抑圧から自由になるために:Kassa OverallとTomoki Sandersが語る『ANIMALS』、アフリカン・ディアスポラ・ミュージック、日本文化

左:Kassa Overall (カッサ・オーバーオール)
1982年10月9日生まれ、米・ワシントン州シアトル出身のミュージシャン、MC、シンガー、プロデューサー、ドラマー。前衛的な実験とヒップホップ・プロダクションのテクニックを融合させ、ジャズとラップの結びつきを想像だにしない方向へと進化させた楽曲で評価を高める。前作の『 I THINK I’M GOOD』から3年を経て、名門Warpから自身3作目となるスタジオアルバム『ANIMALS』をリリースした。
https://www.kassaoverall.com

右:Tomoki Sanders(トモキ・サンダース)
1994年ニューヨーク州マンハッタン出身。4歳でピアノとドラム、6歳でクラリネット、10歳で父 Pharaoh Sandersから譲り受けたアルトサックス、14歳からテナーサックスを手にとり演奏を始める。バークリー音楽大学で演奏、現代作曲技術、音楽制作などを学び、2018年に卒業。現在までに、Pharoah Sanders、 Kassa Overall、Ravi Coltrane、OMSB、石若駿をはじめ、日本と米国で様々なミュージシャンとの共演を果たしてきた。現在は主にニューヨークを拠点に活動中。

ジャズ・ドラマーとして活躍する一方、プロデューサー/ビートメイカー/MCとして先鋭的な作品作りを続けるKassa Overall(カッサ・オーバーオール)。前作『I Think I’m Good』(2020年)から3年を経て名門Warpから2023年の5月に発表した最新アルバム『ANIMALS』は、ジャズやヒップホップ、エレクトロの要素を絶妙に融合させた実験的な音楽性と思索的なリリック、そしてDanny Brown(ダニー・ブラウン)やNick Hakim(ニック・ハキーム)をはじめとする豪華なゲスト陣も相まって、大きな話題を集めた。

そんな彼が、サックスやパーカッションをはじめ、様々な楽器を弾きこなすマルチ・インストルメンタリストのTomoki Sanders(トモキ・サンダース)やピアニストのIan Fink(イアン・フィンク)、ドラマー/パーカッショニストのBendji Allonce(ベンジー・アロンス)らを引き連れ、昨年10月に自身2度目となる来日公演を行った。東京と大阪、そして朝霧JAMで圧巻のパフォーマンスを披露した彼らは、各会場で老若男女、そしてジャズファンとヒップホップファンの入りまじるオーディエンスを熱狂の渦に巻き込み、その唯一無二の音楽的価値と実力を改めて示してみせた。

TOKIONでは、彼らの来日公演の折に、Kassa OverallとTomoki Sandersにインタビューを敢行。お互いの音楽的素養やキャリアを尊重しつつ、兄弟や師弟にも似た関係を取り結ぶ2人に、アルバムタイトル『ANIMALS』の背景にある思想や、アフリカン・ディアスポラ・ミュージックを分つ「ジャンルに」対する考え方、「家(home)」への思い、Tomokiの実の父、Pharaoh Sandersとのエピソード、日本文化への興味、そして「バックパッキング・プロデューサー」としての心得など、あらゆることを語ってもらった。

『ANIMALS』と抑圧への抵抗

–3年ぶり2度目の来日公演ですね。どんな気分ですか?

Kassa Overall(Kassa):とても興奮しているよ。前回のツアーの後、ヨーロッパのツアーには8回くらい行ったかな。でも日本に来るのはいつも大きなイベントのように感じる。フライトは長いし、ビザを取るために何度も領事館に行かなければならない。とにかく大変なんだ。時差ボケもひどいし。でもそういうものを経て日本に来れたら、この国の独特のライフスタイルに触れることができる。とてもエキサイティングだよ。

–Tomokiさんは、Kassa Overallのバンドの一員として日本に戻って来たことについて、どう感じましたか?

Tomoki Sanders(Tomoki):とても感謝しているし、素晴らしいバンドの一員になれて光栄に感じています。それに、海外のバンドに参加して日本で演奏するのは初めてなんです。日本の音楽シーンで10年近く演奏してきた僕にとって、これは全く新しい経験で、日本ツアーでの3日間が本当に楽しみです。

Kassa: 帰ってきたぜ、マザーファッカー!みたいな気分なんじゃないの?

Tomoki: まあ確かに(笑)「いつか海外のバンドと日本に凱旋して演奏したい」って、周りの人たちにはずっと言ってきましたからね。今回それが叶って嬉しいです。

–まず『ANIMALS』というアルバムのタイトルについてお聞きしたいと思います。このタイトルには複数の意味が込められていると語っていましたよね。まず、観客の前で演奏をする自分を、ときにサーカスの動物のように感じることがあると。もうひとつは、人はときに他者を「動物だ」と形容して、その他者に対する自分の残忍な行為を正当化させると。これは、一義的にはアフリカ系アメリカ人としての視点からの言葉だと思いますが、ガザの問題のように、いま私たちが目の当たりにする世界の様々な問題にもリンクするように感じます。タイトルに込めたメッセージが、自分の想像していなかった、より広い意味で理解されることについて思うことはありますか?

Kassa: まず自分が音楽に取り組む時、そこには何かしらのインスピレーションがある。それはごく個人的なものかもしれないけれど、そこから生まれる作品は、普遍的で時代を超越するようなものにしたいと思って制作しているよ。作品を発表して数年後に何かが起きたとき、聴き返す価値があるようなものをね。つまり、過去に起こったこと、現在起こっていること、そして未来に起こることを物語りたいと思っているんだ。

先日、家族と話している時に、ヨーロッパ中心主義的な文化や、階級、人種、その他いろいろなことについて激しい議論になった。そして結局、僕は「抑圧」に抵抗しようとしている、という結論に行き着いたんだ。抑圧はさまざまなレベルで存在する。国家同士のようにすごく巨大な力が関わるものから、より小さなレベル、例えば家族の中や、マクドナルドでの店長と従業員の関係性に至るまで。どこにだって独裁者のように振る舞う人はいるからね。

だからこそ、人生に対する別の見方を提示するような作品を作ろうと思っている。それと同時に、聴く人がどんな状況にも当てはめることができるよう、透明性やわかりやすさも大切にしているよ。僕の音楽が、なんであれ大変なことを経験している人に、立ち上がるための力を与えられたらいいなと願いながらね。それから、自分自身が抑圧的に振る舞っていないかを考えることも大切だと思っている。自分から離れた物事に対してあれこれ言うだけじゃなくて、自分のことも省みないとね。誰が誰を抑圧しているのか、見分けるのが難しいケースも多い。まあ、善悪をジャッジするのは僕の仕事ではないから、ただ自分が正しいと思うことをするだけだよ。

–それに関して、Tomokiさんは何か思うところありますか?

Tomoki: 確かに、「動物」という言葉は、誰かが他の人の人間性を奪うような場面で使われていると思いますし、それはパレスチナの問題や、数年前のジョージ・フロイド事件やブリオナ・テイラーへの銃撃事件など見ても明らかだと思います。出来事としては、軍隊や警察官が市民を殺害していることだと言えるけれど、その内実を見てみれば、要は人間が、別の人間の命を奪っているということ。本当は命を奪っている側こそ「野獣」を抱えていると僕は思います。とは言え、人間というものの内側にはそれぞれ「内なる野獣」がいて、それを顕在化させるのか、制御するのかの違いなのかなとも思いますね。

音楽を文脈から解き放つこと

–「抑圧」への抵抗という点で言うと、Tomokiさんは別のインタビューで、アフリカ系アメリカ人にとって、フリージャズやヒップホップは、自分たちを抑圧するものや白人中心の社会が作り上げたものから解放されるための手段だったし、今もそうあり続けていると言っていましたよね。

Tomoki:あくまで個人的な解釈ですけど、僕にとってフリー・ジャズは、ジャズという言葉そのものを解放することでもあります。ジャズという言葉が嫌いだと言う人もいるかもしれないし、良いイメージを持っていない人も多いかもしれない。フリー・ジャズは、でたらめな音、でたらめなタイミング、もしくは思いつきのメロディーを演奏するものだと思っている人もいると思う。でもそれは、フリー・ジャズという言葉を説明する上では全く本質的な部分ではなくて。ぼくにとってのフリー・ジャズは、いろんな意味で自分自身を解放することであり、自分らしさや、アーティストとしての楽観的価値観を受け入れる自由さを身につけることなんです。

–なるほど。Kassaさんはそのようなフリー・ジャズ的なマインドセットを体現していると思いますか?

Tomoki:それは間違いないです。彼はブラック・ミュージックそのものを体現していると思います。ツアー中、彼はアンダーグラウンドヒップホップから、僕が聴いてこなかったジャズの名盤まで、音楽をたくさん教えてくれて、僕の音楽の関心の幅も広がったので感謝しています。

–Kassaさんはそれを聞いてどうですか?

Kassa: そうだね。自由(free)っていうのは、社会を成り立たせている文脈から自分を解き放つことじゃないかなと思う。あくまでこれは僕の個人的な意見だけど、音楽ジャンルっていうのは、アメリカの白人文化や、ヨーロッパの白人文化の文脈の中で作られてきたものだと思う。その文化の中で、「この黒人たちが作った音楽を何と呼ぶか?」っていう思案のもと、ある音楽は「ジャズ」と名付けられ、また別の音楽は「ヒップホップ」と名付けられた。でもそれって、文化に枷(かせ)をつけているようなものじゃないかと思う。つまり文化を時代や、特定のスタイルで縛り付けているだけなんじゃないかって。

–おっしゃる通りだと思います。

Kassa: それに対して、ディアスポラ的な性質を軸にして、これらの異なるジャンルをブラック・ミュージック、あるいはアフリカン・ディアスポラ・ミュージックとして、互いに結びつけることができたら、「Aというジャンルは絶対にAで、他のものにはなりえない」というジャンルの束縛から音楽を解き放つことができるんじゃないかな。これは世代間の断絶にも似ていると思う。つまり、孫、母親、祖父、叔父、叔母、いとこ、これらすべての人々が同じ空間に一緒にいれば、個々のパワーは統合されて、倍増する。でも、もしその人たちが1人ずつ100個の小さな空間に分断されていたとしたら、各々がただの単一な存在に過ぎないということになるよね。

そんなふうに分断された考え方で僕の音楽を聞くと、僕はただのラッパーで、何千と存在する他の要素とのつながりなんて意識せずに、ただドラムを叩いている奴ってことになってしまう。だからこそ、「僕にとっては明白だけど、他の人たちにとってはそうじゃないような音楽的なつながりを、作品を通していかに見せられるか」という問いは、自分が音楽を作る上でのモチベーションの1つでもある。それで最初の話に戻って、「どうすれば文脈から抜け出せるのか?」と考える。「僕は、既存の文脈の中で、自分以外の存在として定義されることなく、ただそれ自体として存在することはできないのか?」と。でも、こうやって話し始めると堂々巡りになってしまうし、話している僕自身も混乱してしまうから、結局は黙々と作品を作って、その作品自体に語らせる、っていうやり方のほうが好きかもしれないね。

–なるほど。ちなみに先ほどツアー中にTomokiさんはKassaさんからアンダーグラウンド・ヒップホップを色々と教えてもらっていたと言っていましたが、どんなアーティストを教えてもらったんでしょうか?

Kassa: さあTomoki、勉強の成果を披露する時だね。アンダーグラウンド・ヒップホップの名盤20選を挙げなさい(笑)

Tomoki: (ビートボックスをしながら)Kassaに教えてもらった曲のこのビートがずっと頭から離れないんですよね。

Kassa: それはSchoolly Dだね!フィラデルフィア出身の元祖ギャングスタ・ラッパーだよ。NWAやIce-Tにも影響を与えた人物。

Tomoki:そうそう。Schoolly DはKassaから教えてもらったラッパーの中でも印象に残っているアーティストです。他にも、主に90年代初期から90年代中期のヒップホップを色々と教えてもらいました。そのあたりを知ることで、改めてヒップホップ文化とは何たるかを深く知ることができた気がします。僕にとってのヒップホップのスタート地点は、Biggieや2Pacで、そこからA Tribe Called QuestやJay-Z、あとはKanye WestやThe NeptunesやTimbalandを聴いていました。僕は、それらの音楽のルーツはどこなのか、源流のようなものを知るのが好きなオタクなんですよね。Kassaは僕とは世代が違うし、子供の頃からヒップホップをたくさん聴いて育ってきた人。彼が聴いてきた音楽は、僕に取っては知識として欠けていた部分だったので、完全に勉強モードで、ヒップホップの源流に近い音楽をたくさん吸収させてもらいました。

Make My Way Back Homeの問い

Kassa Overall – Make My Way Back Home (feat. Nick Hakim & Theo Croker) [Official Video]

–『ANIMALS』に収録されている『Make My Way Back Home』についてお聞きします。最近個人的に、Eric B. & Rakimの『In The Ghetto』という曲を聴き返していて、この中で「It ain’t where you’re from, it’s where ya at(どこから来たかじゃねえ。どこにいるかなんだ)」というパンチラインがあるんです。それと対照的に、Kassaさんの『Make My Way Back Home』は、「別に家に帰ったっていいんだよ」というタイトルにも現れているように、人の弱さや繊細さを受け入れていて、まさに今の時代のヒップホップという感じがしました。それも、先ほどおっしゃっていた「抑圧」に抗うことにつながるのかなと思ったんですが、どうですか?

Kassa:なるほど。考え方がより現代的に進化したんじゃないかってことだよね?確かに、より繊細な物言いにはなっているね。でも、この曲のリリックをよく聞くと、「You could cry to your mama, but she don’t want no drama (母親に泣きついたっていい。でも、母親はドラマを望んではいない)」と言っているよね。確かに繊細な物言いにはなっているんだけど、結局のところErik B.とRakimの曲と同じメッセージを歌っているんだよ。つまり、「自分の世話は自分でするんだ」ってこと。その後の「I’ve been washin’ on my karma, got me working like a farmer(自分のカルマに向き合い、そのために農民のように働いた)」っていうリリックも同じだよ。わかるだろ?家が恋しくなったり、親のいる家に帰りたいと思ったりすることもあるだろうけど、実際のところ、世界は僕のことなんて大して気にもしていない。自分でレベルアップしなければならないってこと。

Erik B.とRakimの「どこから来たかじゃねえ。どこにいるかなんだ」っていうリリックには二重の意味があって、実際の場所というよりは精神性の話をしているよね。つまり、精神的な面において、どこからスタートしたかは重要ではなく、どこまで自分を高められたかが重要だってこと。だからどちらの曲にしても、自分を向上させないと始まらないよね、っていう話をしているんだよ。

–なるほど。ありがとうございます。ちなみにTomokiさんは文字通り日本の家に帰ってきたわけですけど、この曲に特に感じ入る部分はありますか?

Tomoki: 実は家にいる間、この曲をずっと聴いていました。今回のツアーで実家に帰って、1年ぶりに母に会ったんです。僕がKassaのツアーにも参加していることを、母はとても喜んでくれました。今回の来日を通して、母には僕の新しい一面を見せられると思いますし、自立した大人の姿を見せたいとも思っています。そういう意味で、この曲が自分の今のライフステージに共鳴する感覚はあります。日本にいられる期間は短いから「もう少しここにいたいよ」と母に泣き言を言うこともできるけれど、そこから成長する必要があるとも思っています。繰り返される物事や、懐かしく心地よいと感じるようなものを断ち切らないといけないなと。ある程度の年齢になって自立心が芽生えたら、誰かの子供であることに甘んじるのではなくて、自分の世話は自分で見られるようにならなきゃいけないんだと思います。

Kassa: そうそう、この曲にこめたメッセージはまさにそういうことだよ。

Pharaoh Sandersへの思い

–ご家族の話が出たので、もう少しだけTomokiさんにうかがいます。父親であるPharaoh Sanders氏が2022年に亡くなったことは、音楽ファンにとっても悲しい出来事でしたが、Tomokiさんが息子として経験した悲しみは想像を絶するものだと思います。話せる範囲で、お父様との時間について話してもらえますか?

Tomoki:父は、2022年のWe Out Here Festivalで一緒に演奏した数週間に亡くなりました。僕は最期の日まで、父のそばで身の回りの世話をしてきたので、彼を目の前で看取ることができたんです。もちろん亡くなってすぐは現実を受け入れるのがとても辛かった。2022年の後半から2023年の初めにかけて、まるでひどい悪夢を見ているかのようでした。でも時間が経つにつれて、痛みを経て少し強くなった実感もあるし、学びもありました。彼が亡くなったことで、僕の楽観的な考えを失ったり、自分という人間がわからなくなったり、あるいはこの世界で自分がやるべきことを見失ってはいけないし、そうならないための方法を見つけなきゃいけない。僕にとって父の音楽を聴いたり、演奏したりすることは、彼をただ懐かしんで思い出に浸ることではなく、彼がどんな人物であったかを改めて噛みしめる、ある種の癒しのようなものなんです。

–ありがとうございます。Pharaoh氏とのつながりで言うと、Lil BやShabazz Palaces、Francis and the Lightsをフィーチャリングに迎えた『Going Up』は、その楽曲の複雑さや完成度もさることながら、Pharaoh氏がトンネルの中で『Kazuko』を演奏している映像へのオマージュが含まれている感動的なMVも印象的でした。映像を制作したNoah Porter(ノア・ポーター)長年のコラボレーターですが、それぞれの曲のビデオはどのように作っているんですか?

Kassa:一緒に何かを作る上では、信頼関係が重要だと思っている。僕が作品を制作しているとき、一緒に仕事をしている人たちは僕が具体的に何をしているのかわかっていないことが多いんだ。まあ、単に作品作りの進め方が違うだけかもしれないね。だから、コラボレーターから「君がやりたいことってこういうこと?」みたいな感じで確認されることが多いんだ。僕は大抵「そうそう、そんな感じ。」と答えるんだけど。

つまりここで言いたいのは、僕も他の人たちと一緒に仕事をする方法をちゃんと学ばなければならないということ。僕は、Noahのようなコラボレーターと一緒に仕事をしているとき、彼らの持っているビジョンをちゃんと把握していないことが多い。彼らが僕のやっていることを理解していないようにね。とは言え、彼の仕事ぶりは理解しているし、彼が何を見て、どういう能力があるかはわかっている。要は信頼関係の問題なんだ。彼と一緒に仕事をするのはとても勉強になるし、毎回、最終的に出来上がる作品は、自分ひとりでは思いつかないようなものばかりだよ。だから、彼との仕事は大好きなんだ。

Kassa Overall – Going Up (ft. Lil B, Shabazz Palaces, Francis and the Lights)

–ではトンネルでの撮影も彼の提案なんですね?

Kassa:そうだね。曲に参加してるLil BもMVに出てもらいたくて結構長いこと調整したんだけど、結果的に参加できなかったのはちょっと残念だったけどね。

日本文化のレイヤー

–ちなみにPharaoh氏は、初めて触れた日本文化から受けた感銘を表現した美しい楽曲『Japan』を発表していますね。

Tomoki:確か、父はJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)との日本でのギグの後にあの曲を書いたはずです。父にとって最初の海外公演が、Johnが亡くなる1年前に行った彼の最後の日本ツアーで、父はその時26歳でした。父は、初めて乗った0系新幹線の中で、あの曲を書いたと言っていましたね。戦後の高度経済成長で盛り上がる日本で、ニューヨークや彼の故郷であるアーカンソー州リトルロックでは見ることのできない、まったく新しい世界を目の当たりにして、未知のことをたくさん経験したんだと思います。だからこの曲自体が、彼の日本での経験を、写真を撮るような感覚で記憶したものなんだと思います。僕も日本は好きだから、この曲を書いた父の思いは理解できますね。

–Kassaさんは、日本にたくさんのファンを抱えていますよね。

Kassa:そうだね。ファンの数で言ったら、アメリカより日本の方が多いかもしれないね。

–それは日本文化とKassaさんの音楽の相性が良いということなんでしょうか?Kassaさん自身は、日本文化にはどんな印象を持っていますか?

Kassa:実はさっき朝食をとったレストランが、現金払いのみだったんだ。そしたらバンドメンバーの1人が、「日本は未来のテクノロジーの国じゃないのか!なんで現金だけなんだよ!」って嘆いていたよ(笑)。

それで僕が思ったのは、どんな文化だって一枚岩じゃないってこと。そうだろ?東京はまるでスター・ウォーズの世界のように近未来的だけど、日本には、そういったテクノロジーと同じくらい、伝統的で有機的なエネルギーがある気がする。それは、僕の音楽のあり方にも似ている気がしていて、その部分が日本でたくさんの人が僕の音楽を聞いてくれている理由なのかなと思うことがある。僕の音楽はエレクトロニックでグリッチ的で奇妙だけど、すごく有機的でもあって、その両方が一緒になっている。うーん、言いたいことをいちから説明すると、とんでもなく長くなっちゃうな(笑)。今話したのは、ほんの前置きなんだ。

–全部話してくれて大丈夫ですよ(笑)

Kassa:まあ要約して言うと、あらゆる文化は何層にも折り重なった層になっているということ。そして日本文化に関して、僕はまだ、その層の表面に触れただけだと感じている。日本に滞在していて良いなと思うのは、公園の中でも、街中でも、朝食の時でも、とても静かなところだね。それは、僕の好きなレコードの音にも似ていて。僕は、繊細で、収録された時の「空気」が聴こえるようなレコードが好きなんだ。だから、そういう要素を持ち合わせたレコードをディグっているんだよね。

それから、日本で生まれたスピリチュアルな要素にも若い頃からずっと惹かれていた。瞑想とかね。でも、これらはすべて表面的なものに過ぎないということも理解している。だから、日本でこういった事象が起きている理由や、この両極的な要素がどこから生まれてくるのかをもっと深く知りたい。でもTomokiは、この日本の「静けさ」を、僕ほどは好きじゃないんじゃないかもしれないね。Tomokiはいつもアゲアゲだから、「こんな静かな場所は我慢できない」ってなるんじゃないかな(笑)僕はどんな文化も好きだけど、独特な特徴がある日本の文化にはとても興味があるし、もっと深く知りたいと思っているよ。

–なるほど。Kassaさんの音楽の多面的な部分が、日本で多くのファンを惹きつけている理由という分析は面白いですね。

Kassa: 何年か前、まだ今のように多くのファンがいなかった時、「僕は日本では有名なんだぜ!」ってよく冗談で言っていたんだ。SoundCloudとかに曲をアップして、「知らないのか?この曲は日本で売れてるんだぜ?」っていう感じでね(笑)まあ、正確にはわからないけど、僕の音楽は日本と相性のいい多面性を体現しているのかな。それでこうしてツアーに来られているんだから、日本のファンには感謝しているよ。

場所を言い訳にしない方法

–Kassaさんに日本の「静けさ」があんまり好きじゃないんじゃないかと言われていましたが、Tomokiさんは日本とアメリカ、どちらが自分らしくいられると思いますか?

Tomoki:比べるのは難しいけれど、状況によりますね。僕が拠点を置いているニューヨークは、夜中にジャムセッションに出かけたりできるし、そういう自由なライフスタイルを楽しめる場所です。一方で日本にはニューヨークにはない良さがありますね。安全だし、平和で穏やかな環境があるし、人もみんな礼儀正しいし。今回は、1ヶ月日本にいるけれど、母に会ったり、温泉に行ったりして、とても癒されました。そして、僕の地元である水戸市のスタジオにも行って、毎晩レコーディングをしたり、オーナーに70年代のラテン音楽や、アフリカ音楽のコンピレーションCDを聴かせてもらったり。でも同時に、僕は忙しく動き回っていたい人間なので、そういう部分は日本よりもニューヨークが合っているなと感じます。

–それに関連して、Kassaさんは、シアトルやニューヨークを行き来する生活をしていると思いますが、移動が多い生活の中で心地よい時間を過ごすために心がけていることはありますか?

Kassa:2013年から2016年くらいにかけて、Dee Dee Bridgewater(ディー・ディー・ブリッジウォーター)やTheo Croker(セオ・クロッカー)と一緒に、常にツアーをしているような生活を送っていた。その時は、日課や朝のルーティンを持つことに夢中で、どこにいたとしても、場所を言い訳にしない方法を模索していたんだ。だからまずはバッグいっぱいの本を持ち歩く代わりに、小さな電子書籍リーダーを買った。その中には、スピリチュアルな本から、瞑想的な自己啓発本、そしてどこでもできる運動法の解説本など、たくさんの本が入っていた。そんなふうに「何も必要としない」生活パターンを作り始めたんだ。次第に、居心地良く過ごすために必要なことは全てできるようになった。それからは自分がどこにいるかは問題ではなくなり、どのくらい時間があるか、という問題にフォーカスするようになった。それは音楽制作に関しても同じで、自分自身が音楽スタジオを「携帯」できるような方法を模索してきたんだよ。

–以前、自分自身を「バックパック・プロデューサー」と呼んでいましたもんね。

Kassa:そうだね。実は今朝も、ホテルでビートボックスをしていたんだ。そしたらガールフレンドがそのビートを気に入ってくれたから録音した。そのあと、一緒にジョギングに行くことになっていたんだけど、彼女は身支度に時間がかかっていた。だから彼女を急かす代わりに、録音したビートボックスを基にしてビートを作っていたんだ。

ビートボックスをやっていた時に、彼女がHerbie Hancockの『Watermelon Man』の冒頭のフレーズを歌っていたんだ。それが良い感じだったからサンプリングをして、ビートに合うようにスピードを上げ、少し音数を減らした。(録音したビートを流しながら)こんな感じにね。概して言えるのは、アイデアを得るためには様々なテクノロジーが必要で、スタジオに入ってあれこれ作業をしなきゃいけないと思うこともあるけれど、「速さ」が最良のテクノロジーってこと。より良いクオリティを追求するのは重要だけど、すぐに動き出せるってことが何より大切なんだ。おっと、どんどん話が逸れてきちゃったね(笑)

–いえいえ。面白いお話をありがとうございました。最後に日本のファンに何か伝えたいことがあればどうぞ。

Kassa: 僕の音楽を聴いてくれてありがとう。もし僕が作った作品を気に入らなかったとしても、僕は1人の人間で、常に成長し、変化し続ける人間であることを忘れないで。そして、やりたいことがある人は、それがたとえ他の人に認められなかったとしても、自分がいいと思うのならそれを追求してほしい。

Tomoki:じゃあ最後は日本語で話しますね!カッサ兄さんの素晴らしい音楽を聴いてくれているみなさんに感謝しています。これからもカッサ兄さんの音楽を楽しんでください!今後ともよろぴくー!

Kassa: ん?Tomokiはなんて言ったんだ(笑)?

Photography Mayumi Hosokura
Special thanks Miho Harada

author:

佐藤 慎一郎

1986年生まれ。上智大学法学部卒業後、美術書店勤務を経て渡英。ロンドン大学バークベック校修士課程(MA Culture, Diaspora, Ethnicity)修了。在英中よりアート、ファッション、文化批評を専門とするフリーランスの翻訳者/コーディネーターとして多くの出版、展覧会、L10N、映像制作、アートプロジェクトに携わる。2021年にINFASパブリケーションに入社。TOKION編集部では主に翻訳を担当。

この記事を共有