たまに恋しくなる人間のエナジー 連載:工藤キキのステディライフVol.6

ライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックの最中にニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録——ステディライフを振り返りながらつづる。

ニューヨークに住み始めた頃に驚いたことの1つが、休日やホリデーはシティから離れたいと考えている友達が多かったことだ。都会の喧騒とはいえ、歩いているだけで楽しくて刺激的なニューヨークから一瞬でも離れたいってどんな心境なんだろうと当初は思ったけど、まさにシティの喧騒にもまれてみたらよくわかる。緑や新鮮な空気、サイレンス、自然に身をゆだねることがシティでのソーシャル疲れを一瞬で吹き飛ばし、またシティが恋しくなる。

ニューヨーク州は案外大きくて、マンハッタンから北西に向かうとほとんどが森林とアメリカの典型的な郊外の風景が広がっている。マンハッタンから車で1、2時間も走れば、アップステートと呼ばれるニューヨークの田舎でハイキングや天然のプールを楽しむこともできる。私も来たばかりの頃に友人に連れられて、誰かのセカンドハウスに行ったり、ファーマーズマーケットで取れたての野菜にうっとりしたり、サウナ付きのレンタルハウスに泊まったり。グランドセントラルからバスでウッドストックに住む友人達の家に遊びに行くことで、シティの喧騒から一瞬逃れていた。

コネチカットの家もニューヨークからは車で2時間なので、週末になるとニューヨークから友達が遊びに来ることも多い。真冬は雪深くなるのでそんなにアクティブに遊べないけど、夏は湖で泳いだり、春や秋はたくさんあるハイキングコースを片っ端から歩きまくったりすることも。とはいえ、平日だとブライアンは起きた早々から音楽やアニメーションを作っているし、私もケータリングのプランや家のことで時間が過ぎてしまうから、週末に友達が来訪する際は、こんなに近くにある自然の素晴らしさを再確認することができる。一緒に山を登ったり、泳いだり、音楽を作ったり、ご飯を食べたり、料理のインスピレーションをくれる来客は非常に嬉しい。気がつけばニューヨークの友達以外にも、イビザ、ミラノ、パリ、コスタリカ、LA、日本からのアーティストやミュージシャンの友達がステイしていて、私達もクリエイティブな時間を過ごせる友達がここまで来てくれるのは、田舎暮らしの大きな楽しみの1つだ。

今年初めて家でパーティらしいパーティをしてみた。ニューヨークに引っ越してきた早々に知り合ってからずっと仲良くしている、出会った当時は「アメリカンアパレル」のクリエイティブディレクターだったアイリスが立ち上げたエシカルブランド「EVERYBODY.WORLD」のパーティ。ブライアンは“Pond”ショーツ、私は“Lake”パンツと名付けたコントリビューターコレクションのローンチイベントだった。2度目のコラボだが、1年かけてLAチームとサイズ感を往復書簡のように交わしてデザインし、フィット感は大満足の仕上がりになったと思う。友達をモデルにしたローンチパーティの様子をプロモーションに使いたいということで、ニューヨークから呼んだ友達やコネチカットのネイバーをゲストに、流しそうめんパーティをやることにした。

話は飛ぶようで、またアップステートの話に戻るのだが、もう1つコネチカットで再現してみたかったことが流しそうめん。2012年にアップステートで開催したアーティストキャンプ「The Last weekend 」にコントリビューターとして参加した時、ニューヨークで竹を買うところから初めて作った(!)通称“フローイングソウメンパーティ”または“バンブーヌードルスライダー”をコネチカットの家でやりたかった。正直、日本にいた頃でも体験したことがなかった流しそうめんだったけど、思いがけず美しいバンブースカルプチャーができ上がり、流れる麺をキャッチして食べるというストレンジなイベントに参加者は喜んでいたので、それをまた作れる機会ができたのにはわくわくした。またしても竹をオンラインショッピングで買うところから始まり、節を削ったり、ヤスリをかけて滑りをよくしたり。ブライアンにも手伝ってもらって、家のガーデンに再現できた時の達成感。当日は、ブルックリンのクールなマッシュルームカンパニー「Small Hold 」がスポンサードしてくれたフレッシュで美しいマッシュルームで天ぷらを作ったり、家で取れたトマトやきゅうりなどを薬味にしながら流れるそうめんをキャッチしながら食べたり……ローンチパーティを楽しんでもらえたからよかった。

流しそうめんのあとは、みんなで近くの湖に泳ぎに行った。アンダーウォーターカメラマンのハサンが、“Pond”ショーツ“Lake”パンツで泳ぐ私達の姿を水中撮影してくれたり、ブライアンがパーティの様子を撮影とディレクションしてくれたり、コネチカットの夏のストレンジな風物詩を美しいプロモーションビデオとして残せたのが最高だった。ちなみにそのローンチパーティの様子が『VOGUE』のオンラインに載ったので、よかったらチェックしてみてください〜。

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工藤キキ

横浜生まれ。ライター、シェフ、ミュージックプロデューサー。カルチャー誌でファッションやアートなどのサブカルチャーに関する寄稿や小説を執筆。著書に小説『姉妹7(セヴン)センセイション』、アート批評集『post no future』(すべて河出書房新社)などがある。2011年にニューヨークに拠点を移す。2014年にアートフードプロジェクト「CHI-SO-NYC」をスタート。レストランへのレシピのデザイン、フードを絡めたイベントなど食にまつわる活動をしている。2017年から音楽のプロデュースを始め、EPをリリース。2022年3月にはThe Trilogy TapesからEP『Profile Eterna』をリリース。6月には初のクックブック『I’m cooking for you』を<Positive Message>から出版。レシピのYOUTUBEチャンネルもスタートしている。 kikikudo.com Instagram: @keekee_kud

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