連載「時の音」Vol.7 進化を続けるBABYMETAL 見たことのない景色に辿りつくまで

その時々だからこそ生まれ、同時に時代を超えて愛される価値観がある。本連載「時の音」では、そんな価値観を発信する人達に今までの活動を振り返りつつ、未来を見据えて話をしてもらう。

2010年に結成されたBABYMETALは今年10周年を迎えた。コロナ禍によって、当初予定していたアジアツアーが中止になるなど、これまでライブを中心に活動していたBABYMETALにとって、改めてこれまでの自分達の活動を振り返る1年になった。そんな中、12月23日に結成10周年ベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』をリリース。12月31日にはNHK紅白歌合戦に初出場、2021年には日本武道館で10公演を行うなど、再び動き出したBABYMETALが、今、何を思うのか。

――2020年春以降のステイホーム期間はどんなことを考えて過ごしていたのでしょうか。BABYMETALは世界中のツアーやフェスへの出演で常に動いてきたので、これまでそういった時間ができることはなかったと思うんですが?

SU-METAL(以下、SU):アジアツアーが中止になってしまったり、やろうとしていたことが全然できなくなって。BABYMETALはライブを中心としていたグループなので、私自身が皆さんからエネルギーをもらっていたり、日々のいろいろなものを吐き出していたりして、ライブができないことで自分が想像していた以上に心にきてしまったんです。ライブをしてない自分はこうなるんだと思うくらい、何もなくなってしまった感がすごくて。

――かなり影響があったんですね。

SU:最初の頃はどうしようかと思っていたんですけど、その時の自分を救ってくれたのがメタルでした。メタルの音楽があったから自分は前を向いてポジティブな気持ちにも戻れたので、あらためて音楽のすごさを感じました。あたりまえにできていたことができなくなった時、自分がどうしたらいいかわからなくなる感覚は人生で初めての経験だったので、学んだことはたくさんありました。逆に今だからこそ何かできないかなということをいろいろと考えられたし、BRING ME THE HORIZONさんから声を掛けていただいて楽曲もできたり、これからに向けて準備をすることができました。

――MOAMETALさんはいかがでしたか?

MOAMETAL(以下、MOA):私はヨーロッパツアーから帰ってきて、日本中がコロナの話題で持ち切りの状況を見た時に、まずはワールドツアーを全部回り切れたことも飛行機に乗って帰れたことも、本当に奇跡だなと思いました。

――「METAL GALAXY WORLD TOUR」の3月1日のモスクワ公演が最後。少しずれていたらツアーは完遂できなかったかもしれないし、もしかしたらどこかの国で足止めを食らっていたかもしれないですよね。

MOA:はい。ただ、次の予定がアジアツアーだったんですが、そちらは中止になってしまいました。暖かいところに行けるという喜びと、アジアはずっと周りたいといつも話をしていたので、やっと会いに行けると思っていたのに、それがなくなってしまった悲しさは本当に大きかったです。

私達以外のアーティストも動けていない状況を知って、音楽って何ができるんだろうなということも考えました。こういう状況だからこそ音楽は世の中を笑顔にできるはずなのに、いろんなライブが中止になって人を悲しませていることの方が多いんじゃないかとか、そういうことまで思ってしまって。早く何か動き出したいと思いながら、もぞもぞした気持ちでいました。

――そういった気持ちを持ち直すきっかけはありましたか?

MOA:コロナ禍の真っただ中の時はYouTubeで過去のライブ映像を配信したりして、何か届けられるものがあるんだなとホッとしたところはあります。

「この10年はいつも壁が立ちはだかっていて、それを越えていくのに必死だった」

――この10年間のこともうかがいたいと思います。結成当初はBABYMETALをここまで続けていると思いましたか?

SU:まったくです(笑)。

MOA:結成した当時は20歳の頃には全然違う道を歩んでいると思ってました。BABYMETALは終わるのか、終わらないのかみたいなタイミングが何度かあったんですよね。その都度、そんなに先のことは考えてなかったけど、10年もやるとはまったく思ってなかったです。気付いたら早10年。

――どうして続けられたのだと思いますか?

SU:じつは、こんなに長くやっているんだなと気付き始めたのがほんの2年くらい前なんですよ(笑)。

――それまでは振り返る間もなく。

SU:そうですね。いつも壁が立ちはだかっていて、それを越えていくのに必死だったというか。でも、それを大変だと思ったことはあんまりなくて。アウェーな場所でも、まぁ大丈夫でしょ、みたいな感じなんです。「前にこれができたから今回のこれも乗り越えられるはず」というように、道ができていくのはすごく楽しいじゃないですか。ゲームをクリアしていってるみたいな感じというか。壁を乗り越えた時の達成感は知っているし、「こんなの誰も見たことない景色だよね」というのが自分達の自信にもなったりしていて。だから、大変な中でなんとか続けてこられたというよりは、結構楽しくやってこれたかなと思います。それはやっぱりみんながいたからなのかな。

――みんなというのは、ファンだったりスタッフさんだったり?

SU:そうです。あとはメンバーです。

MOA:本当にこのチームが好きなんだなって最近改めて思いました。支えてくれているスタッフさんがいるからライブができているんだなと。私はファンの人の笑顔を見れるのが一番幸せな瞬間だと思っていて、その瞬間があるから続けられるんです。あとはSU-METALがいるから。

SU:(笑)。

10年間、メタルのハートの部分は変わらない

――この10年間で変化したこと、また変わっていないことはどんなことでしょうか?

MOA:変わってないことのほうが多い気がします。SU-METALを客観的に見ていても、変わらないから私は安心してここにいられるんだなと思うし。体制は変わりましたけど、いい意味で進化していると思います。大切にしているメタルのハートの部分は全然変わってないと思います。

SU:BABYMETALの楽曲に関しては、本当に同じアーティストなのかなと思うくらいジャンルの幅が広がっていて。私は新しい曲がくるたびに、これは今の自分に与えられている課題曲だなと思いながら、どうやって歌いこなしていくか、どう見せていくかを考えているんです。それはMOAMETALも一緒だと思うんですけど。だから、BABYMETAL自体も変わり続けていると思います。特に3rdアルバムのタイミングで「BABYMETALはこういうグループだよね」というイメージをぶち壊して、音楽の幅をさらに広げられたと思いますね。

――当初からチャレンジングなユニットで、変化や挑戦をし続ける姿勢は変わっていないということですよね。MOAMETALさんから体制の変化の話が出ましたが、ライブの編成も変化してきました。メンバー2人+サポートの形が落ち着くまでは大変だったのでは?

SU:編成が変わってから最初のライブはアメリカのツアーで、その時に回っていたエリアはアメリカの田舎町が多くて、初めましてのファンも多かったんですよ。正直、BABYMETALは見た目のかわいさで応援されているところが大きいんじゃないか、支持されているのは音楽じゃなくてそういうことなのかなと思うこともあったんですが、2人でツアーを回っていく中で、お客さんの反応が「BABYMETALのライブはおもしろい」というふうに変わっていったんですよ。その時、自分達はパフォーマンスで人を感動させられるんだと実感することができました。初日の公演が終わった後は、ここからツアーを回っていけるのか、大丈夫なのかと心配していたんですけど、あの時に挑戦したからこそ新たな学びがあったんだと思います。

――10周年のベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』について訊かせてください。何から何まですごいことになっていますね。

MOA:10周年で10章で10形態で10曲のアルバム。しかもこのあとに武道館が10公演あって。10過ぎる! “充”実したアルバムです……って言いたくなっちゃった(笑)。

――『10 BABYMETAL YEARS』の中で特に思い入れのある楽曲はどの曲でしょうか?

MOA:「Road of Resistance」です。歌詞には道なき道を切り拓いていくというBABYMETALの芯の部分の気持ちが込められているので、この曲があってこその私達だと思っているし、振り付けや歌詞で戦っていくBABYMETALの姿が最も象徴されている一曲かなと思います。初披露がイギリスだったんですけど、その時の公演がいまだに忘れられなくて。ものすごく盛り上がって、コール&レスポンスのところでお客さんが一緒に歌ってくれたんです。私達の音楽で1つになれるんだと思えた瞬間で、すごく幸せでした。収録されている10曲の中だったら特に「Road~」は思い入れがあります。

SU:私は「メギツネ」かな。BABYMETALの曲の中で一番好きで、私にとって一番難しいのも「メギツネ」です。この曲をレコーディングしたときはまだまだ子供で、子供が一生懸命背伸びしている感じだったんです。それも当時のBABYMETALらしくてかわいいなと思うんですけど、ライブを重ねていく中で、この曲は速いけど滑らかで、激しいけど美しいといういろいろな要素がミックスされていると気付きました。曲調や振り付けが日本らしいから、これが好きという海外のかたも多いんじゃないかなと思います。それと、この曲は私にとってチューニング曲なんです。

――チューニングですか。

SU:BABYMETALの曲を歌う上で必要なことがバランス良く入っているので、自分の声の調子を確認するための曲なんです。今の自分はリズムが苦手だなとか、今日は音程が取れているとか、高音や低音が出ているかなとか。この曲を歌えばその時の全部の調子がわかるんですね。だからライブ前に必ず歌うようにしています。ある意味で基準となっている曲ですね。

初のNHK紅白歌合戦 「アウェーのフェスよりも緊張する」

――そして今年は年末のNHK紅白歌合戦への出場が決まりました。決まった時の気持ちはいかがでしたか?

SU:朝聞いて、そのまま記者発表に行って。周りはテレビで見る人ばかりですし。

MOA:連れられてきたけど、ここにいていいのかなみたいな(笑)。普段はライブ中心でテレビにあまり出ないBABYMETALだからこそ、おもしろいことができたらいいなと思っています。でも、ずっとライブでお客さんを相手にしてきたから、テレビでカメラの前で演奏するということに慣れてなくて。だからテレビのほうが緊張します。

SU:ある意味アウェーのフェスより緊張するよね。

――最後の質問になります。2021年には日本武道館での10公演開催が決まっています。意気込みをお聞かせください。

MOA:前回の武道館公演が初めてのことも多くて大変で、苦い思い出でもあったので、今回のライブで一回りも二回りも大きくなった私達を見せて、良いライブができたという達成感を得たいと思っています。

SU:私達はライブはたくさんして、いろいろな経験をしてきたつもりなんですけど、その中でも、初めてたくさんのことを同時に経験したのが武道館でした。全部が初めての経験だったので、あの2日間を通しての経験値は本当にすごかったと思います。頭の中がずっとフル回転で、楽しむ余裕なんてなかったんですよね。

MOA:今だったら経験値も上がってると思うので、武道館も楽しめる気がします。

SU:まだ決まってないことばかりなので、どうなるのか私達も楽しみなんです。

MOA:全貌はキツネ様のみぞ知るということで(笑)。こういう状況なので、無事に公演ができればと思っています。

SU:そうだね。みんなが元気で、無事、武道館に集まれますようにということだけですね。

BABYMETAL
2010年、SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALで結成。2014年3月には日本武道館ワンマンライブ2DAYSを行い女性アーティスト史上最年少記録を樹立。さらに1stアルバム「BABYMETAL」が全米ビルボード総合チャートにランクイン。2015年にはイギリスの音楽誌「KERRANG!」と「METAL HAMMER」が主催する2つのミュージックアワードで日本人アーティスト初となるアワードを受賞する。2016年2ndアルバム「METAL RESISTANCE」は全米ビルボードチャートTOP40にランクイン。また、4月にはイギリス・ウェンブリーアリーナにて日本人初となるワンマンライブを開催。2019年、新体制の幕開けとなった横浜アリーナでの単独公演直後に、世界最大規模の音楽フェス「Glastonbury Festival」に出演し大きな話題となる。10月に3rdアルバム「METAL GALAXY」を世界同時リリース。アメリカ・Billboard Top 200では13位、Rockアルバムチャートではアジアアーティストとして史上初となる1位を獲得。2020年2月からは、11カ国17公演に及ぶヨーロッパツアーを開催。12月23日に結成10周年ベストアルバム『10 BABYMETAL YEARS』をリリース。2021年には日本武道館で10公演を行う。
https://www.babymetal.com/jp/

「10 BABYMETAL YEARS」Special Web Site 
https://www.toysfactory.co.jp/artist/babymetal/10babymetalyears/

BEST ALBUM「10 BABYMETAL YEARS」2020.12.23 Available!!
「10 BABYMETAL YEARS」主要販売サイト
https://TF.lnk.to/10BABYMETALYEARSWE

【10 BABYMETAL BUDOKAN 特設ページ】
https://www.babymetal.com/10babymetalbudokan

『10 BABYMETAL YEARS』(10形態でリリース)
1.ド・キ・ド・キ☆モーニング 
2.ヘドバンギャー!!
3.イジメ、ダメ、ゼッタイ
4.メギツネ
5.ギミチョコ!!
6.Road of Resistance 
7.KARATE
8.THE ONE
9.Distortion (feat. Alissa White-Gluz) 
10.PA PA YA!! (feat. F.HERO)

author:

南波一海

1978年生まれの音楽ライター。レーベル「PENGUIN DISC」主宰。さまざまなメディアで執筆するほか、「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.1 アイドル三十六房編」や「JAPAN IDOL FILE」シリーズなど、コンピレーションCDも監修。 Twitter:@kazuminamba

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