シンプルな顔が雄弁に訴える、アーティストfaceが捉える人の姿

目と口だけで表現される“顔”。数々のメディアやファッションブランドとのコラボレーションするアーティスト、faceが描く顔を知らない人はいないだろう。同じ顔なのにイラストごとに明確な人物像があることで、その似顔絵はモチーフとなったキャラクターと自然に重なる。faceは絵を描くときに、対象のどこを捉え、どのような感覚で描いているのか。また、この作風に至るまでにはどんな経緯があったのか。ポップな中にも、どこかシニカルなイメージがある顔を描くfaceに、改めてクリエイションの真意と原点を聞く。

描く対象を見て輪郭と髪型をシンプルに捉える

――faceさんが描くイラストのスタイルといえば、シンプルでありながらも個性的な目と口。人の顔を描く上でとてもシンプルな表現ですが、似顔絵を描く時はどこに着目していますか?

face:特にここを注意して描いているというわけではないんですけど、輪郭と髪型が重要だと思っています。というよりも、基本的な形として、僕が描く似顔絵は目と口がどの作品も一緒なわけじゃないですか。その他の要素と言うと、どうしても輪郭と髪型に目を向けざるを得ないんですよね。逆にその輪郭と髪型を似せることができれば、おおむねその人のように見えてくるもの、という解釈があるんですよ。

――基本的に線画や平面で描くことが多いですよね。輪郭や髪型を捉える技術はどのように習得されたのですか?

face:ある時期、イベントや音楽フェスなどで大勢のお客さんの似顔絵を描いていたことがあるんですが、似顔絵を線のみでシンプルに簡略化して描くということに関しては、この経験が大きかったと思います。もっとルーツを辿ると、小さい頃から漫画を模写していたので、自然と頭の中にいろんな輪郭や髪型の引き出しができていたんですよ。カクカクさせたり丸みを持たせたほうがこの人には向いているだとか。場合によっては菱形で描いたら、その人らしさを強調できるだとか。描く対象を見ながら、そんな感覚で捉えています。

――目と口のモチーフが逆さまに描かれている作品もありますが、これにはどんな意図が?

face:ずっと同じ顔を描き続けることに少し疲れてしまった時期があったんです。そこで違うキャラクターを作ってみようと考えたこともあったんですけど、試行錯誤した結果、結局この顔がしっくりくるものがあって。そこで、もう1度原点に戻ろうと考え、この顔で何かできることはないかと向き合った時に、目と口を逆にしてみたら意外にバランスが良いことに気付いたんです。顔が逆になっていても笑っているように見えたり、怒っているように見えたり。顔のバランスによっては目の位置を変えたりすることもあるんですが、そのほうが収まりがよかったりもして。そんな風に全体のバランスを見ている感覚が強いですね。

――一方で、目と口以外の部分まで描かれているイラストもありますね

face:これはオファーされた時に、僕らしい目と口のモチーフで描いてほしいという要望が特になかった場合は、顔の他パーツも描くことが多いです。というのも、僕らしい目と口を使った作品は自分の中でとても大切にしているので。そして、明らかにクライアントワークとしてこの作風がマッチしないものに関しては、無理に使う必要もないので。なので依頼相手とは相談しながら描いています。それに目と口だけだとやはり表情が出しにくいじゃないですか。絵によっては表情がはっきりわかったほうがよいこともあるので、そういった場合には他のパーツも描いているんです。

漫画を模写し続けてきた経験が活かされた

――faceさんが絵に向き合うようになった経緯を教えてください。

face:家族が絵を好きだったこともありますかね。僕には1つ上の兄がいるんですが、子どもの頃に兄が描く漫画を真似して描いていた記憶があります。それこそ僕が小学生の頃は、ジャンプ黄金期で『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』『SLAM DUNK』が連載されていたので、読んでは下敷きに模写したりプラ板に描いたりしていました。もちろん『ONE PIECE』も。特に専門的に絵の勉強をしたわけではなく、小中高とずっと落書きをし続けてきたんですよ。好きなものをひたすら描いて、友達に見せると「いいね、うまいね」って喜んでもらえました。それが本当に嬉しくてずっとやってきました。もうノートも教科書も落書きでびっしりでしたから。そこでスキルを磨いたってほどでもないんですけどね(笑)。
大人になってからも、いつか絵の道に進みたいと思っていたんですが、なかなか困難な道のりであることは理解してました。転機になったのは30歳くらいの頃ですね。SNSが普及してインスタグラムに友人とイラストをアップしていたんです。そうしたらある雑誌の編集部からイラストのオファーをいただいたんです。「こんな形で仕事がくるんだな」って思いながら注文されたイラストを描きつつ、徐々に仕事の幅が広がり今に至ります。

――では目と口で描く顔のモチーフが完成したのは、インスタグラムに投稿し始めた頃ですか?

face:いえ、最初はよりシンプルでゴンズ(マーク・ゴンザレス)の作品に近い感じでしたね。なので「ゴンズに似ているよね」って言われたこともあって。そりゃ、そうだよなって(笑)。この目と口の顔が完成したのは明確な時期がないんですよ。振り返れば高校時代からこういう形を描いていましたし、自分の好きなキャラクターは笑顔が多かったというのもあるんですよね。イラストレーターとしてどのバランスがおもしろいかを追究している過程で徐々にできていったのが、この形なんです。そしてこの顔を描いていくうちに、これでいいかもって思えてきて。そんな風に自分の中で納得してからは、この顔ばかり描いていました。当時の自分としては、この顔を覚えてもらいたくてクライアントワークでも、この顔をできるだけ用いていましたね。

決まった形という制限に悩まされた立体アート制作

――「TOKION」とのコラボレーションでは有名アーティストをモチーフにしたプロダクトが完成しましたが、苦労した点はありましたか?

face:2人とも昔から好きで、これまでにも描いたこともありましたが、プロダクトにするにあたり大変だったのは形でした。というのも、全体のフォルムが決まっていたので、最初に話した髪型と輪郭で違いを出す表現が使えないんです。男性はまだ髪型を寄せることができても、女性に関してはけっこう悩みました。モチーフとしての特徴をピックアップすると、金髪の女性なわけじゃないですか。それって多くの人に共通することですからね。あのアーティストに見えますか?

――生え際や髪の分け目にらしさを感じました。

face:よかったです(笑)。なかなか難しかったですね。一方、こけしでは、頭の部分をあえて逆さまにしました。これは全体のバランスから、逆さまにしたらどうなるんだろう? っていう好奇心からこの形にしたのですが、より可愛い感じに仕上がったのかな。胴部分は、僕が好きなアジアンテイストの柄がハマると感じて落とし込みました。

――どちらのプロダクトにもfaceさんらしい表情と可愛らしさがあふれています。ところでこの顔の作風で困ることはありますか?

face:ずっとこの顔のモチーフを描いてきたので、異なる雰囲気やもう少しスタイリッシュに仕上げたい時には、それができない悔しさを感じることがあります。やっぱりこの顔だとポップで可愛らしいものになってしまうんですよね。なのでより世界観を広げるためにも、陰影をつけてグラデーションを表現した作品も実験的に描いたりもしています。それは立体感のある作品だったりするのですが、その作品は5月に開催予定だった個展で発表するつもりでした。しかし新型コロナウイルスの事情で延期になってしまいました。

――新型コロナウイルスは、faceさんの活動に影響を与えましたか?

face:作るものや作品のテイストが変わったということはないんですけど、個展が延期になったことは精神的にダメージがありました。というのも、1年前から計画して年明けから作品制作をひたすら続けていたんです。半年間は自分の絵と向き合って制作を続けることを決めて、ひたすらアトリエにこもって描き続けました。それは初めての経験で楽しさも見出していましたし、5月に個展を開催して多くの人に作品を観てもらいたかった。そして自分のフィールドがより広がるとも考えていたので、ちょっともやもやしているのかもしれません。

――ちなみに開催予定だった個展のテーマはどんなものだったんですか?

face:実は僕らしい目と口を使った作品には“平和ボケした日本人”というテーマもありまして。これまで公にしてなくて、自分の中だけのテーマです。でも個展を5月に開催するにあたって、3月上旬の状況ではあえて発表してもいいなと思い、個展のテーマタイトルにもしようと思っていたんです。でもここまで世界的に状況が変わってくると、ちょっと当てはまらなくなってしまいましたね。平和ボケって皮肉にもならない。でもこの状況下でも新たなアプローチを模索しながら、今できることを精一杯やって表現していきたいです。

face
イラストレーター、アーティスト。これまでに『SNEEZE Magazine』や『Richardson』といった世界各国のファッション誌、カルチャー誌に作品を寄稿。さらには「ヒューマンメイド®︎」や「アディダス」など、さまざまなファッションブランドとのコラボレートでも知られる。
https://www.faceoka.com/

Photography Takaki Iwata
Text Ryo Tajima

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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