ラジオパーソナリティとして佐久間宣行が多くのリスナーから支持される理由とは 『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』から考える

2019年4月にスタートした深夜ラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』。毎週水曜日の27〜28時30分に放送され、幅広いリスナーから多くの支持を得ている。10月29日には、1万人規模のイベント「佐久間宣行のオールナイトニッポン0 presents ドリームエンターテインメントライブ in 横浜アリーナ」を成功させ、11月2日には『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』の2作目となる番組本が出版されるなど、その人気はますます高まっている。今回、本書を軸に、ラジオパーソナリティとしての佐久間宣行の魅力に迫る。

リスナーからパーソナリティに

『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』にとって、2冊目となる番組本『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』が発売された。放送3年半で、番組本が2冊刊行されるのは異例のこと。それだけこの番組がリスナーから支持されている証拠だろう。

そもそもこの番組が生まれる過程からドラマティックだった。地元・福島で『伊集院光のANN』や『電気グルーヴのANN』などの深夜ラジオに魅了された青年が、ラジオディレクターを目指してニッポン放送の就職試験を受けるも三次面接で脱落。その後、テレビ東京に入社してテレビマンとして活躍するようになるが、ラジオのリスナーではあり続けた。たわいもないつぶやきをキッカケに『アルコ&ピースのANN』シリーズでしつこくいじられ、ついには番組に生乱入したことでニッポン放送と接点が生まれると、『ANN』単発特番を経て、ついにレギュラーパーソナリティになった……。“エピソード0”というべきこの流れは書籍化してほしいほど劇的。ラジオ好きが巡り巡ってパーソナリティに就任する過程を追ってきた深夜ラジオリスナーは、最初から『佐久間宣行のANN0』が面白くなるとわかっていた。

昨年発売の番組本第1弾では、テレビ東京に所属する一介のサラリーマンだった佐久間が深夜ラジオのパーソナリティとして活躍していく過程を追っていた。今回の第2弾では、テレビ東京から独立してフリーとなり、テレビ以外の場にも進出していく様子を、番組の内容を踏まえつつ振り返っている。

「無名の存在を早くから起用し、パーソナリティがメジャーになっていく様を側面から伝えて、リスナーに追体験させ、ムーブメントを起こす」というのが『ANN』の伝統。当初は「コアなお笑い好きは知っているテレビ東京のプロデューサー」だった佐久間が世間から注目されるようになり、今やNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の特番でMCに起用され、番組発の音楽イベントを横浜アリーナで開催し、サンボマスターと共に『世界をかえさせておくれよ』を熱唱するようになった。その過程を伝え続けてきたのは、“これぞ『ANN』”と拍手を送りたいほど。人気パーソナリティが並んでいるがゆえに、無名の人間が入り込みづらくなっている現在の『ANN』において、一介のテレビマンだった40代のオジサンが『ANN』本来の魅力を体現しているのは面白い現象。「『ゴッドタン』のプロデューサーだからラジオを聴いてみよう」ではなく、「パーソナリティがプロデューサーだから、『ゴッドタン』を見てみよう」という現象まで起きている。

『佐久間宣行のANN0』の2つの魅力

『佐久間宣行のANN0』には『ANN』という深夜ラジオが紡いできた魅力が詰まっている。1つは華やかな世界の裏側を伝える点。お笑い芸人ならテレビのバラエティ番組や地方営業、アーティストなら音楽番組やライブなどの裏話を語ってくれるのが深夜ラジオの醍醐味の1つだ。

佐久間も自分が関わっているテレビ番組やYouTube動画の裏側をよく話しているが、彼が基本的に「裏方」なのは見逃せない点。本来なら、出演者側から見た裏話が語られるのだが、佐久間の場合は「出演者が裏側でどんな状況だったか」にとどまらず、「制作側の意図」や「裏方側に起こっていた事件」など“裏の裏”まで明かしてくれる。こういうコアな情報を知れるのは、深夜ラジオというメディアにも、裏方に注目が集まる今のご時世にも上手くハマっている。

この魅力と連動しているのがゲストとのトークだ。『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』にも田中卓志(アンガールズ)、伊集院光、飯塚悟志(東京03)、千鳥とのトークが文章として掲載されているが、ここでも佐久間の裏方視点が活きている。雑誌でライターがインタビューするのとも、芸人同士の対談とも違う。演者と近すぎず遠すぎず、ちょうどよい距離感と客観性を保っている佐久間は、リスナーが触れてほしい話には踏み込むけれど、明確なリスペクトが感じられて、聴いていて心地いい。

2つ目の魅力は多くのエンターテインメントを紹介してくれる点。ドラマやバラエティ、アニメ、映画、配信作品といった映像関連はもちろん、音楽(番組内の選曲を含む)や舞台、さらには気に入った飲食店まで、これまでこの番組で紹介されたエンタメ関連は本当に多岐にわたる。根本にあるのは佐久間がそれらを心の底から楽しんでいること。多忙な上に、長年テレビ業界で働きながらも、いまだにエンタメへの純粋な興味が尽きないのはある意味、才能と言えるかもしれない。

ラジオを一定期間聴くと、パーソナリティ達が触れてきたカルチャーを追体験することにつながる。テレビなどとは違い、時間的な余裕はあるから、それに付随する思い出や思い入れにまで触れることができる。このコラムを書いている私自身、ライターを志したきっかけはあるパーソナリティが深夜ラジオで紹介した小説を読んだから。佐久間が語るエンタメトークはさまざまな形でリスナーに影響を与えているだろう。

この番組の若いリスナーからは「世代の違うオジサンが熱っぽくエンタメを紹介してくれるのが面白い」という声をよく聞く。現在はサブスクリプション文化全盛で、自分の好みに寄ったエンタメにはいくらでも触れられる一方、自分の興味から漏れたものに触れる機会は少なくなっている。若いリスナーのそんな需要を『佐久間宣行のANN』が担っているのだ。

等身大のトークの面白さ

ここまで「華やかな世界の裏側を伝えている」「多くのエンタメを紹介している」という部分を『佐久間宣行のANN0』の魅力だと書いてきた。この2点が番組の特徴だと語られがちだし、実際に魅力的な要素なのだが、番組本が2冊出るほどこの番組が支持されている理由は別にある。

テレビプロデューサーという肩書きやエンタメ要素を取っ払った部分で、40代のオジサンである佐久間宣行というパーソナリティと、等身大のトークが面白いのである。単純にただただ「ラジオ」として面白いのだ。

だからこそ、この番組の魅力が最も詰まっているのは、数千人が集まる番組イベントでも、大物ゲストがやってくるスペシャルウィークでもなく、特に事件が起きない通常回にある。番組本にも掲載されているが、「日本民間放送連盟賞ラジオ部門中央審査生ワイド番組部門」で最優秀を受賞した思春期の娘との箱根旅行話(2022年4月6日放送回)は、ただの通常回だった。

今回の番組本の巻頭で、佐久間は「ラジオをやればやるほど感じるのは、『自分が本当に思っていることを話したほうが伝わる』ということで、その姿勢はずっと変わりません」と語っていた。そんな等身大のトークに加えて、初回から……いや、『アルコ&ピースのANN』乱入時からずっと変わらない「ラジオをやるのが楽しい」という姿勢がリスナーの心を佐久間が掴んで離さない部分だろう。とにかく楽しそうに笑う様子からは、開始から3年半経っても深夜ラジオを担当する喜びがヒシヒシと伝わってくる。

優しい視点も見逃せない。批評や批判が溢れる世の中において、ラジオ上の佐久間はあくまでエンタメを楽しむ姿勢を崩さない。何かをバッサリと斬り捨てる言葉は刺激的だけれども、何年もそんなラジオを聴き続けるには精神衛生上よくない。前向きに評価して、面白いポイントを探す佐久間の姿勢が番組全体のムードを作っている。今の深夜ラジオ全体もそういう方向に進んできていると思う。

印象的なのは、上記した思春期の娘との箱根旅行話。父親目線で娘との旅行を語った後、さまざまな立場のリスナーから反応があったが、ある男子高校生リスナーから「ディズニー好きの母親と2人でディズニーシーに行き、『いるわけのない友人と会うのではないか?』や、絶対に気のせいである周りからの視線を気にしてしまい、『もう2人で来ることはないね』と母に言ってしまいました」というメールが届いた。

これに佐久間が「待てよ!」と反応。「母ちゃんにとって伝説の一日だぞ? これは反省してください。なんでかって言うと、お母さんの伝説の一日を最後に悲しい思い出で終わらせているから。思い出したら、毎回悲しい思い出になっちゃうじゃないですか。ていうことは、これは答えは1つです。もう1回行く。もう1回行くしかありません」と忠告した。

その後、エンディングでもこのメールに触れ、佐久間は「絶対に行けよ」と念押ししているのだが、同時に「そもそも高1で母ちゃんとディズニーシーに行っている時点で、お前はメチャクチャいいヤツだな」とも語っている。そういう言葉を添えられる佐久間だからこそ、リスナーに評価されているのだろう。

一人のリスナーとしては、もちろんテレビプロデューサーの活動も気になるのだけれど、それ以上にラジオパーソナリティを続けてくれることを密かに期待している。さすがに50代、60代になると深夜3時からの番組は厳しいかもしれないが、どんな時間でも佐久間ならパーソナリティとして活躍できるはずだ。朝や昼の情報番組やFMの音楽番組でのトークも聴いてみたい。

いつか『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す』に続き、『脱サラパーソナリティ、還暦になる』なんて番組本を出版している未来があるかもしれない。そうなっても、孫の溺愛トークや最新のエンタメ紹介をしつつ、届いたメールを読んでは「わかる」と共感し、豪快に笑い、リスナー達に「相変わらずこの人はラジオが好きなんだなあ」と思わせてくれるはずだ。

■『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す ~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』
著者:佐久間宣行
ページ数:296ページ
定価:¥1650
発売日:2022年11月2日
出版社:扶桑社
https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594092948

author:

村上謙三久

1978年生まれ、東京都出身。プロレス、ラジオを中心にライター・編集者として活動。『芸人ラジオ』『声優ラジオの時間』シリーズ編集長。著書に『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)、『声優ラジオ“愛”史』(辰巳出版)がある。 Twitter:@kensaku999

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