スタイリスト倉岡晋也が発信する日本とフランスをつなぐプラットフォームIMIMの現在地

2018年にパリに拠点を移し、ライフスタイルに基づいた衣食住 & 音旅アートのカルチャー全般をキュレーションしつないでいくプラットフォームIMIMをスタートさせた倉岡晋也。その活動の背景と、日本とパリでの創作活動の違いについて、また今年でちょうど東日本大震災から10年、コロナというパンデミックも重なった今、その事実をどのように捉えているのか話を聞いた。

自身のルーツである東北、パリと向き合う

−−始めに、パリに拠点を移しIMIMをスタートされましたが、きっかけは何だったのでしょうか?

倉岡晋也(以下、倉岡):約3年前にパートナーが拠点としているパリに移り住みました。そもそもパリに先入観はなくて、憧れというものもなかったので何も考えずに飛び込んだ感じですね。

−−IMIMを端的に表すとしたらどのようなプラットフォームでしょうか?

倉岡:日本とフランスをつなぐコミュニケーションメディアというイメージですが、まずは僕のルーツである東北と今住んでいるパリを結びつけるものにしたいと考えています。情報をキュレーションするメディアは数多くあると思いますが、最初は自分が知っている人やものを紹介するメディアにしたかった。だとすると必然的に自分のルーツでもある東北なのかなと思い、今後も東北に注力していこうと考えています。

ファッション音楽アートは人々にとって身近であり、心を豊かにしてくれるヒントを与えてくれる存在です。人がどんな服を身に着けてどこへ食事に行き、どこへ出掛けてどんな思い出が生まれるのか。そこで何の曲が流れていて、誰かと家で過ごすでも良いし。その一通りにまつわるヒントをまとめて紹介したかったんですよね。

−−スタイリストの仕事としてはラグジュアリーブランドとのつながりも多いと思うのですが、どのように主軸を東北にシフトしているのか、今までやってきたことがどうダイレクトに結びつくのでしょうか。

倉岡:結局、ものづくりと発信の仕方は一緒なのかなと。それがラグジュアリーだろうがマスマーケットだろうが、根本は変わりません。ただ、アウトプットが違うだけです。IMIMって“It melts in your mind”の略で、“溶けてなくなる”という意味なんです。押し付けがましいのが嫌いなので、その“溶けてなくなる” ようなニュアンスで、色々なテイストのモノをうまく繋げられたらいいなと考えています。ファッションのビジュアルを作る時もその空気感を一番大事にしています。

−−日常の消費活動も含めて、オンライン化はどんどん急進していて、そこにエンターテインメントが紐づくことも多く、音楽や映画やファッションも然り、合理的で効率化された購買活動がデファクトスタンダードになりつつあります。

倉岡:そうですよね。IMIMもシステムを簡素化させたいと。自分以外にメンバーが2人いるんですが、そのうちの1人は東北を駆けまわっていろんな情報を調べたり生産者と会って話したりしています。自分はそのメンバーの持つアイデアや出来事をダイレクトかつリアルタイムで仕入れることができますので、生産者の意図通りに販売戦略をコントロールできます。なので、ユーザーターゲットやゾーニングなど、生産者と話して“It melts”なムードで紹介することで、ものを介して生産者と消費者をダイレクトに結びつけるシンプルなプラットフォームにIMIMもなりたいと考えています。

−−もともと、倉岡さんはライフスタイルに基づいたスタイリングを得意とされていましたし、「ブランクコンセプトウェア」は、メイド・イン・ジャパンへのこだわりがテーマでもありました。現在は日本の作業着をタウンユースに再構築したようなアイテムを扱うワークウェアブランド「ワンジー ワークウェア アンド ユニフォーム」を手掛けられていますが、日本の生活や思想のどこに惹かれたのでしょうか?

倉岡:「ブランクコンセプトウェア」を約7年前に手伝った後、「ワンジー ワークウェア アンド ユニフォーム」というBtoBのオーダーメイドユニフォームブランドが発信するBtoCアパレルラインのディレクションをさせてもらっています。日本的な価値観に惹かれるというより、自分が育ってきた場所に素直に習うという感じです。コンパクトに動けて、自分が手掛けた服に関わる人全員とエンドユーザーまで見られることが利点かなと思います。

作り手から受け手までの流れが見えるものづくりにこだわる

−−メンズウェアにおいてユニフォームは重要なキーワードです。「ワンジー ワークウェア アンド ユニフォーム」も含めて、日本とフランスのものづくりに対する考えの違いはどんなものなのだと思いますか?

倉岡:コミュニティーは一緒だと思うんです。縫製工場があって生地問屋があって、デザインが生まれるアトリエがあって。ただアウトプットの仕方がちょっと違うかなって。フランスは「この商品を1000年変わらず作っている」というのが珍しくない。日本はジェネレーションに合わせて商品を変えていることも多い。ターゲットゾーンに合わせてサイズや内容を事細かく変更してローカライゼーションしていると思うんですが、そこが大きな違いかなと。消費者に寄り添うという意味では、もっと丁寧かもしれません。例えばフランスだと「この塩はずっと¥1,500で作っていて、昔も今も何も変えていません」というけれど、日本だと「¥1,500で塩を作っているけど、今は味塩にしました、オーガニックにしました」などと世代や戦略が変わるとちょっとずつ商品を変えていく。そこが丁寧なのかなと。いい意味でも悪い意味でも。

−−IMIM内の“EAST”でも語られていますが、岩手県出身の倉岡さんにとって、コロナ前に渡仏し、東日本大震災から10年の節目の今年、奇しくもコロナのパンデミックが重なったことで、潜在的なマインドリセットが働いたと思います。コロナ以前・以降で心境の変化はありましたか。

倉岡:2018年に30代半ばで渡仏するのは自分にとって結構大きな決断だったんですよね。実際に移り住んで感じたことが、人と人とのつながりです。特に今まで関わりを持ってきた日本の地域や人間関係に関してより一層大切に感じるようになりました。また、パリに住むことで、もう少しグローバルな視点で考えさせられることも多く、広い視野になったのと同時に、コロナというパンデミックによって、より大切なものが明確になってきているという感じです。

−−IMIMを含めた今後の活動の展望を教えてください。

倉岡:サイトをグローバル化して、より一層大きな規模でまだ会えてないいろいろな人達に知ってもらいたいです。3年経ってやっと自分がパリをベースに活動していることが認知されてきましたし、関わった商品やビジュアル自体も反応はいいです。自分ができることは生産者を通じて知った商品をIMIM目線のビジュアルでカルチャーとして届けること。おにぎりを例にすると、文化として根付いていないものを、まずはどうやって伝えるかが大切で。生産者達にも納得してもらえるような、それが受け手にも伝わるようなカルチャーを作り手と土地をリスペクトしながら作っていきたいと思います。

倉岡晋也
スタイリスト。2018年に渡仏。IMIMの創設者、アートディレクター。現在は「ワンジー ワークウェア アンド ユニフォーム」のクリエイティブディレクターも務める。
https://imim.tokyo/
Instagram:@shinyakuraoka, @itmeltsinyourmind 

author:

芹澤雅子

アメリカ留学中に雑誌『Interview』にてインターンを経験したのちエディトリアルの世界へ。主にファッション、カルチャー誌を中心にキャリアを積む。現在はファッション、ライフスタイル、ときどきビューティーの編集を手がける。2018年に女児を出産。

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