榎本市子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/ichiko-enomoto/ Thu, 20 Apr 2023 01:29:07 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 榎本市子, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/ichiko-enomoto/ 32 32 アート連載「境界のかたち」Vol.13 「インビジブル」のアートを触媒に社会を彫刻し続けるという挑戦 https://tokion.jp/2023/04/24/akio-hayashi-x-hiroko-kikuchi/ Mon, 24 Apr 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=179600 これからの社会におけるアートを識者達の言葉から紐解く本連載。第13回は、コミュニティエンゲージメントを取り入れながらプロジェクトを展開する「インビジブル」の2人に話を訊いた。

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ビジネスからサイエンスに至るまで、アートの必要性を説くシチュエーションが激増している。見える世界はすぐに変わらないものの、人々の心情が変容していく中で、その心はアートに対してどう反応するのか。ギャラリストやアーティスト、コレクター等が、これからの社会におけるアートを対象として、次代に現れるイメージを考察する。

第13回は、アートを触媒にしたプロジェクトを展開し、「見えないものを可視化する」をコンセプトに活動するNPO法人「インビジブル(inVisible)」。日常におけるアートを探究し、コミュニティエンゲージメントの手法を取り入れながら、社会に変化をもたらすようなプロジェクトを展開してきた。今回はメンタルヘルスをアートの視点から捉え直すプロジェクト「MINDSCAPES TOKYO」の活動報告の会場で理事長の林曉甫と、副理事でアーティストでもある菊池宏子を訪ねた。

林曉甫
「インビジブル」理事長、マネージング・ディレクター。1984年東京都生まれ。立命館アジア太平洋大学在学中からNPO法人「BEPPU PROJECT」の活動に携わり、アートプロジェクトの企画運営を担当。2012年「混浴温泉世界」事務局長を務める。2013年に退職し、2015年にNPO法人インビジブルを設立。その他「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」(2020)キュレーター等。

菊池宏子
「インビジブル」副理事、アーティスト、クリエイティブ・ディレクター。東京都生まれ。ボストン大学芸術学部彫刻科卒業、タフツ大学大学院博士前期課程終了。20年の米国生活を経て、2011年、東日本大震災を機に帰国。MITリストビジュアルアーツセンター、ボストン美術館、あいちトリエンナーレ2013、森美術館などでコミュニティエンゲージメント戦略・開発に携わる。

見えないものの中に価値を見出していく

――「インビジブル」はこれまでさまざまなプロジェクトを展開してきていますが、そもそもの立ち上げの経緯からお伺いできますか。

林曉甫(以下林):僕は個人で宮島達男さんのパブリックアート「Counter Void」を再点灯させるプロジェクトのお手伝いをしていて、それが「Relight Project」というアートプロジェクトになっていくんですけど、いろいろな事情でもともと運営していた団体の活動の継続が難しくなり、この事業を引き継いでほしいということになって。個人でやるのもな……と考えていた頃に、インターネットで菊池のことを知ったんです。

彼女はアメリカでコミュニティエンゲージメントのさまざまなプロジェクトを手掛けているアーティストで、面識はなかったんですけど、連絡を取って会ってみたらいろいろ共感できる部分も多かった。じゃあ法人をつくって一緒にやってみようか、という軽い感じで2015年にスタートしたんです。

ただ、特定のプロジェクトや課題のための法人ではなくて、もう少し広く継続的に社会とアートという切り口を探しながら活動していけたらと思いました。見えないものの中に価値を見出していくということで、「インビジブル」。他にも素晴らしいメンバーに恵まれて、今に至るという感じですね。

いろいろなプロジェクトを手掛けていますが、僕等はアートが触媒になって、人とコミュニケーションが生まれたり、新しい視点で発見があったり、そこから何か次のことが生まれるということに主眼を置いています。もちろん、作品やプロジェクトのクオリティを上げるということもあるんですが、クオリティの高さを目指すだけでなく、それがあることでコミュニケーションが生まれるかどうかというところを大切にしています。

時間がかかることかもしれないけれど、それを体験した人や参加した人が変化していくものにつながるかどうか。また不特定多数の人に変化を与えるのも大事だけれど、同時に1人の人生に深く影響を与えられるかどうかが大事だと思っています。

プロジェクトでは、僕は主に企画や全体のコーディネート、マネージメントを担当することが多くて、アーティストのディレクションやプロジェクトの具体的なハンドリングは菊池がやることが多いです。

――具体的なプロジェクトについてもお伺いします。地域の人達と時間をかけて協働するようなアートプロジェクトを展開していますね。

林:僕等は東京と、福島県富岡町の2拠点で活動しています。だいたい月の半分くらいは富岡町で、小中学校でアーティストインレジデンスのような「プロフェッショナル・イン・スクール・プロジェクト」(通称「PinS」)というプロジェクトを2018年から続けています。

アーティストインレジデンスは作家が制作するのが主たる目的だと思いますが、PinSもアーティストが制作をする点では同じですが、アーティストとしてではなく転校生として入学してもらうんです。日々そこで自分の仕事をしてもらい、子ども達は自由に出入りできて話もできる。そうやって子ども達や先生が、「自分の知らない世界」と出会うきっかけになっています。

これまでに、大工の林敬庸さんや、宮島達男さん、画家の加茂昴さん、大友良英さん、デザイナーの小池晶子さんが転校生としてやって来て作品をつくったり、大友さんは小学校中学校の新しい校歌をつくってくれました。クリエイティブな能力を持ったプロフェッショナルが学校にいるということで、アートやアーティストが1つの触媒となって、子ども達や先生達の価値形成に何らかの影響を与えるんじゃないかと思っています。

菊池宏子(以下菊池):もう1つ、継続的に行っているプロジェクトに「つむぐプロジェクト」があります。六本木ヒルズと森美術館が連携して六本木で展開している「まちと美術館のプログラム」の一環で、まちと一緒に歩んできた人達の思いを丁寧に拾い集めながら表現していくもので、当初から私がディレクションを担当しています。

私の役割としては、見えないものを開放するというか、見えない部分や聞こえてこない声にすごく大事な物語があると信じていて、そこを掘り下げていくことで、今まで見えなかったまちが見えてくるんじゃないかと思っています。

それは地域の人と一緒にまちの文脈を紡いでいくような活動で、そこには中心になるアーティストがいるけれど、あくまでアーティストは触媒であって、地域の人がコミュニケーションをしていくプロセスの中で出てくるものを語っていく。おもしろいのは、そうやって緩やかにコミュニティができあがってくると、必然的にアートというものを自分達の言葉で語るようになっていくんです。そんな小さな物語を紡いでいくようなプロジェクトです。

私はアートは本来、社会の中にあるべき仕組みだと思うので、このプロジェクトもそういうところがあると思っています。私達の活動は「社会彫刻」というものにひも付いているんですけど、どうやったらクリエイティブの力を発揮しながら社会をつくっていくのか。それも、大きな変化をつくるのではなくて、たくさんの小さな変化をつくることで、できることがあると思うんです。

ゴールを大きく持ちすぎると、そこに行き着くのは大変だけれど、ハグするような幸せをどうやって自分自身が生み出すのか。個人とか感情のレベルに下げて考えると、途端にやれることがたくさんあるような気がするんです。そういう人と人との関係やコミュニティをつくれたらいいなということを考えながら企画をつくっています。

コロナ禍で探究した、「メンタルヘルス」って何だろう?

――「MINDSCAPES」はイギリスの公益信託団体「ウェルカム・トラスト」が、メンタルヘルスに関する理解や議論を深めたり、根本的に問い直すような文化プログラムで、アメリカやインド、ドイツでも行われている国際的なプロジェクトですね。日本におけるパートナーとしてインビジブルがプロジェクトを一任されているのは、まさにインビジブルの活動とマッチしていると思います。

林:「MINDSCAPES TOKYO」は、ウェルカム・トラストとインビジブルが共同主催者として2022年にスタートしました。東京と富岡町を舞台に、メンタルヘルスを多角的な視点で考える対話集会「コンビーニング」と、角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校のユース調査員が、アーティストとともに都市部におけるメンタルヘルスを調査する「UI都市調査プロジェクト」を展開しました。その活動報告と交流イベントとして、2月20日から28日まで、有楽町のYAUで開催したのが「MINDSCAPES TOKYO WEEK」です。

菊池:これは決して答えを出すことが目的ではなくて、いかにメンタルヘルスを語るか、根本的な解決の糸口はないか探究するというプロジェクトです。メンタルヘルスって、科学的な探究には限界があるのではないかという見方もあります。もちろんいろいろな議論はあるけれど、現代においては芸術文化の側面から考える必要があるということなんです。それはとても重要なメッセージだと思いました。

この数年は、コロナのためオンラインでプロジェクトを行った国もあるんですが、私達日本人はやはり心の話をするときにオンラインだと難しい。リアルに心がぶつかり合うような、手触りのある場所でやりたいということはウェルカム・トラストに交渉して、了承してもらいました。実際に、今回関わってくれたユースや学生達と話していると、どれだけリアルな関係を欲していたんだろうと思いました。やはりオンラインやバーチャルのつながりって限界があるんですよね。

このプロジェクトはコロナに特化しているわけではないのですが、少なくともこの数年間、誰しも心の揺らぎがあったと思うんです。そんな中でアートや文化の視点があるからこそ見えてくるものを大切にしながら、メンタルヘルスってなんだろうということを探究できればと思いました。

林:「MINDSCAPES TOKYO WEEK」は毎日会場でトークイベントをやったり、スナックというかたちで交流会を開いたりしたんですが、このプロジェクトで僕等がやってきたことや考えたこと、それをここで見たり体験してくれた人達が、自分自身にとってメンタルヘルスってなんだろう?って考えてくれることが大事だと思っていて。世界の25%の人がなんらかのメンタルヘルスの問題を抱えているという時代において、75%の人が「自分に関係ないこと」ではなくて、そういう人が近くにいるかもしれないとか、人の痛みを想像できるかということが重要だと思います。

コンビーニングでは、「アートプロジェクトやミュージアムがメンタルヘルスクリニックになりうるのか」という問いを立てて、答えを出すということではなく、いろいろな職種の専門家達と議論を重ねました。プロジェクトとしてはいったん一区切りですが、議論の中ですごく重要な言葉も出てきたし、そこで出たアイデアやコンセプトを今後どう実践していくのかということは継続していきたい。社会の中でアートをどう機能させていくかというのが、われわれが考える1つの責務だし、チャレンジだと思っています。

「社会彫刻家」が生まれるような活動

――そもそも、どうしてこういう活動を始めるようになったのですか。

林:僕はそもそも美大出身でもなくて、アートに関わるようになったのは偶然でした。どちらかというとまちづくりや、地域がどうしたらよくなるかということを考えていて、例えばつぶれそうな温泉旅館の前でテンポラリーなカフェを開いて話題づくりをしたり、いかに自分達が媒介となって社会に変化を与えたりするかということばかりやっていたんです。そのときにアートというものを知って、自分がやろうとしていたことをもっと違うかたちでできるんじゃないかと思いました。

僕はアートにもアーティストにもすごくリスペクトを持っていて、軽々しくアーティストという言葉も使いたくないんですが、アートがもっと身近にあったらいいし、みんな何かクリエイティヴなことをやったらいいと思うんです。

例えば草野球をやっている人にはプロ野球選手は憧れの存在ですよね。だから「MINDSCAPES」に参加したユース達のように、アートに関わることで、アーティストって作品だけじゃなくて考え方も含めてすごい人なんだと思ってくれたら、もしかしたらその中から後世に名を残すアーティストが生まれてくるかもしれない。それは必ずしもアーティストではなくても、整備工かもしれないし、主婦かもしれない。ヨーゼフ・ボイスが言う「社会彫刻」というのはそういうことかもしれないと思います。

菊池:私自身はずっとアートの世界で生きてきたんですが、もともとコミュニケーションが得意ではなくて、実は林とは真逆。そんな人生を生きてきた中で、答えのないことをやっていいよと言われて救われたんです。私はアートがないと生きていけない。アートは社会に必要だけど、私1人だけでは何もできないので、コミュニティや創造性というものに期待してくれる人を1人でも多くつくっていきたい。そうでないとアートなんて権威的になっていくばかりでおもしろくない。アートがもっと多くの人にとって身近な存在になってくれるといいなと常に思っています。

――「MINDSCAPES TOKYO」を経て、今後の「インビジブル」の活動はどうありたいですか。

林:具体的なことでいうと、これまで「PinS」はアーティストに作品を1つ残してほしいとお願いしているので、10年やれば10作品できますよね。福島の浜通り全体が1つの美術館のようになって、それをめぐる展覧会のようなことができたらいいなと思っています。どんなルートで作品や場所に出会っていくのかを設計して、1つのメタファーといえるような体験をつくれたらと思っています。

今回のプロジェクトをやってみて個人的に思ったのは、こういう発表の仕方も含めて、“現代美術”みたいなところからどんどん離れていくようなやり方でアートを考えたいということ。コンビーニングでアーティストの飯山由貴さんから、「アート」の訳を芸術や美術だけではなくて「表現」という言葉で捉え直したらという提案があったんですが、表現ということからできることがあるんじゃないかなと思います。

僕等の存在は触媒のようなもので、いろいろなところに水を撒いていくようなことになったらいいなと思います。願わくば、プロジェクトに関わったアーティストが、あそこでやったプロジェクトは作品だけじゃなくてコミュニティも含めて自分の代表作の1つだと思ってくれたらいい。それは僕が思い描くアーティストというものに対して、何か貢献できたということかなと思います。

Photography Hiroto Nagasawa

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大竹彩子が写真と絵画の個展と初の姉妹展を同時開催 自身のルーツを振り返りそこから広がる感覚を描く https://tokion.jp/2021/07/23/saiko-otake-black-by-sister-channel/ Fri, 23 Jul 2021 11:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=47884 ギャラリー・アートアンリミテッド(乃木坂)では個展「宇和島⇄東京」を、パールブックショップ&ギャラリー(幡ヶ谷)で妹・笙子との初の二人展「BS Channel 〜 Black by Sister channel 〜」を開催中の大竹彩子のルーツや制作背景に迫る。

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2020年のパルコミュージアムでの個展や、今年の清里フォトアートミュージアムのヤング・ポートフォリオ展入賞など、目覚ましい活躍を見せるアーティスト大竹彩子。乃木坂のギャラリー・アートアンリミテッドで個展「宇和島⇄東京」を、幡ヶ谷のパールブックショップ&ギャラリーで妹・笙子との初の二人展「BS Channel 〜 Black by Sister channel 〜」を開催中の大竹に、最新作や創作活動の背景などを聞いた。

イメージを切り取り、蒐集する

今回の展示では、大竹が現在暮らし、制作拠点でもある東京と、出身地である愛媛県宇和島市の写真で構成した写真作品の他、女性の顔を描いたペインティング「SPELLBOUND-MASK」シリーズを発表。展示した写真作品も含む14冊目となる新たなZINE「UWAJIMA⇄TOKYO」も出版した。

おもしろいのは、2枚の写真を組み合わせて1つの作品として成立させていること。東京と宇和島で撮られた写真は、どちらが東京でどちらが宇和島かはわからない。一見全く関連がないようにも思えるが、色や形、イメージの連鎖など、その組み合わせの妙により、新たなイメージが浮かび上がってくる。

これまでも、訪れた場所をテーマに、ZINEとして写真集を発表してきた大竹。そもそもは、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズに留学した際に卒業制作としてまとめた一冊がきっかけだった。だがそれは写真を作品として撮って写真集にするという作業とは少し異なる。彼女にとって写真を撮るのは素材集めに近い感覚なのだという。

「インスピレーションを受けたイメージをひたすら蒐集するという感覚。邪魔なものを入れずに好きなものだけを切り取って撮っています。それを並べて組み合わせを考えるんですが、その作業が楽しい。撮影した場所も時間も全部が溶け合うような、混ざり合う感じ。それを1枚の作品にしています」

言葉も余白もいらない。イメージだけの本をつくりたい。それが今も続くZINEのかたちとして定着した。見開きで作品をつくるという、いわばレイアウトの感覚は、彼女がセント・マーチンズのグラフィックデザイン科を卒業したこととも無関係ではないだろう。最初はPhotoshopも使わず、画像加工もせずにフリーのソフトでつくったというから驚きだが、とにかく気になったイメージを撮りため、その膨大な素材のアウトプットとして吐き出すように生まれたZINEには、彼女が世界をどう見ているかが凝縮されている。世界の切り取り方が、ユニークなのだ。

現在はデジタルコンパクトカメラを使っているというが、それは量をたくさん、そして的確に撮りたいからだという。写真を作品にするためというよりは、自分の好きなイメージを集めるためのツールとしてカメラを使っているという感覚も独特だ。

「カメラは、実際iPhoneでもいいと思います。でも私のはちょっと古いので(笑)。どこかに行くと、歩き回ってひたすら写真を撮りまくっています。それにはデジタルコンパクトカメラが一番合ってるかな」

宇和島と東京、2つの重要な場所

展覧会のタイトルでもあり、今回の作品のモチーフともなった宇和島と東京。小さい頃から常にその間を行ったり来たりしてきた彼女にとって、どちらも重要な場所だと話す。

「宇和島は私が生まれ育って、高校生まで過ごした場所。東京は父の出身地であり、小さい頃から祖父母の家へ行ったり、遊びに行く感覚。あっという間に時間が過ぎる楽しい場所でした。その2カ所を並べてみたいと思ったのが今回の展示につながっています。宇和島のことは以前はあまり強く意識していませんでしたが、今は帰る場所、家族がいる場所という思いが強くなりました」

ロンドンから帰国後、宇和島で制作することもあり、東京と行き来していたが、コロナで宇和島に帰れない状況が続いている。移動することが創作にも直結してきただけに、つらい状況でもある。

「常に新鮮な目でいたいので、“慣れ”が一番こわい。宇和島を離れると、宇和島に戻ったときに撮りたいという気持ちになるし、東京は刺激的だけど、行動範囲が限られていると新鮮さはなくなります。今までいろんなところを訪れて制作や展示ができたのはありがたいし、創作意欲につながっていると思います」

ただ、ずっと東京にいることで制作に集中できたという側面もある。キャンバス画は当然だが1箇所で描く作業になり、この1、2年は、東京は重要な制作拠点となっていた。今回発表したアクリル画「SPELLBOUND-MASK」は、マスクで人の顔が覆われていることがあたり前の今、1点1点が強烈な存在感を放つ。写真でもヴィヴィッドな色が取り入れられていることが多いのが印象的だが、ペインティングはより鮮やかな色使いが顕著だ。モチーフこそ人の顔と、写真とで全く異なるが、どこか通じるものもある。

「写真集になっているような画像が、ペインティングでもインスピレーションの素になっていると思います。アクリル絵の具は発色がよくて、理想の色が出せるので、自分に合っています」

今後は油絵にも挑戦してみたいという。

「今は色と色がパキッと分かれているような絵を描いてますが、油絵独特のやわらかさも好きなので、色が混ざることでどうなるか、落ち着いてじっくり描いてみたいです。絵は独学なので、画材の種類や使い方などは自分で調べたりしていますが、表現方法をもっと勉強してみたいという気持ちも湧いてきました」

どんな状況でも、つくり続けたい

父は言わずと知れた画家・大竹伸朗。子どもの頃から父と一緒に絵を描いたり、何かをつくったりして遊ぶのが日常で、それが原体験となっているのは確かだが、自身はごくふつうの田舎の中・高生だったと話す。ロンドン留学中も、意外にもアーティストとして生きる自覚には至っていなかったという。

「留学にはファウンデーション・コース、次にBAなどいくつかの段階があるんですが、そのたびにいつもこれが終わったら帰ろう、これが終わったら……と思っていました。父のように簡単になれるものではないと身に染みて感じていましたから。でも一方であがいていたというか、何かつくりたいという気持ちはずっとあって。アーティストになって生きていくんだと強く思っていたわけではなかったけれど、とにかくつくるのが好きで、どんな仕事をしていたとしても作品をつくり続けたいと漠然と思ってきたし、今も思っています」

卒業後、ロンドンの美容院の展示スペースを借りて初めての個展を開き、そこで作品を買ってもらった時に、アーティストとして続けていこうと腹をくくったという。そこからは今も、売れるかどうかにかかわらず、つくり続けたいと思っている。

コロナ禍は自分と向き合う時間にもなった。展示も中止になることなくなんとか開催され、制作の日々が続いている。

「これだけ長い時間、家族に会えないというのは自分にとっては大きなこと。ひとりでどうにかしないといけない状況だったので、気合いを入れ直すきっかけになったと思います。これまでの展示は1つひとつが挑戦でした。一貫しているところはありつつも、少しずつ変化したり、進化しなくてはいけないという気持ちもあります。特に絵には自分の気持ちが表れている気がしていて、大阪での展示(「GALAGALAGALA」2020年2月11日~3月8日に心斎橋パルコで開催)は、色で元気になりたい、なってもらいたいという気持ち。今回はその延長でもありますが、少しやわらかくなったかも。ギラギラしたところから少し落ち着いてきていると思います。インパクトは大切にしながらも、今後はもう少し優しいものがつくれたらと思っています」

現在、幡ヶ谷のパールブックショップ&ギャラリーで妹・笙子との二人展「BS Channel 〜 Black by Sister channel 〜」も開催中で、そちらは原点に戻るような、小さなモノクロームのコラージュ作品を発表している。巨大な作品を描いてみたいという思いもあり、「やりたいことはたくさんある」と目を輝かせる。これからも進化しながら多様な表現に挑むアーティストから、目が離せない。

大竹彩子
1988年生まれ。2016年、ロンドン芸術大学卒業。複眼的なパースペクティブから成る独自の作品世界をドローイングやペインティング、写真、コラージュなど、さまざまな技法で表現している。主な展覧会に、個展「EXUVIA」(2016年/ロンドン)、(2016年/シンガポール)、「VISUAL SAMPLING」(2018年/台中)、「COSMOS DISCO」(2019年/東京)、「GALAGALA」(2020年/東京)、「GALAGALAGALA」(2021年/大阪)がある。
webサイト:saikootake.com


■宇和島⇄東京
会期:7月31日まで
会場:ギャラリー・アートアンリミテッド
住所:東京都港区南青山1-26-4 六本木ダイヤビル3F
時間:13:00〜18:30(最終入場)
休日:日曜、火曜、祝日
入場料:無料
Webサイト:www.artunlimited.co.jp

■大竹彩子・笙子 二人展 BS Channel~Black by Sister Channel~
会期:8月1日まで
会場:パールブックショップ&ギャラリー
住所:東京都渋谷区西原2-26-5
時間:13:00〜19:00
休日:月曜、火曜
入場料:無料
Webサイト:888books.jp

Edit Jun Ashizawa(TOKION)

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銀座メゾンエルメス フォーラムで個展を開催中の落合多武が語る 一瞬の光を放つ、夜行性動物の眼球の視点 https://tokion.jp/2021/03/23/tam-ochiai-solo-exhibition/ Tue, 23 Mar 2021 01:00:31 +0000 https://tokion.jp/?p=24604 落合多武の展覧会「輝板膜タペータム」。見る者に自由な想像を与えてくれる作品を生み出す落合に話を聞いた。

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ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、落合多武の展覧会「輝板膜タペータム」が銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中だ。このタイトルは、夜行性動物の眼球が持つ、暗闇の中でわずかな光を捉え反射する機能の「輝板(タペタム)」に由来する。暗闇で光る猫の目のように小さな光を反射しながら、見る者に自由な想像を与えてくれる、そんな作品を制作する落合に話を聞いた。

自然な状態で、そこにある

落合多武の作品は、ペインティング、立体、写真など、さまざまな表現形態を持つ。今回の展示は、これまで四半世紀にわたり発表されてきた『M.O』、『誰もが二つの場所を持つ』、『灰皿彫刻』、『旅行程、ノン?』、『ショパン、97分』などのシリーズと新作『オセロ』から成り、レトロスペクティブ的な側面もあるが、それらが組み合わさった1つの壮大なインスタレーションのようでもあり、その多様な表現の間をさまような体験ができる。

『猫彫刻』は、過去の同名タイトルの作品と対をなす作品。猫の彫刻がキーボードの上に置かれ、キーボードから延びたコードは展示空間に有機的な線を描いているようにも見える。今回の展示の全容は「将棋の手」のように決まっていったという。

「人工であるけど自然状態(例えば地名)になるように配置したかった。あのコードも、ドローイングのようでもあるし、実際に音を出すために使われているコードでもある。でも、それを超えて自然な状態にあるんです」。

そもそもそこにあるのが自然な状態。他の作品も、何気ない一瞬を捉えたように見える写真や、綿密な計算により描かれたように見えるペインティングも、説明はつかないけれど、自然に行き着いた姿なのだ。

「絵は誰が描いても、どこかでやめて完成させますよね。それがそのアーティストにとっての“自然”ということだと思います」。

構造、そしてアイデアとしてのドローイング

ショパンは自分の死後に心臓をパリから故郷のワルシャワに運んでほしいという遺言を残し、そのとおりに彼の心臓は運ばれたという。『ショパン、97分』という一連の写真シリーズは、その行程を憧憬し、落合がパリからワルシャワまで旅して生まれた作品だ。

「パリからワルシャワまで旅するという構造だけ決めて、その間に起こることは偶然だったり予想外のこと。構造映画と呼ばれるジャンルがありますが、僕の中ではそれに近いものです」。

そんなふうに、落合の作品は、作品を決定づける構造のアイデアがユニークなのだ。例えば『誰もが二つの場所を持つ』は、すべての人間は2つの場所、すなわち生まれた場所と死ぬ場所を持っており、その2つの地名が描かれる。『旅行程、ノン?』は、12ヵ月それぞれの月の各国の祝日が、都市名とともに書かれており、不可能な旅の行程を表している。

「2008年に『note on drawing』という本を書いたのですが、その時、自分の作品はアイデアとしてのドローイングであるという仮説を立てました。いろいろな種類の時間を見えるようにする。例えば『誰もが二つの場所を持つ』はある人の人生の最初から最後までを見せるものだし、『ショパン、97分』もそう。ある意味、『猫彫刻』のコードもアイデアのドローイングだと思います」。

『note on drawing』は詩のようなものだったという。今回、展示室の一角で、英語とフランス語と日本語による、テキストの朗読が流れている。言葉の意味というより音の響きが降ってくるような作品だ。

「今回は詩とは少し違うのですが、以前、詩を書いたら、詩人の方になんでアーティストが詩を書くのかと言われて困りました。でもアーティストはものを書いている人が多い。でも、もしかしたら僕のテキストはそういうものではなくて、作品とほぼ同じものかもしれない」。

どこにいても、その場所に影響される

落合の独特の感性や創造性は、1990年に渡米して以来、ニューヨークのアートシーンに触れて培われてきたところが大きい。90年代初頭、落合が大学院の学生だった時に、フェリックス・ゴンザレス=トレスが教員にいたが、結局彼の授業はとらなかったことに触れ、「彼が一番いい先生だったのでは」という。トレスはやる気がなく、お金のためだけに教えていると言っていたそうだ。「変なところでしたけど、どこがいいとか悪いではなく、どこにいてもその場所に影響されますよね」。

これまで「移動」が作品の要素になることも多かったが、新作の『オセロ』はコロナ禍の夏、ニューメキシコで1ヵ月の隔離生活が続いていた時に生まれた作品。これから世界は変わるのだろうか? それによって作品に影響もあるのだろうか。

「世界は変わってきているかもしれないけれど、大きく見ればそんなに変わらないかもしれない。いつでも戦争はあるし、これまでもパンデミックはあったし、地震もある。作品はわかりやすくは変わらないでしょう。9.11のときもニューヨークにいましたが、わかりやすく変わるということはなかった。でもすべて見るものに影響はされると思います」。

落合の作品は、言葉にしようとするとこぼれ落ちてしまうものがたくさんあるような気がするが、作家は質問に1つひとつ、考えながら丁寧に言葉を紡いでくれた。その中で「マジックナンバー」について教えてくれた。

142857に2をかけると285714、3をかけると428571……と数列が少しずつずれていく。が、7をかけると999999になるという、不思議な数字だ。なぜそうなるのかは説明がつかないけれど、自然にそうなっている。彼の作品はそんな風に、自然でありながら、新鮮な驚きを与えてくれるマジックナンバーのようなものかもしれない。

落合 多武
1967年神奈川県生まれ。現在はニューヨークを拠点に活動している。1990年に渡米し、1993年ニュ−ヨーク大学芸術学部大学院修了。「概念としてのドローイング」を主なテーマとして、ドローイングや立体、映像の他、パフォーマンス、詩などの多様なメディアを用いた制作活動を行う。主な個展に、「旅行程、ノン?」(小山登美夫ギャラリー、東京、2019)、「Tarragon, Like a Cat’s Belly」(Team Gallery、ニューヨーク、2017)、「スパイと失敗とその登場について」(ワタリウム美術館、東京、2010)など。主なグループ展に、「コレクション―現代日本の美意識」(国立国際美術館、大阪、2020)、「百年の編み手たち-流動する日本の近現代美術-」(東京都現代美術館、東京、2019)、「ウィンター・ガーデン:日本現代美術におけるマイクロポップ的想像力の展開」(原美術館/ケルン日本文化会館、2009以降多数巡回)などがある。

■「輝板膜タペータム」落合多武展
会期:1⽉22⽇〜4⽉11⽇
時間 : 11:00~19:00(最終入場18:30)
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-18 9F
休⽇:不定休(エルメス銀座店の営業時間に準ずる)
入場料 : 無料

Photography Kunihisa Kobanashi
Edit Jun Ashizawa(TOKION)

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