坂本哲哉, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/tetsuya-sakamoto/ Fri, 22 Dec 2023 09:15:00 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 坂本哲哉, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/tetsuya-sakamoto/ 32 32 幽玄の歌・音響を紡ぐアーティスト・ツジコノリコ、その現在地と不変の想い https://tokion.jp/2023/12/22/interview-noriko-tujiko/ Fri, 22 Dec 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=220205 2000年のデビュー以来、電子音響と歌により独自のサウンドスケープを紡ぎ続ける在仏のアーティスト、ツジコノリコ。今年初めに〈Editions Mego〉より約3年9ヵ月ぶりとなるアルバム『Crépuscule I & II』をリリースし、来年1月に5年ぶりの日本ツアーを行う彼女の現在地とは。今春に実施・収録したインタビューをお届けする。

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幽玄の歌・音響を紡ぐアーティスト・ツジコノリコ、その現在地と不変の想い

ツジコノリコは常に新しい扉を開き続けている――もしかするとこの言葉は大言壮語のように思われるかもしれない。だが、彼女のソロ作としてはおよそ3年9ヵ月ぶりの新作『Crépuscule I & II』を繰り返し聴くたびに、その思いは強くなっていくばかりだ。本作はエレクトロニクスを通して人間の揺れ動く心を表現したインスト主体の前作『Kuro』の延長線上にあることは確かだが、彼女はそこにヴォーカル/ヴォイス、サックス、ユーフォニアムの呼吸を加えることで、穏やかでシネマティックなサウンドスケープを描いていく。そして、幽玄的なアンビエント・ミュージックということもできるその自由連想のような音の連続体には、これまで以上に人間の温もりを感じることができるのだ。2001年の『少女都市』から22年、彼女はいったいどんな思いで音楽を作り続けているのだろうか。フランスにいる彼女にZOOMで話を訊くことができた。

インスト主体の前作を振り返り思うことと、歌い手としての原点

――『Crépuscule I & II』は〈Editions Mego〉からのリリースです。同レーベルからのリリースは『帰って来たゴースト』以来となりますが、今作の制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか。

レコーディングは2019年の最後の方に行って、1週間くらいで録音したと思います。それで2020年の間に編集をして、21年の初めにはだいたい完成していたんですよね。すぐミックスしようかなと思っていたんですが間が空いてしまって、夏前くらいにピーター(・レーバーグ。エディションズ・メゴの創設者)に送ったんです。でもピーターが突然亡くなってしまって……。

――では、今作の話をする前に1つお伺いしたいのですが、今作はソロ作という意味では、ジョージ・コヤマさんとの共同監督映画のサウンドトラック『Kuro』(2019年)以来です。『Kuro』はインスト主体のアルバムで、それまではこういったインスト主体の作品はなかったと思うのですが、今改めて『Kuro』を振り返ってみて作って何が良かったと思いますか。

Kuro – A film by Joji Koyama and Tujiko Noriko

それまでインスト主体の作品をほとんど作ったことがないということが自分では驚きでした。その時『Kuro』という映画を作っていたんですが、共同監督のジョージ・コヤマくんが“音楽も作ってみたら”と言ってくれたんです。わたしは全部自分で書いて、作って、編集して、さらに音楽までやってしまったら厚かましいにもほどがあると思っていたんですけど、優しく言ってくれたので、じゃあ作ろうとなったんです。いざ作ろうとなった時には映画にはナレーションがたくさんあって、歌の気分では全くありませんでした。そして、音楽のためにストーリーを書く必要もなかったので、映画のストーリーにのればいいやという感じで、気楽に、自由に作れましたね。しかも歌わなくてよかったのでさらに気楽でした。

――ちなみに映画音楽でおもしろいなと思う作品やアーティストはいらっしゃいますか。

ミカ・レヴィ(Mica Levi)は時代が一緒というのもあっておもしろいなと感じますね。

――わたしはツジコさんの音楽の魅力の1つは歌にあると思っていたので、インスト主体になったのは意外にも感じましたが、今のツジコさんを歌い手として深化させてきたのは、自分の中のどういう意識だと思いますか。

いつも自分の中にストーリー的なものであったりイメージだったりがあって、それを自分で歌詞にして歌うというスタンスなんです。わたしは小話みたいなちっちゃい世界が好きで、それを表現する時に歌ったり音楽をつけたりっていうことが良いなと思うんですよね。だから特にメッセージがあるわけでもないんですよ。映画を作るにしても偶然ではなくて、やっぱりそういう物語的なものが好きだからなんだと思います。

――歌が良いなと思ったきっかけはなんだったんですか。

小さい頃に家に聞くことも録音することもできるカセットデッキがあったんです。それがまず驚きで、自分で声とか歌だとかを録音して姉と遊んでたりして、それが楽しかったんですよね。そしたら真ん中の姉が“歌上手いね”って褒めてくれたんですよ。それがすごく印象に残っていて。それで歌うのって楽しいことなんだと思うようになりました。

「希望」のイメージから紡がれていった最新作『Crépuscule I & II』

『Crépuscule I & II』
『Crépuscule I & II』

――さて、それでは今作『Crépuscule I & II』について伺いたいのですが、作るにあたって何か青写真などはあったのでしょうか。

『Surge』っていう映画の音楽(22年に『SURGE ORIGINAL SOUNDTRACK』として発表)を作っていたんですけど、その映画が相当鬱屈としたものだったんですね。だからそれに合わせた音楽を作らなきゃいけなかったんですけど、作っているうちにだんだん楽しくなってきちゃって。そうしたらもうちょっとキラキラした明るい感じの音を弾き始めちゃうんですよ、もちろん映画で使えないのはわかっているんですけど。それで、綺麗で明るい感じの……何か希望という言葉が浮かぶような方向をイメージしていましたね。

――曲はどのようにして書いていったのでしょうか。

編集はかなりしていますけど、オリジンは即興が多いと思います。即興は、聴く人がどう感じるかは置いておいても、やるのが楽しいんですよね。わたしは恥ずかしがり屋なんですけど、即興って自分が自由になれる瞬間なんですよ。自分なりに綺麗だと思うものを突き詰めながら自由になっていくというか。そしてその綺麗な瞬間が聴く人にも伝わるように、自分で何度も聴き直しながら編集していきます。音楽ってコミュニケーションの1つのツールだと思っているので、さまざまな人達とシェアできるようなユニヴァーサルな場所を見つけていくというようなことは、無意識にしていると思いますね。

――本作にはどこかアンビエント的に聴こえる瞬間もあります。

作っている時に映画音楽もやっていて、イメージに寄り添うような音楽を作るという姿勢があったので、それがアンビエントっぽく聴こえるのかもしれないですね。アンビエント・ミュージックは好きですけど、あまりストラクチャーを考えて作った音楽ではないです。

――ちなみに本作は2枚組になっていますが、これは意図的なものなんですか。

本当は3枚分あったんですよ。でも仲の良いジョージ・コヤマくんに聴かせてみたら、“ちょっとダブってるところもあるし、長いんじゃないか”と言われて(笑)。わたしは割と何でも足しながら作る傾向があるので、それをジョージくんが抑えてくれたんです。

――ジョージ・コヤマさんは「Roaming Over Land, Sea and Air」では歌詞を書かれていますが、この曲はどういうアイデアをもとに作ったのでしょう。

実は作った時のことをあまり覚えていないのですが、この曲ではわたしの1枚目のアルバム『少女都市』の1曲目(「Endless End」)のメロディをちょっとだけ使ってみたんですよ。そしてこの曲はディスク1の「Opening Night」という曲と兄弟のような曲だったりします。

デビューから変わらない想いと、ピーター・レーバーグから受け取ったもの

――わたしは『少女都市』と今作はつながっていないようで実は地続きになっているようにも感じました。

そうかもしれないですね。使っている機材とかスタジオとかは違いますけど、自分の好きな音ってきっとあるんだなと思います。電子音楽をやっているとはいえ、キンキンした音よりも肌に馴染むようなオーガニックな音が好きなのかもしれないですね。なんというか、音楽はいつもどこかにあって、それを見つけて形にするというイメージなのかもしれないです。

――デビューしてから20年以上経つわけですが、音楽家として自分が変化したと思うことはありますか。

ずっとやっている感じがあまりしないんですよね、常に赤ちゃんの気分というか。成長を先送りにしているつもりはないんですけど、まだまだいろいろ出来るなと思っています。アイデアは本当に尽きないですし、歌ものも出す気満々でいますよ。でも、自分の生活も大切にしたいですよね。

――最後に1つだけ。かつてピーター・レーバーグに送ったデモがカセットテープだったという思い出から、本作のカセットテープでのリリースを決めたと伺っています。彼との作業、あるいは彼の音楽からツジコさんはどのような財産を受け取り、どう今に生かしていると思いますか。

彼はたくさん話したりするタイプではなかったんですよ。だから何かを言われたというわけではないですけど、自由さというかそのままでいていいよという温かさを彼からは感じましたね。そういう自分のままでいていいんだよという温かさ、姿勢がさまざまなミュージシャンの励みになったと思いますし、聴き手の方にも伝わったんじゃないかなと思います。そして、自由にはさせてくれるけど、決して甘えたことはできないなという気にさせてくれましたね。あと、わたしは彼の音楽にはちょっぴりユーモアがあると思うんです。そういう枠にはまりきらないユーモアのある音楽って大切だなと気づかされました。綺麗なだけだとつまらないというか……彼は人間的にパンクだったので。

■Tujiko Noriko Japan Tour 2024

Tujiko Noriko Japan Tour 2024

〈京都公演〉
日時:2024年1月9日(火)
会場:外 soto
会場HP:https://soto-kyoto.jp

〈東京公演〉
日時:2024年1月11日(木)
会場:WWW
会場HP:https://www-shibuya.jp/schedule/017371.php
※東京公演ではベルリンの映像作家Joji KoyamaとのライブA/Vを披露

〈福岡公演〉
日時:2024年1月13日(土)
会場:Artist Cafe
会場HP:https://artistcafe.jp

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ミニマルとガムラン、ジャズ、そして「ネオ東京」 Akusmi=パスカル・ビドーが奏でるエクレクティックな音世界の背景にあるもの https://tokion.jp/2023/03/09/interview-akusmi/ Thu, 09 Mar 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=172918 仏生まれ・在ロンドンの作曲家/マルチ奏者、Akusmiことパスカル・ビドー。昨年リリースの1stアルバム『Fleeting Future』で多彩な要素が交錯する音世界を展開したAkusumiに、その背景にあるものを尋ねた。

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『Fleeting Future』。日本語に訳すと、儚い未来、あるいは、束の間の未来、という意味になる。フランス生まれで、現在はロンドンを拠点にしているという作曲家/マルチ奏者のAkusmiことパスカル・ビドー(Pascal Bideau)は、自身のデビュー作となる本作に、そんな意味深で悲観的とも受け止めることのできる名をつけた。だが、本作から鳴り響いてくるサウンドは、そんなタイトルとは裏腹に、極めてオプティミスティック。彼は、インドネシアを訪れた際に没頭したというガムランのスレンドロ音階をふんだんに用い、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーのミニマリズム、ジョン・ハッセルの第四世界というコンセプト、レイヴ・ミュージックの快楽性、モータウン譲りのビート、あるいは『AKIRA』や日本の都市風景を巧みにコラージュしながら、壮大で有機的なエレクトロアコースティック・サウンドを、ポップに響かせているのだ。そんなエクレクティックな音世界を自由連想のように構築するAkusmiのサウンドの背景にはいったい何があるのだろうか。そして、なぜ『Fleeting Future』というタイトルをつけたのだろうか。メール・インタヴューを試みた。

ガムランとの出会いが、世界中の音楽から受けた影響をミックスするための道を開いてくれた

——昨年『Fleeting Future』をリリースされましたが、スティーヴ・ライヒのミニマリズム、レイヴ・ミュージックの残滓、ジャズの混沌としたハイブリッド性、ジョン・ハッセルの第四世界の概念、あるいはモータウンなど、さまざまな音楽から影響を受けているように感じました。しかし、あなたはそれらの音楽のディシプリンに引きずられることなく、それらとは異なる音像を作り上げているように見えます。こういう言い方が正しいかどうかわかりませんが、あなたの音楽は、“聴くたびに違う風景を見せてくれる音楽”のようです。『Fleeting Future』を作り始めるまで、どんな音楽を聴き、どんな挑戦をし、どんな経験をしてきたのでしょうか。

パスカル・ビドー(以下、パスカル):記憶している限り、私はこれまで常に世界中の音楽に触れてきました。私の両親は、今も昔もとにかく旅行が大好きな人達で、いつも旅先から音楽や楽器を持ち帰ってきたんです。だからこそ、ペルーのフルート、チベットのホルン、中近東のリズムなど、西洋音楽という箱の外から聞こえてくる多様な音にいつも囲まれてきました。とはいえ、私は西洋音楽、特に既成概念の枠を越えて、ルールと戯れるような西洋音楽に対する愛着を持ちながら大人になっていったのも事実です。ジャズやミニマリズム、そして電子実験音楽の中には、そういった要素が確実に存在していますね。

私が作曲を始めてからずっとやりたかったのは、これらの全く異なる影響を1つにミックスできるような方法、もしくはジャンルを見つけることでした。そして、何年もの間、模索と失敗を繰り返してきたんです……。バリ島旅行の帰りにゴングのセットを買って初めて、その道が見つかったかもしれないと思ったんです。それが『Fleeting Future』に取り掛かったきっかけです。

——この『Fleeting Future』では、ガムラン・スレンドロの音階が印象的に使われています。インドネシアを訪れた際、ガムランやゴングの伝統音楽にどっぷりと浸かったと聞いています。このような音楽のどこに魅力を感じ、また伝統的なガムランや鉦の音楽があなたの音楽に何をもたらしたのでしょうか?

パスカル:バリのガムランで非常に興味深いのは、その音楽が担う社会的な役割の大きさです。それらは全てバンジャールという村落内の小さなコミュニティーグループに由来しているのです。どの村落にも小さな「広場」があり、そこに譜面台があって、ガムラン・アンサンブルの演奏が行われます。ガムランは、稲作など他の重要な活動と同様に、地域社会の生活において重要な役割を担っています。村の人々によって演奏されるガムランは、ユニゾンとパートの共有が重視されます。稲作農家が生産効率を最大化するために間断灌水という手法(田に水を満たした状態と水を抜いて干した状態とを交互に繰り返すこと)を発展させたように、ガムラン音楽家は最大限の表現をするために連動するメロディーをうまくまとめあげていくのです。ガムラン音楽の中には、加速し始めると、ペアになった演奏者との協力なしには物理的に演奏が不可能なほどの速さになる曲もあります。そして、これこそがガムランの真の魔法と言えます。つまり、人と人との協力が、ある高みへの到達をもたらしてくれるということです。その音は個人の個性を超え、不可能を可能にするのです。

それぞれの音が連動し、協調し合うようなパートを書く自分の作曲手法においても、この点から大きな影響を受けています。2つ以上のパートを重ねることで、どの楽器からも出ていない音なのに、聴き手にははっきりと聞こえる新たなパート、別の音楽フレーズが生まれることがあります。それは、全体がもたらす結果なのです。

『Fleeting Future』に参加した演奏家達、『AKIRA』から受けた影響

Aksumi『Fleeting Future』
Aksumi『Fleeting Future』

——2017年から2019年にかけて『Fleeting Future』を制作されたそうですね。このアルバムはどのような制作過程だったのでしょうか?また、このアルバムにはルース・ヴェルテン、ダニエル・ブラント、フローリアン・ユンカーといった演奏家が参加していますが、彼等はこの作品に何をもたらしてくれたのでしょうか?

パスカル:アルバム全体の作曲は、ロンドンのカムデンにある私のスタジオで行い、そこでほとんどの楽器を自分で録音しました。しかし、サックスのパートの中で、はっきりと聞こえるクリーンな音色が欲しい部分があったので、偉大なアーティストであるはルース・ヴェルテンにお願いして、この冒険に加わってもらいました。さらに、フローリアン・ユンカーには、トロンボーンで参加してもらうよう依頼をしました。私自身、トロンボーンは演奏しないのですが、フローリアンが見事に表現する音色のパレットを組み込みたかったのです。ダニエル・ブラントとは、何年も前からコラボレーションをしている仲で、彼のリズムや音に対するアプローチにはとにかく感心させられるばかりです。彼のドラムのパートはすべてベルリンで録音しました。

——ハイテンションな「Neo Tokyo」は、アルバムのハイライトの1つだと思いました。「Neo Tokyo」は、大友克洋監督の『AKIRA』にインスパイアされたと聞いています。『AKIRA』のどこに惹かれ、そのインスピレーションを音楽でどう表現しようとしたのでしょうか?また、映画『AKIRA』では、日本の音楽集団、芸能山城組の音楽が印象的に使われています。彼等の音楽について、どのように思われますか?

Akusmi — Neo Tokyo

パスカル:13歳の時だったでしょうか、フランスで公開された『AKIRA』を初めて観て、衝撃を受けて以来、ずっと心に残っているんです。オープニングでネオ東京が映し出されるロングショットと、芸能山城組の素晴らしいポリリズムを目の当たりにした時、首元の毛が逆立つのを感じたことを今も覚えています。大橋力氏が分子生物学者であることを知ったのはずっと後になってからですが、そのことは、自分の中で完璧に腑に落ちたんです。音楽的、リズム的なモチーフやアイデアが、異なるペースで相互に作用し、互いに弾き合う。それこそ、私が『Fleeting Future』でやろうとしたことで、「Neo Tokyo」はその典型的な例です。この曲は、起点も終点もない、言ってしまえば慌ただしい作品です。さまざまな要素がてんでんばらばらに響きつつ、その小さなオスティナート(一定の音型を奏で続けること)の組み合わせによってグルーヴが生まれ、全体が成り立っています。この曲は、レーザー光線が四方に広がり、記念碑のようにそびえる巨大な高層ビルが明滅する『AKIRA』の近未来的な東京を私に連想させたんです。

——最後の曲「Yurikamome」は、日本の風景や都市をドライブしている人のYouTube動画からインスピレーションを得たと聞きました。「Yurikamome」は、曲が進むにつれてさまざまな音が重なっていく荘厳な展開が特徴的です。日本の風景や都市のどの部分からインスピレーションを受け、なぜこのような荘厳な展開の曲を作ろうと思ったのでしょうか?

Akusmi — Yurikamome

パスカル:「Yurikamome」はアルバムの最後の曲であり、作曲も最後に行いました。エンディングでもあり、同時に新たな始まりでもある曲です。この曲に関しては、新橋からお台場、豊洲まで、東京湾やレインボーブリッジ、お台場の島々を通過するモノレール「ゆりかもめ」のYouTube動画に、直接的に着想を得ています。まずこの曲で最初に聴こえるピアノのモチーフを思いつき、映像の中の風景の変化を見ながらそれを展開させ、レイヤーを足していきました。この曲が荘厳に聴こえるとしたら、それは私が東京に対して抱いているイメージだからです。

根底に息づくグルーヴと即興性、「Fleeting Future」という言葉に込めた想い

——この作品で印象的だったのは、ダンスを誘発するような要素があることです。「Divine Moments of Truth」はその代表格だと思います(「Longing for Tomorrow」や「Neo Tokyo」もそうです)。あなたにとってダンスとは何ですか?

Akusmi — Divine Moments of Truth

パスカル:まず音楽に合わせて体を動かすのが好きですし、リスナーがグルーヴを刷り込まれ、つい反応してしまうような、脈動のある音楽が好きなんです。『Fleeting Future』に収録されている楽曲はすべてグルーヴ感があって、非常にリズミカルなものばかりですよ。

——この作品には即興演奏の要素が随所に感じられます。即興演奏の魅力は何だと思いますか?また、即興演奏と作曲の違いは何だと思いますか?

パスカル:ある意味で、すべてが即興から生まれているような気がしています。演奏や作曲をしようと思ったら、まず即興で演奏してみるんです。楽器を手に取り、そこで出てきたものを録音します。そのなかで良いものもあれば、そうでないものもあります。そしてここで、作曲のプロセスが始まるんです。即興演奏のどの部分を残し、さらに発展させるか、また他にどの部分を作りこんでいけば、自分が進みたい方向性に持っていけるかを決めていくのです。

——本作のタイトル『Fleeting Future』も印象的です。どこか楽観的な印象のあるこの作品に、なぜこのタイトルをつけたのでしょうか。あなたにとって、なぜ未来が「儚い」のでしょうか。その辺りの想いを聞かせてください。

Akusmi — Fleeting Future

パスカル:このタイトルは、初めてタイトル曲に使われているフレーズを思いつき、それを展開させて演奏した時に思いつきました。「Fleeting future」という言葉は、私の指からごく自然にキーボードに落ちてきたというか……。まるで言葉が、音楽と一緒にやってきたかのようでした。

このコンセプトはさまざまな意味を帯び得るものです。もちろん、緊急な行動を要する気候の非常事態を表現していると受け取る人もいるでしょうし、人類の未来が儚いものであることに警鐘を鳴らしていると考えることもできるでしょう。しかし、私が言いたいのは、私たちは未来に対して直線的なアプローチから離れ、私達の行く末を占うあらゆるデータや情報が飛躍的に増え続ける、樹木のような未来に突入してしまったのではないかということです。そして、それこそが未来を儚くさせているのです。ある枝をたどれば、その枝がどうなっていくかを垣間見ることはできるかもしれませんが、全体像が進化することによって、その予測はまったく意味をなさなくなるかもしれないのです。

——最後に、もしあなたが『Fleeting Future』をレコード棚に並べるとしたら、どんなアーティストのどんなアルバムを隣に並べますか?また、その理由も教えていただけると幸いです。

パスカル:テリー・ライリーの『In C』、それもおそらくアフリカ・エクスプレスが指揮者のアンドレ・デ・リダーと組んだバージョンはあるでしょうね。これはオーケストラ的な作品というより、ライリーの作曲法そのものを表したものだと言えます。あとは、とにかくお気に入りのアルバム、ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』もありますね。『Fleeting Future』は、この『A Love Supreme』のテーマの核となる部分に負うところがかなり大きいと思います。ムーンドッグの作品も間違いなく棚に並んでると思います。ロンドン・サクソフォニックの共作の『Sax Pax for a Sax』がいいでしょうね。それからファラオ・サンダースの作品(例えば『Jewels of Thought』など)、あとはエチオピアン・ジャズ、そしてバリやジャワの音楽も間違いなく入っているでしょうね。

Translation Shynichiro Sato(TOKION)

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やけのはらことTaro Noharaの新作『Hyper Nu Age Tekno』に込めた90年代のテクノの多様性 https://tokion.jp/2022/04/14/taro-nohara-new-album-hyper-nu-age-tekno/ Thu, 14 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=110087 やけのはらとしても活動するTaro Noharaが新作『Hyper Nu Age Tekno』をドイツのレーベル「Growing Bin」からリリース。そのリリースの経緯から今作に込めた想いを語る。

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近年はP-RUFF、H.TAKAHASHI、大澤悠大とのアンビエント・ユニット=UNKNOWN MEとしての活動でも注目を集めている、DJ/プロデューサー/ラッパー/執筆家など多彩な顔を持つやけのはらがTaro Nohara名義で新作『Hyper Nu Age Tekno』をリリースした。ドイツはハンブルクのレーベル、「Growing Bin」からリリースされた本作は、アンビエントやテクノの歴史の中で形成されてきた、ある種の洗練されたフォーマットを乗り越えようとするような意思を感じさせるアルバムだ。あるいは、次のように言うこともできるかもしれない。アンビエントと1990年代テクノを媒介にして、身体と心が一体となっていくような禅のようなアルバムであると。そんな『Hyper Nu Age Tekno』を完成させた彼に話を聞くことができた。

——この新作『Hyper Nu Age Tekno』は、ドイツはハンブルク拠点のレーベル「Growing Bin」からのリリースです。なぜ「Growing Bin」からリリースすることになったのでしょうか。また、「Growing Bin」というレーベルの魅力はどんなところにありますか。

Taro Nohara(以下、Taro):「Growing Bin」はもともと好きなレーベルで作品もよく買っていたのですが、「Growing Bin」から今回リリースすることになったのは、たまたまデモを送ったことがきっかけで。ただそれだけです(笑)。「Growing Bin」はDJのBassoさんが主宰していて、そのBassoさんの一つ軸を持ちつつも、何か定型の形に全部はまっているわけではない、絶妙な佇まいに惹かれますね。

——今作は”Taro Nohara”名義ですが、やけのはら名義と何か違いはあるのでしょうか。

Taro:基本的には何も変わらないですね。強いていうなら、”Taro Nohara”名義で作っているものは、非常にパーソナルなものであるのかもしれないです。リリースするからこうしなければとか表現だからこうしなければということは考えず、初期衝動ではないですけど、自分で音楽を作るのが楽しいから、ただ勝手に音楽を作っているという感覚ですかね。今作ではそんなことを久しぶりに思い出したりしました。

——実際いつごろから作り始めたのでしょうか?

Taro:コロナ禍でロックダウンが始まった2020年の4月か5月くらいですかね。その後、時間をあけて作り直したりすることはあったんですけど、その時はアルバムとして出そうということはあまり考えていませんでした。ただ、ロックダウンになって、今までの流れが強制的に止まってしまったような感じがして、なんとなく何か作ろうという思いにはなりましたね。実際2020年の春には5〜6曲くらいできていたんですけど、特にどうするつもりでもなく作っていたので、友人2人くらいに聴かせてそのまま半年くらい寝かせていました。

それである時、その友人にもったいないからリリースした方がいいんじゃないかと言われて、当時「Growing Bin」から出ていた新譜がダンス的なニュアンスもあるアルバムだったので、もしかしたら以前作ったものが合うかもしれないと思って、一球入魂でデモを送ったんです。そしたら、「とても良いからリリースしよう」ということになりました。

1990年代テクノのピュアさに触発された新作

——先ほどの話でBassoさんの魅力として定型の形にはまらないことを挙げていらっしゃいましたが、この『Hyper Nu Age Tekno』も、ある意味では、何か定型から逃れるような音楽だと思いました。

Taro:今回のアルバムは、もともと自分が好きだった1990年代のテクノに触発されたという部分もあるんです。僕がテクノを聴き始めた時には、新しいテクノという大きな器の中でいろんなスタイルがあるように感じました。アンビエントがあったり、ジャングルがあったり、ダンスフロアに直結したテクノがあったり、エレクトロニカに繋がっていくようなIDM/ピュア・テクノがあったり、いろんな形があった。何というか、特定のカッコいいとされているスタイルをみんなで一斉にやるんじゃなくて、多様性があったと思うんですよね。リリース形態も例えばジャケットがなくて、レコードのスリーヴのみでスタンプが押してあるだけでとか、どこの国の何歳の人が作っているかわからないんです。そういう記名性のなさも印象的だった。どこかの家のベッドルームで生み出される個のイマジネーションが、点で世界中に遍在したまま、ぼんやりと繋がっていく感じが90年代のテクノにはあって、そういうのをベッドルーム・テクノって言ったりしたんですけど、コロナ禍でそういったある種の断絶感を思い出して。その感じを頭の片隅に置きながら作っていましたね。

——どこの国でどんな人が作ったかわからない、影響源が俄かには判別しがたいっていう感覚はこの『Hyper Nu Age Teknoというアルバムにもあると思います。

Taro:そう言われると確かにそうかもしれないです。この人テクノ好きそうだけど、直接的な影響は何なんだっていったら、それがすぐにはわからないというか。このアルバムには定型的な曲調もないし、そういうところは狙って作っていたかもしれないです。

——ジャケットも90年代のテクノのイべントのフライヤーみたいですよね。

Taro:そうですね。90年代のテクノがテーマなんだということをBassoさんに伝えてジャケットを作ってもらいました。いつもはもっと具体的なアイデアを出して作ってもらうことも多いんですけど、言語の壁もあり結構ざっくりなイメージだけ伝えて。だから、自分のレコードじゃないみたいというか、知らない人のレコード・ジャケットを眺めているような距離感があって、その妙な距離感が今回はちょうど良いかなと感じています。

ポリリズムの魅力

——では楽曲についていくつかお聞きしたいのですが、例えばA面の1曲目「Space Debris」とB面の1曲目「Celestial Harmonia」は、最初の一音が力強いキックで始まります。そこからはリズムに対する欲求があるようにも感じられました。

Taro:去年、UNKNOWN MEというアンビエント・グループで『BISHINTAI』というアルバムを出したんですけど、そこに繋がる4〜5年くらいはアンビエントにハマっていた時期で、自分の中ではアンビエント・モードというか、リズムがないことによってより自由で多様性のあるリズムを生み出せるんじゃないかということに興味を持っていたんです。『Hyper Nu Age Tekno』を作り始めた時は、世界的にはロックダウンが始まった頃で、その頃って人と会う機会も減り、リモートでの作業が増えていったじゃないですか。それで家でゆっくり聴けるアンビエントや環境音楽の人気が高まったように思うんですけど、自分はそれまでどっぷりとアンビエントに浸かっていたので、そういう世の中の流れとは逆に、内から外へ向かうエネルギー、リズムという社会性を欲していたことをよく覚えています。人との繋がりを求めていたというか、外への願望があったのかもしれないですね。

——A面の2曲目「Ill Eel」は、シンゲリの躍動感をアンビエント化したような曲だと思いました。

Taro:リスナー/DJとしての目線として90年代のテクノがおもしろいと思って掘り直したりはしているんですけど、新譜もずっと聴いているので、シンゲリとか新しいUKのベース・テクノの影響はあると思います。例えばロックやレゲエでもいいですし、今回のアルバムでいったら90年代のテクノでもいいですけど、何十年も経ってまた同じことを昔の力点でやるのは興味がないんですよね。だから、90年代のテクノの影響もありつつ、現行のベース系のサウンドのエッセンスも取り入れたような感じです。とはいいつも、自然にというか、遊んでたら出来てしまったとも言えるのですが。

——Ill Eel」もそうですが、アルバムを通してポリリズム(複数の異なるリズムや拍子が同時進行している音楽)が印象的でした。ポリリズムは今作の1つのキーワードだと思います。

Taro:そうですね。でも、テーマというよりは、自分をしてはアンビエントから引き続いて自然にという方が近いかなと思います。どうやったら聴いたことのない面白い感じになるかなという時に、近年取り組んでいたポリリズム的手法を取り入れてみたというか。ただ、その塩梅には気をつかっていて、もっと複雑にもできるんですが、ぱっと聴いただけだと普通聴こえるけど、よく聴いてみたら4拍子じゃないみたいなバランスを狙っています。

——ポリリズムの魅力って何だと思いますか?

Taro:ポリリズムの魅力って多様な角度から言い様があるから難しいですね。今はいろんなポップスでも楽しく聴けるんですけど、ポリリズムに1番ハマっていた時期は、ポリリズムじゃないものは逆に気持ち悪くて聴けなかったりしました。ポリリズム中毒ですね。世の中の音楽って4とか8とかの偶数で周っていくものが多いと思うんですけど、ダンス・ミュージックのDJをやっていて、そういう定型が延々と続くことの気持ち良さは知っています。だからこそ、違うものも聴きたいという気持ちも芽生えたというか、今回みたいな各々違う拍子のパターンのポリリズムって、ずっとズレていくじゃないですか。例えば4小節目と8小節目と16小節目が同じにならないとか。4でずっと周るんじゃなくて、放っておいたバラバラのリズムが時間ごとに勝手に動いていくっていうのが、聴いていたり作ったりしていく中で面白く、気持ち良いなと思ったんです。自分の中で、「川の流れは絶えることはないが、そこを流れる水は同じではない」的な仏教観とか東洋思想的なものが、アンビエントを作っている時にキーとしてあったんですけど、ポリリズムもそれに近い感じがしますね。

——禅にも近い感じですか? アルバムには「Shikantaza」という曲もありますが。

Taro:そうですね。延々と形を変えながら循環しているような感じとか、自然の形を尊重して人間の作為を入れないようにするとか、アンビエントもそういう東洋思想的なものが少なからずあると思うんですけど、そこにある永続性みたいなものに興味を惹かれますね。今作ではシンセサイザーの音色とかも勝手に変化するようにプログラムしているので、同じ瞬間がないんです。例えば5分の曲があるとしたら、その曲の前の5分というのは普通ないわけですけど、さっき言った作り方だと前の5分も後の5分もあった中での5分みたいな感じになるんです。たまたまそこにある5分を切り取っただけというか。そういう作り方をすると、自分でプログラムを組んでいるのに、予測できないことが起こって驚くんですよね。ただ、それを全部自然に任せるんじゃなくて、コントロールするところとしないところのバランスは考えました。

人間が演奏しているようなフレーズを入れない

——では、今作は偶然性から生まれた音楽なのでしょうか?

Taro:完全に偶然というわけではなく、偶然を呼び込む音楽といったらいいんでしょうかね。そういう意味では、偶然ではないのかもしれない。偶然を発生させる装置というか、延々と変化し続ける装置を作っているような感じですね。

——何か起こりそうで、何も起こらないといった感覚もありますか?

Taro:それに近いところもありますね。例えば、バンドで何人かで演奏すると、ドラムのフィルがあってそれが合図でBメロに移って、キリが良いように頭にシンバルがあってとか、何かきっかけが必要な時がありますよね。でも打ち込みの音楽ってそういうものが特に必要ではないじゃないですか。今作ではその残像みたいなシンバルが鳴ったりするんですけど、普通だったら鳴りそうなところで鳴らずに、たまに何も関係ないところで鳴ったりするんですよ。リズムの組み合わせもそうで、自動的にズレることによって、勝手にグルーヴができる仕組みです。

——なるほど。

Taro:今作ではそういったポリリズムもあったり、アンビエント的な要素もあったりするんですけど、リズムを入れてテクノっぽく仕上げたというところもあるので、ギリギリ肉体性はあるのかなと思います。

——確かに、ある種のグルーヴも感じますね。

Taro:アフロ・アメリカン的なグルーヴであったり、一般的にグルーヴと呼ばれる横ノリのものは取り入れてないんですけど、グルーヴしないグルーヴみたいなものはあるのかなと思います。休符がグルーヴであったりとか、ポリリズムやアンビエントの手法を使って違う角度からグルーヴを模索したところはありますね。テクノ・ミュージックが作り得るグルーヴを自分なりの視点から探求するというか。

あと、僕がテクノで好きなところだったり、作っている時に気にしているのは、人間が演奏してるっぽいフレーズを入れないというところなんです。例えばギターのフレーズを聴いたら人間が演奏してるって思うじゃないですか。でもシンセサイザーを使ったテクノみたいな音楽って、作り方によっては人間が演奏しているように聴こえることもありますけど、僕は逆に人間がいないように感じさせるところが1つの魅力のような気がするんですよね。ただ純粋に音だけがあるというか。

——ありがとうございます。では最後に、そんな今作を自身のレコード棚に置くとしたら、その両隣にはどんなアルバムが並んでいると思いますか?

Taro:まずは、パッと思い浮かんだのは、ベタかもしれませんが、ベッドルーム・テクノの聖典としてAphex Twinの『Selected Ambient Works 85-92』。もう一方は、今はレコード持ってないですけど(笑)、Neu!のファーストですね。今作はジャーマン・ロックのイメージもあったんですよね。CanとかNeu!って人間の不在感が少しあるじゃないですか。だから、片方はエイフェックスの『Selected Ambient Works 85-92』で、もう片方にNeu!を買ってきて並べ、その間に『Hyper Nu Age Tekno』を置くという感じですかね。

Taro Nohara/やけのはら
DJや作曲、ラップ、執筆業など、多様なフィールドを独自の嗅覚で渡り歩く。2009年に七尾旅人×やけのはら名義で『Rollin’ Rollin’』をリリース。2010年、ラップ・アルバム『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』を、2013年には、セカンド・アルバム『SUNNY NEW LIFE』をリリース。アンビエント・ユニット「UNKNOWN ME」のメンバーとしても活動。2017年に米LAの老舗インディー・レーベル「Not Not Fun」からリリース。2021年にはLP『BISHINTAI』をリリースした。
Twitter:@yakenohara_taro

■Hyper Nu Age Tekno     
Taro Nohara
A1:Space Debris
A2:Ill Eel
A3:Baker Baker Paradox (Acid Mix)
A4:Shikantaza
A5:We Call it Tekno!
B1:Celestial Harmonia
B2:Use Your Head
B3:Airplane Without People 
B4:Music For Psychic Liberation
B5:Hyper Nu Age Tekno!
https://album.link/taronoharahnat
https://taronohara.bandcamp.com/album/hyper-nu-age-tekno

Photography Mayumi Hosokura

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ロンドン在住音楽家・大森日向子が紡ぐ「メディテーティヴな旅」としてのアンビエント・ミュージック  https://tokion.jp/2022/04/01/interview-hinako-omori/ Fri, 01 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=106467 3歳で英国に渡り現在はロンドンを拠点に活動する音楽家・大森日向子が3月にデビュー・アルバム『a journey…』をリリース。同作で展開されたメディテーティヴなアンビエント・サウンドの制作背景とアーティストとしてのアイデンティティを尋ねた。

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​横浜生まれでロンドンを拠点に活動するエレクトロニック・コンポーザー/サウンド・エンジニア、大森日向子がデビュー・アルバム『a journey…』を、ロンドンのビッグ・クラブ〈Fabric〉傘下のレーベル〈Houndstooth〉からリリースする。エド・オブライエン(レディオヘッド)、ケイ・テンペスト、ジョージア、KTタンストールといった名だたるミュージシャンのライヴ・ツアーやレコーディングに参加することで音楽的感性を磨いてきた大森がこのデビュー作で響かせるのは、アナログ・シンセサイザー、フィールド・レコーディング、そして自らのヴォーカル/ヴォイスを用いた、メディテーティヴなアンビエント・サウンドだ。横浜に生まれ、3歳でイギリスに移り、現在はロンドンで暮らしているという大森は、どのようにしてこのような没入感の高いアンビエント・サウンドを作り上げたのだろうか。彼女に話を訊いた。

クラシック・ピアノからアナログ・シンセサイザーへ

「イギリスに引っ越したあとに、街中でストリート・パフォーマーの演奏をみたことがあったんです。ちっちゃい時って、周りのものをたくさん吸収しようとするじゃないですか。その時みた演奏にジーンときて、ピアノをやりたいなと思うようになりました。その当時はロンドンの田舎のほうに住んでいたんですが、その時に素敵な先生と巡り合って、5歳から大学に行くまではずっとクラシック・ピアノを習っていました。大学に入ってからはサウンド・エンジニアリングを学んでいて、演奏することは少なくなったんですが、クラシック音楽にはずっと強いつながりがあると感じています」

そんな大森は、何をきっかけに自ら音楽を作ろうと思ったのだろうか。

「初めて音楽を作ってみたいと感じたのは、ザ・ナイフ(1999年結成のストックホルムのエレクトロニック・ミュージック・デュオ)の音楽を聴いた時でした。その時、シンセサイザーってこんなおもしろい音が出るんだってとても驚いたんです。そこからシンセサイザーによって作り出される音楽に惹かれるようになりました。シンセサイザーに初めて触れたのは16歳の頃で、当時通っていた高校のミュージック・テクノロジーの先生がシンセサイザーのバンドを組んでいたんです。その先生からシンセサイザーの技術や情報について学んだのですが、高校を出る時にRolandのSH-101を貸してもらって、「どんなに長く使ってもいいからしっかりしたシンセサイザーで学びなさい」と言われたんです。先生にはとても感謝していますね」

本作『a journey…』でも静かにうねるシンセサイザーのサウンドが印象的だが、彼女はシンセサイザーのどんなところに魅力を感じているのだろう。ちなみに、彼女が日本に里帰りした時には、必ず原宿にあるシンセサイザー専門店のFive Gに寄っていろんなシンセサイザーを物色するそうだ。

「どのシンセサイザーにも違ったユニークなサウンドがあるところですかね。音の組み立て方やレイヤーの作り方でいろんな方向にサウンドが変化するのもおもしろいし、粘土をこねるように周波数を変調させて音色を変えていくのも楽しいです。ある特定の音が好きというよりも、音のいろんな組み合わせで遊べるというところが好きですね。最近、MoogのMatriarchっていうセミモジュラー・アナログ・シンセを使い始めたんです。Matriarchはセミモジュラーなのでパッチしなくても使えるんですけど、パッチングするとより世界が広がる感じがしてとても楽しいです。ゆくゆくは自分でモジュールを組んで作品も作ってみたいですね」

このようにシンセサイザーの魅力を語る大森が初めて発表した作品が、2019年のEP『Auraelia』だ。このEPは、オーラを伴う偏頭痛が1ヵ月続いた体験を音響的に表現したらどうなるかというアイディアをもとに制作したという。そこで自分の心情や体験を音で表現するおもしろさに気付き、改めてシンセサイザーとつながりを持つことができたそうだ。

「メディテーティヴな旅」の始まり

そして翌年の2020年夏、オンライン・フェスティバル〈WOMAD at Home〉へ参加し、40分のアンビエント・プロジェクトを完成させる。それがこのデビュー・アルバム『a journey…』だ。

「2020年の夏に大学時代のクラスメイトで、ピーター・ガブリエルが作ったReal World Studiosでレコーディング・エンジニアとして働いているオリー・ジェイコブスが、「〈WOMAD at Home〉というフェスで、イマーシヴ・オーディオを作ることに興味のあるアーティストを探しているんだけど、日向子やってみない?」と誘ってくれたんです。私はバイノーラル・レコーディングとかイマーシヴ・オーディオにすごく興味があったので、誘ってくれてとても嬉しかったです」

大森日向子『a journey…』
大森日向子『a journey…』

大森は、ジェイコブスからはプレゼンテーションとして40分間の音楽を作ることができると伝えられる。そこで彼女は、新しい機材を導入した時に自分で試行錯誤しながら録り貯めていたデモを聴き直して、これを使えば40分のものができるんじゃないかと考えたという。そして、ノートに書き留めておいた詩や歌詞などを眺めながら、その音源と組み合わせていったそうだ。

「シンセサイザーで作ったデモをつなげて、40分間のメディテーティヴな旅を展開して行きたかったんです。あとはバイノーラルな音を作りたいなとずっと思っていたので、そのバイノーラルな音を脳に響かせることによって、リラクゼーションを生めたらなとも考えていました」

そうして作り上げたシンセサイザーと歌を組み合わせた楽曲をミックスする前日、大森はある行動を取る。環境音/自然音の採集ーーフィールド・レコーディングだ。

「完成させた音源をミックスする前の日に、バイノーラル・レコーディング用のダミー・ヘッドを持って、スタジオの周りの森とかで環境音を採集しました。私はもともと森林浴に興味があったのですが、この時はパンデミックのど真ん中で外になかなか出ることのできない時期だったので、そうやって家から出ることのできない時でも自然を家に持ってこられるような、ヘッドホンをして目を閉じたらどこでも自然を感じられるようなサウンド/環境を作りたかったんです」

このようにして採集した環境音と楽曲をReal World Studiosに持ち込んでミックスを施し、最終的には、シンセサイザー、ヴォーカル、フィールド・レコーディングは、あたかもその場にいるような臨場感を感じられるように=没入感を高めるために、立体的にリアンプしたそうだ。そして、エイフェックス・ツインやジェイムス・ブレイクのマスタリングを務めたことでも知られるマット・コルトンのマスタリングを経て完成した『a journey…』。そこで響くのは、大森が言うように、家にいながらでも自然を感じることのできる、メディテーティヴなアンビエント・サウンドだ。

大森日向子『a journey…』ダイジェスト

そのサウンドは、2020年12月に亡くなった盲目の電子音楽家のポーリーン・アンナ・ストロームやモジュラー・シンセを駆使するケイトリン・アウレリア・スミスの、心の処方箋とでも言いたくなるアンビエントに通ずるものがある。さらに言えば、『a journey…』に通底する静けさ/間を意識したようなミニマリズムからは、80年代の日本産環境音楽からの影響も感じられるのだ。

「日本のエレクトロニック・ミュージックのアーティストでいうと、吉村弘さんや横田進さんが好きでよく聴いてますね。癒やされるというか、聴いているとすごく心が穏やかになれるんです。今作は特に彼らのようなアーティストが作った音楽を意識して作ったわけではないですが、日常的に聴いている音楽が毎日の行動に少なからず影響を与えるように、彼らのサウンドが私の心の芯まで染みていたんだと思います」

「テクスチャ」でありながら時にエモーショナルに響くヴォーカル

この『a journey…』が”メディテーティヴ”なアンビエントとして響くのは、バイノーラルなサウンドや静かにうねっていく電子音だけによるものではない。大森の心地良いヴォーカルもまた、サウンドに穏やかさをもたらしている。

「私は音楽を作る時にあまりプロセスは考えていないんです。ヴォーカルも、作っている時にここにフレーズを入れたらおもしろくなるなというひらめきをもとに、自然の流れのままに歌って、シンセサイザーの音と組み合わせています。いろいろな捉え方があると思いますが、私にとって歌声はマントラのようなものなんですよ。声はシンセサイザーと一緒にレイヤーになるようなテクスチャとして考えていますね」

そう答える大森だが、そのヴォーカルは時としてエモーショナルに響く。そのエモーショナルなヴォーカルとひんやりとしたシンセサイザーのサウンドが融合したのが、「The Richest Garden In Your Memory」だ。

「この曲は私にとって大切な曲です。2018年にショーのためにニューヨークに行く予定があったのですが、吹雪のため飛行機で直接ニューヨークに行けなくなったんです。そこでフィラデルフィア行きの飛行機に乗り換えたのですが、たまたま隣に座っていたのがエミリーさんという素敵な方だったんです。彼女はペンシルヴェニア大学の講師なのですが、そこで会話が弾んで、その後もメールをやりとりするようになったんです。ある時エミリーから彼女の『Great Circles』という本をいただいて、その本に書かれていた詩がすごく心に染みて、つながりを感じたんです。その詩を音楽で表現したいと思って作ったのがこの曲です。アルバムの中でも一番自然に、考えすぎずに作れた曲ですね」

そんな「The Richest Garden In Your Memory」はこのメディテーティヴなアルバム『a journey…』で最も親密性を感じる瞬間として、我々の心に強く刻まれるだろう。最後に大森に”この『a journey…』というアルバムをレコード・ショップの棚に置くとしたら、その両隣にはどんなアルバムが並んでいるか”という質問を投げかけてみた。

「もちろん吉村弘さんや横田進さんのアルバムが隣にあったら嬉しいですけど、別にヘヴィメタルのセクションに置いてあっても全然良いと思いますね。聴いてくださる方がどうやってアルバムを見つけて、どうつながりを感じたのかが大切だと思います。それもまた1つの旅=『a journey…』になると思うので」

大森日向子

大森日向子
神奈川県横浜市出身。3歳でイギリスに移り、現在はロンドンを活動の拠点とする。幼少の頃からクラシック・ピアノを学び、大学でサウンド・エンジニアとしてのトレーニングを受け、その後アナログ・シンセサイザーによる演奏や制作を開始。エド・オブライエン(レディオヘッド)、ケイ・テンペスト、ジョージアといった名だたるアーティストたちのツアーやレコーディングへ参加している。2019年5月に12インチシングル『Voyage』を皮切りにソロアーティストとしての活動を開始し、同年11月にEP『Auraelia』をリリース。本年3月に初のフルアルバムとなる『a journey…』をロンドンのクラブ〈Fabric〉傘下のレーベル〈Houndstooth〉からリリースした。
Twitter:@hinakoomori

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屈指のアンビエント・ユニット=UNKNOWN MEが語る、アンビエント/ニューエイジとの出会いと、「美」をコンセプトとした新作のこと https://tokion.jp/2021/05/04/unknown-me/ Tue, 04 May 2021 01:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=31047 国内アンビエント・ユニット=UNKNOWN MEが、待望の1stLP『BISHINTAI』をリリース。各々のルーツや新作の制作背景・哲学について、メンバー4人に語ってもらった。

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やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI の作曲担当3人と、グラフィック・デザインおよび映像担当の大澤悠大によって構成される4人組アンビエント・ユニット=UNKNOWN MEが、4作目にして待望の1st LP『BISHINTAI』をリリースする。食品まつりやジム・オルーク、MC.sirafu、中川理沙をゲスト・ミュージシャンとして迎えた本作で鳴っているサウンドは、音と音の隙間を意識したような、非常に空間性の高い洗練されたアンビエント・ミュージックだ。“心と体の未知の美しさを探求する”というテーマで制作されたという本作について、そして昨今再評価が著しいアンビエント/ニューエイジという音楽について4人に語ってもらった。

UNKNOWN MEは「アンビエントやニューエイジを語る会」から生まれた

——そもそもUNKNOWN MEというユニットはどのようにして結成されたのでしょうか。

やけのはら(以下Y):UNKNOWN MEを結成したのは5年くらい前で、今ではニューエイジ・リヴァイヴァルとかって言われていると思うんですけど、その当時は自分の身の回りではそういうニューエイジとかアンビエントを聴いている人が少なかったんですよ。そんな時にニューエイジ周辺の音楽を聴くDJの友達のP-RUFFくんがいて、H.TAKAHASHIくんは共通のミュージシャンの知り合いもいて、会う機会があって。たまたま当時みんなが近所に住んでいたので、皆で一緒に飲んでいるうちに音楽も作ってみようという話になったんですね。

——なるほど。

Y:それで1本目のテープを自分達のレーベルから出したあと、早い段階でライヴをやりまして。その時のライヴで映像を入れようという話になって、僕とP-RUFFくんの友達だった大澤くんに映像で参加してほしいって声をかけたんです。その後ライヴも一緒にやっているうちにサポートっていうよりもメンバーなんじゃないかということになって、大澤くんもメンバーになりました。

——最初からアンビエントとかニューエイジといったものを意識した音楽を作ろうと思っていたんでしょうか。

Y:アンビエントとか今でいうニューエイジ・リヴァイヴァル的なものが好きな人達がそういう音楽の話をする会みたいな感じで集まっていたので、そういう意味ではそうですね。それでUNKNOWN MEは今までカセットテープで作品を出しているんですけど、みんなカセットテープで出されている作品が好きということだったり、カセットテープの音質であったり、初期はテープということにもこだわりがあって。すでにテープで作品を出していたH.TAKAHASHIくんにどうやってテープ出してるのか聞いたり、うちらでもテープで出してみたいよねっていう話はしていました。

——最初の1枚は自主レーベル(NOPPARA TAPES)からカセットテープでリリースされていますが、その後はロサンゼルスのNot Not Funからのリリースですよね。

Y:そうですね。1本目のテープを出したあとも曲は作っていたんですけど、テープで30分くらいの長さだと思ったより早く1ヵ月くらいでできてしまったんですね。それでもっともっと作れそうだし、海外でリリースしてみたいよねっていう話になったんです。

H.TAKAHASHI(以下H):それでどこか良いレーベルがないかという話になったんですけど、その1つにNot Not Funがあったんです。もともと僕もNot Not Funからのカセットテープを購入して集めていたっていうのもあってこちらから声をかけさせていただいた感じですね。

UNKNOWN ME – ASTRONAUTS (Digest of Cassette) / NOT NOT FUN

——なるほど。では皆さんはどのようにしてアンビエントやニューエイジと呼ばれる音楽と出会ったのでしょうか。

P-RUFF(以下P):クラブのセカンドフロアとかでアンビエントがかかっていたので、そこからの影響はあると思います。ダンス・ミュージックというアクティヴな音楽とは対極的なものですけど、一度ヒートアップしたものを落ち着かせる音楽という感じでアンビエントというものに触れた感じですね。

Y:そうそう、90年代のダンス・ミュージック・カルチャーの流れだよね。僕もP-RUFFくんとほぼ同じ流れで、テクノが好きだったんですよね。90年代のテクノの多様性というか、例えばアンビエントもジャングルも全部込みでテクノという感じが好きだったので、アンビエントはいつの間にか普通に聴いていたというか、常にずっと側にあった感じですね。ただ、ダンス・ミュージックは作ったりしてても、アンビエントを作ることはなかったので、ずっとアンビエントを作ってみたいとは思っていました。

H:僕はまたちょっと立ち位置が違うと思うんですけど、僕はクラウトロックとかプログレッシヴ・ロックとかから入っていった感じです。キング・クリムゾンやカンとかをよく聴いていて、その流れでロキシー・ミュージックとかトーキング・ヘッズとかを聴いて、ブライアン・イーノを知った感じですね。それが高校生くらいの時で、大学に入ってからはエレクトロニカとか音響系を聴き始めて、CD屋でディグったりしていました。それでカセットテープが流行り始めた10年代初頭にリリースされていた作品を集めたりしていく段階で、これはちょっと作れそうだなと思ってアンビエントを作り始めました。

大澤悠大(以下O):僕はロックを高校の時から聴いていて、それこそこの新作『BISHINTAI』に参加していただいたジム・オルークや、フィッシュマンズなども聴いていたんですけど、今考えるとフィッシュマンズとかはアンビエント的な聴き方をしていたのかなと思います。寝る前に落ち着く的な意味合いでアンビエントを理解していたというか。でも最近はどちらかというと仕事中に聴いたり、日常に寄り添うような感覚でアンビエントを聴いていますね。

なぜアンビエントに惹かれたのか

——アンビエントを聴いて、どんなところに惹かれましたか。

P:自分はアブストラクト・ヒップホップとかブレイクビーツ、トリップホップなんかが好きなんですよね。そういう音楽って音数を減らしてアブストラクトな雰囲気を出すとか長調/短調感がなかったりなど、アンビエントの要素が入っていたりするじゃないですか。そういったところから出る浮遊感に惹かれましたね。

Y:僕は音楽を好きになったきっかけはヒップホップとテクノだったので、旋律とかがメインじゃないというか音のアトモスフィアで聴かせるという音楽の表現を先に知ったと思うんですよね。バート・バカラックとかの音楽構造云々よりも、どちらかというとそういうテクノの文脈のものが先に好きになったので、そういう意味ではアンビエント的な感覚はベーシックにあるのかもしれないです。あとUNKNOWN MEでやる前までは、リミックスとかでノンビートにしたり、アンビエント的なフィーリングのものは作ったことはあっても、思いっきりアンビエントでがっちり1枚ということはなかったんですね。今思うと、UNKNOWN MEを始めるタイミングというのは、カームなものというか、人のエゴが少ない音楽を欲してたり作りたかったりした時期だったかもしれないですね。僕はそれまで積極的にダンス・ミュージックのDJをやっていたんですけど、その反動というか。

H:眠れない時に精神的に堪えないような音楽を欲していて、ブライアン・イーノの『Ambient 1: Music For Airports』とかハロルド・バッドを聴いていたんですね。それでアンビエントにハマった気がします。

Brian Eno『Ambient 1: Music For Airports』

Y:みんな疲れた時にアンビエントを聴きがちになるという。

O:僕も基本的には精神の安定を求めるために聴いていました。でも最近は、精神を落ち着かせるためだけではなく音の質感を楽しむためにアンビエントを聴く機会が僕の中ではすごく増えていますね。

——例えばアンビエントは環境に向けて開かれるような音楽で、本当の意味のアンビエントは社会的にならざるを得ないという考え方もあると思うんですが、どう思いますか。

Y:僕はずっとダンス・ミュージックのDJをやっていて感じるのは、ダンスのリズムってすごく社会性があるものだということですね。様々なベクトルの色々な音の要素も、そこに共有できるリズムがあればつながれる、分かり合えるというか。それに対してアンビエントはどちらかというとつながらなくてもいい音楽なのかなと僕個人としては思います。だからアンビエントを社会的には捉えてないかもしれないですね。

O:僕は逃げ場所みたいなものをイメージしてアンビエントを聴いているような気もします。社会とつながるというよりは、もう少し社会と切り離されたものとして聴いている感じですかね。ある意味その行動自体が社会的なのかもしれませんが。

H:アンビエントが社会的にならざるを得ないとかはあまり考えたことはなかったんですけど、今のアンビエント/ニューエイジ・リヴァイヴァルとか、アンビエントというものを下敷きにしていろんな音楽と融合して、新しい感覚や聴こえ方が生まれているのはすごくおもしろいなと思っています。

ニューエイジ・リヴァイヴァルについて思うこと

——では昨今のニューエイジ・リヴァイヴァルについてはどう捉えていますか。

Y:個人的にはLight In The Atticから出た『I Am The Center (Private Issue New Age Music In America, 1950-1990)』とMusic From Memoryの最初の1、2枚から火がついて、聴く側として接点が増えていった感じですね。

P:ニューエイジは最後のレア・グルーヴだみたいな話はみんなでよくしていましたね。和モノとかは結構掘り尽くされたというのは言い過ぎかもしれないですけど、そんな中であまり手を出されていなかったニューエイジをおもしろいプレゼンの仕方で紹介するレーベルが増えてきて、聴いているうちにおもしろいなと思いましたね。

——例えばLight In The Atticから出された『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』に代表される日本の環境音楽の再評価についてはどう感じていますか。

V.A.『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』

P:僕はそのコンピは好きですね。僕はもともと細野晴臣さんの音楽がすごく好きだったんですけど、彼の作った無印良品のBGMのような音の質感がある曲をレコードで聴くということがあまりなかったので、非常におもしろく聴けました。あと編纂者の1人のスペンサー・ドーランってすごく日本の音楽に詳しくて、優れた審美眼を持っているなと思いましたね。

Y:僕はそのコンピ自体への思い入れはなくて……というのも吉村弘さんとか、このコンピに入っている人の作品は、高騰する前に買って聴いてたんですよね。だからそのコンピが出た時は、決定打が出ちゃったなくらいに思っていました。その頃はUNKNOWN MEで何本か作品を作っていたから、このコンピが頂点になってブームとして消費されてしまったらどうしようかなとも考えていましたね。

——H.TAKAHASHIさんの音楽は吉村弘や芦川聡の音楽の影響を受けているように感じるんですが、実際どうなんですか。

H:それはよく言われるんですけど、自分が音楽を作り始めた時は彼らの存在を全然知らなかったんですよね。それで彼らの作品を聴いてみたんですけど、確かに影響を受けていると言われてもおかしくないなとは思いました。コンピに関しては、その発売前からその辺りは結構掘っていましたけど、良いコンピだなとは思いましたね。

「きれいな音」と「隙間」に満ちた新作について

——では今回リリースされる新作『BISHINTAI』についてお伺いしたいのですが、本作は「心と体の未知の美しさを探求する」というテーマだそうですね。

Y:もともとは何本かテープを出して、ライヴもしていた流れで、自分達が主催してアンビエントのイベントをやろうということになったんですよね。その時に『美・心・体』というイベント名をつけて、ムードマンさんとか中村弘二(ナカコー)さん、MC.sirafuさんと中川理沙さんのユニット「うつくしきひかり」に出てもらったんですよ。このイベントが出発点となったというか、イベントのコンセプトとして“美”をテーマにしたところからすべて派生していっている感じですね。

O:イベントではマッサージだとか美に関するコンテンツもありましたしね。

Y:そうそう。あまりマニアックなアンビエント・イベントにはしたくなくて、開かれたイベントにしたいよねってみんなで話してて出たコンセプトが”美”だったんです。

——今作は過去にリリースされた作品に比べると音と音の間を意識したようなミニマルな作りになっているように感じたのですが、どこまで意識されていたのでしょうか。

Y:今作の1つ前に出たのが『Astronauts』というアルバムなんですけど、実は『Astronauts』を作る前から『BISHINTAI』も作っていたんですよね。だから制作と出た順番が明確に分かれていないので、ミニマルということはあまり意識していないですけど、今作のコンセプトは“美”なので、きれいな音にしようという意識はありました。

P:今作は制作期間が長かったというのもあって、その間に音が削ぎ落とされていったようにも感じますね。

Y:ミニマルということで言えば、UNKNOWN MEは景色を変えるようなコード展開をする音楽性でもないので、自分達の認識としては最初から一貫してミニマルな音楽だと思っています。

UNKNOWN ME – BISHINTAI (Digest of LP) / Not Not Fun

——なるほど。とはいえ、過去の作品が音で空間を埋め尽くしているような感じがしたのに対して、今作はそこから音を引いていったようにも聴こえるのですが。

Y:それはあるかもしれないですね。もしかしたら自分達がアンビエントの作り方が上手くなっているのかもしれない。例えば音高やハーモニーを縦軸として、それに対する横軸の音と音の間がリズムになるわけですが、その両方の隙間の作り方というか、巨大な隙間があっても足りないと思わせるわけではなく、「隙間に何かが立ち上がってくる隙間」、「有である無」を作る作業といえばいいんですかね。そういうことは5年前はわかっていなかったけど、『BISHINTAI』を作っている時には、いかに巧妙にそういう隙間を作るかという作業を延々とやっていたような気がしますね。5年前くらいはその辺りは意識せずに、もう少し無邪気だったように思います。そういう意味では今作はステップアップした作品なのかもしれないですね。

作品にヴァラエティを生んだゲスト達の存在

——今作には食品まつりさん、ジム・オルークさん、MC.sirafuさん、中川理沙さんが参加されていますが、この4人は本作でどういう役割を担ったのでしょうか。

H:客観的な話なんですが、違う音楽性の方……例えばMC.sirafuさんのスティールパンや中川さんの声楽的なコーラスとか、自分達には技術的にできない音楽性を持った方に参加していただいたことで、特別でヴァラエティに富んだアルバムになったのかなと思っています。食品まつりさんにしても、自分達にはないリズム感を注入してくれたことで、今までとは違う曲に仕上がっていると思いますね。

P:僕らってシンセやサンプラーを使って作ることが多くて、演奏が卓越した人っていないんですよ。そういう意味でプレイヤー的な人が入ったことで、今作で音楽性が広がったように思いますね。

Y:大澤くんはどのように聴こえました?

O:僕としては今までのリリースに比べると、少しゴージャスな質感があるように感じましたね。あと、今のアンビエントの作品っていろいろな形のものが出ていますけど、それにもフィットするような作品になっているようにも思いました。

自分達の作品をどのように位置づけるか

——UNKNOWN MEは日常の延長線上にあるようなアンビエンスを鳴らしているようにも感じるのですが。

P:日常っていうことについて言えば、UNKNOWN MEで音楽を作る時って、自分の部屋かメンバーの部屋に行って作ることが多いんです。集まって作業して、最後にお酒飲んでご飯食べてみたいなリラックスした感じで作ってて、スタジオに入ってさあやるぞっていう感じではないんですよ。もしかしたらそういうところが無意識のうちに反映されているのかもしれないですね。

Y:このアルバムは単純に音のテクスチャを気にして作っていったんですよね。だから例えばファンタジックな場面とかを逆算して何かを表現しようとはしていないんです。

P:過去の作品もテーマを決めて、そことのエキゾ感というか距離感を表現するということをやっていたんですよね。エキゾって結局距離じゃないですか。だからそのテーマとの距離が出ているというのは確実にどの作品にもあると思いますね。

Y:そうそう。作品は僕達の自己表現だけど、すごく対象化して作っている感じ。今回で言えば、自分達が共通で考えている“美”のイメージに向かって作っていくみたいな感じですね。

——では最後に、この『BISHINTAI』というアルバムをご自宅のレコード棚に並べるとしたら、その両隣にはどんなアルバムが並んでいますか。

Y:アンビエント/現代音楽のところと80年代のイギリスの音楽の間に置きたいので、Susumu Yokota『Sakura』とThe Durutti Columnとの間ですね。

P:僕はGigi Masin『Talk To The Sea』とWilson Tanner『69』ですね。

O:最初聴いた印象はゴージャスな感じがしたので、まずThe Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』。それとAphex Twinの『Selected Ambient Works 85-92』ですね。

H:僕はMusic From Memoryから出たDip In The Poolの12インチとOneohtrix Point Neverの『R Plus Seven』かな。

——ありがとうございました!

*

UNKNOWN ME
やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHIの作曲担当3人と、グラフィック・デザインおよび映像担当の大澤悠大によって構成される4人組アンビエント・ユニット。“誰でもない誰かの心象風景を建築する”をコンセプトに、イマジネーションを使って時間や場所を自在に行き来しながら、アンビエント、ニューエイジ、バレアリックといった音楽性で様々な感情や情景を描き出す。2016年7月にデビュー・カセット「SUNDAY VOID」をリリース。2016年11月には、7インチ「AWA EP」を、2017年2月には米LAの老舗インディー・レーベル「Not Not Fun」より亜熱帯をテーマにした「subtropics」を、2018年12月には同じく「Not Not Fun」より20世紀の宇宙事業をテーマにした「ASTRONAUTS」をリリース。「subtropics」は、英国「FACT Magazine」の注目作に選ばれ、アンビエント・リバイバルのキー・パーソン「ジジ・マシン」の来日公演や、電子音楽×デジタルアートの世界的な祭典「MUTEK」などでライブを行った。2021年4月、都市生活者のための環境音楽であり、心と体の未知の美しさをテーマにした待望の1stLP「BISHINTAI」をリリース。

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