「コンテンツが飽きられないための工夫」とは 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 × 『街録ch』三谷三四郎 対談後編

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』や『蓋』、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』など、独自のコンテンツで人気の上出遼平と、開設から2年たらずで60万人以上のチャンネル登録者を獲得したYouTube番組『街録ch』の三谷三四郎(みたに・さんしろう)による初対談。

後編では、ADという制度についてや「マインドモノマネ」、飽きられないために心掛けていることなどを語ってもらった。

前編はこちら
中編はこちら

テレビ業界で学べること

——最近、ADという呼び方がなくなるかもというニュースが話題になりましたが、AD時代苦労してきたお2人はそのことについてどう思いますか?

上出:日テレがADという呼び名を廃止するって言っていて、他局も追随するんじゃないかっていう話ですよね。確かヤングディレクターでYD。そうすると我々はアダルトディレクターだからADになるんですかね(笑)。

三谷:皮肉っすね(笑)。それでいうとどっちでもいいですけどね。

上出:「ADを廃止します」ってなったところで世論としては、「呼び名が変わったところで内状が変わらなければ意味ないだろう」って声も大きかった。でも僕はなくすならなくすでいいと思いますけどね。ADって座に押しとどめておくことによって、都合よく使われていた部分があると思うので。YDになったところで、その構造は変わらないかもしれないけど、おじさん達が「おいAD、お菓子買ってこい」って言う時に「あ、こいつADじゃなくYDだ」ってどっかで思えれば、「時代が変わったんだな」って意識喚起にはなると思うので、変更するのはいいんじゃないかとは思います。

三谷:NHKはもともとADいないですしね。

上出:そう。NHKにはADがいないんですよ。入った瞬間からディレクターですもんね。あれはうらやましかった。

三谷:すごいシステムだけど、それでいいと思いますよね。

上出:僕もそれでいいと思いますよ。みんなNHKスタイルで、最初からディレクター。その方が自覚も出てくると思うし、任された方が仕事を覚えるのも早い。責任を感じていない状態での仕事って得るものがものすごく少ないから、「この番組のディレクターなんだ」って言われたほうが頑張れるし、ミスも減ると思う。だから番組全体にとっていいなと思うので、僕の番組はさっき言った通り(中編参照)、1年目でディレクターになっちゃいます。

三谷:誰でも映像が作れて発信できちゃう時代に、わざわざADやるメリットって何かな?って考えた時に、一流というか、尊敬できるディレクターの下で働ければ、価値はあるのかなと思うんですけど、そこに行けなかった時に、そこで頑張る意味はどれだけあるのかなって思いますよね。映像の勉強に関しては、今はいくらでも教科書が世の中にあるし、YouTuberなんて毎日投稿しているから、編集の能力で言ったらテレビディレクターと同じくらいできる人もいっぱいいますし。

上出:テレビ業界に入らないと身に付かないものって、何かあるんですかね?

三谷:大きい予算の回し方は確かにテレビじゃないとできないかもしれないですけどね。あとなんだろう?

上出:直球でトップランナーの中に飛び込める可能性はまだテレビのほうがありますよね。

三谷:確かにいきなり一流の人と関われるのはメリットかもしれないですね。でも逆にそれをメリットとしてわかった上でテレビ業界に入らないといけないですよね。先輩ディレクターの編集したデータを自分でも保存しておくくらいのことやっておかないともったいない。

あと、やっててよかったのはとにかく忍耐力ですね。忍耐力はおかげさまで本当についたと思います。

上出:それにしても尋常じゃない。毎日あのクオリティーの動画をYouTubeに投稿してるんですもんね。

三谷:それで言うと毎日投稿できているのは、それはマクドナルド(マック)のバイトをやっていて、そこで効率のいい方法みたいなのを考えるクセを学んだおかげかもしれないです。マックって、何十年もやってるだけあって、マニュアルがすごくちゃんとしてるんですよね。マニュアルに1ミリも無駄がなくて、1時間に240個くらいのハンバーガー作るためにはこうやって回したほうがいいよね、みたいなことが体系化されているんです。

そこまでじゃないけど、『街録ch』も毎日投稿するために、僕が倒れないためにどうすればいいかなってシステム化していて。倒れた時に毎日投稿するのをやめようじゃなくて、僕が無理のない範囲でできるようにしているんです。だから取材対象者の文字起こしみたいなものはバイトにやってもらうとか、クオリティーに関わるところ以外はある程度人に任せられるシステムを考えました。

上出:休む時間はあるんですか?

三谷:毎週、日曜は休んでますよ。

上出:あれだけやっていてちゃんと休めているんですね。ロケは1日にまとめて何人かやるんですか?

三谷:ロケは週2回と決めていて、最初は3、4人撮ってたんですけど、4人だと最後のほうで集中力が切れるってわかったので、今は毎日投稿から週5投稿に変えて、1日で最大3人までにしています。それだと自分も楽しく話を聞けるので。あとの4日は編集と事務作業して、1日は必ず休んで家族と遊ぶ。

上出:すごい。マックのおかげですね

三谷:ホントにマックのおかげっす。時給720円のマックのアルバイト、やっといてよかったと思いましたもん。

上出:この記事読んだ若い子って、テレビ業界じゃなくてマック目指しますよ。

三谷:(笑)。何かを回す、膨大な作業を何人かで学ぶには一番勉強になると思います。

上出:僕も今やっときゃよかったな、って思いました。

「マインドモノマネ」で成功

上出:「応援される存在であるっていうのが大事だ」っていうのもどこかで話していましたよね? 

三谷:成功するためには、何をすればいいんだって考えていた時に、なんとなくキングコングの西野(亮廣)さんが毎日Voicyにあげている話を聞いていて、そこで「応援される」みたいなことをしょっちゅう言っていたんです。それで「応援されなきゃ人気になれないんだ」って思って。その考えは参考にさせてもらって。

あとオリエンタルラジオの中田敦彦さんのYouTubeもよく見ていて。そこで「YouTubeがヒットするためには、熱量と狂気がないとダメだ」「血を感じないと誰もそれに熱狂しない。その“血を感じる”のは人それぞれ違うかもしれないけど」みたいなことを言っていて。確かに僕が毎回インタビュアーとして聞いて編集している動画を、年間通して週に5本出しているのが異常だから。それを10年続けたら狂気になるかもって。

上出:もう十分狂気なんで、大丈夫だと思いますよ。

三谷:昔、東野(幸治)さんが「行列(行列のできる相談所)」のMCを任された時に「(明石家)さんまさんのマインドだけをモノマネする。そうするとなんか上手くいく」っていう話をしていて。さんまさんが話すことは真似しないけど、マインドだけ真似する。それはいいなと思って、だから僕も西野さんや中田さんのマインドだけモノマネして、それで運営してったら成功できましたね。

上出:「マインドモノマネ」、超いいですね。

三谷:やってることを真似したら終わると思うんですよ、同じことだから追いつけるわけないし。でも成功者のマインドを真似するのはいいと思う。だから今、僕が一番マインドをモノマネしてるは、コムドットのやまとさんなんです。

上出:そうなんですね。

三谷:だって、昨年の今頃はまだ登録者数は50万人とかだったけど、どうやって300万人いったのって調べ出したら、やっぱそこにはロジックがあって。TikTokを使ったYouTubeへの誘導の仕方とか、目標設定の仕方とか、すごく参考にしています。テレビディレクターからすれば、YouTuberって真似したくない相手じゃないですか。でも人気になるのは絶対に理由があるなと思って。

進化を続けるための目標設定

上出:今、登録者数はおよそ60万人じゃないですか。なんで100万人を目指したいんですか? 

三谷:最初は100万人にしたいとか思ってなかったんですけど、YouTubeの特性だけの話なんですけど、もう伸びなくてもいいかなって思っちゃった時点で、工夫をしなくなるし、結果オワコン化していくと思うんです。だから常に進化していかないといけないと思った時に、手っ取り早く目標にするのが登録者数だったんです。だから良くし続けるための指標としてチャンネル登録者数100万人を置いとくのが楽なんですよね。

上出:現状維持を目指したら、現状維持はできませんよね。

三谷:何ヵ月かに1回、見てくれる人達が「わっ!こんなことした」って思うことをしたほうがいいって考えるので。で、考えてやってみたら、新しい発見があって、単純にそっちのほうが楽しいっていうのもあります。

上出:トライしてみてよかったものはどんなことですか?

三谷:自分がカメラの前で思いをしゃべることですかね。最初はYouTuberみたいにしゃべるのは恥ずかしかったんですけど、新しく応援してくれる人が増えたりして、やってよかったなとは思います。最初は、「こんなんやってどう思われるかな」とか、心配だったんですけど、1回やったら慣れましたね。

上出:テレビマンあがりはそこを一番危惧しますよね。自撮りの動画を出すなんて恐ろしくてしょうがない。

三谷:でも「やりたくない」って思ったことは、やったほうが良いかもって思えたんで、そういう感じですかね。だから結果として、100万人の登録って難しいかもしれないんですけど、見ている人も含めて、そこを目指すことに意味があるんですよね。

上出:言うことで、周りも応援したくなるってありますよね。

三谷:「現状維持でいいんだよね」って人にみんな熱狂しないですから。だから自分の「こう見られたらヤダ」とか「寒い」っていうテレビマン的な発想を消そうと思って、一番最後に「1000万人まであと999万9500人」みたいに書いたんです。1000万人とか行けるわけないのに一応1000万人目指してる風にしたんです。プラス、「テレビ業界には生半可な気持ちでは戻らないぞ!」っていう意思表示のために、Twitterのプロフィールに「95%以上のテレビマンより実力があるディレクター」って書いたんです。それは別に誰かをバカにするとかじゃなくて、そう言っちゃえば、自分で向上せざるを得ない。言っちゃって、無理やり自分を追い込むっていう。

上出:ビッグマウススタイル。

三谷:亀田興毅スタイルっすね(笑)。それを、そんなことやらなそうな僕がやってるのがいいかなって。あと、『街録ch』って会いたい人に会えるんです。だから、番組がでかくなればなるほどいろんな人に会える可能性が広がる。もしかして1000万人いったら松本人志さんにインタビューできる可能性もあるわけじゃないですか。

——三谷さんは登録者数100万人を目指していろいろとやられていますが、上出さんは自分の番組が飽きられないためにやっていること、意識していることはありますか?

上出:自分がすごく飽きっぽいので、常に視聴者より先に僕が飽きてるんですよ。例えば『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(以下、『ハイパー』)のコアのコンセプト、軸の部分を変えずに、本を出したり、音声版をやったりして。本当は映像でやればいいんですけど、違うやり方でもやってみようって。ブランドはキープしたままで、見せ方だけを変えていくっていう。それでやってみたら、新しい発見もあって。

音声版の『ハイパー』はカメラもなくて、機材もレコーダー1個だけで取材しているんですけど、だからこそ聞ける話がやっぱりあって。相当話してくれるなっていうのは実感しています。

三谷:Spotify聞きながら、相手が緊張しないし、これは最強だなと思いました。

上出:表情とか見えないのが弱点ではあるんですが、逆に声ってすごく正直だなとも思っていて。へずまりゅうも声だけだったら、もっと敏感に「あれこれウソついてない?」って感じられたかもしれないです。表情はウソをつけるけど、声色は難しい。ラジオとかもリスナーはパーソナリティを信じてるっていいますよね。テレビを見ているより真実というか、ウソはすぐばれる。そういう風に自分の飽きを解消しながら、見ていてくれる人にもいろんなやりかたをみせたいと思ってます。

人の悩みは尽きない

上出:今まで何人くらいに話を聞いてきたんですか?

三谷:300人くらいですかね。2回とか3回会っている人もいるので。

上出:それだけの人数に話を聞けている人って少ないと思うんです。しかもコロナの、ちょっとトリッキーな時期に。何か見えてきたことってありますか? 社会のこととか世界のこととか、人間ってこうだとか?

三谷:「全員、一生悩んでる」っていうのは見えてきましたね。

上出:なるほど。

三谷:困っている人はもちろんですが、どんなに成功しても悩んでますし、悩みは一生尽きないんだなっていうのは思いました。

上出:それは勇気づけられますね。悩んでる時って「自分ばっかり」とか思うけど、みんな悩んでいるんですね。

三谷:そうですね。あとどんな人にも自己顕示欲はあるなって。でもそれは当たり前で、褒められてうれしいなんて当然で、だからそれを否定するってなんかよくない風潮かなって思います。「自己顕示欲の塊だ」みたいな悪口を言うのはよくないなって思うようになりました。SNSやってない人でも『街録ch』に出たい理由は、もしかしたら「大変だったね」って一言でもコメントしてくれたら嬉しいとか、心のどこかでそう思って来てるのかなって考えりしますね。

——最後に『街録ch』は4月にイベントをやりますが、『ハイパー』の次の展開は考えてますか?

上出:3月17日に「第3回 JAPAN PODCAST AWARDS」の授賞式があって、『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』が大賞とベストエンタメ賞、2部門で受賞したんですよ。特にエンタメの部門に入れてくれたのが僕は嬉しくて。『ハイパー』はエンタメとしてやっているので。あと、3月21日から『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』のシーズン2の配信がはじまりました。中核派のアジトを取材した「革命家飯」をはじめ、今後は「地下芸人飯」「ギャングスタラッパー飯」など配信予定なので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

三谷:それもカッコいいですね。『ハイパー』って数少ない打席でホームランを打ってるイメージです。『街録ch』は砂をずっとちょっとずつ集めていったら大きくなっていた感じなので、そこに至るまでの努力とかいっぱいあると思うけど、出力したときのワンパンチの威力に憧れます。

上出:それはやっぱりもともとテレビ発だからこそだ、ここまで派生しているんだと思います。だからテレビってまだまだ可能性ありますよ。

上出遼平(かみで・りょうへい)
テレビディレクター・プロデューサー。1989年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、2011年テレビ東京に入社。テレビ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集まで番組制作の全工程を担う。2020年3月には書籍『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を出版。現在はSpotifyにて史上初の音声による超没入型ドキュメンタリー『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』を配信中。
https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
https://open.spotify.com/show/4nNKlfOpKLybWKxhZ9lrzU
Twitter:@HYPERHARDBOILED

三谷三四郎(みたに・さんしろう)
ディレクター。1987年生まれ、東京都出身。法政大学卒業後、情報番組や『笑っていいとも!』などのADを経て、『さまぁ~ずの神ギ問』『有吉ジャポン』などのディレクターを務める。2020年3月にYouTubeチャンネル『街録ch~あなたの人生、教えて下さい~』を開設し、一般人のほか、東野幸治など話題の人物にインタビューしている。
https://www.youtube.com/c/街録ch-あなたの人生-教えて下さい
Twitter:@3tani34ro

Photography Masashi Ura

「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」シーズン2

「ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision」シーズン2
配信先:Spotify独占配信 
http://spoti.fi/hyper 
毎週月曜午後5時 最新話配信

『街録ch』2周年記念ライブ 街録ch-episode.0-

■『街録ch』2周年記念ライブ 街録ch-episode.0-
日程:4月14日
場所:草月ホール
住所:東京都港区赤坂7-2-21 草月会館B1F
時間:18:00開場、19:00スタート
料金:¥5,500(会場)、¥2,200(配信視聴)
チケット購入はこちら
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py22366

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

この記事を共有