2022年の私的「ベストブックス」 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/2022年の私的「ベストブックス」/ Wed, 01 Feb 2023 13:47:47 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 2022年の私的「ベストブックス」 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/2022年の私的「ベストブックス」/ 32 32 2022年の私的「ベストブックス」 作者/ライター・菊池良が選ぶ5冊 https://tokion.jp/2022/12/31/the-best-book-2022-ryo-kikuchi/ Sat, 31 Dec 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=163183 2022年に生まれた読み逃がせない本を「TOKION」ゆかりのアーティスト・執筆陣がガイドする。作者/ライター・菊池良が選ぶマイベスト5。

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素晴らしい本と出会い、その世界に入り込む体験は、いつだって私たちに豊かさをもたらしてくれる。どんなに社会や生活のありようが変わっていこうとも、そんなかけがえのない時間を大切にしたいもの。激動の2022年が終わろうとしている今、作者/ライター・菊池良がこの1年間に生まれた数多の本の中から必読の5冊を紹介する。

菊池良
1987年生まれ。作家。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・神田桂一と共著)、『世界一即戦力な男』(‎フォレスト出版)、『芥川賞ぜんぶ読む』(‎宝島社)など。2022年1月に『タイム・スリップ芥川賞: 「文学って、なんのため?」と思う人のための日本文学入門』を上梓。https://kikuchiryo.me/ Twitter:@kossetsu

年森瑛『N/A』(文藝春秋)

タイトルの「N/A」とは「Not Applicable」で「該当なし」という意味。
松井まどかは中高一環の女子校に通う高校2年生。クラスメイトたちからは「松井様」とあだ名されている。見た目が王子のようだからだと友人からつけられた。
まどかには「うみちゃん」という恋人がいる。うみちゃんは大学生で、まどかの高校に教育実習生としてやってきた。ふたりは試験交際をしている。まどかは「かけがえのない他人」を求めていた。かけがえのない他人とは、「ぐりとぐら」や「がまくんとかえるくん」のようなものだ。
あるとき、まどかは友人からあるツイッターアカウントを見せられる。それはどうやらうみちゃんのアカウントらしいのだ──。
なにかに属することを強いられる違和感への生々しい声。読めば必ず痛みが伴う。
作者の年森瑛は本作で文學界新人賞を受賞し、デビュー。同作で芥川賞の候補にもなった。

ミシェル・ザウナー『Hマートで泣きながら』(集英社クリエイティブ)

ジャパニーズ・ブレックファストの名義で音楽活動するミシェル・ザウナーの回想録。著者は韓国生まれでアメリカ育ち。父はアメリカ人、母は韓国人というルーツを持つ。
アジア系の食材を売るスーパー「Hマート」。そこへ行くたび、著者は涙を流してしまう。韓国の食べものを見ると、死んだ母親のことを思い出してしまうからだ。
ザウナーはカルチャーギャップにさらされながら10代半ばで音楽にのめり込み、やがてバンド活動をはじめる。しかし、母親はそれをよく思っておらず、ふたりはぶつかる。大学を卒業後もアルバイトを掛け持ちしながらバンドをつづけている最中、母の病気が発覚する──。
エピソードのすみずみに、韓国料理の数々が登場する。それは親子をつなぐ強い絆であり、ふたりのルーツを象徴するものだ。そんなシーンが出てくるたびに、こちらの胸は熱くなる。
まるで韓国料理を食べたときのように。

キリーロバ・ナージャ、古谷萌、五十嵐淳子『じゃがいもへんなの』(文響社)

じゃがいもの歴史を、ひとつの家族に見立てて擬人化した絵本。南アメリカのペルーにいたじゃがいもたちが、スペイン人によってヨーロッパに持ち込まれ、偏見にさらされながら各地を旅する。やがてその良さに気づかれ、みんなに愛される食材になっていくというもの。まるで神話のような流離譚だ。
出てくるエピソードは実際のできごとに基づいている。これだけいろんな料理に使われているじゃがいもが、かつてはそうではなかった。いまでは考えられないが、そういったポジティブな価値転換がこれまであったし、これからも起こせるであろうことを示唆してくれる。
著者らはほかにも「レアキッズのための絵本」と銘打って、『からあげビーチ』『ヒミツのひだりききクラブ』(ともに文響社)という絵本も制作している。

田村ふみ湖『古いぬいぐるみのはなし』(産業編集センター

さまざまなひとが自分のお気に入りのぬいぐるみを紹介したもの。ぬいぐるみを撮った写真と、それぞれの持ち主がそのぬいぐるみとのエピソードを語る。くま、猫、うさぎ、コアラ、おばけ(!)といったさまざまなぬいぐるみが登場する。
見た目も違えば、もちろん名前も違う。手に入れた国も違えば、持ち主とぬいぐるみの出会い方も違う。それぞれに固有の物語がある。「物」に愛着が湧くと、「物語」が生まれる。
読んでいてハッとした。ぬいぐるみだけじゃない。わたしたちがふだん使っている「物」には、すべて「物語」があるはずだ。いつも使っているペンは、どこで買ったものか。いま着ているこの服は? 街なかでふと目にした物にも、それはあるはず。日常のすぐそばに、たくさんの物語が眠っている。

ヴァージル・アブロー『ダイアローグ』(アダチプレス)

2021年、ファッションブランド「オフホワイト」の創設者であるヴァージル・アブローが亡くなった。
本書には9編の対談、インタビューが収録されている。そのなかでヴァージルは自らのブランドが持つコンセプトや自身の方法論について驚くほど明確に言語化していく。引用符、アイロニー、威光──。
ヴァージルは有色人種である自分が、いかにして文化の中心地に食い込むかについて何度も語る。それが「トロイの木馬」であり、権力の解体だとも。ここまで語るのは自分につづく人間が現れて、世界が変わることを願っているのだろう。
ならば、この本を正典(カノン)にしてファッション業界──いやまったく関係ない業界かもしれない──に参入する者がいつの日か現れるだろう。文字として記録されたことによって、いつだってわたしたちはヴァージルの声を聞けるのだから。

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2022年の私的「ベストブックス」 「KOMIYAMA YUKA BOOKS」高橋優香が選ぶ年末年始に読みたい5冊 https://tokion.jp/2022/12/30/the-best-book-2022-yuka-takahashi/ Fri, 30 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=162571 TOKIONゆかりのあるクリエイター等がセレクトする2022年の私的「ベストブックス」。

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素晴らしい本と出会い、その世界に入り込む体験は、いつだって私達に豊かさをもたらしてくれる。どんなに社会や生活のありようが変わっていこうとも、そんなかけがえのない時間を大切にしたいもの。激動の2022年が終わろうとしている今、読んだ後にポジティヴなエネルギーや新しい気付きをもたらしてくれる本を「KOMIYAMA YUKA BOOKS」の髙橋優香が紹介する。

髙橋優香
1986年生まれ。東京メンズファッションブランド 「ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ」 に5年勤務後、アメリカンカルチャーを体感すべく2年間ニューヨークに留学。アメリカでアートブックの世界に魅せられ現在神保町老舗古書店、小宮山書店に勤務。2021年7月には、自身がキュレーションするシークレットブックスペースをラフォーレ原宿「GR8」の店舗内にオープン。
Instagram:@komiyama_yuka_books

新しい1年をエネルギッシュに迎えるための5冊

今年は、すごくいい本と出会う機会が多かった印象があります。フィジカルで出すなら、こうしたい、こういう物を残したいとか、著者がじっくり深く考えて作るものが多いのかなと。あくまで主観ですが、いい本とは作家が見える本だと思っていて、作家のやりたいことや、伝えたいことが見えるとか、作り手の気持ちが見えるもの。それがきちんと届いているから、いい本が多かったと思えるのかもしれない。作りたいという意図が見えることも大事で、中にはこれをまとめられても……みたいなものもありますしね。

コロナ禍を経て、距離感だったり、コミュニケーションだったり、関わりにおけるセンサーみたいなものが、無意識に敏感になっているのかもしれない。コミュニケーションについて改めて考え直してみたり、新しい1年をエネルギッシュに迎える活力になるような、年末年始にぴったりの5冊を選びました。

『NEW YORK 1954.55』(Marval /1995)
WILLIAM KLEIN(ウィリアム・クライン)

新しい年に向けてたくましく生き抜くパワーをもらえる写真集

2022年、写真界で衝撃が走った一番のニュースといえば、写真家ウィリアム・クライン(William Klein)が逝去したことでしょう。『NEW YORK 1954.55』は、『NEW YORK』(Editions du seuil /1956)に刊行されたもののリパブリッシュ版。初版から約70年経った今でも影響を与え続けており、ストリートスナップの技法で、自分を色濃く表現したそのスタイルは当時の写真界に大きな衝撃を与えました。当時は、リチャード・アヴェドン(Richard Avedon)や、アーヴィング・ペン(Irving Penn)といった写真家が表現する絶対的な美やマンハッタンのフラッシーな世界観が良いとされていた時代。クラインが写したのは、現代では想像もつかない街のリアルでした。トランス状態でダンスする人々、拳銃を子どもの額につきつける大人、拳銃をおもちゃのように遊ぶ子ども達など、狂った世界をあたりまえのように生き抜く人々の姿に惹きつけられました。また、アレ・ブレ・ボケといったミステイクとされていたイメージカットをあえてテクニックとして採用。カットオフされたダイナミックなレイアウトなど、写真のルールにとらわれない表現で当時のニューヨークを切り取り、森山大道さんや多くの写真家に影響を与えました。ニューヨークに住んでいた時に購入し、何度も見返しては勇気をもらい、こんな怖い時代にいなくてよかったと思いつつ、街を生き抜く被写体を見ながら、私も街、そして時代をサヴァイブしていかないと、といつ見ても奮い立たされる1冊です。

『SELF AND OTHERS』牛腸茂雄(1994)
第一刷 未来社(復刻版)

巡り巡って今の自分にピタッとハマった写真的コミュニケーション

以前のものが急に新しく見えたり、ピタッと自分にハマる時がある。私にとってのそれが、今年は牛腸茂雄さんの写真集『SELF AND OTHERS』でした。直訳すると自己と他者。牛腸さんは、3歳で胸椎カリエスという病気を患い、身体にハンディキャップがありながら、写真というコミュニケーションツールで人と関わり、表現してきた写真家。余命20歳と宣告され、36歳の若さで亡くなりました。身長が子供の背丈(130cm)ほどだった牛腸さんのポートレート写真を見ていると、被写体と一定の距離を感じ、その距離感が気になったんです。子ども、家族、友人など何気ないポートレート集のようで、子ども達の表情は硬く、違和感を覚える。見ているとなぜか不安になったり、存在の不確かささえ感じる。中盤に出てくるぐっと寄ったポートレートはご両親。こういう部分にも写真と牛腸さんの距離感を感じて、病気のせいで思うように遊べなかった自分の幼少期と比べて、子供に対して強い嫉妬心が現れているのかとか、子ども達が牛腸さんのことを不思議に思って見ていたのかとか、あれこれ考察してしまいます。

私はこれまで、ポートレート写真は被写体と近い距離で、内面を映しだそうとするものがいい写真だと感じていたのですが、牛腸さんのポートレートは違いました。写真というコミュニケーションツールは、人との距離が明確に出るもので、その人にしか写せない写真があることを改めて実感させられた1冊。だんだんとコロナ禍も沈静してきて、コニュニケーションや人との距離感を、無意識に考えた1年だったと思います。この本は、自己と他者の距離感について改めて見つめ直すきっかけになればと思います。

『VIDEOS』(2022/.OWT.PUBLISHING)

カルチャーをシェアする大切さを教えてくれた蒐集家による1冊

おそらく世界一のスケートビデオコレクターである宇佐見浩介氏が、100%の自信を持って好きだと言える157本を紹介している1冊。大事なのは、この本は彼がコレクションしているビデオの図鑑ではなく、彼が好きなビデオを選んで紹介しているということ。スケート映像を収録してあるVHS、DVDとそれにまつわる音源やアイテム、彼の感じたことを書き綴ったテキストは、英訳されヴァイリンガル仕様になっているところに、スケートボートの世界との繋がり、宇佐見さんの意気込みを感じました。前職の先輩だった宇佐見さんは、カルチャーは人とシェアしていかないと繋がっていかないと言っていて、カルチャーを通じて人とコミュニケーションをする楽しさや大切さを教えてくれた人。オススメのDVDを貸してくれて、見ないで返したらめちゃくちゃ怒られたこともありました(笑)。フィジカルで本を作り、時代背景や、意見ではなくすべて彼の感想が書かれているところもいい。おそらく世界初のスケートビデオの書籍は、すべて手製本で製作された真心ある美しい1冊。尊敬する先輩が本を出して、たくさんの人のこれからのきっかけになるのは、とても嬉しいことですし、初版400部が即完売し、第2刷を発売するということもさすがだなと思いました。

『TREMILA』 (SELF PUBLISH /2022) 
Nick Atkins and Matthew Burgess

NYを拠点に活動しているアーティスト、ニック・アトキンス(Nick Atkins)とマシュー・バージェス(Matthew Burgess)がヴィンテージの「アイスバーグ(Iceberg)」のセーターに彼らのオリジナルアートワークをハンドエンブロインドしたセーターのヴィジュアルブック。ニックが絵画、フィルム、スカルプチャー等、表現方法はさまざまですが、一貫して表現しているものが、自身の縁あるハイチでの経験やトラウマ、薬物やアルコール依存との闘いなどの個人史をベースにした架空のSFファンタジー、「ハンジ・パーティ」の中で繰り広げられています。一見するとかわいい印象を受ける作品ですが、蝶々や虫などに、顔がついていたり、口が大きくデフォルメされていたりとかわいいだけとは言い切れない。既視感がなく、オリジナルの世界観で構築されていて、まるで子どもが描いたような独特の色使いもすごくいい。

2人はおもしろいからやろうよ、これやったらおもしろい! と、自分達が楽しむためにアートを制作していて、プロジェクトも、同じメンバーでやり続けるのではなく、良い意味で新しいメンバーと新しい取り組みをしているので、そこからコミュニティが作られ、新しいカルチャーが生まれる。そこにニューヨークのパワーを感じます。また、海外のアーティストは本好きが多く、本を開くとインスピレーションが沸いたり、何年先も“もの”として残っていくことで次世代に繋っていくということを知っています。フィジカルで残すことの大切さを改めて私達に気付かせてくれる気がします。

『Capsule』(KALEIDOSCOPE / 2022)

広い意味でデザインの世界を掘り下げたハイブリッドマガジン

インテリアと建築、ファッションとテクノロジー、エコロジーとクラフトなど、より広い意味でのデザインの世界を掘り下げたイタリア発のマガジン。『KALEIDOSCOPE』の姉妹誌で今号は創刊号。今後毎年ミラノデザインウィークに合わせて発売予定の『Capsule』。タイトルは、1972年に黒川紀章が設計し銀座に建設された日本の建築運動メタボリズムのシンボル「中銀カプセルタワー」から名付けられたそうです。雑誌と書籍のハイブリッドとも言える『Capsule』は、イタリアの先鋭的なインテリアデザイン誌『domus』や『MODO』などの系譜を継ぎながら、全く古さを感じさせないデザイン。クリッピングされグラフィカルに配置された紙面はポップでありながらも、全体の構成はシンプルで見やすく、イタリアらしい無駄のないデザインに魅了されます。古書店で働いていると、年代だけではなく、国によって、デザインや構成が違うので、それを見比べたり、感じられるのもおもしろい。H.Rギーガーのチェアや空山基さんがデザインした「AIBO」なども掲載されているのですが、ここまで攻めていて、独特のおどろおどろしさもあるモード寄りのインテリアマガジンは見たことがなかった。インテリア雑誌にも見えないし、ファッション雑誌にも見えない。独自の編集力に圧倒されます。年末じっくり『Capsule』を見返しながら、家具の買い替えや部屋の模様替えの構想を練ってみるのはいかがでしょうか。

Photography Masashi Ura

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2022年の私的「ベストブックス」 映像ディレクター・上出遼平が選ぶ今年の3冊 https://tokion.jp/2022/12/30/the-best-book-2022-ryohei-kamide/ Fri, 30 Dec 2022 03:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=162940 2022年に出版された本の中から映像ディレクター・上出遼平が選ぶマイベスト3。

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素晴らしい本と出会い、その世界に入り込む体験は、いつだって私達に豊かさをもたらしてくれる。どんなに社会や生活のありようが変わっていこうとも、そんなかけがえのない時間を大切にしたいもの。激動の2022年が終わろうとしている今、映像ディレクター・上出遼平がこの1年間に出版された数多くの本の中からお気に入りの3冊を紹介する。

上出遼平
1989年東京都生まれ。ディレクター、作家。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(Netflixで配信中)シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはPodcast、書籍、漫画と多展開。現在は文芸誌「群像」(講談社)にて小説『歩山録(ぶざんろく)』を連載中。
Twitter:@HYPERHARDBOILED
Instagram:@kamide_

『BAKA IS NOT DEAD!! イノマーGAN日記 2018-2019』イノマー(国書刊行会)

2019年、癌で逝去したオナニーマシーン・イノマーが病床で書き続けた3冊の日記をそのまま1冊の書籍にしたもの。書かれていること以上にその筆跡の変化が、過酷な日々を過ごすイノマーの心や体を物語っていく。全部曝け出して生きてきた男の、最期の曝け出し。
ここまで正直な心の声を聞くことは、後にも先にもないだろう。決して気持ちのいい読み物ではない。だけど確かな重みがある。この本がこの世界に残されたことには大きな意味がある。

イノマーのパートナーであるヒロさんが、コンビニで日記全ページをスキャンして送ってきたのはいつだっただろうか。この本の編集作業を1つの区切りにしようとしているヒロさんの気迫と、そして少々ネジの外れた編集者との邂逅が、この稀有な本を生み出した。
買って損はない。保証します。

『祈り』藤原新也(クレヴィス)

「人生を変えた一冊はなんですか?」
今年も8回ほどインタビューで聞かれた。年末は特にこの手の質問が増える。
いつも同じじゃつまらないしな、などと思って、10冊くらいをローテーションさせて回答している。

けれど本当は“この一冊”というのがある。
藤原新也の『メメント・モリ』だ。
川の中州で犬に食われている人間の遺体の写真に、「人間は犬に食われるほど自由だ」と添えられている。
学生時代、このページが妙にストンと腑に落ちた。
以来、心の中にいつも「俺は犬に食われるほど自由なんだ」がこだましている。
その響きは僕の人生を幾分軽やかにしてくれた。
そしてそれは「もっと自由に、真剣に生きろ」とも響き続けた。
「死」から目を背けて、どうやって「生」を歩めようか。
僕は「死」を通して世界を見るようになった。

そして今年『祈り』なるものが刊行された。
「メメント・モリ(死を想え)」と「メメント・ヴィータ(生を想え)」が1冊にまとめられた、バイブル。
写真の強いコントラストと、曖昧な生と死とが相克する。
100冊買った。

『ぞうのマメパオ』藤岡拓太郎(ナナロク社)

買ってもないし読んでもないのですが、間違いなく面白いのがこちら。これまでの藤岡拓太郎が紛れもなく凝縮されている、とんでもない名著。可愛さの陰に隠された狂気。MAD絵本。逆に自分がなぜ買っていないのかが理解できない、それほどの強度を持ったマメパオ。

表紙を見る限りでは、ニコニコご機嫌な女の子と、ちょっと困り顔の仔象との話らしい。誰がそんな設定を思いつくだろうか?(いや、誰も思いつかない)
想像してみよう。
ある深夜の動物園。
飼育員達は寝静まり、アメリカの映画に出てくるようなダラシのない警備員は、やっぱり退屈そうにテレビを見ている。監視カメラのモニターの端を、小さな影がささっと横切る——象大好き女の子、ミミだ。ミミはこの動物園のスター雌象ジュリアンが昨夜、元気な仔象を産んだというニュースをもちろんチェックしていた。そうでもなければ、賢いミミはこんな馬鹿げた行動を起こすわけがない。ミミの通信簿は「大変良い」で埋め尽くされているのだから。
そしてミミは、象が本当に好きだから、こうやって夜陰に乗じて、仔象を盗みにきたのである——。

やっぱり実物を読まなきゃ。
明日青山ブックセンター行ってきます。

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2022年の私的「ベストブックス」 ライター・嘉島唯が選ぶ今年の5冊 https://tokion.jp/2022/12/29/the-best-book-2022-yui-kashima/ Thu, 29 Dec 2022 03:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=162756 2022年に生まれた読み逃がせない本を「TOKION」ゆかりのアーティスト・執筆陣がガイドする。ライター・嘉島唯が選ぶマイベスト5。

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素晴らしい本と出会い、その世界に入り込む体験は、いつだって私達に豊かさをもたらしてくれる。どんなに社会や生活のありようが変わっていこうとも、そんなかけがえのない時間を大切にしたいもの。激動の2022年が終わろうとしている今、ライター・嘉島唯がこの1年間に出版された数多くの本の中からお気に入りの5冊を紹介する。

嘉島唯
新卒で通信会社に営業として入社、ギズモードを経て、ハフポスト、バズフィード・ジャパンで編集・ライター業に従事。現在はニュースプラットフォームで働きながら、フリーランスのライターとしてインタビュー記事やエッセイ、コラムなどを執筆。
Twitter:@yuuuuuiiiii

『信仰』村田沙耶香(文藝春秋)

宗教という存在に対して意識が揺るがされた7月の前夜、2022年6月に上梓された短編集。タイトルを飾る『信仰』は「俺と、新しくカルト始めない?」というセリフから始まり、パンチの効いた冒頭からのめり込んでしまいました。カルト宗教の存在を頭ごなしに否定する物語ではなく、とても真摯に描かれているので読んでいて切なさを覚えました。ラストにかけては「自分もその1人なのでは?」と主人公に共感せざるを得ない「普遍的な問」が打ち立てられているので、背筋が凍る人も少なくないはず。

村田沙耶香さんの作品は「普通、こうでしょ」という感覚に対する暴力性を読み手に淡々と伝えてくれるのですが、本作はその色が特に濃く、背中にナイフをあてられているような感覚で読み進めました。

また本書の中には村田さんのエッセイも収録されており、これも小説と同様に「自分に潜む平凡な暴力性」について考えさせられます。「きっとこれまで私は何も考えずに誰かを傷つけてきたんだろう」という反省とともに、そうした想像力を少しでも養っていきたいという気持ちを喚起させられる1冊でした。

『新潮』2022年7月号(新潮社)

坂本龍一さんの連載『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』の初回が掲載された号。連載は12月現在までで6回分が公開されていますが、その第1回のトピックが「がん」や「死生観」でした。

がんの「ステージ4」認定や余命宣告、せん妄体験……精神がおかしくなりそうな闘病生活を生々しく語りつつ、「一気に不信感が芽生えました」「患者に対しての言い方ってもんがあるだろう、と正直頭にきてしまいました」など、等身大の感情を明かしており、坂本さんの人間くさい一面が惜しげもなく披露されています。

さらに『戦場のメリークリスマス』に対する”常に戦メリを期待されてはうんざりする、この代表曲をこえる曲を作りたい、でもそれを終生の目標にして良いのか”という複雑な感情も吐露。飾り気のないエッセイを読んでいると、他人の目を気にしては一喜一憂するのがばかげている行為のように思えて、気分が軽くなるのです。不思議と心が澄んでいくような気がします。

この『新潮』の巻頭を飾る山田詠美さんの『たたみ、たたまれ』も衝撃作でした。文芸誌は音楽フェスのようなさまざまな出会いの場だと思います。

『母親になって後悔してる』オルナ・ドーナト(新潮社)

「もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になる事を選びますか?」。この質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューを行い、まとめたのが本書です。15ヵ国で話題になり、日本でも今年大きな議論を生みました。黙殺されてきた情念が明らかになり、共感や反発が生まれたのです。

私もその1人で、この本を読むまで「母親」という生き物は「減私奉公する存在」だと勘違いしていました。

母は私が8歳の時に他界しましたが、専業主婦として私に尽くしてくれましたし、当時はそれが「女の幸せ」といわれていたような気がします。

数年前、20年越しに母の遺品整理をしていると、母の給与明細や昔の恋人から届いた手紙を発見しました。母は私に愛情をいっぱい注いでくれている中でも「母親にならなかった人生」を考えていたのかもしれません。

本書でも書かれていますが「母親になって後悔している」とは「子どもを愛していない」わけではありません。23人の後悔の念は、私にとって母親という存在を人間に戻してくれました。母親になったとしても、自分の人生は手放さなくていい。この本の要旨はここにあると思います。

『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』麻布競馬場(集英社)

Twitterで「リアルすぎる描写」と話題になった投稿が「文学」として昇華された1冊。Twitterの連続投稿をもとに作られた短編集で、気がついたら読了していました。それぐらい没入感があります。

読んだ瞬間「現代の『なんとなく、クリスタル』だ」と思った人は多いのではないでしょうか。東京で暮らすアッパー層の固有名詞にまみれた物語は、きらびやかに見えつつも、軽薄で空虚で刹那的。男女のさまざまな物語が展開されるのですが、精緻すぎる描写に腹わたを刺されるような感覚に陥ります。

「どちらかというと乃木坂のほうが近い大衆海鮮居酒屋」は毎日のように通っていたなぁとか、セクハラとパワハラをする上司は「セパ交流戦」とか「日本シリーズ」とか呼んでたなぁとか、大江戸線の、地の底まで永遠に続くような階段を下りる元気が湧かなくなったこともあったよなぁと、登場人物達と似たような行動をしている自分が浮き彫りになり、ハッとするのです。

インターネットの普及によって場所にとらわれなくなったといわれて久しいですが、いまだに東京のパワーは健在であることを実感させられる昨今です。

『そして誰もゆとらなくなった』朝井リョウ(文藝春秋)

平成生まれの直木賞作家・朝井リョウさんのエッセイ。本書はこれまで発行してきたエッセイ『時をかけるゆとり』(2014)『風と共にゆとりぬ』(2017)に続く3作目。どうやら「ゆとり3部作」の完結作なのだそう。

朝井作品といえば、現代に生きる若者達の心情を、心の皮を1枚1枚剥ぐように丸裸にしていく筆致で、多くの人を虜にしている印象があります。

そんな朝井さんのエッセイは、小説とは異なり軽快でコミカル。電車内で読むと思わず吹き出してしまう内容で、周囲から訝しがられます。​​「ゆとりとか言ってられない年齢になった」という一文から始まる本作は、同世代の自分としてはうなずかずにはいられない言葉が目白押しです。

「もう社会人十年目とかだよね? 下の世代も育ってきてるよね? “できない自虐”みたいなので笑ってもらえる期間、とうに過ぎてるからね?」。

この雰囲気が、少し物悲しいタイトルに結びついているそうです。加齢による体型の変化、引っ越し、習い事での失敗談など、大人になるための身近なトピックが満載でスイスイ読み進められます。繰り返しますが、公共交通機関内で読むと大変なことになるのでご注意ください。

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