XTALが語る(((さらうんど)))の再始動からニューアルバム『After Hours』に至るまで

2021年、6年半の沈黙を破ってシングル「Soap Opera」を発表し、イルリメこと鴨田潤とXTAL(クリスタル)のデュオとして再始動した(((さらうんど)))。2022年8月には、アルバムとしては7年ぶりとなる『After Hours』を発表した。

2012年から2016年にかけて発表された3枚のアルバムは、ヒップホップやハウスといったフィールドで活動していたアーティスト達が日本語によるポップスという新しい領域に挑んだチャレンジの軌跡であると同時に、鮮やかなサウンドと言葉に彩られたまぎれもないポップスの名盤としても記憶されているはずだ。それゆえに、直球のハウスサウンドを繰り出した「Soap Opera」や、全編英語詞に貫かれた『After Hours』は、新鮮な驚きとともに迎えられた。

どちらの作品も、かつての(((さらうんど)))のイメージにとらわれることなく、しかし「過去を振り切ろう」といった気負いは全くない――2人の近年の活動を思い返せば、むしろ必然の帰結とさえ思える、そんな自然なたたずまいが印象的だ。いかにして(((さらうんど)))は改めて動きだしたのか。『After Hours』はどのように作られたのか。メンバーのXTALに話を聞いた。その言葉から浮かび上がってきたのは、いわば原点回帰を果たし、作ることのよろこびを味わう今の(((さらうんど)))の姿だった。

6年半のブランクを経て、「振り出しに戻った」再始動

——まず、『After Hours』の前に、昨年リリースの「Soap Opera」についてお聞きしたいです。この作品で(((さらうんど)))がデュオとして6年半ぶりに復活しました。

XTAL:何回か再始動の動きはあったんです。具体的に言うと、2018年か2019年くらいに。ただ、当時は再始動まで至らなかった。その頃、鴨田さんは自分のレーベルをやったり、ソロとしてダンストラックをリリースしていた一方で、自分はダンスミュージック的なものは全然作っていなくて。自分が作っていたデモを鴨田さんに送っても、「ちょっとやりたいことと違うかな」みたいに、バイブスが全然合わなかったんです。

その後、鴨田さんからの提案で、鴨田さんのレーベルからXTALのソロを出すことになりました。それが2020年のシングル「A Leap」です。鴨田さんが作詞で、(((さらうんど)))でコーラスを担当していたAchicoさんをヴォーカリストに招いて、曲は僕が担当して。今思うと、それが準備運動的なリリースだったんですよね。そこからだんだん自分と鴨田さんのやりたい方向性が合ってきて、改めて鴨田さんから(((さらうんど)))をやろうよって話があって。そこでできたのが「Soap Opera」です。

——サウンドもスタイルもがらっと変わっていますし、6年ぶりに活動するにあたって、(((さらうんど)))としてのアイデンティティについて改めて模索されたんじゃないかと思います。いかがでしょうか。

XTAL:いろいろ試行錯誤がありました。結局、僕と鴨田さんがそれぞれ(((さらうんど)))の3枚目の後にやってたことに共通する面っていうのを探した時に、あのスタイルになったんです。今は完全に自分と鴨田さんだけで最初から最後まですべて作っているので、ゲストプレイヤーを招いたり、ミックスやマスタリングを別の人に頼んでいた以前とはまず制作体制が違う。それに、「Soap Opera」を作る頃に、Kenya(Koarata)くんが抜けたんです。長い時間経っているので、各々の活動のサイクルが合わなくて。新しいメンバーを入れる案もあったんですが、その案もなくなって2人だけになりました。

鴨田さんは「振り出しに戻ったな」って言ってましたね。(((さらうんど)))を結成する時、鴨田さんがTwitterでメンバーを募集したんです。「ポップスをやろうと思うんですけど、やりたい人連絡ください」って。それに一番初めに応募したのが僕で。そこに戻った感じでした。

「短さ」が生み出す新鮮さと作るよろこび

——「Soap Opera」から1年ほどで、『After Hours』がリリースされます。制作はいつごろ始まったんでしょう。

XTAL:今の(((さらうんど)))のアーティスト写真を撮影したその帰り道、「アルバム作るとしたら、短い曲の集まりだよね」って僕が言ったら、鴨田さんも完全同意って感じで。そこから制作が始まりました。

——アルバムの構想は、何よりもまず曲の尺だったんですね。

XTAL:「Soap Opera」も短い曲だったので。自分が「Soap Opera」を作りだした時は5分くらいの尺だったと思うんですけど、それを鴨田さんに渡して、戻ってくる時にはもう短くなっていた。「ああ、鴨田さん短いのやりたいんだな。面白いな」と思っていたので、そのままアルバムを作るのは結構面白そうだと思って提案したんです。

撮影のあと、鴨田さんを送ってから自宅に向かう車中で思い浮かんだのが、Guided By Voicesの『Alien Lanes』でした。あのアルバムのテンションとかアティチュードで、でも、曲はハウスっていうのをやったら面白そうだなと。帰ってすぐ、このアルバムの1曲目になった「After Life」のデモを30分ぐらいで作って、鴨田さんにメールで送ったんです。そしたら、「この曲は(((さらうんど)))の新しい方向性として本当にめちゃくちゃいいし、XTALがアルバムやろうって言った意味がわかった」と返事がきて。鴨田さん的にもかなり好感触を得たみたいで、1番好きな曲って言ってますね。それがアルバムの始まりです。

——短くすることでどんな効果が生まれるか、見通しはあったんでしょうか。

XTAL:ハウスミュージックって、基本的にダンスフロアの音楽だと思うんです。DJがかけて、踊る人がいて、 クラブの音響があって完成する。それをアルバムという形式にする時にみんな苦労しているというか。そこはわりとラジカルなトライが必要だと感じてたんです。そこで「短くする」っていうのは面白いなと思って。

——実際に短い尺で作ってみていかがでしたか。

XTAL:自分が作ったのはループなんですよ。曲として成立する最小限の骨組みだけ、イントロがあってビートが入ってきて、なんとなく終わる、ぐらいのデモを鴨田さんに投げて。それを鴨田さんが歌に合わせたエディットをして、曲の展開ができていきました。面白かったです。

普通ダンストラックを作る時って、構成を考えるんですよ。「ここでハイハットが入ってきて……」とか。それやってる時って、たいして楽しくない(笑)。でも今回はそれが一切なかった。「うわ、このループかっこいい」みたいな、部屋で1人で踊ってるだけのその段階まででいい。なので、バンバン曲が作れました。

送ったデモが鴨田さんから返ってくるたび、毎回めちゃくちゃ面白かった。全く構成を予期せずに、「もうどうにでもしてください」っていう感じで出してるので、「あ、こんな歌が乗るんだ」とか、「ここで終わるんだ」とか、「ここをこんなに抜いちゃうんだ」とか。

英語という別人格で出会い直す

——今回のアルバムでは鴨田さんの英語詞も耳を惹きます。全編英語詞という方向は、どの段階ぐらいから固まっていたんですか。

XTAL:「After Life」を最初に作った時から、今と全く同じ「Take me higher」っていう歌がついて戻ってきていました。それ以降も全部英語詞で。初めて聞いた時はびっくりしましたけど、すごくいいなと思って。例えば、「Drive Me Crazy」は、自分が曲から感じるフィーリングともうこれ以上ないぐらいピッタリだったんですよね。日本語だと、やっぱり鴨田さんの今までの活動やキャラクターだったり、また本人のことも知ってるので、言葉の意味以外の意味もいっぱい感じてしまう。英語だとちょっと別人格のような感じもして、意味だけがダイレクトに伝わってくる。

鴨田さんは日本語の詞を書く人として類いまれなるセンスと語彙力がある人だと思います。でも今回はそれをしなかった。やっぱり音楽に合わせた部分はあると思いますね。ハウストラックで、しかも短い曲に、今までの鴨田さんの日本語の詞を乗せるのは難しい。英語で短い言葉の方が合ったのかなと思います。本人に聞いてないのでわからないですけど。メールでのやり取りも英語でしたし、言葉よりも、お互い作っている曲を通してコミュニケーションしていたので。

——メールの件はツイートもされていましたね。かなり驚きましたが、英語でやり取りするというのは鴨田さんからの提案ですか。

XTAL:会った時に、鴨田さんから「メール、英語でやらへん」って急に言われて。僕も「うん、いいよ」って答えて、始まったんです。

——日本語で話そうと思えば話せる人と、あえて英語で制作のやり取りをするって、どういう経験なのかすごく素朴に興味があるんです。いかがでしたか。

XTAL:まず、褒めやすいですね。良かった時に、普段の関係性と日本語の中だと照れが出てしまう。逆に言われてる方も行間を読むというか、褒められてること以外のこともちょっと想像したりするかもしれないですけど、なぜか英語だと褒めやすく、受け取りやすい。日本語を話す人格としてのお互いの認識が1回取り払われるんですね。そういう意味でむしろスムーズでした。

ポップスというピークタイムから、「アフターアワーズ」へ

——今回のアルバムは、サウンド面も含め、ここ数年の2人の作品とシンクロする部分が多いと思います。XTALさんは、ご自身のソロでの活動と『After Hours』で地続きだと思えるところはありますか。

XTAL:(((さらうんど)))の前の3枚のアルバムには、ポップスというテーマ、つまり「広く人に聞かれたい」という目標があった。でも、今回のアルバムも、自分のソロアルバムの『Abuleru』も、そこからわりと引いた立場になってるんです。広く聞かれたくないわけではないんですけど、そこにフォーカスしてない。ポップスというレールから外れている。

鴨田さんが『After Hours』というタイトルをつけたのも、そういうことなのかなと。たくさんの人が遊びに来るピークタイムを過ぎて、アフターアワーズになっている。僕はアフターアワーズが好きなんです。DJに行く時も、遊びに行く時も、みんな帰っちゃうんだけど、そこから面白いことが起きるぞと信じて、しつこく朝までいる人間で。自分のソロからこのアルバムまで一貫しているのは、そこだと思います。

——逆に、(((さらうんど)))として、鴨田さんと一緒にやることで、こういう部分が引き出されたというのは。

XTAL:ほとんどすべてです。(((さらうんど)))は常に鴨田さんからの提案があって、僕はそれに全乗りするっていうスタイルなんですよ。鴨田さんにはアーティストとして信頼があるので、この人の提案に乗れば面白いことが起きるっていう。それもうまくいったり、いかなかったりするんですけど。曲を短くするとか、ハウスビートでやるとか、こういう音質にするとか、英語詞でいくとか。全部(((さらうんど)))だからやったことです。

エクステンデッド・バージョン

——『After Hours』のリリースからわずか2日後には『After Life (Extended Version)』がリリースされています。

XTAL:『After Hours』が完成したのが今年の1~2月で、3月ぐらいにはこのエクステンデッド・バージョンも完成していました。曲のアレンジの仕方としては、さっき話したように、もともとが曲として成り立つ最小パーツぐらいのものなんで、肉付けはいくらでもできたんです。 シンセを足すならこういう音色だな、ダンストラックとしてもっといいリズムはこうだな、みたいに、自然とすらすらできました。

——シンガーや作詞家としての顔を見せる本編とは対照的に、エクステンデッド・バージョンはハウスミュージックのプロデューサーとしてのJun Kamodaが強く出ていると思います。プロデューサーとしての鴨田さんについて、この制作で感じたことはありますか。

XTAL:やっぱり、ミックスバランスや最終的なマスタリングでの歪ませ方、その辺が抜きんでてます。その楽曲の内容とかスタイルというよりも、どんな音に仕上げるか。「The Moment」のエクステンデッド・バージョンをマスタリング前に聞いて、それもすごく良かったんですが、マスタリング後はすごい低音が歪んでいてすごくかっこよかった。綺麗に整えて聞かせる方向じゃなくて、歪ませたり、ワイルドなかっこよさを作るのが、ここ最近の鴨田さんの活動の中で特にいいなと思ってる部分ですね。日本のハウスミュージックではそんなにいないんじゃないかなと思います。

「How」の方はディスコ・ブギー的な曲で、Jun Kamodaの曲としてもありえそうなんですが、「The Moment」のほうはあまり鴨田さんがやらなさそうな曲調で。(((さらうんど)))だからこそできた曲になっていると思います。自分は(エクステンデッド・バージョンの)「The Moment」が一番好きなんです。(((さらうんど)))の到達点かな、と。一番初めに作った「夜のライン」から10年弱経つとここに来るのか、って感慨があります。こんなにかっこいい曲までたどり着くんだっていう。

「新しいことをやるのは楽しい」、それが(((さらうんど)))

——2011年に(((さらうんど)))が始まった時とは、10年が経ってお二人の状況も社会の状況も、音楽をめぐる状況もすっかり変わりましたよね。そうした変化について、いまどう捉えていますか。

XTAL:(((さらうんど)))は、ポップとして開かれたもの、不特定多数の人に届くようなものを作ることが出発点だった。それが10年経って、以前とは違う、さっきの話でいう「アフターアワーズ」的な立ち位置にきた。それによって、自由の感覚が得られているんです。今のほうが音楽を作ることが楽しいし、自分がいいと思えるものも作れている。すごく楽しい変化ですね。

——ただ、以前のように「ポップスに取り組む」こともある種必然性のあるステップで、それが『After Hours』につながっている部分もあるんじゃないかとも思います。その頃の(((さらうんど)))のことを、いまどう振り返りますか。

XTAL:もともと、「ポップスをやる」という(((さらうんど)))の最初のテーマは、僕にとっても鴨田さんにとってもすごくフレッシュなものだったんです。当時鴨田さんはイルリメとしてラッパーの活動をメインにしていて、自分はダンス・ミュージックを基本としたTraks Boysというユニットを(元メンバーのKenya Koarataと)やっていた。その2組にとって、ポップスをやるっていうのは、新しい試みだった。

その経験から得られたのは、「新しいことをやるのは楽しい」ということ。『After Hours』も同じです。自分達にとっても、聴く人にとってもフレッシュなことをやる。それが(((さらうんど)))のテーマなのかなって思います。だから、「ポップスをやった」ことよりも、「新しいことをやった」というその感触が重要だった。

最初(((さらうんど)))をいいって言ってくれた人は、きっとそういうところに反応したんじゃないかと思ってるんです。だから、同じことの再生産ではなく、新しいフレッシュなことをやっていきたい。第2章スタートって感じですね(笑)。

——(((さらうんど)))として、今後の展望はありますか。

XTAL:エクステンデッド・バージョンの2をいま制作中です。また4曲入りなんですが、お互いに被ってる曲があるので、1と合わせて全部で7曲分のバージョンがリリースされます。今後についてはわからないです。何か新しいトライをして、予想もつかなかった方向に行くこともあり得る。むしろ、どんな思いつかない方向に行くのかが楽しみです。いまプロデューサーとして自分はこんなデモを作りたい、みたいな具体的な考えはあるんですけど、それを鴨田さんに投げたらどんな変化が起きるのか。それに期待してますね。

(((さらうんど)))
鴨田潤(イルリメ)、Traks BoysのXTALとKenya Koarataによるポップスバンドとして活動を開始。2010年夏にシングル『サマータイマー』をフリーダウンロード配信し注目を集め、2012年に1stアルバム『(((さらうんど)))』を発表。シーン、ジャンルを超えて多くの好評を得る。2013年7月に2ndアルバム『New Age』、2015年に3rdアルバム『See you, Blue』をリリース。2021年に6年ぶりとなるシングル『Soap Opera』を鴨田潤自身のレーベルJUN RECORDSより発表し活動を再開(Kenya Koarataは脱退)。
Twitter:@sssurrounddd
Twitter:@XTAL_JP

(((さらうんど)))『After Hours』

■(((さらうんど)))『After Hours』
1. After Life
2. Magical Blink
3. Drive Me Crazy
4. A Wish
5. Tell Me
6. How
7. Can You Feel Me
8. Lost And Found
9. The Moment
Produced and Mixed by (((Sssurrounddd)))
Mastered by Jun Kamoda
Artwork and Lyrics by Jun Kamoda
https://kakubarhythm.com/discography/post/10157

author:

imdkm

ライター。ティーンエイジャーの頃からダンス・ミュージックに親しみ、自らビートメイクもたしなんできた経験をいかしつつ、ひろくポピュラー・ミュージックについて執筆する。単著に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。 https://imdkm.com Twitter:@imdkmdotcom

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