南波一海, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kazumi-namba/ Tue, 07 Nov 2023 01:18:40 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 南波一海, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kazumi-namba/ 32 32 蓮沼執太が新作アルバム『unpeople』に辿り着くまで 15年ぶりのインストゥルメンタル作品を語る https://tokion.jp/2023/11/06/shuta-hasunum-interview/ Mon, 06 Nov 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=214342 蓮沼自身が純粋に「自分のために作った」という本作。制作のプロセスや心境などを語ってもらった。

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音楽家・蓮沼執太がインストゥルメンタル作品としては『POP OOGA』(2008年)以来、実に15年ぶりとなるソロ・アルバム『unpeople』をリリースした。蓮沼自身が純粋に「自分のために作った」という本作には、ジェフ・パーカーや小山田圭吾(Cornelius)、灰野敬二、グレッグ・フォックス、コムアイ、新垣睦美、石塚周太、音無史哉といった国内外のミュージシャンがゲスト参加。決して1つのところに留まらない蓮沼の雑多な音楽性がそれぞれの楽曲に惜しみなく注がれており、アンビエント、テクノ、ジャズ、現代音楽、フィールドレコーディングといったジャンルを軽やかに横断する越境的な楽曲が並ぶ静かな傑作となっている。『unpeople』に辿り着くまでの環境や心境、制作のプロセスをじっくりと聞いた。

――15年ぶりのインストアルバムということですが、個人的にはそんな印象がまったくなくて。サウンド・インスタレーションやサウンドトラックなどを含め、さまざまなインスト音楽に触れる機会があったからかもしれないです。

蓮沼執太(以下、蓮沼):たしかにそうかもしれません。自分以外に作っていた音楽は、そのプロジェクトや人のために作っていたので、純粋に僕のではないんだよな、というのがあって。自分発信で、このアルバムのために作ったとなると、だいぶ久しぶりになります。今回のは作者のエゴですよね。

――純粋な自分発信ってどういうことなんだろうとなりますよね。

蓮沼:制作中もそこは考えましたし、今も答えは出ていません(笑)。でも、その結果が今回のアルバムなんだと思います。

――活動初期こそ誰に聴かせるでもなく作り始めたのだと思うんですけど、ある時期以降は、誰かとコラボしたり、あるいは何かしらのオファーがあったりして作り続けてきたわけですよね。

蓮沼:そうですね。フィルの活動もありますし。

――“蓮沼執太フィル”と自分の名前を冠してはいるものの、それは当然、自分1人の音楽ではないと。

蓮沼:そう、そこにぶち当たったんです。フィルの音楽も、フィルのために曲を書いているんです。それは自分の音楽かと聞かれたら、いやぁ、そうではないのかなと。近年は、音楽の方向性もみんなと話して決めているし、みんなで作っています。あえてどこかで境界線を引くのであれば、やっぱり自分のものではないんです。このフレーズは彼/彼女が弾く/吹くから、それを思い浮かべながらハーモニーを作って、となっていくわけで。作曲者は自分だけど、純粋に自分のものかというと、そうではないなと。

フィールドレコーディングにおいて大事なのは「録ることよりも聴くこと」

――蓮沼さんは普段からフィールドレコーディングしたり、音のスケッチを記録したりしていますよね。その瞬間というのはとてもパーソナルなものじゃないかと思うんです。いつか何かで使えるかなと思って録っているんですか?

蓮沼:いつか使おうとかはまったく思ってないですね。例えば、事前に器楽に合わさるような素材を録ろうとかは考えていないです。だから、フィールドレコーディングこそ自分のための音、というのはあるのかもしれないです。フィールドレコーディングで1番大切なのは録ることよりも聴くことだと思っています。

――たしかにそうですね。

蓮沼:何を発見するかが大切な行為だと思っているから、音が鳴っていて、自分がそこからどういう音を聴くか、というスタディというか活動をしているんだと思うんです。ただ、例えばフィールドレコーディングを5時間録ったら、5時間聴かなければいけない。若い頃は長時間の録音もやってました。だけど、聴く時間も大切なのでむやみには音を録れないんですよね。いわゆるフィールドレコーディニストや文化人類学的なアーカイブ行為ではなく、美術作品作りとして録るというのが近年は多いです。なので、それが楽曲用の音源のためかと言われたらそうじゃないかも。自分の制作作業の動きを音楽かアートかで分けたいわけではないですが、フィールドレコーディングはアートの実践としてやっている方が強いかもしれないです。あと、そもそも世の中のレコーディングは全部、フィールドレコーディングなんじゃないかなと思うところもあって。

――それは楽器の響きとかも含めて

蓮沼:そうです。今回、色んな時間や場所でレコーディングしてきたんですけど、結局、レコード(記録)するという意味ではほぼ一緒で。いま会話をレコーディングしていて、ここで紙をくしゃくしゃにしたりすると、その音が記録されます。この紙の音もフィールドレコーディングだし、こういった会話の記録もそう言えると思うんです。

――その境界線も滲んでいくなか、パーソナルな“音楽作品”ができていったわけですよね。このタイミングでアルバムを作るに至ったのはどうしてなのでしょうか。

蓮沼:今年出したフィルのアルバム『symphil』(2023年)にも言えることなんですけど、そもそも、どういった楽曲の方向性でも自分の音楽としてオリジナリティを自然と出せるという感覚があって。例えば、全曲歌ってもいいわけです。でも、今回こういうアルバムの方向性を選んだというのは……明確な目的や理想があったわけでも無かったんです。様々なコミッションで仕事をしていて、1週間空いたら、何か出てくるといいなという感じでちょっと作業して、断片的なものが生まれるんです。それでまた違うプロジェクトが始まって、その3ヵ月後、前に作ったのを聴いてみたら、「なんだこれ?」となるんですね(笑)。もしくは、3ヵ月後の自分は、ここをこうすればこうなるんだとわかる時もある。それでまた作っていくんですけど、それって純粋な自分の記録になっているんですね。この繰り返しをしていたら、それらに陽の目を見せたいと思い始めました。これは音楽に限った話じゃなくて、いまはあらゆるジャンルで、嘘偽りなく自分が純粋に作ったもの、という作品が作りづらくなっている時代なのかもしれません。

――ああ、特に職業として長く続けるとそうなのかもしれないですよね。

蓮沼:音楽に関しては、かたやBandcampがオープンになっているし、TuneCore経由で発信できるので、一概にこうとは言えないですけど、今を生きる作家として皮膚感覚でそういうふうには感じます。フィルですら、もちろん自分のやりたいプロジェクトではあるけど、まずメンバーのことを第一に考えてクリエイションをしていくので、順番で言うと自分のことは最後に考えているところがありますし。

――メンバーのスケジューリングから作曲が始まっていると言っていましたし(笑)。

蓮沼:そうですね。これは比喩ではなくて、何も音楽に落とし込むだけが作曲ではなくて、スケジュール管理のように状況を作り上げていく行為も作曲だと思って自分でやっています。色々な条件のなかでどうやってクリエイションしていくか、みたいなものの1つの形が今回のアルバムなのかもしれないですね。

――純粋に自分のための物作りに向かった結果、1人で完結していないところが蓮沼執太らしさと言いますか、多くの曲でゲストが参加しています。曲の形が見えてきた時に、ここで誰々に演奏してもらったらおもしろくなるんじゃないか、ということでオファーしたという流れでしょうか。

蓮沼:その通りです。それも結局、自分のためなんですね。ジェフ・パーカーに弾いてもらいたいと思った時に、自分でコンタクトして、音を送って、即興で弾いてもらったのを戻してもらって。そうすると、やっぱり驚くわけですよ。「こう来たか!」って。僕はそういう刺激が一番好きみたいです。完璧なスコアを書いて、指示した通りに演奏してくれっていうのが通常のオーダーだと思うんですよ。でも僕は、聴いて反応してもらったのを返してくれ、というくらいのルールのみで、何が返ってくるかわからない方がおもしろいと思っているんです。共同作業なんだけど、それは自分が一番楽しい。

――シンプルにびっくりしたいと。

蓮沼:そうそう、驚きたいんです。自分の作曲とは違うところへ飛んでいきたいと思った時に、自分の指定したメソッドじゃなくて、自分の思いつかないようなことが入ってくるほうが僕自身盛り上がるんですよ。曲自体が違うところに行っちゃうくらいがいい。それは確実にフィルでの経験があるからで。

――フィルはそれこそ譜面を書いて演奏するものだから。

蓮沼:もちろんそれでもライブでは変容してくので、1つの形として成り立っているんですけど、そうではなくて、『POP OOGA』(2009年)を作っていた頃の無邪気さのようなものを自分に期待していたんだと思います。

――ジェフ・パーカーとの「Irie」やコーネリアスとの「Selves」は、ファイル上のやりとりがあり、ゲストの方が即興演奏をしているのだと思うのですが、作曲されたようにも聴こえるんですよね

蓮沼:それは、僕の曲の作り方がそうだからだと思うんです。いつもゴール設定をして曲を作ってないんですよね。鍵盤に向き合ってああでもないこうでもないって作曲するのではなくて、適当に物を振ったり、叩いたりした音から始めていき、そこに即興的に演奏をしたり、録音素材をマイナスしていったり、という感じで段々と音楽が構築されていくんですね。その工程の間にゲストが来たという感じなんです。なので余白が常にあるんです。

――なるほど、それはわかりやすいですね。

蓮沼:小山田(圭吾)さんのは戻ってきたら完璧だったので、そのまま完成になっちゃったんですけどね(笑)。

――音無史哉さんをフィーチャーした「chroma」や「Sando」(「Sando」はコムアイも参加)は即興のセッションのようには聴こえなくて。

蓮沼:音無さんのは譜面を書いてます。そういうアプローチをしている曲もありますよ。「Sando」もセッションというよりは、ある程度旋律を作っておいて、一緒にスタジオに入って、ああだこうだ言いながら音無さんと一緒に作っていきました。

――オンラインじゃないやりとりのパターンもあるわけですね。

蓮沼:ありますよ。灰野(敬二)さんとはよくリハーサル・スタジオでセッションしているんですけど、珍しくギターを持ってこられたので、これはおもしろそうだなと思って録ってみました。それが実際、おもしろくて。たしか灰野さんが唯一楽器をたくさん持ってきた日だったんですよ。

――フルートの音も入っていたりしますね。

蓮沼:笛のコレクションもすごいんです。それこそフィールドレコーディングとして、マイク位置を定めてレコーダーの録音ボタンを押したという感じです。その素材で僕がおもしろいなと思ったところをピックアップして再構築して、その上でさらに楽器を弾いてます。

――「Vanish, Memoria」はもともとフィル用に書かれた曲ですか?

蓮沼:そうです。フィルで演奏出来たらいいなと思ってたんですけど、色々なタイミングでできなかったので、ドラムをグレッグ(・フォックス)にお願いして、ギターを石塚(周太)くんにお願いしました。すべてリモート録音です。

――新垣睦美さんは、ツアーで回った時に知り合ったんですか?

蓮沼:『メロディーズ』(2016年)を出した時に全国ツアーをして、その土地在住のミュージシャンンとコラボレーションで新曲を作って披露する、ということをやっていて。沖縄では新垣さんや、Awichさんとか沖縄のラッパーのみんなとやったんですよね。その時から新垣さんはジャンルに関わらずいろいろな音楽が好きということを知って、そういう音楽を聴き取る耳も持っているのがおもしろいなと感じていました。音無さんにも通じることなんですけど、古典芸能としての伝統音楽をやっているというよりも、その土地や楽器の持っている歴史と今生きている自分を現代的な形で接続している人だなと思っていたんですね。また一緒にやってみたいと思っていたので、この機会にお願いしました。

枠にとらわれない、自分に嘘をつかない制作

――形としてはビートものやコラージュ、アンビエントに近いもの、あるいはそれらが混ざっているものもあるし、作曲方法は今話してもらったようにさまざまあって、かなりバラバラなんですよね。ただ、想像していたよりもずっとアルバム作品として完成していると感じました。

蓮沼:配信で1曲ずつ出していた時は、ミックスまで僕がやって、マスタリングのエンジニアを毎回変えてたんですよね。なので、曲の独立性みたいなものはアルバムよりも際立っていたと思います。それを経て、こうして1枚にする時に、1曲1曲バラバラでおもしろいというふうにするか、アルバムとしてまとめるかという選択肢が出てきた時に、やはり後者かなと。それでエンジニアの葛西さんのところに行って、全曲の音のトリートメントをしてもらいました。その上でマスタリングをして、アルバムとして1枚の世界観が成り立つようにしました。スケッチ的な作り方をしている部分も多いんですけど、単なるスケッチじゃなくて、これはこういうアルバムなんです、という形にしたかったんだなと自分でも思います。

――長いキャリアを知っている人からするとすべての要素が入っているように感じますが、比較的最近の蓮沼さんを知った人からすると意外に感じる作品かもしれないですね。

蓮沼:ああ、僕はわりとパブリックイメージみたいなものを平気で壊せるというか、まったく気にしないので(笑)。それはいいも悪いもあって、もうちょっとコントロールできていれば……というのもあるんですけどね。でも、こういう生き方もあると思ったほうがいいですし。

――自分に嘘をつかずに興味を持てることをやるというのは、結局は音楽を続ける上でも1番大切なことなのかなと思います。

蓮沼:そこですよね。だから灰野さんやヤン富田さんのような大先輩達と一緒に音楽をやらせてもらっているのかもしれないです。灰野さんは大変優しい方ですけど、音楽に向かう姿勢に対してはとても厳しい人です。ヤン富田さんとも2021年4月のオーチャードホールでのコンサートで共演させていただいた以降、僕の中で空間にある音の捉え方が変わりました。

――『unpeople』はフィニッシュまで自分のためにできた作品になりましたか?

蓮沼:最後までいけたはずです。でも、今日考えていたんですけど、アルバム最初の曲の「unpeople」と最後の「Chroma」が完成したのが制作の最後でした。つまり、いよいよアルバムになるんだと思って作っていたことに気づいたんですね。特に「unpeople」は、今の自分のモードをわかってもらえるといいなと思って作りました。「Chroma」はフィールドレコーディング(ニューヨーク郊外にあるジョン・ケージが住んでいた森の音)で終わるんですけど、いわゆる器楽音じゃない自然の音で終わっている。さっきのスケッチではないという話ともシンクロしますが、制作の最終工程では構成を考えていて、アルバム作品にしているんだなと思います。

――たしかに「unpeople」は切迫したリズムからノンビートに展開していくユニークな曲で、これは最初にカマしにきているなと感じました(笑)。

蓮沼:ははは(笑)。言いたいことって最初に、しかも直接的に言わないと伝わらないです。こういうようなアルバムを象徴するものを9曲目くらいに潜ませる構造は今の時代、もう成立しないと思うんです。そこまで辿り着かないというか。だから1発目からこれが言いたいんですということを言って、そこからスタートしていく構成になったのは現代だからでしょうね。もし配信とかサブスクが無くて今もレコードだけの時代だったら、構成は変わっていたかもしれないですね。

――パーソナルではあるけれど、かといって時代と無縁ということではないんですね。最後にこれは余談になりますが、ブルックリンから東京に拠点を移したのはどんな心境の変化があったのでしょうか?

蓮沼:野音公演(『日比谷、時が奏でる』、2019年)のあとくらいに東京をベースにしました。その後にコロナ禍になりました。引っ越してきた当時(2014年)と比べて、ニューヨークにある芸術のすべてが輝かしく見えるわけでもなくなってきて。もちろん日本と比べても芸術の裾野は広いし、深いんですけどね。東京とブルックリンを行ったり来たりするような2拠点の活動にも飽きてしまってました。結局、製作者は自分自身でなんですよね。居場所の環境によって受ける影響は変わるとは思うんですが、自分自身の核は変わらない気がするんです。

――たしかにその意味ではどこにいても変わらないし、実際、日本にいながらジェフやグレッグといったアメリカ在住の人達とも音楽を作れているわけですからね。

蓮沼:本当にそうですよね。そういうことを考えていた時期に、ちょうどコロナになって、しかも家賃も高くなってきて、同世代のペインターとかパフォーマーの友達も自分の国に帰っちゃったんですね。色んな国の30代中盤以降の人が将来について悩んでいましたね。僕も色々考えた上で、1回日本に戻ってみようかな、という感じでした。日本は島国だけど、東京も十分にインターナショナルで、世界のなかの1つの場所なんですよね。それも大きかったのかなと思います。

Photography Kazushi Toyota

『unpeople』
2023年10月6日(金)リリース
参加アーティスト:ジェフ・パーカーや小山田圭吾(Cornelius)、灰野敬二、グレッグ・フォックス、コムアイ、新垣睦美、石塚周太、音無史哉ら

『unpeople』特設サイト
Virgin Music Label & Artist Services

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対談:脚本・根本宗子×監督・山岸聖太 『もっと超越した所へ。』で試みた“映像化不可能”と言われた演劇の映画化 https://tokion.jp/2022/10/19/shuko-nemoto-x-santa-yamagishi/ Wed, 19 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=150861 映画『もっと超越した所へ。』の原作・脚本の根本宗子と監督の山岸聖太によるクリエイター対談。

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山岸聖太(左)と根本宗子(右)

左:山岸聖太(やまぎし・さんた)
1978年生まれ、東京都出身。コエ所属。ミュージックビデオ、CM、TVドラマのディレクションを数多く手がけ脚本も担う。また、星野源の映像作品にも数多く携わっている。ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2015 にて『生きてゆく 完全版』がシネマチックアワードを受賞。その後、映画『あさはんのゆげ』(2016)、『傷だらけの悪魔』(2017)を監督。TV ドラマの監督作品に『忘却のサチコ』(2018/テレビ東京)、『有村架純の撮休』(2020/WOWOW)、『グラップラー刃牙はBLではないかと考え 続けた乙女の記録ッッ』(2021/WOWOW)など。
http://www.koe-inc.com/members/santa-yamagishi/
Twitter:@santa_yamagishi

右:根本宗子(ねもと・しゅうこ)
1989年生まれ、東京都出身。19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げ。以降劇団公演すべての作・演出を手掛ける他に、さまざまなプロデュース公演の作・演出も担当。2016年から4度にわたり、岸田國士戯曲賞の最終候補作へ選出され、近年では清竜人、チャラン・ポ・ランタンなどさまざまなアーティストとタッグを組み完全オリジナルの音楽劇を積極的に生み出している。常に演劇での新しい仕掛けを考える予測不能な劇作家。2022年初の著書となる小説『今、出来る、精一杯。』(小学館)を刊行。長編映画の脚本を手掛けるのは初となり、9月には2冊目の著書となる本作の小説版を発売。2023年1月には高畑充希とタッグを組む新作演劇『宝飾時計』が控えている。
https://gekkannemoto.wixsite.com/home
Twitter:@nemoshuu
Twitter:@GekkanNemoto

原作・脚本を根本宗子が、監督を映像クリエーターの山岸聖太(さんた)が担当した映画『もっと超越した所へ。』が10月14日に全国公開された。同作は2015年に上演され、“映像化不可能”と言われた同名の演劇を映画化したもの。

クズ男を引き寄せてしまう4人の女性と4人のクズ男による恋愛模様と、彼女達の意地と根性が引き起こすミラクルを痛快に描いた本作。キャストには、前田敦子やSexy Zone の菊池風磨、趣里、千葉雄大、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大といった個性豊かな面々がそろう。

今回、根本と山岸に演劇から映画化するにあたっての難しさから、個性豊かなキャスティング、そして映画ならではのこだわりまで、語ってもらった。

——今回の映画化にあたり、根本さんが山岸さんを監督に指名されたという経緯から伺いたいと思います。お2人のコンビはドラマ『下北沢ダイハード』(テレビ東京)からですよね。

根本宗子(以下、根本):その前から私が山岸さんのファンで、一度トークイベントでお話をさせてもらったことがありました。『下北沢ダイハード』はそのあとだったんですよ。

山岸聖太(以下、山岸):そうでしたね。

根本:『下北沢ダイハード』はたまたまというか、プロデューサーのかたが「合うと思うから」ということで組み合わせてくださったのが聖太さんだったんです。めちゃめちゃ嬉しかった出来事でした。そういう巡り合わせでご一緒したら、やっぱりすごくよかった。それで今回、映画にすることになって、私から……。あの、“指名した”ってよく書かれるんですけど、超偉そうな表現で嫌なんですよ(笑)。

山岸聖太:いやいやいや。

根本:指名したなんて偉そうなことではなく、お願いして(笑)、引き受けてくださったという。特にこの作品は、他の人で映画になるというヴィジョンが湧かなかったので、お願いしたかったんです。

——そして山岸さんはご快諾されて。演劇を映画化するにあたってどんなことを考えましたか。

山岸:僕はもとの舞台版を劇場では見れていなかったので、映像で見させていただきました。密室劇で、4つの部屋での出来事がスズナリの舞台の中で完成していたんですね。あのセット、あの熱量、あのテンションがすごい世界観を作り上げているけれど、これを映像化するにはちょっと違うものも必要だなと思っていて。それをどう落とし込んでいくかを考えました。特に編集のリズム感とテンポ感は大事にしたほうがいいなと思っていたので、そこを突き詰めていく作業としては、本を作る段階から編集が始まっているような感覚でした。それと、この作品は美術もキャストの一部みたいなところがあるので、そこも作る上で重要でした。

——根本さんは映画版の脚本を書くにあたってどんなところに留意しましたか。

根本:脚本も監督と相談しながら作らせていただいたのですが、話をもらったのが2019年の秋だったんですね。その時は世の中がコロナ前で。映画では2020年と過去の時間軸が2つ出てくるんですけど、舞台版は2015年とその1年半前だったんです。そこは今の時代に置き換えた方がいいね、という話はもともと出ていて。当初、2020年は東京オリンピックの年だったので、そのあたりは入れましょうかね、と言っていたところ、コロナ禍になって。じゃあ、そういうところも入れて4組を描き分けることをもう一度やったら面白いんじゃないかと思いました。ウイルスリテラシーの違いみたいなところで人間性がわかるけれど、それが主題ではなく、暮らしの一部として描くというのは大幅に変えたところです。ただ正直、他はあんまり変えてないんですよね。

山岸:そうでしたね。削っただけでした。

根本:もともと倍くらいあったものから残したい台詞を相談して。映画会社とかプロデューサーからしたら、長すぎちゃダメだから短くしたい、というのが課題で。私の書いてる台詞って、全部どうでもいいっちゃどうでもいいんですよ(笑)。なくなっても成立するんだけど、でも、1つ1つのしょうもない言葉とかで人間性がわかるように書いているので、全部必要なんです。そこで監督が、「どれも削っちゃうと根本さんの味がなくなっちゃうから、もうこのままいきましょう」と、尺をどうするか問題に区切りを打ってくださったんです。それはすごく助かりました。

山岸:ただ、あれは舞台だからできることだと最初は思ったんですよね。一線を越える、まさに超越する驚きやカタルシスみたいなものをどう映像化するかというのは一番の肝だったと思います。わざわざ同じ暗い空間に集まってみんなで一緒に見るというのは、演劇と映画も同じじゃないですか。別の形ではあるけれど、舞台版と同じくらいの何かを持って帰ってもらいたいという気持ちはすごくあります。

映画ならではのキャスティング

——根本作品や山岸作品でお馴染みの俳優も出演されていますし、初めての方もいます。キャスティングはどのように決まっていったのでしょうか。

根本:私はいつも当て書きしているので、どうしたって初演のメンツに書いたものなんです。今回、新しく8人にやっていただくことになって、また当て書きをし直したいという気持ちがあったので、自分が新たに台詞を書き足してみたい人というのと、もともとのキャラクターに合う人というところで希望を出していきました。イメージは同じ人が多かったですよね?

山岸:そうですね。プロデューサーの方も交えて相談しながら決めていきました。

——オカモトレイジさんの抜擢は見事でした。

根本:OKAMOTO’Sがやっている「オカモトーク!」というコンテンツが昔から大好きで。その番組をやっているときのレイジさんを見ていて泰造をやってほしいのはこの人しかいないと思いました。(笑)。独特なアクセントの付け方で喋る方だなってのがすごくキャラクター的でいいなと。独自の理論がしっかりあって面白いし、見ると元気になるんです。それで、もしお芝居することを楽しんでやってくださる方だったらいいな、と。お芝居にご興味あるかないかもわからなければ、アーティストの方にもそれぞれのお考えがあるじゃないですか。受けてくださるかわからなかったんですけど、監督が関係あったのもあってお願いできました。

山岸:レイジくんの演技、よかったですよね。それは努力の賜物だと思います。めちゃめちゃ一生懸命練習していて。一番したんじゃないですかね。

根本:レイジさんストレスで肌が荒れてたっておっしゃってましたよね(笑)。

山岸:このカップル(オカモトレイジ・伊藤万理華)は本読みの回数も一番多かったんですけど、それ以外の時も2人で練習したらしいんです。

根本:公園で練習してる写真が送られてきました(笑)。

山岸:その結果がちゃんと形に残ったのはすごく嬉しいです。

——そういった配役を思いつくこと自体すごいし、実際、ハマっていますよね。

根本:それは自分がお芝居を好きだからだと思います。楽しいと思っているから、この人に自分の台詞を喋ってみてほしいなと思う。それは押し付けるものではないんですけど。演技指導をしようという気持ちはないし、相手も別に芝居が上手くなっていきたいとは思ってないと思うんです。求めているのはそこではなくて、役者では出せないものが出る瞬間がどうしたってある。それが面白いなと思います。ただ、レイジさんを自分の舞台で演出するのはたぶん無理だなと思っていたので、自分の演出しないところでお願いしたという(笑)。

山岸:あははは。そうだったんだ。

根本:同じことを毎日繰り返すのがお好きじゃなさそうじゃないですか。きっとご本人も演劇より映画の方が好きそうですし。

山岸:映画をすごく見てますもんね。

——キャストは全員素晴らしく、特に菊池風磨さんのダメ男ぶりは鮮烈でした。

根本:私は風磨さんが一番、聖太さんとの相性がいいのかなと思いました。聖太さんの笑いの感覚と風磨さんの雰囲気が絶妙にハマっていて。

山岸:確かに。風磨くんが演じる怜人をモニターで見ながら、本当にバカだなと(笑)。心からそう思えたのがよかったです。バカだなと思うから愛せるというか、本当にイヤなやつだったら見ていてきついじゃないですか。そうじゃなくて、ダメなんだけどかわいげを出してくれるのが大事だなと思っていたので、それがしっかり出ているのがよかったですよね。

——どのキャラもダメなんだけれど、どこかコミカルで愛せるところがありました。

山岸:そこが一番気をつけたところだからかもしれないですね。ひどいことをするし、最悪な人達なんだけど、どこかでしょうがねえな、と許せてしまうズルさがあるほうが魅力的になるんですよね。人間としてはクズだけど魅力的な人、嫌いになれない人って周りにもいると思うんです。全員がそういう人になればいいなというのは考えていました。お客さんが「こんな男はやめといた方がいい」って完全に思っちゃうとダメですもんね。

根本:自分の本を映像にする時はそこがすごく難しいなと毎度思っていて。前に聖太さんとご一緒した『下北沢ダイハード』も、わりとヤバいやつが主人公なんですけど、映像で見た時にその人がちょっと笑える感じになっているんです。演劇だと、例えば8人の芝居だったら、その8人とお客さんで空気を作っていくので、多少イヤなやつが混じってもカバーできるというか、全体の雰囲気でラストに持っていけると思うんです。

——その場にいる全員にある種の共犯関係がある、という。

根本:でも、映像はそうじゃなくて、1人1人の表情も、着ている服も、食べ方も、よりちゃんと見えるので、1個でも「うわ……」と思うと、こいつはイヤなやつだなと演劇よりも強く感じてしまう気がするんです。そこを大切に作っていただけたのが嬉しかった。ここまで原作の空気を大事にしてもらって、しかも新しく映像にしてもらえることってあまりないと思うんです。私の演劇の初めての映画がこれになって嬉しいですね。今後、もしまた映画化されるようなことがあったら、「もっと原作を大事にしてくれ!」と思ってしまうかもしれない(笑)。

山岸:ははは。やっぱり演劇も、この映画のために新たに作った脚本もすごく面白いんですね。そこに疑いの余地はなくて、背骨としてしっかりしたものがあるので、あんまりガチャガチャいじろうとも思わなかったです。

「こういうのはやめればよかったと思ったんです(笑)」(山岸)

——同じ台詞や同じ行動がきっかけで別のカップルの場面に切り替わる演出がありますが、ああいったシンクロも舞台から着想を得たものなのでしょうか。

根本:手法が違うところもあると思うんですけど、演劇だと4部屋がずっと見えているのでリンクしている演出がかなり多くて、さらにもっと細かく切り替わっていくんですよね。当時は演出がうまくなりたくて、4つの部屋にすることで、演出しなきゃいけない部分を増やしたんです。それでああなっていて。

山岸:僕が拝見したのは引きの定点カメラで、正直、細かい芝居までは追えなかったんですよ。

根本:当時は予算もなかったし、こんなことになるなんて思ってなかったので、記録用の映像しか残っていなくて(笑)。

山岸:でも、こっちでこう言ったらあっちがこう言う、みたいなラップのマイクリレーみたいなことをされていたんですね。お互いは干渉してないし、全く違う出来事なんだけど、なにかのきっかけで繋がる。それが映像ではアクションでの繋ぎみたいなことになっているのかもしれません。

——そのテンポが小気味よくて、見ていて楽しい部分でした。

山岸:ああ、そうですか。それはよかった。正直に言うと、僕は初号試写で見た時に、こういう編集はやめればよかったと思ったんです(笑)。

根本:えー! 本の順番と入れ替えている部分もありますよね。

山岸:そうですね。すべてが部屋の中の出来事なので、このままだと見ていて窮屈に感じたり、空気が止まっちゃうと感じたりすることが多発するなとは思っていて。そこをいかに解消するかを考えていたので、編集しながらあれこれ入れ替えたりした結果がああなんですね。ただ、ああいった映像作品らしいギミックはもっと減らして、この人達に没入できるようにした方が良かったのかな、とは思ったんですよね。

根本:いや、私はあれがあってよかったと思います。しっかり没入できましたし。もとの演劇のほうが飽きさせちゃいけないと思いすぎて、常にお客さんに、見て、見て、見て、っていうことをやっていた時期なんですね。私も当時の自分はやりすぎてるなと思っていたんです。ただ、その要素があるからこその戯曲だとも思うので。

山岸:なるほど。だとしたらよかったです。

——やりすぎているというお話が出ましたが、それが「もっと超越した所へ。」というタイトルにも繋がる気がしました。

根本:でもあれは、演劇ってかなり前からチラシを刷るので、内容も決まってないのに先にタイトルだけ決めるんですね。それが当たり前の文化なので、どんな芝居を書くかわからない時に、演出家、演劇作家としてもっともっと超越したところに行きたくて、このタイトルにしたんです。自分の書く戯曲に演出する力が追いつかないなと思っている時期だったので、やってみた芝居だったんですよね。こんな話になるとは思ってなかった(笑)。

——タイトルだけ先にあって、実際に超越したものになったというのも驚きです。

根本:今でも忘れられないのが、スズナリって、雨が降ると音が劇場の中にも聞こえてくるんですね。あのお芝居は各部屋のコップを置く音とか水を注ぐ音できっかけを取っていたので、大雨の日にきっかけが取れなくなったんですよね。楽屋に戻ったら女優が「聞こえなくて終わったかと思った」って泣いてました(笑)。でも、それでもタイムが数秒しかずれなかったんです。恐ろしいくらい稽古していたので、何があっても同じことができる機械のようになっていて。そこまで詰めてやっていた。大変すぎる思い出が多すぎて、もうやりたくないなと思ってます(笑)。

——(笑)。その話を聞いて、そこまで突き詰めたからこそパッションが溢れ出す映画にもなっているのだなと思いました。

根本:あれだけ笑えてスカッとしていいものを見たなと思えるのは、そこまでの全部がうまくいっているからですよね。だからエモーショナルになるというか。

山岸:僕はこの8人の芝居が本当に素晴らしいと思っていて。最も印象に残る部分はアウトロみたいなもので、曲そのものは前段であって、AメロBメロサビというのはやはり8人の人間模様なんですよね。

根本:私としては品が良かったのは嬉しかったところです。どのシーンもやろうと思えばいくらでも下品にできると思うんですよ。でも、そうはならず、全員の愛おしいところをちゃんと切り取って、全員がこうなってしまっているのをわかった上で最後にいけるんですよね。全体の品がいいというのが本当に良かった。俳優陣も演出も。

山岸:ありがとうございます。

——ちなみにですが、山岸監督ご自身はどのキャラに最も近いと思いますか?

山岸:とみー(千葉雄大演じる星川富)ですね。だから作っていてすごくイヤでしたね(笑)。別れ話の時に、また仲良くお茶でもしようねっていう着地のさせ方をしているでしょう? 僕もそういうことをしたことがあるんですよ。本当に最低ですよね……。

根本:あはは。いい思い出にしようとする人ってイヤですよね〜(笑)。

——誰にでも思い当たるところがあって、どのカップルを見ても何かしら刺さってしまうと思いました。

山岸:そこが根本さんらしさでもありますよね。きっとどの役にもどこかしら思い当たる部分があるという。

——作品の手応えとしてはいかがでしょうか。

根本:一般試写の時の劇場の雰囲気が、演劇をやってカーテンコールで出ていく時と同じ空気になったんです。それがめっちゃよかった。演劇はその場に人がいるから、拍手をしたり、何かしらの熱が出ると思うんですけど、映画は見終わったらいくらでも冷静な気持ちになれるものだと思うんです。でも、最後のシーンを見た熱が持続したままの客席だったので、ああ、うまくいったんだなと思いました。

山岸:面白がっていただけた感覚があって、そこで初めて手応えが得られました。公開を楽しみにしています。

映画『もっと超越した所へ。』

■映画『もっと超越した所へ。』
出演:前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大
監督:山岸聖太
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』 
脚本:根本宗子
音楽:王舟 
主題歌:aiko「果てしない二人」(ポニーキャニオン)
https://happinet-phantom.com/mottochouetsu/

Photography Masashi Ura

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今泉力哉×劔樹人 映画『あの頃。』で描く「アイドルに捧げた大人の青春」 https://tokion.jp/2021/02/19/talk-about-the-film-in-those-days/ Fri, 19 Feb 2021 06:00:06 +0000 https://tokion.jp/?p=20564 劔樹人のコミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』が映画化された。今回、公開に合わせて映画で監督を務めた今泉力哉と原作の劔による対談を行った。主役を演じた松坂桃李のことからハロプロ愛まで語ってもらった。

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『あの頃。」の監督を務めた今泉力哉(左)と原作者の劔樹人

2014年、劔樹人(つるぎ・みきと)による自伝的コミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)が気鋭の映画監督・今泉力哉によって映画化された。同作では、2000年代初頭、大阪・阿倍野を舞台に、モーニング娘。や松浦亜弥など、「ハロー!プロジェクト」のアイドルに青春を捧げた劔やその仲間達とのリアルな様子が描かれている。

映画『あの頃。』では、主役の劔役を松坂桃李が演じることでも話題に。ほかにも、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、そして本作が映画初出演となるお笑いコンビ「ロッチ」のコカドケンタロウなど、幅広い分野で活躍する俳優陣が集結。強烈なキャラクターを熱演している。

原作をどう映画化し、作品を通してどんなメッセージを伝えたいのか。監督を務めた今泉と原作の劔による対談から探っていく。

劇中の松坂桃李はまさに劔樹人だった

――劔さんが映画をご覧になった感想から聞かせてください。

劔樹人(以下、劔):まず言えるのは、監督、脚本の冨永昌敬さん、スタッフのみなさんに原作を大事にしていただいたということで。スティーヴン・キング的な、原作者が映画に不満だとかそういうのが全然ないんです。

――『シャイニング』とは違う(笑)。

劔:自分で作り直したいということになりませんでしたから(笑)。むしろ人に届けづらい作品をブラッシュアップしていただきました。本当にありがたいですね。それに尽きます。

――劔さんはかなり撮影現場に入られたんですよね。

劔:そうなんですよ。その時は普通のつもりだったんです。「明日もいらっしゃいますか?」と聞かれるので、「じゃあ明日も」みたいな感じで行ってたんですけど、あとになってあんなに原作者が現場にいることは珍しいと言われるので、だんだん恥ずかしい気持ちになってきちゃって(笑)。楽しいから行っていただけなんですけど、それもどうかと思いますよね。

今泉力哉(以下、今泉):これが例えば小説とか漫画の大先生みたいな人が毎日来たらすごい空気になると思うんですけど(笑)。むしろ劇中のイベントのセリフとかも書いてもらったりしたし、現場にいてもらうと、困った時に「ここ、変じゃないですか?」と確認できたりするので、原作者というより監修みたいな感覚もありました。

劔:当時のハロプロの状況や友達のことは僕にしかわからないことなので、そういう時に役者さんや監督から聞かれたら答えたりしていました。

――劔さんが現場に行くことで、松坂桃李さんが劔役を演じるにあたって特徴を観察するということもあったみたいですね。

劔:松坂さんはそうおっしゃってますよね。

――すでに映画を観た方がよく言うことですが、松坂さんが劔さんにしか見えないと。

劔:僕が言うのもなんですが、そうなんですよね(笑)。「松坂桃李がキモかった」みたいな感想も見るんですけど、それは単純に僕が気持ち悪かっただけですから。一般的なハロプロファンを表現しているわけではなくて、僕のことを表現しているので。松坂さんの演技が評価されるほど僕に刺さってくるんです(笑)。

今泉:劔さんと松坂さんの話をすると見た目のことでイジられることが結構あるけど、もしかしたら中身も似てるのかな。

劔:本当ですか!?

今泉:どちらかというと劔さんのほうがしっかりしてるのかな? そんな気もします。

劔:ああ、わかります。松坂さんは根がハンサムな感じじゃないというか。

今泉:普段は普通の人なんですよね。フラットというか。いい意味で。

劔:人からどう見られるとかを意識してないんでしょうね。だから僕みたいなのにもスッとなじめるんです。自分と松坂さんは近いと思うんですけど、映画に出てくる友達に関しては、劇中のキャラクターになっているなと感じました。

原作ものならではの難しさ

――今泉監督は、どの役者を誰役にするかのイメージが立ち上がってくるまでに時間が必要だったと言っていましたよね。

今泉:劇中の劔とかコズミンみたいにわかりやすい役割がある人は迷わなかったんですけど、最初は西野、イトウ、ナカウチ、ロビとかに関しては、役者さん達が達者ということもあって、誰が誰をやるというキャラクター付けが自分の中で明確になってなかったんです。この人ならどっちでもいけるのかなと思っちゃったり。でも、蓋を開けてみれば今の配役を入れ替えるのは想像もつかないから、これでよかったのかなと。人数の整理もあるので、実存する2人の人物を1人に投影している部分もあったりして。今回、「NO MUSIC, NO IDOL!」のポスターがあるじゃないですか。あそこには映画で省いてしまった人も劔さんが描いてくださっていたので、よかったなと思いました。

劔:タワーレコードさんのほうから原作のキャラクターを描いてほしいと言われたんです。

今泉:今回に限らずですが、登場人物みんな出すというのもいいけど、パンクしちゃわないように整理しないといけないことはありますよね。

――原作を読むと登場人物だけじゃなくて複数のエピソードもまとまったりしていることがわかって、改めて見事な脚本だと思いました。冨永昌敬さんとどんなやりとりをしてできていったのでしょうか。

今泉:まず大きな構成を冨永さんが作ってくれて、そこからでしたね。この作品にかかわらず、原作ものの脚本を自分で書くことはしないようにしていて。取捨選択や構成の能力というのは、オリジナルで物語を生み出すのとは別の力だと思うんです。俺は小さいエピソードが好きなので、自分でやり出すと捨てられなくて縮まらなくなっちゃう。2つの話をまとめるにしても、こことここの間には逡巡があるよな、とか、それをまとめるのは元の作品に失礼なんじゃないか、とか思って何もできなくなったりするんです。それを冨永さんがやってくれて、そのあと詰めていきました。最初のほうは劔のうだつの上がらない描写がもっと丁寧に書かれていたんですよね。職場の描写もありましたし。ただ、全体の温度感とかバランスを見ながら(シーンを)削っていった感じです。

劔:監督は細かいエピソードを大事にしてくれようとするんですよね。

今泉:だって西野さんがその後、クイズ王になってるとか、入れたくなっちゃうじゃないですか(笑)。それぞれのメンバーの現在の様子を点描で入れようとしたときが一瞬あって。『スタンド・バイ・ミー』みたいな(笑)。でも、それをやってるとウェイトがすごいことになる。あと、実際問題、クイズ王のシーンってどうやるんだ、みたいな。入れてもおもしろかったかもしれないですけどね。

劔:Netflixで10話のドラマとかだったらできるのかもしれないですけど(笑)。

今泉:たしかに。あとは大阪から上京してからの劔さんをどれだけのリアリティーでやるのかというのも意外と難しくて。劔さんがやっているバンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」のことや、神聖かまってちゃんのマネージャーだったこともやりだすとしたら……みたいな。音楽事務所の仕事だと、自分が担当しているアーティストの取材に立ち会うとか、そういう描写になるじゃないですか。でも、その仕事のさまってどう伝わるんだ? みたいなことを考えたり、ロケハンしていく中で、今の形にまとまっていった感じですね。

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*この下に記事が続きます

見逃せない今泉監督の細かいこだわり

――ディテールへのこだわりも今作の見どころの1つだと思います。劔の部屋のエアコンに松浦亜弥「Yeah!めっちゃホリディ」のミュージックビデオと同じように「故障だってさ。」と書かれた紙が貼ってあったり。

劔:ああ、よくぞ(笑)。

今泉:嬉しいですね。初見で気付いてくれる人は少ないんじゃないかと思います。原作のなかに描いてありましたよね。

劔:はい、さりげなく。僕も当時、誰か気付くかなと思って描いてました。「Yeah!めっちゃホリディ」をちゃんと見てないと気付かないんですよね。

今泉:あのシーンも編集で飛ばせるっちゃ飛ばせるのでカット候補になっていたんですけど、これがどうというわけではないけど部屋があやや化した瞬間はあったほうがいいと思いますと話したのを覚えてます。

劔:文字も似た感じになってましたよね(笑)。何回も観ると細かいことにたくさん気づくと思います。

――今泉監督らしさも随所に見られます。劔が初めて仲間の家に行った時など、どこまでがセリフなのかなというやりとりはまさに今泉節を感じました。なかなか次のシーンにいかずに、素のような顔が垣間見れる瞬間があって。

今泉:一応、セリフがあるにはあるんですけど、間のごちゃごちゃの繋ぎの部分は役者さんの芝居です。ぶっつけで一発撮りではなく、何回かのリハーサルの中で役者さんがやったことを「それもおもしろいですね」と採用していく感じでした。それで言うとシチューのくだりも終わりをどうするか決めずに撮ってますね。

――監督も予期しないものを撮りたいという思いがあるのでしょうか。

今泉:それもありますし、さっき「どこまでがセリフなのか」と言われたみたいに、現実世界と近づくといいのかなというのもあって。作り物度が下がるし。ただ、一歩間違って素に戻り過ぎると役から離れてしまう危うさはあるんですけどね。ああいうシーンはテイクを重ねて固めていく時もあれば、一発でしか撮れない時もあります。現場で1人にだけ台本にないセリフをぶっこむ時もあります。今回はそんなになかったんですけど、準備を丁寧にして、役が固まっていく人を崩す時にたまにやりますね。どうしても決まったこと以上が出てこなくなっちゃうという時にやったりします。

『あの頃。』をきっかけに、今のハロプロを知ってほしい

――題材となったアイドルとファンについての話もお聞きしたいと思います。

今泉:劔さんはあややにハマる前、何かにハマったことはありますか?

劔:音楽とかはもちろんありますし、あとはグラビアアイドルが大好きだったんですよ。

今泉:ああ。それはなかなか表立って話さないことですよね。なんか恥ずかしくて。俺も当時は何人か好きな人がいましたね。杏さゆりさんを筆頭に。

劔:僕はそんなに隠してなかったんですけど、優香さんとか眞鍋かをりさんとか。めちゃくちゃチェックしてました。懐かしいなぁ。

――時とともに好きな対象が変わるじゃないですか。熱量が変わっていく寂しさというのも当然あって。

劔:わかります。熱量が変わってない人間からすると寂しいんですよね。最近興味ないのかな、みたいな。流動的なものじゃないですか。僕の知り合いでも急にハロプロに熱を持つ人がいれば、最近はNiziUが好きなんだなという人もいたりするし。

今泉:離れていく時の理由って、それだけ熱量を持っていたからだと思うんです。思い入れがあるからこそ、変わっていくことについていけない人もいるだろうし、変わることを否定的には捉えていないけど、これ以上増えるとちょっと覚えられないぞ、みたいなこともある。思い入れがあればあるほど、一番推してた人が卒業するとか、距離ができたりするそれぞれのきっかけはあるのかなと思います。

――きっと誰しもがそういう経験があるので、この映画もハロプロ関係なく広く共感できるのかなと思うんです。

今泉:この原作って、いま現在から見れば、ハロプロの歴史の中でも、ある過去の1つの時代を描いているということになるので、あの時が一番良かったと見られるこわさがあって。最初からそうはしたくないとずっと言ってました。でも実際、みんなが離れていったり、劔達が東京に行ったりしますよね。脚本上もそうなんですけど、後半はあまりハロプロの曲がかからないので、それで2008年前後から10年あたりのハロプロがあまり良くないように見えちゃったりしたらこわいな、とか。実際のコズミンは当時、Perfumeを聴いてたという話ですし。

劔:ですね。

今泉:タイトルがもう『あの頃。』ですし、過去は良かったね、というのが前面に出て勘違いされる危険性に関しては、俺がハマったりオタクだったりしてこなかったぶん、めちゃくちゃ気を使ったかなと思います。

――今が一番楽しいというメッセージが込められた作品でもありますよね。

劔:そのメッセージに辿り着いていただければと思います。

今泉:あとは単純に、映画をきっかけにして、現在のハロプロのライブを見に行くのがいいと思うんです。それが補完というわけじゃないけど、映画では現在のライブは描かれていないので、そっちに関してはいまのハロプロを見に行ってもらって、という。そういえば、最近、YouTubeでハロプロの番組とかを見ていて。変遷を知っていくと、こんなに変わることってある? というくらいメンバーも変わっているんですよね。ああいうのを見れば見るほどに道重(さゆみ)さんのすごさを知ったり、あるタイミングあるタイミングの新規メンバー加入時に(モーニング)娘。の平均年齢がめちゃくちゃ下がったことを知ったり。いま、どんどん詳しくなってるんですよね(笑)。後藤真希さんのYouTubeで柏木由紀さんとコラボしてるのを見て、ネットサーフィンの末、最終的にはハロオタの指原莉乃さんと峯岸みなみさんのコラボ動画にたどり着いて朝を迎える、みたいな(笑)。=LOVEのMVもいいし、ハロプロに戻って、BEYOOOOONDSもやっぱいいな、みたいな。

――このタイミングで監督がその方向に(笑)。

今泉:不思議ですよね。どういうハマり方なんだという。この間、映画『のぼる小寺さん』のトークゲストに出て。

――元モーニング娘。の工藤遥さん主演の。

今泉:はい。朝の戦隊もの(『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』)にモーニング娘。のOGの方が抜擢されたというのが最初の認識だったんですけど、最近、過去の番組とかを見てたら、工藤さんが当時まだ13歳とかで。ええ!? って驚いたり(笑)。その程度の知識のやつが監督したのかと思われたら申し訳ないんですけど、作ってる時は劇中の時代のことを認識するので精一杯だったので、最近になってわかったことも多いんです。

――はからずも監督がそうしているように、今回の作品からさかのぼったりする人が増える可能性も大いにありますよね。

劔:それに期待しています。僕にできることはそれだけなので。

――劔さんが10年ほど前に「今、自分が応援すべきは、あややなんだと。」とブログで決意したじゃないですか。それが巡り巡って、今泉監督が映画化することになり、結果的に劔さんは大きな規模で応援することになっているというのがすごい話だなと思います。

劔:本当にそうですよね(笑)。当時は松浦さんにもう一度表舞台に出てもらうための活動をしたりしていたんですよ。企画書持って事務所に行ったり。それがなかなかかなわぬままだったんですけど、こういう別のかたちになったというか。

今泉:こっちはあとから乗っかってる部分もあるので不思議です。俺は原作を書いているわけではなく、いただいた話なので。でもやっぱり、ハロプロはあれだけの歴史があるのがいいですよね。後藤真希さんがあややとバチバチだった話とかもあちこちでしてるじゃないですか。そういうのもおもしろいなと思うし。……いま話していたように、この映画からさかのぼってハロプロを知りたいと思う人の第一号が俺になった可能性がありますね(笑)。

今泉力哉
1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭で最優秀監督賞受賞。翌年には『サッドティー』が公開され、話題に。その他の長編映画に『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018)、『愛がなんだ』(2019)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019)、『mellow』(2020)、『his』(2020)など。2021年には、『あの頃。』の他に、全編下北沢で撮影した若葉竜也主演『街の上で』が4月9日に公開予定。
Twitter:@_necoze_

劔 樹人
1979年5月7日生まれ、新潟県出身。漫画家、「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。また、過去にはパーフェクトミュージックで「神聖かまってちゃん」や「撃鉄」のマネジメントを担当。数々のウェブサイトで漫画コラムを執筆するなど、音楽の領域に留まらない幅広い活動が注目を集めている。2014年にエッセイストの犬山紙子と結婚し、「主夫の友アワード2018」を受賞。2020年12月には新作コミック『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』(イースト・プレス)を刊行。
Twitter:@tsurugimikito

映画『あの頃。』
監督:今泉力哉
脚本:冨永昌敬
出演:松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウほか
2021年2月19日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
https://phantom-film.com/anokoro/index.php

Photography Kazuo Yoshida

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連載「時の音」Vol.7 進化を続けるBABYMETAL 見たことのない景色に辿りつくまで https://tokion.jp/2020/12/24/series-tokinooto-vol7-babymetal/ Thu, 24 Dec 2020 06:00:30 +0000 https://tokion.jp/?p=15288 結成10周年を迎えたBABYMETALが語る「10年で変わったこと、変わらないこと」。

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その時々だからこそ生まれ、同時に時代を超えて愛される価値観がある。本連載「時の音」では、そんな価値観を発信する人達に今までの活動を振り返りつつ、未来を見据えて話をしてもらう。

2010年に結成されたBABYMETALは今年10周年を迎えた。コロナ禍によって、当初予定していたアジアツアーが中止になるなど、これまでライブを中心に活動していたBABYMETALにとって、改めてこれまでの自分達の活動を振り返る1年になった。そんな中、12月23日に結成10周年ベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』をリリース。12月31日にはNHK紅白歌合戦に初出場、2021年には日本武道館で10公演を行うなど、再び動き出したBABYMETALが、今、何を思うのか。

――2020年春以降のステイホーム期間はどんなことを考えて過ごしていたのでしょうか。BABYMETALは世界中のツアーやフェスへの出演で常に動いてきたので、これまでそういった時間ができることはなかったと思うんですが?

SU-METAL(以下、SU):アジアツアーが中止になってしまったり、やろうとしていたことが全然できなくなって。BABYMETALはライブを中心としていたグループなので、私自身が皆さんからエネルギーをもらっていたり、日々のいろいろなものを吐き出していたりして、ライブができないことで自分が想像していた以上に心にきてしまったんです。ライブをしてない自分はこうなるんだと思うくらい、何もなくなってしまった感がすごくて。

――かなり影響があったんですね。

SU:最初の頃はどうしようかと思っていたんですけど、その時の自分を救ってくれたのがメタルでした。メタルの音楽があったから自分は前を向いてポジティブな気持ちにも戻れたので、あらためて音楽のすごさを感じました。あたりまえにできていたことができなくなった時、自分がどうしたらいいかわからなくなる感覚は人生で初めての経験だったので、学んだことはたくさんありました。逆に今だからこそ何かできないかなということをいろいろと考えられたし、BRING ME THE HORIZONさんから声を掛けていただいて楽曲もできたり、これからに向けて準備をすることができました。

――MOAMETALさんはいかがでしたか?

MOAMETAL(以下、MOA):私はヨーロッパツアーから帰ってきて、日本中がコロナの話題で持ち切りの状況を見た時に、まずはワールドツアーを全部回り切れたことも飛行機に乗って帰れたことも、本当に奇跡だなと思いました。

――「METAL GALAXY WORLD TOUR」の3月1日のモスクワ公演が最後。少しずれていたらツアーは完遂できなかったかもしれないし、もしかしたらどこかの国で足止めを食らっていたかもしれないですよね。

MOA:はい。ただ、次の予定がアジアツアーだったんですが、そちらは中止になってしまいました。暖かいところに行けるという喜びと、アジアはずっと周りたいといつも話をしていたので、やっと会いに行けると思っていたのに、それがなくなってしまった悲しさは本当に大きかったです。

私達以外のアーティストも動けていない状況を知って、音楽って何ができるんだろうなということも考えました。こういう状況だからこそ音楽は世の中を笑顔にできるはずなのに、いろんなライブが中止になって人を悲しませていることの方が多いんじゃないかとか、そういうことまで思ってしまって。早く何か動き出したいと思いながら、もぞもぞした気持ちでいました。

――そういった気持ちを持ち直すきっかけはありましたか?

MOA:コロナ禍の真っただ中の時はYouTubeで過去のライブ映像を配信したりして、何か届けられるものがあるんだなとホッとしたところはあります。

「この10年はいつも壁が立ちはだかっていて、それを越えていくのに必死だった」

――この10年間のこともうかがいたいと思います。結成当初はBABYMETALをここまで続けていると思いましたか?

SU:まったくです(笑)。

MOA:結成した当時は20歳の頃には全然違う道を歩んでいると思ってました。BABYMETALは終わるのか、終わらないのかみたいなタイミングが何度かあったんですよね。その都度、そんなに先のことは考えてなかったけど、10年もやるとはまったく思ってなかったです。気付いたら早10年。

――どうして続けられたのだと思いますか?

SU:じつは、こんなに長くやっているんだなと気付き始めたのがほんの2年くらい前なんですよ(笑)。

――それまでは振り返る間もなく。

SU:そうですね。いつも壁が立ちはだかっていて、それを越えていくのに必死だったというか。でも、それを大変だと思ったことはあんまりなくて。アウェーな場所でも、まぁ大丈夫でしょ、みたいな感じなんです。「前にこれができたから今回のこれも乗り越えられるはず」というように、道ができていくのはすごく楽しいじゃないですか。ゲームをクリアしていってるみたいな感じというか。壁を乗り越えた時の達成感は知っているし、「こんなの誰も見たことない景色だよね」というのが自分達の自信にもなったりしていて。だから、大変な中でなんとか続けてこられたというよりは、結構楽しくやってこれたかなと思います。それはやっぱりみんながいたからなのかな。

――みんなというのは、ファンだったりスタッフさんだったり?

SU:そうです。あとはメンバーです。

MOA:本当にこのチームが好きなんだなって最近改めて思いました。支えてくれているスタッフさんがいるからライブができているんだなと。私はファンの人の笑顔を見れるのが一番幸せな瞬間だと思っていて、その瞬間があるから続けられるんです。あとはSU-METALがいるから。

SU:(笑)。

10年間、メタルのハートの部分は変わらない

――この10年間で変化したこと、また変わっていないことはどんなことでしょうか?

MOA:変わってないことのほうが多い気がします。SU-METALを客観的に見ていても、変わらないから私は安心してここにいられるんだなと思うし。体制は変わりましたけど、いい意味で進化していると思います。大切にしているメタルのハートの部分は全然変わってないと思います。

SU:BABYMETALの楽曲に関しては、本当に同じアーティストなのかなと思うくらいジャンルの幅が広がっていて。私は新しい曲がくるたびに、これは今の自分に与えられている課題曲だなと思いながら、どうやって歌いこなしていくか、どう見せていくかを考えているんです。それはMOAMETALも一緒だと思うんですけど。だから、BABYMETAL自体も変わり続けていると思います。特に3rdアルバムのタイミングで「BABYMETALはこういうグループだよね」というイメージをぶち壊して、音楽の幅をさらに広げられたと思いますね。

――当初からチャレンジングなユニットで、変化や挑戦をし続ける姿勢は変わっていないということですよね。MOAMETALさんから体制の変化の話が出ましたが、ライブの編成も変化してきました。メンバー2人+サポートの形が落ち着くまでは大変だったのでは?

SU:編成が変わってから最初のライブはアメリカのツアーで、その時に回っていたエリアはアメリカの田舎町が多くて、初めましてのファンも多かったんですよ。正直、BABYMETALは見た目のかわいさで応援されているところが大きいんじゃないか、支持されているのは音楽じゃなくてそういうことなのかなと思うこともあったんですが、2人でツアーを回っていく中で、お客さんの反応が「BABYMETALのライブはおもしろい」というふうに変わっていったんですよ。その時、自分達はパフォーマンスで人を感動させられるんだと実感することができました。初日の公演が終わった後は、ここからツアーを回っていけるのか、大丈夫なのかと心配していたんですけど、あの時に挑戦したからこそ新たな学びがあったんだと思います。

――10周年のベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』について訊かせてください。何から何まですごいことになっていますね。

MOA:10周年で10章で10形態で10曲のアルバム。しかもこのあとに武道館が10公演あって。10過ぎる! “充”実したアルバムです……って言いたくなっちゃった(笑)。

――『10 BABYMETAL YEARS』の中で特に思い入れのある楽曲はどの曲でしょうか?

MOA:「Road of Resistance」です。歌詞には道なき道を切り拓いていくというBABYMETALの芯の部分の気持ちが込められているので、この曲があってこその私達だと思っているし、振り付けや歌詞で戦っていくBABYMETALの姿が最も象徴されている一曲かなと思います。初披露がイギリスだったんですけど、その時の公演がいまだに忘れられなくて。ものすごく盛り上がって、コール&レスポンスのところでお客さんが一緒に歌ってくれたんです。私達の音楽で1つになれるんだと思えた瞬間で、すごく幸せでした。収録されている10曲の中だったら特に「Road~」は思い入れがあります。

SU:私は「メギツネ」かな。BABYMETALの曲の中で一番好きで、私にとって一番難しいのも「メギツネ」です。この曲をレコーディングしたときはまだまだ子供で、子供が一生懸命背伸びしている感じだったんです。それも当時のBABYMETALらしくてかわいいなと思うんですけど、ライブを重ねていく中で、この曲は速いけど滑らかで、激しいけど美しいといういろいろな要素がミックスされていると気付きました。曲調や振り付けが日本らしいから、これが好きという海外のかたも多いんじゃないかなと思います。それと、この曲は私にとってチューニング曲なんです。

――チューニングですか。

SU:BABYMETALの曲を歌う上で必要なことがバランス良く入っているので、自分の声の調子を確認するための曲なんです。今の自分はリズムが苦手だなとか、今日は音程が取れているとか、高音や低音が出ているかなとか。この曲を歌えばその時の全部の調子がわかるんですね。だからライブ前に必ず歌うようにしています。ある意味で基準となっている曲ですね。

初のNHK紅白歌合戦 「アウェーのフェスよりも緊張する」

――そして今年は年末のNHK紅白歌合戦への出場が決まりました。決まった時の気持ちはいかがでしたか?

SU:朝聞いて、そのまま記者発表に行って。周りはテレビで見る人ばかりですし。

MOA:連れられてきたけど、ここにいていいのかなみたいな(笑)。普段はライブ中心でテレビにあまり出ないBABYMETALだからこそ、おもしろいことができたらいいなと思っています。でも、ずっとライブでお客さんを相手にしてきたから、テレビでカメラの前で演奏するということに慣れてなくて。だからテレビのほうが緊張します。

SU:ある意味アウェーのフェスより緊張するよね。

――最後の質問になります。2021年には日本武道館での10公演開催が決まっています。意気込みをお聞かせください。

MOA:前回の武道館公演が初めてのことも多くて大変で、苦い思い出でもあったので、今回のライブで一回りも二回りも大きくなった私達を見せて、良いライブができたという達成感を得たいと思っています。

SU:私達はライブはたくさんして、いろいろな経験をしてきたつもりなんですけど、その中でも、初めてたくさんのことを同時に経験したのが武道館でした。全部が初めての経験だったので、あの2日間を通しての経験値は本当にすごかったと思います。頭の中がずっとフル回転で、楽しむ余裕なんてなかったんですよね。

MOA:今だったら経験値も上がってると思うので、武道館も楽しめる気がします。

SU:まだ決まってないことばかりなので、どうなるのか私達も楽しみなんです。

MOA:全貌はキツネ様のみぞ知るということで(笑)。こういう状況なので、無事に公演ができればと思っています。

SU:そうだね。みんなが元気で、無事、武道館に集まれますようにということだけですね。

BABYMETAL
2010年、SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALで結成。2014年3月には日本武道館ワンマンライブ2DAYSを行い女性アーティスト史上最年少記録を樹立。さらに1stアルバム「BABYMETAL」が全米ビルボード総合チャートにランクイン。2015年にはイギリスの音楽誌「KERRANG!」と「METAL HAMMER」が主催する2つのミュージックアワードで日本人アーティスト初となるアワードを受賞する。2016年2ndアルバム「METAL RESISTANCE」は全米ビルボードチャートTOP40にランクイン。また、4月にはイギリス・ウェンブリーアリーナにて日本人初となるワンマンライブを開催。2019年、新体制の幕開けとなった横浜アリーナでの単独公演直後に、世界最大規模の音楽フェス「Glastonbury Festival」に出演し大きな話題となる。10月に3rdアルバム「METAL GALAXY」を世界同時リリース。アメリカ・Billboard Top 200では13位、Rockアルバムチャートではアジアアーティストとして史上初となる1位を獲得。2020年2月からは、11カ国17公演に及ぶヨーロッパツアーを開催。12月23日に結成10周年ベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』をリリース。2021年には日本武道館で10公演を行う。
https://www.babymetal.com/jp/

「10 BABYMETAL YEARS」Special Web Site 
https://www.toysfactory.co.jp/artist/babymetal/10babymetalyears/

BEST ALBUM「10 BABYMETAL YEARS」2020.12.23 Available!!
「10 BABYMETAL YEARS」主要販売サイト
https://TF.lnk.to/10BABYMETALYEARSWE

【10 BABYMETAL BUDOKAN 特設ページ】
https://www.babymetal.com/10babymetalbudokan

『10 BABYMETAL YEARS』(10形態でリリース)
1.ド・キ・ド・キ☆モーニング 
2.ヘドバンギャー!!
3.イジメ、ダメ、ゼッタイ
4.メギツネ
5.ギミチョコ!!
6.Road of Resistance 
7.KARATE
8.THE ONE
9.Distortion (feat. Alissa White-Gluz) 
10.PA PA YA!! (feat. F.HERO)

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