ヴァーチャルライヴに見る“共体験” ラッパーkZmによるヴァーチャルライヴは未来の表現の1つとなるか

新世代ラッパー、kZmが7月31日から8月2日の3日間限定で開催したヴァーチャルライヴ「VIRTUAL DISTORTION」。このライヴはkZmが4月に発売した2ndアルバム『DISTORTION』のリリースパーティ的な立ち位置を含んだイベントだ。仮想空間上でエンターテインメントの共体験を可能とするヴァーチャル・パーク・システムVARPを使用し、クリエイティブ集団PARTYとのコラボレーションで実現した。具体的には専用アプリ「kZm LIVE VARP」をダウンロードした上で、端末から視聴することが可能となり、ライヴだけではなく、グラフィックデザイナーのVERDYや東京発次世代クルー、YouthQuakeが手掛けたオフィシャルグッズをイベント内で購入できる機会も設けた。コロナ禍を受けて、世界の音楽シーンを眺めてみると、アメリカでは4月下旬にトラヴィス・スコットがマルチプレイゲーム「FORTNITE」の中でヴァーチャルライヴを開催し、大きな反響を呼んだ。生活のあらゆるところにヴァーチャル空間がなじみつつある。そんな中で行われた日本発、世界初の専用アプリを用いたヴァーチャルライヴは、世の中に何を提示して見せたのか。当事者であるkZmに聞く。

オーディエンスに届ける上で現状考えられる最善の策

――ヴァーチャルライヴ「VIRTUAL DISTORTION」は、専用アプリをインストールすれば仮想空間上で世界中の人が参加できる形で行われました。世界初の試みとなった本公演ですが、どのような経緯で開催に至ったんですか?

kZm:4月に2ndアルバム『DISTORTION』を発表したんですが、コロナ禍でのリリースということで予定していた初のワンマンライヴが開催できない状況下にあったんです。それは作品を出す前からわかっていましたが、配信という形でライヴを開催することには個人的にしっくりきていない部分があったんですよ。配信以外の方法を模索している時に、同じくPARTYサイドも新たな共空間を作り出す動きをしていたんです。そのPARTYのスタッフと現在の自分の事務所の人間がもともと個人的なつながりを持っていたこともあって、VARPを使用したライヴをやってみようという話につながっていきました。最初の頃は実態がまったく見えていなかったんですけど、企画の概要や具体的に行う内容をディスカッションするうちに、自分のスタイルにも合いそうだと思って実現に向かっていったんです。具体的に話が進み始めたのは6月頭頃だったと思います。プロトタイプの映像を観たのは7月20日頃、開催直前だったんですけど「うわ、これはヤバイな!」と。本当に驚きましたね。

――ヴァーチャルライヴがkZmさんのスタイルに合うというのは、具体的にはどういう意味ですか?

kZm:オレは楽曲を作った動機や背景を自分なりにしっかりと設けた上で制作しているんですね。出来事に対して意味を考えた結果、曲として表現するスタイルなので、それに伴って作品の世界観が絵としてはっきり自分の中に描かれているんですよ。ヴァーチャルライヴは視覚的にどんなことでも映像として構築できるわけなので、やっぱり自分の頭の中のことを落とし込みやすいんです。この楽曲のこのパートはこんな感じ、という想像を具現化するのは、自分に向いているフォーマットだと考えています。現場でのライヴという表現方法を除けば、最もオーディエンスの心に刺さる最善の策なのかな。こんなやり方も今の時代だからありだと思いますね。

――時期を考えると、4月の緊急事態宣言中にアルバムをリリースしたことには驚きました。発売を延期することは考えなかったですか?

kZm:あの頃世間では“STAY HOME”がスローガンとして掲げられていた時期だったんですけど、あまりに娯楽がなさすぎる状態で、みんなが暇を持て余していましたよね。音楽はもともとは人々の娯楽。リリースをするかしないかというジャッジはビジネス上の問題であって、娯楽のはずなのにリリースを恣意的に止めてしまうというのは音楽のあるべき姿に失礼というか。ちょっと違うものになってしまうと思ったんです。それに作品が完成したのが、このタイミングだったことには、それなりに意味があることかもしれないとも思ったんです。

――『DISTORTION』はリリース後に大きな反響を呼び、Apple Musicアルバム総合ランキングで1位を獲得しました。

kZm:そうですね。自分としてはセールスを狙って制作したわけでもないし、好きなことをやりきって、かっこよく表現したかったというだけなので、そんな風に評価してもらえるとは思っていなかったですね。単純に嬉しかったです。いろんな人が聴いてくれて。

――「VIRTUAL DISTORTION」では、アルバム『DISTORTION』の世界観が表現されていたわけですが、実際にやってみた率直な感想をいただけますか?

kZm:本当にどうなるか自分にも予測できていなかったので、こんなかっこいいこともできるんだっていう驚きや感動がありました。仮想空間で自由度がここまで高いとなると、逆にどこまでもダサくなってしまう危険性もあるわけで。その不安がありましたけど、今回のプロジェクトに参加してくれたチームが持っていたセンスは間違いなく、すごく信用できるものだったので、振り返れば良い方向にとんとん拍子で進んでいったような感覚すらあります。本当にチームに恵まれた結果ですよね。

実際のライヴへ行ったような感覚が事実として存在した

――ヴァーチャルライヴならではのおもしろみはどこに感じましたか?

kZm:実際に「VIRTUAL DISTORTION」を友人と一緒に視聴したんですけど、実際にライヴに行ったような感覚に陥っている人が結構いたんです。後日、別の友人に聞いても感動していたりして、事実として共体験を得ていたんですよね。一緒に同じ場所にいなくともライヴを共有できている状況が現実としてあったので、シンプルに配信するよりもライヴ体験に近いものなのかもしれないと感じました。それと最近は、地元の東京を離れて制作をしたりしていたんですけど、久々に帰ってきて渋谷の高架下を車で通り過ぎた瞬間に「おお、あの時(ヴァーチャルライヴにおけるシーン)の、あの場面だ!」って感覚もあって。長くいる渋谷に対して、そんな感覚を持ったのは初めての経験だったので、自分自身にもヴァーチャルライヴが経験として刷り込まれているんだと感じました。

ーーちなみにヴァーチャルライヴ内ではVERDYとYouthQuakeによる公式グッズが発売されました。

kZm:VERDYくんに関しては現代の原宿ファッションシーンの顔だし、今も昔も人柄が変わらない素晴らしい人なので、尊敬している先輩の1人として参加していただきました。それにポップアップストアの開催も現実的に厳しい状況ですから、こういうイベントでおもしろみを感じてほしいなって気持ちでもオファーしました。ライヴ内でVERDYくんデザインのグッズを乗せた車が予告なく到着して、それに気付いた人が抽選販売に参加できるという仕組みでした。YouthQuakeも東京を代表するクルーとして頭角を表していますが、彼らとはずっと一緒に遊んでいる仲なので、自然な流れで乗っかってもらった感じですね。彼らがデザインしたグッズは受注販売という形式を取りました。

――with コロナ時代において、今後もヴァーチャルライヴはやっていきたいですか?

kZm:おもしろかったし、興味深いことだったんですけど繰り返し何度もやるものでもないという感覚です。今回の「VIRTUAL DISTORTION」でアルバムの楽曲を出し切っちゃったってこともあるんですけどね。もし次回があるのなら、次の作品が出た後かもしれません。そして、自分の活動ではバランスを保つことが重要なので、これだけハイテクなことをやった後だからこそ、もう少しリアルなライヴに基づいたアナログなことにもチャレンジしてみたいとも思います。今回のヴァーチャルライヴでは最先端のテクノロジーを駆使して何万人もの人に届けることができたので、今度は逆に少数に対してリアルなものを伝える何かがあればいいですね。

未来を見据えた時に進化だけが良しとされるわけではない

――何かプロジェクトとして進めていることはありますか? 次回作の状況についても教えてください。

kZm:制作に関しては具体的に期間を設けてやっているわけではないんですけど、曲は作っていますよ。そもそもオレは毎日スタジオにこもって制作をするタイプではなく、どこかに行ったり誰かと会った経験を踏まえて、言いたいことが出てきたら形にしていくスタイルなので、これまで通りやっていますね。以前との違いと言えば、これまでずっと東京で育って暮らして、曲を作ってきたんですが、海や山などの自然を感じられる場所にスタジオ空間を作って制作していることですかね。こんなことをやるのも初めてで、状況に合わせて今できる楽しみを見出しながら生活しています。今までは基本的に夜しかスタジオに行かなかったんですけど、朝起きてみんなでコーヒー飲んで、ちょっと眠い気分のまま、森の音も入れながら曲を作る作業には新しい発見もあるんですよ。自分でも驚くくらい違うフロウや歌詞が出てきてます。

――そういった新たな発見があると、また異なる雰囲気の作品が生まれそうですね。

kZm:そうですね。また新しいテイストが入ってくると思いますよ。今まで軸にしていたものを尖らせていって、そこに新しいテイストを取り入れていくことが自分の宿命だと思っているので。

――未来を考えた時、コロナ禍で音楽業界やライヴの世界は、今後どのように変わっていくと思いますか?

kZm:オレとしてはテクノロジーの進化によってコミュニケーションの形がさまざまな形に変化していくことは、そろそろいいのではと感じてます。未来を考えれば5Gの普及でも、また大きな変化があるでしょうし、世界はもっと便利になっていくのが必定なんでしょうけど。オレは外側よりも内側に目を向けたほうがいいと思うので、進化ばかりが必ずしも良いことだとは断定できないです。でも変わらないといけないのであれば、今回の「VIRTUAL DISTORTION」のように各シーンのアーティストとも連携を取って活動していくことは、未来の形の1つなのかもしれません。

――最後に、今回の「VIRTUAL DISTORTION」の経験でkZmさんが得たものはなんですか?

kZm:単純にいろんな人がオレのことを観てくれたってことが、まず1つ。次に、ライヴができないからといってただ悲観するのではなく、できない状況を生かして新しいことに挑戦する姿勢を示すことができたこと。コロナ禍にあって何もしないのではなく、逆に何ができるかを探しておもしろいことを結果として残すことが良いことじゃないでしょうか。今回の件はタイミングや運が良かったから実現に至ったのかもしれないですけど、少なくとも自分のアティテュードを世の中に示すことができたと考えています。

kZm
日本の次世代を牽引するラッパーの1人。YENTOWN所属。4月22日にリリースした2ndアルバム『DISTORTION』には、RADWIMPSの野田洋次郎から、小袋成彬、Tohji、LEX、5lack、BIM、Daichi Yamamoto、MonyHorseといった面々を迎え、Apple Musicアルバム総合ランキングで1位を獲得するという快挙を成し遂げた。
Instagram:@kzm9393

Photography Shinpo Kimura
Text Ryo Tajima

author:

Shuichi Aizawa

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。現在、子育てに奮闘中。

この記事を共有