テレビ東京 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/テレビ東京/ Thu, 28 Dec 2023 09:18:33 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png テレビ東京 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/テレビ東京/ 32 32 2023年の私的「ベストブックス」 テレビ東京・大森時生が選ぶ4冊 https://tokion.jp/2023/12/28/the-best-book-2023-tokio-omori/ Thu, 28 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=220168 2023年に読んだ本の中からテレビ東京・大森時生が選ぶお気に入りの4冊。

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長引くコロナ禍の収束を感じながら幕開けした2023年。揺り戻しから、街は以前の活気を取り戻したようだった。一方で、続く紛争や事件、流行り廃り、AIとNI……多くのトピックを巻き込みながら、日常の感覚にあらゆる変化をもたらした。

そんな2023年に生まれたたくさんの素晴らしい作品群から、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『このテープもってないですか?』『SIX HACK』「祓除」を手掛けたテレビ東京の大森時生が選んだお気に入りの4冊を紹介する。

大森時生(おおもり・ときお)
1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』でプロデューサーを担当。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ」優勝。その後『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』『SIX HACK』「祓除」を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務めた。
X(旧Twitter):@tokio____omori

『アクティング・クラス』ニック・ドルナソ(早川書房)

『サブリナ』でブッカー賞を受賞したニック・ドルナソの最新作。
『サブリナ』では、インターネットで爆発的に拡大し「誰が誰のためにつくった妄想なのか」すらも定かではない陰謀論の不気味さを、私達の脳内に浸透する筆致で描いていた。『アクティング・クラス』は、その『サブリナ』の先をいく。ヒタヒタと時間をかけてつんざかれるような薄気味悪さだった。(年始に読んだのに、この依頼を受けた時、真っ先にこの本が頭に浮かんだことがその証左と言えるはず!)
タイトル通り、舞台は、夜に開催される演技教室。お世辞にも社会をうまくサバイブできているとは言えない10人の男女が演技教室に通い始めると、現実と虚構の境目が徐々にゆらめき始める。今作の不穏な魅力の1つはやはり、登場人物が「虚構に飲み込まれたい」と思い始める瞬間があることだ。
窮屈な世の中を生きる人々(私を含め)は、現実の外に魅せられていくことは少なからずあるはず。その接続点をもって、“アクティングクラス”は他人事ではなく、私自身の物語だと感じる。

とにもかくにも、私の2023年(映画やテレビすべて含めた中で)ベストコンテンツですので、ぜひ読んでみてほしいです。アリ・アスター(ミッドサマー監督)が映画化するという噂が出るのも納得の1作。

※本書の出版は2022年12月だが、読んだのが2023年とのことで特別に選出

『闇の精神史』木澤佐登志(早川書房)

「SFマガジン」に連載されていたエッセイの書籍化。ロシア宇宙主義、アフロフューチャリズム、サイバースペース……個人的に興味はあったが、モヤモヤとしていて全容が理解できていなかった概念が網羅的にまとめられている本書を、私が涎を垂らしながらに手に取った。本書は、私が敬愛するVaporwaveアーティストの猫 シ CORP.の「Palm Mall Mars」の話から始まる。「異常なまでに長いショッピングモールのエスカレーターの先を見つめる、浴衣姿の少女」。そのモチーフには、私達がかつて想像していたかぎ括弧付きの “未来”が投影されている……そこからソ連時代の宇宙開発 そして宇宙帝国主義に繋がっていく構成に、心を掴まれた。未来の見えないどん詰まりの現実、そんな中でなぜ「失われた未来」を闇=宇宙に見出すのか。タイトルに偽りなく、外部の闇としての宇宙を巡る思想の歴史書は、希望を持つことは難しい(と私が勝手に思っているだけかもしれないですが)この世界で、希望をゼロにせずに生きていくために、必携と言えるのではないでしょうか。

『IMONを創る』いがらしみきお(石原書房)

私が大好きな作品の1つに『誰でもないところからの眺め』がある。「ぼのぼの」でよく知られるいがらしみきおさんによる、震災から4年後の宮城県を舞台にした物語。しりあがり寿氏の「不安と不安と不安と、そしてその先の針のような希望と。」という秀逸すぎるコメントも強く記憶している。人間の記憶や認知が歪む瞬間の恐ろしさ、そしてその結果として新たな世界に踏み込むことの不気味な爽快さを、ここまで美しく描いた作品は他にない!!

話がずれました。『IMONを創る』はいがらしみきおさんが著したエッセイ。1992年の書籍がこの度復刊された。本書のコンセプトは「人間のためのOS=行動と思考の原則である『IMON』(=Itsudemo Motto Omoshiroku Naitona いつでも・もっと・おもしろく・ないとなァ)の構築と、それを読者へインストールする試み」。人間、そして社会にまつわるすべてのことの解説を試みている奇書(もちろん褒め言葉)だ。いがらしみきおさんがここまで鮮明に未来を予測していたということも驚きではあるが、本書が傑出している点は、そんな現代社会(=2023年)に「私たちがどう生きるか」について道標となる思想まで掲載していることだ。君たちはどう生きるか? と宮崎駿に問いかけられた2023年こそ、『IMONを創る』を読み、私はこう生きる、と答えたい。

『エレファントヘッド』白井智之(KADOKAWA)

「2023年のベストブックス」という依頼をいただいた時、頭にこの本が浮かんだが、すぐにかき消そうとした……が、結局消えない!ので、書いてしまうことにした。なんといってもこの本、インモラルすぎるのだ。おすすめできない。語ることができる範囲で言うと「精神科医の象山が愛してやまない家族を守るため、孤軍奮闘するミステリ小説 」くらい。次々と起こる不条理な死、倫理観の欠如した行動(欠如しすぎているため、一例もここには書けない)、胸を突く強烈な生理的嫌悪感。ただ激しいエログロではなく、歪み切った多重の精神構造の中に飲み込まれていくことに、私達読者もどこか快感を覚えてしまう。タチが悪い。この読書体験は、インモラルな精神性を自分自身にインストールすることに他ならない。

ラストのトリック、読み終わってからもしばらく、全く脳裏から離れなかったです。
最悪すぎたので。

Text Tokio Omori

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「祓除」対談:テレ東・大森時生×梨 2人が語る「怖さ」「不気味さ」の正体 https://tokion.jp/2023/11/17/futsujo-tokio-omori-x-nashi/ Fri, 17 Nov 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=216488 テレビ東京の開局60周年を記念した「テレ東60祭」内でのイベント「祓除」について、大森時生と梨の2人に話を聞いた。

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テレビ東京の大森時生(左)と梨(右)

大森時生(おおもり・ときお)
1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』でプロデューサーを担当。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ」優勝。その後『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』『SIX HACK』を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務めた。
X(旧Twitter):@tokio____omori


作家。ネット上で数多くの怪談を執筆。2021年の『瘤談』が大きな話題となる。2022年に初の書籍『かわいそ笑』(イースト・プレス)を発表。景山五月のマンガ『コワい話は≠くだけで。』の原作、BSテレ東の特別番組『このテープもってないですか?』の構成、イベント『その怪文書を読みましたか』のストーリー制作など、各分野で活躍中。2023年6月には新作『6』(玄光社)を出版。
X(旧Twitter):@pear0001sub

テレビ東京の開局60周年を記念したイベント「テレ東60祭」が、11月15〜19日の5日間にわたって、横浜赤レンガ倉庫で開催されている。

その中で、11月18日に行われるのが、テレビ東京の大森時生を中心に、『フェイクドキュメンタリー「Q」』の監督・寺内康太郎、『瘤談』『6』で知られるホラー作家・梨、そして『近畿地方のある場所について』の作家・背筋が参加する「祓除(ふつじょ)」と題された演目。

公式の情報では「これまでに人々のあいだで穢れや禍とみなされてきた数々の映像や物品を無害化するための式典」と書かれている。

イベントを開催するにあたり、これまでにAマッソの公演『滑稽』や、テレビ東京の番組『このテープもってないですか?』でも共作の経験がある、大森時生と梨の2人に話を聞いた。

作者の素性はノイズにしかならない

——大森さんが最初に梨さんを知ったのは?

大森時生(以下、大森):もともとは、梨さんがnoteに投稿された『瘤談』とか、オモコロの記事を読んでいて、一方的に僕がファンでした。そのあと、最初にお仕事をご一緒したのは、僕がプロデューサーとして関わったAマッソの公演『滑稽』ですね。梨さんには構成として参加してもらいました。

梨:突然、大森さんからSNSにDMが届きました。

——「梨」というペンネームをはじめ、年齢などの素性を明かさないのは、どういった意図でしょうか。

梨:私はインターネットで同人活動をしていたところから今の仕事が始まっているので、ハンドルネームがそのまま本になった時にもペンネームになりました。素性を明かさない理由としては、例えば、実話怪談のような場合は、取材者なり体験者の素性を明かしたほうがリアリティも出ますし、都合がいいことのほうが多いのですが、インターネット発のホラー文脈で考えると、もとになる情報がどこで見聞きしたのかもわからないような、時間と空間が隔たれたところに魅力があると思うので、作者の人物像を明かすことがノイズにしかならないじゃないのかなと。

——いま梨さんはホラー作家を肩書きとしていますが、もともと作家志望だった?

梨:そもそも「梨」という名前は、大学生の時になんとなくTwitterのアカウントを作ろうと思って、その時に梨が目の前にあったので、適当につけた名前なんです。そこから「SCP財団」という共同創作のコミュニティサイトに投稿をはじめて、少しずつ評判をいただけるようになった感じです。同人作家としてスタートして、プロとしての訓練とかも受けていないので、まさか『滑稽』で芸人さんと仕事をするなんて、最初で最後だろうくらいに思っていました。

大森:僕は本業としてテレビを作っている人以外の人と仕事をしたいと思っているので、梨さんのような別ジャンルの方とは積極的に組んでいきたいんですよね。完成度の高いテレビ番組を作るというよりも、テレビというメディアを使っておもしろいことをするのが目的なので。

梨:今回の「祓除」も、私以外に背筋さんも参加しますからね。

大森:背筋さんは、やっぱり『近畿地方のある場所について』を読んで、またすごい人が出てきたぞって。僕のタイムラインでは一時期、1日に1回は『近畿地方のある場所について』の情報が流れてきましたから。

ホラーの原体験は「洒落怖」

——大森さんは、梨さんの作品のどこに魅力を感じましたか。

大森:梨さんも影響を受けている「洒落怖」(しゃれこわ、2ちゃんねるのオカルト板「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」)とか、その中で生まれた「猿夢」とか、いま読むとけっこうギャグっぽい雰囲気もあるのですが、梨さんの作品は、これぞ現代の恐怖、という感じがしたんです。『瘤談』でいうと、どこまでも自分達の生活と地続きで、最後までつかめない、形を捉えられそうで捉えられない、僕達が日常で感じる恐怖にものすごく近い感覚があって、これはもっと有名になるぞ、と。

梨:「最後まで掴めない」ということで言うと、2020年代のホラーは、一昔前の定番だった、最後に「実はここで陰惨な事件が……」みたいなオチを避ける傾向があったんですよね。説明がつかない、原因も明かさないことが新しい潮流になってました。

大森:2010年代に「考察」という言葉が流行って、謎解き文脈の怖いものが増えたんですよね。でも、伏線が回収された瞬間って、個人的には一番怖くないんですよ。梨さんの『瘤談』がいいなと思ったのは、あくまでフィクションとして、不気味で怖かった。

梨:謎が解けて伏線が回収されるのって、恐怖ではなく、カタルシスになっちゃうんですよね。

——梨さんのホラー原体験は、やはり「洒落怖」ですか?

梨:そうですね。「トイレの花子さん」を知るよりも前に、小学生の時に親のパソコンで「洒落怖」を読んでました。そこから自分でも投稿するようにもなって。

——梨さんが大森さんを認識したのはいつ頃ですか?

梨:最初に観たのは、大森さんがテレビ東京の「若手映像グランプリ2022」で優勝した『Raiken Nippon Hair』でした。そのあと、ネットでバズっていた『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』も観て、テレビでこんなことやる人がいるんだ、と驚きました。

大森:2000年代にフジテレビで放送されていた『放送禁止』というフェイクドキュメンタリー番組があって、いまでも一部のファンからカルト的な人気があるのですが、『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は、そのあたりのファンの人達の渇望にハマって、ネットでバズりました。

梨:テレビでいうと、私はテレビ東京が夜中とか明け方に放送していた『蓋』(2021年9月7日未明から9月27日未明にかけて不定期に放送されたフェイクドキュメンタリー)という番組が大好きなんです。あれはテレビというメディアの特性をいかんなく発揮した素晴らしいコンテンツでした。それで、テレビ東京への期待と信頼が高まっていたので、大森さんからお声がけいただいた時も、二つ返事でOKしたんです。

大森:『蓋』は上出遼平さんという、今は退社してしまった僕の先輩が作った番組ですが、あれはTVerでも配信しなかったことで、より伝説っぽくなりましたよね。画像や切り出し映像がネットでバズってはいましたが、実際に本編をテレビで観た人はかなり少ないはずです。

フィクションをドキュメンタリーのように見せることの暴力性

——完全なフィクションと銘打たれているよりも、実話をにおわせて具体的な年代や固有名詞があるほうが、リアリティと、それに伴う恐怖も増すのかなと思ってしまうのですが、そのへんはどうなんでしょう。

梨:実話をにおわせると、一定数の読者なり視聴者は、「これは実話なんだろうか」という疑問を解くことにリソースを割いてしまうんです。そうなると、粗探しをしながら作品を受容する態度になってしまう。一方で、最初からフィクションやフェイクと謳うことで、逆に「これは本当はフェイクじゃないんじゃないか」っていう楽しみ方を解放できるんです。

大森:フェイクと謳うことで、逆に本物に見えるという作用はありますよね。本当は実話なのに、あえて「フィクションです」って言ってるんじゃないか、という。

梨:極端な話、作中に「これはフィクションです」って何度も何度も繰り返し出てきたら、だいぶ怪しいじゃないですか。実話だと明かせない深刻な理由があるんじゃないか、という憶測が生まれる。そういうところがフィクションのおもしろさです。

大森:だから、梨さんと何度かお仕事してきて共鳴できるのは、あくまでフィクションでおもしろいものを作りたいと思っている姿勢なんです。

梨:本物の怖い話を書きたいという気持ちは全くありません。

——フィクションのほうが、創作物としての強度はありますよね。

大森:僕はテレビ局の人間なので、テレビの文脈で考えると、リアリティショーと呼ばれるジャンルの番組がありますよね。ただ、リアリティショーだけじゃなく、本当は台本や構成が用意されているフィクションなのに、あくまでドキュメンタリーかのように見せるコンテンツは世の中に本当に多くて。個人的にその手法が好きじゃないんです。ドキュメンタリーを謳うことの暴力性に、作り手があまりに無自覚だし、それによって、ひどい時には事故も起こるので。

——ドッキリ企画に限らず、街ブラのロケ番組にしても、台本と事前の仕込みがあるにもかかわらず、さもドキュメンタリーのように見せているのがいまのテレビです。

梨:出す情報、出さない情報を作り手がコントロールしている時点で、視聴者との隔たりがある。そのことを作り手は常に意識しないといけないですよね。

インターネットの共時性はホラーと相性がいい

——インターネットとホラー作品との相性については、どう考えていますか。

梨:インターネットは共時性のメディアだと思うのですが、共時性とホラーはとても相性がいいんです。何かを体験した人の投稿をSNSでリアルタイムで追っていると、緊迫感や恐怖感が増しますよね。そういう効果がネットにはあると思います。

大森:何の脈略もなく、真偽も不明な断片がそこら中に落ちているのがインターネットなので、ホラー作品にしても、作品に満たないような情報であっても、並列で入ってくる。そこも不気味さを助長しますよね。

梨:本にするには、ある程度の規定文字数が必要ですが、ネットだとその制約もないので、細かい書き込みとか投稿もすべてが同じ扱い。書籍としてアーカイブ化された正確な記録を読むのとは全く違う感触がありますね。

大森:本を読む時には、大前提として、きちんと出版社を通して世に出たものを読んでいる、という安心感があるんですよね。それがネットにはない。

梨:人は受動的に摂取した情報よりも、自分から検索してたどり着いた情報のほうを信じる傾向にあるとも言われているので、そこもホラーと相性がいいですよね。

大森:そう考えると、テレビにしても書籍にしても、担当する数人が陰謀論にハマっていて、それがそのまま世に出てしまったら、そのほうがよっぽどホラーですけどね。でも、その可能性はけっこうあるなと思います。

梨:なので、さっき話した『蓋』が怖かったのは、テレビで放送されたからなんですよね。あれがYouTubeのコンテンツだったら、あそこまでの不穏さは感じなかった。

大森:テレビはフォーマットが決まっていて、多くの人が共有もしているので、少しでもそこをずらしたら、いくらでも不気味さを演出できるんです。出演者がしゃべっている途中でCMに入るとか、変なタイミングで番組が終わるとか、それだけでかなり異化効果を発揮します。

梨:テレビが60年間積み上げた歴史が、全部振りになりますね。

飲み込まれて一線を越えないために

——ホラーや超常現象は、人間にとってどんな作用があると思いますか?

梨:よく知られている四谷怪談のお岩さんの話がありますが、ああいった非業の死を遂げたり、憂き目にあった人間が、死後幽霊になって化けて出るというのは、ある意味で救いがあるとも言えると思うんですよね。

——たとえ無残な最期を迎えても、転生して復讐できる余地がある、みたいな。

梨:そうです。死んで終わりじゃない、という。それは現代においても同じで、死後の世界が存在したり、人知の及ばない超常現象もありうると考えることが、ある種の救いになる。一種のセラピーとして。現実世界にバッファがあると考えたほうがいいじゃないですか。

大森:あとは、不愉快な目に遭ったり、最悪なことが起きたりって、日常にいくらでもありますが、そうなると、毒を食らわば皿まで的な、あえて自分から負のものを摂取してやろうみたいな気持ちになると思うんですよね。

——怪談や幽霊などとは別に、大森さんの『SIX HACK』や、梨さんの「おにかいぼ」のように、現代の自己啓発セミナー的なものがホラーとして扱われるのは、民俗学でいう信仰とかの流れなんでしょうか。

梨:祠に何かを祀ったりするような、いわゆるスピリチュアリズムの流れをくむものは、意外とオカルトとは切り離されているんですよね。端的に言うと、UFO研究家はまったく儲かりませんが、スピリチュアルは儲かる。理論のつけ方も違っていて、オカルトの場合は、例えば呪いの品というものがあって、「これを身につけると祟りが起きて不幸になります」という理論。一方のスピリチュアルは、水晶でも壺でも、「これを持つと幸せになります」という理論なんです。

——ダウナーとアッパーで正反対ですね。

大森:自己啓発的なものは、陰謀論と近いんです。ある一点をハックして突破すれば、すべて解決するような理屈があって、あちら側とこちら側で線引きをする。その線引きはホラーとも構造が同じで、あっちの世界とこっちの世界という話につながってくる。

——陰謀論でも自己啓発理論でも、フィクションとして作られたフェイクと、実在する本物を見分けるのって、実はけっこう難しいですよね。

大森:実在する新興宗教の理論のほうが、破綻していて安っぽかったりしますからね。フィクションとして忠実に再現したら、もはや誰も信じない嘘っぽい出来になると思います。

梨:本物かフェイクかの話で言うと、以前オンラインサロンを模したホラーを創作したことがありまして。それは“開”運ではなく、“閉”運をコンセプトにしていて、その時点でかなりフェイクを前面には出しているのですが、一番大事だなと思ったのは、経済活動をしないってことですね。本物は何かしらの経済活動に結びついていることが多いですが、さすがにフィクションでそれはあり得ないので。

——芸や作品として、ある思想や理論をネタにしていた人が、いつの間にかその思想に飲み込まれて、完全にあっち側へ行ってしまうケースもあります。

大森:それは本当によくあります。思想に限らず、実話系の怪談師とかにも言えることですが、自分の名前も出して、生身の身体を使ってパフォーマンスをすることの限界というか、本人として活動している人ほど飲み込まれていきますよね。人間そんなに強くはないので。

梨:完全なロールプレイは相当に難しいですよね。

大森:YouTuberでも、ロールプレイをしすぎた結果、一線を越えて、宗教的な領域に入っている人はいますからね。だからこそ、作り手側としては、「自分はフィクションを作っているんだ」という意識を持つことが一番重要だと思います。

“いい人”としか仕事したくない

——今回お2人は、テレビ東京開局60周年記念イベントで「祓除(ふつじょ)」という催しをやります。どう企画がスタートしたんですか?

大森:テレビ東京が60周年を迎えるということで、上司から何かイベントできないかという話があり、そこで「お祓い」というキーワードが頭に浮かびました。

——事前の情報では、「テレビ東京が良い61年目を迎えるために、これまでに人々のあいだで穢れや禍とみなされてきた数々の映像や物品を無害化するための式典を、特別に催すことになりました」とのことですが、実際にどんなことをやるのでしょう。

大森いつも僕が担当する番組やイベントって、事前に説明するのが難しいんですよね……。

——X(旧Twitter)や事前番組を見ても、正直まだどんなことをするのかよくわからないです。だからこそ楽しみではありますけど。

祓除 事前番組

梨:「無害化する」とういうのが一番近い表現だと思います。

大森:やっぱり実際にイベントを見て、体験してもらいたいですね。イベントだと同じものを見て、同じような感情を持った人が、同じ場所にいっぱい集まる。それが怖さの体験を増幅させると思うので。

——寺内康太郎さんや背筋さんも「祓除」に参加されています。みんなで集まったりしているんですか?

大森:結構みんなで集まってますね。今回、僕と寺内さんが映像を担当して、梨さんと背筋さんに構成を考えてもらっています。大筋の流れは決まっているので、みんなで話しながら、最終的には僕がジャッジしていくという感じです。

——「これは怖すぎるからやめておこう」みたいなこともあるのでしょうか

大森:いや、それはないです。梨さんもそうだと思いますけど、僕らは「不気味さ」っていうジャンルが好きなので。その「不気味さ」を追求していった時に、スプラッターや暴力的な表現になりそうだったら、変えようかな、となります。あとは、びっくりさせる方向にいっている時とかもそうですね。

梨:ジャンプスケアっていう手法なんですけど、1回使うと「次もやってくるかも」と、ノイズになりかねないんです。そうなると、僕らの求める「怖さ」とは違ってしまうので。

——大森さんと梨さんは仕事をする上で、お互いどんなところを頼りにしていますか。

梨:これまでも作家同士のコラボレーションとかはありましたけど、大森さんのように、予算や展開といったコンテンツの運用までを考えられる人とお仕事をする機会はなかったので、そこはものすごく心強いですね。

大森:僕が梨さんに思うのは、個人で点としてのアイデアを考えることはできても、そこから線をつないで全体の帳尻を合わせるのが難しい時に、その帳尻合わせがとても上手いんですよ。きちんと全体としてのまとまりを作ってくれる。

梨:そこは同人活動で培ったものですね。私が同人活動をはじめた頃は、ネット上に1シーンとか短文の、点でしかない投稿が溢れていて、だいぶ飽きられていたんです。それで、自分が書くからには、ちゃんと線になっている起承転結の物語を書こうという意識が強くあり、だいぶ鍛えられました。

大森:その意識があるからこそ、職人的に不気味なものや恐怖を突き詰めるというより、人にどう届けるかっていうところまで考えられる人なんだと思います。

梨:なので、作家というより、特性としては全体を俯瞰して考える、演出家に思考は近いのかもしれません。エンタメとしての動線設計みたいなことを考えるのは好きですね。

大森:あと、これは重要なことですが、梨さんはとてもいい人なんです。やっぱり仕事をするうえで、知識とか能力とか、いろいろ必要な要素はあると思うんですが、結局いい人としか仕事したくないですよね。

梨:まったく同感です。大森さんもとてもいい人です。

Photography Tameki Oshiro

■「祓除」
『このテープもってないですか?』『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』を手がけたテレビ東京の大森時生、『フェイクドキュメンタリーQ』の寺内康太郎、『かわいそ笑』『6』『瘤談』の梨、『近畿地方のある場所について』の背筋が参加。キービジュアル制作はFranz K Endo。
日時:2023年11月18日 19時30分スタート
会場:横浜赤レンガ倉庫 イベント広場 ※会場チケットは売り切れ
配信チケット:https://pia-live.jp/perf/2338219-005 ※12月2日19:00まで販売
https://twitter.com/futsujo_tvtokyo

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テレビだからこそ、わかりづらいものを。テレビ東京・大森時生インタビュー https://tokion.jp/2023/05/25/interview-tokio-omori/ Thu, 25 May 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=186962 『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』や『このテープもってないですか?』を手掛けたテレビ東京の大森時生インタビュー。

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テレビ東京の大森時生

大森時生(おおもり・ときお)
1995年生まれ、東京都出身。一橋大学卒業。2019年にテレビ東京へ入社。2021年放送の『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』でプロデューサーを担当。『Raiken Nippon Hair』で「テレビ東京若手映像グランプリ」優勝。その後『島崎和歌子の悩みにカンパイ』『このテープもってないですか?』を担当。Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務めた。現在は5月18日に放送開始の新番組『SIX HACK』を手掛ける。
Twitter:@tokio____omori

「悩める奥様たちをお助けする」をテーマに芸能人を一般家庭に派遣、という触れ込みで放送されるも、その内実は決してほのぼのバラエティではなく、言うなれば、フェイクドキュメンタリーバラエティという新境地を切り開いた番組『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』。そして「テレビ放送開始69年」という冠のもと、「過去の貴重な番組録画テープを視聴者から募集・発掘する番組」と銘打って放送され、実態は終始その真偽を掴ませることなく視聴者を困惑させた『このテープもってないですか?』。

……と、言葉での説明が異様に困難な、これら2つの番組を手がけたのが、テレビディレクターでありプロデューサーの大森時生。2019年にテレビ東京へ入社、3年目にして自らプロデューサーと企画・演出を担当し、いずれの番組もSNSで大きな反響を巻き起こした。

さらに、今年の2〜3月には、Aマッソの単独公演『滑稽』でも企画・演出を務め、早々にテレビの枠からはみ出す活躍を見せている。

このインタビューでは、1995年生まれのテレビ局員が、いま現場で何を感じ、何を求めて番組を制作しているのか、「ヴェイパーウェイヴ」「ホラー」などをキーワードに、その真意に迫る。

——過去のインタビューを読むと、就職活動でテレビ局はテレビ東京しか受けていないと。

大森時生(以下、大森):そうなんです。でもテレビ東京にしか行きたくないとか、そういう考えがあったわけではなく、就活を始めるのが遅すぎて、テレビ東京しか残っていなかったというのが実情です。

——テレビ業界以外の企業は受けたのですか?

大森:それは受けました。コンサルとか通信とか、いわゆる一般企業には応募しています。

——どうしてもテレビ業界に行きたい、という感じでもなかった?

大森:ではないですね。テレビは普通に見ていましたが、熱心に見ているとか詳しいわけではなく、まわりの友人達と変わらない、ネットでも話題になっているような番組は見る、というくらいで。『水曜日のダウンタウン』とか『相席食堂』とか。小学生時代までさかのぼると、『めちゃ×2イケてるッ!』とか『トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜』は好きで見てましたけど、映画やYouTubeとかと並列で、その中にテレビ番組もある、という感じです。

——当時はテレビというものに、どういう印象を持っていましたか。

大森:娯楽の中でもシンプルでわかりやすく楽しませるもの、という印象ですね。今でも99.9%のテレビ番組はそういう作りになっています。ただ、0.1%の確率で存在するおかしな番組に出会うこともあって。フジテレビの『放送禁止』というフェイク・ドキュメンタリー番組とか、テレビ東京だと『バミリオン・プレジャー・ナイト』という変則的なバラエティ番組とか。最近の番組だと、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、こんなのテレビで放送しちゃうんだ、って夢中で見てました。

憧れの番組は局内でも圧倒的に少数派

——ご自身でも番組を制作するようになった今の立場から見ると、その0.1%の番組は、どういうところがほかの99.9%と違うのでしょう。

大森:テレビの公式でいうと、番組には何かしらのテーマや物語があって、そのすべてを丁寧に説明しながら、結論までを見せるのが一般的です。でも、例えば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、あえて一部分だけを切り取って、判断や結論を視聴者に委ねています。VTRをモニタリングする出演者として小籔千豊さんがスタジオにいますが、何か結論を言うわけではなく、ただ小藪さんが考えている姿を映しているだけ。

なので、テレビ東京に特別な思い入れがあったわけではないですが、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の衝撃は入社の動機として大きかったです。僕のフェイクドキュメンタリーとの出会いとも言える、『山田孝之の東京都北区赤羽』と『山田孝之の元気を送るテレビ』も圧倒されながら見てました。

——とはいえ、テレビ局の社員になれば、99.9%のほうの番組を作ることが仕事になり、99.9%のほうの番組作りを学ぶことになりますよね。

大森:僕に限らず、どのテレビ局員にも当てはまると思いますが、テレビ東京の場合だと『ゴッドタン』とか『勇者ああああ』とか、自由度が高くて学生時代に好きだった番組に憧れて入社しても、その番組の担当になることはまずありません。そもそもそういう番組は、0.1%とは言わないまでも、テレビ局全体の中では圧倒的に少数派です。それでやる気がなくなるとまではいかないですし、入社して最初は基礎を学ぶというモチベーションでやるしかないですよね。それに、先輩達の話を聞くと、勤務時間はまだ他の業界に比べたら長いかもしれませんが、なにより「暴力がない」というだけで、昔に比べたらだいぶ恵まれてるなと思います。

——テレビ東京だと、『ゴッドタン』をはじめとした深夜番組を作りたいと思って入社した人も多いのでしょうか。

大森:お笑いが好きな人は思った以上に多かったです。それだけ今はお笑いや芸人さんの力が強くて大きいということですよね。僕がいる部署がバラエティ制作だからというのはあるとしても、バラエティ番組ってお笑いだけじゃないにもかかわらず、お笑い番組をやりたくてテレビ局で働いている人はかなり多い。現状、テレビ東京はゴールデンタイムにお笑い番組は1つもないですし、やったとしても視聴率を取るのは難しいと思うので、現実的にやりたいことができていない人が多いのかなっていう印象はあります。

——キャスティングする立場として、芸人にはそこまで強い思い入れはないですか?

大森:芸人さんをメインに据えて、芸人さん個人の魅力を引き出すような番組は、僕なんかより得意な人がたくさんいますので、芸人さんと番組を作ること自体には重点を置いてはないですね。お笑い番組を見るだけではなく、劇場や単独ライブにも通って、キャラクターや芸風といった文脈を理解していないと、本当にその芸人さんが光る番組は作れないはずなので。

テレビはバグが起きた時のインパクトが大きい

——直接テレビとは関係なくても、どういうものに興味や関心を持っていますか。

大森:趣味でいうと、ヴェイパーウェイヴ系のカルチャーは追いかけています。あとは、ホラーやフェイクドキュメンタリーも好きです。ただ、単純に怖いものというよりは、なんとなく不気味で、日常を侵食するような怖さが好きなんです。動画コンテンツとかでも、そういう新しい不気味さや怖さを追求している手法は出てきているんですけど、それらを括る言葉がまだなくて、なかなか説明するのが難しい……。

——ヴェイパーウェイヴが好きなのも、日常を侵食されるような、ある種の不気味さを感じるからですか?

大森:それはあると思います。最近気に入ってよく聴いているのが、ポケモンの金銀クリスタルのBGMを加工しているヴェイパーウェイヴで、チョップド&スクリュードという、音を切り刻んで、どんどん拗らせていく音楽技法が使われているんです。ポケモンの金銀クリスタルは僕自身が世代なので、よく聞いていた音楽が歪に加工されていることに、ノスタルジーを歪まされているような、独特の快感があるんですよね。

——インターネット発のコンテンツと比較した場合、テレビ放送についてはどう考えていますか。

大森:自分の選択でクリックして見るのと、テレビをつけたらたまたま遭遇したというのでは、やっぱり出会いの質が違いますし、偶然に出会ったものに惹かれるほうが、より強く響くんじゃないかなとは思っています。あと、ネットはそもそもカオスなものとして認識されていますよね。非公式もイリーガルも有象無象が混在している。なので、歪なものに出会ったとしても、そんなには驚かない。でもテレビは、カオスとは程遠い、整然としたメディアなので、ちょっとした異物が混入しただけでも驚きがあるし、バグが起きた時のインパクトも大きい。

——テレビは日常であり安心感のあるメディアだからこそ、「日常を侵食するような怖さ」を演出しやすいと。

大森:わかりやすいことが前提になっているので、わかりにくいことが放送されると、それだけで怖さも増幅されます。そこを利用して、テレビだからこそ、わかりにくいことを意図的に流したいなと思っているんです。

ホラーの世界でも、わかりにくい恐怖の潮流というのがあって、最近は「気づかないうちに得体の知れないものに己自身が穢されていた」みたいな感覚がブームになっていると感じていて。それこそ台湾映画の『呪詛』あたりから。わかりやすい事件や恨まれることがあって、それが原因で呪いにかかるとかではなく、もはや呪いを引き起こしている存在が何かもわからない、論理性がない恐怖。加害者になるにせよ、被害者になるにせよ、気づいたら終わってた、という。

リアルタイムで見た人は100人もいないけど……

——ハイコンテクストな恐怖を楽しむには、視聴者にもリテラシーが求められませんか?

大森:万人受けするのは、得体の知れない不気味さよりも、ジャンルでいうとミステリーのほうかもしれませんね。理由や原因を探したくなるような。でも僕は、テレビだからこそ、伝わらないリスクを背負ってでも、わかりにくいものを放送することに意義があると思っているんです。

——それはもうテレビの最先端ですよ。

大森:いや、むしろ最後尾だとは思いますけど(笑)。でも常に意識していることはあって、たとえコンテクストは共有できなくても、映像というビジュアルで生理的に訴えかけるものにはしようと。ただわかりづらいだけでは意味がないので。そういう意味では、たとえTVerなどインターネット経由で番組を見たとしても、これはもともとテレビで放送されていた番組なんだ、という文脈を視聴者は意外と大事にしているのかなと思います。変だったりわかりづらかったりすると余計に、これがテレビで放送されていた、という事実だけでワクワク感が増幅されると思いませんか?

——確かに。これをテレビ番組でやっちゃうんだ的な、下駄をはかせる効果はありますね。

大森: その先入観を逆手に取ることができたら理想ですよね。何気なくつけたテレビで、リアルタイムで見てくれると、より増幅されるんですけど……そこはなかなか。

——若い世代はとくに、「たまたまテレビをつけた」という機会はだいぶ減っているでしょう。

大森:そうなんですよね。いまやテレビもTVerをはじめとした見逃し配信ありきなところはありますから。自分の番組でいうと、BSテレ東で放送した『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』は、リアルタイムでテレビで見た人は多分100人もいないんじゃないかなって思います。視聴率だけが評価軸の時代だったら、100人にも見られていない番組ってありえない。でもあの番組は、見逃し配信がSNSでけっこう話題になり、動画としては再生してもらえたんです。

——再生回数という新しい評価軸のおかげで存在が許された。

大森:そう考えると、録画機能もなかった時代のテレビ番組ってなんて儚いんだ……って思いますね。その時に見た人だけが知っている、あとから検証もできないって、もはやファンタジーに近いというか。

テレビの常識を持ってないだけで新しいことができる

——テレビにとどまらず、Aマッソの単独公演『滑稽』では企画・演出を務めていました。

大森:テレビ放送以外のプロジェクトやマネタイズの方法は会社からも求められていますし、テレビ業界全体としても、これからは番組制作だけではなく、公演の企画やプロデュース、あるいはプロモーション映像とか、このチームに制作してほしいっていう形で仕事がまわるような仕組みが大事になってきます。逆にそれ以外にテレビ局が生き残る道はないんじゃないかなとすら思いますね。

——『滑稽』ではネタの合間に連続性のある映像作品が上映されていましたが、制作チームはテレビのスタッフではなかったですよね。

大森:監督の酒井善三さんをはじめ、映画を撮っているスタッフにお願いしました。

——テレビ局員であれば、テレビの制作スタッフを抱えていることがメリットになるのかなと思ったのですが、そういうわけでもない?

大森:そういう面もないわけではないですが、そもそも、テレビ番組を制作する時でも、別に映画監督やミュージックビデオのチームに発注してもいいんですよ。放送作家ではない方にブレーンをお願いしたっていい。でも現状は、基本的にいつも頼んでいる制作会社や技術会社と組んで、同じチームで制作していることが圧倒的に多い。そのほうがテレビの常識を言わずもがな共有できるので、楽なんですよね。ギャラの基準とか、納期であるとか。そういった交渉とかの実務はけっこうなカロリーを使うんですけど、僕はなるべく外の世界の人と仕事をしたいと思っています。テレビの常識で仕事をしていない人達と組むと、「簡単に」というと語弊があるかもしれませんが、それだけでテレビにとって新しいことができるんです。

——それでいうと、Aマッソも、枠組みを疑う、新しさに関心のあるコンビですね。

大森:新しい表現に対して、異常に探究心があります、とくに加納さんは。軸足はもちろん芸人にありながら、笑いではないおもしろさも追求している人達で、おもしろければ、しみじみしてもいいし、怖くてもいいし、という思考を持っているコンビですね。

制作過程で視聴者の目線は内面化しない

——5月18日に放送がスタートした新番組『SIX HACK』についても聞かせてください。

大森:「偉くなるためのハック」をテーマにした、全6回のビジネス番組です。僕も社会人5年目になったので、たとえ表面的であれ、人が偉くなるために必要なテクニックっておもしろいなと思いまして。いろんなパターンで偉くなる方法を紹介していきます。

——ビジネス番組の中に、不気味さも仕込ませている?

大森:途中には入ってくるかもしれません。でも、僕がずっとやりたかった番組でもありますし、そこには不気味さというよりも、僕の伝えたいメッセージや思想みたいなものを強く入れているかもしれないです。どうやって偉くなるのか、なぜ偉くならないといけないのか、偽物の偉いとは。そういったことを考えながら制作しました。

——初回のエンディングでは、『踊る大捜査線』に出てくるセリフ「正しいことをしたければ偉くなれ」が引用されていましたが、大森さんご自身は「偉くなる」ということについて、どう考えているのでしょうか。

大森:偉さにも様々な種類があるとは思いますが、偉くなることは、冗談抜きに、本当に必要不可欠なことだと思っています。私もサラリーマン生活5年目に突入したこともあり、強烈に偉さの重要性を感じているので……。

——初回を見た限り、近年の「論破」というキーワードを中心とした、建設的な議論を避けて、とにかく相手を黙らせることを礼賛する、ひいては憧れて真似する人が続出している風潮や、ビジネス系メディアが吹聴するインスタントなテクニックがもてはやされるような、一連の価値観へのアンチテーゼも感じました。

大森:正直、その一連の価値観へのアンチテーゼというものはありません。ただ、ある人物の仕草や思想など、それを強く信じること、絶対に正しいと思うことへの怯えみたいなものはすごく感じています。アンチテーゼというより、怯えに近いです。また、それは自分自身を信じすぎることも含んでいます。

一方で、信じられるものが何もない、もしくは少ない、という状況も、それはそれで危険なことではあると思うので、難しいですが……。

——番組の構成として作家のダ・ヴィンチ・恐山さん、有識者としてSF作家の樋口恭介さんがクレジットされていました。

大森:ダ・ヴィンチ・恐山さんは、私達が日常で見落としがちな事象を鋭い観察眼で見通せる方、樋口さんは常に高い視座で、物事を捉えられる方、という印象がありました。お二人とも偉くなるということを多角的に捉える際に不可欠な方だと思い、依頼しました。

——では最後に、番組を制作する上で、視聴者の目線を意識することはあまりないですか?

大森:そこは意図的に持たないようにしています。制作過程で視聴者の目線を内面化してしまうと、どうしてもフォームが崩れるんですよね。画面中にテロップが入っている今のテレビの姿は、スタッフがあらゆる視聴者層の視線を内面化した結果だと思っているので、それとは違うものを提示できたらと思います。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)

■テレビ東京『SIX HACK』
2023 年5月18日スタート
毎週木曜25:00~25:30放送
TVer・YouTubeでも配信
 ※5月25日は『世界卓球 2023』により時間変更の可能性あり。
出演:ユースケ・サンタマリア、松村沙友理、国山ハセン、樋口恭介
©︎テレビ東京
https://www.tv-tokyo.co.jp/sixhack/
Twitter:@SIXHACK_TX

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人気YouTube番組『日経テレ東大学』の仕掛け人・高橋弘樹が語る「YouTube」と「テレビ」 https://tokion.jp/2023/01/18/interview-hiroki-takahashi/ Wed, 18 Jan 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=164639 YouTube番組『日経テレ東大学』を手掛けるテレビ東京の高橋弘樹プロデューサが語る「YouTube」と「テレビ」の現状。

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人気YouTube番組『日経テレ東大学』の仕掛け人・高橋弘樹が語る「YouTube」と「テレビ」

高橋弘樹(たかはし・ひろき)
テレビ東京プロデューサー、映像ディレクター。1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年テレビ東京に入社。『家、ついて行ってイイですか?』『空から日本を見てみよう』『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』などを担当。著書に『TVディレクターの演出術』『1秒でつかむ』『都会の異界』など。現在は『日経テレ東大学』企画・製作統括を務める。
Twitter:@takahashi_ntu
『日経テレ東大学』@keizailabo

「本格的な経済・ビジネスを、もっと楽しく学ぶ」をテーマに、2021年4月にスタートし、大学の授業になぞらえたコンテンツを配信するYouTube番組『日経テレ東大学』。現在の登録者数は97万人を超え、100万人間近という人気ぶり。その仕掛け人は、『家、ついて行ってイイですか?』や『空から日本を見てみよう』などの番組を手掛けたテレビ東京の高橋弘樹プロデューサーだ。

テレビプロデューサーがYouTube番組『日経テレ東大学』をいかにして、人気番組にしたのか。また、テレビとYouTubeの違い、テレビ業界の現状とは。

企画の考え方

——高橋さんが広く知られるようになったのは『家、ついて行ってイイですか?』だと思うんですけど。まずは、あの番組がどのようにして作られたのか教えていただけますか。

高橋弘樹(以下、高橋):もともとはある人妻のすっぴんを見る機会があって、そういうのってテレビでは見たことがなかったのでドキドキしたんです。それをテレビ番組として作りたいなと思ったのが始まりですね。夜中に人の家に行って、すっぴんの顔を見るというのが企画の種としてあって。それで「奥さんのすっぴんを見せてください」っていう企画を出したら、通らなくて(笑)。どうしようかと考えた時に、好きだった都築響一さんの『TOKYO STYLE』のようなごちゃごちゃした生活感のある家のエッセンスを入れて、「家を見る」企画にしたらいけそうだと思って、あの感じになりました。

——昔からテレビ東京は制作費が少ないから企画で勝負みたいなことがいわれてましたが、実際にそういうことってあるんですか?

高橋:それは本当にそうで。苦しさから出てくるアイデアってあるんですよ。

——企画を考える時って、他のテレビ局の番組とかってリサーチしてましたか?

高橋:僕はほぼ見ないですね。普段の生活とか、これまでにやった仕事から企画を考えることがほとんどです。『日経テレ東大学』もそうでした。

基本的にメディアは「権力を監視」するっていうのが大きな役割で、結果的に政権を批判することも多くなる。それはそれですごく重要な役割だと思うんですが、批判だけではなく、政治家の魅力を見せることも重要だなと思って。そうしないと政治家になりたいって人が増えないと思うので。そうした考えが『日経テレ東大学』の企画にもつながっていて。

だから、企画のためにリサーチするよりかは、日々暮らしている中で感じていることの方が、企画につながりやすいのかなと思います。

——今は、『家、ついて行ってイイですか?』からは離れて、『日経テレ東大学』をメインでやられていると。

高橋:そうですね。基本的にはYouTuberとしてやっています。

——テレビは全く関わっていない感じですか?

高橋:レギュラーは深夜の『AKB 48、最近聞いたよね…』だけで、あとはどうしても断りきれない特番ですね(笑)。基本的に自分からはやりたいとは思わないんですけど、「どうしても」ってお願いされて少しやる感じです。

徹底的に研究する

——『日経テレ東大学』のスタートの経緯を改めて教えてもらえますか。

高橋:日本経済新聞社とテレビ東京が共同でYouTubeの企画を募集したんです。基本的には、テレビ東京だとやっぱりテレビ番組に注力しようという感じなのでYouTubeだけの番組を作るのが難しくて。あと日経からの募集ってあまりなくて、おもしろいなと思って応募しました。

——普段は日経とテレ東の交流ってあるんですか?

高橋:報道の部署だとあるんですけど、僕はバラエティメインだったので仕事での交流はなくて。でも、今回はエンタメの部署にそういう依頼がきたんですよね。それで応募して。タイトルは『日経テレ東大学』で、文学部や政治学部、経済学部、いろんな学部の授業を作ってみましょうという企画書でした。

——『日経テレ東大学』を始める際には、YouTubeの人気チャンネルは見たんですか?

高橋:それが、始めるまではYouTubeはほとんど見てなかったです。

——YouTubeではないですが、「NewsPicks」とか「新R25」とかも見ていなかったんですか?

高橋:『日経テレ東大学』を始めてから見るようになりましたけど、始める時にはほとんど見たことがなかったです。本とかは好きなんですけどね。いかんせん、あまり他の人のコンテンツには興味がなくて。

——これまでのインタビューでも語っていますが、2021年4月にスタートした『日経テレ東大学』ですが、最初はあまり手応えもなかったそうで。

高橋:なかったですね。スタートダッシュは失敗して。真面目なんで、そこからちゃんと人気のYouTube番組を分析するようになりました(笑)。それでいうと、テレビもすすんでは見ていなかったんですけど、必要に応じて、めちゃくちゃ研究してました。全局のゴールデンの番組を見て、テロップの色とかを分析したりして。

それでどうすれば、おすすめにピックアップされるかとか、YouTubeのアルゴリズムの理論を研究して。あと、テレビの時もそうなんですけど、逆に行こうっていうのは常に考えていて。人気のYouTubeチャンネルを分析すると、「短尺が多い」「アバン(オープニング前に流れる振り返り)つけない」とかルールが見えてきたので、それを逆に考えて、「長尺でやる」「アバンをつける」とか。それをスタートして4ヵ月目くらいから意識してするようにしました。

——『日経テレ東大学』がいけるなと思ったのはいつ頃ですか?

高橋:まだまだ不安ですけど、2021年6月くらいですかね。ひろゆきさんや成田(悠輔)さんに出てもらいはじめてから手応えを感じました。もともとYouTubeで人気だったひろゆきさんだけでなく、成田さんとか、元日経の後藤(達也)さん、他にも成田さんの友達にも出てもらうようになって、スタートして1年くらいで番組が立体的になっていったような気がします。

——確かにひろゆきさんだけよりも成田さんがいることで番組のバランスが保たれているような気がします。

高橋:コンテンツとしてのバランスもそうですけど。ひろゆきさんとか成田さんっていつ辞めるかわからないじゃないですか(笑)。飽きたら辞めそうだし。だから、『日経テレ東大学』としては軸が多い方がよくて。ひろゆきさん、成田さんの人気は抜群なんですけど、番組自体を認知されてきたのがこの1年くらいですね。

——ゲストに関しては高橋さんが決めているんですか?

高橋:もちろん僕も候補は出しますけど、みんなで考えます。あと、成田さんも相当挙げてくれるので、そこで決めていくって感じですかね。一応、事業ではあるので、日経とテレ東には企画やゲストを共有していて、OKをもらうようにしています。

——企画に出てNGになるゲストとかもいるんですか?

高橋:少ないですが、それはありますね。例えば、あのアテンダーさんとか。やっぱり、番組には日経もテレ東も間接的に関わっているので、そっちに被害が出ることはできないっていうのは鉄則です。ダサくてすみません……。

番組本で収益を増やす

——これまでも『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』など、番組本も出版されていますが、高橋さん発のアイデアですか?

高橋:そうですね。副業で儲けたいと思っているので(笑)。

——そうした番組本の収入は高橋さんになるんですか?

高橋:もらっているものと、そうでないものがあります。違いは実際に執筆したかどうかですね。竹中さんの本はもらってません。もらう場合は著者の方が1番で、テレ東にももちろんいくらかは入れつつ、僕もいくらかもらっています。三方良しの考えです。

——番組とは関係なく高橋さん個人の書籍も出されていますが、その印税は高橋さんに入るんですか?

高橋:『都会の異界』とかですよね。これは業務と関係ない、単なるプライベートでの旅のエッセイなんで僕が全部もらえますけど、番組関係だと何パーセントかは会社に入れていますよ。会社の力を使って、どれだけコンテンツを作ったかでそのパーセンテージは変わります。

——昨年の9月には『天才たちの未来予測図』も出版されました。出版の経緯は?

高橋:「まったりFUKABORI」というシリーズが元になっていて。この番組をやっていると、高校生や大学生の時に知っておけばよかったと後悔することがあって。若い人でもYouTubeを見ない人もいますから、そういう人にも届けたいなと思って。それで以前マガジンハウスの方と一緒に仕事をしたことがあったので、相談したらじゃあ出版しましょうという流れで。

——著者の成田悠輔さん、斎藤幸平さん、小島武仁さん、内田舞さん、4人の人選は?

高橋:今後、第2弾とかも考えているので、おもしろさもありつつ、初期の頃に出ていた人を中心に選びました。あとは天才感のある人達(笑)。原稿に関しては、僕が文字起こしをしたくらいの原稿を書いて、皆さんそれをベースに書き直して。だからこの本は各著者の色が出ていると思います。

——今後も番組本は出していく予定ですか?

高橋:そうですね。このシリーズもそうですけど、「なんで会社辞めたんですか?」や「Re:Hack」などのシリーズでも予定しています。

出世は会社員の醍醐味

——『日経テレ東大学』のKPIってあるんですか?

高橋:もともとは制作側としては開始1年で登録者数30万人だったんですけど、それはすぐに達成して。今は明確に決まったものはなくて。100万人いったらいいよねっていうくらいで。

——今は97.5万人で、100万人もすぐにいきそうですね。

高橋:2月中にはいきたいです。でも、ほんと気持ちいいですよね。僕はテレビを18年間やってきたんですけど、常に下方修正で。こんなに急激に成長する産業があるんだと思ったし、そういう場に身を置くべきだなと思いました。

——制作者としては、YouTubeの方がおもしろいですか?

高橋:テレビもすごくおもしろいですし、どっちもおもしろいです。その上で今は、YouTubeに全力でやっているっていう感じで。それはYouTubeをやっている人へのリスペクトから。最初はテレビもYouTubeも両方やってたんですけど、どっちも中途半端になってしまって、作り手としてのスタンスとしてもよくない。今はテレビを敵視するくらいのスタンスがちょうどいいなと思っています。

——テレビ離れっていわれて久しいですけど、そこはどう感じてますか?

高橋:それは数字でも表れていて、当然といえば当然というか。寂しいというか。テレビって不便ですからね。そうなるだろうなっていうのはテレビの人はみんな感じていたと思う。だから僕はテレビ局にいつつ、少しでも収入を増やして、自分の給料を確保するっていうゲームをやっている感じですね。

——やっぱり視聴率に連動して、広告収入って変わるものですか?

高橋:いろんな状況はあるんですけど、かなりざっくりいうと変わりますね。だから、テレビの視聴率が全体として下がっているので、広告収入も減っていくという感じで。

——そうなると、やっぱりテレ東としてもYouTubeをどんどんやっていこうという流れなんですか?

高橋:いやそうはならなさそうです。僕もYouTubeが正解だとも思わないので。やった方がいいとは思うんですけど、そっちに全振りして、会社として今の社員の給料を維持するのは難しいと思います。大きな組織で、制作以外の人もいっぱいいるので。そこはゲームが破綻している部分でもあって。佐久間(宣行)さんも上出(遼平)も、稼げる制作の人が会社から抜けていってしまう。今後どうしていけばいいのか。そこはジレンマですよね。これはテレ東に限った話ではないと思いますけど。その中で、テレビのおもしろさを知っている人間がそれにどう抗っていくかっていうところですかね。

——それでもテレビ局員の年収でいうと日本では高い方になると思うんですが?

高橋:テレビ業界全体としては、年収は下がっていると思います。それこそ昔は残業代がいくらでもついたので、それで年収が高かったところもあったんですけど、今は働き方もだいぶ変化していて。会社として残業もそこまでさせないようにしているので、年収も上がらない。

ただ、テレ東でいうとアニメが好調だったり、そのライセンスの売り上げが上がってたりするので、地上波の広告収入とは別の軸での放送外収入を増やすことを考えている。この番組もそうですけど、今後はそれをどう増やしていくかっていうことがより重要になってくると思います。

——高橋さんはフリーにはならないんですか?

高橋:テレビ東京の常務を目指してますから(笑)。現場にいると変えた方がいいと思うこともたくさんあって。それを変えるなら出世するしかない。クリエイターとしてやっていくなら、佐久間さんみたいに出世ゲームから下りた方がいいと思うんですけど。出世って会社員の醍醐味だと思うので、僕はそっちのゲームの方が楽しいので、今はそこをがんばろうかなと。

——「フリーになった方が年収上がりますよ」って言われても、会社員がいいですか?

高橋:やっぱり楽しさ先行なので。大企業にいるうちにしかできないことに挑戦してみて辞めてもいいんじゃないですか。辞めるのはいつでもできるので。

『日経テレ東大学』をリアルに作りたい

——YouTubeの再生回数ってサムネイルで大きく変わってくるとは思うんですけど、サムネイルも研究しましたか?

高橋:それも研究しつくして。『日経テレ東大学』のサムネイルは「アサ芸(週刊アサヒ芸能)」や「週刊大衆」のイメージで、でもコンテンツは科学雑誌的なものを目指しています。まずは見てもらうことが大切なので、“釣る”っていうのも大事だと思いますね。

——YouTubeだと再生回数を求めて過激になっていったりするじゃないですか。時にはわざと炎上させるようなことをしたりもして。その辺は、高橋さんはどう考えていますか。

高橋:1人でやっているとそうなっていってしまう可能性もあるんですけど、僕らの番組はゲストにも来てもらって成立するので。出てもらうことを考えると、過激過ぎると出演者がついてこないので、極端に過激になっていくことはないと思います。やっぱり関係値が必要な番組なので、そこは大丈夫かなと思っています。

——YouTubeだと個人が立つほどエンゲージが高くなると思うんですが、高橋さんが番組に出るのってそういう狙いもありますか?

高橋:僕が出るようにしたのは、承認欲求と物理的なことで。せっかくなら自分も出たいっていう思いと、あと昔は週2配信だったのを週7配信にした時に全部のVTRの編集をチェックするのって不可能だと思って。それでなるべく撮影後の編集をしなくていいように、収録に立ち会って、話のバランスをとる、ズレたら戻すみたいなことを現場でするようにしたんです。だから番組の作り方としては生放送に近い感じですね。

——テレビだとコンプライアンスが厳しくなったといわれていますが、感じる部分はありますか?

高橋:コンプラは厳しくなったのかな……。僕はあまりそこを感じていなくて。上司が自分が知らないばかりに規制をかけようとするのはあると思いますが、業界として厳しくなったとかはないと思うし、表現って結構守られていると思います。批判の声が届きやすくなったのはあると思いますが、それはコンプラとはまた違う部分だと思うので。デジタルで残りやすいから気をつけようとか、気をつかう部分は増えたと思いますけど。

あと、世の中の空気的に、笑えなくなったことっていっぱいあるじゃないか。今の時代、容姿について言うのもダメだし。そういう風に世の中の価値観が変わってきたというのはあって。それは番組作りには影響していると思います。

——YouTube全体としては、今後どうなっていくと思いますか?

高橋:全体のレベルがさらに上がっていくと思います。出演者もそうですが、作り手側もテレビの人間が副業でやってたり、プロがどんどん参加している。芸人さんのYouTubeとか佐久間さんの『NOBROCK TV』とかレベルが高いじゃないですか。

あと、若い人の編集能力はすごいですよ。アフターエフェクトも使うのがうまかったり、スマホだけで動画作っちゃう人もいたりして。どんどんすごい人が出てくるんじゃないですかね。

——テレビの優秀な人がYouTubeに流れるのも今後もさらに増えそうですね。

高橋:すでにテレビ業界に優秀な人って入ってこなくなっているので、その流れもあと5年くらいだと思っています。今後は優秀な人はテレビ局に入らずYouTuberになるか、自分でやるんじゃないですかね。でもそれはバラエティに限っての話で、ドラマはYouTubeだと難しいと思いますし、報道やドキュメンタリーはテレビの大事な役割だと思います。

——最後に『日経テレ東大学』が今後目指すものは?

高橋:本当の大学みたいなものができたらおもしろいなと思っていて。多くの人はイェール大とかハーバード大の教授の授業を受ける機会ってないじゃないですか。だから『日経テレ東大』のリアルなスクールができたら、若い人が来たくなるんじゃないですか。結構いいと思うので、どこかお金を出してほしいです(笑)。

——日経との相性は良さそうですけど。

高橋:日経との相性良さそうでしょ! そこに日経が気づいてくれるかですね。本当にいいと思うので。

Photography Masashi Ura

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