TOKION ISSUE 1 OBSERVE

本特集の「観察」の意味は、物事の状態や変化を客観的に注意深く見ることであり、フランス語では智慧によって対象を正しく見極める意味も含まれる。
あることやものをじっと観察することで、当たり前の日常を見直したり、新たな気付き(発見する)を考えるきっかけとなる、余白を持たせた構成で、読者の新たな行動意欲につなげたいという目的でもある。

仕様はオリジナルボックスに6冊の冊子と3枚のタブロイドが封入されている。
通常の雑誌の綴じ方ではなく、各特集がボリュームを持っているのは、どの順に読もうともそれぞれのアーティストの“OBSERVE”が明確だから。
参加するコントリビューターはフランスのアーティスト、ピエール・スーラージュや美術家の横尾忠則、3ピースバンドの空間現代、お笑い芸人のコロッケら、1組8名のアーティストが参加し、それぞれの“OBSERVE”をまとめた。

INSIGHTS / Pierre Soulages

黒いペイントをどうみる?
ピエール・スーラージュ

100歳を超えたフランスを代表する画家、ピエール・スーラージュの“黒”を探求した作品。一見、地味でSNSには不向きかもしれないが、絵を観察し通じ合えた時の感情はデジタルコミュニケーションでは得られないもの。スーラージュの作品の前に立つ鑑賞者は、自分の感情だけが残され、1人でも楽しい時間を過ごすことができる。

NO SPECIFIC STYLE / Tadanori Yokoo

横尾忠則 × グッチ

今回80歳を超えてなお、世界中のクリエイターに多大な影響を与え続ける横尾忠則が、「HANGA JUNGLE」展のモチーフと「廣家 / Kohke」の2作品に「グッチ」のエレメントであるGGパターンをコラージュした作品を作り上げた。同作において美術家・横尾忠則は「グッチ」の図柄をどう観察したのか、はたまたしなかったのか。

WITH ALL YOUR HEART / Shohei Otomo

ペンに宿る命。
直感に訴えかけるアート
大友昇平 × グッチ

アーティスト・大友昇平の作品は、ボールペンで描き上げたとは思えないような緻密で圧倒的な描写力が特徴だ。そして作品で表現される“日本”らしさ。グローバル化が進み日本人が忘れかけている、“日本”を感じさせる作品はどのように描かれるのか。制作過程のラフ画と完成した作品を観察しながら、大友昇平の魅力を考察する。

AT HOME WITH / Machizo Hasegawa

「ステイ・ホーム映画」 徹底観察記録

文筆家の長谷川町蔵が「ステイ・ホーム映画」を10本ピックアップして登場人物を徹底観察。作中では少数派といえる、「登場人物が家で日常生活を淡々と送り続ける映画」を通して、身近なものから素晴らしさを見つけ、生きる彼らや彼女達にまつわる記録をあれこれ妄想する。ある時は新聞記者に、ある時はラジオDJに扮した映画評論にも注目。

SELF OBSERVATION / Kiko Kostadinov

自己観察≠ナルシズム
キコ・コスタディノフ

デザイナーのキコ・コスタディノフがコレクション制作において最も重要視しているのが自己観察。たくさんの服を自分で試着し、頭の中でイメージしているものを具体化していく。過去のメンズ服やウィメンズ服、ヴィンテージのミリタリーウェアやワークウェアを着用し、新しいコレクションを創作するための出発点を架空で設けた。

FRAGMENT / Suminori Awata

石の声を聴く

“石の声を聴く”という職人が滋賀県大津市坂本にいる。“穴太衆”と呼ばれる石行集団で400年以上にわたり、石積みの技術を口承で伝えてきた。穴太衆の末裔で第15代穴太衆頭の粟田純徳への現地取材と、ポートランド日本庭園とダラス・ ロレックスタワーで彼らと仕事をともにした 建築家の隈研吾へのインタビューから“石積み”を観察する。

PICTURES / Croket

コロッケは芸術である

美川憲一からロボット五木まで、独自の進化を遂げるコロッケのモノマネにおいて、人の“観察”を続けていくことがインスピレーションの芽になった。奥深い観察眼とモノマネについて40カット以上のポートレートを交えて紹介する。また、ゴッホやマイケル・ジャクソンなどさまざまな人物を自身で扮したポートレート作品を手掛ける芸術家・森村泰昌によるコロッケ論も収録。

BETWEEN SOUND AND MUSIC / Seigen Ono

聞こえるもの、
聞こえないもの、
聞いているもの
オノ セイゲン

作曲家のオノ セイゲンが日常の身の回りの音と音楽の境界を探る。キッチンではタイ料理研究家の鈴木都によるグリーンカレー の音を工程ごとに収録してサンプリング。“音を観察する”音楽家の蓮沼執太とは、渋谷の街でフィールドレコーディングを行い街の音から新しい音楽を制作した。音楽評論家・松山晋也との対談では無意識の先にある“ノイズ”への考察を通し音と音楽の間を観察するためのレコードやCD,本や映画も掲載している。

OBSERVATION OF STUMBLING / Kukangendai

空間現代監修
“つまずき”の観察

空間現代が「つまずきの観察」を題材に選んだ、7人のアーティストや写真家、詩人らがそれぞれの形式をとったテキストやイメージを掲載。一瞬の事故や裂け目、非日常、意識の外側に追いやられてしまったものなど、想定外の出会いである「つまずき」を観察することで、これまで当たり前であった常態化した行為の内側に、見過ごされていたものの存在に気付く。