武内 亜紗, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/asatakeuchi/ Thu, 02 Jun 2022 09:28:07 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 武内 亜紗, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/asatakeuchi/ 32 32 着物インフルエンサーのシーラ・クリフと古今東西から見つめ直す着物の新しい魅力 https://tokion.jp/2022/06/02/kimono-influencer-sheila-cliffe/ Thu, 02 Jun 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=118692 着物インフルエンサーのシーラ・クリフの言葉から日本が誇る着物文化について改めて考える。ファッションとしての魅力に加えて歴史や文化的側面などあらゆる角度からその魅力を紐解く。

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近年ファッション業界ではリユースやアップサイクルの動きが盛んになっており、日本の着物は“持続可能”というキーワードを体現する存在として世界から注目を集めている。ただ現代の日本人の多くは着物のことをよく知らないのも事実。そこでそんな現状に一石を投じるべく、イギリス出身で東京在住の着物インフルエンサー兼着物研究家であるシーラ・クリフにインタビューを行った。自身を「着物のトレンドハンター」と表現し、SNSにアップするファッショナブルなコーディネートで注目を集める彼女だが、長年にわたって着物に関するあらゆる企画やイベント等に貢献し、2002年には民族衣裳文化普及協会の「きもの文化普及賞」を受賞する等、その多彩な活動が国内外で認められ、存在感を発揮している。日本を愛し、着物の素晴らしさを後世に繋いでいくための活動を続けていく中で、彼女が改めて感じた着物の魅力や知られざるエピソードを聞いた。

着物=窮屈というのは思い込み。目的や体形の変化に順応する汎用性が魅力

――まずは日本に来たきっかけから教えてください。

シーラ・クリフ(以下、クリフ):日本に初めて来たのは24歳の時。当時イギリスで新体操を習っていて、その先生が夏休みに日本で練習してみないかと誘ってくれたのがきっかけです。実際に来てみたら日本っておもしろいな、もうちょっといたいな、帰りたくないなという思いが強くなっていって……。着物に出合ったことでその思いが確信へと変わり、帰れなくなってしまいました。

――初めて着物を見た時のイメージや購入した時のエピソードは覚えていますか?

クリフ:日本に来てから骨董市に行くのがすごく楽しくて。最初は焼き物とか器に興味を持ってよく見ていたんですけれども、次第に色鮮やかでしなやかな絹の着物に目を奪われていきました。初めて自分で買ったのはきれいな赤い着物。後からそれは長襦袢(ながじゅばん)といって着物の下に着るものだということ、赤いのは紅絹(もみ)と呼ばれていることを知りました。なので、正式な着物を買ったのはもう少し経ってからのことです。ある百貨店の着物コーナーで店員さんに勧められるがままに試着させてもらったら、つい衝動買いをしてしまったんです。その時はそんなにお金を持っているわけではなかったので、後からすごく大変でしたね。着物の値段って書いてあるものにプラスして裏地の値段、仕立ての費用がかかるんです。当時は着物のことをよく知らなかったし日本語もあまり理解していなかったので仕方ないのですが、想定していた倍の金額を3週間後に支払うとなった時にはさすがに途方に暮れました。でも着物自体はすごく気に入っていましたし、そこからは気持ちを切り替えてお金の工面をして……(笑)。

――その時買った着物は今どうしているのでしょうか?

クリフ:もちろん今でも大切にしていますし、購入した後に着付けをしてもらって撮った写真も残っています。そしてこの時、こんなに頑張って買ったので自分で着られないのはもったいないなと思って着付け教室に通う決心をしました。まずは2ヵ月のビギナーコースに通って、振袖や留袖を人に着せるコース、教え方……気がついたらすべてのコースを制覇して免許まで取得して。最初は自分で着られるようになるだけで十分だと思っていたのに、学ぶたびにどんどん着物の世界に魅了されて止まらなくなってしまったんです。同時にそこで日本語もぐっと上達しました。

――着物は自分で着るのが難しいことに加えて動きづらく窮屈というイメージを持っている人もいますがそのことについてはどう思われますか?

クリフ:それは着物だけではなく、洋服でも起こり得ることなので考え方次第ではないでしょうか。例えば、タイトなデニムパンツで正座するのって難しいですよね。Yシャツとネクタイだって窮屈に感じることがありますし、コルセット等、締めるつけるようなアイテムを身につけて何か動作をするのも大変だと思います。苦痛を感じた時に洋服は脱いだり外したりすることしかできませんが、着物は自分の体形や体調の変化に合わせて、帯の巻き加減を調整することができるので逆に汎用性が高いアイテムなのではないかと。自転車に乗ったり、よりアクティブに動きたい時はもんぺを合わせてアレンジをするとすごく快適なんですよ。

ファッションが好きで何かを表現したい人にとって着物は最高のツール

――改めてシーラさんが思う着物の魅力について教えてください。

クリフ:ファッションが好きで何か表現したという人にとっては、これ以上ない楽しいツールだと思います。最近街中にいる人達の着こなし見ていると黒、白、ベージュ、ネイビー……柄があったとしてもチェックやストライプぐらいしか、バリエーションがなくて制服のような印象を受けることがあるんです。決してそれが悪いということではないのですが、物足りないと感じている人もきっといるはず。人間は本能的にものを飾っていく生き物なので、そういう感覚がまた盛り上がっていく時、着物の魅力に気付く人がもっと増えるのではないでしょうか。着物は時を経ても形が変化しないアイテムなので、色と模様のバリエーションがとにかく豊富なんですよ。だから眺めているだけでもアイデアやストーリーがどんどん浮かんできます。

――着物に缶バッジをプラスしたりとルールにとらわれないシーラさん流のミックスコーディネートが生まれる背景についても知りたいです。

クリフ:あまり人がしない組み合わせを楽しんでいるので、突飛なことをしているようにも見えるかもしれませんが、私は基本的には着物のルールを守って着ているんですよ。でも、ルールだけに縛られるのはおもしろくないので「こんな可能性もありますよ、こんなファッショナブルにも楽しめるんですよ」というメッセージを込めてスタイリングをしているつもりです。缶バッジをつけたのは木綿の着物なのですが、目が粗い生地だからこそ傷みをあまり気にせずにできる、ちょっとした遊び心だったりします。そして私がこだわっているのは色や模様の組み合わせ。難しいと思われがちですが、基本的に3つの色を使ってコーディネートすると誰でもうまくできると思います。あとは自分でストーリーを膨らませて、そこから着こなしを考えるのも楽しいですよ。例えば、私は昔の映画が好きなのですが「オードリー・ヘプバーンになりたい」という気持ちからインスピレーションを得たり、ロマンティックなムードにしたいなと思って、そこから具体的なイメージを考えてみたり。部屋中にお気に入りの着物や小物を広げてあれこれと考える時間は、私にとってすごく優雅でぜいたくな時間です。

――Instagramでも日々の着こなしを発信されていますが、著書「SHEILA KIMONO STYLE」ではシーラさんのインスピレーション源等がより具体的に記されていて興味深かったです。

クリフ:着物の着こなしについての本はたくさんあるのですが、流派で分けられていたりするので、ハードルが高く感じてしまうのも事実。ですので、私はファッション誌のような感覚で手にとってもらえるものをイメージしました。1冊目を出して大きな反響をいただく一方、「コーディネートをもっと詳しく知りたい」という声もいただいたので2冊目では使用したアイテムも撮影して説明的な要素もプラスしました。写真を見るとよくわかるのですが、着物は洋服と違って足し算の文化ということもあり、組み合わせでコーディネートの可能性が無限に広がるんです。私は小物に関してはジャンルに関係なく心が惹かれるアイテムを積極的に取り入れているのですが、そういった自由さも着物をもっと身近な存在にしてくれている気がします。例えば、普段使いするバッグは着物専用の小さなものより、機能的でモダンなデザインを選んでみたり。小物類は古着店で探すことが多くて、倉庫みたいな大きなところで宝探しするのが大好き。時には気に入ったパーツをアレンジしてアクセサリーにしたりすることもあります。

――洋服だとタキシードジャケットにデニムを合わせたり型破りとも言えるスタイリングが存在し受け入れられていますが、着物においてもそういう表現はありえると思いますか?

クリフ:フォーマルなシーンであれば、正装を選びます。でも、別の場所で着るのであれば、同じ着物をファッションとして自由にアレンジしていいと思いますよ。私の本でもちょうどそのような内容を扱っていて、“エレガント”というテーマのもと帽子や靴などをプラスしたトータルコーディネートのアイデアを紹介しています。洋服と着物のミックスを楽しむのも素敵ですよね。私もタートルネックのトップとデニムパンツに着物を羽織って、足元はブーツという着こなしがお気に入りです。

着物から浮かび上がる西洋との繋がり、知られざる日本の歴史

――和と洋の親和性が楽しめるのも着物の魅力ということですね。諸説ありますが着物自体が西洋の文化からすごく影響を受けているのでそれは必然的とも言えることなのでしょうか?

クリフ:そうです、着物は西洋の歴史と繋がりがとても深いんです。2020年にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開催された欧州最大規模の着物展『Kimono:Kyoto to Catwalk』でも、そのような歴史について細かく取り上げていました。例えば、徳川家の着物はフランス・リヨンの絹を使って作られていた話だったり、もっとさかのぼるとインド更紗を真似て江戸更紗が誕生したとも言われています。着物に限った話ではないのですが昔から日本とヨーロッパはお互いに影響を与え合ってきたんですよね。トヨタ自動車も元は自動織機を作っていて、トヨタが機会化した織機の特許権を英国の紡織機メーカーであるプラット・ブラザーズが買い取ったことことが、後の自動車産業の発展に繋がった話は有名です。そして、歴史を知ることで、また新しい着物の魅力を知ることができるので研究を続けています。最近ですと、唐桟(とうざん)という木綿の織物を復活させようとしている、川越の人達と連携して歴史を調べているんですよ。マンチェスターで作られた唐桟の糸が見つかって、国際貿易の一躍を担っていたことも証明されました。

――シーラさんは日本人以上に日本の文化や歴史に関しての造詣が深い方ですが、逆に日本に来て改めて故郷のイギリスの良さを感じることはありますか?

クリフ:イギリスのいいところは緑が豊富なところ。そしてビールがおいしいこと(笑)。古いものを大切にするところも好きです。今日身につけているベレー帽とグローブはイギリスのアンティークショップで購入したものなのですが、そのお店は古い木綿工場を再利用した建物の中に入っていました。すごく広い場所で、他にはクライミングジムなども併設されていましたし、一部のスペースでは木綿工場だった時代の歴史を学べるようになっていて。いつか取り壊されてしまう建物を有効活用するところにイギリスの良さを感じました。

サステナブルという観点から広がる着物の新しい可能性とは

――最近ではサステナブルというキーワードから着物の存在が見直され出していますがそのことについてはどう思われますか?

シーラ:着物は体形が変わっても楽しめますし、時を経てもデザインが変わらないので、サステナブルという観点においても理想的ですよね。そして、このムーブメントの背景にはファッショントレンドの移り変わりの激しさに疲れてしまったり、ファストファッションに飽きた人達の存在も大きいのではないでしょうか。いずれにせよ、古いものを大切にするのはすごく大切なことです。私はヴィンテージの着物が好きでいろいろ持っているのですが、古いものだとサイズが合わないものも当然あって。それらを全部ほどいて洗って仕立て直すと高額になってしまうので、そのまま着てちょっと変わったバランスも楽しんだりしています。日本人だと自宅に着物が眠っているという人も少なからずいますよね。私は「箪笥開きプロジェクト」という活動を通して、いろんな方の自宅にある着物を見せてもらうことでいろいろなエピソードを聞くことを続けているのですが、すごく興味深いです。

――若者達の間でもSNS映えする着物が再び人気を集めているようですが、そのことをシーラさんはどう分析していますか?

シーラ:次世代の勢いは私も感じています。本を出版している方、新しい帯の結び方を提案している方、私とはまた違った個性でミックスコーディネートを発信している方等、新しいアプローチで着物界を盛り上げてくれる若い人達の存在はすごく頼もしいです。そして、確かに最近はファッションとして着物を楽しんでいる人も昔に比べて増えてきたと思います。特に京都では着物レンタルが普及してきていて、おしゃれな着こなしを楽しんでいる人をたくさん見かけるようになりました。私が日本に来たばかりの頃は、街中で着物姿の人をほとんど見かけなくて、それがすごく不思議だったんですよ。中には着物には興味があるけど、上手に着れないという理由で踏みとどまってしまう人もいると思います。私がそういう人達に伝えたいのは、上手になるために下手から始めるというのが大切なプロセスだということ。誰も他人の着こなしに対して口出しをする権利なんてありませんので、“着物警察”みたいな人達の言うことに耳を貸す必要がありません。まずは下手に着ていいんです。これだけいろんなものが溢れている現代だからこそ、楽しくないと着物を選ぶ意味がないじゃないですか。だからこそ、着物にしかない特別な楽しみをインフルエンサーとしてもっともっと広めていくのが自分の使命だと思います。

Photography Masashi Ura

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「アーティスト・ミューズ」岩月美江に学ぶアートとの向き合い方、新時代の美について https://tokion.jp/2021/05/30/artists-muse-mie-iwatsuki/ Sun, 30 May 2021 06:00:02 +0000 https://tokion.jp/?p=34335 ペインティングの巨匠アレックス・カッツやアメリカを代表する写真家のロバート・フランク達のミューズとして活動する岩月美江が追求するアートと美。

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NYのペインティングの巨匠アレックス・カッツやアメリカを代表する写真家のロバート・フランクをはじめ、さまざまな著名アーティスト達のアーティスト・ミューズを務め世界中から注目を集めている岩月美江。日本ではまだ聞き慣れないその存在について、また多様化する現代においての美意識や概念について語ってもらった。

アーティストにとってインスピレーションをもたらす存在であるミューズ。これまでミューズと呼ばれた女性達に対して世間が注目したのは外見的な美しさやアーティストとの関係性など、どちらかと言えば表面上のものばかりであったと思う。しかしアートという共通言語を持ってアーティスト達と対等な関係性を築き、自らも発信力を持った唯一無二のミューズが岩月美江だ。そんな彼女の原動力になっているのはアートに貢献したいという強い思いだという。

アートから生まれるコミュニケーションの重要性

――岩月さんが拠点にしているNYに比べると日本はアートを楽しむ姿勢が随分消極的な気がします。そのことについてどう思われますか?

岩月美江(以下、岩月):日本ではアート=ハードルが高いというイメージがありますよね。例えばキュレーターという言葉ひとつとっても直訳すると“学芸員”と仰々しい感じになってしまう。キュレーターって海外だともっとライトな感覚なんですよね。そういった固定観念みたいなものがなくなり、もっとファインアートが一般的に広まってほしいと常々思っています。

――改めてアートの魅力を教えてください。

岩月:アートというのは表現を通して人々がどう社会的な問題に直面しているか、現在どういった予定があるのかをタイムリーに伝えられるものなんです。政治はもちろん、ジェンダーやダイバーシティについてもそう。言葉がなくとも人と人がコミュニケーションできる手段でもあり媒体としての役割も果たしているといいますか。NYではアーティストステイトメントこそがすべてなんです。

――日本ではまだまだアート=ビジネス的側面が強いのかもしれません。

岩月:NYのアートマーケットにもマネーゲームの側面はもちろんあります。でもだからといってアートが一部の人だけのものかといえばそうではなく、多くの人が関心を持っているんですよね。こちらではNPOの団体がたくさん存在していて、アートのイベントが頻繁に開催されています。アーティストに触れることができる場がカジュアルに設けられることでアートのことを学びたい、テクニックや考え方、テーマについて知りたいという人達が参加してさまざまなコミュニケーションが生まれるんです。

――そもそもアートに目覚めたきっかけはなんだったのでしょうか。渡米した理由も知りたいです。

岩月:幼い頃から純粋にアートや描くことが好きだったんです。もともとアメリカにはアーティストになるために来たのですが、そこで厳しい現実に直面しまして。でもこれだけアートが好きな自分だからこそ、たとえアーティストにはなれなくてもアートの世界に関わって生きていくことはできるだろうと方向転換することにしました。実際大学を卒業してオークションハウスやギャラリーなどアートが身近にある環境で働きながらアートが好き、アートのことをよく知っているとなると自然とアーティストの友達が増えるんです。キュレーターという仕事も友人や才能あるアーティストを助けたいという思いから始めるようになりました。

アートにより深い視点をもたらすアーティスト・ミューズという存在

――自身がアーティスト・ミューズになるきっかけを作ったというアレックス・カッツとの出会いもそういったアートの現場で生まれたのでしょうか?

岩月:はい。当時勤務していたアートギャラリーでアレックス・カッツのトークイベントが開催されたんです。自分が油彩を専攻していたこともあり、彼の素晴らしさというものはよく知っていました。筆を使ったテクニックが出尽くしてしまったと言っても過言ではない現代においてまだ新しい技法を生み出している。世界がテクノロジーに向かっている中、2面の世界で勝負し続けているなんてすごくチャレンジングで素晴らしいですよね。自分がどれだけ尊敬しているかということを実際に伝えるチャンスだと思ったのでイベント終了後に話しかけてみたんです。そうしたら彼の顔がガラッと変わってすごく厳しい目線になり「あなたのことを描きたい」と言われて。そこからモデルをすることになり、10ポートレートほど描いてもらいました。気付けばその作品が美術館でも飾られるようになって……いまだに信じられないんですけれども。

――なぜ1回だけではなく何度もモデルをすることになったのだと思いますか?

岩月:私が本当にアートを好きでそれが伝わったからだからだと思います。アーティストとコラボレートする時はアートに関するさまざまなことをお互いに話して盛り上がるんです。アレックスさんはファッションも好きでそういった話もしましたね。そういえば彼はモデルが必要な時、写真で選んで呼んだりすることはないとおっしゃっていました。自分の心に繋がりがある人じゃないとインスピレーションにならないと。

――興味深い話ですね。他のアーティストとのエピソードもぜひ教えてください。

岩月:写真家のロバート・フランクとご一緒することになった時、事前に彼のことや写真について勉強していたら彼の作品がフランスの哲学者アレクシ・ド・トクヴィルの概念と比べられているという記述を見かけたんです。そのことを本人に質問してみたら「まったく関係がないことだ」とおっしゃって。さらに話を聞くと「周りの人達がそう見ただけのことだ。でもそういう評価も1つの大切なことであるんだ」と。その言葉にすごく心を打たれましたね。彼は自分の周りの環境に興味があって写真を撮っているけれども、その現在というのは常に変わっていっている。そのこと自体が大きなステートメントであると私は感じたんです。

――お互いにインスパイアし合う関係性なんですね。改めてアーティスト・ミューズとはどんな存在なのでしょうか。

岩月:アート界のシャーマンみたいな存在、ですかね。私はこれまで自分の目でたくさんの素晴らしい作品を見てきましたが、その題材であるモデルこそが一番のウィットネスなのではないかと思っていて。それなのにそのモデルの声というものを知る術がどこにもない、ということに大きな疑問を持っていたんです。そのアーティストにどう出会いどういう対話をしてこの作品に至ったのか。その時どんなカラーの口紅で、どんな洋服をまとっていたのか。キャンバスはどんな匂いがした? どんな音楽や音が聞こえたのか……そういった制作の裏側を知ることができたら、作品のもっと深い何かを鑑賞する側にも与えられるのではないかと。そしてそれができるのは、アートに精通していてモデルもできる自分しかいないと思いました。

――35人のコンテンポラリーアーティストとコラボレートした「MIE 35人のポートレート展」のカタログでは作品と一緒に岩月さんの書いたストーリーが掲載されたそうですね。

岩月:これはライフワークとして続けていることなのですが、アーティストとコラボレートする時は必ず作品を作る過程で起こったことや感じたことを物語という形にして書き留めておくんです。こうして一部お披露目しているものもありますが、いつか自分で書いたものをすべて本にまとめて日本で出版するのが私の夢です。

欧米と東洋で異なる美の捉え方、そこから得る気付き

――モデルとしての顔を持つからこそ、昨今問題視されている被写体の消費について思うことはありますか?

岩月:時には私も商品としてのモデルを務めることがあります。そのことについては悪いことだとは思いません。ただ自分をブランドとして見ることはすごく大切だと教わったので、案件に対してはきちんと理解して納得した上で受けるようにしています。あとは数々の素晴らしいアートを自分の目で見てきているからこそ、現場にいてわかるものがあるんです。フォトグラファーもそういった目線を持っている方が多いので撮影する時はあうんの呼吸じゃないですけれどもスムーズに進んでいくことがほとんど。自分がいかにきれいに写るかではなく、大切なのはあくまでフィーリング。いい写真があがればそれがすべてだと理解しています。フォトグラファーに信頼してもらっているからこそ、写真のセレクトを任せられることもあるんですよ。

――深いコミュニーケーションが瞬時にとれることが岩月さんの強みなんですね。お互いを尊重した上で作品を作るという流れは本来あるべき姿ですし一番理想的な気がします。その他にクリエイターを魅了するご自身の魅力はどこだと思いますか?

岩月:自分ではあまり意識していないところなんですけれども、目の表情が印象的みたいです。目を合わせて話をしていると吸い込まれそうになると言われます。あとはメイクアップですごく顔が変わるところでしょうか。こちらではアジアンビューティへの需要がすごくあるんですよね。最近だとその勢いがヘイトに繋がっている部分も少なからずあるとは思うんですけれども。

――美しさの規準みたいなものも日本と欧米では異なりますよね。

岩月:そうですね。基本的にこちらはダイバーシティが歓迎されているので、外見や性的なことに関してはとにかく多様です。マーケットもしっかり確立されていますし。日本も最近ではかなり昔と違って女性が自立して強くなっていると聞きますが……実際にはどうですか?

――新しい価値観に目が向けられる一方で画一的な美への意識も根強く残っている気がします。

岩月:私も10代までは日本で過ごしていたので、みんなが同じ路線を目指すような風潮は実際に肌で感じた経験があります。美に関してだけではなく、なかなか個性が育ちにくいシステムですよね。でもそういったことも考え方によっては個性につながっているのかもしれません。実際NYで生活していると西洋人が抱く日本への憧れというものを感じる機会がたくさんあります。伝統文化はもちろんですし、恥ずかしがるという日本人の習性などもミステリアスに感じられるみたいです。

――変わることばかりに目を向けるのではなく、まずは知ることから始めるべきですよね。

岩月:もっといろんな情報をキャッチするための媒体や存在が増えるといいですよね。日本では情報を得るためのメジャーな存在がテレビだと思うのですが、偏ったプログラムしか放送されていないのが現状かと。私自身は歴史や哲学などいろんな学びや気付きをアートからもらい続けているので、その素晴らしい存在がもっと日本に広がることを願っています。そのためにできることをこれからもしたいですね。

岩月美江
NY在住のアーティスト・ミューズ、モデル、キュレーター。老舗オークションハウスのクリスティーズやSOHOのアートギャラリーでキャリアを重ね、キュレーションや翻訳などアートにまつわる幅広い活動をこなす。2005年から2010年にかけてNYを代表する巨匠アーティストのアレックス・カッツ氏のモデルとして起用されたことでアーティスト・ミューズとしての活動をスタートし、瞬く間にアート界の注目人物となる。2012年に開催された『MIE 35人のポートレート展』では35人のコンテンポラリーアーティストとコラボレート。展覧会の売り上げの一部は東日本大震災のために寄付される。
Instagram:@mieiwatsuki

Edit Jun Ashizawa(TOKION)

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