YEAH BOiii COLEが語る日本で得たインスピレーション 身体・心・魂の繋がりについて

現在無期限活動休止中のDNCEのメンバーであり、これまでもYasei CollectiveやSEKAI NO OWARIなど日本アーティストともコラボレーションしてきたコール・ウィットルが、YEAH BOiii COLEとしてソロデビューアルバム「ANTIBODY SUPERSOUL」を完成させた。そのタイトルからもわかるように、アルバムの土台には“身体”“心”“魂”という3つの調和についての深い思考や体験がある。何度も日本を訪れ「日本が大好き!」と語るコールが日本で得たインスピレーション、それを音として形にするまでの道のり、そして自分の精神性・身体性への向き合い方についてじっくり語ってもらった。

ソロプロジェクト始動のきっかけとなった日本での体験

−−コールさんはDNCEのメンバーとして知られていますが、そもそもソロ名義のYEAH BOiii COLEとして活動を始めたのはなぜだったのでしょう?

コール・ウィットル(以下、コール):ソロ名義での活動のきっかけは日本を訪れたことが大きいんです。2009年に初めて日本を訪れて、そのあとDNCEでもたくさん日本に行くようになって。そのなかで強烈なスピリチュアル体験というか……人や自然、いろんなものとコネクトする感覚を人生で初めて覚えたんです。自分が今正しい場所にいると思えたし、「自分とはなんなのか?」みたいな大きな問いにもつながるような、そんな体験だったんですよね。そういう不思議な感覚を表現するために始めたのがYEAH BOiii COLEです。

——自身で展開しているアパレルブランド「YEAH BOiii Official」も、“KANPAI”“ヤバイ”など日本語のロゴが印象的ですよね。

コール:日本に行った時に「ヤバイ」って言葉を覚えて(笑)。僕ももともと「YEAH BOiii」っていう言葉が口癖で、「ヤバイ」と響きが似ているじゃないですか。で、「ヤバイ」って、元は悪い意味だったけど、いい意味に変化した言葉だと教えてもらい、それがいいなって思ったんです。「YEAH BOiii Official」は、世界で困窮している若いホームレスをサポートすることを目的に始めたブランドで、日本やニューヨーク、いろんな場所のストリートカルチャーを通して、世界中の若者たちに「グローバルハグ」したいと考えています。

「YEAH BOiii Official」のプロダクト「カルトマスク」

“身体”と“心”と“魂”の3つの要素の調和への意識

——そういった活動も国を越えて行っていらっしゃいますし、そもそもコールさんはこれまでに世界各国で演奏され、いろんな国の多様な人々と関わられてきたと思うんです。そのなかでさっきおっしゃっていた日本で感じた感覚って、どんな特別感があったのでしょうか?

コール:なんだか古い友達に会ったような感じっていうか。僕のすべてがリラックスした感じがしたんですよ。もちろん日本の文化や「カワイイ」みたいなこともすごく素敵なんだけど、それ以上に日本ではどこに行っても素敵な出会いがあったし、運命的な出来事がぱっと起こったり、インスピレーションも湧きやすかった。これはすごく感覚的なことなので、言葉にするのが難しいのですが、何かにうしろから支えてもらっているような、そんな感覚を覚えたんです。

YEAH BOiii COLE – I WILL GO TO SPACE (Official Music Video)

——いわゆる「ピンと来た」っていう感じですよね。

コール:そうですね。僕、代々木公園に行って、満開の桜を見たんですよ。普通にみんなにとっていい景色だと思うんですけど、それがすごく特別だった。そこで何枚も写真を撮ったら光の玉みたいなものが写っていて。そういう不思議な体験を通して、何かに愛されているような、正しい場所にいると思えるような、そんな気持ちになったんですよね。そういうインスピレーションを持ち帰って、YEAH BOiii COLEで表現しています。

——今回、ソロデビューアルバム「ANTIBODY SUPERSOUL」が発表となりました。遊びもあるんだけど、音数は少なくて鋭い、ある種引き算の美学みたいなものを感じました。実際に日本で得た感覚はアルバムにどのように反映されていますか?

コール:「ANTIBODY SUPERSOUL」全体を通していうと、生きとし生けるものとの対話、“身体”と“心”と“魂”の3つの要素の調和がコンセプトです。たとえば、「CLOUD IN THE SKY」という曲は、“心”と“魂”の関係性を歌った曲。普段僕たちがあまり意識しない“魂”を果てしなく広がる空だとすると、そこに“心=感情”という雲が流れていって、“魂”の空模様が変化していくということを表現しています。

「世界からいなくなりたい」とまで感じながら始めたアルバム制作

——コールさんはメンタルヘルスのトピックを中心としたPodcast「AGGRESSIVE KINDNESS」も行なっていますよね。今のお話からも、心身についてかなり意識的に考えていらっしゃるんだなと思ったのですが、いつ頃から身体や精神について考えるようになりましたか?

コール:日本での体験にやっぱり繋がるのですが、まず、日本でのインスピレーションを受けたあと、2019年に僕にとってすごく辛い時期があって。正直、この世界からいなくなってしまいたいとまで思っていたんです。

AGGRESSIVE KINDNESS – EPISODE #16 (FULL)
YouTubeでも配信している「AGGRESSIVE KINDNESS」。コールは音楽制作もこの部屋で行なっている

——つまり、“身体”と“心”と“魂”がちぐはぐになっている感じがした?

コール:まさにそうです。なんていうか、具体的にこんなことがあったというわけではなく、本当は愛情深くて創作意欲にあふれている“魂”があるはずなのに、“心”がそれを邪魔しているような感覚を覚えていました。僕が持っている才能——才能っていうのはめちゃくちゃすごいものってことじゃなくて、一人ひとりがそれぞれに持っている個性みたいなものを最大限に活かせていないという気持ちが強かったんです。それに加えて、当時は失敗することに対する恐怖感もすごかった。でも、そもそも生きていることに疑問があるなら失うものなんてないから、世界からいなくなる前に自分をまた新たな存在に作り変えてみることができるんじゃないかと思い、このアルバムを作り始めました。

——制作の過程でその不安感や不足感はなくなっていきましたか?

コール:そうですね。結果的にこのアルバムを作ることによってすごく救われました。こういう話って、ちょっと「え?」って思われてしまうこともあるんですけど、2019年に辛い時期に突入したあと、日本へ一人旅したんです。その時やっぱりインスピレーションが降りてくるような感じで、人生がどんなに素晴らしいギフトであるかとか、一人ひとりがどれだけ唯一無二で完璧な存在であるかということに気づくきっかけになりました。

——それを具体的に音として落とし込むために、どんな工夫をしましたか?

コール:まず、自分を子ども時代に戻すということを意識しました。僕はひとりっ子だったこともあって、子どもの頃から心地のいいひとりの空間を作って、そこに隠れて、自分の世界に没頭して絵を描いたり、音楽を作ったりしていたんです。子どもながらに、なんだか自分の考えがひとつにまとまっているような、集中した状態だったということを覚えていて。だからその時の感覚で3年間、同じ部屋に閉じこもって今回のアルバムを作ったんです。突然深夜に目が覚めて、「こんなふうにしたらいいかも!」っていうふうに思いついて、次の日の昼まで作るみたいなことを繰り返していました。

——「考えがひとつにまとまっている状態」というのは、“身体”と“心”と“魂”がひとつになっているような感覚とも近いですか?

コール:ひとつになるというよりは、一つひとつが並んで調和された状態っていう感じですね。そのなかで“心”は思考によって感情の起伏が芽生えるけれど、“魂”って教育の影響も受けなければ、そもそも根拠のないものだし、意識的なるものでもない。でも、僕は生きるうえですごく重要な要素だと思っていて。たとえば、20年くらい会ってなかった友達に突然出くわしたり、愛する人に出会ったり……そういうセレンディピティの瞬間や、なんでかわからないけど直感的に身体が動く時、僕は“魂”が身体を動かしていると思っています。そういう直感的な体感を日本で得たからこそ、“魂”が人生のハンドルを握りつつ、“身体”と“心”と調和している状態が大切だと思ったので、今回のアルバムではそれを伝えられたらと思っています。

シリアスな面もパーティーボーイな面も。人生の多面性を表現

——DNCEを含め、コールさんがやってこられていた音楽って“身体”や“心”に寄った楽しい空気をもたらしてくれるイメージがあったので、今回のアルバムのコンセプトや“魂”についてのお話はなんだか意外でした。

コール:予測不可能でしょ(笑)。あんまり予想されたくないから、意外という言葉は嬉しいですね。今は、地球上にある問題っていうよりは自分にフォーカスして音楽を作っているんですよね。そのなかで今回のアルバムはすごくシリアスな部分もあるけれど、僕はもちろんパーティーボーイでもあって、その両面をしっかり出せたと思います。

——その多面的なパーソナリティを絡ませ合いながら音に昇華しているのが伝わってきます。

コール:人生ってフラットなものじゃなくて波があるし、生きとし生けるものすべてがそうだと思うんですよね。みんな優しい面、ワイルドな面、真剣な面、楽しい面、クレイジーな面ってたくさんある。そういういろんな面をすべてひっくるめて僕は大切にして生きていきたいと思っています。だからすべての人に聴いてほしいんだけど、もちろん誰かに認められるために作ったわけではないし、あくまで自分の体験をもとにした表現ですから、みんなが理解してくれるとは思っていなくて。でも、すごくダイナミックでドラマティックな音作りをしたから、もし僕が本当に伝えたい“身体”と“心”と“魂”みたいなことがわからなくても、聴いたら絶対楽しんでもらえると思います。身体性やスピリチュアルなことに意識的じゃない人でも、僕というクレイジーな人間を通して、そういう部分を意識するきっかけになったら嬉しいです。

——コールさんのパーティーボーイな部分はすごくサウンドに表れていますし、そこからディープなほうに潜っていく人はたくさんいそうですよね。

コール:まさにそれをしたいんですよね! 音楽性はちょっとアグレッシブな感じに捉えられるかもしれないんですけど、Podcastではその一面をかなり抑えてメンタルヘルスや身体性をもうちょっと具体的に発信しています。Podcastを含め表現することは僕にとって辛い時期を乗り越える助けになりました。それを経て今、超いい感じです。このアルバムが完成した時点で、もうなんでもできると思えるような気持ちになりました。このアルバムに込めた“身体”“心”“魂”についてのメッセージがどのように人に伝わるのか、どのようにそれが人の助けになるのかがとても楽しみです。今、もうすでに次のアルバムの制作を始めているんですよ。次は、どちらかというと“心”に寄っていて、喜びや楽しさのハーモニーを表現していこうと思っています。あと僕はビジュアルアーティストとしてMV制作にも力を入れているので、いろんなかたちの作品を見ていただけたら嬉しいです。

YEAH BOiii COLE
Semi Precious Weapons、DNCEのメンバーとして、ベース、ギター、キーボードなど様々な楽器を担当。ソロ名義のYEAH BOiii COLEとして「ANTIBODY SUPERSOUL」をリリース。音楽活動だけでなく、困窮する若者やホームレス支援を目的としたアパレルブランド「YEAH BOiii Official」の展開や、ビジュアルアーティストとしての活動も行っている。
Twitter:@YEAHBOiiiCOLE
Instagram:@yeahboiiicole
Podcast:@AGGRESSIVE KINDNESS with YEAH BOiii COLE

Photography Johnny Florin Komar 

author:

飯嶋 藍子

フリーエディター / ライター。1990年生まれ。北海道帯広市出身。学生時代に主婦の友社、リットーミュージックで編集アシスタントを経験後、ロッキング・オン・ジャパン、CINRA.NETでの勤務を経て、2017年夏に独立。『BRUTUS』『TOKYO VOICE』『GRIN』などに寄稿。好きなものは自然と動物。特技はオラクルカードリーディング。 Instagram:@aicoyote

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