コロナ禍で大打撃のベルリンのクラブシーン 起死回生のアイデアとは?

世界でも有数のクラブシーンで知られる街、ベルリン。経済効果だけでも、年間14億800万ユーロ(約1740億円)という巨大産業であり、またこの街のアート、建築、演劇などさまざま々なカルチャーを活性化させる原動力ともなっている。しかし、コロナ禍にあって、3月半ばから現在まで、大半のクラブが閉店を余儀なくされているというのが現状だ。大規模イベントの開催制限も全国区で10月末まで延長され、いまやクラブカルチャーは風前の灯火。

現状を打破するアイデアとしてスタートした、寄付を呼びかけるライブ配信サービス「United We Stream」について、仕掛け人の一人である、140以上のベルリンのクラブが所属するクラブコミッションのスポークスマン、ルッツ・ライヒゼンリンクに話を聞いた。

新博物館で開催した「United We Stream」#3

――「United We Stream」とは何なのでしょうか。

ルッツ・ライヒゼンリンク(以下、ルッツ):3月18日からスタートした、クラブへの寄付を呼びかけるライヴ動画無料配信サービスです。6月まで、毎晩違うクラブが登場しました。独仏共同出資の公共放送ARTEの「ARTE CONCERT」というコンテンツの中で配信され、制作と制作費はARTEが、アーティストのギャラはクラブが負担しましたが、有志ということで無料で参加してくれたアーティストもいました。

――どれくらいの寄付が集まったのでしょうか。その配分は?

ルッツ:現在までに50万ユーロ(約6,000万円)以上が集まっています。お金はまずもちろん、このプロジェクトに関わったクラブに渡していますが、賃貸料が払えないなど、クラブの現状、窮状などさまざまな点を考慮して配分しています。また、私達は自分達のことだけを考えているわけではありません。ここに集まった寄付の8パーセントは難民のサポートなどを行う非営利団体に寄付されています。ドイツにはSoli-Party(連帯を呼びかけるパーティ)というのがあるのですが、今開催できなくてお金が不足しているので、こういった形で少しでもサポートできればと。特に、ギリシア難民施設の医療状況を改善するために使われます。

クラブの規模によっては、ドイツ連邦からの即時支援金で家賃などの経費を一部カバーすることもできましたし、ベルリン市政府はいくつかの即時支援金を出しています。至近のものでは、ベルリン市政府が出した「即時支援Ⅳ」 は、140のクラブのうち、40件が受給できました。その額は平均8万1000ユーロ(約990万円)。これまでは融資しかなく、大きな負債を抱えているクラブが多かったので、この支援金によって少し息がつけたと思います。

――「United We Stream」のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。まだ本格的なロックダウンが始まる前から、すぐスタートしましたよね。

ルッツ:3月13日、ドイツ全国区に外出制限令が出る前に、全てのクラブの閉店が決まりましたが、その時点で、すぐこのアイデアが生まれました。クラブの現状を広く知ってもらうこと、そして寄付を募ることもさることながら、コミュニティの結束を強め、クラブという活動の場を失ったアーティスト達をつないでいくことも重要でした。

――「United We Stream」は、公共放送のTV局ARTEがメディアパートナーとして配信を行なっています。コラボレーションはどうやって始まったのでしょうか。

ルッツ:もともとARTEとベルリンのクラブはパートナー関係にあったので、話は早かったです。TV局側が制作し、制作費を負担し、またARTEの公式サイトから配信を行うことで、幅広い客層にアプローチができました。視聴者数は毎回約5000人。こんなに多くの観客を収容できるクラブはないですからね! そして、何よりも助かったのは、公共放送局なので、もともとドイツ著作権管理団体(GEMA)とライセンス使用料の契約があることでした!ライブ配信にあたっての大きな問題は、音楽の権利、著作権使用料ですから。

テンペルホーフ空港跡地で開催した「United We Stream」#4

――ベルリンのクラブから始まったこの「United We Stream」ですが、いまやドイツ各地、世界各地で行われていますね。どうやって参加するクラブを決めていったのでしょうか。

ルッツ:いまや世界76都市が参加しています。最初から、このアイデアをどんどん他の都市でも活用してもらいたいと思っていましたので、ここまで広まって嬉しいです。ベルリンでは、もちろん寄付を集めるために知名度も大切なことではありますが、それよりも、アーティストのオリジナリティ、芸術性の高さを重視しました。そして、参加アーティストの男女比が偏らないようにも気を配っています。レイシズムやホモフォビアなど、アーティストが人種やセクシャリティなどの差別をしていないことなども重要な点です。世界各国のパートナーも、それぞれ好みはあると思いますが、その点には気を遣ってプログラムを組んでいると思いますよ

――「United We Stream」では、音楽だけでなくトークショーも行っていますね。

ルッツ:寄付を集めるとか、音楽を届けるという以上に、クラブカルチャー、アーティストが担う政治的な立場へのアピールも感じます。「United We Talk」では、ポップカルチャーだけでなく、さまざまな活動家や科学者などをゲストに呼んでディスカッションしています。危機的な状況を、どうやって社会を進歩的に変化させるチャンスに変えるかという話をテーマにしていますよ。制限措置は緩和されていますが、ウイルスは消えたわけではありません。第二波への不安もありますし、もちろんクラブを再開したいけれど、人命が第一。ソーシャルディスタンスを守ろうとしたら、人と人との距離をとって自由に動くこともできないとなったら、「クラブカルチャー」の存続は不可能でしょう。ウイルス学者などエキスパートの人達の意見を聞いて、野外イベントなどからできることから少しずつ、やっていきたいですね。今は何より、人と人とのつながり、連帯を基盤とする社会システムを作り上げるチャンスです! そのチャンスを逃さず、つかまないと!

author:

河内秀子

ライター、TVコーディネーター。2000年よりベルリン在住。2003年、ベルリン美術大学在学中からライター活動をスタート。好物は、フォークが横刺しにされたケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau

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