アーティストDaokoが語る「独立とコロナ禍での音楽」 自身が感じた意識の変化とは

2015年のメジャーデビュー以来、ワン&オンリーな存在感と音楽性で活躍を続けてきたDaoko(だをこ)。昨年は自らがプロデュースに深く関わり、斬新な音楽をクリエイトしたアルバム『anima』を発表し、新たなフェーズに入ったことを証明した。2021年は、網守将平を含む気鋭のミュージシャン達をバンドに迎えたライブ・パフォーマンスを世界に向けて配信。今年6月には新作EPを自身が設立した自主レーベルから配信リリースするなどコロナ禍においても動きを止めることなく、発信を続けている。今なおコロナの影響で活動がままならないエンターテインメント界で、Daokoはどのように音楽、表現、生活と向き合っているのか。この2年の彼女の活動を追いながら、その意識の変化の軌跡をインタビューした。

——ここ最近は元気でお過ごしでしたか?

Daoko:おかげさまで。ワクチン接種も2回済ませました。

——6月30日には新しいEP『the light of other days』をリリースしましたが、この新作をつくることになったきっかけは?

Daoko:今年に入って、インディーズ時代から長年共作をしているDJ6月さんから、「Daokoにピッタリのトラックができたよ」と連絡があったんです。それをいくつか聴いた中から選んでいきました。タイトルの『the light of other days』は、日本語にすると“日々の光”という意味になりますが、コロナ禍になってからの気持ちを含んだEPになりましたね。

——新作はメジャーを離れて、Daokoさんの自身の自主レーベル「てふてふ」からのリリースになりました。2019年に個人事務所とレーベル「てふてふ」を設立したのは?

Daoko:個人事務所をつくったのは、これからはアーティストが自ら中心になって、表現したいことを旬のうちに届けるほうが今の時代に合っているし、自分のやりたいことを実現していけるんじゃないかと思ったからなんです。今、思えば、個人事務所をつくってわりとすぐにコロナ禍に突入してしまったんですけど……。

——Daokoさんは15歳でニコニコ動画へ楽曲を投稿したことで注目され、高校生でメジャーデビューとキャリアのスタートが早かったですね。

Daoko:そう。だから音楽を始めてもうすぐ10年になるんです。メジャーデビューしたのは2015年でしたが、10代の頃は音楽の世界のことは右も左も分からなかったし、メジャーに行って売れたいとか思ったこともなくて、ただ好きな音楽を自分なりに表現して、聴いてもらいたいとしか考えていなかった気がします。インディーズからメジャーというのも、私がデビューした頃はまだかろうじてフィジカル=CDが機能していて、今ほど音楽配信が普及していなかったこともあったかなと思います。この10年は音楽の環境がすごい勢いで変わりつつある時代だったんですよね。

——メジャーデビュー以降は大ヒット曲も生まれ、着実に実績を重ねてきたと思いますが、そこで得たものは?

Daoko:インディーズ時代はずっと宅録だったので、メジャーにいって環境の整ったスタジオでレコーディングできるというのは大きかったですね。そこでさまざまな人と出会い、たくさんの経験を積んで、少しずつ自分がやりたいことの方向性が見えてきた感じでした。私は自分ではラッパー/シンガーだと思っているので、フィーチャリングでいろいろな方と共演できたのも良い経験だった思います。ただ、私は常に音楽をつくり続けていて、できればその熱が冷めないうちに発信したいので、たくさんの手続きなどに労力をかけるのではなく、今の時代ならではの方法を探りながら、親密な関係性の中で活動していきたいんです。今までも楽しくやってきたけど、もっと好きなことを追求していきたい。

——独立した2019年は、馬場真海さんの写真とDaokoさんの絵の展覧会の開催や、自主企画ライブイベント、新たなバンドでのツアーとこれまでとは異なるDaokoさんがじょじょに見えてきた年でしたね。

Daoko:そうですね。自分がやってみたいことをかたちにしたいと思って、1人ではできないことをたくさんの方の力を借りながら、何とか前に進みたかった。そんな中で『anima』では、1stアルバム『DAOKO』のプロデューサーとして出会った片寄明人さんと再びタッグを組むことになったり、網守将平さんさんというスゴい才能に巡り会えたんです。

4thアルバム『anima』で得た自信

——2020年の冬に開催された「二〇二〇 御伽の三都市 tour」では、網守さんを中心としたバンド編成で手応えを掴んだそうですね。バンドでのびやかにパフォーマンスするDaokoさんが印象的でした。

Daoko:前年のツアーで初めて生のバンドでステージに立って、ライブってこんなに楽しいんだって感じたんですね。網守さんをはじめとしたバンドのメンバーが紡ぎだすサウンドやグルーヴに改めて音楽の力を感じて、音楽の素晴らしさを体感できた。私自身が思いきりライブを、音楽そのものを楽しんでいたから、お客さんとのコミュニケーションも含めて自然と素の自分を出せたのかもしれないです。

——それまでのDaokoさんは、どこかベールに包まれているイメージもありましたが、ライブをきっかけにDaokoさん自身の姿がはっきり見えてきた感がありましたね。

Daoko:そうだと思います。それまではデザイン化された匿名性の高い存在というか……そういう存在の神秘性や匿名性のおもしろさもあると思うし、日本のカルチャーの独自性でもあるので私も否定はしないんですが、これから自分が表現していきたいこととは少し違ってきたんだと思います。

——その「御伽の三都市 tour」の直後、世界がコロナに見舞われたわけですが、その頃はすでにアルバム『anima』の制作に入っていたわけですよね?

Daoko:そうですね。その頃はレコーディングもほぼ終わっていたので、ギリギリ影響を受けずに済んだんです。コロナ禍と自粛期間でリリースを延ばすという選択肢もあったんですが、歌詞も含めてコロナ禍の状況で聴いてもしんどくない、違和感がない内容だとジャッジして、予定通りにリリースすることにしたんです。

——『anima』は、これまで以上にDaokoさん自身がアルバムに深くコミットし、新たな世界を表現することに成功したアルバムでしたが、そこで得た収穫はどのようなものだったと思いますか?

Daoko:自分の表現したかった世界観を満足できるかたちで可視化することができたという達成感はすごくありました。アルバムを片寄さんと共同でプロデュースをして、勉強になることもたくさんあったし、自分に足りないことがわかってきたとも言えるんだけど、信頼できる音楽家と一緒に音楽をつくることはこんなかけがえのない幸せなことなんだと感じましたね。すごくハードルが高い曲もあったから、こんなアルバムをつくることができた! という自信にもつながりましたね。

——本来なら、アルバム・リリース後にツアーも予定されていたはずですよね。

Daoko:コロナ禍になって、ライブの予定は立たなくなってしまいました。個人事務所を設立して、アルバムを出してというタイミングでライブができないというのは厳しい事態でしたけど、それは仕方がないことなので。

——有観客での一夜限りのライブ「A(nima) HAPPY NEW TOUR 2021がようやく実現したのは、今年の1月31日の渋谷さくらホールでした。

Daoko:アルバムにも参加してくれたメンバーと一緒に久しぶりにステージに立てたことはホントに嬉しかった。ライブはアルバムのリリース・タイミングでDOMMUNEと公式YouTubeチャンネルで無観客配信イベント以来でしたから。お客さんは客席の半数に限定したんですが、それでも観に来ていただけるのは有り難かったです。

——そのライブを3月13日に国内のみならず世界に向けて配信。海外のファンの視聴を考慮し、各国のタイムゾーンに合わせて行われました。

Daoko:まだツアーがままならない状況が続いていたので、配信でたくさんの人に、世界中の人にライブを視聴してもらいたかったんです。有り難いことに私の音楽をストリーミングやYouTubeを通して聴いてくださる人が世界にいるので、世界配信は何とか実現したかったんです。コロナがなければ、海外でライブをしたいと思っていたので、配信で今のDaokoを観ていただけたらと。

——海外からのリアクションもダイレクトに伝わるのも今の時代の強みですね。

Daoko:そう。このコロナ禍の期間にSNSなんかを通じて海外の音楽家とつながることができたし、SNSには賛否はあると思いますが、そういうコミュニケーション・ツールが増えたことは希望が持てますよね。英語をもっと勉強しなくちゃとか、自分にも刺激になりました。

「今、私ができることは音楽をつくって、みんなと共有すること」

——ツアーやライブがない日々はどのように過ごしていましたか?

Daoko:絵を描いたり、思いついた言葉を書き綴ったりは、コロナの前からしていたことですけど、やっぱりお家にいることが多くなったので、自分と向き合う時間は増えましたね。それはそれで悪いことではないというか。私自身、これからどうしたらいいんだろうと不安を感じたり、焦りが全くなかったわけではないし、モヤモヤとした気持ちは今も続いていますけど、この状況を受けとめて、前を向くしかないなって。感染状況がましな時は、たまにライブに行ったり、友達と会ったり、知り合いのお店を少しでも助けるために外食もしましたけど、しばらくは心身ともに健やかに過ごすように心がけています。

——新作『the light of other days』の3曲も、コロナ禍での不安や不満を抱える人に寄り添う楽曲に仕上がっていますね。

Daoko:このいつまで続くかわからないコロナ禍で、自分の想いを記録として残しておきたかったんです。漠然とした不安を感じているのは私だけじゃないと思うので、それを言葉とメロディーにして、みんなと共有できたらと。

——Daokoさんの言葉とラップもいつも以上に素直に響いてきますね。

Daoko:トラックのオーガニックな雰囲気もあると思うんですけど、DJ6月さんは15歳の頃からの付き合いで、私の好きなトラックをつくってくれるという信頼感があるので、それほど意識したわけではないんだけど、私にしたら比較的素直な言葉がスルッと出てきましたね。

——リード曲「fighting pose」では、〈最近どうなの? なにしてるの〉と親しい友人にリアルに語りかけるような優しさがありますね。

Daoko:そうですね。私達が今、経験していることの先には必ず“光”はあるということになんとかつなげていきたいという想いが強かった。音楽にはその“光”となる何かがあると思うし、今、私ができることは音楽をつくって、みんなと共有することなんじゃないかと。そんなこの1年で感じたさまざまな想いを忘れてしまわないように作品にして、熱が冷めてしまわないうちにリリースしたかったんです。

——ジャケットの絵もDaokoさんが描いたものですね。

Daoko:高校時代からの親友である夢乃さんをモデルに描きました。彼女は美大で学びながら画家として自分の道を歩んでいて、私は彼女の存在にいつも救われているんです。私も10代の頃から音楽と絵を続けてきて、たまたま音楽の方で道が開けたという感じなので、彼女が絵で頑張っているのはすごく励みになる。そういう友達がいることも日々の生活の“光“になるということを、この1年ですごく感じたんです。

——Daokoさんがコンテ・企画・衣装をプロデュースした「fighting pose」のMVにも夢乃さんは出演していますね。お2人の日常の生活を淡々とスケッチしたようなMVが印象に残ります。

Daoko:今の私達がいる日常と、淡いけれど確かな“光”をMVでは描いてみたんです。今回のMVはこれまでの最新の技術を駆使したタイプのMVとは違って、そんな柔らかい雰囲気にしたかった。

——7月にリリースされた松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』では名曲「風の谷のナウシカ」のカヴァーにも挑戦しましたね。

Daoko:松本先生の書く歌詞はものごころがついた頃から耳にしていたし、大好きな曲がたくさんあるので、声をかけていただいてすごく光栄でした。何曲か候補があったんですが、制作の方と私自身も「風の谷のナウシカ」が私の声に一番合うんじゃないかと意見が一致して、歌わせていただきました。松本先生へのリスペクトを、誠意を込めて昇華してゆく亀田さんも素晴らしいし、いろんな人達の“大好き”が集まったトリビュートアルバムにはそんなハッピーな関係があふれていると思います。

——Daokoさんは松本隆さんが全作詞を手掛けた南佳孝さんの『摩天楼のヒロイン』など日本の1970〜80年代の音楽を普段から好んで聴いているそうですね。

Daoko:音楽はジャンルを問わず幅広く聴いている方だと思いますが、好きになった音楽を通して松本先生の言葉に出会ったというか、小さい頃から松本先生の書いた歌詞とは知らずに聴いたり、口ずさんできた曲もあって、「風の谷のナウシカ」もそうですが、今聴いても新鮮に響くし、言葉を表現する私もすごく刺激になります。

——今後の活動やリリースの予定は?

Daoko:今はまだライブの予定などを発表できる段階ではないのですが、状況が落ち着いたらツアーもやりたいし、海外での活動など表現の幅を広げたいですね。音源も水面下でずっとつくり続けているので、また発表できるチャンスが来ると思います。2021年もコロナ禍が続き、先がなかなか見えにくいけれど、少しでも楽しくなれる素材を日常の中から見つけていきたいですね。今、一番やりたいことも、やっぱり自分が納得できる音楽をつくることなんです。

Daoko(だをこ)
アーティスト。1997 年生まれ、東京都出身。15 歳の時にニコニコ動画へ投稿した楽曲で注目を集め、2015 年『DAOKO』でメジャーデビュー。その後も米津玄師との「打上花火」、岡村靖幸との「ステップアップLOVE」など、実力派アーティストとの共作を行いつつ、ソロとしての個性も強めている。小説の執筆、写真と絵の初個展の開催、自主企画ライブイベントの主催や、新たなバンド形式でのツアーを成功させるなど、多様なクリエイティヴ表現を続け、国内外で注目を集めている。2019 年には個人事務所“てふてふ”を設立。2020年6月24日に4thアルバム『anima』を配信とCDでリリース。2021年6月30日に自主レーベルから初のEP『the light of other days』を配信リリース。
https://daoko.jp
Twitter:@Daok0
Instagram:@daoko_official
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UChZvE2JzSafBDeAJNmwNGGA

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

author:

佐野郷子

ライター/エディター。1980年代から音楽を中心に執筆・編集を手掛ける。1990年代後半より編集プロダクションDo The Monkey在籍。コロナ禍での楽しみは料理と散歩。

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