私達のコミュニティーは永遠 連載:工藤キキのステディライフVol.1

アメリカを拠点にライター、シェフ、ミュージックプロデューサーとして活動する工藤キキ。パンデミックのさなかにニューヨークシティからコネチカットのファームランドへと生活の拠点を移した記録―ステディライフを振り返りながらつづる。

まずは日本にいた時の話から。東京でずいぶん長い間、雑誌を中心にアートやサブカルチャー、ファッションに関する文章や、時には小説なども書いていた。1990年代後半から執筆する機会をたくさんもらえたおかげでライターの仕事を続けていたが、東日本大震災があった2011年から正直すべてにおいてパッションを失っていた。それをきっかけに、同年のハロウィンにジャーナリストビザでニューヨークへと移住。そこからは食と音楽をコミュニケーションツールにし、シェフやミュージシャンとして活動している。

ベストホストとして料理を振る舞うこと、デスクトップに向かって音楽を作ること、食に関するコンセプトを考えてドローイングを描くことなど、文章をなるべく書かない生活を始めて10年が過ぎた。2018年にアニメーターやビジュアルデザイナー、ミュージシャンとして活動しているパートナーのブライアン・クローズと結婚。その後は、ニューヨークのソーホーのロフトに住んでいたが、パンデミックが始まった翌年の2021年にコネチカットのリッチフィールドにあるファームランドに引っ越した。

自由を満喫していたソーホーのロフトを離れる上で、私達が出した条件は、騒音問題にならないように“ご近所さんがいない”こと。そんな条件に合ったのが、敷地面積が36エーカー(約14万平米)のファームランド。近所には馬や牛しかいない牧草地で、まさしく隔離されたファームハウスを賃貸物件として見つけた時は奇跡だと思った。今はフード、音楽、ビジュアルのクリエイティブライフスタジオとして活用しているが、田舎だけど案外のんびりはしてない生活を送っている。

人間のエナジーが恋しくなったら、2時間あればニューヨークシティまで車で戻れる距離。パンデミック以降のコミュニケーションの仕方が変わり、FACETIMEやZOOM、TWITCH、VR、ゲームなどのオンラインでのコミュニケーションが増えたおかげで、フィジカルに会えない距離はさほど寂しくなく、東京を出た時と同じような気分で新しい環境で刺激を受けるのを楽しんでいる。文章を書きたくなかったとはいえ、またこうしてメディアで書く機会をもらえたことに感謝。記録しておきたかったアメリカでの初めての田舎暮らしと、たまに戻るニューヨークシティのデュアルライフを中心に執筆していきたいと思う。

引っ越したのは2021年の1月の終わり。友達のネイザンがトラックを運転してくれたおかげで、引っ越しは自分達だけで済んだ。ネイザンはアーティストデュオ、ブレイザー・サウンド・システムの1人で、DJや音楽のプロデュース、映像作家としても活動している。私は2014年頃から彼等のダンスホールとテクノのパーティにDJとして参加し、ネイザンがディレクションしたヘイトロックの「Chinatown Style」のミュージックビデオにも出演している。また、私にとって初めてのミックステープを彼のカセットレーベルからリリースするなど、ニューヨークライフでのたくさんの喜びを共有している仲間だ。

パンデミックが始まってからロックダウンが起こり、すべてが一時停止、または振り出しに戻ったようなつかみどころがない巨大なパラダイムシフトの渦中にいた私達。ロックダウンが終わると同時にブラック・ライブズ・マター運動が大きくなり、「Justice and Equality」を学び直すように毎週のごとくデモ行進が行われていた。そんな不安な状況ながらも、ストリートに少しずつ人が戻り始めていた。とはいえ、コロナは終息する様子もなく、機能を失った街で息を潜めて暮らしていたが、次第に自然の中での生活がなんともうらやましく映っていた。

コロナによって距離感までもが一時停止してしまい、近所の友達すら気軽に会えなくなった今。もはやどこにいても一緒のような気がして、シティを離れて田舎に行くことにためらいはなかった。トラックを運転するネイザンが、「どこへ行っても自分達が作ってきたコミュニティーは変わらないからね」と言ってくれたことは今もなお忘れていない。その言葉は本当で、シティに戻るたびに「根城に帰ってきたぞ」とばかり自由に振る舞えるのは、まだそこにコミュニティーが存在しているから。

パンデミックのさなかに開眼した田舎暮らしは、アップステート・ニューヨークに住んでいる友人のエヴァンとリュータスの影響も大きい。彼等はチャイナタウンにもアパートを持っているデュアル生活の先駆者であり、アップステートの家は2人にとってシティの喧騒から逃れるためのオアシスでもあるのだ。古いファームハウスをリノベーションした家は青々とした敷地にあり、家の前を流れる川やデザインされたように美しい植物に囲まれている。ミニマルなキッチンやリビング、ヴィンテージのじゅうたんやアンティークのインテリア、勇敢に燃える暖炉の火、クラシカルなシガー&ライブラリールーム。ギャラリストであるリュータスのセンスが随所に光る空間は、今まで知らなかった“ファームハウス”とそれらがミックスされていて全てが新鮮で美しい。

夏の日はリビングを抜けて目の前の川にジャンプ。強い日差しと冷たい川の水のギャップが心地よい。そして夜はカエルや虫の鳴き声で眠りに落ちる……。シティ暮らしにはない美しい自然の中でのダイナミックなライフスタイルに心奪われた。その後ロックダウンは2020年4月に緩和したけれど、コロナに関する情報は不安定だった。そんな状況にもかかわらず、どうにか自然の中で思いっきり息を吸いたいという私たちを、2人が快く受け入れてくれたおかげで最高のひと時を過ごすことができた。そして同年の11月から家探しをスタートすることになるのだが、その話は次回に。

Edit Nana Takeuchi

author:

工藤キキ

横浜生まれ。ライター、シェフ、ミュージックプロデューサー。カルチャー誌でファッションやアートなどのサブカルチャーに関する寄稿や小説を執筆。著書に小説『姉妹7(セヴン)センセイション』、アート批評集『post no future』(すべて河出書房新社)などがある。2011年にニューヨークに拠点を移す。2014年にアートフードプロジェクト「CHI-SO-NYC」をスタート。レストランへのレシピのデザイン、フードを絡めたイベントなど食にまつわる活動をしている。2017年から音楽のプロデュースを始め、EPをリリース。2022年3月にはThe Trilogy TapesからEP『Profile Eterna』をリリース。6月には初のクックブック『I’m cooking for you』を<Positive Message>から出版。レシピのYOUTUBEチャンネルもスタートしている。 kikikudo.com Instagram: @keekee_kud

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