Analog Assassin, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/analog-assassin/ Mon, 14 Nov 2022 11:21:10 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png Analog Assassin, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/analog-assassin/ 32 32 フライング・ロータスが挑んだ“アニメ音楽の新境地” Netflixオリジナルアニメ『YASUKE-ヤスケ-』サウンドメイクの全貌―後編― https://tokion.jp/2021/07/23/flying-lotus-love-of-japanese-anime-part2/ Fri, 23 Jul 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=45435 音楽界の鬼才&日本のアニメフリークであるフライング・ロータス。アニメへの想いとNetflix『YASUKE-ヤスケ-』の物語&サントラ制作秘話。後編は、アニメ好きの自身が理想とする新たなアニメ音楽について聞く。

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ロサンゼルスのビートシーン&ジャズコレクティブの中心的存在で、サンダーキャットルイス・コールハイエイタス・カイヨーテらが所属する最重要レーベルの1つ、「Brainfeeder」を主宰するフライング・ロータス。

最近では、共同プロデュースしたサンダーキャットの『It Is What It Is』が、第63回グラミー賞最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を受賞するなど、音楽シーンを牽引し続けている。

その自身が、Netflixのオリジナルアニメシリーズ『YASUKE-ヤスケ-』に、制作総指揮&音楽監督として参加。織田信長に仕えた実在のアフリカ人侍を主人公に物語を再構築したファンタジー時代劇である本作は、『うしおととら』『進撃の巨人』『呪術廻戦』などの人気シリーズを手掛けてきたMAPPAが制作を担当するという、アメリカと日本が真正面からコラボレーションした意欲作として話題を集めている。

音楽監督としては、主題歌から劇中スコアまで本作のサウンドスケープを構築。今までのアニメ音楽の常識をも覆すアプローチで、最終的にオリジナル・サウンドトラック『YASUKE(ヤスケ)』を完成させた。

前編に続き後編では、本作でチャレンジした独自のサウンドメイクの制作秘話や、アニメ好きの自身が理想とする新たなアニメ音楽についての想いを披露する。

アニメ音楽で『ブレードランナー』みたいなものは聞いたことないだろ?

——あなたは「アニメのスコアで『ブレードランナー』みたいなものは聴いたことがないだろ。俺は“よし、じゃあやらせてくれ。その脳内世界に入ってみる”って言ったんだ」と、このプロジェクトを引き受けたそうですね。

フライロー:ああ、そうだ。

——主題歌から劇中のスコアまで全面的に手掛けていますが、今回のサウンドメイクでのテーマやコンセプト、独自の試みなどあったなら教えてください。

フライロー:今回のプロジェクトを機に、シンセサイザーをじっくりと密に用いて仕事をしたかった。過去にも使ったことはあったけど、それを自分のプロジェクトの土台にすると考えたことはなかったんだ。だから今回、自分自身と限られた数のシンセサイザーだけ、という作り方にした。

——普段の作品制作とは違ったと思いますが、どのようなプロセスで制作を進めていったのでしょうか? 

フライロー:いつもとは違うことが多かった。純粋にあまり時間がなかった、という意味でも、通常よりはるかに強烈な経験だったね。自分の作品は長い時間を掛けて、自分が思った通りに仕上げるから。非常にストレスではあったけど、サムライ音楽やビートを作ることができたのは最高に楽しかったよ。

ただ、時間が限られていたおかげで、自分のプロダクションのワークフローがステップアップしたし、思い浮かんだアイデアにのめり込む速度も速くなった。

——あとで振り返って修正しようとしなかった、ということでしょうか。もちろん、あなたは緻密な作家ですし、大雑把だという意味ではないのですが。

フライロー:その通りで、あと知恵で細かく変えることはしないようにした。もしも「これだ!」というアイデアを掴んだら足踏みも躊躇もせず、それが何であれ「とにかく仕上げろ!」と。

『YASUKE -ヤスケ-』オープニングテーマ「Black Gold」Flying Lotus & Thundercat – Netflix

今までのアニメ音楽のセオリーを覆す挑戦

——しかも、一般的なアニメ音楽のセオリーとは別のアプローチで取り組んだとのことですが、どういうことでしょう?

フライロー:俺が理解している限り、アニメ音楽の作曲家達は、できあがった映像や動画に合わせて作業することはない。彼らはまず音楽を作り、アニメが制作される前に作品を提出しなければならないからね。

——ええ、そうなんですか?

フライロー:うん。とても奇妙な話だけどね。でも俺は、実際のアニメーションをまったく観ていない状態で、各シーンのスコアを書きたくはなかった。物語の本当のペースを把握するためにも、どんな風に画が動くか、そのシーンからどんなフィーリングを受けるかなど、事前に観ておく必要があったね。

——『YASUKE-ヤスケ-』には穏やかで美しい景観が登場するシーンもあれば、一転して凝った戦闘シーンも展開される。音楽制作に取りかかる前に、実際にそれらのフィーリングを知っておくことでスコアの精度も上げられるということですか?

フライロー:ああ。とはいえ、自分だけ先走り過ぎるのも良くないと思っていたから、事前に観るエピソードは1話だけにした。一旦そのシーンを見極め、映像の流れがどういう方向に向かうかを見せてもらったら、ある程度は納得ができたね。とにかく、音楽的には、その都度ヤスケがどんな精神状態にいるのかを想像しながら彼に寄り添っていった。

まぁ、MAPPAスタジオや関係者の面々は、そういう俺の仕事の進め方を汲んでくれたことで、いつもとは少しプロセスを変えなければならなかったけど。運が悪いことに、今回の音楽監督が俺だったということでね(笑)。

このアニメは自分の音楽を、普段とは違うものとして聴かせてくれた

——事前に映像を観て合わせ込んだケースと、自分の想像力に任せて作るケース、その両方の手法を使ったわけですね。

フライロー:そういうこと。音楽制作を始めた頃は、まだ全話アニメ化されていなくて、部分的には絵コンテの段階だったりもした。だから、制作するタイミングは難しかったけど、それでも楽しい作業だった。一旦シーンのヴァイブスを想像できれば、サウンドでいろいろと遊ぶこともできたから。中には、自分としては「これは上手くいくだろう」と作ったものが思い通りにならないこともあった。そんな時でも「別のことに役立つかも」と考えることができたね。

——映像と音楽を合わせる最終的な決定は、ラショーン監督とMAPPA側に委ねられていた、ということですね。

フライロー:そうだね。

——そのことで、最終的にできあがった作品を観て納得いかないこともあったりしましたか?

フライロー:いや、俺もプロジェクト全体に関わっていたからそれはない。ただ、いくつかの場面でラショーンの音楽の用い方にはかなり驚かされた。自分の予想を裏切られたよ。彼がいきなりひらめいて「この音楽はここに使うべきだ」なんて言ってきたことがあって、俺は「えっ、マジ?」と半信半疑なこともあった。ところが、実際は上手くいって「なるほど、自分は完全に間違っていたな!」と(苦笑)。

——普段の作品ではすべて自分のジャッジだと思うので、そういうやり取りは新鮮だったかもしれませんね。

フライロー:ある意味、そこが一緒に仕事するメリットだった。彼は俺に、自分の音楽を普段とは違うものとして聴かせてくれたからね。自分としては他のシーンのために作ったはずのものが、戦闘シーンで使われたりして「まさかこう使われるとは!」とかいうこともあったから(笑)。うん、あれはとても妙だったね。

——資料に「いくつか俺なりの秘策があった。J・ディラがよく冨田勲やヴァンゲリスからサンプリングしていたことを思い出したんだ」と記載がありました。改めて、その秘策は何だったのかを教えてください。

フライロー:まさに、J・ディラがやっていたその手法が秘策だったんだよ。

——つまり、今回使用したサウンドや音響が秘策だった、と。

フライロー:そういうこと。特定のシンセサイザーやリヴァーブなどが、今回の俺にとってのレシピだったんだろうね。というより「音のパレット」と言ったほうが近いかな。それが新しい試みだったし、このアルバムを象徴するものになった。

日本音楽のパロディは作りたくなかった

——別のインタビューでは「過去のアニメ作品の音楽と必ず比較されるはずだ」と答えていました。例えば、『アフロサムライ』『カウボーイビバップ』『サムライチャンプルー』は、アニメ音楽という点でも評価が高かったと思います。それらとは違う、『YASUKE(ヤスケ)』ならではの音楽的アイデンティティを確立するために、どんな工夫をしましたか?

フライロー:今名前の挙がった作品は、ある意味サンプリングが主体となっているはずだ。それらの多くは、オールドスクールなヒップホップの美学、サンプリングなどに強く比重を置いたものだった。だから俺が思ったのは「自分はその代わりにシンセサイザーでサントラを作ることにトライしたい」と。

——それが、独自性につながっていったという。

フライロー:ああ、それをやっている人をのことを俺自身は聞いたことがないからね。アニメ音楽では、誰もアナログシンセサイザーを使っていない。中には、シンセサイザーは使われている、と言う人間もいるだろうけど、俺のやり方とは違う。俺が用いているのは、1970〜1980年代に使用されていた、古くて非常にレアな機材だ。だから、今ではもう聴くことができなくなった音質がもたらされているんだ。

——ヴィンテージ機材の他に、今回、積極的に取り入れた楽器やサウンドはどのようなものがありますか?

フライロー:日本の打楽器類、例えば太鼓は使いたかった。やっぱり、日本のサウンド要素を作品に反映させたかったからね。だからといって、安易にやるようなことではないんだ。日本音楽のパロディは作りたくなかったし、君達(日本人)が耳にして、不快に思われるようなものは嫌だったから(笑)。

——海外の作品で、日本ぽいけどどこか違和感を覚えるものもあります(笑)。

フライロー:だろ。だから、日本的なフィーリングを伝えるために最適な方法は、パーカッションを通じてやることだと思った。俺の個性の1つはドラムの扱い方だと思うし、日本のパーカッションを使って自分独自のことをやれば、この作品ならではの音楽になるだろうと。とはいえ、とにかくいろんな実験を重ねた。まるで、飛び込んであれこれ探索するウサギの穴みたいにね。

『YASUKE -ヤスケ-』インタビュー&メイキング映像 – Netflix

昔なら「自信がない」と断ったが、今は「受けて立つ」という感じ

——今までの自分の音楽制作の経験や手法で、今回のサウンドメイクに活かされたことは何ですか?

フライロー:これまで自分が学んだ、音楽理論や録音技術といった何もかもがこの作品に活かされている。コード進行についてはとても多くを学んだし……、とにかく自分の持てる技をすべて使った感じだ。

——あなたはどのアルバムでも、自分の知識のすべてを反映させようとしますよね?

フライロー:ああ、自分の正直な部分を作品にもたらそうとするから。

——サウンドトラック『YASUKE(ヤスケ)』に取り組んだことで、今までにない新しい発見や収穫はありましたか?

フライロー:発見の1つは、アルバムを1枚作るのに2年間も掛ける必要はない、ということ。

——それはかなりの発見ですね(笑)。

フライロー:その気付きはデカかったよ(笑)。収穫といえば、コンポジションを書きスコアをつけることに対する自信がついたというか、そこに関して自分には不安があったんだと思う。不安とは違うかな?  

とにかく、例えば「映画『スター・ウォーズ』のサントラを作曲してほしい」と依頼されたら、以前の自分なら「自信がないから無理だ」と断っていただろう。規模の大きいフランチャイズなわけだから、プレッシャーも大きいし、うかつに変則的なものはやれないぞ、と。

でも、今の自分なら「受けて立つ」という感じ。むしろ、やってみたいと思う。どんな依頼に対しても何をやればいいのか、そこに対する理解がより深まった気がしているからさ。もう心得た、という感じ。だから、今後も前進し続けて、自分自身の限界に挑戦し続けたいよ。

フライング・ロータス
LA出身のプロデューサー、フライング・ロータスことスティーヴン・エリソン。モダンジャズの最重要サックスプレイヤー、ジョン・コルトレーンを大叔父に持つ。サンダーキャット、カマシ・ワシントン、テイラー・マクファーリン、ルイス・コールらを輩出し、最近ではハイエイタス・カイヨーテらが在籍する人気レーベル、「Brainfeeder」を主宰。これまでに『1983』『Los Angeles』『Cosmogramma』『Until The Quiet Comes』『You’re Dead!』『Flamagra』を発表。その他、自ら手掛けた映画『KUSO』や、渡辺信一郎監督の短編アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の音楽など、映像関連の仕事も多
数。
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『YASUKE(ヤスケ) 』(Warp Records / Beat Records)
オールド・シンセサイザーを駆使し、フライング・ロータスが理想とする新しいアニメ音楽を構築した本作。サンダーキャットが歌う「Black Gold」や主人公ヤスケをイントロデュースしデンゼル・カリーがラップで参加した「African Samurai」を筆頭に、コモンのバックも務めるジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパー、アニメクリエイターのブレンドン・スモール、ミゲル・アトウッド=ファーガソン、ニキ・ランダ、クリス・フィッシュマンらが参加

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ブラック・ミディがAIを駆使したMVを公開。監督のグスタフ・ホルテナスに聞く、アニメ × AIの未来 https://tokion.jp/2021/07/20/the-future-according-to-gustaf-holtenas/ Tue, 20 Jul 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=44999 UKインディロック界の最重要バンド、ブラック・ミディ。AIを導入した話題のMVを手掛けたスウェーデン人の映像監督が、制作秘話とアニメについて語る。

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UKインディロックの次世代を担うブラック・ミディ(black midi)が、待望の2ndアルバム『Cavalcade』をリリースした。コロナ禍によって海外アーティストの来日公演が軒並み中止になってきたが、このアルバムの発売に伴い9月にジャパンツアーも決定し、チケットの発売も開始された。

デビュー当時は、メンバーの19〜20歳という若さや、アデルキング・クルールらを輩出したイギリスの名門校ブリット・スクールの出身、人気レーベルの「Rough Trade Records」からの刺客ということでも話題をさらった彼ら。しかし、それら付加価値以上の音楽性とバンド力の高さに世界中から絶大な支持を獲得し続けている。

『Cavalcade』のリリースに合わせ、リードシングルに続き披露された楽曲が「Slow」だ。この曲の歌詞に関しては「よりよき世界を夢見て、若くて理想に燃える革命家がクーデターのあと、国立競技場で射殺されるという物語だ」とメンバーからの説明も届いたが、同時に公開されたMVも話題を呼んだ。

このMVを手掛けたのは、スウェーデン人のアニメーション・映像監督でイラストレーターや画家としても活躍する、グスタフ・ホルテナス

アニメと実写が混合するカオスな映像が印象的だが、話題となったのは“AI”を駆使して作られたということ。まさに今現在のギーク的要素を象徴するこの映像作品の真意を、グスタフ・ホルテナス本人に聞いてみた。

スウェーデンでも日本のアニメは日常の一部

ーースウェーデン人であるご自身が、日本のアニメに興味を持ったきっかけを教えてください。

グスタフ・ホルテナス(以下、グスタフ):僕の両親は2人とも建築家で、子どもの頃からイラストレーションやアニメーションに興味を持っていて、よく絵を描いていたんだ。僕は1990年代生まれだけど、子どもの頃はスウェーデンでもアニメ番組がたくさん放映されていて、国内の番組よりも日本のアニメ番組を観ていた。最初は『セーラームーン』や『ポケモン』で、そこから『AKIRA』や『攻殻機動隊』などの大作を観るようになった。『ワンピース』や『ドラゴンボール』などの名作も大好きだよ。

ーー個人的に衝撃を受けた作品はありますか?

グスタフ:アニメではないけど、もっとも影響を受けているのはゲームの『ファイナルファンタジーシリーズ』だね。初期の作品が一番好きかな。僕はマーヴェルやDCコミックスなどの、欧米の作品はあまり好きじゃなかったんだ。ある意味、リアルぽくてマッチョだからかな? 日本のアニメやゲームや漫画には、鮮やかで精巧な世界が作り上げられていることが多いから魅力を感じるんだ。

ーー日本人クリエイターで影響を受けた人はいますか?

グスタフ:特に押井守が好きで、『攻殻機動隊』の他にも、非常に美しい映画を作っているよね。彼の作品の情緒的なところに魅力を感じているよ。もちろん、大友克洋や宮崎駿にも影響を受けた。亡くなってしまったけれど、『パプリカ』『PERFECT BLUE』『千年女優』などを手掛けた、今敏も好きだね。とはいえ、アニメと漫画なら何でも好きというわけじゃない。中には、薄っぺらな作品もあるから。

ーー日本のアニメにはどのような特徴・魅力があると思いますか?

グスタフ:それは難しい質問だ。なぜなら、日本のアニメは僕達の日常の一部にもなっているからね。ただ、欧米より日本のアニメのほうが、想像力や独創性に富んでいると思う。制限がないというか、すごく突飛でクレイジーな設定や物語がある。それに絵の描き方がものすごく巧みで上手だ。丹精込めた職人の技という感じがするよ。

ーー日本のアニメーターやクリエイターで、一緒に仕事をしてみたい人は?

グスタフ:たくさんいるよ。僕は2年前に日本へ行く予定だったけど、パンデミックで行けなくなってしまった。実は、日本で仕事をしたくてリサーチしていたんだ。宮崎駿の新しい映画の制作チームの募集があったけど、条件に「日本語が話せる」というのがあったから断念した。でも、貯金はできているから必ず行くよ。いつか、さっき挙げたような巨匠達と仕事ができたら素晴らしいだろうね。

ーーご自身がプロのアニメーターになったきっかけを教えてください。

グスタフ:アニメーションに関しては、5〜6年前だったかな、あまり有名じゃないバンドにMVを作ってと言われたのが最初だった。そこから知名度があるアーティストからも依頼が来るようになった。

ーーこれまでに、ホーリーケイトNVジェニー・ウィルソンなど、さまざまなミュージシャンのMVを手掛けてきましたが、音楽関連の仕事が多い理由を教えてください。

グスタフ:僕が昔からバンドで音楽をやっていたからだ。子どもの頃はロックスターになるのが夢だったから(笑)。その夢は諦めちゃったけど、今は自分が本当に好きなアーティスト達と一緒に仕事をすることに刺激を感じている。だから、ブラック・ミディから連絡が来た時はすごくうれしかったよ。

ブラック・ミディと面識はなかったけど突然連絡があった

ーーどういう経緯で、「Slow」のMVを手掛けることになったのですか?

グスタフ:彼らのマネージメントから連絡があったんだ。スウェーデン人のアニメーターである僕を、どういう経由で知ったのかは今でもわからないけどね。

ーー知り合いというわけではなかったのですね。

グスタフ:全然。共通の知り合いがいるのかもしれないけど、その辺はよく知らない。もしくは、僕の過去の作品を見たことがあるのかもしれない。メールで聞いてみたけど、答えは返ってこなかったね。

ーーブラック・ミディの音楽は知っていましたか?

グスタフ:ああ。何年か前に彼らが話題になった時に聴いた。その時は、このバンドは将来とてもおもしろいバンドになるかもしれない、と思った記憶があるね。

black midi – Slow

多種多様な世界と作風、手描きから3Dまで駆使したMV

ーー「Slow」のMVは、どのようなアイデアのもと制作を進めていったのですか?

グスタフ:最初は曲を聴いて、どういうヴィジュアルが合うのか考えた。一方で、バンド側からフルアニメーションで、しかも2ヵ月以内に完成させてくれという指定があった。でも、不可能だと思った。作品の質が落ちてしまうからね。

ーーその条件をクリアするために、どんな秘策を用意したのでしょうか?

グスタフ:多種多様な世界と作風を組み合わせる、というアイデアを思いついた。今回の映像は第1〜第3まで3つの世界で構成されているけど、とてもカオス的でダイナミック、アップダウンも激しいけど、天国のようにゆっくりとした、非常に美しい場面もある。

手法もさまざまなものを用いた。最初の1分は手描きの世界にした。それがもっとも時間がかかったから、Blender(ブレンダー)というソフトウェアを使って3DCGも活用しようと思った。制作時間を短縮できるし、手描きとは違う美しさを表現できるからね。その他にも、第3の世界ではノイズがたくさん混じった奇妙なデジタル世界にした。その理由は、また別の奇妙なソフトウェアプログラムをたくさん使いたかったからなんだ。

ーーそれは、どのようなソフトウェアプログラムですか?

グスタフ:「スタイル・トランスファー(Style transfer)」という手法で、1つの画像をベースとして使って、テクスチャとして使いたい画像と組み合わせて反映させるんだ。中には、ゴッホの絵も使用した。不思議な雰囲気を醸し出すために、その手法をたくさん用いたよ。

ーー確かに、通常のアニメーションとは違う独特な違和感が表現されていますよね。

グスタフ:たとえば、僕がシンプルな立方体を描く。そして、どこからか見つけてきた美しい絵のアニメの背景を、その立方体に移行させる。すると、その立方体が建物のように見えたりするんだ。とにかく、この手法をたくさん用いた。時間を短縮できるのと、今回のMVのコンセプトの1つでもある「人工的な作風」を際立たせるためにね。

近い将来、作品のすべてをAIがやることも可能になりそう

ーー今回のMVで話題になっている“AI”も使われているんですよね?

グスタフ:うん、主に背景でね。でも、その多くは手描きで描いたものがベースになっている。背景の全体的な構成を手で描き、テクスチャなどはAIによってランダムに作成されたものを使ったんだ。

ーー「AI」がランダムに背景を作成するんですか?

グスタフ:そうだよ。僕が選んだ画像を元に、ランダムに作成されるんだ。第1世界の背景は、日本映画の絵が元になっている。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』という、1980年代に作られた超高予算のアニメ作品だ。でも、気付く人は少ないかもね。ディテールくらいしか痕跡が残っていないから。

ーー『王立宇宙軍 オネアミスの翼』と照らし合わせたらおもしろいかも!

グスタフ:途中で塔が登場するけど、あれはバベルの塔の画像と『王立宇宙軍 オネアミスの翼』で使われていたテクスチャを合わせて新しい絵に仕上げた。少しズルいやり方かな、と思ったけど(笑)。

ーー非常におもしろい手法ですね。 そもそも、どういう意図でAIを用いたのですか? やはり、時間が限られていたという理由が大きかったのでしょうか?

グスタフ:そうだね。自分ですべて描けばもっときれいな絵ができるけど、背景用の絵だし、観る人も気付かないだろうから、そこまで時間をかける価値があるのか? と疑問に思ったんだ。

ーーAIを用いたことで、今までにない新しい発見があったなら教えてください。

グスタフ:使い方に慣れてきた、というか感覚は深まったと思う。それ以外の新しい学びは、実はあまりなかったかな。

ーー今のところは、精度も曖昧といったところでしょうか?

グスタフ:そうなんだよ。最初は変なものばかりアウトプットされて、結局は手作業で修正を加える必要があったからね。そういう意味でも、まだ多少時間を取られるところがある。

細かい技術的な話になってしまうけど、第3の世界でグリッチみたいな未来っぽい要素がふわふわと浮いている場面がある。そこでは『新世紀エヴァンゲリオン』の1フレームを、そのシーンのすべてのフレームとして加工したんだ。800フレームあったけど、1つ1つのフレームを手作業でね。ただ、1フレームをアップロードするのに1時間もかかった。毎日パソコンの前に座って、なんとか1ヵ月で完成させたよ。

ーー今後、アニメや映像作品において「AI」がどんな影響をおよぼしていくと考えていますか?

グスタフ:今回のMVでは部分的にAIが生み出したものになっているけど、ファンタジーの世界の無限ループなど、一部の表現に関してはすべてAIが作ることも、近い将来には可能になると思う。精度を気にしなければ、すでに1秒で美しい背景を描くことはできるからね。

ブラック・ミディのファンは難解な内容を解読するのが好き

ーーヴィジュアルや技術面の話も興味深かったですが、物語についても説明していただけますか? 決してわかりやすい作品ではないと思うのですが。

グスタフ:確かに、謎めいていて複雑だからね。なので、YouTubeのコメントを読むのがとても楽しかったよ。内容を理解できた人もいたみたいだし、まったくわけがわからないという人もいた。

一応、僕の中でアイデアはあったけど、あまりわかりやすく表現したくはなかった。ブラック・ミディの音楽は非常に複雑だし、彼らのファンは難解な内容を解読するのが好きだからね。だからMVも難しくしたんだ。

ーー先ほどの話では、第1〜第3まで3つの世界で構成したとのことでしたが。

グスタフ:物語としては複数の世界があって、その世界はお互いの上に成り立っているという構造になっている。人間の世界に人間の女性がいて、彼女がAIを作っているのが1つ目の世界。そのAIの世界が2つ目の世界になっていて、AIはアニメの世界である3つ目の世界を作ったという流れ。

冒頭でアニメのキャラクターが何かをハンマーで玉砕するだろ? その玉砕したものは、実はまた別の世界で、人間界よりも上の世界なんだ。つまり、それらの世界はお互いに依存し合っているということ。そのヒエラルキーは循環的なものだから、1つが破壊されると連鎖反応が起きてしまう。

そして僕は、その世界に細かいレファレンスを詰め込んだ。「神の存在が…」などね。そのアイデアは、ブラック・ミディの実際の楽曲「Slow」で表現している内容を参考にしたよ(※歌詞については「よりよき世界を夢見て、若くて理想に燃える革命家がクーデターのあと、国立競技場で射殺されるという物語なんだ」と説明されている)。

とはいえ、全体的なコンセプトは結構シンプルだ。「世界の循環」を表現している、と考えてもらえれば良いと思うよ。

ブラック・ミディとは「不思議な縁」を感じる

ーー自分の作品を自分で分析してみて、どのような特徴や強みがあると考えていますか?

グスタフ:僕の作風は、ずば抜けてユニークというわけではないと思っている。最初の頃はファンタジーやSFが好きで、すごくクレイジーで独創的なものが良いと思っていた。ただ、最近はシンプルな美しさに魅力を感じているんだ。つまらないと感じる人もいるかもしれないけど、年齢を重ねたからかな。だって、僕が20代の頃はブラック・ミディのような音楽を作っていたんだからね(笑)。

ーーそれが今、ブラック・ミディのMVを作っているというのは素敵ですね!

グスタフ:そうだね、不思議な縁を感じるよ! ブラック・ミディのMVが、僕にとって初めてのイギリスのミュージシャンとの仕事になったから、これをきっかけに海外の人達ともっと仕事ができるようになればうれしいね。

今後は、自主制作の長編映画も計画している。コンセプトはほぼ決まったから、資金調達をして、制作会社に支援をお願いする予定だ。今までのような活動と並行して、新しいチャレンジを続けていきたいね。

グスタフ・ホルテナス
ストックホルムのマルメを拠点とする、スウェーデン人アーティスト。イラスト、アニメーション、ゲーム開発、絵画など、さまざまな手法を用いて作品を展開し、SXSWなどにも出展。Holyホーリー、ケイトNV、ジェニー・ウィルソン、アンナ・フォン・オスヴォルフ、エル・ペロ・デル・マール、ブルーズ、ミチャ、ショック、アレックス・コーテックスなど、数多くのミュージシャンのMVも手掛けてきた。
http://gustafholtenas.com/
Instagram:@gustafholtenas

『Cavalcade』(Rough Trade / Beat Records)
従来のジャムセッション型の作曲方法から離れ、ツアーメンバーであったサックス奏者のカイディ・アキンニビと、キーボード奏者のセス・エヴァンスをレコーディング・メンバーに加えて更なる高みを目指した本作。ロックやジャズはもちろん、ヒップホップ、エレクトロニック・ミュージック、クラシック、アンビエント、プログレ、エクスペリメンタルなど「ポスト・ジャンル」を極め得た1枚

■LIVE:black midi japan tour 2021
出演者:ブラック・ミディ
日時:
9月15日 @大阪 梅田 CLUB QUATTRO
9月16日 @愛知 名古屋 THE BOTTOM LINE
9月17日 @東京 渋谷 TSUTAYA O-EAST
INFO:BEATINK
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891

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フライング・ロータスが語る“日本のアニメ愛” Netflixオリジナルアニメ『YASUKE-ヤスケ-』に込めた情熱―前編― https://tokion.jp/2021/07/17/flying-lotus-love-of-japanese-anime-part1/ Sat, 17 Jul 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=45316 音楽界の鬼才&日本のアニメフリークであるフライング・ロータス。アニメへの想いとNetflix『YASUKE-ヤスケ-』の物語&サントラ制作秘話。前編は、本作で表現したかった作品の意図や狙いから、日本のアニメに対する深い愛について。

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ロサンゼルスのビートシーン&ジャズコレクティブの中心的存在で、サンダーキャットルイス・コールハイエイタス・カイヨーテらが所属する最重要レーベルの1つ、「Brainfeeder」を主宰するフライング・ロータス。

これまで発表された6枚のスタジオアルバムが世界的に高評価を得ているのはもちろん、最近では共同プロデュースしたサンダーキャットの『It Is What It Is』が、第63回グラミー賞最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を受賞するなど、音楽シーンを牽引し続けている。

その一方で、自他ともに認める熱狂的なアニメ&カルトカルチャーフリークとして知られている。これまでも、日本屈指のアニメ監督である渡辺信一郎が手掛けた『ブレードランナー ブラックアウト2022』や『キャロル&チューズデイ』のサウンドメイクに携わるなど、アニメーションの世界と密接にリンクしてきた。

その自身が、Netflixのオリジナルアニメシリーズ『YASUKE-ヤスケ-』に、制作総指揮&音楽監督とし参加。織田信長に仕えた実在のアフリカ人侍を主人公に物語を再構築したファンタジー時代劇である本作は、『うしおととら』『進撃の巨人』『呪術廻戦』などの人気シリーズを手掛けてきたMAPPAが制作を担当するという、アメリカと日本が真正面からコラボレーションした意欲作として話題を集めている。

このプロジェクトを通じて本格的にアニメ業界・作品に携わり、今までのアニメサウンドの常識をも覆すアプローチでオリジナルサウンドトラック『YASUKE』を完成させたフライング・ロータス。

今回の前編では、『YASUKE-ヤスケ-』で表現したかった作品の意図や狙い、主人公・ヤスケに込めたメッセージ、そして日本のアニメに対する深い愛について語り尽くす。

世界に向けて「ブラック・サムライ」という新しいヒーローをもたらしたかった

——そもそも『YASUKE-ヤスケ-』には、どのような経緯で参加することになったのですか?

フライング・ロータス(以下、フライロー):プロデューサーの友人から連絡をもらって、彼に「黒人の侍についてのプロジェクトに取り組む気はあるかい?」と尋ねられたんだ。こっちとしては「イエス! もちろん!」と。それで、Netflixのメンバーとも会って俺もゲーム(=この企画)に参加することになった。本当に、思いがけなかったね。

——ということは、ストーリーに興味を持たれて参加を決めたのでしょうか?

フライロー:部分的にはそうだよ。ただ、俺はずっとアニメが大好きで、アニメ業界で仕事をしたい、そしてNetflixのために何かやりたいという思いがあった。だから、このプロジェクトは完璧に思えたよ。

——夢が実現したようなものだったわけですね。

フライロー:そう、その通り。

——本作では制作総指揮という立場でも参加されましたが、作品をどのように描きたいと考えていたのでしょうか?

フライロー:この作品は、日本で初のアフリカ人侍の人生をたどっていくファンタジーストーリーで、侍としての人生を終えたあと、彼が経験したさまざまな冒険を描いている。その「ブラック・サムライ」像を通じて、世界に新しいヒーローをもたらしたかった。子ども達が鼓舞されるような誰かをね。

——ヤスケについて史実があまり多く残っていないとはいえ、あなた方が16世紀の日本にいたとされる人物に引き寄せられていったのは、非常に興味深いことですね。

フライロー:ああ。俺達にとっても、史実が多く残っていなかったことはとても興味深いことだった。だからこそ、作品にする価値もあると思ったし、彼について知られていることがあまりないからこそいろいろと創作することができたわけだからね。

——創作面で自由度が高かったから、形而上学的な未来と過去を行き来する物語になったわけですね。

フライロー:そう。事実に沿って物語を描くことができないから、じゃあそれをファンタジーでやろうと、この伝説上の人物を俺達なりに再構築したというわけ。

『YASUKE -ヤスケ-』日本版ティザー予告編 – Netflix

世の中のアニメには完璧なヒーローが多過ぎる

——主人公・ヤスケの人物像はどんな風に描きたかったのでしょうか?

フライロー:欠点をもつ人物として描きたかった。世の中には、完璧なヒーローが多過ぎるからね。言い方を変えれば、人間っぽさがないというか。絶対に間違いは犯さず、常に正しいことだけをやる。でも、この作品では「そんな奴でもしくじることがある」と言っている。人間には欠点があるし、時に問題やトラウマを抱えることだってある。俺達はヤスケを、そうしたことの多くに立ち向かわせたかったんだと思う。つまり“ハートのある侍物語”にしたかったわけだ。

——日本では、誇り高く、何者にも屈しない強い意志、自己犠牲的精神などを持った人を「サムライ」と表現することもあります。真の侍であるための条件として、何が必要だと考えますか?

フライロー:まさに君が今言った通りだと思う。ずばり、それらの資質だよ。無私無欲であることは、もっとも大きな要素の1つだね。自分よりも他のひとびとの役に立つことを考える、という“高貴さ”と“誉れ”だね。

——日本史の資料によれば、織田信長がヤスケを気に入った理由として、英語が少し話せた、話していると飽きなかった、力が強かった、芸が少しできた、とあります。改めて、織田信長はヤスケのどういう部分に引かれたと考えますか?

フライロー:好き嫌いは分かれるだろうけど、信長は先進的な考えの持ち主だった。しかも俺が理解している限り、かなりエキセントリックな人だったようだ。だから、信長はきっと、とても大きくてダークスキンなこの男をそばに置けば、みんなを震え上がらせることができる(そうは言いつつ実は良いやつで、ただ他の連中と少し違うだけなんだけどな)と考えていたと思う。おそらく俺が信長の立場でも、そんな人物を自分のそばに置きたくなっただろうな、ハハハハハッ!(笑)。

——確かに、織田信長はひとびとを驚かせたり喜ばせたりすることが大好きだったみたいですから。

フライロー:だろ。それに、信長にとってヤスケはステータスのシンボルでもあり、変わった意味での「貴重な宝」だったのかもしれない。みんなを驚かせることもできるし、時にはひとびとを怖がらせることもできる、自分で支配できる玩具みたいな存在でもあったかもね。でも、俺達の作品では、信長が単にヤスケの強さだけではなく、ヤスケの精神もリスペクトしていた、という部分も取り入れたかったんだ。

『YASUKE -ヤスケ-』信長の最期 – 弥助へ命を渡す – Netflix

アニメ業界ではブラックアメリカンはまだ少数派だ

——フライング・ロータスさんとヤスケに共通点はありますか?

フライロー:もちろん! ヤスケはアウトサイダーなわけだろ? だから、ブラックアメリカンである俺達が、アニメ業界でこの作品を制作しながら感じたことも、ある意味ではヤスケの立場や感情に近いと思っているよ。

——ということは、ブラックアメリカンはアニメ業界ではまだごく少数派である、と。

ロータス:ああ、非常に少ないよ。とても排他的な世界だからね。ヤスケが生きた世界も、まさにそれと同じだった。黒人男性である彼もまた、非常に排他的な世界で多くを学び、受け入れてもらうための試練をくぐる必要があったわけだ。俺達も同様で、日本のMAPPAスタジオに自ら作品を売り込み、彼らに参加してもらうようにしたんだから。

——本作『YASUKE-ヤスケ-』を通じて、視聴者に伝えたかったメッセージとは?

フライロー:その質問への答えは、監督のラショーン・トーマスが語るべきだと思う。でも、俺個人としては、今まで話してきたことも含めて、インスピレーションを掻き立てられて、もっと彼の冒険を観たいと思ってもらえるような、新しいヒーローとして世界にもたらしたかった。

アニメ界には、まだまだ黒人のヒーローがいないようなもの。だから、黒人のキッズ達がヤスケの真似やコスプレをするくらいのヒーローになってくれたら嬉しいね。

俺は子どもの頃から日本のアニメを山ほど観てきたんだぜ

——今回、念願のオリジナルアニメ作品に本格的に携わることができたわけですが、そもそも日本のアニメを好きになったきっかけは?

フライロー:子どもの頃、従兄弟が『AKIRA』や『Fist of the North Sta(=北斗の拳)』といった映画を観せてくれたんだ。そういった昨品の影響はデカかったね。

——あなたは『ドラゴンボール』の大ファンだったそうですね。

フライロー:そうだ! だから、俺はアニメをずっと観てきたんだ。古い作品から新しい作品まで山ほど観てきたし、アニメに対する愛情はとても深いよ。

——答えるのが難しいかもしれませんが、日本のアニメで、好きな作品、好きなクリエイターを教えてください。その理由は?

フライロー:(まいったな調の感嘆)ヒュ〜〜ッ! 渡辺信一郎は最高だね。俺のお気に入りには『カウボーイビバップ』は間違いなく入ってくるし……。確かに、答えるのがとても難しい質問だ。ハハハッ!

——すみません……。

フライロー:君だってそうなるのはわかっていただろ(笑)。

——外国人の視点から、日本のアニメにはどのような特徴・魅力がありますか?

フライロー:自分が子どもだった頃に観ることができたのは『バットマン』のアニメシリーズだった。アメリカのテレビアニメでベストな作品と言えば、ほぼあれだったからね。

でも、日本のアニメは、非常にドープな内容でプロダクションやヴィジュアルの質が高い。キャラクターの描き方も興味深いし、筋書きも大人向けで、アメリカの作品より映画的な感じがした。俺はそこに引きつけられたんだと思う。アメリカで日曜の朝に放映される子ども向けのアニメ番組は、とにかく複雑さが足りなかった。ただ単に、関連のフィギアや玩具を売るのが目的で作られていたから。

——日本のアニメはストーリーが複雑かつ、哲学的になることすらありますからね。

フライロー:そう、その通り。

日本のアニメ音楽はノーマル過ぎるし、作品の一部として機能していない

——日本のアニメ音楽についてはどう思いますか?

フライロー:んんん……、ほとんどのものが好きじゃないな。アッハッハッハッ!

——それは、なぜでしょうか?

フライロー:ダサくて安っぽいし、ポップ調なものが多い。まぁ、俺のスタイルじゃないよな。中には良いものもあるよ。音楽が頭にこびりついて、3回聴いてエピソードを観ると、その曲が頭から離れなくなる、とかね。

だけど、大抵のアニメ音楽は作品とマッチしていない。行き当たりばったりにポップソングを採用して、それを作品のイントロ的に使っているだけだ。つまり、その曲が作品の一部だという気がしないわけ。

——あなたの趣味からすると、ちょっと奇妙で不可思議過ぎるんでしょうね。

フライロー:ノー! いや、そうじゃない。そうじゃなくて、良い意味でヘンさが足りない。ノーマル過ぎるんだよ(笑)。

——あなたにとっては、あれでも普通過ぎる、と(笑)。

フライロー:そうなんだよね(苦笑)。

一緒に仕事してみたい日本のアニメクリエイターは……

——ちなみに、最近、特に気になっている日本のアニメ作品やクリエイターを教えください。

フライロー:良い質問だな。どうだろう……『Kids on the Slope(=坂道のアポロン)』かな。渡辺信一郎監督が何年か前に作った作品だけど、かなり地味で誰も話題にしないんだよ。

ところが、非常にインスピレーションを掻き立てられる作品だし、実際あれを観て俺もピアノを弾こうと強く鼓舞された。俺にピアノという楽器に目を向けさせたという意味で、自分にとって非常に大切な作品だ。もっと多くの人に観てもらえたらな、と思う。本当に美しい作品だから。

「More feat. Anderson .Paak」 フライング・ロータス

——渡辺監督とは、アンダーソン・パークをフィーチャーした「More」のMVや、短編アニメ『ブレードランナー ブラックアウト2022』『キャロル&チューズデイ』などで一緒に仕事をしています。他に日本のアニメイターやクリエイターで、一緒に仕事をしてみたい人は?

ロータス:『My Hero Academia(=僕のヒーローアカデミア)』や、『呪術廻戦』を作っている人達とは、ぜひ仕事したいね。

——そうなんですね!

ロータス:もちろん! 何度も言った通り、俺は熱烈なアニメファンなんだぜ。『One-Punch Man(=ワンパンマン)』のクリエイターともぜひ仕事してみたい。願わくは、今後もアニメの仕事を続けたいなと思っているよ。

フライング・ロータス
LA出身のプロデューサー、フライング・ロータスことスティーヴン・エリソン。モダンジャズの最重要サックスプレイヤー、ジョン・コルトレーンを大叔父に持つ。サンダーキャット、カマシ・ワシントン、テイラー・マクファーリン、ルイス・コールらを輩出し、最近ではハイエイタス・カイヨーテらが在籍する人気レーベル、「Brainfeeder」を主宰。これまでに『1983』『Los Angeles』『Cosmogramma』『Until The Quiet Comes』『You’re Dead!』『Flamagra』を発表。その他、自ら手掛けた映画『KUSO』や、渡辺信一郎監督の短編アニメーション『ブレードランナー ブラックアウト 2022』の音楽など、映像関連の仕事も多数。
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『YASUKE(ヤスケ) 』(Warp Records / Beat Records)
オールド・シンセサイザーを駆使し、フライング・ロータスが理想とする新しいアニメ音楽を構築した本作。サンダーキャットが歌う「Black Gold」や主人公ヤスケをイントロデュースしデンゼル・カリーがラップで参加した「African Samurai」を筆頭に、コモンのバックも務めるジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパー、アニメクリエイターのブレンドン・スモール、ミゲル・アトウッド=ファーガソン、ニキ・ランダ、クリス・フィッシュマンらが参加

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山田孝之と『ゾッキ』『デイアンドナイト』「MIRRORLIAR FILMS」を共同プロデュースする伊藤主税。持続可能な映画作りを実現し「文化」につなげる https://tokion.jp/2021/04/20/chikara-ito-mirrorliar-films/ Tue, 20 Apr 2021 01:00:59 +0000 https://tokion.jp/?p=29463 誰もが映画作りに夢中になれるよう、新しい構造や取り組みに挑戦するプロデューサーの伊藤主税。これまでの課題と解決策、その先にある映画の目指すべき未来とは?

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映画・映像プロデューサーとして、『ホテルコパン』『古都』『栞』『青の帰り道』『デイアンドナイト』をはじめ、竹中直人×山田孝之×齊藤工の3人が監督した現在公開中の映画『ゾッキ』を手掛けた伊藤主税。

伊藤主税ならではのユニークネスは作品作りだけにとどまらず、これからの映画作りを支えていく新たなアイデアや取り組みにもある。

山田孝之、阿部進之介とともに発足した、俳優向けのプラットフォーム「mirroRliar」や、一般クリエイターから著名監督まで巻き込んで制作する、36人の監督による短編オムニバスプロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」。そして、『ゾッキ』に見られる映画制作をきっかけとした地域活性化プロジェクトといった、今までにない独自の試みだ。プロデューサー伊藤主税は、日本の映画の未来をどうしていきたいのだろうか? 

教師よりも映画に教養を感じた子ども時代

ーー映画・映像プロデューサーは、さまざまな映画会社から依頼されて仕事をするケースが多いと思います。しかし、伊藤さんは自分で映画制作会社である「and pictures」を立ち上げました。独立せず仕事を請け負っているプロデューサーも多い中、なぜ自分でやろうと思ったのですか?

伊藤主税(以下、伊藤):もともと、子どもの頃は教師になりたいと思っていたんです。経済的に相反する家の間に生まれたことが関係しています。経済面含め、それぞれの家庭環境を見ていくうちに、双方の子ども達の教育がとても大切だと感じていました。お金があるない、仕事や職業のジャンルなどにとらわれず、人のことを思いやったりいたわったり、考えてあげたり、ということを教員になって伝えていきたいなと思っていました。それが小学3年生の頃で、僕の活動の原点になりました。

ーー実際、教師にならなかったわけですが、なぜ映画の世界へ進んだのですか?

伊藤: 18歳の時に不良だった友達と映画『バスケットボール・ダイアリーズ』を観ていたら、彼が「こういう不良になりたくないよね」と言ったんです。その言葉を聞いて“映画は、人にとって大切なことを伝えることができるんだ!”と思ったことがきっかけになりました。

ーーそれで映画プロデューサーを目指すことになったということですか?

伊藤:最初はお芝居を勉強していたのですが、本当にカメラが苦手で向いていないことが判明しまして(笑)。なので、22歳の時に自分で映画会社を作って、自分達で映画を作っていこうと決めました。

ーー自分で!? 映画制作は大勢のスタッフや大きな組織が必要ですよね。

伊藤:そうなんですが、映画業界に携わっていくうちに、業界や組織の在り方に疑問を感じるようになったんです。特に、監督、俳優、プロデューサー、宣伝の方など、スタッフ同士の距離間が遠いことだったり。多くの人に観てもらいたい、という同じ目標のもとで作品に携わっているのに、気を遣って言いたいことも言えない。そうじゃなく、1つのチームとして闘える体制を整えたかったんです。

映画業界に疑問を感じ、銀座のクラブで働く日々

ーーただ、多大な資金も必要ですよね?

伊藤:それまでアルバイトしかやってこなかったので、銀座の高級クラブのスタッフとして働きお金を貯めようと思いました。3年かかってしまいましたが、1本目の映画の制作費・会社設立費用を貯めることができました。

ーーすごい!! 本当に自分達だけでやろうと決めたんですね。ただ、映画業界で長年蓄積されてきた仕組みを変えていくのは難しいはず。どういう部分を見直す必要があると考えていたのですか?

伊藤:日本には才能を持ったクリエイターがまだまだたくさんいるのに、映画会社に気に入られないと撮れない状況もありますし、ビジネスの構造もオープンになっていません。当然、映画を作るための資金も必要ですが、現状ですと日本は興行収入をみんなで取り合っている状況に思えます。

なぜ、そこから増やせない・増やそうとしていないか、いつも考えています。まず、国内だけに目を向けているように思えます。例えば、韓国は自国以外のマーケットに向けて展開することで結果を残しています。もちろん、海外でヒットさせればいい、というシンプルな話ではありません。日本国内でも映画に興味を持つ人を増やす、映画館に足を運んでもらう施策はまだたくさんあると思っています。ですから、まずは興行収入を増やすために、日本の映画業界について勉強し、理解し合い、分け隔てなく意見を交換する必要があるんじゃないのかなと思っています。

一緒に闘えるチームを。山田孝之との出会い

ーー自分が思う活動ができるようになったののはいつ頃ですか?

伊藤:今の活動のきっかけになった作品が『デイアンドナイト』(企画・主演:阿部進之介/監督:藤井道人/プロデューサー:山田孝之/2019年公開)でした。監督、俳優、プロデューサーなどスタッフ間の距離が離れ過ぎていることと、予算組みやギャランティの在り方を変えたいという思いですね。

自分達の権利を守りつつ、評価の対価として継続的にお金が入ってくる仕組みを作りたかった。決まった予算から制作費やスタッフやキャストのギャランティなどを支払って終わりではなく、売り上げに対するロイヤリティを報酬として分配する。そうすることで、作品が積み上がっていけばいくほど、監督、俳優、クリエイターなどに行き渡り、時間も確保できる。『デイアンドナイト』はそれが実現できた1作目の作品です。

ーー山田孝之さんはプロデューサーとして参加したわけですが、どういう関わり方をされたのですか?

伊藤:山田孝之さんとは、資金集め、脚本開発、制作の予算組みまで、全部を一緒にやりました。情報交換、苦楽をともにして闘ってきた大切な仲間です。現場を一緒に守りながら、夜な夜な話し合い、1つ1つ実績を積み上げていこうと話し合っていました。

自己表現すれば自分も周囲も幸せになる

――独自の制作の仕方は、苦労も多いかと思いますが。

伊藤:確かに苦労は多いですが、僕らは自分達がこうしたほうがいいということを1つ1つ積み上げていきたいと思っています。最新作『ゾッキ』では企画参加者に理解していただき、配給収入の一部を、監督、俳優、クリエイターに分配します。

ーーそのことで、参加している人達も「自分ごと」になって、良い相乗効果が生まれそうですね。

伊藤:良い相乗効果につながることを祈っています。

ーー「自分ごと」でいえば、「だれでも映画を撮れる時代」を掲げる「MIRRORLIAR FILMS」もまさにそうですよね。

伊藤: 俳優、監督、一般枠を設定して、36本の作品を1年に4回上映していきます。そのうちの12枠は一般公募で選ぶのですが、420作品の応募がありました。監督した420人とそこにひもづく人達は、少なからず映画に興味があると言えるので裾野が広がることを期待しています。

ーー逆に、自己表現できる機会があるのだから、参加する側も自分の表現を知ってもらうためにまずエントリーしてみる。つまり「とりあえずやってみる」というきっかけになるのかなと。

伊藤:はい。それに加え、今の世の中って大きな流れに逆らって何かを発信すると、すぐに誹謗中傷され消されてしまう風潮がありますよね。自分の声が届きづらい時代。でも僕は、もっと自己表現、自分の感性を大切にしていいと思っています。作品を通して自己表現する人が増えれば、それを受け取る人達の心も豊かになると信じています。周りの人達も幸せになる、というメッセージも込めています。

日本にはまだ知られていない才能や、日本特有のオリジナリティがまだまだ埋もれています。できるだけ、チャンスを増やしたいんです。

ーー映画を作ったことのない応募者に対するバックアップもあるんですか?

伊藤:例えば、ソニーさんの協力でカメラとレンズのセットを提供していただいたり、クラウドファンディングのキャンプファイヤーさんと提携して資金集めに関する環境作りの支援もしています。また、2022年には映画祭の開催も予定していて、グランプリには賞金500万円が授与されます。

もちろん一般枠から選定された12作品には全国での劇場公開もバックアップしますし、興行収入・配信・DVD・テレビ販売などの売り上げの一部をロイヤリティとして支払います。

ーー著名人のラインナップも、安藤政信、紀里谷和明、志尊淳、柴咲コウ、藤井道人、水川あさみ、山下敦弘、池田エライザ、松居大悟、三吉彩花、三島有紀子、花田陵、ムロツヨシなど豪華ですが、人選はどのように行っているのですか?

伊藤:僕と山田孝之さんと阿部進之介さん、それぞれ総動員で声を掛けています。長編映画だとちゅうちょされる方もいますが、短編であれば撮ってみるか、と思ってくれる人も多くて。みなさん苦労しながらも、楽しんでくれていますね。

地方や地域に映画を根付かせ活性化をはかる

ーー「mirroRliar」や「MIRRORLIAR FILMS」を通じて新しい才能を発掘することで、映画業界の未来につながっていきます。その目的と同じく、映画作りを起点とした地方創生にも注力していますよね。

伊藤:きっかけは、地元である愛知県豊橋市に帰省したことでした。ひさしぶりに帰ったら、子どもの頃に行っていた駄菓子屋や八百屋が軒並み閉まっていて……。なぜそうなったのか知りたくて自分で取材したのですが、街に元気がないというより、人そのものに元気がなくなっていたことがわかったんです。もっと言えば、ひとびとがやる気になったり、ひとびとが1つになれるような企画がないということが大きな原因になっていました。

そこで思い出したのが、学生時代の文化祭でした。文化祭って、やる気がある生徒もそうじゃない生徒も、なんだかんだ参加しなきゃいけない空気がありましたよね(笑)。そしてちょっと楽しい。それと同じように、映画作りにも文化祭と同じ要素があるぞと。

ーー映画『ゾッキ』は愛知県蒲郡市を中心に、地方の自治体や住民の方々と一緒に制作したんですよね?

伊藤:地域で撮って終わりの映画が多い中、僕達は、一時的に協力してもらうのではなく、一緒に撮影をして撮影後も、その場に人が残ることが重要だと思いました。ですから、『ゾッキ』でも官民一体で200名ほどの実行委員会を地域の方々と協力して組成しました。実行委員会の方々が地域に残り、映画制作のノウハウが定着していれば、また映画を制作する時にすぐに企画がスタートできるし、僕達以外の映画会社も声を掛けやすくなるはずです。

ーー全国各地に映画制作部や宣伝部がある状態ですね。

伊藤:そうですね。一緒に映画を制作した人達がいればそのノウハウを生かし、多くの地域創生の企画も考えられます。例えば、地域の行事に映画を絡めたり、グッズ製作を企画すれば商品も販売できる。フィルムも残るので、何かイベントがあれば上映会をすることも可能です。そういうモデルケースができると、近隣地域にもうわさが広がるはずです。そこからまた地域連携ができたり、さらには隣の県もまねしてみたり、映画が街をつなげていく。そうすれば、映画業界も地域も両方が活性化するのではないかと考えています。

ーー実際の状況を見てみたいですね。

伊藤:『ゾッキ』の後に『裏ゾッキ』というドキュメンタリー作品を公開(5月より全国順次公開)します。その中で、映画の関係者と地域の人達がどのように協力していったのか、映画ができる経過と結果を同時に観てもらえると思います。

日本の映画作りが、いずれ「文化」になるように

ーーあらためて地域と協力する意味とは?

伊藤:映画は最高の総合芸術だと思っていますし、多角的なビジネスができる貴重な産業だと思っています。映画作りやその作品が、撮影地や近隣地域に根付き、映画と触れ合った方々の心が少しでも豊かになれば嬉しいですし、映画に興味を持ち映画館に足を運ぶ人が増えることを祈っています。

ーー地方で撮影すると見えてくることがありますか?

伊藤:そうですね。日本は東京一極化していると思います。地方には映画館がなかったり、本当はもっと素晴らしい多種多様な作品があるのに一部の作品しか届いていない。さまざまな情報の格差があるように感じます。そのほか伝統工芸の後継者問題や少子化問題などにより、長くその地に根付いた営みなどが消えゆくところも見てきました。それを目の当たりにして日本が日本じゃなくなるかもしれない、という怖さを感じています。ですから、僕らは映画という方法を使って、地域の方が気付かないすてきなところ、地産地消、そして人をコラボレーションさせ、地域活性化に結びつけていきたいです。その積み重ねが小さな文化となり、地域で生きる方々にとって大切なレガシーになったらいいなと思っています。

ーー今後、活動を通じてどういうことを知ってもらったり、何を得たりしてもらいたいと考えていますか?

伊藤:映画や映像文化は人の心を豊かにするものだと思っています。ですから、まずは機会があれば映画制作に参加してみたり、自分で作ってみたりしてほしいです。参加してもらうまで情報が届かなかったり、自分で作ってみたりするのはハードルが高く思えるかもしれませんが、難しく考えずチャレンジしてほしいなと思っています。

ーー何よりも「体験」することが大切ですよね?

伊藤:「体験」はとても大切だと思います。映画制作を通じて行う地方創生でおもしろいのは、まずほとんどの人が初めて台本を読むということ。台本を読むと、なぜこのキャラクターはこう思ったのか? どういう人物像なのか? なぜ好きになったのか、嫌いになったのか? なぜ殺したのか・殺されたのか? 何が正しくて何が間違いなの? という会話が生まれていくんです。映画作りに関わることで、人のことを考えたり、思いやったり、理解することのきっかけの1つになれば幸いです。

ーーまさに、映画制作が人の成長や気付きのきっかけになるということですね。

伊藤:もちろん、映画制作は楽しいことだけじゃなく大変なことも多いです。でも1つの物作りを通じて誰が偉い、誰が偉くないとか関係なく、チームワークやチームにとっての困難を乗り越えることなどを特に体験してほしいです。それはきっと、その人がこれから生きていく上での支えになるはずですし、自分にとっての宝物となるはずです。あと子どもにも参加してもらいたい。映画エンターテインメントの世界には、おもしろい人がたくさんいます。子どもの頃から1人でも多く、おもしろい人に会ってみてほしいです。

伊藤主税
1978年生まれ、愛知県豊橋市出身。俳優活動を経て、映画プロデューサーとして活動。映画で文化を生みたいと、映画製作会社「and pictures」を設立。短編オムニバス企画「Short Trial Project」シリーズや長編映画を制作し、国内外映画祭で受賞歴多数。プロデュース作品に『ホテルコパン』『古都』『栞』『デイアンドナイト』など。山田孝之、阿部進之介とともに発足した、俳優に学びとチャンスを提供するサービス「mirroRliar」にて一般クリエイターや監督を巻き込み、映画制作の魅力を伝えるプロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」を始動。映画制作をきっかけとした地域活性化プロジェクトの推進などを目指す。教育にも力を入れており、2020年10月よりオンライン・アクターズ・スクール「ACT芸能進学校(A芸)」を開校。
https://andpictures.jp/

映画『ゾッキ』
原作:大橋裕之『ゾッキ』『ゾッキB』(カンゼン刊)
監督:竹中直人、山田孝之、齊藤工 
脚本:倉持裕 
音楽監督:Chara 
出演:吉岡里帆、鈴木福、満島真之介、柳ゆり菜、南沙良、安藤政信、ピエール瀧、森優作、九条ジョー(コウテイ)、木竜麻生、倖田來未、竹原ピストル、潤浩、松井玲奈、渡辺佑太朗 、石坂浩二(特別出演)、松田龍平、國村隼ほか 
製作:映画『ゾッキ』製作委員会 
制作:and pictures、ポリゴンマジック 
配給:イオンエンターテイメント
https://zokki.jp
Twitter:@zokki_movie 
Instaglam:@zokki_movie
Facebook:https://www.facebook.com/zokki.movie

Photography Daisaku Urata 

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