学ぶのに遅すぎることなんかないのだ:工藤キキのステディライフ最終回

ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振り返りながらつづる。

コロナの影響でまだまだ生活が規制されていた2020年の頃、運転免許を取り始めた友人が周りにちらほらいた。ニューヨーク以外は広い郊外であるアメリカでは、16歳から免許が取得できて、赤ちゃんと住所不定者だけ運転免許を持ってないと言われるほど。東京にいた時は運転免許のことを考えたこともなかったが、ほとんどのアメリカ国民が持っているのがあたりまえらしい。

アメリカに引っ越して4年ぐらいの頃、遊びに行った遊園地のコニーアイランドでバンパーカーに乗ろうということになったが、実は基本的な操作がわからずパニックを起こし、私の車はフロアの真ん中で立ち往生してしまったことが。楽しげにぶつかり合う車の上を、セキュリティの人が飛び石を渡るように車を飛び越えて私を救出してくれた……というトラウマもあり正直、自分で車という鉄の塊を運転できる自信が全くなかった。

そして友人達がサラッと運転免許を取っていくなか、最寄りの駅が車で1時間という場所に引っ越した2021年にようやく運転免許を取ろうと誓った。必須科目の交通ルールを学ぶための8時間クラスをコロナの影響でZoomで受けることになり、自宅にいながら授業を受けられたのはラッキーだったが、DMVでの仮免試験を通過するまでの道のりは長かった……。

家から一番近いマーケットが車で10分。私達の住む地域では、タウンごとにトランスファーステーションと呼ばれる廃棄物を細かく分別しているごみ捨て場があり、そこに行くのでさえ車で9分かかる。どこへ行くにもブライアンに運転を頼まなければいけない。彼は喜んで運転してくれるが、やっぱり1人でサクっと買い物に行ったり、寄り道したりできるのがいい。ニューヨークまで運転する日がくるかもしれないと、車を運転できちゃう自分という淡い夢はいつも心にあった。

しかし、この仮免を取るまで紆余曲折あり、結果2年費やしてしまったのだった。緊張の頂点でパニックになった朝、ブライアンの車がパンクしていて試験会場まで行けずテストをキャンセルしたり、テストを受ける前に実は目が悪かったことを知らずに視力検査で落ちてしまい、そこからメガネを作るまで数ヵ月かかったり、テストを予約した前日にコロナになったり……なかなか免許を取らない自分に大家のジムも免許の話になると励ましてはくれるが、不思議そうな表情を浮かべていた(笑)。テストは正解だと思うものを選択する形式で、ようやくテストを受けるも2点足りず落第。ルールはルールなので丸暗記すればいいんだろうけど、質問の英語は普段使わない言い回しだったため、内容を理解しにくく、自分にとっては車の免許というより英語の試験だった。

2023年の10月、友人のアイリスが1週間ほど家にステイしていた時。せっかくだから何かプロジェクトをやろうというので、私は迷わず「運転免許を取るのを手伝ってくれ!」と頼んだ。LA育ちの彼女からすると、「プロジェクトってそれかよ(笑)」という感じだったが、アイリスからの最高のアドバイスは、「キキ、一番安全だと思う答えを選べばいいんだよ」というものだった。それは本当で、標識などは覚えないといけないけど、安全だと思う答えを選んだら、なんと全問正解で通過したのでした。ありがと〜アイリス!

そんなわけで、ようやく助手席に免許を持っている人が乗っていれば運転できるという仮免を取得。車の運転がシミュレーションできる、ハンドル・ブレーキ・アクセルがついたゲームのコントローラーをブライアンにプレゼントしてもらい、本試験に向けてXboxのドライビングゲームで特訓している最中です(笑)。次にお会いする時には車を運転している話ができることを願っています!

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工藤キキ

横浜生まれ。ライター、シェフ、ミュージックプロデューサー。カルチャー誌でファッションやアートなどのサブカルチャーに関する寄稿や小説を執筆。著書に小説『姉妹7(セヴン)センセイション』、アート批評集『post no future』(すべて河出書房新社)などがある。2011年にニューヨークに拠点を移す。2014年にアートフードプロジェクト「CHI-SO-NYC」をスタート。レストランへのレシピのデザイン、フードを絡めたイベントなど食にまつわる活動をしている。2017年から音楽のプロデュースを始め、EPをリリース。2022年3月にはThe Trilogy TapesからEP『Profile Eterna』をリリース。6月には初のクックブック『I’m cooking for you』を<Positive Message>から出版。レシピのYOUTUBEチャンネルもスタートしている。 kikikudo.com Instagram: @keekee_kud

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