The xxのロミーがソロプロジェクトを始めた意義 「それは楽しく、新しい挑戦でした」

ロミー(Romy)
UKを代表するバンドThe xx(ザ・エックス・エックス)のギターリスト兼ボーカル。2020年9月にシングル「Lifetime」でソロ・デビュー。2022年11月にフレッド・アゲインをフィーチャリングしたシングル「ストロング」をリリース。他にもファッションブランド「エックスガール(X- girl)」とのコラボも行っている。現在、ソロアルバムを制作中。「フジロックフェスティバル ’23」にも出演する。
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The xxのロミー(Romy)のソロデビュー・シングル「Lifetime」は、きらびやかなユーロダンス・ビートにのせて聴く者を愛の高揚感で満たしてくれる。「あなたは私のすぐそばにいる/私はあなたのすぐそばにいる」——その熱を帯びたリフレインがうながすまばゆいユーフォリアは、The xx(ザ・エックス・エックス)のステージで見せる控えめで物憂げな表情とは異なり、まさに彼女の新たな始まり(début)を印象づけて鮮烈だ。それはアシッドなネオンカラーをまとったビジュアルにも象徴的で、それまでの「黒」をシグニチャーとしてきたイメージとは一変。そこには、彼女がティーンの頃から親しんだ2000年代のUKダンス・カルチャーへの愛着、そして自身を解放する喜びや恍惚を何よりありありと感じることができる。

「それは楽しく、新しい挑戦でした」。2月上旬、ファッションブランドのイベントのため来日したロミーは、今回のソロプロジェクトを始めた意義についてそう話す。当初昨年にリリースが伝えられていたソロアルバムは現在も制作中のようだが、この夏にはフジロックへの出演が決定。そして、The xxの来たるニュー・アルバムについてもさまざまな声が聞かれ始めている。彼女の言う“挑戦”がどんな実を結ぶのか、楽しみにして待ちたい。

The xxとソロプロジェクト

——日本は久しぶりですか。

ロミー:5年ぶり? 前回の(The xxの)ツアー以来ですね。また来ることができて嬉しいです。

——日本に来たら必ず立ち寄るスポットとかってありますか。ジェイミーは毎回レコード・ショップに足を運ぶようですけど。

ロミー:ジェイミーは私よりも日本に来ていて、お勧めのスポットのリストを送ってくれるんです。ただ、今回の旅ではあまり時間がなくて。彼が勧めてくれたシンセサイザーのお店で、どうしても行ってみたいところがあったんだけど、そこも行けませんでした。明日には帰らなくちゃいけないので、もし今夜時間があれば行きたいですね。私は日本のナイトライフがすごく好きで、昨日の夜は「NEW SAZAE」と「GOLD FINGER」というクラブに行きました。

——久しぶりの日本のナイトライフはどうでしたか。

ロミー:「NEW SAZAE」でやっていたDJがとても良くて。彼女はCDでプレイしてたんだけど、本当にもうヒット曲ばかりをかけていて、みんなクレイジーなくらいに盛り上がっていました。

——ロミーさんがDJをしている映像も見たことがありますが、The xxのステージでのクールで控えめな様子とは対照的に、腕を振り上げたりしてオーディエンスをあおっている姿が印象的でした。ロミーさんの新たな一面を見るようで。

ロミー:The xxを始めた頃の自分はとても自意識過剰だったと思います。かなりの恥ずかしがり屋で、何よりとても若かった。ただ、時間が経つにつれて徐々に自信がついてきたんだと思う。DJをするのも同じで、始めた頃はちょっとぎこちない感じもありました。でも、思うままにしていたら徐々に自分が解放されていくような感覚になりました。少し時間はかかりましたけどね。

——「解放」という言葉は象徴的です。例えばThe xxではステージ衣装も黒で統一されていて、ロミーさん自身もワードローブの中はすべて黒だと以前インタビューで話されていました。でも、ソロ活動を始めて以降のロミーさんは、ルックやアートワークも含めてとてもカラフルで、多幸感があふれているように感じられます。そこには、ロミーさん自身のどんな変化が反映されていると言えますか。

ロミー:そこに気付いてくれるのは嬉しいですね。でも、自分自身はあまり意識してなかったことなんです。少し年齢を重ねて、人の目を気にしなくなったことで、リラックスして自分が好きなものを受け入れられるようになったのかもしれない。今でも黒でそろえることは好きですが、ネオンカラーも好きだし、もっと遊び心のあるファッションを取り入れたいと思っています。

——ロミーさんにとって「黒」ってどんな意味合いを持った色ですか。

ロミー:安心感だと思います。「この服なら大丈夫」という安心感があります。それにすべてを黒で統一するとまとまりがいいんです。自分達は3人でバンドをやっていて、全身黒で統一しているんですが、なんというか、一緒にいて落ち着くんです。でも、「みんな黒で統一しよう」と言ったことはないんです。ただ、自然と似たような服を着るようになっただけで。今はそれぞれがプロジェクトをやっていたりして、一緒にステージに立たないことも増えてきました。それにジェイミーとオリヴァーも最近は明るい色を取り入れていて、それぞれのファッション観も変わりつつあると思います。

——ファッションの変化もそうですが、そうした「新たな自分を表現したい」というところから今回のソロプロジェクトは始まった部分が大きかったのでしょうか。

ロミー:そうですね。今回(※現在制作中)のソロ・アルバムのスタイルは、よりカジュアルで、家で着るようなもの——ストリート・ウェアに近くて、もっと明るい色のもの、って感じかな。以前はステージに上がる時って、鎧(armor)を着るような格好をしていたと思うんです。ブレザーやスマートなものを着て、ハイヒールを履いて、もっと自分に自信が持てるように。でも、そんなものは必要ないんだって思えるようになったんです。

ファッションと音楽の関係

——ファッションと音楽の話を続けさせてもらうと、昔はもっとわかりやすく結びついていたと思うんですね。パンクやグランジ、あるいは1990年代のレイヴ・カルチャーのように、その人のファッションを見ればどんな音楽を聴いているのかわかる、みたいな。例えばロミーさんも、聴いている音楽に影響されて着るものが変わったり、逆にファッションから音楽に入ったりしたような経験ってありますか。

ロミー:そうですね、確かに今の時代、誰がどんな音楽が好きなのか、それをファッションから判断するのは難しいですよね。でも、それがまたクールなんだと思う。自分の場合、2000年代の音楽にとても興味があって、その音楽と相性の良いファッション――レイヴやトランスのネオンカラーだったり、ダンサーが履くようなパンツやトレーニングウェアだとか、その時代を彷彿とさせるようなスタイルが好きなんです。だから意識して、あるいは無意識のうちにそういうものを選んできたような気がします。

——振り返ってみて、「なんであんな格好しちゃったんだろう!?」みたいな失敗談はない?

ロミー:ありますね(笑)。コーチェラに初めて出演した時、バンドとして初めて黒一色ではなく白一色の服を着ることにしたんです。砂漠で演奏するんだから暑いだろうと思って。その時は若かったので、自分達で衣装を選んだんです。でもその時の写真を見ると、もう「うわー……」って(笑)、自分達でも笑っちゃう感じで。クリーム色のジャンパーを着たんですけど、今思い返してもあれは恥ずかしいですね(笑)。

——その服はもう処分した?(笑)。

ロミー:もう今はどこにあるのかわからない(笑)。

——ロミーさんのこれまでの音楽遍歴の中で、ファッションから興味を持ったミュージシャンっていますか。

ロミー:いい質問ですね。でも、自分は音楽が最初に来ることが多いかな。もちろん、誰かの写真を見て、その人のスタイルが好きになったら、それをきっかけに興味を持つこともあるかもしれない。でも雑誌を見ているよりも、音楽を聴いている時間の方が長いので、まず音楽を聴いて、そこに何か惹かれるものがあったら、そこからその人のことを調べて、その人のファッションやビジュアルについて知るパターンの方が多いですね。

——ちなみに、そのパターンで好きになったミュージシャンって誰ですか。

ロミー:いざそう聞かれると……頭が真っ白になっちゃって、すぐ出てこなくて(笑)。ごめんなさい。

——いえ(笑)。昨晩は東京のナイトライフを楽しんだと話していましたが、それこそThe xxを始める前、ロミーさんが10代の頃から通っていたロンドンのクラブは、音楽はもちろん、ファッションも含めたさまざまなカルチャーと出会う入り口だったと思うんですね。

ロミー:私がロンドンのクラブに出かけるようになったのは16歳ぐらいの時で。今だったら16歳だとクラブに入れるかどうかわからないけど(笑)、私はラッキーなことに入れてもらえて。そこであるクィアのナイトクラブに通い始めて、今でも親友と呼べるような人達とたくさん出会うことができました。初めてDJをする機会を得たのもそのクラブで、だから私にとっては本当に大切な場所でしたね。

——当時の経験は、今でも大きなものとしてロミーさんの中で残っていますか。

ロミー:間違いなく残っています。今の私が作っている音楽は、人生におけるあの時期の出来事がインスピレーションになっているんだと思う。なぜなら、私が今作っている音楽は、あの時代と密接に結び付いているから。そこにあった自由や、コミュニティーの感覚のようなものを、今自分が作っている音楽にそのまま反映しているので。その繋がりはとても大きいと思います。

——ただ、そうした大切な場所が、コロナ禍で失われたり、また近年はクィアのパーティが銃撃されるといったニュースが伝えられる状況が続いています。

ロミー:そうですね、あの銃乱射事件(※昨年アメリカのコロラド州コロラドスプリングズで起きた事件)は衝撃的で悲しい出来事でした。ああいう所というのは、多くの人々にとって自分らしく生きるための、自分らしさを表現することができる安全な場所であり、自分と似たような人達とのつながりを提供してきた場所だから。それは私にとってとても重要なことで、もしそこが安全な場所でなくなったら、他の場所を見つけるのは難しいでしょう。

それと、COVID-19の影響で多くのそうした場所が失われて、本当に悲しかった。自分がどれだけナイトライフやクラビングが好きだったか、いかにそれを求めていたかが改めてわかりました。人と繋がることの楽しさや、それによって日々の生活から解放されたり、現実逃避したりするのはとても重要なことなんです。ただお酒を飲んでハイになるんじゃなくて、音楽を聴いて多幸感を感じることが大事なんです。

ソロプロジェクトという新しい挑戦

——今話してくれた「多幸感(euphoria)」は、今回のロミーさんのソロプロジェクトのキーワードでもあるように思います。そもそもソロを始めた理由はなんだったんでしょうか。

ロミー:最初はそんなつもりなかったんです。ただ、私は曲を作るのが好きで、The xx以外の曲も書き続けたいと思っていました。実際に他のアーティスト(デュア・リパ、キング・プリンセス、ホールジー)のために曲を書いてみたりもしました。で、そうしているうちにフレッド・アゲインというプロデューサーと出会って友達になり、彼と一緒に音楽を作るのがとても楽しくなったんです。そしてある日、彼が「誰のために曲を作っているの?」と聞いてきて。それで「私が自分でやろうかな」って答えたんです。それがきっかけでした。

——いざソロを始めるとなった時、ロミーさんはギタリストでもあるわけで、例えばアコースティック・ギターで弾き語りをやるっていう選択肢もあり得たと思うんですね。そうした中でダンス・ミュージックを選んだのは、やはりロミーさんにとって必然的だったのでしょうか。

ロミー:いや、“挑戦”でした。自分自身に挑戦してみたかったんです。ギターを置くというのがどういうことなのか、確かめてみたかった。ギターは私にとって、快適なブランケットのようなものです。だから、あえてそれを手放してみようとした。それは楽しく、新しい挑戦でした。

——実際に曲作りをしている過程で、新しい自分を発見した、自分の新たな一面に気付いた、みたいな感覚はありましたか。

ロミー:確実にありましたね。自分がリニューアルされるようなプロセスでした。自分でも成長することを欲していたんだと思う。

——ちなみに、オリヴァーは昨年発表したソロ・アルバムを制作するにあたり、ジョン・グラントやパフューム・ジーニアスといった自分と同じクィア・アーティストにアドバイスを乞い、学びやインスピレーションを得たと話していました。ロミーさんにも、そうした存在と言えるようなアーティストはいますか。

ロミー:間違いなくいます。ロビンは大きな存在で、自分が作っている音楽は間違いなく彼女からインスピレーションを受けていると思う。何度か話しただけだけど、彼女はとても協力的で、たくさんのアドバイスをくれました。そうした繋がりが、自分にとって本当に大切なことなんです。それとビョークやマドンナのような、確固たるアイデアを持っていて、細部にまで関与するのが好きなアーティストにインスパイアされます。特にビョークはプロダクションにも深く関わっていて、さまざまな面でとても優れたアイデアを持っている。彼女の作品にはいつも感心させられるし、エンパワーメントされます。

——新曲の「Lifetime」と「Strong」のリミックスには、プランニングトゥーロック(Planningtorock)やジェイダ・G (Jayda G)、ハアーイ(HAAi)といった女性やノンバイナリーのプロデューサーが起用されていますね。

ロミー:まず、彼等を起用したのは、純粋にアーティストとして好きだから。そして、彼らのようなクィア・コミュニティーやノンバイナリーの人達をサポートし、スポットを当てることが自分にとって重要なことなんです。でも第一に、自分自身が彼等の大ファンなんです。それが何より大きいんです。

——「好き」って気持ちは大事ですよね。

ロミー:そうですね。好きだからサポートしたい。クィアやノンバイナリーだから、というわけではないんです。

——「Strong」は過去の悲しみと向き合うことについて書かれた曲ですが、今のロミーさんにとって「強さ」とはなんですか。

ロミー:“弱さ”です。“弱さ”とは“強さ”でもあると思うんです。あの曲ではそのことを歌にしたのですが、でもだからといって、いつもそのようにいられるわけではない。そうした自分の脆弱さ、繊細な部分というのを強さだとは捉えてこなかったし、今でもそうできない自分がいる。だから、今の自分はそうなろうとしているんだと思います。もっと“弱くなる”ことを学んでいるところなんです。

author:

天井潤之介

ライター。雑誌やウェブで音楽にまつわる文章を書いています。 Twitter:@junnosukeamai

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