連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.11 映画監督・富田克也の“バイク”

富田克也
1972年山梨県生まれ。映画監督。映像制作集団「空族」の一員。処女作『雲の上』(2003)、『国道20号線』(2007)発表後、2011年の『サウダーヂ』で、ナント三大陸映画祭グランプリ、ロカルノ国際映画祭独立批評家連盟特別賞、高崎映画祭最優秀作品賞、毎日映画コンクール優秀作品賞&監督賞を受賞。その後、フランスでも公開された。以降もオムニバス作品『チェンライの娘 (『同じ星の下、それぞれの夜より』)』(2012年)、『バンコクナイツ』(2016年)、『典座-TENZO-』(2019)等を発表している。

独創的な視点と手法で商業ベースにとらわれない映画作りをしてきた映像制作集団「空族」。今回はその首謀者の1人である映画監督の富田克也に愛用品を紹介してもらった。持ってきてくれたのは、自分の生活、創作活動には欠かせないというバイク。富田監督スタイルにカスタムしたバイクのエピソードを思う存分話してもらった。

「釣りが目的だから山の中で走りやすいアウトドア仕様」

──富田監督の愛用品について教えてください。

富田克也(以下、富田):カブです、ホンダの。

──いつ頃買ったんですか?

富田:5年前くらい。でも、買ったんじゃなくて、もらったんです。俺は甲府でずっと育って、その後東京に出て、5年前に山梨に戻ってきた。再会した幼なじみはみんなバイクをいじってて、俺もバイクが好きなんで欲しいなと思ってたら、近所のおじいさんが「俺の乗らんである1台、おまんにやらあ」って話になって。その人、親父の同級生。今は釣り仲間で、いろいろ穴場を教えてもらってて。で、バイクもらって以来、今日も撮影場所を提供してくれた幼なじみの小坂武くんと一緒にエンジンをいじって、排気量をボアアップしたりして遊んでるんです。

──法律の範囲内で?

富田:もちろんもちろん! 正規にちゃんとナンバーも取ってやってるんで。

──カスタムの特徴は?

富田:釣りが目的だから、山の中で走りやすいようにタイヤをオフロード用に替えたり、荷台にケースつけたりとか、山仕様、アウトドア仕様です。それにパワーがないと山の中を走れないから、50ccから80ccにボアアップしたりとか。

──そもそもバイク歴は長いんですか?

富田:長いです。高校の時に免許を取ってから、バイクが好きでずっと乗ってるもんで。

──最初に乗ったのは何ですか?

富田:最初はスクーターでしたね。通学に使ってました。「ニュータクト」ってスクーターで、“ニュータク”と呼んでました。

──ヤンキーに人気のあるスクーターですね。

富田:そうそうそう! 不良が乗る、あれが最初で。その後、いろいろ乗り継いできました。

「オフロードバイクがメイン。ここら辺では通称『山っ駆け』」

──スポーツバイクにも乗ってました?

富田:いや、その頃はスポーツバイクは乗ってなくて、いわゆるネイキッドと呼ばれるバイクに乗ってました。で、50歳を過ぎてからスポーツバイクもいいなぁと思うようになって。

──中型は?

富田:乗ってました。400ccを2台くらい乗って、その後、ナナハン(750cc)乗って。今はバイク4台持ってます。カブとエイプ、TZR、この3台が50ccクラスで、もう1台は250ccのオフロードバイク。この辺では通称「山っ駆け」と呼ぶんですよ、オフロードバイクのことを。山の中を駆けるから「山っ駆け」。この言葉、こっちに戻ってきてから知ったんで、新鮮で気に入ってます。

東京でもバイクに乗ってたけど、田舎に住むことになったから、オンロードよりオフロードバイクがいいなと思って。250ccがメインで、カブは俺の中で一番道具っぽいイメージ。日常の移動手段であり、釣りで山の中に入っていく時に釣り道具を積んで運ぶための道具。

──釣りがあってのカブなんですね。

富田:やっぱカブが一番山の奥まで入っていける。オフロードの250ccだと、こっちの技術が追いつかなくて、もてあましちゃう。山の中に入るとパワーはあるけど車体も重いし、すっ転んで足でも下敷きになったら1人じゃ起こせないし。その点、心置きなく奥地に入っていけるのがカブ。自分のコントロール下に置いておけるって感じですかね。

──釣りをするのは湖ですか?

富田:おもに川、渓流、湖もです。この辺渓流だらけなんで。

──海、ありませんもんね。

富田:そう、海なし県なんで。

──渓流ではルアーですか?

富田:うん、ルアーもフライも。

──今頃ですと、湖ではわかさぎですか?

富田:あ、こないだ、わかさぎ釣りに行きました。河口湖で。昔と違って今のわかさぎ釣りって、でっかいビニールハウスが浮島として湖に浮いてるんですよ。そこまでボートで運んでもらって、暖房が効いた温かいところで釣るんです。

──今は湖が凍らないからですか?

富田:うん。昔はわかさぎ釣りというと、氷に穴開けてって感じでしたよね。昔はブラックバスもやってましたし。でも、海釣りはあんまり知識がなくて。冬になるとイカとか釣ってみたいと思って仲間と沼津のほうまで出張って、やってはみるものの3、4回行って、まだ1杯もイカが釣れたことないです(笑)。だいたい、海釣りなんかちゃんと始めちゃったら大変ですよ。1年中釣りしなきゃなんない。その点、渓流は禁漁期間があるから。3月から解禁、9月いっぱいで禁漁なんで釣りができるのは半年だけ。

「ホンダの名作。壊れても部品が山ほどある」

──話をバイクに戻しますけど……。

富田:そうだったそうだった!(笑)

──カブの魅力はどのあたりにあります?

富田:やっぱ、ギア付きのバイクが乗ってて一番楽しいし、カブは自分でギアチェンジしたいという欲望を満たしてくれる。スクーターだとギアがないから。それから、壊れないところもいいですね。とにかく頑丈なんで、転んでも壊れない。壊れたとしても、売上が1億台突破したほどの「ホンダ」の名作だから、古いバイクなんだけど部品が山ほどある。だから、未だに直し続けられるし。

──もともと機械いじりが好きなんですか?

富田:好きですね。釣りのリールをバラして、また組んでって。ギアとか、鉄と鉄がこすれ合って回るとか、好きなんでしょうね。空族の虎ちゃん(相澤虎之助/映画監督、脚本家)もバイク好きで、バイク屋で長いこと働いてたから、いじれるし、例え話は全部バイクに例えてくるから(笑)。

映画を撮るために東南アジアに行った時なんか、現地を走り回るにはバイクが一番いい。例えば、タイでカブは「ウェイブ」っていう名称なんですけど、レンタルバイク屋で必ずウェイブを借りるんです。「クリック」っていうオートマスクーターもあるんですけどギアなしだからそっちは借りない。だからいつも東南アジア行くとウェイブで走り回ってます。

──映画『バンコクナイツ』の世界ですね。

富田:そうそうそう!

──『バンコクナイツ』の発想もバイク好きというところから始まったんですか?

富田:まぁ俺達映画を作るのにバイクで走り回るところから始まりますからね。自分達で映画を作る時に1つ決まり事があって、それはバイク走行シーンを必ず入れること、それをやらないと、映画を撮った気がしない(笑)。

──『バンコクナイツ』では運転もみずからしたんですか?

富田:もちろんしました。昔は車のフロントガラスに飛び込んだこともありますよ。スタントなんか雇えないから、人が車に轢かれるシーンを撮るために、フロントガラスに突っ込んで。フロントガラスがビシッ!と割れる。ムチ打ちで3日くらい動けなくなりましたよ。

「バイクはロマンの乗り物だから」

──車には乗るんですか?

富田:レガシーBP5に乗ってます。この武くんからもらって。以前は車に関してはこだわりがなかったんだけど、レガシーに乗るうち、うわっ、この車はおもしろいと気付いてしまって。そこから車も好きになっちゃった。

──バイクと車、乗る頻度は半々くらいですか?

富田:そうですね、半々くらいですかね。車は日常の移動手段だけど、バイクは乗るために乗るというか、趣味ですね。ツーリングみたいに乗りたいからどこか出かけるって感じになりがちですね。

──最近、ツーリングしてるの中高年ばかりですよね。

富田:ですよね、だって若い人、バイク乗らないし。

──大型車は今じゃおじいさんの乗り物になっちゃいましたし。

富田:やっぱ、そうなりますよ。バイクはロマンの乗り物ですからね……。

──今回の取材で愛用品を選ぶ際、他にも候補はありましたか?

富田:釣り道具かバイクか考えました。最初は愛用品、何がいいかな、なんかかっこいいのねえかなって考えて。ほら、万年筆とかだと頭良さそうじゃないですか(笑)。しかし、しかし釣りとバイクって! もはや完全なるただのおっさん……。

──バイクで助かりました。作品とも結びつくんで。

富田:そんなこともあるかと思って、バイクにしました。

──釣りだと映画と結びつきませんからね。

富田:いや、それが、実は次回作と結びつくんですよ。釣りを1つの題材として取り上げようと考えてて。釣りをしている人間を描くつもりで、釣り仲間の田我流にそういう役をやってもらおうと進めてて。以前撮った「サウダーヂ」の続編にあたる映画として考えてるんですけど。虎ちゃんも釣りが好きだしね(笑)。釣りのこと、きちんと描いてる映画みたことないし。コロナの期間、俺等釣りしかすることがなくて。それは俺らに限らず、みんな自然のほうに行けば大丈夫だろうってことで、釣りとかアウトドアがすごい人気になりましたよね。それでいろいろ思うところがありまして、次回作は釣りも1つのテーマに入れようかなって。

Photography Kenji Nakata
Text Takashi Shinkawa
Edit Kei Kimura(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

この記事を共有