上出遼平 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/上出遼平/ Wed, 01 Nov 2023 10:33:09 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 上出遼平 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/上出遼平/ 32 32 映像ディレクター・上出遼平がTBSラジオでPodcast 番組『上出遼平 NY 御馳走帖』を11月8日からスタート 1人語るドキュメンタリー番組 https://tokion.jp/2023/11/01/tbs-radio-ryohei-kamide/ Wed, 01 Nov 2023 10:45:00 +0000 https://tokion.jp/?p=214911 ニューヨークの街の音を感じながら、上出が何をしているのか、日々何を考えているのか、1人語るドキュメンタリー番組。

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TBSラジオは、11月8日から映像ディレクター・上出遼平のPodcast番組『上出遼平 NY 御馳走帖(ニューヨーク ごちそうちょう)』を配信する。配信は毎週水曜日18時頃を予定している。

ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』をはじめ、数々の話題作を世に出してきた上出遼平は、2023年9月に東京からニューヨークへ居を移した。本番組は、慣れない土地で忙しい日々を送る上出が、一息ついて“飯を食う”瞬間を録音し、街ですれ違う人々の声、騒々しい車のクラクションなど、ニューヨークの街の音を感じながら、上出が何をしているのか、日々何を考えているのか、1人語るドキュメンタリー番組となっている。

同番組はApple Podcast、Amazon Music、Spotify、Google Podcast など、各種 Podcast サービスで聞くことができる。

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「摩擦を恐れている人達が作る映像には心を動かされない」 映像ディレクター・上出遼平インタビュー後編 https://tokion.jp/2023/07/10/interview-ryohei-kamide-part2/ Mon, 10 Jul 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=196808 映像ディレクター上出遼平インタビュー。後編ではテレビ業界のコンプライアンス、自主規制、そして将来について語ってもらった。

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上出遼平

上出遼平(かみで・りょうへい)
1989年東京都生まれ。ディレクター、作家。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはPodcast、書籍、漫画と多展開。文芸誌「群像」(講談社)にて小説『歩山録(ぶざんろく)』を連載。
Twitter:@HYPERHARDBOILED
Instagram:@kamide_

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』などを手掛け、その挑戦的な番組作りが話題となった映像ディレクターの上出遼平。インタビュー後編ではテレビ業界のコンプライアンス、自主規制、そして将来について語ってもらった。

前編はこちら

理由なき自主規制

——昨年末に「TOKION」の「2022年の私的ベストブックス」という企画で、本を3冊選んでもらいましが、死にまつわるものが多くて。そこへの興味というか関心は高いですか?

上出:非常にありますね。それは藤原新也さんの『メメント・モリ』という写真集の影響が大きくて、それを見て、「どうやって生きようとしてるんだお前は」っていうことを学生時代に突きつけられた。それがずっと僕の中にこびりついていて。すぐそこに死があるんだっていうことをどれだけ意識できるかっていうのは、生きる上ですごく大事なことなんじゃないかなと思っています。

そういう意味で、死っていうものを人に見せる、思い起こさせる、そうしたもの作りはしたいことの1つ。僕自身も「そこに死があること」を忘れてしまうこともあるので、思い起こさせてくれるものに触れたいと思っています。

——2021年1月に放送された『家、ついて行ってイイですか?特別編』のイノマー(オナニーマシーンのボーカル)さんの放送はかなり話題になりました。

上出:最初は『家、ついて行ってイイですか?』で流すなんて思ってなくて。偶然が偶然を呼んで、あの枠で放送できたんですけど。もともとマネージャーさんから「末期癌になったから日々を撮ってくれ」と言われて、なんでなんだと思いながら撮ってたんです。それはすごくつらかった。本当に行きたくないなと思うこともありました。やっぱり苦しんでいる人にカメラ向けるって、撮っているほうもめっちゃしんどくて。「なんでこんなことしてんだろう」と思いながら、でも始めちゃったからには途中で抜けるわけにいかないっていう。最後まで撮ろうと決めて。当時僕も会社に居場所があまりなくて、撮影だけでなく、僕を必要としてくれることが増えていって、病室になんとなく自分の居場所が移っていった。

でも、本当に心臓が止まる瞬間まで撮るかどうかっていうのを最後まで迷ってたんですけど、どこかで腹をくくってた気はします。ここまで撮って、最後を撮らないのはないだろうっていうのがありましたし。

——ゴールデンの時間帯で人が死ぬ瞬間が流れるっていうのは、ほぼ前例がないんじゃないですか。

上出:ほとんどないんだと思いますけど、なんでそれがダメなのかっていうことを説明できる人っていないんですよね。もっと映しちゃいけないものを映してるような気がしますよ。でも放送しても結局クレームも来ないし、むしろあの番組を観たことで人生が変わったと言ってくれる人もいるわけだし。死にまつわるものじゃなくても、そうした挑戦をみんながしてくれたらいいなとも思っています。

なんとなくみんながダメだと思ってることに対して、本当にダメなんですかっていうことをちゃんと一生懸命投げかけていく人がいないとテレビはつまんなくなっちゃう。「これはなんとなくダメそうだな」みたいな、自主規制がどんどん増えていってしまう。

でも、昨今よく言われる「コンプラが厳しくなった」っていう感じでもないんです。コンプライアンスっていう定義をどうするのかっていうことも関わってくると思いますけどね。明文化されたルールがあるわけじゃないし。ただもちろんテレビが50年以上放送を続けていく中で、たくさんの失敗の蓄積があって、こういうことをやってはいけないと。例えば差別的な言葉を使ったらいけないとかっていうのは、これまでテレビが人を傷つけてきた失敗の歴史から学んだことであって、その蓄積に対して「コンプラが厳しくなってきた」っていうのは、ただの歴史軽視であって、ナンセンスだと思うんです。だから、そういう意味ではコンプラが厳しくなっていくというのは成長の証であって、むしろ今のテレビが最も大切にすべきことなんじゃないかと思うんですよね。それがYouTuberとの違いでもあるんで。

ただ一方でその“コンプライアンス”って言われているものの中に、さっき言った理由なき自主規制というのもあるわけです。それがなんのための規制なのかといえば、決して視聴者や社会のためではなくて、事務所やスポンサーのためとかっていうのがたくさん生まれてきてしまってるわけです。あるいは対社内っていう最もナンセンスな、これをやったら上の人に怒られるかもしれないみたいな自主規制、そういうものをこそ壊さないといけないんですけど。そういうものを壊すのは難しいんですよね、やっぱり組織が大きくなればなるほど、そこら中にハードルがあるので。でもテレ東は伊藤(隆行)さんが変えてくれるんじゃないですか。だって摩擦を恐れている人達が作るエンターテイメントに誰が心を動かされるんだ?って思いませんか。

『ラピュタ』からの影響

——テレビの未来について考えることはありますか?

上出:現状では僕が「こうあってほしい」というふうにはなっていってないですね。だけど、若くて、おもしろいやつらが、テレビをおもしろがって入ってきてくれることが何より大事だと思いますし、あとはそれを選ぶ人達が自分達の常識をどれだけ壊せるかっていうのも本当に重要だと思います。

——今の世の中的なあり方でいうと清廉潔白な正しさが求められますよね?

上出:正しさに明確な線が引かれていると思うことが、何より危ないこと。その善悪の境界が曖昧であるっていうことを理解することがまず必要だと思います。これが正義だっていうことを掲げれば掲げるほど危ないところにいってるなと思います。

——大きな話になってしまいますが、今後世の中ってどうなっていくと思いますか。

上出:少なくとも今は不寛容さが増してますよね。みんなが不寛容になっていって、このままいけばどこかで自分達の首を絞めているっていうことに気づき、逆の風が吹いて寛容であろうという流れが生まれるんじゃないでしょうか。すると今度はその寛容さに対して反対の動きが出てきたり。寛容と不寛容の間を行ったり来たりするんじゃないかな、と思います。

——AIに関してはどう見ていますか?

上出:もちろんAI怖い、嫌いとは全く思ってなくて、使えるところは使いたいです。でも、正直わかんないですね。だって、これは人間にしかできないだろうっていうものがことごとく壊されていくわけですよね。でもAIは土を作れないですもんね。結局土と触れて土を生かすみたいなことが、やっぱ生命のすべてだと思っています。行き着くところ土、あるいは炎じゃないですか。

土に触れ、土を生かし、土と共に生きるというのが、人間に残された道なのかな。宮崎駿みたいになっちゃいました。でも、『ラピュタ』でもそれに近いことを言ってましたしね。

——『ラピュタ』から影響を受けたと以前のインタビューで言ってましたね。

上出:本当に最近気づいたんですけど、僕が大きく影響を受けたのは『ラピュタ』だったんです。最近また『ラピュタ』を観たんですけど、「土から離れたのが運のつき」みたいなことを言ってるんですよね。まさにそうだよなって改めて思ったんです。

「ものを作っておもしろかったと言われるのが一番嬉しい」

——ちなみに映像の方の『ハイパー』って今後はどうなるんですか?

上出:テレ東がやるか、やらないかですね。多分もうやらないと思いますけど。

——もしオファーが来たらやりますか?

上出:来たらやると思いますけど。『ハイパー』は大変なんですよ。あれは本当に嘘がないので、危険な時は本当に危険。現場はすごい緊張感です。制作が始まるってなったら、本当にこの場所にロケに行っていいのか、他のスタッフに関しても行かせていいのかとか、本当に緊張するし、ずっともう心の負担です。

そうした安全面もそうだし。扱う題材が常にセンシティブなので、それをどう扱うかっていうことがものすごく難しいんですよね。どの方面から見ても。この扱い方でいいのかとか、普通の番組よりちゃんとクリアにしなきゃいけないことが何十倍もあるんです。

——しかもいざやるとなったら、期待値も高いから大変そうですよね。

上出:それもきついですよね。事故る可能性ありますから。「おもしろくしなきゃ」っていうのは火事場の馬鹿力みたいな時もありますけど、リスクを増幅したりもするので。そこは慎重にやらないといけないですね。

——最後に将来、どうしたいとかは考えてますか?

上出:将来的にどうなりたいのかっていうイメージはないですね。楽しく旅してものを作って、どっかで死ねたらいいなとは思ってます。正直、明日のこともわからないし。ものを作っておもしろかったと言われていたいなと思いますね。それが一番嬉しい瞬間でもあります。先ほども言いましたけど、いっぱいお金稼いでいい暮らしをしていたいっていう思いは全くなくて。そこで得られる喜びがたいしたことないっていうのはもうわかってしまってるというか、いろんな人と会ってるし、自分の経験上、お金をたくさんかけて得られる喜びって、自分にたくさん負荷をかけた先に得られる喜びの100分の1ぐらいなんで。リゾート地に行くより山奥に行ったほうが100倍楽しいし、どっちに行った人間の話聞きたいかって言ったら絶対山奥に行ったやつの話を聞きたいじゃないですか。だから、そうやって人に興味を持ってもらえる人間にはなりたいですね。

Photography Hironori Sakunaga

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映像ディレクター・上出遼平が大切にする2つのこと——「何をやるかよりも何をやらないか」「常に部外者であること」 インタビュー前編 https://tokion.jp/2023/07/07/interview-ryohei-kamide-part1/ Fri, 07 Jul 2023 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=196794 映像ディレクター・上出遼平インタビュー。前編では退社からの1年を振り返りつつ、ニューヨークに拠点を移す理由なども語ってもらった。

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上出遼平

上出遼平(かみで・りょうへい)
1989年東京都生まれ。ディレクター、作家。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはPodcast、書籍、漫画と多展開。文芸誌「群像」(講談社)にて小説『歩山録(ぶざんろく)』を連載。
Twitter:@HYPERHARDBOILED
Instagram:@kamide_

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』などを手掛け、その挑戦的な番組作りが話題となった映像ディレクターの上出遼平がテレビ東京を退社して1年が経った。テレビの地上波という枠で何ができるか、を追求してきた上出はなぜテレビ東京を退社したのか。そしてなぜニューヨークに拠点を移すのか。退社からの1年を振り返りつつ、今のテレビ業界への思い、そして将来について語ってもらった。

さらなる成長を求めて退社

——上出さんがテレビ東京を辞めて1年が経ちました。これまで何度か取材させてもらって、上出さんは「テレビの地上波という枠でどう新しいことをやっていくか」ということに挑戦していたので、テレビ東京を辞めたのは意外でした。改めて辞めた理由を教えていただけますか。

上出遼平(以下、上出):いろんな理由はあったんですけどね。テレビの地上波っていうプラットフォームでできることはまだたくさんあったと思いますし、この時代だからこそ、地上波でやりたいと思えることもそれはそれであったりもしたんです。そこは他の動画プラットフォームよりはよっぽどブルーオーシャンだっていうのは未だに思っているところがありますから、それを手放すっていう名残惜しさはすごくありました。

でも、逆に言うと僕を引き留めようとしていたのはそれだけだったんです。やっぱり自分の成長速度を考えた時に、入社して1年、2年、3年ってずっと自分の中で新しいものを手に入れていくじゃないですか。でも10年経つとやっぱり成長のスピードも落ちてくるし。会社員だったので、環境的な面でもいろいろ制限があって。本当はもっといろいろ挑戦できるんじゃないかと思ったのが自分の中では大きかったですね。

——『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)の音声版や『蓋』など、テレビ東京にいても、いろいろ挑戦しているなというイメージでした。もっとやりたいことがあったんですね。

上出:映像だけでなく、文章を書きたいというのもあったんですけど、文章を書くためにどこかに行くとかは時間的にやっぱりできなくて。『ハイパー』の書籍のように何か番組の副産物としての文章は許されるんですけど。

あとは本当に会社員って無駄なことが多くて。それがもう正直耐えられなくなったっていうのはあります。例えば1つ取材を受けるためには、僕に直接連絡がきたものでも、広報部に話を通してもらって、スケジュールを調整して、原稿もいろんな人がチェックする。これはあくまで一例ですけど、組織なので、そういうことがいっぱいあるんです。それによって、自分の作業効率も落ちているなと感じてましたし、自分がこれをやりたいって言った時にダメだって言われる理由がもう理由になってないっていうことがたくさんあって。「サラリーマンだから、そこは察してよ」みたいな。その壁に何度もぶつかってしまったんで、ちょっとものを作る環境としていかがなものかっていうのが、どんどん僕の中でたまっていって。

もちろんみんな余裕がないし、目の前でぱっと金になる番組の作り方っていうのはたくさん存在するので、そっちにいってしまうというか、お金をどう稼ぐかでもがいてる部分があるので、何か本当に新しい試みをするっていう土壌には最近なり得なくなっている。「新しいことをやれ」とはいうものの、やろうとすると、「前例がないからダメだ」って言われたり。どうしてもそういうふうにコンサバティブになっていくと、失敗が怖くなって新しいことができないっていう、悪い循環に入ってしまう。それはテレ東だけでなく、多くのテレビ局がそうなってるんじゃないかなと思いますけど。

——それでもテレビ東京だと大森(時生)さんとか、おもしろいことをやっているなと感じますけど。

上出:もちろんテレビ局が完全にダメですっていうわけでは全くないですよ。テレビ東京にも、もちろんチャレンジングなことができる余地はたくさん残っていると思います。若手達が企画出して局内で何か選ぶみたいな、若手グランプリみたいなものも、ようやく始まりましたし。そういうのは僕が『ハイパー』をやり出した頃の雰囲気に近いかもしれないです。だから今はどんどん面白いことをやっていこうという雰囲気なのかもしれないです。それこそ、テレビ東京は伊藤(隆行)さんが制作局長になったので、僕はかなり期待しています。

お金を稼ぐことが目的ではない

——佐久間(宣行)さんは辞めてもテレビ東京の仕事を続けたり、高橋(弘樹)さんは辞めてすぐにサイバーエージェントに入りました。2人はある程度、収入源を確保して辞めましたが、上出さんは考えてなかったですか。

上出:全く考えてなかったですね。一応、辞めてから「一緒にやりませんか」って声をかけてくれる会社もあったんですけど、自分がやりたいと思うこと、やらないといけないなと思うこととフィットさせることができず、結局やりませんでした。安定的にお金をもらえることはとてもありがたいですが、それで納得いかないものを作るのは自分的にはちょっと違う。経済的な安定があるからこそチャレンジングなもの作りができるっていうことも間違いなくあるんですけど、ただその安定を得るために犠牲にするものがすごく大きいということがなんとなくわかってきて。僕はタワマンに住みたいとは1ミリも思ってないですし、最低限のお金をちゃんと稼ぎながら、自分が納得いくもの作りを粛々として生きていくっていうことが今の最優先事項なんです。

10年ぐらいテレビの仕事をしてきて、いろんな人のいろんな振る舞いを見てきて、とにかく「何をやらないか」っていうことが大事なんだなっていうことがモットーというか指針としてあるんですよね。

——「何をやりたいか」ではなく「何をやらないか」だと?

上出:「やろう」と思ったら選択肢はいくらでもあるんですよ。でも、結構誘惑が多い世界なんで、長い目で見て、自分を保てるようにするには「何をやらずにいるか」っていうことがすごく大事だなと思っています。

——今、上出さんが作りたいものって、どういったものですか?

上出:内容的にはいろいろあるんですけど、作っていて自分がワクワクすることをやりたいなと思っています。あと、当然ですけど、やってよかったってちゃんと思えるものを作りたい。内容ももちろんですが、制作するチームの中に不幸な人を出したくないっていうのは、僕にとってはすごく大きな部分で。それは金銭的な部分でもなんですけど。テレビの今までの構造だと全くそうなってないので。

——ものを作る時に、社会的な意義も考えますか?

上出:それはもちろんあります。でも、それは後付けでどうにでもなるといえば、なるんですよね。なんにも考えずにとにかく笑えるっていう番組だって十分社会的な意義があるし。ただチャレンジングじゃないものをやるつもりは一切ないです。今までの焼き直しとか復活みたいな感じとか。個人的には「またそれか」って思われるのが一番つらい。やるなら構造から新しいものを作るとか、作り手として「その手があったか」って思わせたいんです。

ただそれをやろうとすると、本当にプラットフォーマー側から理解されないんですよ。「どういうことですか」とか、「ちょっとうちの視聴者にとってはそれは難しいかもしれません」とかすぐ言われる。その時点でもうやる気がなくなっちゃって。いや全然視聴者のこと信じてないなって、めちゃくちゃ思うことも多いです。

「ぱっと作ってぱっと出せるものはやらない」

——テレビ東京で最後に担当したのは『空気階段の料理天国』ですか? 

上出:そうですね。企画までしか関われてないんですけど。

——あれも一見すると空気階段の料理番組なんですが、実はそこで作られているのが、死刑囚の最後の飯だったっていう。

上出:死刑が執行された後に冤罪だってことが明らかになってしまった人とか、あと幼い頃からずっと虐待され続けて、最終的に親を殺してしまった人とか。死刑になるっていう中にもいろんなバックグラウンドがあるわけですよ。だから『ハイパー』をやってた時からずっと考えは一緒なんですけど、罪を犯す人もただ真っ黒ってわけじゃないですよねっていうこと。親殺しの死刑囚って言われたら、普通に考えたら絶対悪じゃないですか。でも必ずしもそうじゃないかもしれないっていう。親を殺したという事実はあっても、そこに至るまでの経緯に想像もつかないようなことがたくさんあるということは知ってほしいという気持ちが込められています。

——一旦テレビ業界から離れて、テレビ業界の印象って変わりましたか?

上出:全然変わらないですよ。「テレビやりたい!」って感じでも別にないですし。テレ東を辞める段階でテレビをやるという考えは一旦捨てたというか、テレビを続けたいなら辞めないっていう選択だったんで。

なので基本はテレビはやらないんです。とは言いつつ、今いろいろとやり始めちゃってますけどね。この前も中京テレビの『オモウマい店』の若手達がやる『こどもディレクター』っていう番組を手伝ったりしていて。一緒にやってみると、やっぱり地方局はチャレンジャーっていう感じで、昔のテレ東に近い雰囲気です。どっかでやってやるぞっていう気概があって。そこに乗っかるのはすごくワクワクしますよね。

——テレ東を辞めてから、もっとどんどん映像を作っていくのかと思ったら、そうでもないですよね。

上出:YouTubeやりますとかじゃないんでね。クオリティよりも、いっぱい数を作らないといけないみたいなのはやりたくないですし。テレビでも毎週放送とかが嫌だったのに、YouTubeなんてやったらもう逆じゃないですかね。もう毎日配信とかなので。絶対やだな(笑)。

一応、他にも進めている話はあったりするんですけど、まだ言えなくて。僕、辞めたら何やってんのって言われがちなんですけど、ぱっと作ってぱっと出せるものはやらないって決めていて。ちゃんと時間かけてものを作りたいから会社辞めたんで。だから「これやってます」って言えることはあんまりないんですよ。

常に部外者でありたい

——それでも辞めてからはセレクトショップ「グレイト(GR8)」の久保さんとお仕事されてましたよね。上出さんとファッションが意外な組み合わせだったんですけど、あれはどういうきっかけだったですか?

上出:アーティストの河村康輔さんの紹介ですね。ちょうど河村さんがLAで個展をやるタイミングがあって、そこで紹介していただいて。河村さんはChim↑Pomからの紹介で……っていうように、どんどんつながって。

——ファッションブランド「サカイ(sacai)」の仕事もやられてますよね。

上出:「サカイ」もいろんな人とのつながりで、やることになって。なんかそういう意味でもちょっと僕がいるコミュニティってテレビマン的じゃないんです。もともとアートやファッションの友人が多かったので、辞めてすぐテレビやりましょうっていうよりも、そういう世界のものが多いというか。選択肢的に今までやってないものをせっかくだからやろうっていうのもあったんで、「グレイト」や「サカイ」の映像をやらせてもらっています。

やっぱりファッションの持つ力ってすごく大きいじゃないですか。衣食住の衣ですからね。ファッションの力を借りながら、僕が伝えたいことを表現したり、あるいは僕が異物としてその業界に入り込んだりすることによって、今までになかった部分が活性化するといいなとは考えています。

そう考えると、常に僕は部外者なんですよね。『ハイパー』もそうでしたけど、ずっと自分がどう部外者として存在できるかみたいなことが、僕の存在意義としては大事で、だから、常に部外者でありたいと思っています。自分がホームにいると安心感はあるけど、それを求めてはいなくて。僕にとっても自分が部外者としてどこかにアクセスしていくことのほうがおもしろいし、刺激があって自分の成長にもなる。おそらく、そのコミュニティにとってもストレスはあると思うんですけど。でもそのストレスが次の何かきっかけになる可能性があって、それが今はすごく楽しい。

業界って常になあなあになっていく宿命にあるんで、それをちょいちょいかき回していくみたいな役割を担ってると勝手に思ってます。超つらいですけどね。自分の得意分野じゃないっていうことが多いし、その世界では自分が一番腕がないとかっていうこともあるのでめちゃくちゃストレスフル。泣きそうになる時もあります。

ニューヨークに行く理由

——今度ニューヨークに行く理由もそれと関係しているんですか?

上出:そうですね。最も部外者になれるところに行きたいっていう感覚です。旅と同じというか、安心感がほしい人は旅しないわけじゃないですか。安心できない環境に自分を置いて、自分に何が起こるのかっていうのを楽しみたいんです。それに、そこに拠点を構えるっていうのは、より一層自分の変化が期待できる。今は東京を拠点にいろんな旅をしてるんですけど、ニューヨークにも拠点を持つという感じで。どうせいろんな場所に行くと思うので、帰る場所がちょっと変わるだけみたいな感覚です。ただ向こうのコストが高すぎるんで貯金がなくなって、すっからかんで日本に帰ってくるっていう将来も見えてますけどね。

あと、日本だと映像でお金が稼げなさすぎる問題があるんです。マーケットを外に広げないといけないなとは思っていて。海外のものは入ってくるけど、日本の映像のマーケットは国内にしかないみたいな状況に甘んじていて、そこを本気で打破しようとしてる人って実はあまりいないんですよね。本気でやろうとしたら、やっぱり身を切らないといけないし、自分の持ってる常識も壊さないといけないとか、いろんな犠牲を払わないといけない。映像作りをベースにする僕みたいな人間が向こうに行っていろいろ学ぶっていうのは何かのきっかけになるかなと思いますけど。

——それこそアニメだと世界に通用する可能性はあると思います。

上出:2次元ならそうですね。3DCGだとかなり難しいと思います。日本のアニメの何が強かったかっていうとまずはアイデアなんですよね。日本がまだ勝てるってそのアイデアの部分が大きくて、でもそれをアウトプットするパワーも今の日本にはなくて。世界に通用し得るソフトのアイデアはたくさんあるはずなんですけど、それをどうちゃんと世界基準にアウトプットするかっていう時に、すごく地味ですけど英語力の問題っていうのが大きな課題になってる気がします。

——Netflixなどで日本オリジナルの番組が世界でも観られるっていうことがありますが、そこは可能性を感じますか?

上出:どうなんでしょう。もちろん可能性という意味では大きいと思います。けれど結局はクオリティです。番組の着想、ギミック、映像表現の良否、最低限の倫理水準などの要件をクリアした上で、人間の根幹の何かが描かれる作品が作られれば、言語の壁も越えて世界で受け入れられると思います。こういう話をした時に、「なんでわざわざ世界で受け入れられなきゃいけないんだ。日本国内で認められれば十分じゃないのか。そんなに世界が好きなのか?」と言われたりするのですが、それはちょっと違って。もちろん、日本国内の需要だけで回っていけばいいのですが、もはやそうじゃないということが問題なんです。外国からはどんどんおもしろいものが流入してくる。日本は人口がみるみる減っている上に、外国産の映像を消費しますから日本の映像制作産業は加速度的に客を失っている。

そうなると、日本の映像製作者達は、外国の製作者の下請けになっていかざるを得ない。世界を見た時に、すでに日本はそうなってきています。賃金の安い工場として見られているんです。我々は「設計図通りに作ってください」と言われて、安く、間違いなく、迅速に制作物を納品する。

僕はその状況を良いとは思っていないので、1回日本を出ようと思っているんです。その意味では、「日本は素晴らしい」と言う以上に愛国的な振る舞いだと思っています。

——ちなみに上出さんは結構英語は話せるんですか?

上出:それがあんまりなんですよね。最近、アメリカにちょいちょい行くんですけど、言葉がわからなくて、基本的にはもう現地の人達の中に僕がポツンといる状況ばっかり。LAだとまだわかるけどニューヨークだともう本当にわかんないんですよ。スピードが速すぎるし、訛りも強すぎて。相当つらい1年ぐらいを過ごすことになると思うんですけど、とにかくなるはやでネイティブレベルまで持っていきたい。もうそれだけで、できることは格段に広がると思います。

——ニューヨークではどんな仕事をするつもりですか?

上出:まずは向こうを拠点に日本向けの仕事をします。そういうことをしばらくはやらざるを得ないと思うんですけど。でもそれだと物価が違いすぎて生きていけないんで、向こうの仕事もちょっとずつやっていけたらいいなと考えています。それがどの段階からできるのかはちょっとわかんないですね。具体的にこうしていこうというプランは何もないです。とりあえず行く。行ったら何かあるだろう、みたいな感じです。

それこそ音声版『ハイパー』で、レコーダーを持ってロケをして、ストーリーテリングをしていくっていうスキーム自体はもうほぼ確立できたので、それをもってアメリカで、英語ベースで番組を作るとかはあり得ると思います。英語だとユーザーの数がもう全く違うから、できたら大きいですよね。

——ちなみに映画を撮りたいって気持ちはありますか?

上出:なくはないですけど実力的に映画はまだまだ勉強が必要だし、「映画をやろう」ってやるようなことじゃないとは思ってますので。

——ドキュメンタリー映画のようなものだとできるんじゃないですか。

上出:そうですね。やってもいいんですけど。やるにしても何か工夫が必要かなと思います。そういうのも含めて勉強しに行くっていうことかもしれません。ニューヨークはやっぱドキュメンタリーの街なので。

でも、結局ニューヨークに行くのは、自分にどれだけ負担をかけられるかっていうのが大きなテーマです。負荷をかけにかけて、その先で得られる何かっていうものに自分でも大きく期待しています。

Photography Hironori Sakunaga

後編へ続く

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2022年の私的「ベストブックス」 映像ディレクター・上出遼平が選ぶ今年の3冊 https://tokion.jp/2022/12/30/the-best-book-2022-ryohei-kamide/ Fri, 30 Dec 2022 03:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=162940 2022年に出版された本の中から映像ディレクター・上出遼平が選ぶマイベスト3。

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素晴らしい本と出会い、その世界に入り込む体験は、いつだって私達に豊かさをもたらしてくれる。どんなに社会や生活のありようが変わっていこうとも、そんなかけがえのない時間を大切にしたいもの。激動の2022年が終わろうとしている今、映像ディレクター・上出遼平がこの1年間に出版された数多くの本の中からお気に入りの3冊を紹介する。

上出遼平
1989年東京都生まれ。ディレクター、作家。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(Netflixで配信中)シリーズの企画から撮影、編集まで全工程を担う。同シリーズはPodcast、書籍、漫画と多展開。現在は文芸誌「群像」(講談社)にて小説『歩山録(ぶざんろく)』を連載中。
Twitter:@HYPERHARDBOILED
Instagram:@kamide_

『BAKA IS NOT DEAD!! イノマーGAN日記 2018-2019』イノマー(国書刊行会)

2019年、癌で逝去したオナニーマシーン・イノマーが病床で書き続けた3冊の日記をそのまま1冊の書籍にしたもの。書かれていること以上にその筆跡の変化が、過酷な日々を過ごすイノマーの心や体を物語っていく。全部曝け出して生きてきた男の、最期の曝け出し。
ここまで正直な心の声を聞くことは、後にも先にもないだろう。決して気持ちのいい読み物ではない。だけど確かな重みがある。この本がこの世界に残されたことには大きな意味がある。

イノマーのパートナーであるヒロさんが、コンビニで日記全ページをスキャンして送ってきたのはいつだっただろうか。この本の編集作業を1つの区切りにしようとしているヒロさんの気迫と、そして少々ネジの外れた編集者との邂逅が、この稀有な本を生み出した。
買って損はない。保証します。

『祈り』藤原新也(クレヴィス)

「人生を変えた一冊はなんですか?」
今年も8回ほどインタビューで聞かれた。年末は特にこの手の質問が増える。
いつも同じじゃつまらないしな、などと思って、10冊くらいをローテーションさせて回答している。

けれど本当は“この一冊”というのがある。
藤原新也の『メメント・モリ』だ。
川の中州で犬に食われている人間の遺体の写真に、「人間は犬に食われるほど自由だ」と添えられている。
学生時代、このページが妙にストンと腑に落ちた。
以来、心の中にいつも「俺は犬に食われるほど自由なんだ」がこだましている。
その響きは僕の人生を幾分軽やかにしてくれた。
そしてそれは「もっと自由に、真剣に生きろ」とも響き続けた。
「死」から目を背けて、どうやって「生」を歩めようか。
僕は「死」を通して世界を見るようになった。

そして今年『祈り』なるものが刊行された。
「メメント・モリ(死を想え)」と「メメント・ヴィータ(生を想え)」が1冊にまとめられた、バイブル。
写真の強いコントラストと、曖昧な生と死とが相克する。
100冊買った。

『ぞうのマメパオ』藤岡拓太郎(ナナロク社)

買ってもないし読んでもないのですが、間違いなく面白いのがこちら。これまでの藤岡拓太郎が紛れもなく凝縮されている、とんでもない名著。可愛さの陰に隠された狂気。MAD絵本。逆に自分がなぜ買っていないのかが理解できない、それほどの強度を持ったマメパオ。

表紙を見る限りでは、ニコニコご機嫌な女の子と、ちょっと困り顔の仔象との話らしい。誰がそんな設定を思いつくだろうか?(いや、誰も思いつかない)
想像してみよう。
ある深夜の動物園。
飼育員達は寝静まり、アメリカの映画に出てくるようなダラシのない警備員は、やっぱり退屈そうにテレビを見ている。監視カメラのモニターの端を、小さな影がささっと横切る——象大好き女の子、ミミだ。ミミはこの動物園のスター雌象ジュリアンが昨夜、元気な仔象を産んだというニュースをもちろんチェックしていた。そうでもなければ、賢いミミはこんな馬鹿げた行動を起こすわけがない。ミミの通信簿は「大変良い」で埋め尽くされているのだから。
そしてミミは、象が本当に好きだから、こうやって夜陰に乗じて、仔象を盗みにきたのである——。

やっぱり実物を読まなきゃ。
明日青山ブックセンター行ってきます。

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「コンテンツが飽きられないための工夫」とは 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 × 『街録ch』三谷三四郎 対談後編 https://tokion.jp/2022/03/24/ryohei-kamide-x-sanshiro-mitani-part3/ Thu, 24 Mar 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=104485 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平とYouTube番組『街録ch』の三谷三四郎による対談。後編では、ADという制度についてや「マインドモノマネ」「飽きられないためにやっている」ことなどを語ってもらった。

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』など、独自のコンテンツで人気の上出遼平と、開設から2年たらずで60万人以上のチャンネル登録者を獲得したYouTube番組『街録ch』の三谷三四郎(みたに・さんしろう)による初対談。

後編では、ADという制度についてや「マインドモノマネ」、飽きられないために心掛けていることなどを語ってもらった。

前編はこちら
中編はこちら

テレビ業界で学べること

——最近、ADという呼び方がなくなるかもというニュースが話題になりましたが、AD時代苦労してきたお2人はそのことについてどう思いますか?

上出:日テレがADという呼び名を廃止するって言っていて、他局も追随するんじゃないかっていう話ですよね。確かヤングディレクターでYD。そうすると我々はアダルトディレクターだからADになるんですかね(笑)。

三谷:皮肉っすね(笑)。それでいうとどっちでもいいですけどね。

上出:「ADを廃止します」ってなったところで世論としては、「呼び名が変わったところで内状が変わらなければ意味ないだろう」って声も大きかった。でも僕はなくすならなくすでいいと思いますけどね。ADって座に押しとどめておくことによって、都合よく使われていた部分があると思うので。YDになったところで、その構造は変わらないかもしれないけど、おじさん達が「おいAD、お菓子買ってこい」って言う時に「あ、こいつADじゃなくYDだ」ってどっかで思えれば、「時代が変わったんだな」って意識喚起にはなると思うので、変更するのはいいんじゃないかとは思います。

三谷:NHKはもともとADいないですしね。

上出:そう。NHKにはADがいないんですよ。入った瞬間からディレクターですもんね。あれはうらやましかった。

三谷:すごいシステムだけど、それでいいと思いますよね。

上出:僕もそれでいいと思いますよ。みんなNHKスタイルで、最初からディレクター。その方が自覚も出てくると思うし、任された方が仕事を覚えるのも早い。責任を感じていない状態での仕事って得るものがものすごく少ないから、「この番組のディレクターなんだ」って言われたほうが頑張れるし、ミスも減ると思う。だから番組全体にとっていいなと思うので、僕の番組はさっき言った通り(中編参照)、1年目でディレクターになっちゃいます。

三谷:誰でも映像が作れて発信できちゃう時代に、わざわざADやるメリットって何かな?って考えた時に、一流というか、尊敬できるディレクターの下で働ければ、価値はあるのかなと思うんですけど、そこに行けなかった時に、そこで頑張る意味はどれだけあるのかなって思いますよね。映像の勉強に関しては、今はいくらでも教科書が世の中にあるし、YouTuberなんて毎日投稿しているから、編集の能力で言ったらテレビディレクターと同じくらいできる人もいっぱいいますし。

上出:テレビ業界に入らないと身に付かないものって、何かあるんですかね?

三谷:大きい予算の回し方は確かにテレビじゃないとできないかもしれないですけどね。あとなんだろう?

上出:直球でトップランナーの中に飛び込める可能性はまだテレビのほうがありますよね。

三谷:確かにいきなり一流の人と関われるのはメリットかもしれないですね。でも逆にそれをメリットとしてわかった上でテレビ業界に入らないといけないですよね。先輩ディレクターの編集したデータを自分でも保存しておくくらいのことやっておかないともったいない。

あと、やっててよかったのはとにかく忍耐力ですね。忍耐力はおかげさまで本当についたと思います。

上出:それにしても尋常じゃない。毎日あのクオリティーの動画をYouTubeに投稿してるんですもんね。

三谷:それで言うと毎日投稿できているのは、それはマクドナルド(マック)のバイトをやっていて、そこで効率のいい方法みたいなのを考えるクセを学んだおかげかもしれないです。マックって、何十年もやってるだけあって、マニュアルがすごくちゃんとしてるんですよね。マニュアルに1ミリも無駄がなくて、1時間に240個くらいのハンバーガー作るためにはこうやって回したほうがいいよね、みたいなことが体系化されているんです。

そこまでじゃないけど、『街録ch』も毎日投稿するために、僕が倒れないためにどうすればいいかなってシステム化していて。倒れた時に毎日投稿するのをやめようじゃなくて、僕が無理のない範囲でできるようにしているんです。だから取材対象者の文字起こしみたいなものはバイトにやってもらうとか、クオリティーに関わるところ以外はある程度人に任せられるシステムを考えました。

上出:休む時間はあるんですか?

三谷:毎週、日曜は休んでますよ。

上出:あれだけやっていてちゃんと休めているんですね。ロケは1日にまとめて何人かやるんですか?

三谷:ロケは週2回と決めていて、最初は3、4人撮ってたんですけど、4人だと最後のほうで集中力が切れるってわかったので、今は毎日投稿から週5投稿に変えて、1日で最大3人までにしています。それだと自分も楽しく話を聞けるので。あとの4日は編集と事務作業して、1日は必ず休んで家族と遊ぶ。

上出:すごい。マックのおかげですね

三谷:ホントにマックのおかげっす。時給720円のマックのアルバイト、やっといてよかったと思いましたもん。

上出:この記事読んだ若い子って、テレビ業界じゃなくてマック目指しますよ。

三谷:(笑)。何かを回す、膨大な作業を何人かで学ぶには一番勉強になると思います。

上出:僕も今やっときゃよかったな、って思いました。

「マインドモノマネ」で成功

上出:「応援される存在であるっていうのが大事だ」っていうのもどこかで話していましたよね? 

三谷:成功するためには、何をすればいいんだって考えていた時に、なんとなくキングコングの西野(亮廣)さんが毎日Voicyにあげている話を聞いていて、そこで「応援される」みたいなことをしょっちゅう言っていたんです。それで「応援されなきゃ人気になれないんだ」って思って。その考えは参考にさせてもらって。

あとオリエンタルラジオの中田敦彦さんのYouTubeもよく見ていて。そこで「YouTubeがヒットするためには、熱量と狂気がないとダメだ」「血を感じないと誰もそれに熱狂しない。その“血を感じる”のは人それぞれ違うかもしれないけど」みたいなことを言っていて。確かに僕が毎回インタビュアーとして聞いて編集している動画を、年間通して週に5本出しているのが異常だから。それを10年続けたら狂気になるかもって。

上出:もう十分狂気なんで、大丈夫だと思いますよ。

三谷:昔、東野(幸治)さんが「行列(行列のできる相談所)」のMCを任された時に「(明石家)さんまさんのマインドだけをモノマネする。そうするとなんか上手くいく」っていう話をしていて。さんまさんが話すことは真似しないけど、マインドだけ真似する。それはいいなと思って、だから僕も西野さんや中田さんのマインドだけモノマネして、それで運営してったら成功できましたね。

上出:「マインドモノマネ」、超いいですね。

三谷:やってることを真似したら終わると思うんですよ、同じことだから追いつけるわけないし。でも成功者のマインドを真似するのはいいと思う。だから今、僕が一番マインドをモノマネしてるは、コムドットのやまとさんなんです。

上出:そうなんですね。

三谷:だって、昨年の今頃はまだ登録者数は50万人とかだったけど、どうやって300万人いったのって調べ出したら、やっぱそこにはロジックがあって。TikTokを使ったYouTubeへの誘導の仕方とか、目標設定の仕方とか、すごく参考にしています。テレビディレクターからすれば、YouTuberって真似したくない相手じゃないですか。でも人気になるのは絶対に理由があるなと思って。

進化を続けるための目標設定

上出:今、登録者数はおよそ60万人じゃないですか。なんで100万人を目指したいんですか? 

三谷:最初は100万人にしたいとか思ってなかったんですけど、YouTubeの特性だけの話なんですけど、もう伸びなくてもいいかなって思っちゃった時点で、工夫をしなくなるし、結果オワコン化していくと思うんです。だから常に進化していかないといけないと思った時に、手っ取り早く目標にするのが登録者数だったんです。だから良くし続けるための指標としてチャンネル登録者数100万人を置いとくのが楽なんですよね。

上出:現状維持を目指したら、現状維持はできませんよね。

三谷:何ヵ月かに1回、見てくれる人達が「わっ!こんなことした」って思うことをしたほうがいいって考えるので。で、考えてやってみたら、新しい発見があって、単純にそっちのほうが楽しいっていうのもあります。

上出:トライしてみてよかったものはどんなことですか?

三谷:自分がカメラの前で思いをしゃべることですかね。最初はYouTuberみたいにしゃべるのは恥ずかしかったんですけど、新しく応援してくれる人が増えたりして、やってよかったなとは思います。最初は、「こんなんやってどう思われるかな」とか、心配だったんですけど、1回やったら慣れましたね。

上出:テレビマンあがりはそこを一番危惧しますよね。自撮りの動画を出すなんて恐ろしくてしょうがない。

三谷:でも「やりたくない」って思ったことは、やったほうが良いかもって思えたんで、そういう感じですかね。だから結果として、100万人の登録って難しいかもしれないんですけど、見ている人も含めて、そこを目指すことに意味があるんですよね。

上出:言うことで、周りも応援したくなるってありますよね。

三谷:「現状維持でいいんだよね」って人にみんな熱狂しないですから。だから自分の「こう見られたらヤダ」とか「寒い」っていうテレビマン的な発想を消そうと思って、一番最後に「1000万人まであと999万9500人」みたいに書いたんです。1000万人とか行けるわけないのに一応1000万人目指してる風にしたんです。プラス、「テレビ業界には生半可な気持ちでは戻らないぞ!」っていう意思表示のために、Twitterのプロフィールに「95%以上のテレビマンより実力があるディレクター」って書いたんです。それは別に誰かをバカにするとかじゃなくて、そう言っちゃえば、自分で向上せざるを得ない。言っちゃって、無理やり自分を追い込むっていう。

上出:ビッグマウススタイル。

三谷:亀田興毅スタイルっすね(笑)。それを、そんなことやらなそうな僕がやってるのがいいかなって。あと、『街録ch』って会いたい人に会えるんです。だから、番組がでかくなればなるほどいろんな人に会える可能性が広がる。もしかして1000万人いったら松本人志さんにインタビューできる可能性もあるわけじゃないですか。

——三谷さんは登録者数100万人を目指していろいろとやられていますが、上出さんは自分の番組が飽きられないためにやっていること、意識していることはありますか?

上出:自分がすごく飽きっぽいので、常に視聴者より先に僕が飽きてるんですよ。例えば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)のコアのコンセプト、軸の部分を変えずに、本を出したり、音声版をやったりして。本当は映像でやればいいんですけど、違うやり方でもやってみようって。ブランドはキープしたままで、見せ方だけを変えていくっていう。それでやってみたら、新しい発見もあって。

音声版の『ハイパー』はカメラもなくて、機材もレコーダー1個だけで取材しているんですけど、だからこそ聞ける話がやっぱりあって。相当話してくれるなっていうのは実感しています。

三谷:Spotify聞きながら、相手が緊張しないし、これは最強だなと思いました。

上出:表情とか見えないのが弱点ではあるんですが、逆に声ってすごく正直だなとも思っていて。へずまりゅうも声だけだったら、もっと敏感に「あれこれウソついてない?」って感じられたかもしれないです。表情はウソをつけるけど、声色は難しい。ラジオとかもリスナーはパーソナリティを信じてるっていいますよね。テレビを見ているより真実というか、ウソはすぐばれる。そういう風に自分の飽きを解消しながら、見ていてくれる人にもいろんなやりかたをみせたいと思ってます。

人の悩みは尽きない

上出:今まで何人くらいに話を聞いてきたんですか?

三谷:300人くらいですかね。2回とか3回会っている人もいるので。

上出:それだけの人数に話を聞けている人って少ないと思うんです。しかもコロナの、ちょっとトリッキーな時期に。何か見えてきたことってありますか? 社会のこととか世界のこととか、人間ってこうだとか?

三谷:「全員、一生悩んでる」っていうのは見えてきましたね。

上出:なるほど。

三谷:困っている人はもちろんですが、どんなに成功しても悩んでますし、悩みは一生尽きないんだなっていうのは思いました。

上出:それは勇気づけられますね。悩んでる時って「自分ばっかり」とか思うけど、みんな悩んでいるんですね。

三谷:そうですね。あとどんな人にも自己顕示欲はあるなって。でもそれは当たり前で、褒められてうれしいなんて当然で、だからそれを否定するってなんかよくない風潮かなって思います。「自己顕示欲の塊だ」みたいな悪口を言うのはよくないなって思うようになりました。SNSやってない人でも『街録ch』に出たい理由は、もしかしたら「大変だったね」って一言でもコメントしてくれたら嬉しいとか、心のどこかでそう思って来てるのかなって考えりしますね。

——最後に『街録ch』は4月にイベントをやりますが、『ハイパー』の次の展開は考えてますか?

上出:3月17日に「第3回 JAPAN PODCAST AWARDS」の授賞式があって、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』が大賞とベストエンタメ賞、2部門で受賞したんですよ。特にエンタメの部門に入れてくれたのが僕は嬉しくて。『ハイパー』はエンタメとしてやっているので。あと、3月21日から『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』のシーズン2の配信がはじまりました。中核派のアジトを取材した「革命家飯」をはじめ、今後は「地下芸人飯」「ギャングスタラッパー飯」など配信予定なので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

三谷:それもカッコいいですね。『ハイパー』って数少ない打席でホームランを打ってるイメージです。『街録ch』は砂をずっとちょっとずつ集めていったら大きくなっていた感じなので、そこに至るまでの努力とかいっぱいあると思うけど、出力したときのワンパンチの威力に憧れます。

上出:それはやっぱりもともとテレビ発だからこそだ、ここまで派生しているんだと思います。だからテレビってまだまだ可能性ありますよ。

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版。現在はSpotifyにて史上初の音声による超没入型ドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』を配信中。
https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
https://open.spotify.com/show/4nNKlfOpKLybWKxhZ9lrzU
Twitter:@HYPERHARDBOILED

三谷三四郎(みたに・さんしろう)
ディレクター。1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。2020年3月にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治など話題の人物にインタビューしている。
https://www.youtube.com/c/街録ch-あなたの人生-教えて下さい
Twitter:@3tani34ro

Photography Masashi Ura

「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」シーズン2

「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」シーズン2
配信先:Spotify独占配信 
http://spoti.fi/hyper 
毎週月曜午後5時 最新話配信

『街録ch』2周年記念ライブ 街録ch-episode.0-

■『街録ch』2周年記念ライブ 街録ch-episode.0-
日程:4月14日
場所:草月ホール
住所:東京都港区赤坂7-2-21 草月会館B1F
時間:18:00開場、19:00スタート
料金:¥5,500(会場)、¥2,200(配信視聴)
チケット購入はこちら
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py22366

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「大量コンテンツ時代に選ばれる方法」 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 × 『街録ch』三谷三四郎 対談中編 https://tokion.jp/2022/03/17/ryohei-kamide-x-sanshiro-mitani-part2/ Thu, 17 Mar 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=102473 上出遼平と三谷三四郎による初対談。中編では、「大量コンテンツ時代に選ばる方法」や「個人とチームでの制作の違い」「本音を引き出すために心がけていること」などについて語る。

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』など、独自のコンテンツで人気の上出遼平と、開設から2年たらずで60万人以上のチャンネル登録者を獲得したYouTube番組『街録ch』の三谷三四郎による初対談。

現在、多くのコンテンツがさまざまなメディアで配信される中で、この2人のコンテンツがなぜ注目を集めるのか。その理由を2人の会話から探っていく。中編では、「大量コンテンツ時代に選ばれる方法」や「個人とチームでの制作の違い」「本音を引き出すために心がけていること」などについて語ってもらった。

前編はこちら

取材を通してファンを増やす

——これだけ世の中にコンテンツが溢れている時代に、お2人が自分の番組を選んで見てもらうために意識していることはありますか?

三谷三四郎(以下、三谷):僕で言うと、『街録ch』を始めた時には、こんなにすぐにチャンネル登録者数が伸びるとは思っていなくて。それでも「増やし続けることができるな」と思った理由の1つは、視聴者がどうこうっていうより、取材した人が「良かった」と思ったら、その人の友達とか家族とか10人くらいは登録してくれるかなって感じていて。それを1000人とか1万人とか取材していけば、いずれは登録者数100万人くらいにはなるかなって考えでやっています。

上出遼平(以下、上出):取材を通してファンを増やすってすごい発想ですね。

三谷:テレビのディレクターをやっていると、取材対象者と仲良くなって、人間的に好きになることもありますよね。でも、VTRチェックで上の人に、「こうしたほうがスタジオでリアクションしやすいよね?」みたいな方向の変な直しをやらされることもあって。基本的にそんなことをやっていたら、取材対象者の得にならないし、それを僕が犯人になってやらないといけない。それがすごく嫌で、テレビでオンエアされる時に「あの人は、どう思ってるんだろう」とか「クレーム来たらどうしよう」って震えながら違う仕事をしてるみたいなことがありました。

だから、自分でやるなら(取材対象者が)一般の人だし、協力してもらってるし、なるべく得になるように作ろうっていうのが一番あります。あと、作りでいうとテレビがちゃんとしてるから、こっちは逆をいくというか。インタビューしている時に携帯が鳴ってもそこを使ったりして。「このシーンいる?」みたいなのをあえて使ったりもしますね。

YouTubeのセオリーでいったら、いきなり本題から入った方がよくて、『街録ch』だと取材対象者が最初から話したほうがいいんですよね、でも、無駄にオープニングがあって、僕が歌ったりして。こっちはカウンターなんで、みんながしないことをやっている。そういう歪なところを愛してくれればいいかなって感じでやってます。

——『街録ch』では過激な発言とかもありますが、取材対象者には投稿前にVTRチェックをしてもらうんですか?

三谷:そうですね。最近はほぼ確認してもらっています。昔は「確認したいですか?」って聞いて、確認したい人には送ってたんですけど、最近は全部に送るようになりました。「もし、しゃべりすぎたなと思ったらカットしますよ」って伝えて。

——アップされた後にクレームが来ることはないですか?

三谷:例えば「お母さんに虐待された」って話をしていて、お母さんの方から「やめてくれ」ってDMが来たことはありました。その人が本当のお母さんだとわかれば、その動画は非公開にします。僕としては、親子関係を崩したいわけじゃないし、そのお母さんの生活を守ることの方が大事。結局、僕の場合は嫌われたら終わりなので。

でもそういう意識を持てるのはテレビのおかげだと思います。テレビをやっていた時に、あるプロデューサーに「この人はこう言ってるけど、相手が訴えてきたらやばいよ」みたいにアドバイスしてくれる人がいて。それは今でも参考にしています。

上出:テレ東は一般の人を取材対象にする番組が多いので、三谷さんの言っていることはすごくよくわかりますね。

「嫌われない」とか「相手のメリットになる」ことと、「お客さんに見てもらえるものを作っていく」ってことは、そんなに違うことではないと思う。特に『街録ch』に関して、一番面白いなと思うのは「自分を出してよ」っていうDMが来ること。それは番組運営的にもいいことだし、人って自分のことを「話したい」から、その欲望に応えている仕事ですよね。

僕なんか、外国に行って、貧しい人や苦しい境遇の人に話を聞いて、その人の話を使って、番組にして、日本でうまい飯を食っている。それだけで言ったら、僕はかなりヤバい奴だし、卑怯な奴だと思うんです。それでも何でギリギリ成立しているかっていうと、彼らが「誰かに話を聞いてもらいたい」って欲望を持ってるから、僕のやっていることも正当化できる。『街録ch』に関しては、それが全面に出ていて、完全に「話したい」っていう欲望に駆動された番組っていうことがすごく面白いなと思いますね。

三谷:SNSとかやってないような、出ても何のメリットもない人からも連絡が来ますからね。時々「もうちょっとエグイことしゃべんなくてよかったですか?」って自分から言い出したりして。出てくれた人が番組を面白くなるように考えてくれるんです。

上出:なんだろうその感じ。テレビの取材でそんなことって絶対ないですよね。むしろ向こうはちょっと警戒してたりして。出る人も、YouTubeより地上波ってことの恐怖があるんでしょうか。

三谷:量の信用度かもしれないですね。『街録ch』はコンテンツが500本以上アップされていて。そもそも嫌な人は応募してこないし。ここの中にいてもいいかなって思えるくらいの量がある。もしかしたらテレビにもそういうのがあって、朝ドラ的に毎朝流れていたら、同じような現象になるのかもしれないです。そこはYouTubeだろうが、テレビだろうが関係ないのかも。

それこそさっき言った「得になれば増えてくんじゃないかシステム」を思いついたのも、『街録ch』をやるきっかけになった東野(幸治)さんとやった番組(『その他の人に会ってみた』)なんです。その番組で、鳥取砂丘の方に行って、70歳のおじいちゃんが取材させてもらったんですけど、その番組が関東ローカルだったので、後日番組のDVD を送ったんです。そしたらすごく丁寧な文章が送られてきて、「こんなにも人を感動させられる能力があるんだ、俺」って気づいて。これで飯が食えたらいいなってその時に思いました。

上出:人を傷つけて飯を食ってた時に比べたら……。

三谷:気が楽っすね。だって半日とか取材した人のVTRを上の人が平気で「うーん、面白くないからカット」ってありましたから。せめて30秒でも使おうよって思うんですけど。でも相手への言い訳も「確実にオンエアするとは言ってないんで」みたいに、そういうのが上手くなっていく自分も嫌でしたね。

——上出さんは自分の番組が選ばれるために意識していることはありますか?

上出:基本的には自分の欲望に正直になることが大事かなと思っています。例えば、視聴者とか、誰かの欲望を想定してモノ作るって、僕は無理だと思っていて。人の欲望ってわからないから。だから、自分が行きたいところに行く、会いたい人に会う、聞きたいことを聞くってことにピュアになろうというのがベースにはあります。たぶん僕が作る番組はそれが貫徹されていて、嘘がないから、見るほうも見やすいと思います。

——確かに上出さんの番組を選んで見る人は、内容はもちろんあると思いますが、「上出さんを信頼しているから見る」人も多そうですよね。

個人とチームの違い

上出:三谷さんは前に「『街録ch』は自分が話を聞いているってことが大事だ」と話してましたよね。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)では、いろんなディレクターにロケしてもらったりするんですけど。三谷さんの場合は「自分でやる」っていうのが、番組の人気に関わっている。人気ラジオ番組のパーソナリティにファンがたくさんついているような感覚に近いですよね。

三谷:やりながら気づいたのは、YouTubeって真ん中に軸がないといけないプラットフォームだと思うんです。ヒカキンはヒカキン、ヒカルはヒカルみたいに。で、『街録ch』は、僕なんです。ほぼ僕は映らないけど、でも僕の声が入る。となると、この声が変わった時点で応援してくれている人は冷めるんだろうなって思って。だから投稿頻度は限られるかも知れないけど、僕が聞くことが大事かなって思っています。

あと僕自身が他人のVTRを直すことに、メッチャ冷めてるんですよね。テレビをやっていた時に、他人が撮影した素材を僕が編集することがあったんですけど、そこに愛情を持てなくて。だから、なかなか人に任せようって気にならないんですよね。

——『ハイパー』はチームで作っていますが、上出さんはその辺りどう考えていますか?

上出:物量を無視して言えば、一番楽なのは自分ひとりでやっちゃうことだけど、一方で自分の限界を感じるんです。人とやらないと、もうダメかなって。今、『ハイパー』のディレクターって、僕と歳の近い先輩と、何歳も下の後輩と、この前ADで入ってきた1年目の子なんです。でも、全員ほぼ並列で、僕のVTRに対しても1年目の子もいろいろ言える状況にしてます。そうじゃないと自分の正解だけがずっと正解のままになってしまう。そうでなくなることなんていくらでもあるわけで、それを世に放つことになるのが怖いと思ったし、どれだけコストがかかってもチームでやろうと考えました。

内容的にも1年目の子が撮ってくるものでも「これは俺では聞き出せないな」とか思うこともありますし。そういう意味でも、仲間がいることで自分が成長できることがあるので、仲間でやることに固執しています。本当は苦手なんですけどね、仲間作るの。苦手なんですけどやらないといけないなと。あとは、今のチームに恵まれているのは大きいですね。

三谷:それでいうと、僕の場合は奥さんになるのかな。奥さんがテレビディレクターなんですよ。優秀で、26歳で局員でもないのにディレクターになって、普通にゴールデンで20分くらいのVTRを作った時期もあったりして。今は育休中なんですけど。『街録ch』のVTRを見てもらっていて、時々「ここはちょっと意味わかんない」って言われますね。ムカつくから無視する時もあるけど、なるほどと思って、そこは直したりして。

それと他人からのアドバイスという意味だと、僕の場合はYouTubeのコメント欄がそれかもしれないです。「こういうこと思われちゃうんだ」って気づきは、毎日投稿をしてるから、そのチャンスは多いと思います。

上出:テレビだとそれはないですね。エゴサーチすればあるかもしれないけど。

三谷:そこにハッとさせられることは多いんです。匿名のムカつくやつもあるんですが、「ここを面白いと思ってくれるんだ」とか。自分ではあまり面白くないかなって思ってても、反響がよかったりして。だから毎日コメントは見ますね。

あと、DMMさんから何度もお誘いを受けて、オンラインサロンもやっていて。それも最初は、やりたくないって思ってたけんですけど、クローズドの空間だからこそ、話せることもあって。例えば「この動画の率直な感想をください」って投稿して、そこでの意見を参考にして、サムネイルを作ったりして。

上出:オンラインサロンをそんな風に使えるんですね。それが驚きです。会員はどれくらいいるんですか?

三谷:会員は、160人くらいいるんですけど、もはや僕にしかメリットがない状態になっていて。

上出:160人はどんな人が参加しているんですか?

三谷:ホントにいろんな人が来ますけど、いわゆる一般のオンラインサロン的な「意識高い系」じゃなくて、どちらかというと『街録ch』にでてきそうな人達が多くて。実際に何人かは『街録ch』に出たりしています。

上出:それはきっと、チャンネルに出たいわけじゃないけど「三谷さんに話を聞いてほしいな」って思いがどっかにある人が集まって来てるんですよ。三谷さんはもともと相談されがちだったんですか?

三谷:相談されがちというか、余計なことに首を突っ込んで、痛い目にあうことは時々ありましたね。

上出:メッチャわかるなぁ(笑)。今日話していても、三谷さんには話を聞いてもらいたくなる人がたくさんいるんだろうって思ったので。

三谷:そう思ってもらえたら嬉しいんですけどね。でも性格はメッチャ悪いですよ。

上出:(笑)。

「否定しないこと」と「信憑性」

——お2人は一般の人を相手にインタビューすることが多いですが、本音を引き出すために心がけていることはありますか? 

三谷:一般の人で言うと「理解しようとして聞く」ことですかね。わからないものをわからないまま素通りしないようにしています。テレビ番組だとプレビューっていう試写で「これってどういう意味?」って結構聞かれるんです。「なんでこの人はこういうことをするようになったのか」とか、すごい細かいことを聞かれたりする。それに答えられないと“使えないヤツ”みたいな扱いをされるので、疑問はちゃんとつぶすクセが付いているんですよね。わからないことをわからないままにしないって言うのだけは気を付けています。あとはあんまり準備しすぎないとか。準備しすぎると形式的になっちゃうし、内容もつまらなくなっちゃうかなと。

——犯罪とか触れにくいことについては? 率直に聞くんですか?

三谷:それに関しては、僕の方も絶対に聞くぞ! とは思ってなくて、「しゃべれるんだったらしゃべってほしいけど、無理だったら無理でいいですよ」って感じで聞いてますね。最高年収とか聞く時も「言えたらでいいんですけど、MAXどのくらい稼いでたんですか?」とかそんな感じ。言いたくないなら、言わなくても別にいいと思っています。

——それで意外としゃべってくれる?

三谷:そうですね。あと、例えばタレントの名前とか、言えなかったとしても、その周辺の話が面白い場合もあって、「それがわからないとそもそも想像できないから、後でピー音を入れるので、教えてもらえますか?」とか、「使わないけど、教えてもらっていいですか?」って聞きます。

——上出さんはどうですか?

上出:僕の場合は三谷さんのようにDMをもらうってことはなくて、逆に「テレビとか出たくない」って人に話を聞きに行くことが多い。もともとその人の中に「話したい」ってものがない状態からの出発が多いので、その分ハードルはちょっと高いと思いますね。

その上で、基本的にはとにかく否定をしないことが、絶対に大事。何かあって「いや、でも」って言うのは、絶対にアウト。反論したりとか否定したりは絶対にしない。特に僕が取材する相手は、生まれてから否定され続けてきた人が多いから、彼・彼女達が自分のことをしゃべる時に、「あれ、この人は否定しないな」って気づきはじめる。するとどんどん「これもしゃべってもいいんだ」っていうのが出てきて、今までしゃべったことのないことをしゃべってくれる。そして心を開いてくれる。

プラス、さっきの三谷さんと同じで「なんで」っていうものをどのくらい聞けるかがディレクターの腕だと思っていて、それができないと物語が成立しなくなる。その人の人生をなぞっていった時に、その行動の動機がわからないことが1個生じた時に、もう追いつけなくなっちゃうから。その人が思い切って出したことに対して「どうしてそうしたんですか?」「なんでその選択をしたんですか?」とか聞いていくと、本人も考えるんです。人生のある時の選択って、本人もぜんぜん意識してなかったりするんですが、そこで初めて考える。

それをやっていくと、本人の中でこれまで自分の歩んできた道が整理されて、気持ちよくなっていって、インタビューが終わった時に「ありがとうございました」ってなることがすごく多い。それは何かカウンセリングみたいな面もあって、今まで澱みたいになっていたものがほぐれていって、話すことができたって経験として、その出会いが終わる。それを繰り返してますね。

三谷:テレビをやっていて「なんでお前がこいつのことを裁くんだ」って思うことがあったけど、僕らの場合は人を裁かない。「こういう風に思わなかったんですか?」って言いますね。さっき言ったように「否定しない」っていうのはそうかもしれないです。否定するとしゃべりたくなくなっちゃうから。もちろん心の中で「それはよくないことじゃないかな」って思うけど「よくない」って言うよりは、「なんでそんなことしたんですか?」って聞いたほうが、コンテンツとしては面白くなる。

上出:僕らはそもそも人のことなんて裁ける存在ではないじゃないですか。テレビが今まであまりに偉そうだっただけで。人のチョイスを当たり前のように「喝!」とか言ってることがどうかしてると僕は思っていて。その人にはその人の選択がある。それを一回飲み込むことが絶対に必要で、インタビュアーとしての最低限のマナーだと思うんです。

一方で難しい部分も実はあって、その人が話したいことだけを話している状況がどこまで面白いかっていうのも微妙なとこで。例えば犯罪をずっと繰り返している人のインタビューも多いんですけど、本人に自分の生い立ちを話してもらって「こんなことがあって、こういうことをせざるを得なかった」ということを言う。それはそれで「なるほど」と思うけど、「あなたにバイクを盗まれた人やあなたに殴られた人についてはどう思うんですかね?」みたいなことは、自分としてはやらないといけないなと思ってる。しっかりそれをやっていったら、その人の中でもわだかまりが解消されることにもなったりする。

瞬間的にはかなり話したくないとか、聞かれたくないことである場合が多くて、本人もそこに蓋をしているし、目をつぶってる。でも目をつぶったままだと、物語としても中途半端で、ただのヤバい人の政見放送みたいに本人がしゃべって満足して終わりになる。でもそれだと僕の存在がいらなくなる。やりとりによって生まれるものをコンテンツにしたいという思いがあるから、聞かれたくないだろうなってことも聞くことは結構ある。ただいきなり聞くわけじゃなく、それまでに会話の助走があって、もうここで聞いてもいいだろうなっていうところまで短い時間でも信頼関係を作っていって、最後の最後に聞くようにしています。

——「否定しない」という前提だと、本人の話の信ぴょう性がどこまでなのか、というのもある程度考えないといけないですよね?

上出:それは超大事ですし、すごく注意深くやっています。例えばある事件の話をするとして「これ警察のでっち上げなんですけどね」とか言いはじめる。おそらく何度も「自分は正しい」というスタンスで話しているので、その人の話には説得力があったりするんです。だけど「裁判ではどうだったんですか?」とか、僕がどう思ってるじゃなくて、周辺の事実関係をちゃんと聞くのは大事だと思っていて「あなたは、『でっち上げ』といってますが、判決としてはどうだったんですか?」とか「みなさんの立場として『でっち上げ』という確信があるってことですよね?」とか。それは視聴者にもわかるようにしています。

三谷:なるほど。参考になりますね。僕はそこまでできていなくて、全員の裏取りのしようがないし、 そもそも“ノンフィクション”って謳ってないしってどこかで諦めてました。「勝手に自分の前でそういうことをしゃべりたいって人が現れた」「そういうことをしゃべってくれた、それのみが真実です」みたいなことを言い訳にしてました。だから上出さんみたいな聞き方があるなっていうのは、今思いました。『街録ch』でもよく「みんな都合のいいことしかしゃべらないよね」みたいなコメントをもらうこともあって「そうなんだけど、裏取りなんてしようがないよな」って思ってたんです。

だからこの前、YouTuberのへずまりゅうに取材した時に、「なぜ迷惑系YouTuberになったか」って理由をしゃべっていて。話している時には、僕も「これ全部本当なのかな?」って思ったんですよね。でも「ウソだろ」とも言えないし、これどうしようかと思った時に、僕が唯一できたのは、「仮にこれが全部本当だとしたら、確かに頑張ってほしいですけどね」って言うことだけでした。結局いろんな人から「全部ウソですよ」って連絡がきたりして。でも「全部ウソですよ」って言われても、それをどうやって証明するのか。後日、「『ウソです』って言われてるけどどうですか?」って聞きに行ってもいいけど、わざわざそこに枠を使うのはどうなんだって悩んだりもしますね。

上出:僕もへずまりゅうの動画を見ていて、三谷さんが「本当だったとしたら……」って言ってくれて、ホッとした。このまま悲劇のヒーローとして終わっていったらヤバいぞと思ったので。

三谷:難しいんですよ。VTRの最後に注釈的に僕がしゃべる動画につけるのも考えるんですけど、何か違うなと思ったりもして。

上出:あれだけ色んな人に話を聞いてたら、難しい人も出てきますよね。下調べをなるべくしないと言っていて、僕もそのスタイルの方がいいかなと思ったこともあったんですけど、それだと、そこらの辺のことができなくなる。瞬発力でそこのケアするのはすごく難しいんですよね。

三谷:でも、そこは気をつけないといけないですね。参考にさせてもらいます。

後編に続く

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版。現在はSpotifyにて史上初の音声による超没入型ドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』を配信中。
https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
https://open.spotify.com/show/4nNKlfOpKLybWKxhZ9lrzU
Twitter:@HYPERHARDBOILED

三谷三四郎(みたに・さんしろう)
ディレクター。1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。2020年3月にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治など話題の人物にインタビューしている。
https://www.youtube.com/c/街録ch-あなたの人生-教えて下さい
Twitter:@3tani34ro

Photography Masashi Ura

『街録ch』

■『街録ch』2周年記念ライブ 街録ch-episode.0-
日程:4月14日
場所:草月ホール
住所:東京都港区赤坂7-2-21 草月会館B1F
時間:18:00開場、19:00スタート
料金:¥5,500(会場)、¥2,200(配信視聴)
チケット購入はこちら
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py22366

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「テレビの可能性」と「YouTubeの自由さ」について 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 ×『街録ch』三谷三四郎 対談前編 https://tokion.jp/2022/03/10/ryohei-kamide-x-sanshiro-mitani-part1/ Thu, 10 Mar 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=101176 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』などの上出遼平と、YouTube番組『街録ch』の三谷三四郎による対談。前編では、「テレビの可能性とYouTubeの自由さ」をメインに語ってもらう。

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』など、独自のコンテンツで人気の上出遼平と、テレビ業界からYouTubeへと軸足を移し、開設から2年たらずで60万人以上のチャンネル登録者を獲得したYouTube番組『街録ch(がいろくチャンネル)』の三谷三四郎(みたに・さんしろう)による初対談。

地上波テレビをメインとする上出と、YouTubeをメインにする三谷だが、両者の番組に共通する点も多く、一般人へのインタビューをメインにしていること、登場する人物がひと癖もふた癖もあること、1対1で取材していること、取材対象者が本音を話していること、などが挙げられる。現在、多くのコンテンツがさまざまなメディアで配信される中で、この2人のコンテンツがなぜ注目を集めるのか。その理由を2人の会話から探っていく。

今回の対談は前・中・後編の3回。前編では、「テレビの可能性とYouTubeの自由さ」をメインに語ってもらった。

「やらせ」の面白さには限界がある

——お2人は初対面ということですが、三谷さんは以前から上出さんにお会いしたかったそうですね。

三谷三四郎(以下、三谷):上出さんを知ったのは、佐久間(宣行)さんがラジオ(『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』)で、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)のことを話しているのを聞いてからで。その時に佐久間さんが「後輩がヤバい番組作った」「危険すぎて普通だとあんな企画通らない。上出じゃないと通せなかった企画なんだよ」というようなことを言っていて、実際に番組を見てみたら、「ホントによくこの企画でOKがでたな」って衝撃を受けました。

上出遼平(以下、上出):厳密に言うとOKにはなってないですけどね。

三谷:なってないんですか?! じゃあどういう裏技であれが通ったんですか? それこそ個人のYouTuberがやるならわかるんですけど、テレビでもできるんだって驚きました。

上出:だましだまし、ですね。そもそも事前にあんな危険なところに行くとは言ってなくて、「リベリアって国に行って、いろんな人のご飯を見てきます。そこにちょっと悪徳警官とか、黒魔術師の飯とかも出ますよ」くらいで。まさかあんなところに行くとは誰も想像していなかったと思います。

三谷:正直、海外でのロケ番組って“危険な雰囲気”を演出で無理矢理作ることもできるじゃないですか。銃声が聞こえるシーンでも、実際は撃たれるはずのない場所にいるんだけど、「銃声がなって危険だ」みたいな作りにできる。『ハイパー』はそれとは明らかに違っていて。それは作っている側からするとわかるんですよね。よくこんなところに行ってんなーって感心しました。

上出:うれしいですね。そういう「まやかし」を知っている人が、ちゃんとこうした場で言ってくれたのは初めてです。

三谷:でも『ハイパー』のそうした作り方が評価されて、Netflixでも放送されたりするわけで。結局フリーのディレクターが海外に行くと、外国人を交えて“コント”を撮るのがめっちゃ上手くなるんですよね。芸人やタレントの面白いシーンを撮るために通訳とかに「向こうに“電流男”がいるって言わせて」って言ったりして。たぶん“電流男”までは実際には言わないけど、“サンダーなんちゃら”みたいなことを一言いえば、「OK撮れた」、みたいな感じになるので。

上出:あとはボイスオーバーで吹き替えちゃいますからね。海外ロケで吹き替えができたら、なんでもできちゃうんですよね。

三谷:そういう「海外ってなんでもできるよね」ってことを自慢するフリーの先輩とかもいますしね。だから海外ロケ番組のヤラセがどんどん表沙汰になるのも「そうだよな」って思っちゃいます。「コンプラが厳しくなって、なんでもかんでも言うなよ」とかっていうのとは、それは別だと思っていて。単純に「悪」だと思うんですよね。

上出:僕はまだ、そこまでの人には出会ってないですが、なかなかですね。でもそうした人と僕は見せたいものが違うし、目的も全然違う。そうした“コント”番組はタレントの面白い部分を見せたいけど、『ハイパー』の場合は、タレントがいないから、主役はあちら側(取材対象者)。だから彼らをコントロールして面白くするという発想ではそもそもない。三谷さんの『街録ch』もそうだと思うんですが。

三谷:そうですね。そもそもコントロールして面白くなるような人を募る資金力がないし、したいとも思ってないですね。

上出:面倒くさいですもんね、「やらせ」をするのって。

三谷:そういえばこの間、久しぶりに「やらせ」をしたんですよ。『ノンフェイクション』っていうテレビ大阪の番組から「嘘の番組を作ってくれ」ってオファーをいただいて。番組では『街録ch』と同じフォーマットで、3人分のインタビューが流れるんですが、そのうち2人のエピソードは本当で、1人は嘘という設定だったんですけど、やっぱりめっちゃ大変でした。

通常は、アポを取って、会って、長くても1時間半くらいで終わる。でもその番組で嘘の設定で作る時は、事前に4〜5時間かけて『街録ch』で実際に聞くような質問とその回答をバーッとまとめて、シナリオみたいなものを作って、それを局の人が仕込んでくれた女優さんに覚えてもらうんですが、それって短編小説を1冊覚えるみたいなことで。しかもその人が全部しゃべらないといけないから、撮りながら違和感があったら、「そんな言い方は普通の人はしないですよね」って言って、撮り直さなきゃいけない。だから撮影も倍以上時間がかかって。その時つくづく「やらせ」って金と時間がないとできないなって思いました。

上出:ホントそう。あと結局「やらせ」って、シナリオを書く人間の限界にぶつかるから、面白さも頭打ち。資金力とかコストの面もあるけど、面白さに限界があるっていうのは大きい気がします。

でも、その『ノンフェイクション』では、テレビ業界を離れた三谷さんがYouTubeで成功して、テレビで番組を作るって、ある意味凱旋みたいな気持ちもあったんですか。

三谷:受けた条件の1つは、1本は『ノンフェイクション』のために嘘のものを作るけど、後の2本は番組では7分ずつにまとめて、『街録ch』の方でそのフルバージョンを流していいっていうことだったんです。地上波のテレビに『街録ch』の映像が流れたら、YouTubeの方も盛り上がるし、登録者数も増えるかもっていう期待を込めて受けました。

「タレントの力ではなく、自分の演出で面白くするほうが楽しい」

上出:「地上波のテレビ番組を作りたい」とはもう思わないですか?

三谷:『ノンフェイクション』は楽しかったんですけど、「テレビ番組を作りたい」とは全く思わないですね。もともとフリーでテレビディレクターをやっていた時からお金をかけなくても、まぁまぁ番組を成立できるタイプだったので、そういう番組をよくやらされていて。だから、豪華なセットを組んで、大御所の演者さんに何かやってもらいたいって気持ちがなくて。

あと以前、大晦日に日テレでやっていた『笑ってはいけない』に参加した時に「あ、俺がやりたいのはこっちじゃないな」って明確に思ったんです。撮影現場で、「ここは芸人が死ぬ気で頑張る場所だ」と実感して、いちディレクターだと単なるサポーターになるだけだなと。関われたことはすごく光栄だし、楽しかったんですけど、次もやるかっていうとやらないなと。もともとダウンタウンさんの番組に関われたら嬉しいなって思ってテレビ業界入ったんですけど、やっぱりタレントの力じゃなくて、自分の演出で面白くするほうが楽しいなって、感じました。それができるのがYouTubeだったんですよね。

上出:それはわかりますね。今、多くのテレビディレクターは『街録ch』に本当に嫉妬していると思いますよ。だって「きっと自分にだって、できるに違いない!」って思うから。もちろんそんな簡単に真似できることじゃないんだけど。でも、テレビディクレターに限らず絶対いますよね、『街録ch』を見て「俺もできる!」って思う人は。

三谷:応援してくれる人が「似たようなチャンネルがありますよ」ってDMをくれたりするんですけど、「見るかぎりかなり実力がないんで大丈夫です」って返してます(笑)。

上出:強気ですね。

三谷:だって何かの真似をしている時点でもう負けてるじゃないですか。だから「真似するような人」には負けないなと思います。逆に全然別の角度からくる人のほうが怖いっていうか。

上出:『ハイパー』の真似っぽい番組もYouTubeにあったりするんですよね。でも『ハイパー』はYouTubeをやってないんで、YouTubeでは彼らの方が先駆者になっていて。だから僕は三谷さんほど余裕がなくて、ちょっと悔しいなって思ってますけどね。だってその番組が人気になったら、僕のほうが真似事に見える日がくるかもしれないし。

テレビによる偶然の可能性

——上出さんは「地上波のテレビ」にこだわりがあると以前話していましたが、その辺はどういった思いからですか?

上出:最近はテレビのパワーを軽視している人が多いですけど、テレビってやっぱり今でも超強いって思うんです。だから自分が面白いVTRを作って、それをどこで見せたいかっていうと、やっぱり地上波のテレビかもしくは映画館なんですよね。

あと、YouTubeは基本的には「これがみたい」って選んで見にいくスタイルだと思うんですけど、テレビだったらたまたま目にするってことができる。僕が作る番組って、割と暴力的なものが多くて、本当は選んで見にいくものだと思うんですけど、でもそれを無理矢理というか事故的に見せたいんですよね。それができるのはやっぱりテレビで、僕はもうちょっとそこにトライしたいなと思ってます。

でも、テレビも今は「全部配信します」って方向になっていて、企画を出しても「これってTVerの再生数回るのかな?」ってことが基準になってきていて、ネット受けがいい番組を地上波でやることになってきている。そうすると、僕がテレビでやりたいこととは逆なんですよね。僕は地上波だけで出会える番組を作りたいと思っているので、「TVerには出しません」っていうと「じゃあやらなくていい」っていわれる状況になってきていて。どんどんテレビの居場所がなくなってるんじゃないのかなっていうのは、より一層感じています。

——上出さんはYouTubeの自由さみたいな、あこがれる部分はありますか?

上出:そこはゼロではないです。でも「テレビでできないことがYouTubeではできます」っていうのはちょっと嘘だと思っていて、内容的にはYouTubeでできることはだいたいテレビでできるんじゃないかって思います。それこそ『街録ch』みたいな番組をテレビでできないかっていったら、できないことはない。ただ確かに制限はかかりますけどね。

三谷:YouTubeも肌の露出に関していうと、テレビより厳しい。Tバックでも18禁コンテンツになっちゃいますしね。

上出:映像に関してはGoogleのレギュレーションはテレビより厳しいですよね。ただ思想の偏りに関しては特に厳しい規定はないと思うんです。でも、一応「テレビ局は中立」っていう考えなので、そういう意味では思想が偏っている人なんかを出すのは慎重になるし、あとはクレームを恐れるか否かっていうことだけだと思います。

三谷:スポンサーとかつけないで、個人の支援者をいっぱい募って、コンテンツ作るみたいな仕組みができればそんなこと気にしなくてもいいんでしょうけどね。

上出:あるいはもっと意思を共有できるスポンサーがいればいいんですけど。「これには意味があるんだ」ってことをちゃんと共有できれば、テレビでできることって広がると思います。三谷さんは、やっぱりYouTubeは自由だなって感じますか?

三谷:そもそも僕はテレビ局員じゃなくてフリーのディレクターなので、VTR作ったら必ず誰かのチェックがあって、そこで直されることも多くて。それが嫌だったので、YouTubeは自分で全部決められるので、楽しいですね。「出したい」って思ったものを、その日のうちに出せるスピード感も楽だなって思います。

あと、タレントをブッキングする際にも、例えば東野(幸治)さんにDMを送ったら「OK」って本人から連絡があって、あとは「一応マネージャーにも連絡しておいて」とかで成立する。これがテレビだと、僕が担当ディレクターだとしたら、局のチーフプロデューサーやアシスタントプロデューサーみたいな人が必ず付いてきて、さらにADがきてとかで、ただインタビューを撮るだけで4、5人とかになる。そうなると、『街録ch』のような空気感にはならない。そうしたフットワークの軽さはいいなと思ってます。

でも、テレビも面白いものは今もありますよね。昨年放送された『水曜のダウンタウン』の「すてきに帯らいふ」の企画とかびっくりしました。こんなことが実現できるんだ!って。逆に60年くらいのテレビの歴史の中で、まだ新しいことが起こってるんだって衝撃を受けました。

よく「昔のテレビは面白かった」っていう人がいるけど、昔の伝説的な番組が面白かっただけで、たいていの番組はつまんないよ? って思う。伝説の番組 VS 今の世の中の9割方の番組を比べてるから、そりゃ伝説の番組が勝つでしょってだけで。しかもコンテンツがない時代に新鮮だっただけで、今みたいに世の中にコンテンツが溢れてる中で見たらそこまでだったりしますよね。だから、今のテレビでも面白い番組はあるし、卑下する必要はないと思いますけど。

『街録ch』をライフワークに

上出:YouTubeですごく成功して、今地上波で、三谷さんが好きな番組やっていいですよって言われたらやりたいことはありますか? 例えば「1000万円で番組作ってください」って言われたとしたらどんな番組を作りますか。

三谷:それは考えたことなかったですね。今度4月14日に『街録ch』のイベントを草月ホールでやるんですけど、そこで『街録ch』をやるきっかけになった東野さんの番組(『その他の人に会ってみた』)みたいなことができそうなんです。僕がVTRを作って、東野さんとかに突っ込んでもらうっていう。結局、僕はバラエティ出身なので、どっかで人に笑ってもらいたい気持ちがあって。そのイベントもテレビの客入りの番組みたいなもので、タレントさんにもお客さんにも笑ってもらって、その現場を見たいなと思っています。

でも、テレビだとどうですかね。地上波ってなった時に、さっきも言ったように僕はテレビ局員じゃなくて外部の人間なので、きっと大変だなって思っちゃいますね。後から上の人達に「あーでもない、こーでもない」って絶対に言われそうですし。だからとりあえずそれに時間使うくらいだったら、まずは『街録ch』の登録者数100万人を達成することに力を注ぎたいですね。

今は(登録者数)60万ちょいくらいなんですが、100万ってなかなか大変で。だから今度のイベントでも何かしら話題作りができればとは考えています。

上出:『街録ch』をもっと成長させるために、いろんな策を練ってるんですね。

三谷:今はテレビをやるよりは、『街録ch』を一生続けることのほうがメインだと思っていて。あまり再生されなくなっても、やり続けていたら、50歳になっても20歳の才能ある人とマンツーマンで1~2時間話を聞けるチャンスがあるじゃないすか。それって幸せなことだと思っていて。

絶対に人気の浮き沈みはあると思うので、全然再生されなくて、「オワコン」って言われても続けようと思っています。最悪自分一人でできるし、月に1本の投稿になってもいいかなと。だからライフワークとしてやっていきたいんです。

中編に続く

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版。現在はSpotifyにて史上初の音声による超没入型ドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』を配信中。
https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
https://open.spotify.com/show/4nNKlfOpKLybWKxhZ9lrzU
Twitter:@HYPERHARDBOILED

三谷三四郎(みたに・さんしろう)
ディレクター。1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。2020年3月にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治など話題の人物にインタビューしている。
https://www.youtube.com/c/街録ch-あなたの人生-教えて下さい
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Photography Masashi Ura

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「わかりやすさ至上主義が成長を止めてしまう」 テレ東・上出遼平に聞くテレビアップデート論-後編- https://tokion.jp/2020/12/10/modernizing-tv-part2/ Thu, 10 Dec 2020 06:00:12 +0000 https://tokion.jp/?p=13298 テレビ東京で、プロデューサー兼ディレクターとして働く上出遼平に聞く、「テレビアップデート論」。後編では、テレビ局の新たな可能性について。

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テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』のディレクター兼プロデューサーを務めるテレビ東京の上出遼平。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版し、テレビ業界外からも注目を集めている。テレビ業界で働きつつも、そこに染まらず、独自の視点で番組を制作する姿勢に共感する人は多い。そんな上出に前編に引き続き、「テレビはアップデートできるのか」をテーマに話を聞いた。後編では、「わかりやすさ至上主義」から「音声ドキュメンタリーの可能性」などを語ってもらった。

——前回の話からの続きとなりますが、テレビ業界の未来を考えると、視聴者の意識も変わっていく必要があると?

上出遼平(以下、上出):テレビ局の人間がこんなことを言うと、責任転嫁も甚だしく聞こえるかもしれませんが、制作者はできることを精一杯やるので、視聴者はただの消費者じゃなく、共に文化を作っていく担い手であってほしいと思っています。ちゃんとリテラシーをもった受け手がたくさん存在して、そのフィードバックでどんどん良い番組が育まれていく。それが当たり前のはずだけど、今は消費者も楽しければそれでよし、楽しくなかったらクレームという世界が広がってしまっている。それが成熟した社会なのか、というと疑問ではありますよね。もちろん、我々テレビ制作者の努力不足は否めませんが。

——テレビに限らず、わかりやすいものを求める傾向が強まっていると思いますが、それは番組を作るうえでも求められますか?

上出:求められまくりです(笑)。逆にそれだけを求められていると言っても過言ではないかもしれません。僕は「わかりやすさ至上主義」と呼んでいます。最近はもうほとんどありませんが、例えば僕が1ディレクターとして誰かの番組のVTRを作って、それを上の人にチェックしてもらうと、まず「わかりにくい」と言われる。判断基準は「おもしろい・おもしろくない」よりも、「わかりやすい・わかりにくい」ということになってしまっている。本当は、おもしろいけどわかりにくいものこそが、新しい価値を作っていくと思っています。「わかりにくいけどおもしろいぞ」っていうモヤっとした混乱みたいなものを解きほぐしていく過程が制作者や受け手の成長になっていくはず。だから、わかりやすさを最上位に置いた瞬間、成長が止まってしまうんです。

前回の話に戻りますが、僕は遅いなりにテレビ番組は進化していると言ったけど、わかりやすさのプライオリティが高くなっていくことは、成長の速度をさらに遅らせていくことに直結します。別の言い方をすると、「わかりやすさ至上主義」は、作り手の「視聴者はこれ以上は理解できないだろう」という過小評価に基づいている。そこに高め合いはなくて、低いところにコンテンツを投げ込んでいるだけなので、ちょっとでもわかりにくいと「もっとわかりやすくしてよ」ってなっちゃう。それが今のテレビ作りになっている。

ぼーっとしていても入ってくるような、なるべく考えさせない。それが消費者中心社会の「わかりやすさ至上主義」の世界。そんな中、無理やり立ちあげたのが『ハイパーハードボイルドグルメリポート』なんです。なんの説明もないし、なんのナレーションもないまま進んでいって、こんなことがあったよ、というのを見せて終わる。番組側の解釈もないから受け手はしんどい。ぼーっと見ていると訳がわからなくて、チャンネルを変えちゃう。当然視聴率が悪いから続かないという感じ(笑)。

——一方で、単純に何も考えずにテレビを楽しみたいというニーズもあると思いますが。

上出:ニーズがあるどころか、視聴率の分布を見ればそちらが圧倒的に優勢です。安心感のある出演者、慣れ親しんだ起承転結、待ち望んだどんでん返し……。高視聴率を取る番組はこれらの要素を備えています。小難しい話や、心理的な負担を伴う話を聞きたがっている人はテレビじゃなくてネットにアクセスします。当たり前ですよね。「アロママッサージ」を受けに来た人に突然「足つぼ」かましたら怒られますよ。だけど、アロママッサージに来たお客さんにまっとうなアロママッサージだけを施術したとしたら、そのお客さんは満足して帰るかもしれないけどそれじゃもうダメなんです。一か八か、最後に「コルギ」をかまして「気持ちよくなった上に顔も小さくなった!」と150%の満足感を持って帰ってもらう。そうすると、そのお客さんは店を友達に勧めてくれるわけです。もともとマッサージ好きじゃない友達にも勧めてくれるかもしれない。「とりあえず行ってみてよ。ただのマッサージじゃないんだよ」って。今のテレビにはそれが必要なんです。新しい客を呼んでもらえるような手を打たないといけない。

——最近では芸能人でもYouTubeで自身の番組を持つ人も増えています。自分で発信できる時代に、テレビ番組としての役割はなんだと思いますか?

上出:やっぱり倫理じゃないですかね。さっき(前編)は「テレビ局も営利企業であるから金を稼ぐことが必須である」と話しましたが、その前提はYouTubeのほうが一層顕著に当てはまります。我々テレビ局はまだ企業としての体力を持っているので番組作りに幅を持たせられますが、YouTubeの場合は1本1本で確実に金を稼いでいかなければなりません。そうなった時に、倫理が置き去りにされる危険性はテレビより高いと言えるでしょう。裏を返せば、倫理感を失ったテレビ局の存在意義は限りなくゼロです。

——VRなども普及してきた中で、テレビもVRで見るとか、視聴体験も変わってくるのでしょうか?

上出:正直言えば、テレビの最大の強みは受け手にとっての“手軽さ”だと思うので、身体に装着する機材が必要になるようなものは相性が良くありません。そこには一定の能動性が必要なので、やはりネットの独壇場だと思います。また、技術革新が進んで手軽なVRが実現した際に我々のコンテンツと融合していくことは十分あり得るでしょうが、そうなった時には「テレビ」の定義がもはや不明になっているでしょう。

音声ドキュメンタリーという新たな挑戦

——そうしたわかりやすさ至上主義が求められる中で、上出さんは新たに音声コンテンツをスタートするそうですね?

上出:簡単に言うと国内版『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の音声ドキュメンタリーです。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』よりも、もっとわかりにくいけど、受け手が没入して想像してくれると、もっとエクストリームで楽しい体験ができると思っています。ある意味では受け手を信じていて「ついてきてくれよ」って想いで作りました。

——映像ではなく音声だけに絞ったのはどういった意図があったんですか?

上出:もともと『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、「これまでのロケクルー(3〜4人、多い時で10人)では入っていけない場所に、ディレクター1人なら入っていける。そしてそこには今まで誰も見たことのないストーリーが待っている」というコンセプトでスタートしました。やってみて、そのもくろみは間違っていませんでした。だけど悪い癖で、カメラがなければさらにもっと先に入って行けると思うようになりました。音声コンテンツでは字幕がつけられないので、外国では実現不可能だったんですが、このコロナ禍で日本でロケをせざる得ない状況になり、それなら音声だけでも成立するし、ベストチャンスだと思ってやってみました。そしたらやっぱり、相手の警戒心が低くて、今までよりもすごくリアルな言葉が録れました。今までにこんなリアルな突撃系の音声コンテンツってなかったんじゃないですか。

——確かに音声コンテンツのほうが没入感は高そうですね。

上出:そうですね。作り手側の発想で音声コンテンツを作ったんですが、受け手側としてもものすごく新鮮で刺激的で、音声ドキュメンタリーにはものすごく大きな可能性を感じました。テレビの映像って受け取り手としては受け取りやすいんですが、モニターっていう明らかに外界を感じさせる障壁(窓)が用意されているので、その世界にどっぷり入っていくことが難しい。それに比べて音声コンテンツだと、鼓膜に直接外界が入ってくるので、仕組みとしてはその空間にいる感覚に近い体験ができます。

あともう1つは情報量が映像とは違って圧倒的に少ない。映像はたくさんの情報があって、それがあるからわかりやすいけど、受け手としては限りなく受け身にならざるを得ない。次から次へとやってくる情報を自分の中に取り込んでいくだけ。音声だと情報量が一気に減るので、自分の脳みそを動かして、想像力を用いないと楽しめないんです。それは体験としてすごくおもしろいと思います。

——取材はかなり進んでいるんですか?

上出:わりと進んでいます。キーワードとしては「令和・日本・不良群像」で、令和の「不良」といわれるジャンルの人、いろんな人にスポットを当てて、そちら側から今の日本を描くイメージです。基本的には突撃取材をして、一緒に飯を食いながら話を聞くという感じです。

——そこでも一緒に飯を食べるんですね(笑)。

上出:そうですね。基本的にはやはり一緒に飯を食べたいんです。街宣右翼の方にも取材しています。8月の終戦記念日の靖国神社に行って、黒塗りの街宣車で走り回っている人に「すみません!」って声をかけて、一緒に飯を食いに行く。そこで「そんなことを考えて、こんなことしているんだって」ってすごく新鮮な話が聞けました。普段、道ですれ違ったら絶対目を背けるような、そんな人達も、話すとその辺にいる人と変わらないところもたくさんあるし、もちろん違うところも出てきて、取材していてめちゃくちゃおもしろいんです。あとは僕以外のディレクターが担当したセックスワーカーの女性の回もあります。

——取材先は知り合いに紹介してもらうとかではないんですね。

上出:もちろんこの辺に行けば会えるだろうなと情報収集はしていきますが、完全アポなしで、その場で声をかけて交渉しています。

——取材相手も一筋縄ではいかなそうですが、そうした人達とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

上出:いえ、みんな僕達と同じなので特に気をつけることもありません。会社の上司と話をする時のほうが恐ろしいです。

——お話を聞いただけでも大変おもしろそうなコンテンツですね。どこで配信されるんですか?

上出:これはまだ検討中で、僕はあんまりプラットフォームにこだわりがなくて、受け取る人が受け取りやすい場所に置ければいいと思っています。だからいろいろな映像・音声プラットフォームにうまいことリンクしていければと考えています。

「クリエイティブ動物園」ことテレ東・伊藤部とは?

——上出さんは今春からテレビ東京の名物プロデューサー・伊藤隆行さんが部長を務める「クリエイティブビジネス制作チーム」(以下、伊藤部)に所属になったんですよね。今までと変わった部分はありますか?

上出:やりやすくなりました。僕がもともと会社員としては破綻している部分がすごくあったので、間に伊藤さんが入ってくれるようになって会社員的に助かっています。あと、「地上波にこだわらなくていいよ」っていうのは僕にとっての免罪符みたいなものを手に入れたというか。今まで何やっても、地上波で響くものが作れてなくて、今回の音声コンテンツもそうだけど、広く皆さんに喜んでいただくことが得意じゃない。たぶん僕は、自分が「これは絶対おもしろい」と思うもの以外は作れない。それは甘えともエゴとも言えるけど、1部の人が強く支持してくれるのが僕のやりたいモノづくりだし、目指すところ。例えば今後はそれが課金にもつながると思うし。もともと伊藤部というところは地上波の視聴率にとらわれない収益のあげ方を模索しようという部署なので、ぴったりといえばぴったりなんです。

——地上波のテレビに限界を感じている部分もありますか?

上出:収益的にはもちろん縮小の一途をたどっているので限界は感じています。それにすがっていたら、いずれ滅びるというのはみんな感じているところ。地上波全体が滅びるわけじゃなく、弱者が淘汰されるのは火を見るよりも明らか。テレビ東京は東京のテレビ局の中では弱者なので、イベントや配信、物販とかそういう方向でどうにか収益を上げることを考えていかないといけない。

——テレビ東京はイベントやLINE、YouTubeなどでのライブ配信も積極的ですよね。Twitterでもテレビ東京の人の発信はとても個人が際立っていて、おもしろいなと感じています。上出さんは「テレビ東京は弱者」と言いましたが、「学生が就職したいテレビ局」でも1位になるなど、テレビ東京のファンは確実に増えていると思います。そうしたファンを増やしていくことはうまいのかなと思いますが?

上出:僕は疑ってますよ、その「1位」を。本当は日テレでしょ?って。ただ、わかるところもあります。若者たちが、組織の歯車に成り下がりたくないという思いを持っているのだとしたら、明らかにテレビ東京が輝いて見えるでしょう。組織としてのパワーが弱いから、テレビ東京は個の力を引き出し切って利用しないと生き残れない。結果、エンタメラジオモンスター佐久間(宣行)Pのような人が生まれます。あとは、「人の言うことを聞かない」っていうのが我々の長所だと思っています。違うかもしれないけど。まぁそんなようなことが、若者達の目に魅力的に映っているのかもしれません。

——確かに、テレビ東京は外から見ると自由にやっていそうに見えます。今回の音声ドキュメンタリーも「テレ東」らしいユニークな発想で。今回の音声ドキュメンタリーはテレビ局にとっても新たな活路となりそうですね。

上出:すごく可能性は感じています。本当に音声って嘘がつけなくて。人間は声で真実を聞き取ることができるそうです。だから「ラジオのリスナーはラジオを信用している」ということにもつながっているのかもしれないです。ラジオには嘘がないとみんな思っているのは、パーソナリティーが嘘をついたらわかるから。今回の音声ドキュメンタリーに関しても、テレビの場合はドキュメンタリーといってもいろんな嘘をついたり、仕込んだりしながら作っていくのが常だから、普通のテレビ制作者だとできないと思う。逆に僕らは突撃することを楽しむので、嘘なしで番組を作れている。だから音声で作ってもおもしろい作品に仕上がっている。

——いつ頃公開される予定ですか?

上出:来年の早い段階で公開される予定です。ぜひ、期待してください。あと音声コンテンツをカセットテープでも発売できればと思っていて、60分テープで。そちらも楽しみに待っていてください。でもおもしろくなかったらすいません。

——上出さん自身の話がすごくおもしろいので、音声コンテンツとは相性よさそうですね。以前、佐久間さんのラジオ(『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』)に出演された時もすごくおもしろかったです。ご自身でもラジオをやってみたいと思いますか?

上出:それは無理だと思います。僕は頭の回転が遅くて、瞬発力がない。だから生放送の番組が大嫌いです。じっくり考えて、少しずつ言語化していく方が向いているので、ラジオで話すよりは文章を書きたいですね。

上出遼平
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版するなど、活動の幅を広げている。Twitter:@HYPERHARDBOILED

Photography Yusuke Abe(YARD)

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「AかBかだけではなく、Cを探すのがテレビ番組制作者の義務」 テレ東・上出遼平に聞くテレビアップデート論-前編-  https://tokion.jp/2020/11/10/modernizing-tv-part1/ Tue, 10 Nov 2020 06:00:17 +0000 https://tokion.jp/?p=10350 テレビ東京で、プロデューサー兼ディレクターとして働く上出遼平に聞く、「テレビアップデート論」。

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テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』のディレクター兼プロデューサーを務めるテレビ東京の上出遼平。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版し、テレビ業界外からも注目を集めている。テレビ業界で働きつつも、そこに染まらず、独自の視点で番組を制作する姿勢に共感する人は多い。そんな上出遼平に「テレビはアップデートできるのか」をテーマに話を聞いた。前編では、「古い価値観に基づく番組制作」や「テレビの構造的問題」などを語ってもらった。

——今回のテーマとして「テレビはアップデートできるのか」についてお聞きできればと考えています。そもそもこのテーマを思いついたのが、コロナ禍で家にいることが増えたことで、テレビ番組を見る機会も増えました。そこで昔と変わらない価値観のテレビ番組を見て、「テレビって進化しないんだな」と感じたんです。その辺り、実際現場で制作されている上出さんはどう考えていますか?

上出遼平(以下、上出):一見、進化してなさそうに見えて、実はテレビ番組は少しずつ進化していて、20年前の番組と現在の番組を見比べたら全く違うものになっている。よく企画会議なんかで、「昔の○○みたいな番組できないかな」って言う人がいるんですが、その番組を今見たら全然おもしろくないってことも多いです。だから僕としては、「テレビ番組はどんどんおもしろくなっている」と思っています。一方で、それが前提にありつつ、その変化の速度はウェブメディアなどと比べると大変遅い。もっともっと進化していってもいいはずなのに、と感じることはもちろんあります。

——例えばよくバラエティー番組で見られる「容姿をいじって笑いをとる」「古い価値観によるツッコミ」なども、今の時代には合っていないと思ったりしますが。

上出:僕もそう思います。自分自身がそういうバラエティーを作ったことがないので、一般的な視聴者と同じ感覚で、業界の感性が時代の潮流からは3周遅れくらいしていると感じています。それこそ、テレビ業界には男女差別の問題、人種差別の問題、ルッキズムの問題もある。最近は出演するタレントさん自身がその問題について発言することも増えていて、敏感な制作者はそういった番組作りはもうやってないはずです。

ただテレビの制作現場は村社会化していて、番組も基本は身内で作っている。長寿番組だと20年近く同じようなスタッフで作っているというケースもありますし、そうした現場だと新しい価値観を拒絶してしまうこともあります。さらに制作現場の職場環境も、以前と比べるとよくなっているとはいえ、まだまだ厳しく、女性の活躍の機会が限られていることもあって、男性優位の業界になっている。その結果、男性だらけの中で番組が作られているので、女性の視点が欠けるのは当然なんです。ただ、これも少しずつ改善されています。「少しずつよくなっているからいいじゃないか」とは言わないですが、「だからテレビはダメなんだ」と一括りにすることもできないとは思っています。

さらに付け加えると、テレビ番組は制作者の自己表現の場としてやっているわけではなく、視聴者からのフィードバックの結果、今の内容になっているところもあり、テレビと視聴者の共犯関係の中で生まれているものだと認識したほうがいい。報道は別であるべきですが、バラエティーは売れるものを作ることが求められているので、視聴者の態度ってものもすごく重要なんです。責任転嫁に聞こえるかもしれないけれど、テレビを批判するなら、テレビ局と視聴者の両方を批判的に点検しないといけない。そうしないと業界が先には進みません。それが欠けがちな視点だと思います。

——なるほど。では、まだまだそうした「容姿いじり」「古い価値観によるツッコミ」は視聴者にも容認されていると。

上出:そこが今ちょうど意識が変化しているところだと思います。ただ「容姿の言及」が一概にすべて悪いかというとこれまた難しい問題で。どこを出発点にこの事案を考えるかで結論が変わってくると思います。例えばルッキズムの問題でいうと「きれいですね」って言うことも「美しい/美しくない」という概念を作ってしまうからいけないという考えもある。ただし、「言わなくなること」が、はたしてその概念を「消滅させること」になるのかどうか。時代や土地によって変化こそすれ、「人間の美醜」というものは存在し続けるとすれば、それを「隠すだけ」になりはしないか。この潮流が、「嫌な思いをする人がいるから、ないものとしよう」と、なんでもかんでも臭いものにふたをしていくことにしかならないのかもしれない。そういう可能性も懸念すべきことだと思います。

また、逆の見方をすると、見た目の美しさや見た目の滑稽さを武器にすることを許さない社会ということになってしまう。その流れは本当に幸せなのかっていうことも考えなければいけない。本人が嫌がる「いじり」はもちろんダメなんですが、本人がそれを武器にして笑いをとったりすることまでは否定すべきではないと思います。ただ、テレビに出ている誰かが武器としている容姿の特徴が、テレビの外の人にとっては全然武器になり得ないということももちろんあります。例えば「○○さんに似ていると言われた人が、○○さんが番組でいじられるのを見て、嫌な思いをする」こともあるわけで、そういう人のことを忘れて番組を作ることはとても危険です。笑うほうにはなんの負担もありませんが、笑われるほうには大きな負担がかかります。

テレビ業界は遅れている部分があるし、偏った目線だし、多様な視線が欠けているけれど、「今世界がこういう流れだから、それに乗るべきなのに乗ってなくないですか?」って議論に対しては、「その潮流自体をなぜ正解とするのか?」ということを、一回疑ってみないとダメじゃないのかという意識もあります。社会的潮流が「こっちだ」となったら、そっちじゃないほうに耳を傾けるのも大事なことなので。AかBかだけじゃなく、世界がBで、テレビがAだから、テレビもBに行けじゃなく、Cを探す義務が僕達テレビ番組制作者にはあるような気がしています。

テレビに出ることのリスクは自覚するべき

——最近はネット炎上みたいなことが過剰すぎると感じるところもあって、一方的にたたきやすいものをたたくような風潮があると思います。特にテレビ業界はそれを受けやすいと思いますが、それについてはどう感じていますか?

上出:いろいろ感じるところはあります……。番組が炎上することもあれば、出演者が炎上する場合もありますよね。もちろん炎上自体はほめられるべきことではないですが、トリッキーなことを言えば、そのためにテレビ番組というものが存在している部分もあると思います。みんなのストレスがSNSへの批判書き込みで解消できるのであれば、それはテレビの立派なサービスの一つなんじゃないか、という見方もできる。全くもって本懐ではないですが。

——テレビ番組自体が批判されることはそういう見方ができますが、それが個人の批判に繋がるのは問題だと思いますが。

上出:もちろん個人に対しては批判する人達が悪いし、番組制作サイドはしっかりと出演者を守るべきであるのは大前提なんですが、この時代にテレビに出るにはそういったリスクがあるということは、自分を守るためにも絶対に自覚すべきだと思う。そのリスクを考えずにテレビに出ようとするのはあまりにも危険です。

——例えば出演者のコメントで「これ使ったら物議を醸す」というものを、使うべきか、使わないべきかの判断は、テレビディレクターとしてはどう判断するんですか?

上出:それはすごく難しいですね…。概して本人が意図していなかったり、気を抜いた瞬間に出た言葉が一番おもしろい。だから僕らテレビディレクターとしては絶対にそこは使いたいと思っています。それがお互いに許されているのが、タレントとテレビマンの関係。だからおもしろいと思ったら、タレントの言葉は容赦なく使います。ただ難しいのはテレビタレントじゃない人が出演する場合です。「あんな言葉は使わないでほしかった」と言われることもありますが、「私はこう見せたい・こう見られたい」という部分はおもしろくないし、その人のPR動画を作っているわけではないので、意図していない場面が使われると思ったほうがいい。ただ、これも番組によって考えは違うし、「出演者」と「被取材者」とでも話はかなり変わります。「リアリティーショー」で問題が起こるのは、そのあたりの境界線が曖昧だからだと思います。

——確かに「出演者」であれば、何かしらの役割を求められてキャスティングされるわけで、そこは理解しておかないといけないですね。少し話が変わるんですが、ネットやSNSの普及だったり、そもそも家にテレビがない人など、若者の「テレビ離れ」がいわれていますが、そういった現状に対してはどう感じていますか?

上出:僕も普段はリアルタイムではテレビを全然見ないので、人ごとじゃないです(笑)。ただ、「テレビ離れ」とはいわれていますが、YouTubeだったり、TVer、Netflix、Amazon Primeなどを通じて、テレビコンテンツはある程度見てもらえていると思っています。視聴方法が変わってきただけとも考えられる。そもそも「この時間じゃないと見られない」という意味がわからないし、僕より下の世代はみんなそうだと思う。見たいタイミングで最初から見られたらいいし、スマホで見たいだろうし。アクセスしやすいデバイス・プラットフォームに合わせてコンテンツを供給していけば基本的にはいいと思っています。

偽コンプライアンスが台頭している

——テレビはコンプライアンスによって、昔より自由度がなくなっているともいわれていますが、実際に感じる部分は?

上出:僕は本当に全くないです。「これが正しくて、これがおもしろいんだ」って思って作った時に、何かにひっかかることはありえない。それこそ「コンプライアンスで番組作りが不自由だ」と思う人は、単純に自分の感覚が時代に追い付いていないだけだと思います。そこがテレビマンの腕の見せどころというか、そこに時代感覚をアダプトできているかどうかがわかる。それがずれていたらコンプライアンス的にもアウトだろうし、おもしろい番組は作れない。今おもしろいコンテンツを作れる人は、問題を感じずに作れているはずです。

そもそも「コンプライアンス」の定義自体も曖昧で、「テレビ局が社会に伝播させるコンテンツとして正しいかどうか」というのが本来のコンプライアンスだと思いますが、今はスポンサーのご機嫌をそこねないかどうかみたいな、偽コンプライアンスが台頭してきて、それに対しては疑問を感じています。そんな僕はスポンサーを気にせず番組を作って、しばしばひんしゅくを買っていますが。

——今後のテレビ業界はどうなっていくべきだと思いますか

上出:最近、バラエティーと報道との垣根が曖昧になっていてると思っています。僕が制作した『ハイパーハードボイルドグルメリポート』はバラエティーだけど報道的な空気感も少しあり、「世の中にこんな問題があるよ」ってことを見せています。一方でその逆方向の現象も起こっていて、報道番組といわれているものの中で、純粋な報道がどれほどあるかというとあまりない。どれもこれもエンターテインメントの部分がどんどん増幅していって、情報番組みたいになっている。報道番組なのに、全然報道じゃないものが紛れ込む。それがテレビの信用を失わせている要因だと思っています。

でも、なんでそうなったかというと、第一に民放テレビ局が営利企業であるから。どんな報道だろうがバラエティーだろうが、なんであれお金を稼げなければ存在意義がない。それが宿命なんです。純度100%の報道番組がなぜ作れないかというと、視聴率が稼げなくなったから。そこには視聴者の問題もある。視聴者が、派手で、大きな話題で、白黒はっきりした情報だけを求めた結果、勧善懲悪、水戸黄門スタイルの、「待ってました!この人の一言!」みたいな、気持ちいいものが求められていって、それがテレビ局にお金を生んでいったという経緯がある。そこの共犯の中で、中立的な報道がなくなっていって、政府に忖度したり、視聴者に忖度したりして、骨のない番組が多くなっていったんだと思います。

それはある意味でもう仕方がないことだと思いますが、どこにその救世主がいるかというと、スポンサーじゃないかと思ったりします。視聴率がとれなくても番組を存続させるには、端的に言ってその番組でテレビ局が稼げればいいわけです。つまり、視聴率以外のなんらかの価値(例えば社会正義)に対して企業にお金を出してもらう。それこそCSR活動の一つとして、「どんな番組にお金を出しているか」がその企業の評価につながるように、ステークホルダー達のコンセンサスを取れるようになれば…。気概のある企業と気概のある作り手が手を組んで、万人にウケはしないけどテレビの文化を引っぱっているとか、マスメディアとしての存在意義を保っているとか、そういう番組が存在できるようになればいいなと思います。的外れで夢見すぎですかね。

後編へ続く



上出遼平
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版するなど、活動の幅を広げている。Twitter:@HYPERHARDBOILED

Photography Yusuke Abe(YARD)

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