれている歌詞だけが歌詞じゃなくて、言葉がない部分の音1つひとつにも確実に感情がある。

僕の場合、フィッシュマンズの楽曲においては、時間とともに音を鳴らすことの重要度が増していきました。ここで思い切り気分を変えるっていう絶妙な瞬間、その1回だけシンバルを鳴らす。そのピークの瞬間に鳴るシンバルの音ってものすごい影響力なんですよ。そういう1音の責任がどんどん変わっていきました。「LONG SEASON」は結構そういう音があって。最後の最後にフィルを思いっきりまわしまくって、シンバルとゴングのサンプルを連打して……あー、いろいろ思い出してきた!

——何を思い出しました?

茂木:「LONG SEASON」のドラムソロは、脳裏に浮かんだことをできるだけ音に変換するつもりでやっていたんです。だからソロは、「ある夏休みに見た花火」を自分のなかでテーマにしていて。<思い出すことはなんだい?>っていう言葉に対して、「あの日に打ち上がった、海沿いで見た、あの花火のあの光景なんだよね」っていうことをドラムソロに託していました。特にイメージを共有したりはしていなかったし、もちろんある程度サトちゃんのなかにデッサンはあるんだけど、メンバーそれぞれの頭の中にキャンバスがあったはずなんですよ。それによって生まれるイマジネーションの広がりがやっぱりすごくおもしろいと思います。

勘違いがフィッシュマンズの個性を生んだ

——そういう予定不調和を楽しむ気質が、先ほどおっしゃっていた、揺さぶられる感覚にも繋がっているのかなと思いましたがいかがでしょう?

茂木:サトちゃんも最初は要望を結構言ってたような気がするんですよ。でも、ある時期から「任せる」っていう感じになって。予定不調和というところで言うと、確かに最近の音楽を聴いていると、画面上の音符みたいなものが、ちょっと見えてくる感じがあるというか。僕らの頃は情報が少ないなかで、勘違いも含めて「こういう感じかな?」って手探りでやっていましたし、たとえそれが間違いでも結果的に僕達だけの個性になっていけば正解と言えた。

だから僕、譲と一緒に、「ああいう音にするにはどうしたらいいんだろう?」って延々と喋って、音出して、おもしろいけどわけわかんない、みたいなことをしていました(笑)。その人力加減が、きっとフィッシュマンズの大事なところに繋がっていて。でも、今の子達は触れられる情報が多いし、YouTubeで映像も見れちゃうから、勘違いできないのかもしれないですね。

——確かに曖昧さや勘違いって、ミュージシャンに限らずあまり許されないようになってきた気がします。

茂木:今の音楽ってアンサンブルで縦の線がきっちり合っていないと落ち着かない、みたいなことがあると思うんです。だからこそ、若い世代のバンドの子達と、彼らの美学がどこにあるかとか、そういう話をすごくしたい。だって、フィッシュマンズの音源を波形で見たら、絶対あっちこっちいってますよ。でも、僕からすると、それこそが、他の人達にはないバンドの揺らぎだし、それがあるから「フィッシュマンズ」っていうバンド名がついているんじゃないの?ってずっと思っています。

茂木欣一
1967年、東京都生まれ。愛称は“欣ちゃん”。1987年、明治学院大学在学中にサークル仲間だった佐藤伸治、小嶋謙介とフィッシュマンズを結成する。1991年にメジャー・デビューするが、1999年に佐藤が急逝したことで、事実上の活動停止になるもヴォーカルを迎えて暫定的にフィッシュマンズを継続してきた。2001年に親交の深かった東京スカパラダイスオーケストラへ加入。その後、So many tearsなどのバンドの他、アーティスト作品への参加など幅広く活動している。デビュー30年を迎えた2021年に『映画:フィッシュマンズ』の公開や『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』(イースト・プレス)『別冊ele-king 永遠のフィッシュマンズ』(Pヴァイン)などの書籍が発売された。

■映画:フィッシュマンズ
時間:172分
公式サイト:fishmans-movie.com

■僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ
著者:川﨑大助
価格:¥2,310
ページ数:456ページ
発行:イースト・プレス

■別冊ele-king 永遠のフィッシュマンズ
編集:三田格、野田努
価格:¥1,870
ページ数:192ページ
発行:Pヴァイン

◼︎詩集ロングシーズン 増補版
著者:佐藤伸治
価格:¥2,365
ページ数:208ページ
発行:河出書房新社

Photography RiE amano
Hair & Make up Chiaki Tsuda
Edit Jun Ashizawa(TOKION)
Special Thanks Kosuke Maruo
Cooperation Shinjuku Dialogue

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マイカ・ルブテが音に込める言葉にできない共感覚 自分の意識はどこまで及んでいるのか? https://tokion.jp/2021/06/28/maika-loubte-channels-feelings/ Mon, 28 Jun 2021 06:00:45 +0000 https://tokion.jp/?p=39217 今秋リリースの「全曲、推し曲」を掲げたニューアルバムに向け、断続的にシングルを発表。最新作『System』やコロナ禍での意識の変容について。

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「全曲、推し曲」を掲げ、今秋リリースのアルバムに向けて断続的にシングルを世に送り出しているマイカ・ルブテが、一連のシングル作品の1つとしてライアン・ヘムズワースプロデュースによる『System』を発表した。

コロナ以前は感じていなかったコミュニケーションに対する意識の変化や、他者と自身の関係性について聞いていくうちに、「私の意識を意識して作っている」というニューアルバムの片鱗が見えてきた。

コロナ禍で実感した、言葉にならない情報の大きさ

−−2020年から新型コロナウイルスの流行で世界ががらっと変化しましたが、この1年ほどのマイカさんの心境や暮らしはいかがでしたか?

マイカ・ルブテ(以下、マイカ):もともと制作で家にこもることが生活の中心だったので、そういう意味ではむしろ自分がやっていることに集中できる時間が増えて良かったと思った面もあって。でも、この状況が長引く中で、コロナ以前は当たり前だと思っていた、人と会うことで自分が得ていた情報、言葉にならない情報の大きさに気付きました。ライヴも、お客さんが目の前にいること自体が自分のインプットになっていたんだなあと。

——特にライヴのかたちはコロナ以前と以降で如実に変わっていますもんね。

マイカ:お客さんに楽しんでもらうために自分が放出するもの、つまり完全にアウトプットだと思っていたら、実はインプットだったんだっていうことをすごく実感しています。一方通行ではなくて循環型のエネルギーだったんだって。

——マイカさんがお客さんからもらうエネルギーってどういうものでしたか?

マイカ:テレビで見た受け売りなんですけど、人は耳で聴いて、目で見て、っていう以上に、肌で感じることが多いらしいんです。例えば、一緒にいる人がすごく緊張して心拍数が上がっていると、無意識にこちらもそれを感じるセンサーがあるらしくて、ライヴもそういうことだったのかと腑に落ちました。私もそうだし、お客さん同士も、感覚を共有するという意味で、ライヴはかなり大きな情報を得る場になっていたんだなと思いました。

マイカが楽しむ、膨大なミステリーを噛みしめるおもしろさ

——秋のアルバムに向けて断続的にリリースしている一連のシングルを聴いて、自分の中に潜っていくような印象の前作のアルバム『Closer』に比べて、次作は楽曲の角度や方向が違うのかなと思ったのですが、制作にあたって意識していることはありますか?

マイカ:次のアルバムは、自分の中で大きなコンセプトが見えてはいるものの、実はまだ言語化するのに時間がかかっていてそれを流暢に喋るすべがないのですが、『Closer』が自分の感情に基づいてできたアルバムだとしたら、次のアルバムは、感情の手前にある「私の意識」を意識して作っている気がしています。

——「私の意識」というのは?

マイカ:コロナの影響もあって、どこからどこまでが自分なのかとよく考えるようになったんです。皮膚の向こう側は自分じゃないってもしかしたら間違っていて、意識が及んでいる範囲って実は際限がないんじゃないかなと思って。例えば夢を見ている時は、夢とは気付かずに別の現実を作りあげているわけじゃないですか。でもそれは結局自分の意識の中だけの出来事。答えは何もないんですけど、そのからくりがおもしろいなと思っています。

——暗闇で何かが身体のそばにきたら、見なくても触れなくても気配を知覚しますよね。じゃあ、自分の身体の輪郭って物理的な範囲を超えているのではという考えは共感しますし、誰しもが感じたことのある不思議なんじゃないかと思います。

マイカ:言葉で説明してもわからなかったりするけど、なんとなくわかるじゃないですか。その「なんとなくわかる感じ」がおもしろいですよね。だから、『Closer』が自分の内面に相手を引き込むための作品だとしたら、次の作品は自分が相手に及ぼうとする時の力というか。力の向きがちょっと違う感じです。

——それってどちらも他者の存在があって成立すると思うのですが、マイカさんの他者に対する意識が変わったのでしょうか?

マイカ:他者との関わりという意味では変わらないのですが、おもしろいなと思うのが、他者と言ってもしょせんは「自分の中での他者」というか。

——それはさっきおっしゃっていた「私の意識」というフィルターを通して作られた他者ということ?

マイカ:そうです、そうです。だから、「私の意識」が大前提としてあります。自分の意識の中での他者だから、じゃあ自分が死んだらその他者も消えるのかっていうと、それは誰にもわからない。でも、その他者は確かに存在しているんだということを感じていたいんです。

——さきほどの相手に及ぼうとする力の話を聞いて、マイカさんは他者ともっと溶け合いたいのかなと感じたのですが、今の話だと「私の意識」によってかなり他者と自分は分断されているという認識なのでしょうか?

マイカ:そこは曖昧なままでいいと思っています。ちょっと死生観にも繋がるんですけど、2020年以降は特にたくさんの人が亡くなっていますし、自分や身近な人がもしかしたら亡くなるかもしれないっていう1つの恐怖をみんなで味わったタイミングもあったと思うんです。その中で考えていたら、自分がどこから来たんだろうとか、他者がいなければ自分は生まれていないとか……アルバムのコンセプトにするにはあまりにも膨大な謎なんですけど、そのミステリーを噛みしめて、解明したいという気持ちが湧きました。

——そのミステリーと「私の意識」はどのようにアルバムに反映されていますか?

マイカ:そのミステリーは私も死ぬまでにわかればいいなというものですし、解けないものは解けないので、あくまでもそれにまつわる他者や「私の意識」がどこまで及んでいるんだろうという「問いのアルバム」にできたらいいなと思っています。

ライアン・ヘムズワースとの共作、弟が書く歌詞。マイカが信じる直感

——実際にアルバムの曲はどのように作っていっているのですか?

マイカ:自分の中で曲を2種類にわけているんです。1つは自分が普通に暮らしながら現実世界で作っていく音楽、もう1つは覚えている範囲ではあるのですが、夢の中で聴いた音やメロディをそのまま音源にするっていう。夢の中のメロディを曲にするってよくあることではあるので、それ自体をコンセンプトにしようとは思っていないんですけど、「私の意識」ってなんだろう? みたいな問いにはなっているかなと思っています。

——リリースしたばかりのシングル『System』はどちらの種類ですか?

マイカ:『System』は現実世界で作った音楽です。今シングルカットしているのはすべて現実世界で作ったもので、いろんな人の力を借りながら自信のある作品にできました。夢から作った曲は、アルバムの中でだけ聴けるようにしようと思っています。

——『System』はライアン・ヘムズワースのプロデュースですが、制作はいかがでしたか?

マイカ:すごく速かったです。『System』は最初にデモ音源ができた段階から、「これは絶対ライアンと仕上げたほうがいい」と直感したんです。まず一度聴いてもらったのですが、そこからがすごく速くて、3日くらいで「こういうのどう?」と返ってきました。曲の途中からバッと世界観が変わったり、それ以降のコード進行がメジャーになって気持ちが緩和される感じになったり……デモ段階ではもっとシンセが入っていたり音が埋まっていたんですけど、必要なものだけ取り出してもらった感じです。すごく決定的な作業を最速でできるなんて「やばいな、ライアン」と思いましたし、直感した時はためらわずにばんばん声をかけたほうが作品として正解なんだろうなと実感しましたね。もう間違いないと思った瞬間から、その人って作品にとって自然な存在になるんです。歌詞には、私の弟にも参加してもらっているんですよ。

——『System』の歌詞には弟さんの存在が自然だった?

マイカ:そうですね。弟には歌詞を丸投げする時もあって、今年の3月に出した『5AM』の歌詞は弟が全部書いています。いつも曲が先にできてから詞を入れるのですが、私の言いたいことは曲までで詰まってしまうから、それ以上言語化できない時に、いちばん感覚が似ている弟に参加してもらいます。身内の話で結構恥ずかしいんですけど(笑)、小さい時から引っ越しがすごく多くて、外で友達と遊ぶより姉弟でたくさんのことを共有してきたこともあって、彼の言葉はすごく私の感覚とシンクロするんです。

——血が繋がっていてもそうでなくても、同じように感覚を共有できる人がいるのってすごく素敵だと思います。

マイカ:そうですね。『Spider Dancing』のMVと『System』のアートワークを担当したSaou Tanakaさんも、あまり説明しなくても「もしかしてこの曲のこと知ってた?」って思うくらい、私が感じていた気持ちとか見たかったものをわかってくれていて。たまたまInstagramで見つけて、zoomでのやりとりだけで会ったこともないのですが、彼女のアートワークが私のモチベーションにもなっています。

アルバムを紡ぐために「どれだけ嘘のない強い点を打てるか」

——『System』のアートワークは『Spider Dancing』のMVからAIのマシンラーニングで画像作成して制作されたと伺いました。

マイカ:そうなんですよ。『Spider Dancing』のMVで、私がステージ上で踊るシーンがあるんですけど、その映像素材を使いました。『System』って既存のシステムを壊してみようという呼びかけのある曲で、SaouはAIで映像やビジュアルを作成することを研究している人でもあるので、自分達がすでに持っているシステムで作るのではなく、偶発的で計算外のことが起きるAIという方法を使ってくれたんだと思います。でも、最初は石とか、人間じゃないものを対象としてビジュアルを作ろうとしていたんですよ。

——どういう経緯で、最終的にAIに学習させる対象がマイカさん、人間になったのですか?

マイカ:『System』の歌詞と、どういう曲かという簡単なメモを渡したあたりから、Saouが「人間がいないとダメだ」と言っていて。Saouは技術を使うことが目的になっていなくて、何を表現したいかがちゃんと先にある。その中での選択肢としてAIを使って、映像を読み込んだところ、今回のアートワークのような人間が液体化したようなものができました。私は曲について言葉にするのが得意ではないので、感覚を共有できるということは幸せだなと思いました。

——冒頭にお話しされていたように、皮膚感覚というか、リアルな交流によるエネルギーの交換や言葉を介さないコミュニケーションに、マイカさんの興味が今すごく向いているんだなと感じます。

マイカ:まさにそうです。逆に、どんなに話し合ってもわかり合えない相手もいるじゃないですか。もちろん言葉の力は絶大なんですけど、言葉で解決できないことも世の中にはたくさんある。そんな中で1伝えたら10伝わる相手ともの作りを一緒にできるのは本当に幸せなことだと思います。

——今シングルカットされている曲はそれぞれに気分がまったく違いますが、アルバムのストーリーはこれからどうなっていくのでしょう?

マイカ:ずっと楽曲ごとに気分が違うので、聴いた人はその時その時で「全然違うな」と思うかもしれないのですが、それもたぶん自分が決まりきったことをしたくない気持ちがあるからで。決まりきったことというか、ルーティンのようにしたくない。ストーリーって点が線になっていくということだと思うのですが、初めから線を描くということを私はあまりせず、1つひとつの点がどれだけ自分に正直か、どれだけ嘘のない強い点を打てるかを大切にしています。アルバムを出した時に、その点が最終的に線になっていけばいいなと思っています。

マイカ・ルブテ
シンガーソングライター、トラックメーカー、DJ。日本人の母とフランス人の父の間に生まれ、幼少期から10代を日本とパリ、香港で過ごす。ヴィンテージのアナログシンセサイザーとの出合いをきっかけに14歳から宅録を独学で始め、ポップとエレクトロを融合させたスタイルを確立する。2013年から本格的なソロ活動をスタートし、2014年にセルフプロデュースによる1stアルバム「100 (momo)」をリリース。2016年にアーティスト名義を現在のMaika Loubtéに変更後、アルバム『Le Zip』『Closer』を発表。2021年秋にニューアルバムを発表予定で、“全曲、推し曲”をテーマに今年1月から定期的に収録曲の配信リリースを続けている。6月23日にライアン・ヘムズワースとの共作による『System』をデジタルリリースした。

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