オールナイトニッポン Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/オールナイトニッポン/ Wed, 16 Nov 2022 08:46:15 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png オールナイトニッポン Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/オールナイトニッポン/ 32 32 ラジオパーソナリティとして佐久間宣行が多くのリスナーから支持される理由とは 『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から考える https://tokion.jp/2022/11/17/why-is-nobuyuki-sakuma-supported-by-many-listeners-as-a-radio-personality/ Thu, 17 Nov 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=156310 深夜ラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』のパーソナリティ・佐久間宣行はなぜ多くのリスナーから支持されているのか。ライター・村上謙三久によるコラム。

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ラジオパーソナリティとして佐久間宣行が多くのリスナーから支持される理由とは 『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から考える

2019年4月にスタートした深夜ラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』。毎週水曜日の27〜28時30分に放送され、幅広いリスナーから多くの支持を得ている。10月29日には、1万人規模のイベント「佐久間宣行のオールナイトニッポン0 presents ドリームエンターテインメントライブ in 横浜アリーナ」を成功させ、11月2日には『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』の2作目となる番組本が出版されるなど、その人気はますます高まっている。今回、本書を軸に、ラジオパーソナリティとしての佐久間宣行の魅力に迫る。

リスナーからパーソナリティに

『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』にとって、2冊目となる番組本『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』が発売された。放送3年半で、番組本が2冊刊行されるのは異例のこと。それだけこの番組がリスナーから支持されている証拠だろう。

そもそもこの番組が生まれる過程からドラマティックだった。地元・福島で『伊集院光のANN』や『電気グルーヴのANN』などの深夜ラジオに魅了された青年が、ラジオディレクターを目指してニッポン放送の就職試験を受けるも三次面接で脱落。その後、テレビ東京に入社してテレビマンとして活躍するようになるが、ラジオのリスナーではあり続けた。たわいもないつぶやきをキッカケに『アルコ&ピースのANN』シリーズでしつこくいじられ、ついには番組に生乱入したことでニッポン放送と接点が生まれると、『ANN』単発特番を経て、ついにレギュラーパーソナリティになった……。“エピソード0”というべきこの流れは書籍化してほしいほど劇的。ラジオ好きが巡り巡ってパーソナリティに就任する過程を追ってきた深夜ラジオリスナーは、最初から『佐久間宣行のANN0』が面白くなるとわかっていた。

昨年発売の番組本第1弾では、テレビ東京に所属する一介のサラリーマンだった佐久間が深夜ラジオのパーソナリティとして活躍していく過程を追っていた。今回の第2弾では、テレビ東京から独立してフリーとなり、テレビ以外の場にも進出していく様子を、番組の内容を踏まえつつ振り返っている。

「無名の存在を早くから起用し、パーソナリティがメジャーになっていく様を側面から伝えて、リスナーに追体験させ、ムーブメントを起こす」というのが『ANN』の伝統。当初は「コアなお笑い好きは知っているテレビ東京のプロデューサー」だった佐久間が世間から注目されるようになり、今やNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の特番でMCに起用され、番組発の音楽イベントを横浜アリーナで開催し、サンボマスターと共に『世界をかえさせておくれよ』を熱唱するようになった。その過程を伝え続けてきたのは、“これぞ『ANN』”と拍手を送りたいほど。人気パーソナリティが並んでいるがゆえに、無名の人間が入り込みづらくなっている現在の『ANN』において、一介のテレビマンだった40代のオジサンが『ANN』本来の魅力を体現しているのは面白い現象。「『ゴッドタン』のプロデューサーだからラジオを聴いてみよう」ではなく、「パーソナリティがプロデューサーだから、『ゴッドタン』を見てみよう」という現象まで起きている。

『佐久間宣行のANN0』の2つの魅力

『佐久間宣行のANN0』には『ANN』という深夜ラジオが紡いできた魅力が詰まっている。1つは華やかな世界の裏側を伝える点。お笑い芸人ならテレビのバラエティ番組や地方営業、アーティストなら音楽番組やライブなどの裏話を語ってくれるのが深夜ラジオの醍醐味の1つだ。

佐久間も自分が関わっているテレビ番組やYouTube動画の裏側をよく話しているが、彼が基本的に「裏方」なのは見逃せない点。本来なら、出演者側から見た裏話が語られるのだが、佐久間の場合は「出演者が裏側でどんな状況だったか」にとどまらず、「制作側の意図」や「裏方側に起こっていた事件」など“裏の裏”まで明かしてくれる。こういうコアな情報を知れるのは、深夜ラジオというメディアにも、裏方に注目が集まる今のご時世にも上手くハマっている。

この魅力と連動しているのがゲストとのトークだ。『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』にも田中卓志(アンガールズ)、伊集院光、飯塚悟志(東京03)、千鳥とのトークが文章として掲載されているが、ここでも佐久間の裏方視点が活きている。雑誌でライターがインタビューするのとも、芸人同士の対談とも違う。演者と近すぎず遠すぎず、ちょうどよい距離感と客観性を保っている佐久間は、リスナーが触れてほしい話には踏み込むけれど、明確なリスペクトが感じられて、聴いていて心地いい。

2つ目の魅力は多くのエンターテインメントを紹介してくれる点。ドラマやバラエティ、アニメ、映画、配信作品といった映像関連はもちろん、音楽(番組内の選曲を含む)や舞台、さらには気に入った飲食店まで、これまでこの番組で紹介されたエンタメ関連は本当に多岐にわたる。根本にあるのは佐久間がそれらを心の底から楽しんでいること。多忙な上に、長年テレビ業界で働きながらも、いまだにエンタメへの純粋な興味が尽きないのはある意味、才能と言えるかもしれない。

ラジオを一定期間聴くと、パーソナリティ達が触れてきたカルチャーを追体験することにつながる。テレビなどとは違い、時間的な余裕はあるから、それに付随する思い出や思い入れにまで触れることができる。このコラムを書いている私自身、ライターを志したきっかけはあるパーソナリティが深夜ラジオで紹介した小説を読んだから。佐久間が語るエンタメトークはさまざまな形でリスナーに影響を与えているだろう。

この番組の若いリスナーからは「世代の違うオジサンが熱っぽくエンタメを紹介してくれるのが面白い」という声をよく聞く。現在はサブスクリプション文化全盛で、自分の好みに寄ったエンタメにはいくらでも触れられる一方、自分の興味から漏れたものに触れる機会は少なくなっている。若いリスナーのそんな需要を『佐久間宣行のANN』が担っているのだ。

等身大のトークの面白さ

ここまで「華やかな世界の裏側を伝えている」「多くのエンタメを紹介している」という部分を『佐久間宣行のANN0』の魅力だと書いてきた。この2点が番組の特徴だと語られがちだし、実際に魅力的な要素なのだが、番組本が2冊出るほどこの番組が支持されている理由は別にある。

テレビプロデューサーという肩書きやエンタメ要素を取っ払った部分で、40代のオジサンである佐久間宣行というパーソナリティと、等身大のトークが面白いのである。単純にただただ「ラジオ」として面白いのだ。

だからこそ、この番組の魅力が最も詰まっているのは、数千人が集まる番組イベントでも、大物ゲストがやってくるスペシャルウィークでもなく、特に事件が起きない通常回にある。番組本にも掲載されているが、「日本民間放送連盟賞ラジオ部門中央審査生ワイド番組部門」で最優秀を受賞した思春期の娘との箱根旅行話(2022年4月6日放送回)は、ただの通常回だった。

今回の番組本の巻頭で、佐久間は「ラジオをやればやるほど感じるのは、『自分が本当に思っていることを話したほうが伝わる』ということで、その姿勢はずっと変わりません」と語っていた。そんな等身大のトークに加えて、初回から……いや、『アルコ&ピースのANN』乱入時からずっと変わらない「ラジオをやるのが楽しい」という姿勢がリスナーの心を佐久間が掴んで離さない部分だろう。とにかく楽しそうに笑う様子からは、開始から3年半経っても深夜ラジオを担当する喜びがヒシヒシと伝わってくる。

優しい視点も見逃せない。批評や批判が溢れる世の中において、ラジオ上の佐久間はあくまでエンタメを楽しむ姿勢を崩さない。何かをバッサリと斬り捨てる言葉は刺激的だけれども、何年もそんなラジオを聴き続けるには精神衛生上よくない。前向きに評価して、面白いポイントを探す佐久間の姿勢が番組全体のムードを作っている。今の深夜ラジオ全体もそういう方向に進んできていると思う。

印象的なのは、上記した思春期の娘との箱根旅行話。父親目線で娘との旅行を語った後、さまざまな立場のリスナーから反応があったが、ある男子高校生リスナーから「ディズニー好きの母親と2人でディズニーシーに行き、『いるわけのない友人と会うのではないか?』や、絶対に気のせいである周りからの視線を気にしてしまい、『もう2人で来ることはないね』と母に言ってしまいました」というメールが届いた。

これに佐久間が「待てよ!」と反応。「母ちゃんにとって伝説の一日だぞ? これは反省してください。なんでかって言うと、お母さんの伝説の一日を最後に悲しい思い出で終わらせているから。思い出したら、毎回悲しい思い出になっちゃうじゃないですか。ていうことは、これは答えは1つです。もう1回行く。もう1回行くしかありません」と忠告した。

その後、エンディングでもこのメールに触れ、佐久間は「絶対に行けよ」と念押ししているのだが、同時に「そもそも高1で母ちゃんとディズニーシーに行っている時点で、お前はメチャクチャいいヤツだな」とも語っている。そういう言葉を添えられる佐久間だからこそ、リスナーに評価されているのだろう。

一人のリスナーとしては、もちろんテレビプロデューサーの活動も気になるのだけれど、それ以上にラジオパーソナリティを続けてくれることを密かに期待している。さすがに50代、60代になると深夜3時からの番組は厳しいかもしれないが、どんな時間でも佐久間ならパーソナリティとして活躍できるはずだ。朝や昼の情報番組やFMの音楽番組でのトークも聴いてみたい。

いつか『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』に続き、『脱サラパーソナリティ、還暦になる』なんて番組本を出版している未来があるかもしれない。そうなっても、孫の溺愛トークや最新のエンタメ紹介をしつつ、届いたメールを読んでは「わかる」と共感し、豪快に笑い、リスナー達に「相変わらずこの人はラジオが好きなんだなあ」と思わせてくれるはずだ。

■『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す ~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』
著者:佐久間宣行
ページ数:296ページ
定価:¥1650
発売日:2022年11月2日
出版社:扶桑社
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594092948

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学生芸人を経験したからできるラジオの作り方 『オールナイトニッポン』ディレクター野上大貴インタビュー後編 https://tokion.jp/2022/05/31/interview-daiki-nogami-vol2/ Tue, 31 May 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=119859 深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のディレクターを務める野上大貴のインタビュー後編。

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『オールナイトニッポン』ディレクター野上大貴インタビュー後編

スタートから55周年を迎えた深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』。放送時には各番組の話題がTwitterのトレンドの上位になることも珍しくない。そうした好調の『オールナイトニッポン』で、『星野源のオールナイトニッポン』『霜降り明星のオールナイトニッポン』『フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)』を担当するのが、期待のディレクター・野上大貴だ。

インタビュー後編では、学生芸人の活動からラジオディレクターとしてのやりがい、ラジオの今後について話を聞いた。

インタビュー前編はこちら

——野上さんはそもそもいつからお笑いに興味を持ったんですか?

野上大貴(以下、野上):2003年ぐらいから『M-1グランプリ』はずっと意識して見ていて、ちょうど小学6年生になったタイミングで、オリエンタルラジオさんが『エンタの神様』などでブレイクしたんですけど、それも追いかけてました。中学に入ってからよりお笑いを見るようになって。私立の中学に入って、最初は友達ができなかったので、お笑いに救われた部分がありました。中学2年生の頃、はんにゃさんがとても好きになって。金田(哲)さんが雑誌の『マンスリーよしもと』で「自分は『ナインティナインのオールナイトニッポン(ANN)』を聴いて、お笑いを学んだ」みたいに書いていて、それをきっかけでラジオを聴き始めたんです。

——ヨシモト∞ホールにも足しげく通っていたとか。

野上:「AGE AGE LIVE」とかにはメチャメチャ行ってました。周りは中高生や20代の女性ばかりだったので、男性はかなり浮いてましたけど。出待ちはちょっと怖くて参加できず、したいなあと思いながら、遠目に見て帰ってました(笑)。

——『ナインティナインのANN』を聴いた時にどんな風に感じました?

野上:その頃からすでに『めちゃ×2イケてるッ!』は好きだったので、ナインティナインさんお2人のこんなに濃い面白い話が聴けるんだと驚きました。こんなぜいたくな時間があるんだって。純粋に面白かったですし、岡村(隆史)さんみたいにしゃべりたいなと思って、当時の自分は口調をちょっと意識していた感じになっていたかもしれません(笑)。

——とはいえ、“ラジオっ子”みたいにはならなかったんですよね?

野上:「毎週この番組は絶対に聴く!」という感じではなくて。入社する前にニッポン放送の番組で習慣的に聴いていたのは、ナインティナインさんとオードリーさんの『ANN』ぐらい。それ以外は多少芸人さんの番組を聴いたことがあったものの、朝や昼、夕方の番組は一切触れたことがないぐらいでした。

ありえないぐらいスベって芸人を諦めた

——高校生の時からすでに1人でお笑いの舞台に立っていたらしいですね。

野上:本当は相方と一緒に漫才をやりたかったんですけど、高校全体を探しても見つからなくて。1人で出られるようなわけのわからない地下お笑いライブに出てました。30~40代の地下で頑張ってらっしゃる方々と一緒に、高校生の僕が出て、メチャクチャスベってましたよ。エントリー料を払えば誰でも参加できるライブで、中野の「(Studio)twl」だったり、新宿だったり、いくつかのライブに出ました。

——どんなスベり方をしたんですか?

野上:本当にありえないぐらい……。あんな怖いことはもう人生で二度とないです(苦笑)。あれを経験したら怖いことないですね。その後の人生に影響を与えるぐらいスベりました。もちろん中学ぐらいからお笑いは好きだったので、芸人さんへの憧れはあったんですけど、高校生時代の数回の地獄スベりで、プロの芸人さんへの道はもうないなと。

——当時やっていたのはどんなネタだったんですか?

野上:1人2役のコントをやっていたんですけど、基礎的な演技ができてないから、演じ分けもできてないし、声も小さいし、何やっているのかわからなかったんだと思います。スベりすぎて、あんまり記憶にないんです(笑)。

——大学でお笑いやる時点で、プロになろうという気持ちはほとんどなかった?

野上:そうなんですが、高校時代から裏方を含めたお笑いへの憧れがずっとあって。あと、漫画の『べしゃり暮らし』(作・森田まさのり)を読んでいたんですが、子安(蒼太)という放送作家を目指すキャラクターがいたんです。芸人さんをサポートして、ブレーンとしてお笑いコンビの“第3のメンバー”みたいにやっている姿がカッコいいなと思って、そういう風になりたいなと。ただ、さすがに舞台で1回もウケたことないヤツだったら説得力がないだろうなと思ったんですよね。大学に行ったらさすがに相方は見つかるだろうと思い、大学お笑いに挑戦しました。

——野上さん自身の大学お笑いでの芸風はどんな感じだったんでしょう? 以前お聞きした時は「尖っていた」「タブーに挑戦していた」と言っていましたが。

野上:最初の頃は丁寧な漫才もやっていたんですけど、学生の大会で勝っている人達は、プロの世界には遠く及ばないにしても、なんとなくみんな個性を発揮していたんです。だから、僕も2年生、3年生となっていくにつれて、徐々にブラックユーモアを取り入れていきました。

——エッジの利いた芸風になっていったと。

野上:ただ、大学生活の終わりが近づくと、学生独自の感覚として、絶対にプロには行かない人達が5人以上の集団コントをやるという習わしがあって。コンセプトを合わせてやったんですけど、時事や歴史をネタにしたザ・ニュースペーパーの学生版……みたいな感じで。「どこまでできるのか」という攻めた内容でしたし、小道具も相当作り込んで、仮装大賞みたいな感じで全員の衣装をそろえてやってました。それがウケて。誰もそんなことやってなかったのも大きいですし、大学生だったら受験を経ているので、歴史の用語も面白おかしく笑えるから反応がよかったんだと思いますが。

——そこでやりきった感があったんですか?

野上:今は規模がより大きくなっているんですけど、毎年3月に団体戦の「NOROSHI」という大会があって。決勝まで進めて手応えはあったんですけど、審査員の1人から「これはお笑いじゃない」とメチャクチャ酷評されまして(笑)。100点満点で50点をつけられて敗退しました。その時点で、自分は学生お笑いをやりきって、お笑いじゃなくなってしまったんだなと。漫才論争なんて話じゃなく「もはやお笑いじゃない」と言われちゃったんで。

放送作家を目指していた大学時代

——放送作家志望として、大学時代にすでに活動をされていたそうですね。

野上:大学1~2年生の時に、短期で養成所の作家コースに通いつつ、実際にテレビをやられている作家さんの手伝いをしていました。弟子というほどではないですけど、業務を一緒にやりながら勉強する人を募集していたのでそれに応募して。実際に2年弱ぐらいやっていたんですけど、その時に作家さんとして必要な能力……もちろん考える力もそうですし、それ以前に必要な忍耐力や気の遣い方、先輩とのコミュニケーション力など全てが圧倒的に欠けていたので、自分の中で壁にぶつかって「どうしたもんかな?」と。ちょうどその時に就職活動がスタートしたので、広いテーマとしてマスコミを目指そうと考えてました。ラジオだったら好きだったニッポン放送が募集していたので、当時活躍されていたディレクターの宗岡芳樹さんのことも調べて、ディレクターという仕事を再認識し、それで試験を受けた感じですね。

——先ほど挙げた作家として必要な能力は、社会人やディレクターにも必要な能力なのでは……(笑)。

野上:そうですね(苦笑)。あまりその辺りが上手な人間ではないんですけど、でも結果的には自分の選択はよかったんじゃないかと思っています。ディレクター的なアプローチのほうが自分には向いているのかなって。

——ディレクター的なアプローチというのは?

野上:作家さんは頭を使ってひねり出して、“0を1にする”のが仕事ですけど、今のようにディレクターとして“1を2や3に増やしていく”ほうが自分には合っているのかなって。深いところまでやっていないですけど、それでも作家さんの発想力のすごさはわかりますから、自分はディレクターの道を選択できてよかったなと思います。

——ディレクターの仕事内容はリスナーとしてもつかめない部分がありますが、具体的にどんなことをやっているんでしょう?

野上:大前提として、番組の1年間ぐらいのスケジュールを定めて、「この時期にこんな企画をやろう」という部分を固めます。毎週の放送では、事務所やパーソナリティとの事前連絡からゲストさんのブッキングはもちろん、SNSでの告知関係もまとめますし、作家さんと番組内容の打ち合わせもしています。ディレクターがキューシート(タイムテーブル)を作って、それを元に作家さんに台本を書いてもらうんですが、番組が開始する3~4時間前から準備を始めて、台本を手直しして。パーソナリティが来たら打ち合わせをします。で、本番中は「ここが盛り上がったら次はカットしよう」みたいにCMを含めてスムーズな進行をやっていくと。終わったらまた翌週に向けて動き出して、毎週番組がいい形で回転していくように考えていく。基本的には番組を監督する立場ですね。

——ラジオ界に入るまではそういう業務があると理解していましたか?

野上:肌感覚的には理解していたんですけど、1人でこれだけ裁量権があるなんて正直驚きました。テレビだとディレクターが何人もいて、さらにその上の役職にも何人かいて、みんなで作り上げるじゃないですか。もちろんラジオ番組も少人数ながらみんなで作り上げるものなんですけど、最後はディレクターの判断になるので、そこは想像できてなかったです。

「放送を邪魔しない変なディレクターでいきたい(笑)」

——今までのディレクター生活で一番苦労された部分はどこですか?

野上:連絡1つを取っても上手にやれる人は「この日まででブッキングを終わらせる」みたいにスケジュールを組んでいるんですけど、最初の頃はそれがヘタクソで、次のスペシャルウィークにやる内容が自分の担当する番組だけ決まってないということもありました。ディレクターとして放送を毎週きちんとやり遂げていけば、それだけで積み上げられる部分があるんですけど、番組としては、その週に生まれたアイデアの種を翌週に持っていき、さらに盛り上げていくことが大事なんですよね。その辺がよくわかっていなくて、最初は毎週の放送で手一杯でした。そこはこの1年ぐらいでやっとわかってきた部分というか。単発の番組をやる時にもその経験が活きていて、1回きりでどう盛り上げるか、どれだけ詰め込めるかを考えています。日々の放送で何が面白いかを探す意識が結果的につながってきたと思いますね。

——石井さんにインタビューした際には「本人(野上)は僕みたいなタイプになりたいと悩んでますけど。人ってないものねだりなんですよね。僕は宗岡さんに憧れて、そうなりたいと思っていたけどなれなくて。野上も僕の後ろについてやっていたから、僕みたいな感じでやりたいけど、タイプ的にはセンスでやるタイプだから」とおっしゃっていました。ご自分としてはどういうディレクター像を目指していたんでしょう?

野上:『ANN』のADとして見れたディレクターは、ほぼ石井ディレクター1人でした。何でもそつなくこなしてスムーズに進行するという意味では、トップレベルの方で、本当にすごいなあと思っています。僕はパーソナリティと一緒にお笑いを作っていくことに憧れていたので、石井ディレクターもそうですし、入社した時から数ヵ月しか一緒じゃなかったですけど、宗岡ディレクターもいらっしゃったので、憧れた部分はありましたね。

——ご自分の中にあった理想と、実際の向き不向きはあったんでしょうか?

野上:末端ですけど、自分は演者として一通りの地獄を経験したから、パーソナリティの方々は本当にどれだけ大変なんだろうと想像してしまうんです。本業がいろいろあって、そのあとに2時間しゃべるってどれだけ大変なんだろうと。だから、番組的にディレクターがあえて上からものを言って面白くするみたいなことが僕は苦手で。だから、そういうこともできる人はいいなとも思いますけど、逆に自分はそれができないからこそ、別の方法があるんだなって考えてます。今は番組にプラスになるのであれば、放送を邪魔しない変なディレクターでいきたいと思ってます(笑)。

——ディレクターという仕事において、「こういうことがあったからいい回だった」「こういう感覚になったらいい放送だった」と感じる基準はありますか?

野上:抽象的に言うと、心を動かされる回というか。メチャクチャ笑える回もいいんですけど、それにプラスしてちょっと泣ける感じがあったり、喜怒哀楽が全部詰まっているような回は終わったあとも忘れられないですね。しばらく高揚感が続いて、アドレナリンが出ているなって実感する時があります。でも、そういう回ってなかなか珍しくて。大きなニュースや大きなトラブルがあった時の放送がそうなりやすいのはありますが、そういう場合でも期待値に負けないぐらいパーソナリティが頑張ってくれたからこそいい放送になっていると思います。

——漠然とした質問なんですが、『ANN』らしさって意識していますか?

野上:もちろんいろんな年代の方が聴いてくださっていると思うんですが、「10代のリスナーにワクワクして聴いてもらえたら」というのはベースとして考えている部分ですね。あとは、『ANN』のブランドとして、どれを聴いても面白い“宝箱感”を意識しています。自分が担当しているのはその内の3番組なんで、そこは「今週も聴いてよかった」と思ってもらえるようにしようと。それだけは死守しよう、盛り上げようという思いはあります。それぞれディレクターがそういう意識を持って、今の『ANN』ができているんじゃないかなと。

——パーソナリティとのコミュニケーションの取り方で意識されている部分はありますか?

野上:僕はパーソナリティとのコミュニケーションがそんなにたくさんあるほうじゃないんですが、特にタイミングは自分の中で意識しています。「今は違うだろう」という時は絶対に話しかけないようにしていて、逆に「今は話したい感じなのかな?」と感じたら声をかけにいきます。それがちゃんとできているか、正解かはわからないんですけど。これから2時間話すわけで、その前にしゃべるのってしんどいだろうと思うんですよ。だから、番組に集中できるようにしてあげたいなって。

——大島育宙(XXCLUB)さんが配信番組で、野上さんが以前より自分の話をせず、話を聞くのがうまくなっていたと言っていました。

野上:放送中にパーソナリティの話を聞く意識はありますね。他のディレクターさんもみんなやっていると思うんですけど、人によっては放送中にあまり反応しない場合もあるんですよ。でも、僕は本番中も楽しんで、前のめりにパーソナリティの話を聞きたいと思っていて。手を叩いて笑ったり、無意識にやっているんですけど、ビックリするぐらいあいづちが多いかもしれません。

「まだまだAMラジオが生き残る術はある」

——今や『ANN』のスタッフにもいろんな活躍の仕方があります。野上さん自身も『星野源のANN』では出演する立場ですし、先輩の石井さんは書籍を出されました。今後やってみたいことってありますか?

野上:自分が経験できてないことで言ったら、日本武道館ぐらい大きな会場でイベントをやるのは憧れとしてあって。数万人規模のイベントはやってみたいですね。地上波の番組はありがたいことにいろいろやらせてもらっているんで。あとは、ポッドキャストの番組を立ち上げるのは楽しそうだなと思っていて、今は自分でやるチャンスはないですけど、いつかはやってみたいです。

——具体的なアイデアはあるんですか?

野上:芸人さんで、なおかつまだメジャーになってない人とやってみたいです。再生数がほぼ0に近いところからどのぐらい増やせるか、みたいなことは夢があるなって。人となりは全然わからないんですけど、えびしゃという「NOROSHI」で優勝しているトリオが、最近、すごく面白かったです。1人が僕のサークルの後輩なんですけど、大企業の内定を断ってまで芸人の道を選んだらしくて。ネタが圧倒的に面白くて、風貌も個性的で興味があるので、番組とかできたらいいですね。もちろんすでに大学お笑いのコアなファンはついていると思いますが、ラジオはゼロからのスタートだと思うんで、やってみたいです。

——『ANN』のスタッフも常に新陳代謝が早いですから、今後はいろんなことに挑戦できる立場になるんじゃないでしょうか。

野上:そうですね。僕も29歳になって、本当に深夜3時からは体が動かなくなってきましたから(笑)。

——いや、パーソナリティの皆さんは年上ですし、それはいくらなんでも早すぎるんじゃないですか?(笑)

野上:昨年度はMAXで深夜3時までだったんですけど、今年度は深夜3時からの放送があるので、本番前にどうすればいいんだろうって。事前にどこかで目をつぶれるタイミングがあればと思うんですけど、もちろんそんな時間があるわけもなく。僕よりもお忙しいパーソナリティの方は尊敬しますね。体力的に僕もできてあと数年だと思います。

——今後のラジオ界はどうなっていくと思いますか? ブームだと言われる一方で、聴取率や広告費は厳しい状況が続いています。

野上:個人的にはAMラジオ……特に『ANN』や『JUNK』は強いと思っていて。FMらしい音楽番組も面白いし、選曲も含めて素敵だと思うんですけど、Apple MusicやSpotifyで独自の音楽番組が始まっていますよね。でも、AMラジオの面白さや馬鹿らしさを、プロが大きな規模で形にする番組ってまだインターネットや他のメディアにはないのかなと。現在の『ANN』のバラエティ的要素はさらに独自に進化していったら、真似できないものになるんじゃないかなって。ラジオとしては生き残りのチャンスになるし、さらに盛り上がりを生んでいけると思います。

——最近はイベントやグッズ展開も活発になってきました。

野上:「ラジオはお金がない」といろんな方が言い続けてきたからか、前よりもリスナーの皆さんがリアクションしてくれるようになって、グッズやイベントに対価を払って見てくださる方も増えてきました。もちろんお金を払うことが全てじゃないですけど、そういう意識で支えてくださっているのは本当にありがたいなって。そう考えると、まだまだAMラジオが生き残る術はあるのかなと個人的には思ってます。

野上大貴(のがみ・だいき)

野上大貴(のがみ・だいき)
1993年4月5日生まれ。東京都出身。慶應義塾大学卒業。在学中は、学生芸人として活動。2016年ニッポン放送に入社し、『菅田将暉のオールナイトニッポン』『星野源のオールナイトニッポン』、『霜降り明星のオールナイトニッポン』『フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)』などの番組ディレクターを担当する。
https://www.allnightnippon.com
Twitter:@daikikeio

■『星野源のオールナイトニッポン リスナー大感謝パーティー』(BD+特典CD)
昨年9月に開催した「星野源のオールナイトニッポン リスナー大感謝パーティー」が映像作品化。特典CD付き。
発売日:6月8日
価格:¥5,500
https://jvcmusic.lnk.to/hoshinogen_ANN

Photography Masashi Ura

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人気パーソナリティとの番組作りで学んだこと 『オールナイトニッポン』ディレクター野上大貴インタビュー前編 https://tokion.jp/2022/05/24/interview-daiki-nogami-vol1/ Tue, 24 May 2022 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=118762 深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のディレクターを務める野上大貴のインタビュー前編。

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野上大貴ディレクター

スタートから55周年を迎えた深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』。放送時には各番組の話題がTwitterのトレンドの上位になることも珍しくない。そうした好調の『オールナイトニッポン』で、『星野源のオールナイトニッポン』『霜降り明星のオールナイトニッポン』『フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)』を担当するのが、期待のディレクター・野上大貴だ。

大学在学中は、学生芸人としても活動していたという経歴を持つ野上。番組内でもよくいじられるなど、愛される存在だ。インタビュー前編では、番組作りに対する思いから、『菅田将暉のオールナイトニッポン』や『星野源のオールナイトニッポン』で学んだことを中心に語ってもらった。

——リスナーから見ても、最近の『オールナイトニッポン』(以下、『ANN』)は好調だと思うんですが、ディレクターとして手応えはありますか?

野上大貴(以下、野上):僕が『ANN』のチームに入って4年目なんですが、3年前と比べて、Twitterなども含めて日常で『ANN』という単語に触れる機会が相当数増えているのかなと。電車に乗った時、たまたま隣の人のスマホが目に入って、radikoで『ANN』を聴いていたなんてこともありましたし、学生時代の友達が偶然聴いてくれて、“ディレクター・野上”と僕が一致して、連絡くれたこともありましたし、触れる機会が増えているなと実感しています。

——スタッフ視点で見ると、好調の原因はどこにあると思います?

野上:大前提としてパーソナリティが第一線の方というのはありますが、ディレクター1人ひとりが「このパーソナリティとやりたい!」という熱量を持って単発放送から進めていき、それが1年で終わらず、2年3年と続いていることが大きいと思います。2年目、3年目になっていくと、加速度的に面白くなっていくなと。個人的にもぺこぱさんを春まで担当していて、この春からフワちゃんを新しく担当しているんですが、2年目に入ってさらに面白くなっているなと実感しています。そうして長く続いているのが結果的に好調に繋がっているのかなって。もちろん1年できれいに終わる番組もありますが。

——そこは数年前と比べて明らかに変わってきていますね。『ANN』を聴いていると、番組内で野上さんの名前が本当によく出てくる印象があります。55年の歴史の中でも、スタッフとして屈指のいじられ方をしているというか。

野上:とにかく恐縮してますね。本当に真人間であろうと思っていて、自分ではスタンダードにやっているつもりなんです。新人の頃は先輩の石井(玄)さんに「ディレクターは普通なのが一番いい」と教えていただいて、そうなれたらなと思った時期もあったんですが、普通にしているつもりでも……(苦笑)。パーソナリティがいろいろと見つけてくださっているという意味では、ありがたくもあるんですけど。

——ここでちゃんと否定しておきますけど、自分から「いじってくれ」と言っているわけではないですもんね。

野上:それは特に言っておきたいです(笑)。

——ただ、こうやってスタッフがいじられるのも『ANN』らしさだなという気持ちもあって。それが好調をさらに後押ししている気もします。

野上:今の『ANN』は20~30代のスタッフで構成されているんで、パーソナリティから見てもそんなに年齢が変わらないから、絡みやすいというか、いじりやすいところがあるのかもなと。これがもっとベテランスタッフだったら、そう簡単には言えないと思うので。

「菅田さんとはまた機会があれば一緒にラジオをやりたい」

——そういう同世代感は放送を聴いていても伝わってきます。野上さんが担当している番組で言うと、菅田将暉さんの『ANN』がこの春で終了しました。パーソナリティの卒業を見送る気持ちはどうでした?

野上:もちろん番組としてはいろいろな終わり方がありますし、正解はないですけど、1つの番組があそこまできれいに終わることってなかなかないなと感じました。菅田さんのラジオに対する思いもありつつ、大号泣してさよならではなく、またどこかで会えるようなニュアンスで終えてくれたのは、作り手としても嬉しかったですね。リスナーさんは寂しい気持ちがあると思うんですが、菅田さんは「また会えるかも」という感覚を残してくれたんじゃないかって。

——想像できないんですが、あくまで仕事とはいえ、毎週菅田さんと会うのってどういう感覚なんですか? ふと「やっぱカッコいいなあ」って思ったりしました?

野上:撮影でいらっしゃる時なんかは特に「メチャクチャカッコいいなあ」って思ってました。ただ、ラジオはそんなにオンの状態じゃないからこそ、むしろ俳優というより人間としての菅田将暉さんを知れた3年間でしたね。最初の頃は僕がディレクターとしてペーペーで、反対に菅田さんはすでに日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を受賞されてましたから、本当にどう話しかけようかと悩んだぐらいで。「共通の話題はあるのかな?」というところから始まったんですけど、3年間やっていく中で、20代としての共通の感覚があるんだなと親近感が湧きました。

——毎週顔を会わせていたのが、番組終了で会わなくなるのはどんな気持ちになるんでしょう? 元カノみたいな感覚か、はたまた学生時代の友達なのか。

野上:ちょうど今、USJのCMをやられてますけど、それを見る時は“大学生にとっての高校時代の友達”みたいな感覚で。違うところで活躍されているのを見ると、嬉しい気持ちになります。寂しい感覚じゃなくて。ご本人が最終回で「これで二度とラジオをやらないわけじゃないので」と何回も強調されていたので、いつかまた機会があればご一緒したいです。菅田さんがやりたくなる時に向けて、「いつでも待ってます」と言える状態を作れたらなと思ってます。

——菅田さんと入れ替わるように、フワちゃんの『ANN0』が始まったのも不思議というか。いい意味で、暴れ馬みたいなパーソナリティじゃないですか(笑)。まだ野上さんが担当されてから期間は短いですが。

野上:菅田さんとは180度違いますからね。深夜3時~4時半の番組を担当してみて、自分も年齢を感じました。毎週これまで経験したことのないぐらいの疲労感で(笑)。ジェットコースターのような感じで楽しいですけど。フワちゃんとは4~5年前ぐらいから、Aマッソの加納さんの繋がりで、何度か食事の席でご一緒したことがあったんです。当時はブレイクする前だったので荒削りな部分はありましたけど、ベースは今と変わってなくて、「この人はこの先どうなっていくんだろう?」と惹かれるものがありました。今の状況は想像できなかったですが、より魅力に磨きがかかっていて。菅田さんもスターですけど、フワちゃんもスターなので、いろんなスターの形を見られるのは面白いですね。

——野上さんが担当している霜降り明星もここ数年で大きく変化されましたね。

野上:お2人とも最初にお会いしたのは4~5年前でした。すでに大阪ではブレイクされてましたけど、「絶対に売れてやるぞ」という野心家的な部分が印象に残っています。次に会った時は『M-1グランプリ』で優勝されて、1年間テレビ番組に出たあとだったので、全然違って見えました。核となっている部分は変わらないんですけど、その磨かれ方がすごくて、別人に感じましたね。

——野上さんが担当されている『ANN』に強いライブ感があるのは共通していると思うんです。『霜降り明星のANN』でもいわゆる「ポケひみ」回や、フースーヤがゲストに来た回、粗品さんがメール1000通に突っ込んだ回と、普通じゃない回がいっぱいありますよね? もはや野上さんがそういう空気を持っているんじゃないかと(笑)。

野上:僕自身としてはカッチリした形よりも、生放送中にいろいろと転んでいく感じが好きではあります。タイプとしては事前に時間を決めるのではなく、パーソナリティが自由に遊んでいるのを面白がっているタイプのディレクターかもしれません。

スタッフ全員で取り組む「星野ブロードウェイ」の魅力

——そういう感覚って、星野源さんの『ANN』をやってきた影響が大きいんですか?

野上:それはあると思います。最初にラジオについて勉強させていただいたのが菅田さんと星野さんの『ANN』だったので。もちろん菅田さんには菅田さんの雰囲気があるんですけど。星野さんの『ANN』には1年ちょっとADでついていたんですが、星野さんが毎週「これって面白くない?」と提案されて、翌週に……何ならその週の放送中に形になるというスピード感を間近で見ていたので。それが僕のベースになっているかもしれません。

——ここまでスタッフが一緒に前に出ている番組は『ANN』史上でも珍しいと思います。リスナーさんの投稿を元に台本にして、星野さんとスタッフがラジオドラマを演じる「星野ブロードウェイ」では、野上さんも演技を披露されています。悪戦苦闘する感じがリスナーとしてはまた楽しくて。

野上:全然大したことない自分の学生時代を思い出して頑張ってやってはいるんですけど……(苦笑)。でも、普段ディレクターの業務だけを純粋にやっていたらできない経験ではあるので、すごく楽しいです。最初の頃はリスナーの方々も楽しんではいても、半分「?」だったと思うんですけど、1年半ぐらいコーナーをやっていて完全に定着してきたなって。むしろやらない週はさみしがってくださるようになったのは、すごいことだなあって思います。

——当然ながら本職の星野さんは別として、一緒に出演しているスタッフ間では「あいつの演劇が上手くなった」みたいなライバル心はあるんですか?

野上:多少はあるかもしれないです(笑)。落合(凌大)君はADでついて1年ちょっとですけど、明らかに上手くなってますよね。あとは若干、作家の寺坂(直毅)さんと宮森(かわら)さんがお互いを意識し合っていて。片方がいい演技を見せた翌週には「自分もちゃんと勝たなきゃ」ってなってますし、片方がふざけたら翌週はもっとふざけた方向にいって。交代交代でやっているのも味が出ていていいんじゃないかと。

——この取材の直近の回(4月26日放送分)では、野上さんが多数のモノマネを披露されていて、笑わせてもらいましたよ(笑)。

野上:あれを全国36局ネットで流しているのは本当に申し訳なかったです……(笑)。5分間ぐらい本当に無の時間を作ってしまって、大丈夫なのかなと思いました。

——4月19日放送の「箱番組総選挙2022」には、野上さんがパーソナリティを務める『野上大貴の生でガミガミいかせて!』もエントリーしていて。お父さんや奥さんまで出演されていて、野上さんの本気を感じました。

野上:実はもうちょっと踏み込んだことをやろうか迷ったんですけど、一旦は奥さんをというところで踏みとどまって。次はどうするかってところまでは何となく頭の片隅にあります。

——箱番組は自分なりに考えて作り込んでいるんでしょうか?

野上:みんなそれぞれ違っていて、自分が面白いと思っていることを詰め込んでいる感じですね。今回は本当に誰にも内容を相談せずにやった結果、全く一貫性のない“謎の物体”を作り上げてしまって……。でも、事前録音ではあるんですが一発録りだったので、その場で考えてああなったんですけど、「もうちょっとこうしておけばよかったかな」という反省はあります。

——それぞれ面白い要素が詰まっていて、星野さんが楽しそうに笑っている印象が強い箱番組ですが、ディレクターとしてはいい経験になっているのでは?

野上:スタジオの中に1人で入ってやっているので、1人しゃべりの難しさを知りましたね。なおかつ、収録時には前に構成作家さんも誰もいない状態なのでより難しく、自分にはパーソナリティは一生できることではないなと思いました。

パーソナリティから受けた大きな影響

——『星野源のANN』でいうと、昨年9月に行われた配信イベント「リスナー大感謝パーティー」も苦労されたそうですね。

野上:ディレクターをやっていると定期的に番組イベントが行われるんですが、僕が担当してきた番組は最初の2年ぐらい何も開催してなくて。菅田さん、星野さん、霜降りさんとお忙しいパーソナリティばかりでしたから、「今後も自分がメインで担当することはなさそうだな」って思っていたんです。ただ、縁があって、星野さんと霜降りさんを担当することになったんですけど、ノウハウがわからなすぎて……。

——さすがにラジオディレクターを志した時に、大規模のイベントを仕切ることなんて想像してないですもんね。

野上:イベントだとチケット代をしっかり受け取っているので、普段以上のクオリティがなければいけない。1回きりのイベントなので、多少番組での前振りがあったとしても、そのイベントだけで完結している内容にしなければいけないですし、そこは意識しましたね。

——それに加えて、ここでも野上さんは出演者の側面もあって、コンテンポラリーダンスを披露したという(笑)。

野上:最初の会議の中でノリで決まって、ずっと(仮)の状態だったんで、1ヵ月前までは「この企画はまだ消せる」と思っていたんです。そうしたら、もちろん、すでにやる方向でチームの皆さんが動いてくれていて、「できる範囲でとにかく頑張ろう」と。

——野上さんの出演部分や放送中のちょっとしたアクシデントも、星野さんはいつも楽しんでいるイメージがあるんですが、直接アドバイスを受けることもありますか?

野上:星野さんは任せてくださっている部分が大きいです。番組内容で迷った時はこちらから相談したり、反対に星野さんから「こんなことをやりたいんだけど」という話があったりしますが、ディレクターへのスタンスとしては何も言わずに、あくまでも棲み分けをしてくださっています。その上での企画の相談や提案がコミュニケーションとしては多いですね。ラジオがどうやったら盛り上がるかをずっと考えていらっしゃって。音楽活動や俳優活動もお忙しいのに、本当に365日ラジオについて考えているんじゃないかと思うぐらいの熱量を感じますね。

——ディレクターとしては星野さんから影響を受けているのでは?

野上:すごく受けていると思います。石井(玄)さんも話されていましたけど、「いろいろと確認や調整をすれば、この企画はギリギリ形になるんじゃないか?」という星野さんを含めた全員が汗をかいて実現させる企画を提案してくださることが多いんです。他の番組であれば、スペシャルウィークはゲストをお呼びして、ブース内で完結させるのが普通で。それだけでもすごく面白いんですけど、星野さんの場合はキャンピングカーを1台貸し切って放送したり、この前だったら、ポメラニアンと上柳昌彦さんを共演させたり。そういう作業が発生するからこそ、途中でドラマも生まれるし、面白くなるんだと思うんです。こっちとしても終わったあとに“いい汗かいたなあ”って思えるような企画しかないんですよね。

活躍する学生お笑い出身者達

——野上さんが学生お笑いの経験があるからこそ、演者的な立場になり、また番組でいじられることが多いと思うんです。野上さんが所属していたのは慶應義塾大学のサークル「お笑い道場O-keis」ですが、同時期に在学していて、現在プロの芸人として活躍されている方は?

野上:真空ジェシカの川北(茂澄)さんが3つ年上です。学生時代に同じコミュニティにいた中では、一番面白いと思った人ですね。3つ離れているんで、サークルにはそんなに参加してなかったですけど、たまに食事で一緒になったり、僕がライブの手伝いをさせていただいたり。当時から「僕は裏方になりたいんです」みたいな話をしてまして、かわいがってくださりました。真空ジェシカと、他の大学出身ですが、スパナペンチの2組が養成所を経ずに人力舎に入ったのはスペシャルな例で、学生芸人たちが一番盛り上がった瞬間でした。そういう姿をカッコいいなあ、すごいなあと思って見てました。

——昨年の『M-1グランプリ』から注目を集めていますが、最近の真空ジェシカの活躍ぶりを見ていてどうですか?

野上:以前からずっとメチャクチャ面白いんですけど、正直2年ぐらい前まではテレビに出ている姿が想像できなかったので、「あの部室にいた人がテレビに出ている!」というのは今でも慣れないです。でも、まだテレビの視聴者層とギリギリでチューニングが合ってないような気がするので、深夜のコアな番組なんかにどんどんハマっていったら、冠番組もあるんじゃないかなって。

——世間が追いついてきた感じがありますよね。

野上:そうですね、本当に。同じサークルだと、川北さんの1つ下にストレッチーズとひつじねいりの細田(祥平)さんがいらっしゃって、その3人も本当に面白かったです。川北さんが売れた今、その3人が続いてくれたら、メチャクチャ熱いなあと思いながら見ています。あと、令和ロマンは学年が1つ下と2つ下のコンビで。別々にやっていたんですけど、学年が上がった時にプロを意識して組んだコンビなんです。一緒に学生お笑いのチーム対抗戦にも出ていました。

——同時期に学生お笑いで活躍されていたメンバーを挙げると、ひょっこりはんさんやサツマカワRPGさん、ハナコの岡部大さん、XXCLUB、YouTuberの水溜りボンドなどプロの世界でも活躍されている方が多いですが、ラランドのお2人もそうなんですよね。

野上:ラランドは2つ下で。1年生と比べるとキャリアが違うので、学生お笑いの大会ってだいたい3~4年生が勝ち進んでいくんですけど、ラランドは1年生の時から大会で勝っていました。僕が4年生の時も2年生のラランドに普通に負けましたし、本当に強かったです。ニシダさんはクズキャラを確立しつつ、ちゃんと計算できる頭の良さがあって、サーヤさんは女性的な感性がありながらも、男性脳的な面白さも使えるバランス感覚があって、2人ともメチャクチャ面白いですよね。今売れているのは納得できます。先日、星野さんの『ANN』に出た時は、ちょっとがく然とするぐらい面白かったですよ。僕が担当するようになってから、笑いの量ではトップレベルの回だったんじゃないかなって。同じ舞台に立っていた人が演者としてこんなに活躍していて、今後はラジオスターになれるんじゃないかと思いました。

——ラランドはニッポン放送でこそ番組を持っていませんが、サーヤさん個人も含めて、すでにラジオ界で活躍されています。

野上:元をたどったら、最初はGERAさんでやって、そこからTBSラジオや文化放送で番組を持ってなんで。インターネットラジオ出身のいいところも出ているし、地上波でも鍛えられているし、本当にいいなと思いました。

後編へ続く

野上大貴

野上大貴(のがみ・だいき)
1993年4月5日生まれ。東京都出身。慶應義塾大学卒業。在学中は、学生芸人として活動。2016年ニッポン放送に入社し、『菅田将暉のオールナイトニッポン』『星野源のオールナイトニッポン』、『霜降り明星のオールナイトニッポン』『フワちゃんのオールナイトニッポン0(ZERO)』などの番組ディレクターを担当する。
https://www.allnightnippon.com
Twitter:@daikikeio

■『星野源のオールナイトニッポン リスナー大感謝パーティー』(BD+特典CD)
昨年9月に開催した「星野源のオールナイトニッポン リスナー大感謝パーティー」が映像作品化。特典CD付き。
発売日:6月8日
価格:¥5,500
https://jvcmusic.lnk.to/hoshinogen_ANN

Photography Masashi Ura

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ディレクターから見た人気パーソナリティのすごさとは 『オールナイトニッポン』元ディレクター石井玄インタビュー後編 https://tokion.jp/2021/10/06/hikaru-ishii-interview-part2/ Wed, 06 Oct 2021 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=64851 『オールナイトニッポン』元ディレクターの石井玄へのインタビュー後編。人気パーソナリティとの関係性や今後のラジオ業界について語る。

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深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』(以下、『ANN』)の元ディレクターで、現在ニッポン放送の社員として番組のイベントなどのプロデュースを担当する石井玄(ひかる)。今年9月には自身の過去を振り返りつつ、約10年間務めたラジオディレクターの仕事についての想いを綴ったエッセイ集『アフタートーク』(KADOKAWA)を出版した。

今回、出版のタイミングで、石井のインタビューを前編と後編に分けて掲載。前編では単行本出版までの経緯からラジオディレクターに必要なことを語ってもらったが、後編で星野源や佐久間宣行、オードリー、アルコ&ピースといった人気パーソナリティとの関係性や今後のラジオ業界について話を聞いた。

――本の中でも触れていましたけれど、石井さんと関わりのあるパーソナリティの方々についてもお聞きしたくて。本の中にあった星野源さんとラジオスタッフとの距離の近さに驚いたんですよ。

石井玄(以下、石井):あんなスターがビックリしますよね。芸人さんはいい距離感を保つ人が多いんですけど、星野さんはグッとそこに踏み込んでくれたから、やりやすかったです。最初からがっつり組んでやりたいという方で驚きました。

――星野さんはパーソナリティとして、音楽についてなど真面目な話をする時と、くだらないトークをする時の温度差がありますよね。とても幅が広いなと感じるんですが、ディレクターとしては星野源というパーソナリティをどんな風に見ていました?

石井:「星野さんのいいところはどこだろう?」と考えたんです。番組の方向性に迷った時は、いつもそこに戻るんですけど、何より音楽が素晴らしい人なので、曲づくりの話だったり、実際に演奏したり、好きな音楽の話をしたりするのは、番組のコンテンツとしてもすごく大事で。あとは、あれだけのスターなのに、親近感が湧くトークをされるじゃないですか。音楽の話も、真面目な話も、くだらない話も、普通の人と変わらない話は、聴いていて身近に感じられて、とてもいいと思うんです。

あと僕が思っていたのは、「俳優・星野源を出したいから、そういうコーナーをやりたい」と。それで、長文のメールを読んでもらったり、今やっている「星野ブロードウェイ」(リスナーの投稿を元にしたラジオドラマ企画。スタッフも出演)もそういう意図で始めました。「僕は星野さんが本気で演技しているところをラジオで出してほしい」と言ってたんですね。この間、ご本人に聞いたら全く覚えてなかったんですけど(笑)。

星野さんの多彩な面、そしてラジオが大好きだから、それが全部出るような番組にしていったら、独特な『ANN』になっていって。ご本人は元々コサキン(小堺一機と関根勤によるラジオ番組)リスナーで、大好きだから、「スタッフと楽しくやっている感じを出したい」と言っていたのも今に繋がるんですけど、そういう形をやっていったら、オンリーワンになっていったなと。『ANN』の中でも他に類を見ない作り方をしている番組だと思います。

「佐久間さんはいずれ昼のワイド番組をやるんじゃないですか」

――佐久間宣行さんはこの本の解説を担当されています。テレビプロデューサーがパーソナリティをやるというのは前代未聞だと思うんですが、どの段階で石井さんはラジオをお願いしたいと思ったんですか? 『アルコ&ピースのANN0』に乱入した時点(2014年10月放送)でそういう考えもありました?

石井:乱入の時は、アルピーのことしか考えてなかったんで、いじってアルピーの仕事に繋がればいいなって思っていたかもしれないですね。単純に佐久間さんの反応がおもしろかったですし。乱入は本当に勝手に来たので、こっちもビックリしたんですよ。「本当に来た!」って(笑)。で、入ってきて喋ったらおもしろくて。本人がやりたいと言うから、企画としてその時はおもしろいなと思ったんですね。アルピーの番組でボコボコにいじられていた佐久間宣行というテレビプロデューサーが『ANN』をやる。これでさらに『アルピーのANN』は盛り上がるなって気持ちのほうが僕の中では強かった気がします。

それで実際に番組を放送したら、想像以上にトークがおもしろくて、「こんなに喋れるんだ! なにこのおもしろオジサン!」と僕と作家の福田さんの中でなって。テレビ東京の人がニッポン放送で『ANN』をやるという企画のおもしろさと、本人のおもしろさがあるから、これは上手くいくと、単発をやってみて思ったんです。それで、「『ANN0』のパーソナリティ候補の募集があったので、第2回の単発もそうですし、レギュラーとしても企画書を出したけれど、ほぼ無視されました。それはそうなんですよ。僕も半分ボケで出してますから(笑)。「まあ、無理ですよね。やったらおもしろいと思いますけど」という感じでした。

それから、いろんな事が起きて、いろんな方が動いて、番組が始まることになるんですけど、僕は実現までいくと思ってなくて、企画としておもしろいで止まっていました。今でこそ、フリーのテレビプロデューサーですけど、当時はテレビ東京の社員なんですから、本当にすごいですよね。

――佐久間さんは今やテレビのプロデューサーという肩書きをなしにしても、ラジオパーソナリティとして評価される存在になりました。

石井:最初は1年しかやらないと思っていて。長く続けるもんじゃないだろうと考えていたんで、番組にブーストかけたんですよ(笑)。普通は最初のほうは、ちゃんと番組の形を作ってから進めていくんですけど、番組がスタートして3週目には佐久間さんに劇団ひとりさんをブッキングしてもらって(笑)。形とか関係ない、どうせ1年で終わるんだからと。それからも千鳥さんや伊集院(光)さん、若林(正恭)さんも呼んで、毎月ゲストが来てるんですよ。そういうドーピングを最初からしようと考えてました。素人だからいいじゃないかみたいな発想で。

でも、開始して半年ぐらい経った時に、「あれ、これって続くんじゃない?」っていう空気になりました。当初は「ゲストのトークがおもしろい」「コンテンツを紹介するのがおもしろい」という番組にしようとしていたんですが、「佐久間さんのトークがおもしろい」になってきて。それで、下北沢の本多劇場でイベント(2019年10月8日開催)をやったら、チケットのオーダーが1万近くきて、人気も出てきたと。そこから僕は冗談で「タレントとして売れますよ」って佐久間さんに言い出して、本当に売れ出したから、びっくりしてます。11月にはイベントで、国際フォーラムのホールAに立つんですけど、信じられないですよね。

――喋り手としての今後の可能性もあると思うんですが。

石井:もう45歳なんで、深夜ラジオは体力的にもきつくなってくると思いますから、あと何年やるからわからないですけど、そのうち昼でやるんじゃないですか。1回、『東京ドリームエンターテインメント』(2020年2月に4日連続で放送)という特番をやったのも、福田さんと「佐久間さんでワイド番組をやりたいね」という話を冗談交じりにしてたからで。企画自体は当時の編成部長が出したものなんですけど、番組作りは今後を見越していたんです。豪華なゲストとのトークとコンテンツを紹介する企画にして、芸人さん以外の人も呼べるような番組をいつか昼でやることを見越して作りました。数字もよかったので、いろんな可能性はあると思います。なぜか2回目はまだないですけど(笑)。 

『オードリーのANN』は“日本代表の10番”

――本の中では、『オードリーのANN』で開催した日本武道館でのイベントの話にスペースが割かれていましたね。文章から熱さを感じたんですが、石井さんの中でオードリーはやはり特別な存在なんでしょうか?

石井:佐久間さんと星野さんと若林さんにはすごく影響を受けていて、一緒に仕事をしてきた中でも特別というか、「この人はすごいな」と思う人達で。中でもオードリーのお2人は僕が1年目からADとして関わっていましたから。前任の宗岡ディレクターから引き継いだ番組でもあって、ニッポン放送としても大事な番組ですし、今やラジオ業界にとっても最も重要な番組になっていますから、そこにかかるプレッシャーはすごくありましたね。

だから、「宗岡さんだからできていたのに、俺にできるわけないじゃん」というのがずっとあったし、オードリーさん自体も宗岡さんしかラジオのディレクターを知らないから、僕とやったときの違和感はたぶん相当あったんだろうなと思います。でも、やらなきゃいけないとなったし、その中で「ラジオ・チャリティー・ミュージックソン」(クリスマスに24時間放送する毎年恒例のチャリティー番組)をやるとか、武道館でイベントをやるとかになっていったんで、やっぱり悩みますよね。「まだまだディレクターとしては全然ダメなのにやっている」みたいな感覚でした。だから、今のディレクターの中村(悠紀)くんも相当大変だと思いますけど、そういう番組ですよね。“サッカー日本代表の10番”みたいな感覚です。

――若林さんも春日さんも年齢を重ねていますが、初めて会った頃と比べて変化を感じますか?

石井:以前は2人ともとっつきにくい、いわゆる芸人さんぽかったんですけど。もちろん僕がADだったからというのもあるんですが、年齢を重ねていく中で、丸くなっているというか、人間味が出てきたというか。年齢によるものなのか、経験によるものなのかわからないですけど、僕としては喋りやすくなりました。本にも書きましたけど、武道館では僕が思い悩んでいる時に話を聞いてくれて、ああいう風に一緒にイベントができたので、ものすごく信頼しているし、していただいているんだろうなと感じています。今でもそれは思いますね。

――ご本人も話されていますが、ゲストを呼んだ時に強く感じるのは、若林さんは人への興味がどんどん出てきているなと。『あちこちオードリー』(テレビ東京)でもそうなんですが。

石井:僕がディレクターになってからは、僕自身が特に世界観も持ってないし、やりたいこともないから、率直に若林さんに「喋りたい人いませんか?」って聞きにいったのが最初で。そうしたら、驚かれていて、「考えていいの?」みたいになって。

それで何回がやっていくうちに出てきたのは、「梅沢富美男さんを呼びたい」と。その発想って僕からは絶対に出ないですから。それで、梅沢さんを呼んで、ケツバットをした回(2016年12月17日放送)を放送したぐらいから、ゲストと長時間トークする企画はおもしろいからやっていこうという方向性になったんです。スペシャルウィークはもともと企画性がある回が多かったんですけど、僕の時からトークベースになっていって。

でも、『あちこちオードリー』が始まったから、今のディレクターの中村君は大変だと思います。だからこそ今は『あちこちオードリー』ではできない方向に持っていっている感じですよね。あばれる君やルシファー吉岡さんと企画をやったり、石川佳純さんもそうですし、『あちこちオードリー』じゃできないおもしろそうなことが『ANN』ではできると思っているんだろうから、ああいう企画になっているんだろうなって気がします。

もともと若林さんは人に興味がある人ですし、人に話を聞くのが好きになってきて、さらに聞き出し方も上手くなってますよね。『ANN』では若林さんが興味のある人が相手でしたけど、『あちこちオードリー』は佐久間さんが呼んでいる人もいるでしょうから。そこに対しても、若林さんは興味を持って聞いているので、その部分もどんどん進化していってるなって思います。リスナー目線で言うと、ナインティナインの矢部(浩之)さんとは『ANN』で喋ってほしかったですけど(笑)。

『ANN』後のアルコ&ピースの変化

――オードリーと同様に、アルコ&ピースのお2人にも年齢を重ねた変化は感じますか?

石井:ないですね……ウソウソ(笑)。酒井(健太)さんは変わってないですね。ちょっと真面目にはなったなって思いますけど。以前は2人ともいわゆる若手芸人の感じだったし、平子(祐希)さんはよく噂になってますけど、本当に尖っていたんで。楽屋でもコントばっかりしている時に僕らは接していたんですけど、「会話できないし、この人とはコミュニケーション取れないなあ(笑)」みたいなところから、今はちゃんと普通になったんで。根は優しくていい人ですから。それを隠すためにコントを仕掛けたんですけど、その辺がなくなってきて、人間味が出てきたと思います。

『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(TBSラジオ)はコントをやめて、2人の地のトークが増えていっているんですけど、それは2人のトークがおもしろいからで。人間としてもおもしろみがあるから盛り上がるし、平子さん自身がそういうところを出してくれるようになりました。恥ずかしがって出さなかったところをラジオのために出すようになったし、酒井さんがそういうところをいじれるようにもなった。酒井さん自身も奔放なキャラクターがどんどん出てきて。酒井さんの今のイメージができあがってきたのは、『ANN』が終わってからだと思うんですけどね。それから本当の意味でラジオスターっぽい、何をやってもおもしろい人達になってますね。

――『アルコ&ピースのANN0』なども一緒にやられた放送作家の福田さんは、石井さんにとって師匠みたいな部分もあるんですか?

石井:そうですね。「先輩の作家さんから教わる」文化がニッポン放送にはありますから。作家さんはベテランの方が多いですし、若手のディレクターはキャリアが上の人と組んで、「教えてあげてくださいよ」となるので。僕と福田さんは同世代ですけど、キャリア的には4年ぐらい上で、どうやってやるかわからないから、聞きながら覚えていった感じですね。それはみんなそうだと思いますよ。

――宗岡成分と福田成分でできているような……。

石井:そもそも福田さんも宗岡さんと仕事してましたから。アルピーも最初は宗岡さんと福田さんでやってて。畠山(健、構成作家)君もそうだし、みんな元々は宗岡派ですよ(笑)。

目標は「ラジオをブームにすること」

――石井さんは現在、イベントのプロデュースを行っていますが、ラジオ番組発のイベントの可能性についてはどんな風に考えていますか?

石井:ラジオ発だから上手くいっているみたいな感覚はあんまりないんですよね。アーティストがCDを買ってくれるファンに向けてライブをやるのと同じで、毎週聴いてくれるリスナーがいるから、そこに向かってイベントをやるという感覚です。

そこへの熱狂度合いは番組によっても違いますから、ラジオだから上手くいっているわけではなく、番組によっては上手くいくし、番組によっては上手くいかないんで。単純に聴取率がいい番組だから上手くいくわけでもないですし、数字がそこまでよくなくても、濃いリスナーが集まってくれたりする。その熱狂度合いはなかなか測る指標がないんですけど、みんながイベントに行きたいと思ってくれるような流れは他のコンテンツに比べるとラジオは作りやすいと思います。

――これまでリスナーはラジオ界に課金したい気持ちがあっても、それを向けるものがなかったですからね。

石井:リスナーの中にはファン意識、サポーター意識がある人もいるので、「番組のためになるなら」という感覚は昔からありましたけど、それがさらに最近可視化されるようになったので。別にイベントじゃなくても、グッズでもいいですし、最終形態としてファンクラブもありますし。三四郎のファンクラブもコンテンツをちゃんといっぱい作っているから、お金に見合うものになっていると思います。

あと、最近は番組以外のコンテンツでイベントを作りたいなという気持ちがあります。実現するかわからないですけど、放送作家のオークラさんが佐久間さんの『ANN0』で話していたCreepy Nutsと東京03によるライブを武道館でやるアイデアも、ラジオ発なんだけど、ラジオ番組イベントではないじゃないですか。『佐久間宣行のANN0』プレゼンツなのか、どういう形かわからないですけど、そういう新しい形でイベントをやれたらおもしろいですよね。

――今後のラジオ界はどうなっていくと思いますか? 若いリスナーが増えた、radikoを使ってみんな聴くようになった、と明るい話を聞く反面、業界的には厳しいという声も耳にします。

石井:コロナになって注目されているとか、聴いている人が増えたとか言っても、微増みたいな感じで。それによって僕らの給料が増えたり、ラジオバブルみたいなものが起きた りしたかといったら、全く起きてなくて、少しずつ下がってきたその角度がなだらかになった、あるいは平板からちょっと上がったぐらいの感じかなと。相変わらず厳しいし、ピンチなんですけど、興味を持ってくれている人が増えてきているから、そういう面ではこれからもっともっと広がっていく気はします。

今はポッドキャストが海外で流行ったことをキッカケに、SpotifyやAmazon、Appleが明らかにポッドキャストにお金を投入していて、他の会社もいろんなプラットフォームを作っているから、音声コンテンツ自体はこれからすごく伸びる可能性はあると思います。

そこにラジオがどう関わっていくか。どこかと組んで一緒に作っていくパターンと、プラットフォーマーとなってポッドキャストを独自に作るパターンと、今はその両方が走り出しています。そうやって、いつでもおもしろいものが聴ける環境が広がっていくと、当然地上波のラジオを聴く人も増えるはずで、僕が目標としている「ラジオをブームにしたい」ということも可能なのかなと。今みたいな「ラジオ来てるんじゃない?」みたいな感じじゃなく「来たね」となってほしいし、なるんじゃないかなと思っています。

――ラジオの本は以前と比べてたくさん出ていますし、数字もいいんですけどね。

石井:コアファンは増えているんですけど、全体のリスナーがものすごく増えたかと言ったらそうでもないんですよね。でも、僕が業界に入った頃は「どうしようもないね……」という空気が多少あったんですけど、今はみんなが諦めていた状況ではなくなってきています。ラジオ局の若い社員はラジオっておもしろいものだと思って入ってきているので、そういう人達がもっと活躍していけば伸びていく気がしますね。

星野さん、若林さん、佐久間さんのような人達はもちろん、山崎怜奈(乃木坂46)さんや松田好花(日向坂46)さん、佐々木久美(日向坂46)さん、高橋ひかるさんみたいに若い人がラジオを好きですと言ってくれることも増えているのは確かなので。若者の考え方が「ラジオってダサいものじゃなく、おもしろいもので、聴いているとカッコいいんだよ」という方向になってきている気がするんです。それがもっと浸透していけばリスナーも増えるだろうし、ラジオを聴くことが普通になっていくので。この本を読んで、それこそ学生が「ラジオ業界に入ってみたいな」「ラジオっておもしろいんだな」って思ってもらえたらいいですね。

石井玄(いしい・ひかる)
1986年埼玉県春日部生まれ。2011年ラジオ制作会社サウンドマン(現ミックスゾーン)入社。『オードリーのオールナイトニッポン』『星野源のオールナイトニッポン』『三四郎のオールナイトニッポン』『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』やTBSラジオ『アルコ&ピースD.C.GARAGE』などのラジオ番組にディレクターとして携わる。2018年オールナイトニッポンのチーフディレクターに就任。2020年7月にミックスゾーン退社後、ニッポン放送へ入社。エンターテインメント開発部のプロデューサーとして、番組関連のイベント開催やグッズ制作などに携わる。
Twitter:@HikaruIshii

石井玄による初のエッセイ集。「ラジオにまつわる仕事論」「ラジオに救われて業界を目指すまで」「ラジオを共に作ってきたパーソナリティ・放送作家・リスナーとのエピソード」の3パートで構成。番組を語るコラム、放送作家の福田卓也、寺坂直毅、ラジオディレクター宗岡芳樹らとの対談、TVプロデューサー・佐久間宣行の解説「元会社員パーソナリティが語るラジオマン石井玄」などを収録。

■『アフタートーク』
著者:石井玄
価格:¥1,650
ページ数:304ページ
出版日:2021年9月15日
出版社:KADOKAWA
https:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103001633/

Photography Hironori Sakunaga

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才能がないからこそ成功できた 『オールナイトニッポン』元ディレクター石井玄インタビュー前編 https://tokion.jp/2021/09/30/hikaru-ishii-interview-part1/ Thu, 30 Sep 2021 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=63754 ニッポン放送の石井玄が語る単行本『アフタートーク』出版の経緯からラジオディレクターに必要なこと。

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深夜の人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』(以下、『ANN』)の元ディレクターで、現在ニッポン放送の社員として番組のイベントなどのプロデュースを担当する石井玄(ひかる)。オードリーや星野源、佐久間宣行、アルコ&ピースなどの番組では、パーソナリティから「石井ちゃん」「ひかるちゃん」「石井君」と呼ばれ、リスナーからも愛される存在だ。

昨年7月に制作会社ミックスゾーンを退社し、ニッポン放送に入社。ラジオディレクターからコンテンツプロデューサーに肩書きを変えつつ、現在でも『ANN』に大きく関わっている。今年9月には自身の過去を振り返りつつ、約10年間務めたラジオディレクターの仕事についての想いを綴ったエッセイ集『アフタートーク』(KADOKAWA)を出版。ラジオディレクターの仕事を深く知れる貴重な1冊となっている。

今回、出版のタイミングで、石井にエッセイ集を出版するまでの経緯からラジオディレクターに必要なこと、パーソナリティとの関係性、ラジオ業界の今後についてなど、幅広く聞いた。インタビューは前編と後編に分けて掲載。前編では、出版の経緯からラジオディレクターに必要なことを語ってもらった。

――ラジオでパーソナリティがよく「本を出した時はたくさん取材を受けて大変だ」とか、「インタビューで写真撮影するときのポーズが面倒だ」とか言いますけど、実際に自分でやってみるとどうですか?

石井玄(以下、石井):まさにそれに陥ってます。写真は本当に何回やってもわからないですね。ただ、佐久間(宣行)さんみたいな真顔はやめて、笑顔をなんとか入れ込もうと(笑)。すべての取材で笑顔のカットは入れています。

――今日は取材日として複数の媒体のインタビューを受けたそうですが、連続して答えていると、お笑い芸人さんがよく言うように、話がどんどん過剰になるものですか?

石井:本の内容に沿った話なんで、それは大丈夫でしたね。佐久間さんが番組本(『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』)を出した時に取材に立ち合っていて、よくこんなにトークがパッケージ化されていくもんだなと思ったんですけど。4回取材を受けたとしたら、1回目にしたエピソードが徐々に肉付けされて4回目には完成されていたんですよ。「そんなこと、さっき言ってなかったのになあ」みたいな(笑)。そういうことは僕も多少ありますけど、インタビュアーの方も、ラジオ大好きな人もいれば、エッセイとして興味を持って来てくれた人もいて、質問の角度がちょっと違ったりするので、聞き方で答えも変わる感じがありましたね。連続で取材を受けたことがなかったので、経験としておもしろかったです。

――本を読ませていただいたんですが、ラジオのディレクターさんがこういう本を書いたことって今までなかったんじゃないでしょうか?

石井:僕は読んだことないです。探せばありそうですけども、変わった企画ですよね(笑)。

――『ANN』といった括りがあっての本は過去にもあるんですが、ディレクターという仕事について細かく書いたものはないので、ラジオ好きとしては「こんな本を待っていた」という気持ちになりました。

石井:最初にKADOKAWAの松尾さんという編集者からお話をいただいた時は、まさに『ANN』の企画本みたいなイメージかなと思ったんです。パーソナリティと対談して、写真も入れて本にしていくみたいなことかなと思ったら、「いや、エッセイを書いてほしい」と言われて、「普通の会社員に対し、なかなかのことを言いだしたな」と感じたんですけど(笑)。松尾さんが昔からラジオ大好きなヘビーリスナーなのかなと思ったら、そうじゃなかったんで、「じゃあ、書いてみようかな」って気持ちになったんです。なぜかというと、編集者がものすごくラジオ好きだったら、そう上手くいかないと思っていて。

ラジオが好き過ぎて作る本って、たぶん好きな人にしか届かないじゃないですか。ただでさえラジオが持っているパイが少ないし、その少ないパイをさらに削りにいったコンテンツを作ろうとすると、だいたい上手くいかないんです。でも、今回はそうじゃなく、僕という人間に、「仕事としての向き合い方などを書いてほしいです」というオーダーをされて。制作過程でも「ラジオを普段聴いてない人にも共感してもらえるようにする」という方向で作っていきました。

今日、取材していただいたライターさんの中には、ラジオをそんなに聴いてない方もいましたが、この本の2章で書いた、大学に行かなくなった話や仕事で思い悩んだことのほうが質問の主題になっていて、「そういう人にも届いているんだ」と。そこは編集の方が優秀だったんだなと改めて思いました。

「もし次に本を出すなら口述筆記にするって決めてます(笑)」

――文章もとても読みやすかったです。

石井:ありがとうございます。読みやすいって言われるんですよね。なんでなんだろうと考えるんですけど、自分の言葉にして書こうと決めたのがよかったのかなと。あと、僕は「ディレクターとして1文字も書きたくない」とよく構成作家さんに言ってて、「作家が全部書いてくれ」と。でも、その文章を直すのはディレクターの仕事なんで、その作業は10年間ずっとやってたんです。

人の書いた文章をわかりやすくするとか、伝えやすくするとか、パーソナリティの言葉に対して「こうやって喋ったほうがいいですよ」と指摘するとか、そういう作業はずっとやっていたので、自分が書いたものを読み返した時に「これはわかりづらいな」ってわりと気づいて、書くよりも編集のほうが上手いかもしれない(笑)。さらに本職の編集の人が手を加えているので、それがよかったんじゃないかなって思います。僕に文才があるわけじゃないんで。

——それでも一生に1冊はもったいないです。第2弾、第3弾に今のうちから動き出したほうがいいですよ。

石井:藤井青銅さん(放送作家)にも言われましたけど、もう書きたくないですし、次は口述筆記にするって決めてますから(笑)。佐久間さんの番組本も佐久間さんは書いてないですからね。喋ったものをまとめただけなんですから。この『アフタートーク』の解説も書いてないですからね(笑)。喋ったやつですから。それだけ喋れるのもすごいんですけど。でも、その方法もあるんだって知って、今でも騙されたと思ってます(笑)。

――僕がこれまで石井さんに直接会った時の印象は、飄々としていて、いい意味でノリが軽いイメージだったんです。つぶやきなどでは過去にもありましたけど、本を読んでみて、こんな熱い方だったんだなと感じて。過去につらい経験をしていたのも意外でした。

石井:すごくそれは言われますね。仕事をするために、外向きに人格形成を自分で少ししているんだと思います。僕の根っこにある学生時代のままだったら、およそ社会人として働ける状況じゃなく、痛々しいぐらいに尖っている感じですから(笑)。そのままだと絶対に仕事にならないし、人と仕事をする時に不快な思いをさせちゃダメだなと、社会人になる前の専門学校時代に気づいて、そこで変わったんだと思います。自分の本性を出すのは仕事をする上で必要ないことですし、相手と必要以上に仲良くならなくてもいいので、それは対応できるようになりました。たまに隠し切れないで、相手を怒らせることもありますけど。

才能がなくてもラジオディレクターとして成功した理由

――紆余曲折あってラジオのディレクターになったわけですが、本にあった「僕には才能がない」という言葉がとても印象的でした。本の中ではタイプ別に分けて解説されていましたが、番組を聴いているだけでは、ラジオディレクターの才能という部分はわからないものだなと感じましたね。

石井:例えば、本の中で対談した宗岡(芳樹、ラジオディレクターで石井の師匠的存在)さんって、まず喋りが上手でトークがおもしろいんです。打ち合わせでもおもしろくて、みんなが好きになるというか。それはパーソナリティに対してもそうで、盛り上げて放送に臨むし、放送中も積極的にやりとりして、宗岡さんの言葉がおもしろいから、パーソナリティも盛り上がるんですよ。センスを活かして、その場のアドリブでいろんな音を使う姿をADとして後ろで見ていた。そもそもディレクター1年目、2年目でそんなことができるわけがないんですけど、完成形を見ちゃっているから、全然できない自分に対して落ち込みました。

人望のあるディレクターもいるし、音のセンスが抜群でいい選曲をするとか、音の素材を加工するのが上手とか、そうやって一芸に秀でたディレクターがニッポン放送にたくさんいました。皆さん何か能力があるからディレクターをやっているんですけど、僕は得意なことが見つからなくて。どれをやってもそこそこみたいな感じだったんで、才能がないんだなと。1つもできたことがないんで。

――リスナー側のイメージとしては、宗岡さんが天才と言われてもピンと来なくて、反対に石井さんのほうがセンスを持っているタイプに感じていました。たたずまいや雰囲気で判断しているところがあるのかもしれないですが。

石井:今でこそ違いますけど、僕はそんなにいじられなかったんですよ。愛されキャラでもなかったんで。オードリーさんに今のようにいじられるようになったのも、番組のディレクターになってしばらく経ってからでしたし。とっつきにくいし、見た目もでかいですから。これが小さくて可愛らしかったら、みんなに愛されて、象徴的なディレクターになれたのかもしれないですけど、そういう風にもなれないし。じゃあ、コツコツ技術を磨いて、仕事をちゃんとするディレクターになるしかないなと考えて。

だから、センスがあると言われたことはないですね(笑)。たとえ言われたとしても、その前にものすごく準備しているだけなので。宗岡さんなんてほぼ準備しないで放送に臨んで、パッとやって帰るから、めちゃくちゃ天才っぽいんです。本当は準備していたのかもしれないんですけど。僕の場合はかなり早い時間に入って、たくさん準備して、考えて考えて、度胸があるタイプじゃないから保険もかけておいてやるタイプですから。センス抜群だったらもっと楽に仕事ができるんだろうなってことをずっと考えてましたね。だから、「ディレクターには向いてない」と今でも思ってます。

――逆に言えば、センスがなかったとしても努力を重ねていけば、ラジオディレクターとしては成立するんでしょうか?

石井:そうですね。あとは人の助けをちゃんと借りられればおもしろいものに携わることはできるけれど、「作っている」感覚はあまりなかったですね。手伝わせてもらっている、参加させてもらっているという感覚のほうが強かったです。じゃあ、どうやったら、みんなが気持ちよく楽しくできて、才能を持っている人達がそれを発揮できるのかといったら、仕事をスムーズに進めさせるためにコミュニケーションを取り、連絡もちゃんとすると。当たり前のことなんですけど、それができていれば、ラジオディレクターとしては成立すると思います。社会人全般に言える話ですけど。

――ディレクターという仕事をしていく中で、快感を覚える瞬間はどんな時でした?

石井:生放送中ですね。聴いていておもしろいトークがあるし、その時はリスナーになれるので。フリートークにジングルを打つ時は緊張するからあまり好きじゃないんですけどね。打ったところで、「ここだったな!」って感じるのは年間で1回か2回しかなくて、「ちょっと遅かったな」「ちょっと早かったな」と考えながら、帰りのタクシーに乗る日々でした。基本的には楽しく放送しているんですけど、終わったあとは落ち込むんで。反省のほうが多いですから。

忙しくなってくると、次の日にまた放送があるので、気持ちを切り換えなきゃいけなくて。アスリートみたいな生活だなと思っていました。コロナ禍でそれはより強くなりましたけど、風邪も引けないし、体調悪い状態で放送には臨めないので。別に僕がお腹を壊していても放送に影響はないんですけど、リアクションが悪かったりすると、パーソナリティに「おもしろくないのかな?」と思われちゃうし、眠そうな顔をしてたら、やっぱり「つまらないのかな」と思われちゃうので。

でも、番組イベントをやらせてもらった時は楽しいなって素直に感じました。自分が演出として、『オードリーのANN』のイベントをやったんですが、北九州で開催した時(2018年12月22日開催)に、ここだと思って、若林さんのトークでジングルを打ったら、ドカーン!とウケて。もちろん僕の手柄ではないんですけど、若林さんのトークが跳ねたところに合わさったから、それはものすごく気持ち良かったし、嬉しかったんですね。日本武道館でも近いことができたんですけど、北九州のほうが僕的には満足のいくタイミングで、ここしかないってところで打てたんで(笑)。

あとは、リスナーからの反応があった時ですね。Twitterでもそうですし、直接言われることもあるし、手紙をもらう時もあって、嬉しいなって思います。

これからの『ANN』は野上ディレクターに期待

――『ANN』の後輩ディレクターで、特にこの人は才能があるなと感じるのは誰でしょう?

石井:みんなあると思いますよ。それぞれいいところがあって。才能を感じるという意味では野上(大貴、菅田将暉や星野源、霜降り明星の『ANN』、ぺこぱの『ANNX』を担当)君ですかね。彼を見ていると羨ましく思います。本人は僕みたいなタイプになりたいと悩んでますけど。人ってないものねだりなんですよね。僕は宗岡さんに憧れて、そうなりたいと思っていたけどなれなくて。野上も僕の後ろについてやっていたから、僕みたいな感じでやりたいけど、タイプ的にはセンスでやるタイプだから。野上の独特なセンスが世の中に伝わったらおもしろいんですけどね。人間的にもおもしろいところが多いし、人と違うことを発想するタイプなんで、「そんなことを思いつくの?」って感じます。そういうところはすごいなって思いますね。

――野上さんは“ザ・『ANN』のディレクター”みたいな印象ですよね(笑)。

石井:これからの『ANN』を背負って立つ男じゃないですか(笑)。経験はまだ足りないけど、伸び代は一番あると思います。

ディレクターを辞めて、気持ちが楽になった

――石井さんの中には、『ANN』を担当していた時に、近い未来、ここを離れるという意識はあったんでしょうか?

石井:ありましたよ。『オードリーのANN』の番組本の中でも喋っています(『オードリーとオールナイトニッポン 死んでもやめんじゃねーぞ編』のスタッフ座談会において、「まだ先の話ですけど、どこかのタイミングで抜けざるを得なくなるかもしれないですね」と発言)。新しいものをおもしろいと思えるところは若い人のほうが敏感なので。僕が気づかないところもおもしろがれているから、そういう風になっていくものだと思ってました。40歳、50歳になってまで、『ANN』をやるんだっていう気持ちはなかったです。だからこそ、20~30代の若いうちにやりたいなと。

――ディレクターとしてずっと現場にいたいとは考えなかったんでしょうか? 石井さんはそういうタイプなんじゃないかと思っていたんですが。

石井:僕も自分がそういうタイプだと思っていて、そのために制作会社に入ったんですけど、意外と深夜放送でやれることは全部やったなという感覚があって。あらゆるタイプのパーソナリティとやらせていただいたし、番組イベントもやったし、大きな特番もやったし、番組という単位でやりたいことがもうないなって。

あと、もう1つあったのは、ディレクターとして、さすらいラビーという芸人さんと単発の『ANN0』をやったんですよ(2018年8月28日放送)。さすらいラビーの2人は20代なんですけど、打ち合わせをした時に、明らかに萎縮してたんです。対等じゃなくなっていて、ラジオのディレクターはその関係性でやるのってあんまりおもしろくないなと。だったら、僕じゃない若い人がやったほうがいいと思って。作家さんは台本がおもしろければ、人間的な部分で上下関係はないからいいんですけど、ディレクターは立場が上になるから、そこに年齢差があると、あんまりおもしろくならないんです。これはもう僕がやらないほうがいいなと、若い芸人さんやアーティストとやる時に明確に感じたので、その時に深夜は無理だなって。

実際、やらなくなって、変な感覚になるかなと思ったら、気持ちが逆にすごく楽になったので、自分にかなりの負荷がかかっていたんだなっていう。自分としてはディレクターが向いていると思ったことはなくて、プロデューサーになった時は、「俺、プロデューサーって向いてるな」って感じたんです。調整は上手だし、それまでやっていた仕事もプロデューサーに近くて、「こっちのほうが全然向いている」って今は思います。気が楽です。

――ディレクターとして「現場でキュー振りたいなあ」「生放送を仕切りたいなあ」なんて禁断症状はないんですか?

石井:あるかなと思っていたんですけど、全然なかったです(笑)。野上君を見ていても大変そうだなーって思ってます。

――ディレクターとして現場から離れて、制作会社であるミックスゾーン所属からニッポン放送の社員になりましたが、そういうケースって普通にあることなんですか?

石井:僕が初めてだと思います。もともと今後どうしようか悩んでいる時期に、1回フリーになろうと考えたんですけど、その時にニッポン放送の社員の方に「ニッポン放送に入って仕事をする方法もあるんじゃない?」と提案されて、なるほどなと。放送局の人間になるのはあんまり想像してなかったんですけど、それで考え始めて。「TBSラジオとかTOKYO FMにも入りたいけどなあ」なんて思ったりもしながら(笑)。

そうしたら、ニッポン放送の中途採用試験がちょうどあって、「これを受けたらいいんじゃない?」ということになり、正式に面接を経て、中途採用として社員になった感じですね。きちんと順序を踏んで、辞めてから入社しただけなんです。中途採用試験をやってなかったら入ってなかったと思うんで、そこはタイミングと縁ですね。

――ラジオのスタッフになりたい人はたくさんいると思うんですが、ディレクターを目指している学生さんにアドバイスするとして、何が一番必要な能力だと思いますか?

石井:一番必要なのはコミュニケーション能力だと思います。それは、ディレクターに限らないですけど。本当はセンスがあったほうがいいんですけど、それがなくても、人ときちんと会話ができることが必要です。パーソナリティと仕事して、スタッフと仕事して、リスナーに対しても仕事をしていくので、人と関わりを持てる人じゃないと。人の気持ちがわからないと、リスナーの気持ちもわからないし、パーソナリティの気持ちもスタッフの気持ちもわからないので。

そういうことが必要になるので、学生時代からちゃんと人と喋ったり、社会活動をしたりしたほうがいいと思いますけど、そこが苦手でも、あとで何とかなると言ったら何とかなるとは伝えてあげたいですね。僕も全くできなかったので。学生の時にダメでも、そのあとに頑張れば慣れますから、「私は人と喋れないから無理だ」なんて自分で決めないほうがいい気がします。

――そういう人達にこそ今回の『アフタートーク』を読んでもらいたいですね。

石井:そういう人に向けて書いた側面はすごくあります。だからといって、若手の後輩社員に5冊買ったというクレイジーな子がいたので、それは「何のために?」って(笑)。ありがたいですけど。

後編へ続く

石井玄(いしい・ひかる)
1986年埼玉県春日部生まれ。2011年ラジオ制作会社サウンドマン(現ミックスゾーン)入社。『オードリーのオールナイトニッポン』『星野源のオールナイトニッポン』『三四郎のオールナイトニッポン』『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』やTBSラジオ『アルコ&ピースD.C.GARAGE』などのラジオ番組にディレクターとして携わる。2018年オールナイトニッポンのチーフディレクターに就任。2020年7月にミックスゾーン退社後、ニッポン放送へ入社。エンターテインメント開発部のプロデューサーとして、番組関連のイベント開催やグッズ制作などに携わる。
Twitter:@HikaruIshii

石井玄による初のエッセイ集。「ラジオにまつわる仕事論」「ラジオに救われて業界を目指すまで」「ラジオを共に作ってきたパーソナリティ・放送作家・リスナーとのエピソード」の3パートで構成。番組を語るコラム、放送作家の福田卓也、寺坂直毅、ラジオディレクター宗岡芳樹らとの対談、TVプロデューサー・佐久間宣行の解説「元会社員パーソナリティが語るラジオマン石井玄」などを収録。

■『アフタートーク』
著者:石井玄
価格:¥1,650
ページ数:304ページ
出版日:2021年9月15日
出版社:KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/322103001633/

Photography Hironori Sakunaga

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「オールナイトニッポン」の仕掛け人・冨山雄一が語る「ラジオが作るコミュニティの魅力」 https://tokion.jp/2021/01/27/the-instigator-of-allnightnippon/ Wed, 27 Jan 2021 06:00:56 +0000 https://tokion.jp/?p=16220 音声コンテンツが注目される中、改めてラジオならではのパーソナリティとリスナーとの深い絆について、ニッポン放送で「オールナイトニッポン」のプロデューサーを務める冨山雄一に聴く。

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ニッポン放送で「オールナイトニッポン」のプロデューサーを務める冨山雄一

深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン」が好調だ。「オールナイトニッポン(以下、ANN)」は25〜27時(毎週月〜土)、「オールナイトニッポン0(ZERO)(以下ANN0)」は27〜28時30分(毎週月〜木、金は29時まで、土は28時50分まで)に放送されていて、1967年にスタートし、54年目を迎えている。

現在のパーソナリティは、「ANN」が菅田将暉(月)、星野源(火)、乃木坂46の新内眞衣(水)、ナインティナイン(木)、三四郎(金)、オードリー(土)、「ANN0」がファーストサマーウイカ(月)、Creepy Nuts(火)、テレビ東京の佐久間宣行(水)、水溜りボンド(木)、霜降り明星(金)、といった多彩なラインアップを誇る。

ここ数年は番組イベントも積極的に行っており、先行予約では即完が相次ぐなど、ラジオならではのコミュニティを築いている。今回、「オールナイトニッポン」のプロデューサーを務める冨山雄一の話から、そうしたラジオの魅力や「オールナイトニッポン」が好調な理由を探っていく。

——冨山さんは現在、「オールナイトニッポン」のプロデューサーをされていますが、役割としてはどういったことをされているんですか?

冨山雄一(以下、冨山):日々の放送は、ディレクターや放送作家などの各番組チームが一生懸命作ってくれるので、そこにはあまり関わっていなくて、もっと引いたところで番組に関わっています。現在、「ミューコミプラス」や「ANN」「ANN0」「オールナイトニッポンGOLD」などのいわゆる夜帯の番組のプロデューサーを担当していますが、プロデューサーの役割は3つあります。

1つ目はそれこそ「プロデュース」という観点で、番組を中長期的にどうしていくかを番組チーム、パーソナリティと考えます。2つ目はマネージメント的なことで、各パーソナリティの所属する事務所との交渉など。そして3つ目は、これが今一番大きいのですが、マネタイズです。最近は番組スポンサーも、単純に提供してもらってCMを流すというより、SNSを使ったプロモーションや、ウェブと連動したCMなどがすごく増えてきました。そのほかにも番組イベントを企画したり、番組グッズを制作したりなどの放送外収入も考えています。

——最近の「ANN」を聞いていると、協賛スポンサーも一時期と比べて増えましたね。

冨山:ラジオ全体の広告費でいうと、2010年にradiko(ラジコ)が登場して以降はほぼ横ばいです。その中で「ANN」に関していえば、今は30社以上スポンサーがついています。実はそれは1970年代、80年代の「ANN」がすごく聴かれていた時期と変わらないどころか多いくらいなんです。それにはやはりスマホでラジオを聴くことができるradikoの登場と、2016年にradikoのタイムフリーが始まったことが大きいと思います。タイムフリー機能を使えば、1週間以内ならいつでも聴けるので、ラジオの聴き方が劇的に変わりました。

あとスマホとSNSが普及したことも大きな要因ですね。radikoと同じくらいのタイミングでスマホが普及して、若い人がラジオを聴くようになりました。radikoは現在3500万以上ダウンロードされていて、僕の実感だと、かつてと比べて数十倍聴いてもらえている感じです。

Twitterのツイートも今はそれぞれの番組ごとに「#菅田将暉ANN」や「#星野源ANN」など番組ハッシュタグを決めていて、みんながそのハッシュタグを使って生放送中に実況というか、感想をつぶやきあっています。なおかつそれが翌朝までトレンドに残っていて、その放送を聞いてなかった人も、ハッシュタグの中でバズっているツイートを見ると「あ、昨日こんなので盛り上がったんだ」や「こういうことがあったんだ」とか、なんとなく可視化される。ラジオって可視化されないのが弱点だと思っていたので、Twitterで文字として見られるのは大きいです。

実際「ANN」「ANN0」は深夜のリアルタイムでもかなり聴かれていますが、翌朝の6、7時台の通勤、通学の途中で聴いている人が多くて、深夜の何倍も聴かれているんです。今までも録音して、翌朝楽しむという人が多かったとは思いますが、想像以上にタイムフリー機能が浸透しているなと実感しています。

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*この記事は下に続きます

ラジオはすごくぜいたくなコンテンツ

——「ANN」「ANN0」が好調ですが、その要因は? もちろんパーソナリティの魅力も多分にあると思いますが

冨山:そうですね。パーソナリティの魅力はかなりあると思います。その上で、ラジオの価値は、毎週オードリーさんや星野源さん、菅田将暉さんなどが生で2時間しゃべるということ。それが、実はすごくぜいたくなコンテンツで、先ほど言ったradikoやSNSなどの普及で、その価値を知ってもらえる機会が増えたことが大きいと思います。

ラジオは、テレビほどメジャーでもないし、インターネットほどニッチでもなくて、その距離感がちょうどいい。世の中にものすごい情報量が増えている中で、ラジオは基本的には音声だけで、パーソナリティがしゃべっていることを全国のリスナーが共有するというのが、なんともいえない連帯感というか、1つのコミュニティみたいな形になっている。コロナ禍もあって、それがさらに受け入れられているのかなと感じています。

——確かに「ANN0」なんて深夜3時スタートで、佐久間さんやCreepy Nutsさんが生放送するのってすごくぜいたくなことですよね。「ANN」に限らず、深夜ラジオは生放送も醍醐味です。

冨山:そうですね。基本的にはやはりその日その時間だけのリアルタイムを共有することは意識しています。オードリーの若林さんや、ナイナイの岡村さんの結婚も、「まずはリアルタイムでリスナーに届けたい」とわざわざ生放送のラジオで発表してくれました。それはリスナーとのコミュニティを大切にしてくれているからだと思います。

——熱心なファンが集まるパーソナリティの特徴ってあるんでしょうか? 

冨山:濃いコミュニティができている人。リスナーと目に見えない信頼関係が結べている人、という感じがします。パーソナリティもリスナーのことを信頼して話すし、リスナーもパーソナリティのことを信頼して聴いている。そういった相互関係がきちんとできているパーソナリティは濃いコミュニティが作れているし、熱心なリスナーが集まります。

相乗効果で番組を盛り上げていく

——「ANN」と同時間帯(深夜1〜3時)の裏番組であるTBSラジオの「JUNK」は意識しますか?

冨山:めちゃくちゃ意識していますね。TBSラジオのプロデューサー、宮嵜(守史)さんとも連絡を取り合っていますし、普通に僕自身も伊集院光さんや爆笑問題さんの「JUNK」はずっと聴いています。このご時世でわざわざ深夜に2時間しゃべるって、ラジオが好きじゃないと絶対できない仕事。だから、ライバルというより仲間に近い感じです。

先日、岡村さんが結婚を発表した際も、リスナーから「おぎやはぎさんがナイナイの話を聴きたがっている」とメールが来て、じゃあ電話してみようかと。普通に考えたら他局と生放送中につなぐとかはありえないことだと思うんですが、すぐ宮嵜さんに電話してつないでっていう関係性ができています。それこそ「JUNK」のゲストに「ANN」「ANN0」のパーソナリティが出たり、その逆もあったりもして。いい関係性が築けているのかなと思っています。

——「ANN」「ANN0」の中でも、別日のパーソナリティがゲストに来ることがここ数年増えました。これは意識的に増やしたんですか?

冨山:番組がうまくいく要素として、1つはもともとのパーソナリティのファンがしっかりとついてきてくれて、盛り上げてくれること。もう1つは、ラジオ自体が好きな人達のコミュニティがあって、そこの人たちが興味を持ってくれて盛り上げてくれること。その両方ができると番組がうまくいく傾向があります。

もともとは本業のファンの人たちがラジオを聴いてくれていたのが、「ANN」を始めてから他のパーソナリティと絡んだりしているうちに、だんだんとラジオのヘビーリスナー達が増えていって、相乗効果でお互いの番組のリスナーが増え、結果「オールナイトニッポン」全体が盛り上がることにつながっていくという構図です。

番組イベントならではのリスナーの熱量

——ではイベントの話について聞かせてください。「ANN」でイベントを始めたのは、2015年11月の「岡村隆史のオールナイトニッポン歌謡祭 in 横浜アリーナ」からくらいでしょうか?

冨山:もともとニッポン放送には「ANN」のパーソナリティが登場するフェス形式の「オールライブニッポン」などは以前からやっていました。そうした中で、2015年にナイナイの岡村隆史さんが1人での放送になった時に、「年に1回リスナーと会えるイベントを作りたい」と、当時の番組ディレクター(宗岡芳樹さん)が横浜アリーナでイベントをやって、8000人集まったんです。それがものすごくエモい空間で。やっぱりフェス形式だと、熱量が分散しやすいんですが、番組イベントだと、みんなが『ナインティナイン岡村隆史のANN』が好きで、共通認識を持っている。それこそ知念里奈さんの「DO-DO FOR ME」が流れただけでみんなが興奮するって、ほかのイベントだとありえないですよね(笑)。それから僕が2016年にイベントの部署に異動になったタイミングで岡村さんの歌謡祭に関わるようになりました。

そのほかに、『オードリーのANN』の10周年イベントも提案させていただいて、全国ツアーという形で、3ヵ月に1回のペースで、青森、愛知、福岡の3ヵ所でイベントをやって、最後2019年3月2日に武道館でやりました。当日はライブビューイングも合わせると2万2000人を動員して大きな話題となりました。

ただ、その途中の2018年3月の終わりに僕がイベントプロデューサーから「オールナイトニッポン」のプロデューサーに人事異動になりました。その時はすでに岡村さんやオードリーさんのイベントをやりかけていたので、番組のプロデューサーなんですが、どちらかというとマインドとしては「番組のイベントをどんどん作っていこう」、みたいに考えていました。だから、「オールナイトニッポン」のプロデューサーになってからもCreepy Nutsさんや佐久間宣行さんのイベントを実現しました。

——1月に予定していた4つの番組イベントが中止になりましたが、急遽配信イベントとして「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO) リスナー小感謝祭2021~Believe~」を開催しました。チケットが1万7000枚以上売れるなど、リスナーの熱を感じました。実際にやってみてどんなことを実感しましたか?

冨山:コロナ禍というギリギリの状況の中で、番組スタッフもイベントスタッフももちろんパーソナリティも難しい決断だったと思います。残念ながらイベントは中止になってしまったのですが、多くの人がその日を楽しみにして頂いていたということで、イベント開催時間に水溜りボンドさんはYouTubeでの生配信、佐久間さんは配信イベントを行いました。

やってみて感じたのは、今までは大きな会場に一同に集まってというリアルイベントの良さを追求してきましたが、配信イベントでも同じような一体感は感じることができるんだなと思いました。それこそリアルイベントではできないような、リアルタイムでのメールの呼び込みやSNSへの投稿、またどうしても会場に来れない人やその時間に見れない人のためのアーカイブ配信。このような状況でも前向きに取り組んでくれたパーソナリティやイベントスタッフは本当に素晴らしいと思います。自分も何かやらなくてはと、翌週、急きょ予定していなかった生配信特番を組んだぐらい、刺激を受けました。コロナ禍での番組イベントのやり方はもっといろいろできるなと感じました。

——最後にラジオが作るコミュニティの魅力はどういったところだと思いますか?

冨山:コロナ禍で、シンプルに生放送でつながっていることって、改めてすごく良いなと感じました。昨年の4月頃はそれこそ「ANN」「ANN0」の生放送ができるのかさえ不安だったんですが、パーソナリティや番組スタッフが頑張ってくれて、リモート放送などで何とか維持できました。世の中の状況も日々変わっていく中で、生放送で2時間パーソナリティの声に耳を傾けることで、少しでも不安な気持ちが和らいだリスナーは多かったと思いますし、僕自身も改めてラジオはいいなぁと実感しました。また、生放送でリスナーと繋がれたことで、パーソナリティや番組スタッフも勇気づけられることもありました。だから結果的に、リスナーだけではなく、パーソナリティも番組スタッフも「生放送を通してつながっている」というラジオの良さを再確認できたと思います。

冨山雄一(とみやま・ゆういち)
ニッポン放送 コンテンツプロデュースルーム 番組プロデューサー。1982年生まれ。2004年NHK入局。ディレクターとしてラジオセンター、新潟放送局にて勤務。2007年ニッポン放送に転職。制作部ディレクターとして、数多くの「オールナイトニッポン」を担当。2018年より「オールナイトニッポン」「オールナイトニッポン0(ZERO)」の全体のプロデューサーに就任。NHKと民放連が実施したSNSキャンペーン「#このラジオがヤバい」を幹事として手掛けるなど、ラジオと若い人の接点作りを日々、行っている
https://www.allnightnippon.com

Photography Kazuo Yoshida

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