“動詞”がモチーフのアートワーク 世界的アーティストのジェフ・マクフェトリッジと「TOKION」とのコラボ・コレクション

ロサンゼルスを拠点に活動するアーティストのジェフ・マクフェトリッジは、無駄を省きながらもメッセージ性に富んだ作品で定評を得た。モチーフ自体はシンプルながらも特徴的なパターンやタイポグラフィによって、規則性がありつつ風刺や皮肉といった遊び心の利いた作品が特徴だ。

アートディレクターとしてのキャリアは、1993年にビースティボーイズが創刊した『グランド・ロイヤルマガジン』がスタート。その後、1996年には自身のアトリエ「チャンピオングラフィックス」を立ち上げた。1997年にロサンゼルスのギャラリー「George’s」で個展を開催し、カラフルなシルクスクリーンで壁を埋め、その上にシンプルなポスターを洋服がかかっているように展示。ポスターが売れるたびに壁があらわになるアイデアで展示されたポスターは、サンフランシスコ近代美術館・デザイン部門の永久コレクションに加えられている。

映画の世界では、ソフィア・コッポラの『Virgin Suicide』のタイトル・シークェンス (冒頭と最後の字幕)をはじめ、スパイク・ジョーンズの『かいじゅうたちのいるところ』『her/世界でひとつの彼女』のグラフィックデザインを手掛けた。

世界中を渡り歩いてきたジェフの作品は、グラフィックだけにとどまらず、映画のシークェンスやテキスタイル、アニメから詩にいたるまで実にさまざまな分野を横断する。驚くのはどの作品も一貫してジェフのスタイルがはっきりとわかるほど、独自のイメージを持っていること。それは作品に込められたメッセージやアイデア、インスピレーション源が自然や趣味、友人など自身を取り囲む生活に根付いたものと重なるからだ。そんなジェフに今回のコラボレーションやインスピレーション源にまつわる話を聞いた。

――グラフィックやデザインに興味を持ち始めたきっかけは?

ジェフ・マクフェトリッジ(以下、ジェフ):古い記憶をたどると一番好きだったのは、絵を描くことだった。よく鉛筆やボンド紙をもって床の上に寝転がって、絵に話しかけたりしていた。

――LAの環境は創作活動に何をもたらしましたか?

ジェフ:カルアーツ(カリフォルニア芸術大学)出身の人を見ると、決まったやり方や考え方のメソッドを持っているんだ。それが作品に大きく影響している。僕がカルアーツに入学した時にはモノの作り方を学んで、大学を卒業してからはそれが何なのか考えさせる方法も知ったんだ。

――影響を受けたアーティストは誰ですか? 

ジェフ:僕が影響を受けたのは、自分自身のアートをベースにしたデザインへのアプローチだよ。僕がどんな作品を作っているのか、制作背景も含めて、それがどう作品に反映されているかということ。今の時代、多くの作品が意味のない、あるいはひどいものになっている。インデペンデントながらも柔軟性を持つことに大きな意味があるんだ。

――スケートボードブランド「ソリタリーアーツ」を手掛けていますが、スケートやサーフィン、BMXなどのサブカルチャーはクリエイティビティとどんなつながりがありますか?

ジェフ:僕は“感覚”に興味を持つタイプの人間なんだと思う。言語学にも興味を持っているよ。オーリーのないスケートボードは考えられるか? なぜ、スケートボードはパフォーマンスが中心なのか。これまで、スケートボードやサーフィン、長距離のランニングなど、パラダイムシフトが起きて自分の考え方が変わる経験をたくさんしてきた。これは自分にとってある種の重要な栄養源でもある。「ソリタリーアーツ」は、スケートボードを新しい言語のアプローチで美しいものを見ようとしているんだ。

――創作活動におけるルールはありますか?

ジェフ:たくさんのルールがあるよ。リミットを設けて仕事をするのが好きなんだ。必要に迫られて完成する作品にも興味がある。その必要性を発明しただけなのかもしれないね。僕はルーティンが大好きで、毎年変わっていく。現在は、平日は朝6時から始まり、娘たちをバスに乗せる。それから外でスケートをしたり、自転車に乗ったり、釣りをしたり、トレイルランニングをしたり。その後はカフェでジュースを飲む。9~11時までにスタジオに行く。普段は午後までパソコンから離れているし、場合によっては一日中ね。そして、17時半までには家に帰ってきて、夕食を食べる。週末は娘たちと一緒に乗馬したり、その後、公園やビーチで友達と会うこともある。

――コマーシャルとアート作品ではどんなバランスを取っていますか?

ジェフ:現在の仕事はギャラリーやコミッションのためのアートがメインだけど、グラフィックやブランディングがスタジオワークの重要な部分であることに変わりはないよ。僕にとってデザインは発見の場であり、それが作品に大きな影響を与えている。予想していたこととは逆なのかもしれないけどね。

――日本にどんなイメージを持っていますか?

ジェフ:東京とスキーをしに北海道に行ったくらいだからね……。今は少し変わってきていると思う。何もかもが少し洗練されてきているんじゃないかな。元々は強力なクリエイター達が彼らのイメージ通りに街を形作っていた気がする。彼らが東京という都市を作り上げている感じがしたね。

――「TOKION」のプロジェクトでは、いくつかの動詞からグラフィックイメージを膨らませていますが、言葉はジェフの創造性にどのような影響を与えましたか。

ジェフ:平面性や直線的な言語、バイナリ組織の拡大に惹かれている。物理的な例では、昼と夜、良いロゴと悪いロゴ、踊るとか踊らないといったことになるんだろうけれど、昼が夕暮れになって、夜になる瞬間……その繊細さは、言葉を超えている。どちらも数値化するのは難しいね。いつも当たり前に感じたり、経験していることだけど、表現するのはとても難しい。そんなことを考えることに興味があるよ。

――今回の言葉の中で一番好きな言葉はどれですか?

ジェフ:「Exchange」だね。 僕は世界にまたがるのが好きで、コラボレーションの醍醐味。僕のロゴ入りのボードでジョエル・チューダーと一緒にサーフィンしたり、一方で「エルメス」のようなブランドと仕事もできる。僕の人生のほとんどは、旅をしたり、アートを作ったり……コラボレーションという実験を経て、ベストな“Exchange”をすることで生まれてきたんだ。

――今回の作品は言葉に関連する動物や人間、植物の動きがポイントだと思いますが、インスピレーション源は何でしょうか?

ジェフ:ずっと外にいるのが好きなんだ。暑いのも、寒いのも、雨に濡れるのも好きだし、太陽が沈む海も好き。冬には、スタジオからグリフィスパークを通って家に帰ることがよくあるんだけど、後ろからコヨーテのパタパタという足音が聞こえたりすることがよくある。アートを作ることは一般的に室内での作業だけれど、僕の興味は間違いなく外での活動だよ。バーに飲みに行ったりしないけれど、趣味はたくさんあるし、それぞれ違ったインスピレーションを受けるからね。

――自然保護活動や環境問題にも積極的に力を入れていますが、コロナショックのあと、どんな活動をしていこうと考えていますか?

ジェフ:こんな生活は二度と戻ってきてはほしくない。突然できたけれど、この特別な時間をすべて家族と一緒に過ごしたいし、この静かな生活をずっと守っていきたいね。

今回のコラボレーションは、雑誌「TOKION」の特集である“OBSERVE”から着想を得て実現した。OBSERVE(観察)を皮切りに、BROWSE(閲覧する)、EXCHANGE(交換する)、EXPLORE(冒険する)、GROW(育てる)、PLAY(遊ぶ)、WEAR(着る)、COLLECT(集める)といった動詞をモチーフにアートワークを作り上げた。“EXPLORE”はアルファベットを山に見立てて、人物がハイクしている、まさに“冒険”をイメージさせるグラフィックの他、“GROW”では文字の先端から植物が成長する様を描いている。シンプルな言葉のモチーフに、一定の規則性を持たせたジェフ特有のユーモアが利いた作品に仕上がっている。コレクションのラインアップは定番のTシャツやトートバック、iPhoneケースから、提灯や手ぬぐいなど日本らしいアイテムにも落とし込んだ。

ジェフ・マクフェトリッジ
カナダ出身。アルバータ美術学校を卒業後、カリフォルニア美術大学へ進学。同校卒業後は、ロサンジェルスを拠点に活動している。2004年からオハイオ・シンシナティのコンテンポラリー・アートセンターを皮切りに、世界中を巡回したアーロン・ローズの企画展「ビューティフル・ルーザー」展に参加。これまでベルリン、パリ、ロンドン、オランダ、日本など、世界各地で個展を開催。ロサンジェルスにアトリエ「Champion Graphics」を設立しさまざまな企業のアートディレクションを手がける

Photography Kunihisa Kobayashi

author:

芦澤純

1981年生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。数年の海外放浪の後、2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から「TOKION」エディトリアルディレクター。

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