時を経て、変化していく。「YUKI FUJISAWA」デザイナー藤澤ゆきが生み出す「NEW VINTAGE」の魅力

ヴィンテージショップ巡りは宝探しのような楽しさがある。柄であったり、デザインであったり、現行品とは違うディテールを発見するたびにワクワクする。そんなヴィンテージの魅力をより一層引き出し、提案してくれるのが「YUKI FUJISAWA」のデザイナー、藤澤ゆきである。ていねいに修繕されたヴィンテージアイテムにレースや箔を重ねてレイヤーを作っていく彼女のアイテムは世代や性別、さらには時代を超えて愛され続ける。今回のインタビューでは、新たにリリースされた「TOKION」のためのアイテム、ブランドを続けていく中で抱いた思いや、これからの展開について教えてもらった。

ーー藤澤さんは活動を続けてどれくらいですか?

藤澤ゆき(以下、藤澤):制作活動を始めたのが2011年なので、来年で10周年になります。

ーーファッション業界でも“サステナブル”という考えが普及し、生産側も、消費者もサステナブルを意識するようになったと思うのですが、その時代の移り変わりについて藤澤さんはどんな風に感じてますか? 時代が藤澤さんに追いついたような感じもしています。

藤澤:以前より時代の追い風を感じますね。ヴィンテージ素材を使い始めたきっかけは、問題意識を持っていたのではなく、製作プロセスが自分にとって心地良かったからなんです。多摩美術大学でテキスタイルを学んでいく中で、この世に生み出されたすべての洋服がお客さんに行き届くわけではないというファッション業界のシステムに疑問を感じていました。「関わる人達が幸せであってほしい」という思いがものづくりの原動力になっているので、大量生産・消費には喜びを感じられなくて。残されていたものに光を当てる行為は自分にとって喜びがあり、そこからヴィンテージを素材にした「NEW VINTAGE」というシリーズにつながっていきました。

ーー時代の変化とともに、製作には変化はありましたか?

藤澤:新しいアイテムを販売するだけでなく、お直しを提案するようになりました。人も洋服も、かたちあるものには必ず寿命がありますよね。そこに至るまでの経年変化をネガティヴに捉えるのではなく、楽しく受け入れてもらえたらと願っています。さまざまに経年変化していく様子が人それぞれによって異なることを「YUKI FUJISAWA」では美学としてとらえ、移り変わる箔の変化をコンセプトの1つとしています。ヴィンテージTシャツのロゴプリントの上に箔を重ねると、着用するうちに元のロゴプリントが徐々にその姿を現していきます。ゴールドの箔が擦れてきたら、気分を変えて今度はシルバーの箔でリペアすることもできます。その人の日々とともに、その人らしく変化していく様子を楽しんでほしいですね。

ーー時の流れ、経年変化は藤澤さんの作品のキーワードになっていると思いますが、藤澤さん自身、時の流れを意識する時ってどんな時ですか?

藤澤:去年の3月に原美術館で「“1000 Memories of” 記憶のWorkshop」というプレゼンテーションを開催し、モデルインスタレーションとワークショップを庭園で行いました。
記憶のワークショップでは、参加者のみなさまに「1番大切な記憶」の写真をお持ち寄りくださいとお伝えしました。
参加者の1人が大正時代に撮影されたおばあさまの記念写真を持参してくださったのが印象に残っています。「自分は祖母にはもう会えないけれど、ここに写ってる姿を見ると、自分との繋がりを感じる」と。そんな風に参加者から「一番大切な記憶」をお裾分けしてもらいました。その写真は実際にその後製作したワンピースにプリントの絵柄として使用させていただいたこともあります。とある誰かの大切な記憶が、また他の誰かへと受け継がれていきました。

ーー個々の記憶や時を繋いでいくというか

藤澤:そういう思いはありますね。なので、お直ししたアイテムをお子さんへ譲り渡したりと長く大切にしてもらえたらと思っています。

ーー洋服のカウンセリングみたいですね。藤澤さんはアイテムとどんな風にコミュニケーションをとっていますか?

藤澤:この代表作のアランニットシリーズの場合は、白いアランニットを買い付け、後から染め直しています。白といっても生成り色もあれば、漂白された真っ白などさまざまです。この無垢なままのニットが次に色を宿す時に、どんなデザインが似合うかなと想像を膨らませていきます。そこにある佇まいから次の姿を引き出していく時間ですね。オーダー会でお客様と直接お話ししたりと、最近は受け取ってくださる方の顔がより見えるようになってきたので「あの方にはこんなのも似合いそうだな」と、着想を得る時もあります。

ーー「TOKiON the STORE」があるMIYASHITA PARKもそうですが、東京の風景ってスピーディに変化していきますよね。東京出身の藤澤さんはどう体感していますか?

藤澤:小学校6年生の時に初めて原宿に行った記憶があります。ティーン雑誌に載っていたナイロン製のバッグがどうしても欲しかったので、友達と一緒に竹下通りを歩いてすごくワクワクしたのを覚えています。通勤時に原宿駅前を通るのですが、変わったなと思う部分もあれば、いつ行ってもあの当時の自分と変わらないような、ワクワクを探している若い子達であふれていて、エネルギーをもらいます。変化のスピードが早すぎるように感じる時もありますが、何かおもしろそうと思った時にすぐにアクセスできるのは東京の魅力ですよね。MIYASHITA PARKができて、渋谷の風景も大きく変わりましたよね。

ーー「TOKION」とのコラボレーションではどんなことを意識しましたか?

藤澤:制作サイドからのリクエストがあったので、それにイメージを合わせていきました。メンズのお客様もいるとのお話をお聞きし、オーバーサイズやブリティッシュグリーンなどの落ち着いた色味を中心に選んでいます。これまではフロントにデザインを入れることが多かったのですが、あえてバックサイドにデザインをいれたり、いつもと違うデザインを「TOKION」を意識して入れました。

ーーフェミニンとマスキュリンの配合が絶妙ですよね。 

藤澤:最近は男性のお客様も増えていてうれしいです。力強い体型の方もいて、そういう方がきらりと輝く箔が施されたアランニットを着ている姿はとてもセクシーで、新鮮ですね。今回のスウェットも箔は控えめにせず、ジュエリーを身に着けているような感覚で袖にもあしらいました。「YUKI FUJISAWA」が選ぶヴィンテージには「ベーシックな心強いもの」というテーマがあります。Tシャツやトートといった、みんなが1着は持っていそうな定番アイテムに、箔や染めで新たな表情を加えています。

ーー製作のプロセスで大切にしていることを教えてください。

藤澤:ヴィンテージ素材なので、1つ1つにじっくり時間をかけてクリーニングを施しています。ほころんだ部分に手縫いのステッチを入れたり。前の持ち主に大切にされていたんだろうなぁと感じられる痕跡があると、うれしい気持ちになりますよね。古着をただ加工して終わりではなくて、そのヴィンテージが生まれてきた時代背景にも向き合い、想いを込めて作るプロセスを大切にしています。

ーー修繕した後のデザインについても教えてもらえますか?

藤澤:染や箔をあしらい、さらにもう一層箔を重ねたり、細やかな手仕事を入れています。使っていくうちにディテールに気がついて楽しんでもらえたらうれしいです。下げ札にはそのヴィンテージがどんなテクニックを経て生まれ変わる前の写真や、作られた国と年代の記録を添えています。そのものが生まれ変わる前の息遣いにも、ぜひ耳を澄ませてみてください。

ーーこれから展開されるシャツについても少しお聞かせください。

藤澤:襟やカフスに、箔で新たなデザインをのせていく予定です。ヴィンテージ特有のダメージも、一緒にリペアしてあげたいですね。今手に取っているスウェットにも小さな穴があったのですが、穴を繕ってからドットの箔押しをしています。日本人的感覚ですが、器の金継ぎと共通点があると感じています。

ーー確かに。金継ぎって日本独自の技術ですよね。

藤澤:海外でもそのまま「Kintsugi」として周知されていますよね。実は1年ほどかけて器の金継ぎも本格的に習いました。

ーー「YUKI FUJISAWA」の未来をどんな風に思い描いていますか?

藤澤:「YUKI FUJISAWA」を大事にしてくださっているお客様を、もっと大切にしていきたいですね。お洋服のお直しもその1つです。着ないけれど捨てられない、大切な1着は誰しもがきっとあると思うので、今後はカスタムサービスなど、特別な1着をお客様とともに育てていきたいです。

YUKI FUJISAWA
テキスタイルレーベル。代表作「NEW VINTAGE」はヴィンテージ素材に箔や染めを施し、ファッションとして新たな価値を生み出す一点物。企業へのデザイン提供やブランドディレクション、雑誌の表紙衣装を飾るなどテキスタイルを軸に幅広く活躍。2019年に原美術館で新作プレゼンテーションを発表。2016年度TOKYO新人デザイナーファッション大賞受賞。
http://yuki-fujisawa.com
Instagram:@yuki__fujisawa

Photography Eizo Kuzukawa

author:

多屋澄礼

1985年生まれ。レコード&アパレルショップ「Violet And Claire」経営の経験を生かし、女性ミュージシャンやアーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、編集&ライティング、diskunionでの『Girlside』プロジェクトを手掛けている。翻訳監修にアレクサ・チャンの『It』『ルーキー・イヤーブック』シリーズ。著書に『フィメール・コンプレックス』『インディ・ポップ・レッスン』『New Kyoto』など。

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