UKバンド、アイドルズが表現する“ヒューマニズム” パンデミックを経ての気付きと深化

アイドルズ(IDLES)
英ブリストルで結成。メンバーはジョー・タルボット(vocals)、ダム・デヴォンシャー(bass)、マーク・ボーウェン(guitars)、リー・キアナン(guitars)、ジョン・ビーヴィス(drums)の5人で、2017年にデビュー・アルバム『Brutalism』をリリース。2018年にはセカンド・アルバム『Joy As An Act Of Resistance』を、2020年にはサード・アルバム『Ultra Mono』をリリース。サードアルバムはUKチャートの1位を獲得した。2021年には、ケニー・ビーツとギタリスト、マーク・ボーウェンの共同プロデュースによる4枚目のアルバム『Crawler』をリリースした。

ここしばらくの英国ロックの活況を先陣切って導いた存在。アイドルズ(IDLES)についてそういう見方もできるかもしれない。活動歴的には、アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)とブラック・ミディ(Black Midi)らロンドンの若手の間に位置するブリストルの5人組。結成からデビュー・アルバム『Brutalism』(2017年)のリリースまで8年を要するもライヴ・シーンで評判を集め、DIYなスタイルを貫く傍ら、フー・ファイターズ(Foo Fighters)やメタリカ(Metallica)にフックアップされ支持を広げるなど着実にキャリアの基盤を築いてきた。2018年の2作目『Joy As An Act Of Resistance』は翌年のマーキュリー・プライズにノミネートされる高い評価を獲得。続く2020年の3作目『Ultra Mono』はバンドにとって初の全英1位を記録した作品となり、その躍進を大きく印象付けたことも記憶に新しい。

そんなアイドルズのサウンドに関しては、「パンク」や「ポスト・パンク」とカテゴライズされることが長らく続いた。一方で、FKAツイッグスやヴィンス・ステイプルズ(Vince Staples)のプロデュースで知られるケニー・ビーツ(Kenny Beats)と制作された『Ultra Mono』を機に、特にビートやプロダクションの部分で彼等が音楽性を深化させてきたことも事実である。そして、そのケニー・ビーツと再び組んだ最新アルバム『Crawler』(2021年)は、音楽面はもとより、パンデミックを経て深く掘り下げられたリリックの充実度においても、現時点で彼等のベスト・ワークといっていい。

この夏「フジロック」に出演し、5年ぶりの来日を果たしたアイドルズ。そのバンド活動を支える理念、音楽制作の背景やルーツについて、フロントマンのジョー・タルボット(Joe Talbot、ヴォーカル)に話を聞いてみた。

コロナ禍で制作されたアルバム『Crawler』

——「フジロック」のステージはいかがでしたか。

ジョー・タルボット(以下、ジョー):世界中のどんなフェスティバルに出る時も、一番大事なのはショウであることを忘れてはいけない。どんなに美しくてマジカルな環境であっても、ショウのフィーリングほど素晴らしいなものはない。そして、観客との間に生まれるエネルギーが最も重要なんだ。だからいつだってショウのことを第一に考えてステージに臨んでいる。でも今回、東京以外で日本に来たのは初めてだったんだけど、とても美しかったよ。周りは森と山だけで、見事な環境だった。人々も素晴らしいね。

——他のアーティストのライヴは観ましたか。

ジョー:いや、何も観ずに自分のショウに集中していたよ。それが自分のできるすべてだからね。

——2年前にリリースされた『Crawler』はパンデミックの最中に制作された作品でした。それからロックダウンが明けて、ツアーが再開するなどして時間が経つ中で、アルバムについて発見があったり、理解が深まったりしたようなところはありますか。

ジョー:うん、他のどのアルバムよりもね。自分達の場合、曲を作るにあたって「ライヴで演奏する」という行為は常に頭の中にあるものなんだ。音楽というのは生きているものだからね。でも『Crawler』では全く考えることができなかった。僕はリモートで曲を書いて、ボーウェン(※マーク・ボーウェン、ギタリスト)も自分ひとりで曲を書いた。だから、そこには内省と孤独があった。そのことは自分達の曲の見方を変えた。あの時自分が考えていたのは、ただ最高の曲を作ること。ライヴのためでもなく、ファンのためでもなく、自分達のためにね。自分達にとって大切なものが変わったんだ。でも、僕等にとって重要なのはライヴのエネルギーであり、転じてそこから最高の曲が生まれるんだと思う。そして、最高のライヴが人々を1つにさせる。そう、だから(制作時と今とでは)すべてが変わったよ。

——『Crawler』の制作は、バンドにとって大きなエポックを意味する出来事だったんですね。

ジョー:そう、僕にとってパンデミックは、ある意味とても“革命的な”時期だったのかもしれない。自分自身について多くを学んだ。内省することで自分の考えを改める時間があったからね。文字通りに自分を変えることができたんだと思う。それを経て、今の自分は、ファンがどう思うかを考えて怖がるようなことが少なくなった。なぜならパンデミックによって、誰もが恐れを抱いていることを理解できたから。誰もが不安や喪失感を抱えている。自分なんて大したことない。ただ、音楽やアートにおいては、誰もが等しく重要なんだ。自分が学んだのは、曲だけに集中して、他のことは何も考えず、その曲が自分に感じさせてくれることを何でも書けば、そこから多くのものを得ることができるということだった。自分にはまだ書くべき物語がたくさんあるし、それは尽きることがない。人生は終わらないし、音楽やアートは続いていく。そして、そこに真のエキサイトメントがある。だから僕はもう何も気にしないし、変わることを愛することができるようになったんだ。

——アイドルズは「パンク」や「ポスト・パンク」にカテゴライズされることが多いですが、『Crawler』や前作の『Ultra Mono』以降、もっと多様な影響を感じさせるサウンドへと変化を遂げてきた印象を受けます。そのあたりの音楽的な成果についてはどんな手応えを感じていますか。

ジョー:僕等のアルバムはどれも、その時に自分達がいた場所を映し出したものとして重要だと思う。自分達が「パンク・バンド」かどうかなんて興味はないし、「ポスト・パンク」かどうかについてもそう。パンクは大好きだし、ポスト・パンクも大好きだ。それにテクノやヒップホップ、ジャズも好きだよ。でも僕にとっては、音楽の世界ではどんなことでも祝福できる、恥じることはないんだって感じてもらうことが重要なんだ。テイラー・スウィフト(Taylor Swift)のような美的感覚において完璧とみなされる人でないからといって醜いと感じるのではなく、より小規模なアーティストや、若い人達が解放された気分になれるようなさまざまなアーティストをサポートすることの方が、僕にとっては大事なこと。目を閉じればすべての音楽が美しい。1つのジャンル、1つの瞬間、1つのアルバム、1つのどうでもいいことに集中することで、人生への祝福を感じてもらいたい。だからパンクな曲が書きたければ書けばいいし、グラム・ロックな曲が書きたければ書けばいいし、フォーク・ソングが書きたければ書けばいい。自分が祝福したいことに何の制約も感じるべきではない。好きであるならば自由だ。

だから、特に『Crawler』と『Crawler』のあとに書いている新しい曲は、僕等が望むものを何でも祝福しているから、最も達成感のあるものになっていると思う。それぞれの曲は、僕にとっての大事な何かであったり、僕等が望む何かを組み合わせたような曲なんだ。ルールがないからなんでも作れるし、とてもエキサイティングに感じるよ。

ケニー・ビーツの存在

——アイドルズのサウンドがレンジを広げた背景には、『Ultra Mono』と『Crawler』と2作続けて制作を共にしたケニー・ビーツの存在も大きかったと思います。

ジョー:彼がInstagramでメッセージをくれたんだ。「ファンだから、もし一緒に仕事をしたくなったら電話してくれ」って(笑)。僕も彼のファンだったし、彼が手掛けたレコードのいくつかは大好きだったから、すぐにメッセージを送ったんだ。僕等はアメリカのツアーで数日間LAにいて、ギャング・オブ・フォー(Gang Of Four)のカヴァー・アルバムみたいなプロジェクト(『The Problem Of Leisure: A Celebration Of Andy Gill & Gang Of Four』)をやっていたんだ。アンディ(・ギル)が亡くなる前にね。それで、彼も同じ時期にLAにいたから、一緒に仕事をしたんだ。完璧だったね。他の人とは仕事をしたくないと思うくらい、彼は最高だった。

——そのケニー・ビーツと『Ultra Mono』で初めて組んだ際には、カニエ(・ウェスト、Kanye West)の『Yeezus』やデス・グリップス(Death Grips)の話題で意気投合されたと聞きました。ジョーさん個人としては、これまでどんなダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージック、ヒップホップを聴いてこられたのか興味があります。

ジョー:僕はジャングル・ミュージックで育った感じだった。「Helter Skelter」っていうレイヴのイベントによく行ってたね。あと「One Nation」とか。コンゴ・ナッティ(Congo Natty)は僕の大好きなジャングリストの1人だ。正直、最近のエレクトロニック・ミュージックにはあまり満足していないんだけど……サックスなんだけど、テクノみたいなサウンドで、マイクロフォンを使った演奏で……そう、ベンディク・ギスケ(Bendik Giske)は素晴らしいね。コリン・ステットソン(Colin Stetson)に似ていて、とてもテクノロジカルで、モータリックな感じで、大好きなんだ。他にエレクトロニック系だと、ブリストルのジャイアント・スワン(Giant Swan)。あと、マンチェスターのバンドなんだけど、マンディ,インディアナ(Mandy, Indiana)も最高。新しいところだと、オーヴァーモノ(Overmono)のアルバム(『Good Lies』)もよかったな。

——以前にバンド名義でセイント・ヴィンセント(St. Vincent)やフローレンス&ザ・マシーン(Florence and the Machine)のリミックスを手掛けていましたね。もし『Crawler』のリミックス・アルバムを制作するとしたら誰にお願いしたいですか。

ジョー:うーん、誰だろう……フォー・テット(Four Tet)、トム・ヨーク(Thom Yorke)……そうだな……アルケミスト(The Alchemist)! 彼等のリミックスはクールだよね。ジャイアント・スワン(Giant Swan)も素晴らしい。彼等は友達だから、僕等のことも知っているしね。

——逆に、自分達がリミックスするとしたら?

ジョー:フランク・オーシャン(Frank Ocean)。お金のためでなければ(笑)。でもやっぱり、ベンディク・ギスケかな。何かを加えたらもっと面白くなりそう。

——でも、いわゆるロック・バンドがリミックスを手掛けるのって珍しいですよね?

ジョー:僕とボーウェンは2人とも、バンドをやる前はDJだったんだ。プロモーターの友人を通じて知り合ったんだけど、知っての通り、僕ら2人はテクノやヒップホップに夢中で、僕はグライム、ボーウェンはハウスが大好きだった。それと、僕等の共通点はポスト・パンクだった。だから一緒にバンドをやるにはよかったわけだけど、でも同時に、僕ら2人はDJやリミックス、プロデュースにとても興味があるんだ。

——いわゆるロック・ミュージックやパンクからは得られないものがそこにはある、という感じですか。

ジョー:まあ、時と場合によってね。エレクトロニック・ミュージックにも、すごく暴力的なものもあれば、すごくメロウでドリーミーなものもある。同じように、ヘヴィなロックンロールもあれば、1950年代のバディ・ホリーのような初期のロックンロールもある。だから、僕が音楽に求めているものはどんなジャンルでも変わらないんだ。音楽を聴くことは人生の魔法を感じることでもある。ある種の音楽は僕を宇宙に連れて行ってくれるし、他の何ものよりもずっと大きなものの一部だと感じさせてくれる。それこそがヒューマニティであり、ここではないどこかであるような感覚を音楽の中では感じることができる。だからジャンルはなんだっていいんだ。

「僕の音楽はヒューマニズムを表現している」

——金曜日の「フジロック」初日に出演されて、今日は3日後の月曜日になります。このあとも数日ほど日本に滞在されるそうですが、レコード会社のスタッフによると、大好きなラーメンを堪能されていたとか。

ジョー:ラーメンは世界で一番好きな食べ物なんだ(笑)。あと、ローソンも大好きだ。ダイフク? 牛乳とコラボしてるお菓子があってね(※ミルクプリン大福)。牛乳の甘さが感じられていいんだ。たくさん食べたよ。

——(笑)。日本ならではの文化やアートに触れるような機会はありましたか。

ジョー:3日間でそこまではやるのは難しかったね(笑)。でも、東京は大好きだよ。美しい場所だ。だからあちこち歩き回ったり、自転車をレンタルして街をサイクリングしたりした。新宿公園にも行った。あと、僕は建築物が好きだから、眺めたり写真を撮ったりしてね。

——これまでツアーで世界中を回って来られたと思いますが、そうした経験や、訪れた先で触れたアートやカルチャーに創作のインスピレーションを受けることはありますか。

ジョー:うん、時にはね。さっきも言ったけど、僕は自分の音楽や曲には率直さや透明さ、誠実さが欲しい。直感的で人間的な感情が欲しいんだ。そして、異なる文化に触れたり、世界中を回ったりすることで、新しいものをたくさん見ることができることに感謝する。それはとても恵まれたことだし、ありがたいことだと思う。自分の音楽のために人生を謳歌するのが大好きなんだ。

その一方で、曲を書いている時の僕の視界は本当に狭い。なぜならそれは、個人的な洞察や直感に基づいているから。東京のストリートやブリストルのストリートなんて、僕にとってはどうでもいいことなんだ。僕にとって重要なのは、洞察力、フィーリング、愛、そして人とのつながり。旅に出るか出ないかは、僕のアートにとっては何の意味もない。僕は英国のことは書かない。自分がどう感じているかについて書く。断絶、恐怖、政府への怒り、自分が望んでもいない国王への怒り……街並みがどうであろうと、食べ物がどんな味であろうと関係ない。でも、その根底にあるものは同じなんだ。だから、音楽を通じて世界中どこでも人々がつながることができる。

——ええ。

ジョー:だから感謝しているんだ。僕の仕事は、世界がいかに美しいか、そして皆がいかに違うかを気付かせてくれる。でも、その根底にあるものはとても似ている。僕の音楽はヒューマニズムを表現していると思う。それは“イギリス人の”とか、英国的なユーモアとかではない。だから、日本人であるとか、アフリカ人であるとか、そのことがそれ以上に重要であるとか、それ以下であるとか、何かそこに特別な面白みを感じるようなことはない。文化とはそれ自体が、さまざまな異なる場所に息づいたダイナミックな言語なんだ。でもその文化の根底には、1400年代から2023年までのすべての絵画を見ればわかるように、僕が愛するもの、喪失、恐怖、戦争、お金がある。そして、これらのことは世界中で見ることができる。日本と西洋の芸術には共通点がある。イギリスも日本も、時代を遡れば愛のあるセックスがテーマとして描かれている。異なる食べ物や、異なる神。ただし、その根底にあるのは人間だ。だから世界を旅しても僕は何も変わらない。ただ感謝の気持ちが大きくなる。そして、自分がいかにちっぽけでどうでもいい存在で、音楽がいかに大切なものかを深く知ることになるんだ。

映画から受けた影響

——今も絵画の話が出ましたが、音楽以外で、ジョーさん自身を形作ったアートやカルチャーとなるとどんなものが挙げられますか。

ジョー:映画かな。大学で勉強したんだ。映画が大好きで、脚本家になりたかったから。ただ正直、映画からインスピレーションを受けるようなことはないんだ。映画を見て、それを食べ物のように吸収する。映画の良さを知るのは興味深いことだし、とても楽しい。でもそれだけなんだ。音楽が自分を変えてくれるようなことはあっても、映画が自分を変えてくれるようなことはめったにない――『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』はその例外の1本だね。音楽はいつも、聴くたびに僕の価値観を変えてくれる。だからアルバムを書くためのインスピレシーションが欲しい時はいつも、“視覚的な言語”を求めてアートギャラリーに行くんだ。自分は物事を視覚的に理解するタイプなんだと思う。自分の場合、“視覚的な言語”から音や作品のイメージが生まれる。だからアートギャラリーに行ってアートを見ると、新しい音楽を作る手助けになる。特に絵画や彫刻、建築物を見た時に最高のインスピレーションが生まれるんだ。

——学生時代に実際に映画を作ったりしたんですか。

ジョー:いや、僕が学んだのは映画理論と社会学だった。でも、映画を作りたいという思いはあった。実は大学に入る前に映画を作ったんだけど、あれはヒドかったな(笑)。個人的には、1960年代のフランス映画に興味があったんだ。あと黒澤映画もよく観た。だからそれを真似て、自分でも映画を作りたかったんだよね。人間同士の交流や会話をテーマにした、重厚な映画を書きたかったんだ。今でも脚本を書きたいと思っているし、いつか書こうと思う。僕は人が会話している様子を観察するのが好きだし、たとえ短い時間の会話だとしても、そこには僕達のすべてが凝縮されていることに気付くことができる。だからとても興味があるんだ。

——じゃあ、バンドのミュージック・ビデオの制作にも関わっている?

ジョー:うん、すべてのビデオにね。

——こだわりはありますか。

ジョー:短編映画やミュージック・ビデオは、3分半という短い時間の中で1つのことを見事にやり遂げるというチャレンジに惹かれるんだ。だから、とてもシンプルなワンショットやアイデア、コンセプトが好きなんだ。いくつかのビデオではそれを試みているのだけど、まだ満足いくレベルには達していないように感じる。まだ自分の中では音楽のほうが優先度が高いし、だからいずれもっと完成されたものが作りたいと思っているよ。

——ちなみに、黒澤映画で好きな作品はなんですか。

ジョー:『赤ひげ』だね。もちろん『七人の侍』も素晴らしいけど、やっぱ『赤ひげ』かな。

——黒澤明の映画とはどんなふうにして出会ったんですか。

ジョー:大学で黒澤明について勉強したんだ。ショットの勉強が授業の一環としてあってね。ただ、日本映画に限定してってわけではなく、アジア全域のさまざまな映画を観た。韓国映画もたくさん観たし、フランス映画もたくさん。ドイツ映画も少しだけね。

——日本の音楽についてはどうですか。

ジョー:YMOは聴いたよ。僕がヒップホップにハマっていた頃、知り合いがスクラッチDJをやっていて。そこで彼等の音楽を発見したんだ。でも、日本の音楽についてはあまりよく知らない。逆に、何かオススメはある?

——betcover!!とかかっこいいですよ。

ジョー:ああ! そういえばこの前、BEATCAFEに行った時にも誰かが教えてくれたな。そう、betcover!!ね。

——アイドルズは結成以来これまで、ブリット・アワードやマーキュリー賞でノミネートされるなど評価やファンからのサポートの面でも順風満帆なキャリアを歩んできたように見えます。最新作の『Crawler』は今年のグラミー賞で「ベスト・ロック・アルバム」の候補作にも選ばれましたが、そんなバンドやジョーさん個人にとって「成功」とは何を意味するのか、最後に伺えますか。

ジョー:“成功”とは自分にとって、たぶん3つのことのバランスが取れている状態がもたらすものだと思う。それは『Challenge(挑戦)』、『Comfort(安らぎ)』、『Peace(平穏)』。『Comfort』は、休息、健康、愛、家族から来るものだと思う。おいしい食べ物、心地よさを感じさせてくれるいい音楽、あたたかくて柔らかくて安全な気持ちにさせてくれるもの。『Peace』は、受け入れること、共感すること、忍耐、ハード・ワーク、質の良い睡眠から生まれると思う。そして『Challenge』は、努力と決意から生まれる。それと好奇心と、居心地の良さからあえて飛び出すような仕事から。もちろん、時には熟睡できないこともある(笑)。でもね、そのバランスこそが自分の仕事であり、自分のやるべきことなんだと思う。そのバランスがとれている時が“成功”だと思うんだ。常に新しい挑戦がある時、そこには常に何か困難なことがやってくる。でも、あなたにはそれをやり遂げる優しさと勇気がある。そのために、素晴らしい友人や愛する家族と過ごすこと。あとはおいしい食事と、良い睡眠。だから自分は幸運だと思う。望むものすべてが手元にある。それが僕にとっての“成功”なんだ。

——『Crawler』のリリースから2年になります。先ほども「『Crawler』の後に書いている新しい曲」と話されていましたが、今現在何か新しく取り組んでいることがあるのでしょうか。

ジョー:後でオフレコで話すよ(笑)。

——期待していいんですね(笑)。

ジョー:ノーコメント(笑)。まあ、もうすぐだよ。僕らは常に新しいものに取り組んでいる。いつも曲を書いているし、いつも音楽を作っている。だから、そうだね、何か制作中なのは確か、とだけは言えるね。インタビューが終わったら、その理由を詳しく話すよ(笑)。

Photography Hironori Sakunaga

author:

天井潤之介

ライター。雑誌やウェブで音楽にまつわる文章を書いています。 Twitter:@junnosukeamai

この記事を共有