工藤キキ, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kiki-kudo/ Tue, 27 Feb 2024 05:52:30 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 工藤キキ, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/kiki-kudo/ 32 32 学ぶのに遅すぎることなんかないのだ:工藤キキのステディライフ最終回 https://tokion.jp/2024/02/28/kiki-kudos-steady-life-last/ Wed, 28 Feb 2024 07:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=225533 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載最終回。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振り返りながらつづる。

コロナの影響でまだまだ生活が規制されていた2020年の頃、運転免許を取り始めた友人が周りにちらほらいた。ニューヨーク以外は広い郊外であるアメリカでは、16歳から免許が取得できて、赤ちゃんと住所不定者だけ運転免許を持ってないと言われるほど。東京にいた時は運転免許のことを考えたこともなかったが、ほとんどのアメリカ国民が持っているのがあたりまえらしい。

アメリカに引っ越して4年ぐらいの頃、遊びに行った遊園地のコニーアイランドでバンパーカーに乗ろうということになったが、実は基本的な操作がわからずパニックを起こし、私の車はフロアの真ん中で立ち往生してしまったことが。楽しげにぶつかり合う車の上を、セキュリティの人が飛び石を渡るように車を飛び越えて私を救出してくれた……というトラウマもあり正直、自分で車という鉄の塊を運転できる自信が全くなかった。

そして友人達がサラッと運転免許を取っていくなか、最寄りの駅が車で1時間という場所に引っ越した2021年にようやく運転免許を取ろうと誓った。必須科目の交通ルールを学ぶための8時間クラスをコロナの影響でZoomで受けることになり、自宅にいながら授業を受けられたのはラッキーだったが、DMVでの仮免試験を通過するまでの道のりは長かった……。

家から一番近いマーケットが車で10分。私達の住む地域では、タウンごとにトランスファーステーションと呼ばれる廃棄物を細かく分別しているごみ捨て場があり、そこに行くのでさえ車で9分かかる。どこへ行くにもブライアンに運転を頼まなければいけない。彼は喜んで運転してくれるが、やっぱり1人でサクっと買い物に行ったり、寄り道したりできるのがいい。ニューヨークまで運転する日がくるかもしれないと、車を運転できちゃう自分という淡い夢はいつも心にあった。

しかし、この仮免を取るまで紆余曲折あり、結果2年費やしてしまったのだった。緊張の頂点でパニックになった朝、ブライアンの車がパンクしていて試験会場まで行けずテストをキャンセルしたり、テストを受ける前に実は目が悪かったことを知らずに視力検査で落ちてしまい、そこからメガネを作るまで数ヵ月かかったり、テストを予約した前日にコロナになったり……なかなか免許を取らない自分に大家のジムも免許の話になると励ましてはくれるが、不思議そうな表情を浮かべていた(笑)。テストは正解だと思うものを選択する形式で、ようやくテストを受けるも2点足りず落第。ルールはルールなので丸暗記すればいいんだろうけど、質問の英語は普段使わない言い回しだったため、内容を理解しにくく、自分にとっては車の免許というより英語の試験だった。

2023年の10月、友人のアイリスが1週間ほど家にステイしていた時。せっかくだから何かプロジェクトをやろうというので、私は迷わず「運転免許を取るのを手伝ってくれ!」と頼んだ。LA育ちの彼女からすると、「プロジェクトってそれかよ(笑)」という感じだったが、アイリスからの最高のアドバイスは、「キキ、一番安全だと思う答えを選べばいいんだよ」というものだった。それは本当で、標識などは覚えないといけないけど、安全だと思う答えを選んだら、なんと全問正解で通過したのでした。ありがと〜アイリス!

そんなわけで、ようやく助手席に免許を持っている人が乗っていれば運転できるという仮免を取得。車の運転がシミュレーションできる、ハンドル・ブレーキ・アクセルがついたゲームのコントローラーをブライアンにプレゼントしてもらい、本試験に向けてXboxのドライビングゲームで特訓している最中です(笑)。次にお会いする時には車を運転している話ができることを願っています!

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「ネペンテス ニューヨーク」が新進アーティストを紹介するエキシビジョン 米ペインターのジュリアン・カリディによる「Sometimes It’s the Sun」をレポート https://tokion.jp/2024/02/15/nepenthesnewyork/ Thu, 15 Feb 2024 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=224229 今年最初の展示となる「Sometimes It’s the Sun」が開催

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2010年のオープン以来、アメリカや日本のアーティストによるストア内でのアートエキシビションやポップアップを精力的に開催している「ネペンテス ニューヨーク」。2024年の最初のエキシビジョンとなるのが、ペインターのジュリアン・カリディによる「Sometimes It’s the Sun」だ。

ジュリアンは1994年コロンビア・バランキージャ生まれ、 ニューヨークのトライベッカ育ち。同エキシビジョンでは、彼の最新の作品群が展示されていて、アブストラクトなストロークと色彩で美しく滲むウォーターカラー(水彩絵の具)のペインティングがタペストリーのようにストア内に飾られている。

「最初に、キャンバスとなる工事現場でも使うような防水シートやリネンを染めるところからはじめる。バケツに顔料で染色液を作って、大体1日ファブリックを漬けて、液から取り出した瞬間からその上に描きはじめるんだ。ものすごい速さでね(笑) ほとんどのペインティングは集中して描き込んだり、ただ眺める時間をとったり、時間をかけて作業したりするんだけど、この新しいペインティングはとにかく乾くのが速い。ウォーターカラーのように、とにかく乾く前に作業を終わらせる。この布は裏面だけ防水になっているから、滲み方も独特。布にインクが滲んでいく時、毎秒、違うテクスチャーが生まれていくんだよね。この日本の伝統的な墨汁をよく使うんだけど、これは最高」 。

ジュリアンは昨年、ニューヨーク州のアップステートにあるコールドスプリングからサウスウィリアムズバーグにスタジオを移したばかり。アップステートは自然に囲まれた環境はよかったけれど、ニューヨークシティからスタジオ・ビジットに来てもらうには距離があった。だがブルックリンのスタジオに移ってからはアクセスもよいため、作品を見せる機会も増えたそうだ。「ネペンテス」もスタジオ・ビジットに来てくれたことがきっかけで今回のエキシビジョンに繋がった。アートエキシビジョンに併せて、東京発のブランド「ネイタルデザイン」と久留米産の半纏 「クワノ ホーム」によるポップアップストアも3月27日まで開催中。

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たまに恋しくなる人間のエナジー 連載:工藤キキのステディライフVol.6 https://tokion.jp/2024/01/16/kiki-kudos-steady-life-vol6/ Tue, 16 Jan 2024 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=221569 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載第6回。クリエイティブな友人の来訪は田舎暮らしの大きな楽しみの1つ。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振り返りながらつづる。

ニューヨークに住み始めた頃に驚いたことの1つが、休日やホリデーはシティから離れたいと考えている友達が多かったことだ。都会の喧騒とはいえ、歩いているだけで楽しくて刺激的なニューヨークから一瞬でも離れたいってどんな心境なんだろうと当初は思ったけど、まさにシティの喧騒にもまれてみたらよくわかる。緑や新鮮な空気、サイレンス、自然に身をゆだねることがシティでのソーシャル疲れを一瞬で吹き飛ばし、またシティが恋しくなる。

ニューヨーク州は案外大きくて、マンハッタンから北西に向かうとほとんどが森林とアメリカの典型的な郊外の風景が広がっている。マンハッタンから車で1、2時間も走れば、アップステートと呼ばれるニューヨークの田舎でハイキングや天然のプールを楽しむこともできる。私も来たばかりの頃に友人に連れられて、誰かのセカンドハウスに行ったり、ファーマーズマーケットで取れたての野菜にうっとりしたり、サウナ付きのレンタルハウスに泊まったり。グランドセントラルからバスでウッドストックに住む友人達の家に遊びに行くことで、シティの喧騒から一瞬逃れていた。

コネチカットの家もニューヨークからは車で2時間なので、週末になるとニューヨークから友達が遊びに来ることも多い。真冬は雪深くなるのでそんなにアクティブに遊べないけど、夏は湖で泳いだり、春や秋はたくさんあるハイキングコースを片っ端から歩きまくったりすることも。とはいえ、平日だとブライアンは起きた早々から音楽やアニメーションを作っているし、私もケータリングのプランや家のことで時間が過ぎてしまうから、週末に友達が来訪する際は、こんなに近くにある自然の素晴らしさを再確認することができる。一緒に山を登ったり、泳いだり、音楽を作ったり、ご飯を食べたり、料理のインスピレーションをくれる来客は非常に嬉しい。気がつけばニューヨークの友達以外にも、イビザ、ミラノ、パリ、コスタリカ、LA、日本からのアーティストやミュージシャンの友達がステイしていて、私達もクリエイティブな時間を過ごせる友達がここまで来てくれるのは、田舎暮らしの大きな楽しみの1つだ。

今年初めて家でパーティらしいパーティをしてみた。ニューヨークに引っ越してきた早々に知り合ってからずっと仲良くしている、出会った当時は「アメリカンアパレル」のクリエイティブディレクターだったアイリスが立ち上げたエシカルブランド「EVERYBODY.WORLD」のパーティ。ブライアンは“Pond”ショーツ、私は“Lake”パンツと名付けたコントリビューターコレクションのローンチイベントだった。2度目のコラボだが、1年かけてLAチームとサイズ感を往復書簡のように交わしてデザインし、フィット感は大満足の仕上がりになったと思う。友達をモデルにしたローンチパーティの様子をプロモーションに使いたいということで、ニューヨークから呼んだ友達やコネチカットのネイバーをゲストに、流しそうめんパーティをやることにした。

話は飛ぶようで、またアップステートの話に戻るのだが、もう1つコネチカットで再現してみたかったことが流しそうめん。2012年にアップステートで開催したアーティストキャンプ「The Last weekend 」にコントリビューターとして参加した時、ニューヨークで竹を買うところから初めて作った(!)通称“フローイングソウメンパーティ”または“バンブーヌードルスライダー”をコネチカットの家でやりたかった。正直、日本にいた頃でも体験したことがなかった流しそうめんだったけど、思いがけず美しいバンブースカルプチャーができ上がり、流れる麺をキャッチして食べるというストレンジなイベントに参加者は喜んでいたので、それをまた作れる機会ができたのにはわくわくした。またしても竹をオンラインショッピングで買うところから始まり、節を削ったり、ヤスリをかけて滑りをよくしたり。ブライアンにも手伝ってもらって、家のガーデンに再現できた時の達成感。当日は、ブルックリンのクールなマッシュルームカンパニー「Small Hold 」がスポンサードしてくれたフレッシュで美しいマッシュルームで天ぷらを作ったり、家で取れたトマトやきゅうりなどを薬味にしながら流れるそうめんをキャッチしながら食べたり……ローンチパーティを楽しんでもらえたからよかった。

流しそうめんのあとは、みんなで近くの湖に泳ぎに行った。アンダーウォーターカメラマンのハサンが、“Pond”ショーツ“Lake”パンツで泳ぐ私達の姿を水中撮影してくれたり、ブライアンがパーティの様子を撮影とディレクションしてくれたり、コネチカットの夏のストレンジな風物詩を美しいプロモーションビデオとして残せたのが最高だった。ちなみにそのローンチパーティの様子が『VOGUE』のオンラインに載ったので、よかったらチェックしてみてください〜。

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Mon Oncle、ロバート! コネチカットの小さな町で“フレンチ&ジャパニーズ” 連載:工藤キキのステディライフVol.5 https://tokion.jp/2023/06/30/kiki-kudos-steady-life-vol5/ Fri, 30 Jun 2023 10:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=193904 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載第5回目。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振り返りながらつづる。

パンデミック以前、私は映像プロダクションのオフィスでランチシェフやケータリング、プライベートシェフとして働いていた。ロックダウンの影響でオフィスが閉まったり、スーパーやデリバリーでは人同士の接触をなるべく避ける“コンタクトレス”というカテゴリーが登場したり。かのイージーゴーイングのニューヨーカーでさえマスク着用はもとより、不要な外出もせず感染拡大防止に取り組んでいた。そんな先行きが全く見えない中で、いくら“食”がエッセンシャルなものとはいえ、プライベートシェフやケータリングの仕事はその頃はほとんどなかった。パンデミック中は政府からのサポートもあったのでなんとか暮らせたが、2021年の秋にコネチカットに引っ越してからは、まだ車の免許もない上、超牧歌的なカントリーサイドで仕事を見つけるとういう難関にぶち当たっていた。

家から車で40分のシャロンという街にフレンチレストランがあるという話を聞いた。よくよく調べてみると、現在はブルックリンのグリーンポイントに移転したそう。ブライアンが通っていた時は、ソーホーにあった「ル・ガミン(Le Gamin)」という1990年代にはスーパーモデル達がよくハングアウトしていた正統派フレンチレストランで、オニオングラタンスープやクレープ、クロックムッシュ、クロックマダム、もちろんクリームブリュレもあり、映画『アメリ』のような世界のお店だった。コネチカットの家の周辺はデリバリー圏外で、さらに近場にお気に入りのレストランやカフェはものすごく少ない……そんなわけで、その話を聞いた翌日に私達は心躍らせながら「ル・ガミン」に向かうことにした。

シャロンはニューイングランドらしい牧草地が広がり、アーティストのジャスパー・ジョーンズが暮らしているという美しい田舎町。「ル・ガミン」はパーキングロットにあるショッピングセンターの一角にあり、一見して避暑地のフレンチカフェを思わせるキュートなお店だった。席について、ブライアンがウェイトレスに「昔ソーホーのお店によく通っていた」と話すと、その後ニコニコした笑顔でオーナーのロバートが駆け寄ってきて、私に「フレンチもいいけど、ラーメンがやりたいんだよ〜」と言う。「えー私シェフなんだよ。やろうよ、ラーメン(笑)」と話しながら、トントン拍子にコラボレーションをすることが決まった。

ロバートは陶芸家のパートナーであるタムと息子でシェフのルシアンと一緒に、私達と同じパンデミックの渦中にシャロンに引っ越してきた。その直後にショッピングセンターにあるこの物件を見つけて、お店のオープンを決めたそう。レストランがまったくない街に突如現れた正統派のフレンチレストランで、毎日焼きたてのリアルなフレンチクロワッサンが手に入るなんて、はっきり言ってシャロンの食文化を変えたといっても過言ではない。さらにロバートのニューヨークのフレンチらしいグッドテイストと気さくでフレンドリーな人柄もあって、「ル・ガミン」は瞬く間に人気スポットとなっていた。

もちろん、シャロンにはアジア料理のレストランがあるはずもなく、ラーメンをはじめとした日本食を食べたことがある人もそんなに多くなさそうだった。ラーメンといっても、私達は“フレンチ&ジャパニーズ”のコラボレーションをしたかったので、ロバートのレシピから“Soupe à l’oignon”のラーメンと、“Moules frites”をココナッツミルクベースのスープにしたラーメンの2種類を考えた。ポップアップやケータリングをやる時、どんな食器が使えるのかが重要なポイントで、プレゼンテーションの違いで料理の見え方も違ってくる。とはいえ新たにラーメンボウルをそろえるのもなんだし、リサイクルできるとはいえ使い捨ての紙皿も使いたくない……そんなことを考えていたら、カフェオーレボウルを使うことを思いついた(笑)。通常のスープボウルと比べたら少し小さいけれど、その代わりに替え玉と餃子、ピクルスを添えたラーメンプレートができあがった。実は、私は一般的なレストランの厨房で働いた経験がない。オーダーシートを読み取って、注文順に、しかも前菜とメインを作る順番を瞬時に考えるなど、気分はゲーム「Overcooked! 2」をはるかに超える緊張感(笑)。オーダーを完成させるのに、メインシェフのルシアンとロバートにたくさん助けてもらったことも。ポップアップは2日間連続で開催し、ニューヨークから友達も食べにきてくれて、両日ともテーブルはソールドアウトだった。

ロバートとのコラボは、そのあと2022年の1月にも行った。メニューは、ロバートがデザート用に作っていた砂糖漬けのオレンジ“Orangette”を使った、アメリカの定番中華のオレンジチキンを春巻きにしたものや、ロバートの料理本からの自家製マヨネーズと柚子を組み合わせた“Celery Roots Remoulade”をタルタルソースのように添えたプレートなどのメニューを考えた。当時は仕事を探していたが、結果的にコネチカットの小さな街ですてきな人達と、かなり実験的(!)な挑戦をさせてもらえて本当に感謝している。ありがとうロバート!  3回目のコラボもぜひいつか。

Edit Nana Takeuchi

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ゲームの畑からの“In Real Life” 連載:工藤キキのステディライフVol.4 https://tokion.jp/2023/04/06/kiki-kudos-steady-life-vol4/ Thu, 06 Apr 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=178486 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載第4 回目。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミック の最中にニューヨークからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録――ステディライフを振り返りながらつづる。

ゲームの畑からの“In Real Life” 連載:工藤キキのステディライフ

パンデミックの最中のソーホーでは、自分もビデオゲームにハマっていた1人だった。最初はカントリーライフRPGの「スターデューバレー」、その後は「アニマルクロッシング(どうぶつの森)」で何十年かぶりにゲームの世界で遊んでいた。ロックダウンで突如いろんなものが目の前から消えたこともあり、自給自足ができたらいいなと考え始めて、家にあったものをかき集めてプランターを作って種をまいてみたり、バジルやシソ等のハーブを育てたり、菌床を手に入れてオイスターマッシュルームやライオンズメインマッシュルームを育てたりもした。その延長もあって、「アニマルクロッシング」の中でもパンプキン農場を拡大していて、ログインするたびにパンプキンを育てて、売って、売れたお金で家をアップグレードしていくという、ゲームの畑では安定した収入も得られていた(笑)。

コネチカットに引っ越す際に、ガーデンができるのが必須条件だった。大家のジムがスペースを作ると言っていたけれど、少しずつ冬が終わろうとしている春分の日の頃になっても特に音沙汰はなかった。とはいえ、ガーデン作りに関しての知識はゼロだったので、はやる心で土や種の発芽等のガーデニンのプロセスに関するYouTubeを見たり、本気でやるなら一度は通過する「オールドファーマーズアルマナック」という農事暦からスケジュールを読んだり…調べ始めたらキリがないほど知らないことばかり。

ニューヨークでは、ユニオンスクエアのファーマーズマーケットによく通っていた。当時はアップステートから運ばれた採れたての1パウンド6ドルのエアルームトマト(中玉1つで6ドルぐらい)を買うのに、どれを持ち帰るか店先で考え込むことが多かったが(笑)、今思うとそのぐらいの値段をつけたくなるほどの労働力を経て育てていたのだと納得する。 だから、エアルームトマトは絶対に育てたかった。あとは日本のきゅうり、シソ、万願寺とうがらしをグリルで焼いて、かつお節をふりかけておしょうゆをチョロっとたらすやつも食べたくて、たくさん育てた。日本の野菜の種は、ユタ州にあるパッケージのイラストもすてきなキタザワ シード カンパニーから取り寄せることに。まずは3月の終わり頃から発芽用の小分けされたプランターを使って、5月末頃のラストフロスト(地域によって違う)が終わるまで、室内で苗になるまで育てる。1つの穴に一粒の種をまくと言われているが、種も小さいし、当たり外れもあるのかもしれないと思い、1つの穴に3つも4つもまいてみると、意外にもすべて発芽してしまい、苗になる頃には根が絡まりすぎてほどくのが大変だった。

一粒説は正しかったのだ。あんな小さな種からみずみずしい野菜に育つという自然の神秘、大げさに聞こえるかもしれないけれど“ミクロコスモス(小宇宙)とマクロコスモス(大宇宙)”に生きていることを実体験した。 家のサンルームを埋め尽くすほどの苗を育ててしまったが、5 月に入ると、近所のスーパーの店頭でいろんな苗が売られていて「なんだよ、苗を買えば良かったじゃん」とも思ったけれど、手前はかかるが種からのほうが断然コストパフォーマンスも良いし、ここでは手に入らないオーガニックの日本の野菜を育てることができたのは最高だった。 水やりをしたり、苗を大きくするために途中で大きいプランターに植え替えたり、手入れをしながら成長の過程を目の当たりにするのは、ゲームとシンクロする部分が多い。そう思っていると、「アニマルクロッシング」の村長トム・ヌーク(たぬきち)から声を掛けられるかのごとく、大家のジムから見せたいものがあると言われた。家の裏の広大な敷地を少し歩くと、なんとそこには何十年も使ってないガーデンスペースがあり、そこを使って良いと言われたのだ。しかもフェンスも新しくするし、マシンを持ってきて土を耕してくれるという信じられない展開となった。アップグレード!

その日からまずは石拾い、古い根っ子やプラスチック、ビニールの破片等、土の中の不純物を取り除くところから始まった。その頃に泊まりに来ていた友達のグレイヴやニカ、ネイザン、マリアにも無限の石拾いを手伝ってもらったのは本当に感謝している。ジムはすべての支柱も新しくしてくれて、さすがのファーマーらしく力強く、そしてバランスの整った美しい作業を経て、ラストフロストの直前に“クドウ ガーデン”は完成した。スペースに比べて苗が大量にあったので、間隔も計らず植えてしまい、翌日やり直すという行き当たりばったりのスタートだった。でも夏にポートランドから元ファーマーでDJ&グラ フィックデザイナーであり、ジョージアの音楽ファンとして知り合ったマグワートが1週間、うちにステイしてガーデンを手伝ってくれたのもすごく助かった。きゅうりの支柱を作ったり、万願寺とうがらしにはオイスターの肥料が良いと教えてくれたり、なにかとアドバイスをくれるスーパーバイザーだ。

幸い、虫や動物にガーデンを荒らされることもなく、すくすく育ってくれた。結果、あのエアルームトマトを一口かじってポイっと捨てられるぐらい(捨てないけれど!)たくさんの収穫量で、友達にも分けることができた。ブライアンのお気に入りの夏のブレックファーストは、毎朝採れたてのきゅうりにみそをつけてボリボリ食べること。日本のクリスピーなきゅうりとアメリカのものとは別物で、もう夏が待ち遠しい。そんなわけで今年はもっと収穫量が増えますように…そしてゲーム音楽も作ってみたい!

Edit Nana Takeuchi

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ちょっとしたご褒美はエッセンシャル 連載:工藤キキのステディライフVol.3  https://tokion.jp/2023/02/20/kiki-kudos-steady-life-vol3/ Mon, 20 Feb 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=167495 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載第3回目。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録――ステディライフを振り返りながらつづる。

2023年に入ったということは、パンデミックからもはや今年で3年がたとうとしている。ロックダウンが始まったころに比べると、もはやアレは悪い夢だったとばかりに街の様子はコロナ前に戻りつつある。とはいえ、あの痛手がまだ生々しく映る場所や消えてしまったものもある。少し前の昔のことを思い出しながら、この奇妙な時の流れを書き留めるという連載だが、コネチカットで暮らすようになった最初の1年は、それまでのアメリカ生活とは全く違う1年だった。ニューヨーク在住歴10年のシティマウスが着火剤なしで暖炉の火をおこせるようになったり、朝日や夕日に惚れぼれしたり、オフグリッドの自然の中で生きることを教わったりした、記録しておきたいことがたくさんあった年だ。

2020年のロックダウンを境に、シティが様変わりしたことで一番恋しかったのは、日常を少しスペシャルにしてくれていたもの。近所のグリークカフェ「パイ ベーカリー」のオレンジポテトケーキやバクラバ、フレンチレストラン「ラファイエット」のアーモンドクロワッサンなど、普段の生活の中でちょっとした自分のご褒美にしていたスイーツが消えたのはショッキングだった。エッセンシャルな店として開いていたのは、チェーンのスーパーマーケットぐらいで、そこからはフレッシュベイクのブレッド類は姿を消し、多くのベーカリーも閉まっていた。インスタグラムをのぞくと、自宅でサワードウブレッドを焼き始めた人が続々と増えて、マーケットでは小麦粉とイーストは常に品薄で、自分も数回チャレンジはしたけど上手く焼けなかった。その代わりというより、以前よくケータリングを手伝ってくれていたネオンアーティストのマリコがホームメイドのサワードウとフォカッチャを友人らに焼いていて、それが最高すぎて何度もお世話になった。あの時、幸せにしてくれてありがとうマリちゃん!ブレッドは挫折したけど、スイーツに関してはストロングオピニオンのあるブライアンの指導の元下(笑)、必要に迫られてハマり、いろいろ挑戦した結果、今ではフィナンシェや餅粉を使ったレモンバー、今までそんなに興味のなかったクッキー類も自分好みに焼けるようになった自分を褒めてあげたい。とはいえ、2020年の間にニューヨークでパーフェクトなクロワッサンを手に入れるのは至難の業だった。

それにもかかわらず、家から車で13分のコネチカットのリッチフィールドの田舎町に突如現れたのが、スタイリッシュな佇まいの「Arethusa Amano」というカフェ。「Arethusa Farm」というデイリーファーム(酪農牧場)が展開するこのカフェには、2020年のニューヨークで失ったものがすべてそろっていたのが衝撃だった。美しくてクリスピーなクロワッサンをはじめ、フレッシュなドーナッツ、フレンチスタイルのレモンクリーム、クルーラーはこんなにおいしいと思ったことがないほどのクオリティ。アメリカのブレックファーストの定番であるエッグアンドチーズも自家製のイングリッシュマフィンを使い、卵とチーズもファームから。ベジタリアンの私ですら惚れぼれするブリオッシュバンを使ったキューバンサンド、マスカルポーネのクロフィン(クロワッサンとマフィンが融合した)、月替わりのクッキーなど、値段はニューヨークに比べたら少しリーズナブルなのも嬉しい。カフェの向かい側にはファインアメリカンダイニングのレストラン「Arethusa al tavolo」や、「Arethusa」ブランドのアイスクリームやミルク、チーズ、ヨーグルト、バター、そして春夏には野菜も販売するデイリーストアもある。

なんとオーナーは、シューズブランド「マノロ ブラニク」の経営陣。『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリーのお気に入りのヒールとしてブレイクしたことで、夢だったデイリーファームを1999年に購入したという。“Milk like it used to taste(昔ながらの味のミルク)”と、現在は300頭以上の牛を飼育し、毎日シッポをシャンプー&リンスしてあげるほどクリーンでラグジュアリーに育てている。もちろんアップステートにはオーガニックファームがたくさんあり、ファーマーズマーケットではローカルのフードベンダーによるハイクオリティの原料を使った食品などもたくさん見かけるが、大抵はホームメイド、またはヒッピー的なものが多い(それも大好きだけど)。そんな中ノースコネチカットの小さな街に、ニューヨークと同じように知られているラグジュアリーブランド経由の食文化があるのも悪くない。しかもこんなに近くにあるなんて…どうしても甘さを控えめにしてしまう自分のケーキじゃなくて、少しだけシティが恋しくなったときは「Arethusa」に行く。

Edit Nana Takeuchi

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ただ夕陽を見ているだけ 連載:工藤キキのステディライフVol.2 https://tokion.jp/2022/12/13/kiki-kudos-steady-life-vol2/ Tue, 13 Dec 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=155370 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークとコネチカットのデュアルライフ。連載第2回目。

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ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振りかえりながらつづる。

物件を見つけたのは、「Zillow(ジロウ)」という不動産検索サイトだった。突然、大都会のニューヨークからアメリカの田舎に引っ越すことはかなり冒険だったと思う。新型コロナウイルスのパンデミックによって、アメリカが長いこと引きずってきた黒人コミュニティーにおける不平等な社会制度の変革を求めるBLMの運動が全米で起こった。そんな最中にアメリカの中部ならありえそうな話だが、まさか大都会のニューヨークでWhite Supremacy(ホワイト・スプレマシー)の集会が行われ、アジア人へのヘイトクライムも度々ニュースで目にするようになったのだ。もはや10年ほどニューヨークに住んでいたのに、アメリカの歪んだ社会構造のことを全く知らず、そしてコネチカットのことも何も知らなかった。

私達が出した物件の第一希望条件は、「ニューヨークまで車で2時間以内」「隣家から離れていてプライバシーが守られる場所」「暖炉が使える」「ガーデンができる」だった。もう1つの大事な条件が「車で1時間以内で友達に会える」という距離感。絶対に人恋しくなると思っていたので、すでに仲の良い友達がいる周辺を狙って家を探していた。とはいえ、賃貸の一軒家という物件はもともと少なく、選ぶという余裕もあまりなかった。「Zillow」は気になった物件があると、まずはウェブ上で見学希望のリクエストを送る。そこから毎回アレックスというAIブローカーにつながり、無機質なAIメッセージを交換したあと、地元のブローカーを紹介してもらい見学の予定を組む。でもこの家の時はアレックスにつながらず、ジムとジュリーという人物につながったのだ。彼らは「ハロー」から始まる普通のメッセージを送ってきてくれて、思わずブライアンに「人間がいる!」と叫んだほど。

その家は、アップステート・ニューヨークに住んでいる友達のエヴァンとリュータスの家から車で40分、フードプロジェクト「Chiso(チソウ)」を立ち上げた時からの付き合いであるダイムス・デリのザックとソフィーのアップステートの家まで1時間という距離。さらに、ジャーナリストの佐久間裕美子ちゃんの通称“山の家”は、偶然にもソフィー達の家の向かいだった。そして、ニューヨークでもご近所だった私達のライフハッキングのボスであるロスのキャビンは、20分で行ける距離だったのだ。

見学に行ったのは2021年1月のはじめ。コロナはまだまだ猛威を振るっていたので、ジムとジュリーに初めて会った時はお互いにマスク越しだったけれど、彼らはこちらの気が抜けるほど感じが良かった。最初に連絡を交換した時に、私のホームページを見てくれたようで、「Chiso」のこともすでに知っていて、「気に入ったのならすぐに引っ越してきてもいいよ」と言ってくれた。1800年代のファームハウスを改築した二階建ての家は、大家のジュリーが育った場所。36エーカー(約14万平米)の敷地にあり、2000スクエアフィート(約185平方メートル)の広さで、2つの納屋と6つのベットルームがある。ジムは、前のテナントが使っていなかったクラッシックな暖炉を使えるように、そしてガーデン用のスペースを作るとも言ってくれた。壁はブラウンカラーとクリームの2トーンで、窓も多く、そこからの眺めはとても美しかった。ベーシックな部分はエヴァンとリュータスの家と似ていたのも安心材料の1つだった。今まで田舎暮らしをしたことがなかったから、パンデミックで鬱屈していたニューヨークでの生活から離れることは自分にとって新鮮であり、雪が残る広大なフィールドや白く雲った景色だったけれど、これから始まる自然に囲まれた新しい生活にワクワクした。当時は冬だったから木々が丸裸で、遠くの民家も見えていたけれど、春になればグリーンが生い茂り、ちゃんとプライバシーも守られるという。

真冬の引っ越しは凍えるほど寒くて、思っていた以上にハードだったけれど、ネイザンとブライアンの頑張りで無事に荷物を降ろすことができた。疲れ果てた2人は寝てしまったが、翌日にジムが来ると言っていたので、キッチンだけ片付けておこうと深夜まで荷解きをしていると、突然何かが頭の上を飛び去った…? なんとコウモリ! 暖房の使い方が分からず、部屋がものすごく暑くなって網戸が無い窓を開けていたため、偶然コウモリが入ってきてしまったようだ。寝ているブライアンを起こして、どうにかホウキで追い出すことができた。その時はコウモリが狂犬病を持っていることを知らず、あとで知って震えたが……。

1年経った今でもこの気持ちは変わらず、イエロー、ブルー、パープル、ピンク、レッド、グリーンなど季節ごとの微妙なカラーパターンの美しさを体感している。冬のサンセットはものすごく美しく、「ただ夕陽を眺めているだけ」という贅沢な時間がこの世にあったのかと気づかせてくれた。鳥のさえずりや丘の上から強く吹く風、家の周りにあるたくさんのウインドチャイムの音など、エピックな自然のリズムの中で暮らせることに感謝している。とはいえ古い家なのでメンテナンスは必要なのだが……それを引き受けてくれるジムにも感謝している。

デリバリーも来ない農村地帯だけど、車で15分の距離にニューヨークと同じぐらい、もしくはそれ以上にすばらしいスーパーマーケットとベーカリーがあった、という話はまた次回。

Edit Nana Takeuchi

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私達のコミュニティーは永遠 連載:工藤キキのステディライフVol.1 https://tokion.jp/2022/09/14/kiki-kudos-steady-life-vol1/ Wed, 14 Sep 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=143843 工藤キキがコロナ禍で見出した、ニューヨークシティとコネチカットのデュアルライフ。

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アメリカを拠点にライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックのさなかにニューヨークからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録―ステディライフを振り返りながらつづる。

まずは日本にいた時の話から。東京でずいぶん長い間、雑誌を中心にアートやサブカルチャー、ファッションに関する文章や、時には小説なども書いていた。1990年代後半から執筆する機会をたくさんもらえたおかげでライターの仕事を続けていたが、東日本大震災があった2011年から正直すべてにおいてパッションを失っていた。それをきっかけに、同年のハロウィンにジャーナリストビザでニューヨークへと移住。そこからは食と音楽をコミュニケーションツールにし、シェフやミュージシャンとして活動している。

ベストホストとして料理を振る舞うこと、デスクトップに向かって音楽を作ること、食に関するコンセプトを考えてドローイングを描くことなど、文章をなるべく書かない生活を始めて10年が過ぎた。2018年にアニメーターやビジュアルデザイナー、ミュージシャンとして活動しているパートナーのブライアン・クローズと結婚。その後は、ニューヨークのソーホーのロフトに住んでいたが、パンデミックが始まった翌年の2021年にコネチカットのリッチフィールドにあるファームランドに引っ越した。

自由を満喫していたソーホーのロフトを離れる上で、私達が出した条件は、騒音問題にならないように“ご近所さんがいない”こと。そんな条件に合ったのが、敷地面積が36エーカー(約14万平米)のファームランド。近所には馬や牛しかいない牧草地で、まさしく隔離されたファームハウスを賃貸物件として見つけた時は奇跡だと思った。今はフード、音楽、ビジュアルのクリエイティブライフスタジオとして活用しているが、田舎だけど案外のんびりはしてない生活を送っている。

人間のエナジーが恋しくなったら、2時間あればニューヨークまで車で戻れる距離。パンデミック以降のコミュニケーションの仕方が変わり、FACETIMEやZOOM、TWITCH、VR、ゲームなどのオンラインでのコミュニケーションが増えたおかげで、フィジカルに会えない距離はさほど寂しくなく、東京を出た時と同じような気分で新しい環境で刺激を受けるのを楽しんでいる。文章を書きたくなかったとはいえ、またこうしてメディアで書く機会をもらえたことに感謝。記録しておきたかったアメリカでの初めての田舎暮らしと、たまに戻るニューヨークのデュアルライフを中心に執筆していきたいと思う。

引っ越したのは2021年の1月の終わり。友達のネイザンがトラックを運転してくれたおかげで、引っ越しは自分達だけで済んだ。ネイザンはアーティストデュオ、ブレイザー・サウンド・システムの1人で、DJや音楽のプロデュース、映像作家としても活動している。私は2014年頃から彼等のダンスホールとテクノのパーティにDJとして参加し、ネイザンがディレクションしたヘイトロックの「Chinatown Style」のミュージックビデオにも出演している。また、私にとって初めてのミックステープを彼のカセットレーベルからリリースするなど、ニューヨークライフでのたくさんの喜びを共有している仲間だ。

パンデミックが始まってからロックダウンが起こり、すべてが一時停止、または振り出しに戻ったようなつかみどころがない巨大なパラダイムシフトの渦中にいた私達。ロックダウンが終わると同時にブラック・ライブズ・マター運動が大きくなり、「Justice and Equality」を学び直すように毎週のごとくデモ行進が行われていた。そんな不安な状況ながらも、ストリートに少しずつ人が戻り始めていた。とはいえ、コロナは終息する様子もなく、機能を失った街で息を潜めて暮らしていたが、次第に自然の中での生活がなんともうらやましく映っていた。

コロナによって距離感までもが一時停止してしまい、近所の友達すら気軽に会えなくなった今。もはやどこにいても一緒のような気がして、都会を離れて田舎に行くことにためらいはなかった。トラックを運転するネイザンが、「どこへ行っても自分達が作ってきたコミュニティーは変わらないからね」と言ってくれたことは今もなお忘れていない。その言葉は本当で、都会に戻るたびに「根城に帰ってきたぞ」とばかり自由に振る舞えるのは、まだそこにコミュニティーが存在しているから。

パンデミックのさなかに開眼した田舎暮らしは、アップステート・ニューヨークに住んでいる友人のエヴァンとリュータスの影響も大きい。彼等はチャイナタウンにもアパートを持っているデュアル生活の先駆者であり、アップステートの家は2人にとって都会の喧騒から逃れるためのオアシスでもあるのだ。古いファームハウスをリノベーションした家は青々とした敷地にあり、家の前を流れる川やデザインされたように美しい植物に囲まれている。ミニマルなキッチンやリビング、ヴィンテージのじゅうたんやアンティークのインテリア、勇敢に燃える暖炉の火、クラシカルなシガー&ライブラリールーム。ギャラリストであるリュータスのセンスが随所に光る空間は、今まで知らなかった“ファームハウス”とそれらがミックスされていて全てが新鮮で美しい。

夏の日はリビングを抜けて目の前の川にジャンプ。強い日差しと冷たい川の水のギャップが心地よい。そして夜はカエルや虫の鳴き声で眠りに落ちる……。都会暮らしにはない美しい自然の中でのダイナミックなライフスタイルに心奪われた。その後ロックダウンは2020年4月に緩和したけれど、コロナに関する情報は不安定だった。そんな状況にもかかわらず、どうにか自然の中で思いっきり息を吸いたいという私たちを、2人が快く受け入れてくれたおかげで最高のひと時を過ごすことができた。そして同年の11月から家探しをスタートすることになるのだが、その話は次回に。

Edit Nana Takeuchi

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