連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.9  映像作家・吉岡美樹の“サトちゃん人形”

どこかレトロなモチーフが、ポップに動くアニメーション。その独特な感性で人気を集め、ミュージックビデオやさまざまなブランドのビジュアル制作で活躍する、映像作家の吉岡美樹。仕事の愛用品を見せてくださいというリクエストに、差し出されたのはサトちゃん人形。彼女にとってこのキャラクターが持つ意味から、創作活動をするようになったきっかけ、現在の作品づくりのコンセプトまで話を聞いた。

同じものを並べた時に生まれる、“連続性”が好き

――愛用品がサトちゃん人形とは、驚きました。

吉岡美樹(以下、吉岡):そうですよね(笑)。出会いはもうだいぶ昔の子どもの頃。薬局の店頭にある遊具タイプのサトちゃんに、10円玉を入れて乗っていた記憶があります。サトちゃんとの距離が急激に近づいたのは、大学生の時。4年間、ドラッグストアでアルバイトをしていたんです。佐藤製薬の商品におまけでついてきたりするので、サトちゃんはいつも身近な存在でした。

――サトちゃんグッズを収集するようになったきっかけは?

吉岡:私がつくる映像作品では、キッチュでちょっと変わったモチーフを使うことが多く、それでよくオークションサイトで小道具を探したりします。その時に、ものすごいバリエーションのサトちゃんグッズが出回っていることにびっくりして。時計だったり、体重計だったり……、ありとあらゆる日用品にさせられているのを見て、改めて興味深いなって。それで、集めるようになりました。

――サトちゃんの魅力はなんですか?

吉岡:そもそも、象がオレンジ色っていうカラーリングが奇抜です(笑)。よく見ると、手足の先は緑色だし……。この攻めたキャラクターデザインに、一目置いております。

集めている中で一番多いのは、ソフビの指人形。全部で50個くらいあると思うんですが、製造された年代によって顔つきが違うんです。時代が進むにつれてだんだんと鼻が短く、全体的に丸みを帯びたフォルムに。私は第2世代の顔が好きで、それを中心に集めています。妹の“サトコちゃん”もいるんですけど、やっぱりサトちゃんのオレンジ色がお気に入りです。指人形以外にもぬいぐるみとか、珍しいものだとペンダントトップとか、気になるものがあると購入して、部屋のいろんなところに置いています。

――吉岡さんの作品でも活躍しているんですか?

吉岡:同じものがたくさん並んでいる、モチーフの連続性が好きなんです。作品でも、同じものをぎゅっと集結させて撮影したりすることが多くって。サトちゃんもたくさん並べて、写真を撮ったりします。作品に頻繁に登場するってわけではないんですけど、いうなれば私の作風とリンクする存在って感じですかね。

同じものを集めることが好きだという話でいうと、映画の半券もそう。高校生の頃から、観た映画をスクラップブックに貼って保管しているんです。同じ形式のものが並んでいる、このくり返し状態にぐっときます。

思い返してみると、小学生の時はゲームセンターにあった「オシャレ魔女♥ラブandベリー」のカードとか。シルバニアファミリーの人形もたくさん持っていました。そういう意味では、もの心ついた頃から収集に対するこだわりがあったのかもしれません。

シルバニアファミリーの人形で、コマ撮りに挑戦

――創作活動に興味をもったきっかけは?

吉岡:幼稚園の頃から、絵と工作の教室に通っていて。ものづくりはずっと好きでしたね。本格的に学ぶようになったのは、高校生の時。工業高校のデザイン学科に進学してからです。1、2年生ではレタリングやグラフィックなどの、デザインの基礎をひと通り勉強したんですが、そういう緻密なデザイン作業はあまり得意ではないと感じました。3年生の選択授業で映像のクラスがあって、そこから自主的にも映像作品を制作をするようになりました。

――映像制作の何が魅力だったんですか?

吉岡:私にとって映像は、割と勢いでつくれる印象だったんです。いわゆるデザイン作業は、細かい配置に気を配ることが多いというか、もう少し繊細な作業で。あまり楽しくできることではなかったですよね。

映像の中でも最初につくりたいと思ったのは、ストップモーション。好きなMVに影響を受けて、ひとりでシルバニアファミリーの人形を動かして撮影したりしていました。

最近は、純粋なストップモーション作品はあまりつくっていないんですが、どちらかというと“描いたイラストをストップモーション的に動かす“ものが多いです。

――なめらかな動きではなく、あえて解像度の低い動きをさせる?

吉岡:そうです。小学校3年生くらいからパソコンを使っていて、フラッシュゲームでよく遊んでいたんです。その頃のゲームの動きって、今よりもう少しカクカクしていたというか。そういう“解像度の低い映像”に愛着があって、だから最近メインで制作しているGIFの動きも好きなのかもしれません。

隅々までコントロールして動かせることが魅力

――作品づくりのアイデアはどこから?

吉岡:身近なものがテーマになることは多いですね。実家暮らしをしていた頃は、家族が作品に登場することもたびたびありました。2020年からは、もぐらちゃんという名前のゴールデンハムスターを飼っていたんですが、その時はもぐらちゃんがかじったトイレットペーパーの芯をモチーフに使ったり。今年亡くなっちゃったんですけどね。2歳8ヵ月だったので、人間でいえば100歳くらい。大往生でした。

ほかには、映画で得たインスピレーションが作品づくりに生きることも多いです。特に好きなのは1950年代から1970年代の日本の映画で、ずっと好きなのは増村保造監督です。本編ももちろんおもしろいんですが、クレジットの演出が気になったり。昔の日本映画は、クレジットが最初に流れることが多いんですけど、映像に合成したアニメーションの動かし方とか、増村作品は特にかっこいいものが多いです。

――映像作家として、映画をとりたいという願望は?

吉岡:映画は観る専門です。“自分がすべてをコントロールできる状態で作品づくりをしたい”っていうのが、自分のスタイルだと思っていて。映画の撮影だと、天候とか、人の動きとか、なかなか制御しきれない部分が多いですよね。もちろんそれが映画製作の醍醐味であるとは思うんですけど、私の趣向はちょっと違っていて。画面隅々のモチーフまで目配りして動かすほうが好きです。

――仕事道具へのこだわりはありますか?

吉岡:……あんまり考えたことないですね。イラストを描く時は、ペンタブよりマウスのほうが上手に描ける、ってことくらいですか。紙に描くこともありますけど、鉛筆とかスケッチブックに対するこだわりはあまりなくて。コピー用紙に描いて、それをスキャンするような感じです。

使う道具うんぬんっていうよりも、作品に登場させるモチーフに対するこだわりが強いかもしれないです。このモチーフは絶対に使いたい! とか、逆に、絶対に使いたくない! とか。自分の中に、確固たる判断基準がありますね。

――これから挑戦してみたいテーマは?

吉岡:ここのところのブームは、“異国感”。最近手掛けたミュージックビデオ、アマイワナの「上海逢引(Shanghai rendezvous)」では、タイトルのとおり上海がテーマで。リアルな上海っていうよりも、海外の人から見た“それっぽい”上海。もともとアメリカやヨーロッパよりも、アジアのちょっと湿度のある感じが好きなんです。あやしくて、どこか胡散臭いというか。そういう世界観の作品を、またつくってみたいですね。

Photography Shin Hamada
Text Maki Nakamura
Edit Kei Kimura(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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