「テレビの可能性」と「YouTubeの自由さ」について 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 ×『街録ch』三谷三四郎 対談前編

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』など、独自のコンテンツで人気の上出遼平と、テレビ業界からYouTubeへと軸足を移し、開設から2年たらずで60万人以上のチャンネル登録者を獲得したYouTube番組『街録ch(がいろくチャンネル)』の三谷三四郎(みたに・さんしろう)による初対談。

地上波テレビをメインとする上出と、YouTubeをメインにする三谷だが、両者の番組に共通する点も多く、一般人へのインタビューをメインにしていること、登場する人物がひと癖もふた癖もあること、1対1で取材していること、取材対象者が本音を話していること、などが挙げられる。現在、多くのコンテンツがさまざまなメディアで配信される中で、この2人のコンテンツがなぜ注目を集めるのか。その理由を2人の会話から探っていく。

今回の対談は前・中・後編の3回。前編では、「テレビの可能性とYouTubeの自由さ」をメインに語ってもらった。

「やらせ」の面白さには限界がある

——お2人は初対面ということですが、三谷さんは以前から上出さんにお会いしたかったそうですね。

三谷三四郎(以下、三谷):上出さんを知ったのは、佐久間(宣行)さんがラジオ(『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』)で、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)のことを話しているのを聞いてからで。その時に佐久間さんが「後輩がヤバい番組作った」「危険すぎて普通だとあんな企画通らない。上出じゃないと通せなかった企画なんだよ」というようなことを言っていて、実際に番組を見てみたら、「ホントによくこの企画でOKがでたな」って衝撃を受けました。

上出遼平(以下、上出):厳密に言うとOKにはなってないですけどね。

三谷:なってないんですか?! じゃあどういう裏技であれが通ったんですか? それこそ個人のYouTuberがやるならわかるんですけど、テレビでもできるんだって驚きました。

上出:だましだまし、ですね。そもそも事前にあんな危険なところに行くとは言ってなくて、「リベリアって国に行って、いろんな人のご飯を見てきます。そこにちょっと悪徳警官とか、黒魔術師の飯とかも出ますよ」くらいで。まさかあんなところに行くとは誰も想像していなかったと思います。

三谷:正直、海外でのロケ番組って“危険な雰囲気”を演出で無理矢理作ることもできるじゃないですか。銃声が聞こえるシーンでも、実際は撃たれるはずのない場所にいるんだけど、「銃声がなって危険だ」みたいな作りにできる。『ハイパー』はそれとは明らかに違っていて。それは作っている側からするとわかるんですよね。よくこんなところに行ってんなーって感心しました。

上出:うれしいですね。そういう「まやかし」を知っている人が、ちゃんとこうした場で言ってくれたのは初めてです。

三谷:でも『ハイパー』のそうした作り方が評価されて、Netflixでも放送されたりするわけで。結局フリーのディレクターが海外に行くと、外国人を交えて“コント”を撮るのがめっちゃ上手くなるんですよね。芸人やタレントの面白いシーンを撮るために通訳とかに「向こうに“電流男”がいるって言わせて」って言ったりして。たぶん“電流男”までは実際には言わないけど、“サンダーなんちゃら”みたいなことを一言いえば、「OK撮れた」、みたいな感じになるので。

上出:あとはボイスオーバーで吹き替えちゃいますからね。海外ロケで吹き替えができたら、なんでもできちゃうんですよね。

三谷:そういう「海外ってなんでもできるよね」ってことを自慢するフリーの先輩とかもいますしね。だから海外ロケ番組のヤラセがどんどん表沙汰になるのも「そうだよな」って思っちゃいます。「コンプラが厳しくなって、なんでもかんでも言うなよ」とかっていうのとは、それは別だと思っていて。単純に「悪」だと思うんですよね。

上出:僕はまだ、そこまでの人には出会ってないですが、なかなかですね。でもそうした人と僕は見せたいものが違うし、目的も全然違う。そうした“コント”番組はタレントの面白い部分を見せたいけど、『ハイパー』の場合は、タレントがいないから、主役はあちら側(取材対象者)。だから彼らをコントロールして面白くするという発想ではそもそもない。三谷さんの『街録ch』もそうだと思うんですが。

三谷:そうですね。そもそもコントロールして面白くなるような人を募る資金力がないし、したいとも思ってないですね。

上出:面倒くさいですもんね、「やらせ」をするのって。

三谷:そういえばこの間、久しぶりに「やらせ」をしたんですよ。『ノンフェイクション』っていうテレビ大阪の番組から「嘘の番組を作ってくれ」ってオファーをいただいて。番組では『街録ch』と同じフォーマットで、3人分のインタビューが流れるんですが、そのうち2人のエピソードは本当で、1人は嘘という設定だったんですけど、やっぱりめっちゃ大変でした。

通常は、アポを取って、会って、長くても1時間半くらいで終わる。でもその番組で嘘の設定で作る時は、事前に4〜5時間かけて『街録ch』で実際に聞くような質問とその回答をバーッとまとめて、シナリオみたいなものを作って、それを局の人が仕込んでくれた女優さんに覚えてもらうんですが、それって短編小説を1冊覚えるみたいなことで。しかもその人が全部しゃべらないといけないから、撮りながら違和感があったら、「そんな言い方は普通の人はしないですよね」って言って、撮り直さなきゃいけない。だから撮影も倍以上時間がかかって。その時つくづく「やらせ」って金と時間がないとできないなって思いました。

上出:ホントそう。あと結局「やらせ」って、シナリオを書く人間の限界にぶつかるから、面白さも頭打ち。資金力とかコストの面もあるけど、面白さに限界があるっていうのは大きい気がします。

でも、その『ノンフェイクション』では、テレビ業界を離れた三谷さんがYouTubeで成功して、テレビで番組を作るって、ある意味凱旋みたいな気持ちもあったんですか。

三谷:受けた条件の1つは、1本は『ノンフェイクション』のために嘘のものを作るけど、後の2本は番組では7分ずつにまとめて、『街録ch』の方でそのフルバージョンを流していいっていうことだったんです。地上波のテレビに『街録ch』の映像が流れたら、YouTubeの方も盛り上がるし、登録者数も増えるかもっていう期待を込めて受けました。

「タレントの力ではなく、自分の演出で面白くするほうが楽しい」

上出:「地上波のテレビ番組を作りたい」とはもう思わないですか?

三谷:『ノンフェイクション』は楽しかったんですけど、「テレビ番組を作りたい」とは全く思わないですね。もともとフリーでテレビディレクターをやっていた時からお金をかけなくても、まぁまぁ番組を成立できるタイプだったので、そういう番組をよくやらされていて。だから、豪華なセットを組んで、大御所の演者さんに何かやってもらいたいって気持ちがなくて。

あと以前、大晦日に日テレでやっていた『笑ってはいけない』に参加した時に「あ、俺がやりたいのはこっちじゃないな」って明確に思ったんです。撮影現場で、「ここは芸人が死ぬ気で頑張る場所だ」と実感して、いちディレクターだと単なるサポーターになるだけだなと。関われたことはすごく光栄だし、楽しかったんですけど、次もやるかっていうとやらないなと。もともとダウンタウンさんの番組に関われたら嬉しいなって思ってテレビ業界入ったんですけど、やっぱりタレントの力じゃなくて、自分の演出で面白くするほうが楽しいなって、感じました。それができるのがYouTubeだったんですよね。

上出:それはわかりますね。今、多くのテレビディレクターは『街録ch』に本当に嫉妬していると思いますよ。だって「きっと自分にだって、できるに違いない!」って思うから。もちろんそんな簡単に真似できることじゃないんだけど。でも、テレビディクレターに限らず絶対いますよね、『街録ch』を見て「俺もできる!」って思う人は。

三谷:応援してくれる人が「似たようなチャンネルがありますよ」ってDMをくれたりするんですけど、「見るかぎりかなり実力がないんで大丈夫です」って返してます(笑)。

上出:強気ですね。

三谷:だって何かの真似をしている時点でもう負けてるじゃないですか。だから「真似するような人」には負けないなと思います。逆に全然別の角度からくる人のほうが怖いっていうか。

上出:『ハイパー』の真似っぽい番組もYouTubeにあったりするんですよね。でも『ハイパー』はYouTubeをやってないんで、YouTubeでは彼らの方が先駆者になっていて。だから僕は三谷さんほど余裕がなくて、ちょっと悔しいなって思ってますけどね。だってその番組が人気になったら、僕のほうが真似事に見える日がくるかもしれないし。

テレビによる偶然の可能性

——上出さんは「地上波のテレビ」にこだわりがあると以前話していましたが、その辺はどういった思いからですか?

上出:最近はテレビのパワーを軽視している人が多いですけど、テレビってやっぱり今でも超強いって思うんです。だから自分が面白いVTRを作って、それをどこで見せたいかっていうと、やっぱり地上波のテレビかもしくは映画館なんですよね。

あと、YouTubeは基本的には「これがみたい」って選んで見にいくスタイルだと思うんですけど、テレビだったらたまたま目にするってことができる。僕が作る番組って、割と暴力的なものが多くて、本当は選んで見にいくものだと思うんですけど、でもそれを無理矢理というか事故的に見せたいんですよね。それができるのはやっぱりテレビで、僕はもうちょっとそこにトライしたいなと思ってます。

でも、テレビも今は「全部配信します」って方向になっていて、企画を出しても「これってTVerの再生数回るのかな?」ってことが基準になってきていて、ネット受けがいい番組を地上波でやることになってきている。そうすると、僕がテレビでやりたいこととは逆なんですよね。僕は地上波だけで出会える番組を作りたいと思っているので、「TVerには出しません」っていうと「じゃあやらなくていい」っていわれる状況になってきていて。どんどんテレビの居場所がなくなってるんじゃないのかなっていうのは、より一層感じています。

——上出さんはYouTubeの自由さみたいな、あこがれる部分はありますか?

上出:そこはゼロではないです。でも「テレビでできないことがYouTubeではできます」っていうのはちょっと嘘だと思っていて、内容的にはYouTubeでできることはだいたいテレビでできるんじゃないかって思います。それこそ『街録ch』みたいな番組をテレビでできないかっていったら、できないことはない。ただ確かに制限はかかりますけどね。

三谷:YouTubeも肌の露出に関していうと、テレビより厳しい。Tバックでも18禁コンテンツになっちゃいますしね。

上出:映像に関してはGoogleのレギュレーションはテレビより厳しいですよね。ただ思想の偏りに関しては特に厳しい規定はないと思うんです。でも、一応「テレビ局は中立」っていう考えなので、そういう意味では思想が偏っている人なんかを出すのは慎重になるし、あとはクレームを恐れるか否かっていうことだけだと思います。

三谷:スポンサーとかつけないで、個人の支援者をいっぱい募って、コンテンツ作るみたいな仕組みができればそんなこと気にしなくてもいいんでしょうけどね。

上出:あるいはもっと意思を共有できるスポンサーがいればいいんですけど。「これには意味があるんだ」ってことをちゃんと共有できれば、テレビでできることって広がると思います。三谷さんは、やっぱりYouTubeは自由だなって感じますか?

三谷:そもそも僕はテレビ局員じゃなくてフリーのディレクターなので、VTR作ったら必ず誰かのチェックがあって、そこで直されることも多くて。それが嫌だったので、YouTubeは自分で全部決められるので、楽しいですね。「出したい」って思ったものを、その日のうちに出せるスピード感も楽だなって思います。

あと、タレントをブッキングする際にも、例えば東野(幸治)さんにDMを送ったら「OK」って本人から連絡があって、あとは「一応マネージャーにも連絡しておいて」とかで成立する。これがテレビだと、僕が担当ディレクターだとしたら、局のチーフプロデューサーやアシスタントプロデューサーみたいな人が必ず付いてきて、さらにADがきてとかで、ただインタビューを撮るだけで4、5人とかになる。そうなると、『街録ch』のような空気感にはならない。そうしたフットワークの軽さはいいなと思ってます。

でも、テレビも面白いものは今もありますよね。昨年放送された『水曜のダウンタウン』の「すてきに帯らいふ」の企画とかびっくりしました。こんなことが実現できるんだ!って。逆に60年くらいのテレビの歴史の中で、まだ新しいことが起こってるんだって衝撃を受けました。

よく「昔のテレビは面白かった」っていう人がいるけど、昔の伝説的な番組が面白かっただけで、たいていの番組はつまんないよ? って思う。伝説の番組 VS 今の世の中の9割方の番組を比べてるから、そりゃ伝説の番組が勝つでしょってだけで。しかもコンテンツがない時代に新鮮だっただけで、今みたいに世の中にコンテンツが溢れてる中で見たらそこまでだったりしますよね。だから、今のテレビでも面白い番組はあるし、卑下する必要はないと思いますけど。

『街録ch』をライフワークに

上出:YouTubeですごく成功して、今地上波で、三谷さんが好きな番組やっていいですよって言われたらやりたいことはありますか? 例えば「1000万円で番組作ってください」って言われたとしたらどんな番組を作りますか。

三谷:それは考えたことなかったですね。今度4月14日に『街録ch』のイベントを草月ホールでやるんですけど、そこで『街録ch』をやるきっかけになった東野さんの番組(『その他の人に会ってみた』)みたいなことができそうなんです。僕がVTRを作って、東野さんとかに突っ込んでもらうっていう。結局、僕はバラエティ出身なので、どっかで人に笑ってもらいたい気持ちがあって。そのイベントもテレビの客入りの番組みたいなもので、タレントさんにもお客さんにも笑ってもらって、その現場を見たいなと思っています。

でも、テレビだとどうですかね。地上波ってなった時に、さっきも言ったように僕はテレビ局員じゃなくて外部の人間なので、きっと大変だなって思っちゃいますね。後から上の人達に「あーでもない、こーでもない」って絶対に言われそうですし。だからとりあえずそれに時間使うくらいだったら、まずは『街録ch』の登録者数100万人を達成することに力を注ぎたいですね。

今は(登録者数)60万ちょいくらいなんですが、100万ってなかなか大変で。だから今度のイベントでも何かしら話題作りができればとは考えています。

上出:『街録ch』をもっと成長させるために、いろんな策を練ってるんですね。

三谷:今はテレビをやるよりは、『街録ch』を一生続けることのほうがメインだと思っていて。あまり再生されなくなっても、やり続けていたら、50歳になっても20歳の才能ある人とマンツーマンで1~2時間話を聞けるチャンスがあるじゃないすか。それって幸せなことだと思っていて。

絶対に人気の浮き沈みはあると思うので、全然再生されなくて、「オワコン」って言われても続けようと思っています。最悪自分一人でできるし、月に1本の投稿になってもいいかなと。だからライフワークとしてやっていきたいんです。

中編に続く

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版。現在はSpotifyにて史上初の音声による超没入型ドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』を配信中。
https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
https://open.spotify.com/show/4nNKlfOpKLybWKxhZ9lrzU
Twitter:@HYPERHARDBOILED

三谷三四郎(みたに・さんしろう)
ディレクター。1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。2020年3月にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治など話題の人物にインタビューしている。
https://www.youtube.com/c/街録ch-あなたの人生-教えて下さい
Twitter:@3tani34ro

Photography Masashi Ura

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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