mo-green, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/mo-green/ Mon, 19 Feb 2024 08:30:14 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png mo-green, Author at TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報 https://tokion.jp/author/mo-green/ 32 32 連載「ぼくの東京」Vol.11 民藝に新たな感性を吹き込む、染色家・宮入圭太が考える東京 https://tokion.jp/2024/02/20/my-tokyo-vol11/ Tue, 20 Feb 2024 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=223271 アーティスト等による思い思いの「東京」を紹介する連載。第11回は手仕事の美しさを継承する染色家・宮入圭太が登場。

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ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第11回は、宮入圭太が生まれ育った東京の新たな魅力を探しに。

宮入圭太
1974年東京都生まれ。型染を生業とする。古き良き先人の作品に感銘を受けながらも、自身の感じる自由を表現。民藝には生き様が投影される。あたりまえに過ごしてきた東京。知らぬ間に蓄積された感覚は、アートとして注目を浴びている。https://keitamiyairi.jp
Instagram:@keitamiyairi

制約の中に、自由を観る

民藝思想。1926年に柳宗悦等によって提唱されたこの文化は、華美な装飾ばかりを施した当時の工芸界に警鐘を鳴らすものだった。美は生活の中にこそある。そう考えた柳宗悦達が、名も無き職人の手から生まれた日常の道具を「民藝」と名付け、新しい美を提示したのだ。

「いつからか、この思想に惹かれるようになっていました」と、染色家の宮入圭太は言う。しかし、制約された表現のなかで、仕事をすることにそれが正しいとわかっていても、どこかふてくされている自分もいた。

「大衆に受けないと意味がないというか……個性とか趣味とかが悪とされる世界なんです。でも、自分が“好き”と思う感覚を大切にしたい。そんな時、柚木沙弥郎の作品に出会いました。あ、おもしろいぞ、って」。

生まれ育ちは池袋。幼い頃から、あたりまえのように都会の暮らしを楽しんでいた。気の向くままにスケートボードを手に取り、時には絵を描く少年だった。

「池袋の普通の家庭で育ったので、センスとかあまり考えたことがなかったです」。

そんな宮入は、結婚がきっかけで30代前半からは後楽園に転居。居心地のいい地元を離れ、友達もいない場所で黙々と自分の仕事と向き合う。近くの「小石川植物園」は好きな散歩コースで、気付くと一番いる場所になっていた。

直観。大切にしてきたものが繋がる瞬間

「植物園や民藝館にはよく足を運びます。ネタ探しでもあり、刺激を受ける場所。特にコロナの時は、この植物園にめちゃくちゃ行ってました」。

「美術業界に知り合いなんて1人もいなかった」。そう話す宮入の前で、フォトグラファーの濱田が笑う。今では一緒に仕事もするし、遊ぶ仲だ。

「あの展示がなかったら出会ってないかもしれないな」。

宮入圭太という存在を大きくしたのは、世界的なグラフィティアーティストであるバリー・マッギーがきっかけ。彼の来日作品展で、宮入の作品が飾られたのだ。天井から吊り下げられた手ぬぐいに、多くの人がざわついた。

「無名だった私にたくさんの人が興味を持ってくれました。え、なんで!? バリーさん達とたまたま笑うものが一緒だった。あ、でもこの感覚(直観)って、すごく重要なのだと思いました」。

民藝とも通ずる直観。宮入が尊敬する柳宗悦の「素朴なものはいつも愛を受ける」という言葉は意外な場所で形を受けた。

「どこで生まれたとかは関係なくて、直観が共鳴すればすぐに繋がれるんだと感じました。そして、それを直に確かめ合えるのは東京だから、なのかな、とも」。

東京という存在が生んだもの

インターネットを知らない時代を生きてきた彼は、今日もシンプルな気持ちで作品と向き合う。売れることを考えれば必要なSNSも興味がない。ただ、目の前に見えるリアルな風景を楽しんでいる。彼にとっては今日も“好き(直観)”が重要だ。

「幼稚園の頃から染色を教えてきた娘は、もう中学生。明らかに子ども達の方が才能あるんです(笑)。子どもの自由さに勝てる人なんて、きっと1人もいないんだろうな。バリーさんの展示会のきっかけを作ってくれたタイラー君という友達もそういう目を持っている人で、彼とは4年間、毎日連絡をとっています」。

安定を求めて我執を隠して活動するより、自分が感じる正しさを表現したい。そんな彼が多くの出会いを経て感じたこともある。

「僕は東京生まれですが、実は東京出身の我々はダサいんじゃないか? と。作品を通して、東京を目指してきた人に会う機会も増え、その野心や感性に驚くし、知らない東京がまだまだがいっぱいです」。

Photography Shin Hamada
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi (Mo-Green)

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連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.11 映画監督・富田克也の“バイク” https://tokion.jp/2024/02/19/creators-masterpiece-vol11-katsuya-tomita/ Mon, 19 Feb 2024 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=223120 さまざまなクリエイターの愛用するアイテムについてインタビューする連載コラム。第11回は、映画監督・富田克也が趣味の釣り移動で愛用している“バイク”を紹介。

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富田克也

富田克也
1972年山梨県生まれ。映画監督。映像制作集団「空族」の一員。処女作『雲の上』(2003)、『国道20号線』(2007)発表後、2011年の『サウダーヂ』で、ナント三大陸映画祭グランプリ、ロカルノ国際映画祭独立批評家連盟特別賞、高崎映画祭最優秀作品賞、毎日映画コンクール優秀作品賞&監督賞を受賞。その後、フランスでも公開された。以降もオムニバス作品『チェンライの娘 (『同じ星の下、それぞれの夜より』)』(2012年)、『バンコクナイツ』(2016年)、『典座-TENZO-』(2019)等を発表している。

独創的な視点と手法で商業ベースにとらわれない映画作りをしてきた映像制作集団「空族」。今回はその首謀者の1人である映画監督の富田克也に愛用品を紹介してもらった。持ってきてくれたのは、自分の生活、創作活動には欠かせないというバイク。富田監督スタイルにカスタムしたバイクのエピソードを思う存分話してもらった。

「釣りが目的だから山の中で走りやすいアウトドア仕様」

──富田監督の愛用品について教えてください。

富田克也(以下、富田):カブです、ホンダの。

──いつ頃買ったんですか?

富田:5年前くらい。でも、買ったんじゃなくて、もらったんです。俺は甲府でずっと育って、その後東京に出て、5年前に山梨に戻ってきた。再会した幼なじみはみんなバイクをいじってて、俺もバイクが好きなんで欲しいなと思ってたら、近所のおじいさんが「俺の乗らんである1台、おまんにやらあ」って話になって。その人、親父の同級生。今は釣り仲間で、いろいろ穴場を教えてもらってて。で、バイクもらって以来、今日も撮影場所を提供してくれた幼なじみの小坂武くんと一緒にエンジンをいじって、排気量をボアアップしたりして遊んでるんです。

──法律の範囲内で?

富田:もちろんもちろん! 正規にちゃんとナンバーも取ってやってるんで。

──カスタムの特徴は?

富田:釣りが目的だから、山の中で走りやすいようにタイヤをオフロード用に替えたり、荷台にケースつけたりとか、山仕様、アウトドア仕様です。それにパワーがないと山の中を走れないから、50ccから80ccにボアアップしたりとか。

──そもそもバイク歴は長いんですか?

富田:長いです。高校の時に免許を取ってから、バイクが好きでずっと乗ってるもんで。

──最初に乗ったのは何ですか?

富田:最初はスクーターでしたね。通学に使ってました。「ニュータクト」ってスクーターで、“ニュータク”と呼んでました。

──ヤンキーに人気のあるスクーターですね。

富田:そうそうそう! 不良が乗る、あれが最初で。その後、いろいろ乗り継いできました。

「オフロードバイクがメイン。ここら辺では通称『山っ駆け』」

──スポーツバイクにも乗ってました?

富田:いや、その頃はスポーツバイクは乗ってなくて、いわゆるネイキッドと呼ばれるバイクに乗ってました。で、50歳を過ぎてからスポーツバイクもいいなぁと思うようになって。

──中型は?

富田:乗ってました。400ccを2台くらい乗って、その後、ナナハン(750cc)乗って。今はバイク4台持ってます。カブとエイプ、TZR、この3台が50ccクラスで、もう1台は250ccのオフロードバイク。この辺では通称「山っ駆け」と呼ぶんですよ、オフロードバイクのことを。山の中を駆けるから「山っ駆け」。この言葉、こっちに戻ってきてから知ったんで、新鮮で気に入ってます。

東京でもバイクに乗ってたけど、田舎に住むことになったから、オンロードよりオフロードバイクがいいなと思って。250ccがメインで、カブは俺の中で一番道具っぽいイメージ。日常の移動手段であり、釣りで山の中に入っていく時に釣り道具を積んで運ぶための道具。

──釣りがあってのカブなんですね。

富田:やっぱカブが一番山の奥まで入っていける。オフロードの250ccだと、こっちの技術が追いつかなくて、もてあましちゃう。山の中に入るとパワーはあるけど車体も重いし、すっ転んで足でも下敷きになったら1人じゃ起こせないし。その点、心置きなく奥地に入っていけるのがカブ。自分のコントロール下に置いておけるって感じですかね。

──釣りをするのは湖ですか?

富田:おもに川、渓流、湖もです。この辺渓流だらけなんで。

──海、ありませんもんね。

富田:そう、海なし県なんで。

──渓流ではルアーですか?

富田:うん、ルアーもフライも。

──今頃ですと、湖ではわかさぎですか?

富田:あ、こないだ、わかさぎ釣りに行きました。河口湖で。昔と違って今のわかさぎ釣りって、でっかいビニールハウスが浮島として湖に浮いてるんですよ。そこまでボートで運んでもらって、暖房が効いた温かいところで釣るんです。

──今は湖が凍らないからですか?

富田:うん。昔はわかさぎ釣りというと、氷に穴開けてって感じでしたよね。昔はブラックバスもやってましたし。でも、海釣りはあんまり知識がなくて。冬になるとイカとか釣ってみたいと思って仲間と沼津のほうまで出張って、やってはみるものの3、4回行って、まだ1杯もイカが釣れたことないです(笑)。だいたい、海釣りなんかちゃんと始めちゃったら大変ですよ。1年中釣りしなきゃなんない。その点、渓流は禁漁期間があるから。3月から解禁、9月いっぱいで禁漁なんで釣りができるのは半年だけ。

「ホンダの名作。壊れても部品が山ほどある」

──話をバイクに戻しますけど……。

富田:そうだったそうだった!(笑)

──カブの魅力はどのあたりにあります?

富田:やっぱ、ギア付きのバイクが乗ってて一番楽しいし、カブは自分でギアチェンジしたいという欲望を満たしてくれる。スクーターだとギアがないから。それから、壊れないところもいいですね。とにかく頑丈なんで、転んでも壊れない。壊れたとしても、売上が1億台突破したほどの「ホンダ」の名作だから、古いバイクなんだけど部品が山ほどある。だから、未だに直し続けられるし。

──もともと機械いじりが好きなんですか?

富田:好きですね。釣りのリールをバラして、また組んでって。ギアとか、鉄と鉄がこすれ合って回るとか、好きなんでしょうね。空族の虎ちゃん(相澤虎之助/映画監督、脚本家)もバイク好きで、バイク屋で長いこと働いてたから、いじれるし、例え話は全部バイクに例えてくるから(笑)。

映画を撮るために東南アジアに行った時なんか、現地を走り回るにはバイクが一番いい。例えば、タイでカブは「ウェイブ」っていう名称なんですけど、レンタルバイク屋で必ずウェイブを借りるんです。「クリック」っていうオートマスクーターもあるんですけどギアなしだからそっちは借りない。だからいつも東南アジア行くとウェイブで走り回ってます。

──映画『バンコクナイツ』の世界ですね。

富田:そうそうそう!

──『バンコクナイツ』の発想もバイク好きというところから始まったんですか?

富田:まぁ俺達映画を作るのにバイクで走り回るところから始まりますからね。自分達で映画を作る時に1つ決まり事があって、それはバイク走行シーンを必ず入れること、それをやらないと、映画を撮った気がしない(笑)。

──『バンコクナイツ』では運転もみずからしたんですか?

富田:もちろんしました。昔は車のフロントガラスに飛び込んだこともありますよ。スタントなんか雇えないから、人が車に轢かれるシーンを撮るために、フロントガラスに突っ込んで。フロントガラスがビシッ!と割れる。ムチ打ちで3日くらい動けなくなりましたよ。

「バイクはロマンの乗り物だから」

──車には乗るんですか?

富田:レガシーBP5に乗ってます。この武くんからもらって。以前は車に関してはこだわりがなかったんだけど、レガシーに乗るうち、うわっ、この車はおもしろいと気付いてしまって。そこから車も好きになっちゃった。

──バイクと車、乗る頻度は半々くらいですか?

富田:そうですね、半々くらいですかね。車は日常の移動手段だけど、バイクは乗るために乗るというか、趣味ですね。ツーリングみたいに乗りたいからどこか出かけるって感じになりがちですね。

──最近、ツーリングしてるの中高年ばかりですよね。

富田:ですよね、だって若い人、バイク乗らないし。

──大型車は今じゃおじいさんの乗り物になっちゃいましたし。

富田:やっぱ、そうなりますよ。バイクはロマンの乗り物ですからね……。

──今回の取材で愛用品を選ぶ際、他にも候補はありましたか?

富田:釣り道具かバイクか考えました。最初は愛用品、何がいいかな、なんかかっこいいのねえかなって考えて。ほら、万年筆とかだと頭良さそうじゃないですか(笑)。しかし、しかし釣りとバイクって! もはや完全なるただのおっさん……。

──バイクで助かりました。作品とも結びつくんで。

富田:そんなこともあるかと思って、バイクにしました。

──釣りだと映画と結びつきませんからね。

富田:いや、それが、実は次回作と結びつくんですよ。釣りを1つの題材として取り上げようと考えてて。釣りをしている人間を描くつもりで、釣り仲間の田我流にそういう役をやってもらおうと進めてて。以前撮った「サウダーヂ」の続編にあたる映画として考えてるんですけど。虎ちゃんも釣りが好きだしね(笑)。釣りのこと、きちんと描いてる映画みたことないし。コロナの期間、俺等釣りしかすることがなくて。それは俺らに限らず、みんな自然のほうに行けば大丈夫だろうってことで、釣りとかアウトドアがすごい人気になりましたよね。それでいろいろ思うところがありまして、次回作は釣りも1つのテーマに入れようかなって。

Photography Kenji Nakata
Text Takashi Shinkawa
Edit Kei Kimura(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.14 宮地健太郎が選ぶ、日本文化に立ち返るための2冊 https://tokion.jp/2024/01/03/books-that-feel-japanese-vol14/ Wed, 03 Jan 2024 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=215277 『古書ほうろう』の宮地健太郎が、日本的な生活様式やユニークな漢字のルビ使いなど、見落としがちな日本文化の特色を語る。

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宮地健太郎が選ぶ、日本文化に立ち返るための2冊

宮地健太郎
1998年、仲間達と千駄木に「古書ほうろう」をオープン。2010年より夫婦での経営となり、2019年池之端に移転し現在に至る。店には古本だけでなく、レコードやCD、鉄道の硬券の他、妻の焙煎する珈琲豆も並んでいる。

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、台東区池之端にある古書店「古書ほうろう」の宮地健太郎にインタヴュー。古くからの本好きから愛され続ける「古書ほうろう」による、なんともユニークな選書を楽しんでほしい。

『町 高梨豊 写真集』
『花開く江戸の園芸』

今も路地裏に見える、日本的な光景

−−まずは、選んでいただいた2冊『町 高梨豊 写真集』と『花開く江戸の園芸』について、教えてください。

宮地健太郎(以下、宮地):実は今回お声がけいただくまで、日本らしさについてことさら考えたことはなかったんですが、思案するうち浮かんできたのが「植木鉢」でした。毎日自転車で通勤している根津や千駄木の裏道の、道端のそこここに置かれている植木鉢。それぞれのお宅が、好き勝手に鉢を並べている光景こそが「日本的」なのかもって。そこで思い出したのが、1977年に出た高梨豊さんのこの写真集です。ご覧の通り、当時すでに消えつつあった東京の建物や暮らしぶりが主題なんですけど、路地裏や土間の植木鉢もたびたび出てきて。「ガーデニング」なんて言葉を使うと消え失せてしまう、より切実で、日々の生活と分かちがたく結びついた、緑を求める心のようなものを強く感じます。

−−店の前に飾られた朝顔も、そんなイメージなのでしょうか?

宮地:外の朝顔は、一緒にこの店を営んでいる妻が、この夏初めて植えたものです。最初は1鉢だけだったのですが、ある日出勤したら、もう1鉢、どなたかが足してくださっていて(笑)。店の両側に並ぶことになりました。交代で水やりするようになったことで「今日はつぼみが少し開いているから明日はきっと咲くな」とか、「元気がないな」「心配だな」とか、確実に毎日の張りになっていて、それが今回、路地裏の植木鉢を思い浮かべるきっかけになったのかもしれません。みなさんこういう気持ちなんだろうなって。

−−次に、『花開く江戸の園芸』についてはいかがでしょうか?

宮地:高梨さんの写真集を眺めていた時「植木鉢だったら、もう1冊、とっておきのが!」と思い出しました。2013年に江戸東京博物館で開催された展示の図録で、「江戸の人々はいかにして植物を愛でるようになったのか」が、浮世絵を中心とした豊富な図版とともに紹介されています。ヨーロッパでは上流階級の嗜みであった園芸が、近世の日本では庶民を巻き込み広がっていくんですけど、その出発点には、ソメイヨシノで名高い染井の、ある植木職人が記した1冊の入門書があり、そこから植木鉢が爆発的に普及していったというくだりで「おおお!」となりました。登場する植木鉢を今回数えてみたら、なんと892鉢もあって。間違いなく、世界一植木鉢が載っている画集だと思います(笑)。あと、以前店があった千駄木のことも、染井と並ぶ植木屋の本拠として触れられていて。漱石の『三四郎』に団子坂の菊人形が出てきますよね、あの辺りがまさにそうです。

『和訳 聊斎志異』

日本語を工夫して、中国語を紐解く

−−次は、『和訳 聊斎志異』について、教えてください。

宮地:日本らしさって何だろう? と考えて、もう1つ浮かんだのが漢字だったんです。もちろん漢字の起源は中国なんですけど、台湾以外では記号のようなものに成り果ててるじゃないですか。なのでもはや「漢字=日本的」でいいんじゃないかって。で、そんな象形文字としての漢字の魅力をたっぷり味わえる1冊ということで、大好きなこの本を選びました。

『聊斎志異(りょうさいしい)』という書物は清の時代の怪異小説です。科挙に落ち続け、故郷の山東省で世を拗ねながら生きた蒲松齢が、道端で旅行く人に声をかけてはおもしろい話を収集し、それらを元に約500編から成る作品を書き上げました。その多くは、美女に化けた幽霊や狐狸が下界の男達と繰り広げる艶めかしくも不思議な物語で。日本にも早くから伝わり、数多くの翻訳や翻案があるのですが、中でもこの柴田天馬さんの訳は唯一無二のものとして、世に出て100年以上経った今もとても人気があります。

−−人気の理由は、どのようなことなのでしょうか?

宮地:一言で言うと、ルビ使いです。柴田さんは翻訳にあたって「原文の漢字を可能な限り残す」という方針で臨むのですが、その上でなおかつ日本語として成立させるためにルビを振りまくっていて。それがとてもユニークなんです。例えば、今開いたこのページ、菊の精の話なんですけど、こんな感じです。

「因(そこで)、与(いっしょ)に芸菊之法(きくのつくりかた)を論(はな)しあった」

読み進めていくと、以口腹(たべもの)、目所未睹(みたことのないもの)、家中触類(いえじゅうのもの)、千載下人(のちのよのひと)など、普通に日本語に置き換えるとこぼれ落ちてしまうニュアンスが各々の漢字に宿っていて、いちいち興奮しちゃうんですよね。

あと、こういう意味を補うルビとは別の、ぱっと見よくわからないルビもあって。このページだと、中表親(いとこ)がそうなんですけど、蒲松齢という人の根っこには「俺はこんなに頭がいいのになぜ試験に受からない」という恨みつらみがあって、「俺にはこんなに学問があるぞ」とばかりに古い書物からの引用が散りばめられているんですよ。もちろんその多くは自分にはピンとは来ないのですが、その気になって掘ればずっと深いところまでいけるというわくわく感があって。読んでも読んでも発見があります。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「The View My Capture」Vol.18 写真家・Yuki Kawashimaが異国で目にした、遠く離れた大切な誰かを思い出させてくれる「後ろ姿」 https://tokion.jp/2023/12/23/the-view-my-capture-vol18/ Sat, 23 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=218576 異国の地で目にする後ろ姿は、面影として僕に大切な誰かを思い出させてくれた。日本で見る景色とは違っているのにどこか懐かしいと感じる瞬間が、遠く離れた街にいても存在していた。

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Yuki Kawashima

Yuki Kawashima
1993年生まれ。大分県日田市出身。京都精華大学映像コース卒業後、イイノ・メディアプロに入社。スタジオワークを経験の後、2019年独立、2022年渡英。
Instagram: @yuki_kawashima0630
https://kawashimayuki.com

気鋭の若手写真家を取り上げて、「後ろ姿」という1つのテーマをもとに自身の作品を紹介する連載企画。後ろ姿というのは一見して哀愁や寂しさを感じられることが多いが、見る対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回は、アーティスト写真やポートレート、ファッション写真を中心に、現在はロンドンを拠点に活動する写真家・Yuki Kawashimaの作品。日本を離れ、異国で生活をしている彼が、会うことができない誰かと「会えた」と感じた「後ろ姿」とは。

追憶

遠くにいる大切な誰かのことを思い出させてくれた。

2022年から日本を離れロンドンに住んでいる。

言語も文化も違う場所での生活は、これまでのあたりまえが通用しない経験と自己を見つめ直す大切な時間を与えてくれた。

孤独を感じる日々もある中で、1人でバスや電車に乗っているとふと後ろ姿を目にすることがある。

顔も表情もわからない誰かのその後ろ姿は、僕に面影として大切な誰かを思い出させてくれた。

日本とは異なる光景が日々映し出される中でも、後ろ姿やふと目にする風景には、そこに存在するはずのない遠く離れた大切な誰かや懐かしい風景が曖昧な記憶として思い浮かぶ時が存在する気がした。

それと同時に、どこにいてもそれぞれの生活があり今を生きているのだと改めて実感するのだが、誰しもが経験する出逢いや別れの中で、僕は大切な人を亡くした時に写真を通して今を切り取ることの大切さに気付くことができた。

流れゆく日々の中でとどめておきたい目に映る景色や気持ちを、写真を通して残すことによりいつでも思い出せるメモリーとしてこれからも今を切り取っていきたい。

そして僕の撮りたい写真は決してきらめいた大げさな写真ではなく、ふと誰かの記憶とリンクする瞬間にある光景を残していきたいのだと思う。

身近で大切な人を継続的に撮って作品として残したい

−−写真を始めたきっかけは?

Yuki Kawashima(以下、Kawashima):高校生の時に東京事変のLIVEを初めて目にし、一緒に仕事がしたいと思い始めました。最初はMV(ミュージックビデオ)に興味を持ち映像コースに入学したが、フィルムカメラを手にする機会がありそこから独学で写真を始めました。

−−シャッターを切りたくなる瞬間は?

Kawashima:あまり意識したことはないが、綺麗な光や残しておきたい瞬間。

−−オンとオフで愛用しているカメラは?

Kawashima:最近買ったカメラは富士フィルム X100F。デジタル、フィルムどちらも使います。

−−インスピレーションの源は?

Kawashima:実体験や音楽等。

−−今ハマっているものは?

Kawashima:自炊。

−−今後撮ってみたい作品は?

Kawashima:身近な大切な人を継続的に撮る。アイスランドなどの壮大な自然や阿蘇山の野焼き等。

−−目標や夢は?

Kawashima:親孝行。

Photography & Text Yuki Kawashima
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

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連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.10 漫画家・大橋裕之の“CDウォークマン” https://tokion.jp/2023/12/16/creators-masterpiece-vol10-hiroyuki-ohashi/ Sat, 16 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=218056 さまざまなクリエイターの愛用するアイテムについてインタビューする連載コラム。第10回は、漫画家・大橋裕之が仕事場で愛用する“CDウォークマン”を紹介。

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連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.10 漫画家・大橋裕之の“CDウォークマン”

大橋裕之
愛知県蒲郡市出身。2005年から自費出版で活動を開始。代表作に『シティライツ』『夏の手』『音楽』『ゾッキ』等がある。また、「音楽」はアニメ映画化、「ゾッキ」は実写映画化された。

ギャグ漫画のようにクスッと笑える場面があるかと思えば、いつの間にか哀愁漂う展開になっていたりする、不思議な漫画作品を数々描き上げてきた漫画家の大橋裕之。愛用品を紹介してもらう本企画に持ってきてくれたのは仕事場で愛用しているというCDウォークマン。このウォークマンを使ってどんな時に、どんな音楽を聴いているのか、創作への影響など、ざっくばらんに話を聞いた。

「音楽は、ぱっと選んで、ぱっと聴きたい」

──愛用品について教えてください。

大橋裕之(以下、大橋):CDウォークマンです。

──いつ頃、手に入れたんですか?

大橋:10年以上前だったと思います。当時、電車でバイトに通ってて、iPodはすでに持ってたけど、曲を保存するのが面倒くさくて。それで、その日に聴きたいCDを持って行けるほうがいいなと思って買ったんです。音楽は、ぱっと選んで、ぱっと聴きたい。で、これは2台目。最初に買ったのはすぐに壊れてしまって。

──この機種を選んだ理由は?

大橋:CDはいちばん馴染みのあるメディアだし、手頃だったんだと思います。それにソニー製だし。

──ソニーが好きなんですか?

大橋:……嫌いじゃない。

──今も使ってるんですか?

大橋:はい。もっぱら机の上にあって、今日、一緒に持ってきたスピーカーでいつも聴いてます。何年か前にミニコンポが壊れちゃって、いまこれしかなくて。スピーカーはダイソーで、たぶん300円くらいで買いました。意外と音が良くて嬉しかった。

──ヘッドホンでなくスピーカーで聴く理由ってあります?

大橋:なんだろうな……。なんか、耳に悪そうじゃないですか、ずっとヘッドホンつけてると。それでスピーカー買ってみようと思って。そしたら音がクリアで。だいたい、ぼくは移動中に音楽を聴くことがあまりない。ですから携帯用じゃなくて、普通の据置きCDプレイヤーみたいに使ってます。

「CDは段ボール箱に大量に入れてて、その日に聞くのを机の上に持っていく感じ」

──どういう音楽を聴いてますか?

大橋:何枚か持ってきました。いわゆるサブスクにないものが多いですね。

──趣味がバラバラですね。

大橋:バラバラです。

──今もCDをまめに買うほうですか?

大橋:いや、中古で買うくらいです。たまに新品。最近、8センチシングルCDのDJを知り合いとやってて、8センチを大量に買ったりしますね。1枚10円とか、場合によってはそれ以下で売ってることもあって、買うこと自体が楽しいというか、100枚買っても1000円くらいだったりしますからね。

──仕事中に聴く曲はちゃんと選ぶんですか?

大橋:なんとなくですね。家にCDラックがないんで、段ボール箱に大量に入れてて、その日に聴くのを、「あ、これもこれも」と選んで、机の上に持っていく感じです。で、仕事中はずっと音楽聴いてます。ただ、ネタを考える時は聴けないですね。単純に手を動かす時だけ聴いてます。

──段ボール箱、どれくらいあるんですか?

大橋:1つ2つじゃ済みませんね。実家にもあるんで。でも、何千枚もはいかないと思いますよ。

──聴いてる音楽が仕事に影響することはありますか?

大橋:あるのかもしれないけど感じたことないですね。たぶんネタには詞の内容とかの影響はあるかもしれないけど、作画に関してはないと思いますよ。ただ、気分がよくなりたいと思って聴いてるんで、何かしらの影響はあるかも。

──オーディオは好きですか?

大橋:興味はあるんですけど、詳しくなくて。前はコンポを使ってたんですけど、さっき言ったように壊れちゃって。アナログレコードもコンポにつないで聴いてたんで、最近は聴けなくなって。だからプレイヤーとアンプを買おうとは思ってるんですけど、まだ調べてない。でも、いまはレコード聴けないのに買っちゃったりして。

──自分で楽器を演奏したりもするんですか?

大橋:遊び程度には。高校の時くらいから遊びでバンドをやってて、楽器は適当になんでもやってましたが、主にドラムでしたね、ちゃんと叩けませんが。今はバンドはやってないけど、1人でスタジオに入って叩きたいなと思うことはあります。ただ、1人で入るのが怖くて。勝手がわからないんで。

──バンドではライヴもやってたんですか?

大橋:地元(愛知県蒲郡市)に住んでた時は1回だけですね。町のお祭りというかフェスみたいなものに出ました。30分くらい持ち時間があって。

──演奏した曲はオリジナルですか、カバーですか?

大橋:オリジナルというか、即興ですね。見に来た友達に怒られました。

──大橋さんの漫画『音楽』は実体験に近い?

大橋:あぁ、そこはちょっとそうですね。で、東京に出てきて、漫画家の先輩・長尾謙一郎さん達とバンドを組んで、何度かライヴもしました。10回もやってないけど。吉祥寺とか下北沢、池袋、渋谷とかで。長尾さんはギターで、曲もつくってて。僕はドラムでした。

──そのバンドは長く続いたんですか?

大橋:3~4年は続いたかなあ。いちおうCDも出しました。Les ANARCHO(レ アナーコ)というバンド名です。

──先ほどDJの話がありましたが、それは人前でやってるんですか? 仲間うちのパーティとかじゃなくて。

大橋:あぁ、どっちとも言えるような……。まあ、ゆるい感じでやってます。ぼく、曲と曲をうまくつなげたりできないんで、ただただ流してるだけですけど。でも選曲するのが楽しくて。

──どんな曲を選ぶんですか?

大橋:もともと好きで(8センチCDを)取ってあったカーネーションとかもいいんですけど、イベントでは小室ファミリーとかビーイング系とかもかけてますね。大好きなんで。

──CDはプラスチックケースを外してビニールに入れ替える派なんですね。

大橋:部屋が狭い時に「まずいっ!」ってことになって、大量にビニールを買って入れ替えました。

──まめですね。

大橋:途中で諦めました。

──カーネーションのどのあたりに惹かれます?

大橋:18、19歳くらいの時に知ったんですけど、全部よかった。曲も歌詞も音も。来年1月のライヴは久しぶりに行こうと思ってます。

──レコードがまた注目されてますけど、幼い頃、レコードは身近にありました?

大橋:43歳なんで、ぎりぎりレコードはありましたね。でも、カセットテープを買ってました、録音されたやつ。初めて買ったカセットは、とんねるずのアルバムでした。で、その後、小学3年か4年の時に初めてCDを買ったのを覚えてます。BAKUってバンドの『ぞうきん』というシングルCDです。アルバムだとユニコーンの『ケダモノの嵐』と『服部』でした。

──おじいさんの写真がジャケットの。

大橋:はい。そっちは『服部』です。

──当時の小学生にとって、CDアルバムは高価ですよね。

大橋:ええ、ですからアルバムはお年玉で買いました。でも、CDを買う前はもっぱらカセットでした。録音されたもの以外にも、友達からダビングしてもらったりとか。その頃にもCDはあったと思うんですけどね。そしたら、いつの間にかCDが普及して。よくレンタルしてましたね。

──今回、愛用品として何を選ぼうか迷いましたか?

大橋:筆ペンか、CDウォークマンにするか迷いましたね。筆ペンだとあたりまえ過ぎるかなと思って。筆ペンの細いほうはけっこう硬くて、いつも使ってますね。

──ものにこだわりはあるほうですか?

大橋:薄いほうだと思うんですが、割りと何でも取っておくほうですね。ものが捨てられなくて。小学校の時のものとか、地元のもうなくなっちゃったスーパーの袋とか、いろんなものが実家に大量に残ってます。いや、スーパーの袋は取っておこうとしたというより、奇跡的に残ってて、ある時、たまたま発見して「わっ!」と思って。ヤオハンっていうんですけど、その袋を人に見せるとすごく感謝されたりするんですよ。

──じゃあ、CDやレコードも処分できない?

大橋:あまりできませんね。ただ、聴いてみて、よほどつまんなかったとか、今後聴く見込みがなさそうなのは売ることもありますね。

──意識的にコレクションしてるものはありますか?

大橋:古いものが割と好きで、老舗の喫茶店のマッチとかコースター、店名の入った割り箸の袋とか取ってたりしますね。何の目的もないんですけど。それにちゃんと保存してるわけじゃなくて、適当に取ってるだけですけどね。

──見返すことはありますか?

大橋:ないです。

──つまり、愛でる対象というわけではない?

大橋:ふとした時に目に入ると楽しいですよ。

■大橋裕之の漫画「音楽」が舞台化。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科の2023年度卒業制作として上演される。
日程:2024年01月13、14日
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
時間:14:00~/19:00~(13日)、11:30~/15:30~(14日)
公式サイト:https://www.sdd.tamabi.ac.jp/ongaku7th

Photograph Shin Hamada
Text Takashi Shinkawa
Edit Kei Kimura(Mo-Green)
Cooperation cafe & bar Roji

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連載「The View My Capture」Vol.17 写真家・カクユウシが見る「後ろ姿」の向こう側にある微かな光たち https://tokion.jp/2023/10/30/the-view-my-capture-vol17/ Mon, 30 Oct 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=213012 観察対象の全体像が見えず五里霧中の状態でも、その輝いている視線に照らされた先から滲み出る微かな光をかき集めれば、ボヤけていたはずの後ろ姿の向こう側をイメージすることができる。

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気鋭の若手写真家を取り上げて、「後ろ姿」という1つのテーマをもとに自身の作品を紹介する連載企画。後ろ姿というのは一見して哀愁や寂しさを感じられることが多いが、見る対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回は、グラフィックデザイナーを経て、広告制作会社に勤めながら個人の作品を制作する台湾出身の写真家・カクユウシの作品。観察対象から滲み出る微かな光をかき集めることで、見えてくる「後ろ姿」の向こう側とは。

カクユウシ
台湾出身。グラフィックデザイナーの活動を経て来日。
日本写真専門学校卒業後、現在広告制作会社に勤務しながら個人の作品を制作している。
Instagram: @y.kaku.u
https://kakuyushifoto.wixsite.com/portfolio

背中の向こう側

いつも何かの憬れを精一杯に追いかけている。

けれどもそれはあまりにも高くそびえる存在であって、全体像を掴むこともできず近づけば近づくほどボヤけて曖昧になり、徐々にわからなくなったり、見失ったりして途方に暮れる。

全体像が見えず五里霧中の状態だけど、その輝いている視線に照らされた先から滲み出る微かな光をかき集めれば、次第に後ろ姿の向こう側をイメージすることができる。

そしたらボヤけていたはずの後ろ姿も鮮明に見えるようになってくる。そんな気がしている。

直接観察するよりも後ろ姿を越えてその先を観察すれば、「なぜここに?」、「何のために?」、「どういう風に?」など、本質的なものがより見えてくる。

こういった観察対象から無意識の中に滲み出る情報をパッと見た時に、零細でまとまりに欠けているように見えるかもしれないけれど、心象風景や存在意義およびそれに対する問いかけ等、大事なことがそこに隠れていると直感的に思っている。

だからいつも目を見開き、その微光の中にある大切な情報を見落とさないように。

それは物事について知る時でも、人と付き合う時でも、同じなのだ。

現実が現実っぽく見えない、違和感が溢れてくる瞬間を切り取る

−−写真を始めたきっかけは?

カクユウシ(以下、カク):今振り返って見ると、特にきっかけと言えるきっかけがなく、ただただデッサンのように世界を観察する手段として中高生の頃からずっと撮り続けてきました。

−−シャッターを切りたくなる瞬間は?

カク:現実が現実っぽく見えない、違和感が溢れてくる瞬間です。

−−オンとオフで愛用しているカメラは?

カク:「ジナー P」

−−インスピレーションの源は?

カク:音楽。最近はレコードを聴きながら物事を考えています。

−−今ハマっているものは?

カク:Google Mapを見ずに、目的も目的地もなく散歩をすることです。

−−今後撮ってみたい作品は?

カク:シネマグラフ。写真と動画の隙間で遊びまくりたいです。

−−目標や夢は?

カク:短期の目標は、個展を開催することです。

Photography & Text Yushi Kaku
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

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連載「The View My Capture」Vol.16 写真家・塚本倫子が被写体であるダンサーの「後ろ姿」に惹かれる理由 https://tokion.jp/2023/09/10/the-view-my-capture-vol16/ Sun, 10 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=203808 誰かの背中を意識して撮影したことはほとんどないが、作品として後ろ姿を選ぶことが多いのは、彼等の背中が美しいからなのか。ダンサーが背中で語るように、後ろ姿に惹かれるのは必然なのかもしれない。

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連載「The View My Capture」Vol.16 写真家・塚本倫子が被写体であるダンサーの「後ろ姿」に惹かれる理由

塚本倫子
1997年、東京都生まれ。2020年、多摩美術大学劇場美術デザインコースを卒業。ダンサーを被写体とするフォトグラファーとして、映像や写真作品を手掛ける。
Instagram: @rintsukamoto

気鋭の若手写真家を取り上げて、「後ろ姿」という1つのテーマをもとに自身の作品を紹介する連載企画。後ろ姿というのは一見して哀愁や寂しさを感じられることが多いが、見る対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回は、主にダンサーを被写体とした撮影で活躍する写真家・塚本倫子の作品。彼女がダンサーを撮影していく中で、意識はせずとも彼等の「後ろ姿」に惹かれる理由を探る。

踊り、躍る

高校で舞台撮影を頼まれたという小さな出来事が、ダンサーを写真、映像作品として表現する今の自分の基盤と強く繋がっている。

空が、空間がキャンバスならば、ダンサー達は絵の具のようである。

その美しく鍛えられた身体で描かれる作品を、ファインダーを通してなぞっていく感覚は絵を描く行為と重なる。

これまで人の背中を意識して撮影したことはないけれど、作品として見た時に後ろ姿を選ぶことが多い。

人の肉体の中心である背中、背骨が大きく、まるでバネのようで美しいからだろうか。

多くのダンサーが背中で語りかけてくるように、私が彼等の後ろ姿に惹かれる理由は目に見えてわかるのだ。

世界を旅しながら、各国のダンサーを撮り続けたい

−−写真を始めたきっかけは?

塚本倫子(以下、塚本):親がデジカメや「写ルンです」で愛犬をよく撮っていて、その影響で幼少期から自然とカメラに触れる機会が多かったです。それから中学、高校と学校にカメラを持ち込むようになって、友人や先生、風景なんかをよく撮るようになりました。

−−シャッターを切りたくなる瞬間は?

塚本:残したい瞬間が見えたら撮っています。

−−オンとオフで愛用しているカメラは?

塚本:「ソニー」α7c、「リコー」RT-550 DATE、「ペンタックス」MX、壊れかけのBiGmini、iPhone

−−インスピレーションの源は?

塚本:映画、舞台、夢

−−今ハマっているものは?

塚本:漫画、ドライブ、ピアノ

−−今後撮ってみたい作品は?

塚本:ドローンの資格を取得して、恐れず空撮に挑みたいです。映像ならドキュメンタリー作品を撮ってみたいです。

−−目標や夢は?

塚本:世界を旅しながら、各国のダンサーを撮り続けることです。

Photography & Text Rinko Tsukamoto
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

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連載「ぼくの東京」Vol.10 「実は心地よくて、どこかあたたかい」 映写や記憶をテーマに、映像的絵画を制作する加藤崇亮が東京の魅力を語る https://tokion.jp/2023/09/09/my-tokyo-vol10/ Sat, 09 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=206847 アーティスト等による思い思いの「東京」を紹介する連載。第10回は独創的な世界観が魅力の画家・加藤崇亮が登場。

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ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第10回は、加藤崇亮から見た東京のノスタルジー。

加藤崇亮
1985年生まれ、東京都出身。幼少期をドイツで6年過ごしたのち帰国。麻布学園、多摩美術大学造形表現学部デザイン科卒業。2012年からエンライトメントに参加し独立。映像的絵画を目指し、時間・映写・記憶をテーマにした絵画を制作。あえて輪郭や空間への違和感を加えた作品で、絵画という平面の世界に新しい命を吹き込んでいる。

幼少期をドイツ・デュッセルドルフで過ごしたのち、東京へ戻ってきた加藤崇亮。異国の地で過ごした思い出は、彼の作品や趣味に少なからず影響を与えているのかもしれない。

「昔から古い印刷物を集めるのが好きです。日本のものもたくさん持っていますが、やっぱり海外の紙物の方が多いかな。1960年代や1970年代のものが好き。古い印刷物ならではの色味や風景におもしろさを感じます」。

そんな加藤のお気に入りスポットは高円寺にある「ハチマクラ」。古い包装紙や切手、ポストカードなど、紙物をメインに扱っているお店だ。こぢんまりとしたショップに一歩足を踏み入れると、そこは別世界。何十年、いや何百年も前に作られた印刷物が時代を超えて“今”に存在する。加藤にとっては夢中になれる場所であり、ここで販売されている古いマッチラベルにインスピレーションを受け、マッチラベルデザインで自身の世界観を表現したこともある。

加藤の作品は、時間・映写・記憶がテーマ。絵画という平面の世界を映像的な感覚で捉えた彼のアートは、どこかノスタルジックでもあり、既成概念を覆すような驚きがある。最近はポストカードを題材にした作品が多く、その既存イメージを分割し、彼ならではの視点で再構築している。

「ポストカードの構図や色味などをデジタル編集して、さらにデジタルでスケッチを加え、そこにアクリルでペインティングします。または水彩紙をカッターで切ったり破ったりして、それぞれのパーツをアクリルで描いて、もう一度組み合わせてみたり。ポストカードの中の知らない場所や昔の時間をカットして映像的な動きを加えることで生まれる“違和感”や“動き”を表現したいと思っているんです」。

その時にしか出会えない風景やモノが好き

「印刷物の版ズレも好きなんです。1つひとつの表情の違いを感じる。古いポストカードなんかはそこに写っている人物がぼやけていたり、背景が擦れてしまったりして、想像させる部分が多い。見ているだけで知らない場所に移動できるようなこの感覚が好きだから、古い印刷物をたくさん集めているのかもしれないですね」。

加藤にとっては古着もそのイメージに近く、阿佐ヶ谷にある古着店「JUDEE」は足繁く通う場所。今ではこのショップでほとんどの服を購入している。

「昔から古着好きというわけではなかったんですが、友人のイラストレーターに教えてもらったのがきっかけでハマりました。なんだろう、古着は買う理由になるというか…。古い印刷物と同じで、その時にしか出会えないものを偶然見つけるという感覚が楽しいです」。

多くの店が軒を連ねる人気エリアながら、古き良き東京の風景も残す阿佐ヶ谷。少し歩けばのどかな街並みが広がり、時間もゆったりと流れ始める。新しい刺激を求めて東京散策をするタイプではないという加藤にとって、このホッとする感じもお気に入りだ。

「僕の地元である戸越銀座に少し似ているような……。あたたかい感じがありますね。JUDEEのオーナーと他愛ない話をする時間も心地いいです」。

彼の昔と今をつなぐ場所

加藤がドイツ暮らしを経てたどり着いた場所は戸越銀座。今もこの街に自宅とアトリエを持つ彼にとって、ここが東京のホームだ。特に戸越公園は大切な場所で、余裕があれば週に1、2回足を運ぶ。

「東京には自然が少ないからか、自然を感じる場所に惹かれがちです。戸越公園は幼い頃から来ていた場所で、本当にリラックスできる。小さな公園ながら見どころもいろいろあるんですよ」。

この日はいつも彼が通るルートで公園内を散策。古くは武家屋敷だったこともあり、池や川、庭園など、目を喜ばせてくれる風景が続く。園内に並ぶベンチでのんびり日向ぼっこをする人も多く、一瞬で都会の喧騒を忘れてしまう。

「お子さんを連れた家族などを見ていると『武家屋敷の時もこんな空気の流れだったのかな』と感じます。川に浮かぶ小屋と、その後ろに見える緑の雰囲気も好きで、いつもぼんやりと眺めています」。

カメや鯉、カモなど、さまざまな生き物が暮らす池を見ているだけで、東京で失いかけた感覚を思い出す。春には桜、梅雨には紫陽花、夏は蝉の大合唱と、季節ごとに移り変わる景色もまた加藤のお気に入りだ。

「カメはいつも岩の上で休憩しているイメージだったんですが、今日は活発に泳いでますね。こんなに元気な姿を見るのは初めてかも。この池には僕にしか見えない金色の鯉もいるんですよ。発見したら教えます」と少年のように笑う。

そういえば、この夏行われた加藤の個展のテーマは『FRUIT OF MEMORY 記憶の果実』だった。

「記憶って果実っぽいですよね。みずみずしさが一過性のもので、いつかは失われていく」。さてこの日、一緒に見た金の鯉は本当にいたのだろうか? 過去を振り返るように“今”を見る彼のまなざしが生み出す作品の数々は、ノスタルジーと可能性に溢れている。それを見る人の想像が加わることで、ストーリーはきっと変わっていく。東京の景色もまた同じなのだろう。

■ハチマクラ
住所:東京都杉並区高円寺南3-59-4
時間:13:00〜19:00 
休日:月曜、火曜
Instagram:@hachimakura

■JUDEE
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北3-11-23 SKTハウス1F
時間:14:00〜21:00(不定休)
Instagram:@judee_asagaya

Photography Shin Hamada
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.12 「twililight」店主・熊谷充紘が選ぶ「日本らしさ」を感じる2冊 https://tokion.jp/2023/08/31/books-that-feel-japanese-vol12/ Thu, 31 Aug 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=203791 「twililight」の店主・熊谷充紘が、日本語ならではの言葉遊びなどから感じる日本らしさを語る。

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熊谷充紘

熊谷充紘
10年ほどフリーランスとして編集や企画を行い、トークイベントやライブなどを企画。その後、友人から声がかかったことをきっかけに三軒茶屋で書店「twililight(トワイライライト)」を開店。店舗では本の販売の他、カフェ、ギャラリー、イベントを展開している。

国内外さまざまにあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、世田谷区三軒茶屋にある書店「twililight」の店主・熊谷充紘氏にインタビュー。2022年3月にオープンして以来、多くの “本好き” から愛されている書店だ。

「店名である『twililight(トワイライライト)』 もそうですが、余計なものがある暮らしって、豊かだと思うんです。正しい言葉としては『トワイライト』になるのだろうけれど、そこにあえて余計な『ライ』を付けたんですよね。暮らしの中で余計な時間を過ごしてほしい、時にはサボりに来てほしい、そんな気持ちでお店の営業を続けています」と、語る熊谷。彼が選ぶ「日本らしさを感じる本」を紹介する。

『献灯使』

現代日本のメタファーを感じる1冊

−−まずは、『献灯使』について、教えてください。

熊谷充紘(以下、熊谷):こちらは、小説家・詩人の多和田葉子さんが手がけた、近未来小説です。物語の背景は、いわば、“鎖国状態” の日本。大災厄に見舞われ、「ジョギング」や「インターネット」といったような、外来語がすべて禁止されてしまった状態の日本ですね。そんな「外来語禁止」に加えて、現在の日本ではインフラとして認識されているようなもの、自動車やインターネットなどがすべてなくなってしまっている状態。この本の主人公は老人なのですが、100歳を過ぎても十分に健康で、死ぬことができなくなってしまっているんです。ただ、一方、若い人々や子ども達は、体が弱ってしまい、自分で学校にも行けないようになってしまっている。なんとなく、メタファーを感じるんですよ。これって現代の日本だよな、って。

−−それは、どういうことでしょうか?

熊谷:この本の中に出てくる大災厄は、きっと、2011年3月の東日本大震災だと思うんです。「100歳を超えても死ぬことができない」というのは、まさしく長寿化が顕著な現代。子ども達に元気がなくなっていく、その命の数がどんどん減っていってしまうというのは、少子化問題を表しているように思えるんです。現代の日本が直面している “ディストピア的” な状況が、メタファーをもって表現されているんですよね。「これは現代の日本だ」と感じるような表現がたくさん使われているんです。

−−数々のメタファー、シチュエーション設定以外に、「日本らしさ」を感じるところはありますか?

熊谷:少しだけ話を「設定」に戻しますね。大災厄以前は普通に使われていた外来語が禁止された中で、例えば「ジョギング」が「駆け落ち」と呼ばれるようになったりするんです。その理由はただのファニーな冗談で、「駆ければ(血圧が)落ちるから」といったようなもので。

また、日本からインターネットがなくなった日を祝日にするシーンがあるのですが、その名前として「御婦裸淫の日」というものを採用していたり。とてつもなく辛辣で、シリアスなシーンの中に、こういった「ファニーな日本語」が出てくるんですよ。いわば、“脱力的な日本語” が。底知れない閉塞感をスッキリ打破するような力が、日本語には、きっとあるんだな、と。そう思わせてくれるんです。そもそも日本には「ひらがな、カタカナ、漢字」という3つの表現方法があるんだよな、って。当たり前だけれど、そんなことを改めて思わせてくれるような本ですね。

−−著者の多和田葉子さんについても、教えていただけますか?

熊谷:彼女は、東京の大学を卒業してすぐに、西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社しました。「母語の外側に出て、そこで感じるものから創作をしたい」という思いをもって、ドイツに移住されたんです。40年以上もの期間、ドイツに住み続け、その間は日本語とドイツ語の両方を使って創作を続けてきた方。母国・日本のことを、外(ドイツ)から見つめることができるからこそ、こういった本を書くことができるのだろうなぁと感じています。日本の問題点を、そして、日本のおもしろさを。

そんな彼女が、5月に、このお店でトークイベントを開催してくれたんですよ。とっても嬉しかったのを覚えていますし、1つの夢が叶ったような気がしました。実は、僕、自分が本のお店を開くだなんて全然考えていなかったんです。ただ、そんな中でも「やるからには多和田さんに来ていただきたい」と思っていたんですよね。なんだか、今も夢の中にいるような感覚です。嬉しかったです、本当に。

『花と夜盗』

日本らしい、遊び心を感じる1冊

−−次は、『花と夜盗』について、教えてください。

熊谷:こちらは、俳人・小津夜景さんが手がけた句集です。『フラワーズ・カンフー』という作品に続く第2集ですね。彼女は漢詩の日本語訳をしつつ、エッセイなども書かれる方で。エッセイ作品もものすごくおもしろく、僕自身、すごく影響を受けている部分があります。

−−この本の、どこに「日本らしさ」を感じますか?

熊谷:「日本らしさ」や「日本人らしさ」について考える時、いつも頭に浮かぶのは「協調性」であったり「勤勉」であったりすると思うんです。よく世の中でいわれていることだと思いますし、それはきっと間違いではないと思うのですが、事実として、そうでない部分も多くあると思うんですよね。例えば短歌に関して言えば、いわゆる “かけ言葉” のようなものって、“ダジャレ” のようでもあると考えることができると思うんですよ。少しだけ話はズレてしまいますが、日本がテレビゲームの業界で最先端だといわれるように、実は「遊び心」というものが、日本人には通底しているのではないか、と。

この句集も、そうなんです。そもそも漢詩を翻訳して短歌や俳句で表現していたり、「7・7」の音だけで作られた俳句があったり、漢字だけで俳句を作ったり。都々逸という、「7・7・7・5」の音で作られたものがあったり。ここで思うのが、“定型” があるからこそ、遊べるのではないか、ということ。伝統的な「5・7・5」という音の組み合わせに限らずですが、すべてのルールめいた制限の中で、自由に遊ぶということ。いわば「定型と遊ぶ」といったような姿勢が、この本と小津さんから、感じられるんです。それこそが「日本らしさ」なのかなぁ、って。

−−どんな人なら、楽しめると思いますか?

熊谷:自分の中に、言葉にはなかなかしづらいけれど、確かに伝えたい何かがあるような人。きっと、そういう方には楽しんでいただけるんだろうなぁと感じます。「意味から自由になれる」というか。そんな感覚を覚える本ですね。「twililight」のカフェコーナーでのんびりお茶でも飲みながら、十分にサボりながら、ゆっくりと眺めていただけたらいいなぁ、なんて。言葉とダンスをするように、しっぽり愉快に楽しんでいただきたい1冊です。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.9  映像作家・吉岡美樹の“サトちゃん人形” https://tokion.jp/2023/08/23/creators-masterpiece-vol9-miki-yoshioka/ Wed, 23 Aug 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=201809 さまざまなクリエイターの愛用するアイテムについてインタビューする連載コラム。第9回は、映像作家・吉岡美樹の創作活動とリンクする点も多いという“サトちゃん人形”を紹介。

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連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」 映像作家・吉岡美樹の“サトちゃん人形”

どこかレトロなモチーフが、ポップに動くアニメーション。その独特な感性で人気を集め、ミュージックビデオやさまざまなブランドのビジュアル制作で活躍する、映像作家の吉岡美樹。仕事の愛用品を見せてくださいというリクエストに、差し出されたのはサトちゃん人形。彼女にとってこのキャラクターが持つ意味から、創作活動をするようになったきっかけ、現在の作品づくりのコンセプトまで話を聞いた。

同じものを並べた時に生まれる、“連続性”が好き

――愛用品がサトちゃん人形とは、驚きました。

吉岡美樹(以下、吉岡):そうですよね(笑)。出会いはもうだいぶ昔の子どもの頃。薬局の店頭にある遊具タイプのサトちゃんに、10円玉を入れて乗っていた記憶があります。サトちゃんとの距離が急激に近づいたのは、大学生の時。4年間、ドラッグストアでアルバイトをしていたんです。佐藤製薬の商品におまけでついてきたりするので、サトちゃんはいつも身近な存在でした。

――サトちゃんグッズを収集するようになったきっかけは?

吉岡:私がつくる映像作品では、キッチュでちょっと変わったモチーフを使うことが多く、それでよくオークションサイトで小道具を探したりします。その時に、ものすごいバリエーションのサトちゃんグッズが出回っていることにびっくりして。時計だったり、体重計だったり……、ありとあらゆる日用品にさせられているのを見て、改めて興味深いなって。それで、集めるようになりました。

――サトちゃんの魅力はなんですか?

吉岡:そもそも、象がオレンジ色っていうカラーリングが奇抜です(笑)。よく見ると、手足の先は緑色だし……。この攻めたキャラクターデザインに、一目置いております。

集めている中で一番多いのは、ソフビの指人形。全部で50個くらいあると思うんですが、製造された年代によって顔つきが違うんです。時代が進むにつれてだんだんと鼻が短く、全体的に丸みを帯びたフォルムに。私は第2世代の顔が好きで、それを中心に集めています。妹の“サトコちゃん”もいるんですけど、やっぱりサトちゃんのオレンジ色がお気に入りです。指人形以外にもぬいぐるみとか、珍しいものだとペンダントトップとか、気になるものがあると購入して、部屋のいろんなところに置いています。

――吉岡さんの作品でも活躍しているんですか?

吉岡:同じものがたくさん並んでいる、モチーフの連続性が好きなんです。作品でも、同じものをぎゅっと集結させて撮影したりすることが多くって。サトちゃんもたくさん並べて、写真を撮ったりします。作品に頻繁に登場するってわけではないんですけど、いうなれば私の作風とリンクする存在って感じですかね。

同じものを集めることが好きだという話でいうと、映画の半券もそう。高校生の頃から、観た映画をスクラップブックに貼って保管しているんです。同じ形式のものが並んでいる、このくり返し状態にぐっときます。

思い返してみると、小学生の時はゲームセンターにあった「オシャレ魔女♥ラブandベリー」のカードとか。シルバニアファミリーの人形もたくさん持っていました。そういう意味では、もの心ついた頃から収集に対するこだわりがあったのかもしれません。

シルバニアファミリーの人形で、コマ撮りに挑戦

――創作活動に興味をもったきっかけは?

吉岡:幼稚園の頃から、絵と工作の教室に通っていて。ものづくりはずっと好きでしたね。本格的に学ぶようになったのは、高校生の時。工業高校のデザイン学科に進学してからです。1、2年生ではレタリングやグラフィックなどの、デザインの基礎をひと通り勉強したんですが、そういう緻密なデザイン作業はあまり得意ではないと感じました。3年生の選択授業で映像のクラスがあって、そこから自主的にも映像作品を制作をするようになりました。

――映像制作の何が魅力だったんですか?

吉岡:私にとって映像は、割と勢いでつくれる印象だったんです。いわゆるデザイン作業は、細かい配置に気を配ることが多いというか、もう少し繊細な作業で。あまり楽しくできることではなかったですよね。

映像の中でも最初につくりたいと思ったのは、ストップモーション。好きなMVに影響を受けて、ひとりでシルバニアファミリーの人形を動かして撮影したりしていました。

最近は、純粋なストップモーション作品はあまりつくっていないんですが、どちらかというと“描いたイラストをストップモーション的に動かす“ものが多いです。

――なめらかな動きではなく、あえて解像度の低い動きをさせる?

吉岡:そうです。小学校3年生くらいからパソコンを使っていて、フラッシュゲームでよく遊んでいたんです。その頃のゲームの動きって、今よりもう少しカクカクしていたというか。そういう“解像度の低い映像”に愛着があって、だから最近メインで制作しているGIFの動きも好きなのかもしれません。

隅々までコントロールして動かせることが魅力

――作品づくりのアイデアはどこから?

吉岡:身近なものがテーマになることは多いですね。実家暮らしをしていた頃は、家族が作品に登場することもたびたびありました。2020年からは、もぐらちゃんという名前のゴールデンハムスターを飼っていたんですが、その時はもぐらちゃんがかじったトイレットペーパーの芯をモチーフに使ったり。今年亡くなっちゃったんですけどね。2歳8ヵ月だったので、人間でいえば100歳くらい。大往生でした。

ほかには、映画で得たインスピレーションが作品づくりに生きることも多いです。特に好きなのは1950年代から1970年代の日本の映画で、ずっと好きなのは増村保造監督です。本編ももちろんおもしろいんですが、クレジットの演出が気になったり。昔の日本映画は、クレジットが最初に流れることが多いんですけど、映像に合成したアニメーションの動かし方とか、増村作品は特にかっこいいものが多いです。

――映像作家として、映画をとりたいという願望は?

吉岡:映画は観る専門です。“自分がすべてをコントロールできる状態で作品づくりをしたい”っていうのが、自分のスタイルだと思っていて。映画の撮影だと、天候とか、人の動きとか、なかなか制御しきれない部分が多いですよね。もちろんそれが映画製作の醍醐味であるとは思うんですけど、私の趣向はちょっと違っていて。画面隅々のモチーフまで目配りして動かすほうが好きです。

――仕事道具へのこだわりはありますか?

吉岡:……あんまり考えたことないですね。イラストを描く時は、ペンタブよりマウスのほうが上手に描ける、ってことくらいですか。紙に描くこともありますけど、鉛筆とかスケッチブックに対するこだわりはあまりなくて。コピー用紙に描いて、それをスキャンするような感じです。

使う道具うんぬんっていうよりも、作品に登場させるモチーフに対するこだわりが強いかもしれないです。このモチーフは絶対に使いたい! とか、逆に、絶対に使いたくない! とか。自分の中に、確固たる判断基準がありますね。

――これから挑戦してみたいテーマは?

吉岡:ここのところのブームは、“異国感”。最近手掛けたミュージックビデオ、アマイワナの「上海逢引(Shanghai rendezvous)」では、タイトルのとおり上海がテーマで。リアルな上海っていうよりも、海外の人から見た“それっぽい”上海。もともとアメリカやヨーロッパよりも、アジアのちょっと湿度のある感じが好きなんです。あやしくて、どこか胡散臭いというか。そういう世界観の作品を、またつくってみたいですね。

Photography Shin Hamada
Text Maki Nakamura
Edit Kei Kimura(Mo-Green)

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